俺はその日は、朝に似合わぬ絶叫と共に目を覚ましたんだ。
「うわああああああああああああああああああああああ!!」
「はぁっ・・・はぁっ・・・ゆ、夢か・・・はぁっ」
落ち着くために深呼吸。
「すぅ~・・・はぁ~・・・」
嫌な夢だった。内容は覚えていないが、悪夢だったってことは確かだった。
「うぇっ・・・」
この寝汗が証拠で、おかげで今日の気分は低調から始まった。
「とりあえず脱ぐか」
朝のシャワーでも浴びたいとこだが、そんな便利な物はないわけで。
「今度真桜にでも頼むかなぁ・・・」
と、そんな時だった。
「一刀!」
「ご主人様!」
部屋の扉を勢いよく開けて入ってくるメイド服姿の二人。月と詠だ。
「二人ともどうしたんだ?」
「どうしたですって?それはこっちの台詞よ!」
「ご主人様の叫び声が聞こえたので急いで駆け付けたんです!」
「いったい何があったのよ?」
可愛い女の子に心配されるとは男冥利に尽きる。とかそういうのは今は置いといて。
「ごめん、驚かせちゃったか。大丈夫、何でもないよ」
そういって笑いかけると二人は頬を赤らめる。ああやっぱ可愛いなあ。
「な、何でもないはずないじゃない。白状しなさいよ」
「へぅ・・・ご主人様・・・」
「いやちょっとね。夢見が悪くて」
「・・・はぁ?」
詠はあからさまに呆けた顔をした。
「悪夢ですか?」
「うん、そう」
「怖かったんですね」
月はこうやって純粋に心配してくれる。近づいて頭を撫でてくれるのは、ちょっぴり恥ずかしいけど気持ちいい。
「やめなさいよ月。そんなみっともない男の頭を触るなんて」
「ははっ、面目ない」
「詠ちゃん、そんな事言っちゃ駄目」
「月~」
「ご主人様、ご主人様の声を聞いたとき、私より詠ちゃんの方が飛び出すの速かったんですよ」
「ちょ、月!」
「ははっ、うれしいなあ。そんなに心配してくれるなんて」
「ちっが~う!そんな事ない!あり得ない!」
こうやって詠をからかう日常に、悪夢の事などとうに忘れてしまった。
「悪いけど、体を拭きたいんだ。布持ってきてくれない?」
「そんなもの自分でって――
きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「なんで今!目の前で脱ぐのよ!」
「へぅ~!」
「いやだって汗気持ち悪いし。下も――」
「持ってくるわよ!持って来ればいいんでしょ!」
「ていう事があってね」
「さ、流石大将だぜ・・・」
「可愛い女の子の前で突然脱ぎだしても許されるなんて・・・」
「流石大将!俺たちに出来ないことを平然とやってのける!そこに痺れる憧れるゥ!」
「もげればいいな、兄者」
「そうだな、弟者」
現在俺たちは兄弟と呼べる仲の、蜀、魏、呉、袁兵士たちと酒場にいる。いつもはここに董の兵士もいるのだが――
「あ、来たみたいッスよ。おーい!」
噂をすればなんとやらだ。
「すまん、迷った」
「気にしませんよ」
俺たちは酒場に集まっているのだが、いつもの店でなく、呉の兄弟が見つけた店に来ていた。
「ここは初めてだが、なかなか良い店だな」
「だろ?」
この店の雰囲気は妖しげに暗いが、嫌な空気ではなく、逆にこ洒落た感が醸し出されて、どこか隠れ家的な雰囲気だ。男の子はいつになっても隠れ家というものに琴線が触れるものなのである。
「注文お願いしまーす!」
それに加えて酒も美味い。なのにこの店の客はほどほどだ。いわゆる穴場というやつだろう。蜀と董の兄弟はここに来るのが初めてだが、俺たち他の兄弟たちはすっかり気に入って最近は常連客である。
「ご注文承ります」
そう言ったのはこの店の主。年齢は五十代半ばといったところだろうか。髪は黒より白が目立つ。背筋は伸びて体つきもしっかりしているので、これでタキシードでも着ていればマスターとでも呼びたくなる。
「これと同じのを」
「かしこまりました」
そう言って颯爽と去っていく店主を見送りながら席に着いた董の兄弟が疑問を口にする。
「なあ、あの店主なんで眼帯してんだ?どこぞの兵だったのか?」
店主は左目に眼帯をしているのだ。男の夏候惇ってもしかしたらこんな感じかもしれない。とかひっそり思ったが、兄弟たちには通じないだろう。
