第3話~アラディフィス~
【side イサク】
三つの影が何もない地面の上をゆっくりと歩いて行く。 三人は完全に押し黙っていた。 マーシャとレイヴンは考え事をしているため、イサクは二人に対しての不満がふつふつと燃えているためだ。
何故こんなことになったかを簡単にいうと、二