「ああなんでも――」
「いやぁ、この目は生まれつき見えませんでしてな」
「うおおっ!?」
いつの間にか店主が盆に酒を乗せて立っていた。
「はいお待たせしました」
全然待っていないが、当の本人は何食わぬ顔だ。
「ど、どうも・・・」
「私としては夏候惇将軍みたいでカッコいいんじゃないかなーって思ってるんですがね。どうでしょ?」
「あ、ああ、うんそうですね・・・」
「んふふふ、いやあ照れますなぁ」
朗らかに笑う、ミドルな声がナイスな店主であった。
「あれ?こっちのお酒は頼んでませんけど?」
「それは天の御使い様が近頃贔屓してくれてるという事で、誠に勝手ながら手心加えさせてもらいました」
「さっすが店主!わかってるぅ!」
どうやら茶目っ気に加えてサービス精神も持ち合わせているようだ。
「うれしいなあ。それじゃ、遠慮なく」
「どうぞどうぞ、今度新しく出す酒です」
皆に回して一口飲むと・・・
「美味いな。気に入ったぞ、兄者」
「俺もだ、弟者」
「ふむ、これは美味しい」
「ちょっと強いけど良い味ッス」
どうやら全員気に入ったようだった。
「良かったですな。皆さんのお墨付きなら自信を持って出せるというものです」
そしてまた朗らかに笑った。
「店主!注文!」
「はーい!それではごゆっくり」
店主は別の客の注文を取るために、また颯爽と立ち去っていった。
「良い店、良い酒、良い店主。気に入りましたね」
「これで可愛い女の子がいれば最高なんですけどねえ・・・」
そういって俺たちはまた笑いあった。
「んなのに大将は・・・」
あ、雲行きが怪しくなってきた。
「あんな可愛い将軍たちと毎日のように・・・」
あ、今度は武器を持ち出してきたよ?
「ちょっ!待てお前ら!店を滅茶苦茶にする気か!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッチ」
長い間を開けて渋々兄弟たちは武器を収めた。この店でも俺たちはいつも通りだった。それほどこの店は居心地が良かったのだ。
「そんなお前らに面白い話がある」
董の兄弟だった。董のだけは最初から微動だにしていなかった。
「董の!お前は悔しくないのか!」
他の兄弟が詰め寄ったが、董のは宥めて席に落ち着かせた。
「それで?面白い話って?」
董の兄弟の話に皆注目した。
「最近変な事件が起きてるだろ?」
「あの【衰弱死】のこと?」
最近、ここ三国の中心となっている都では、【男性が朝に衰弱死している】という報告が入ってきている。しかもそれは原因が不明なのだ。それならばと頼んだ華佗にもわからないと苦しい表情で言われ、現時点ではお手上げ状態だった。
「なにかわかったのか!?」
それがわかったとなると、皆の顔付きも一斉に変わる。
「そいつらは共通点があるんだってよ」
「共通点?」
「なんでもな、今まで衰弱死で死んだ男は【浮気していた】らしい」
あとがきなるもの
はいというわけで今回の外史は何かわかりましたでしょうか?聡い方ならタイトルと最初のあれで解ったかもですね。『キャサリン』です。アトラスのあれです。おもしろかったです。知らなかった人にはごめんなさいです。
さて本文の方の説明ですが、この外史の北郷君は『やるときはやる』とかの王道主人公然な性格ではなく、『優柔不断』とかの頼りない性格です。そんな奴がハーレムとか無理とかの細かいことは置いといて、ハーレムの頂点ってとこからこの外史は始まります。この外史の北郷君は女の子の前では見栄を張るような奴ですし、誤魔化すために嘘を吐いたりもします。そんな設定です。といっても女の子は月と詠の絡みしかなかったからその描写を書けませんでしたが。
まあこの外史を簡単に言いますと、
え?全員本気?知らん地獄に落ちろ北g
っと思わず素が・・・。危ない危ない。
さて、こんな外史はどうでしたでしょうか?少しでも楽しめたなら幸いです。
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この外史の主人公は北郷君です。
一刀もげろって人はお待たせしました。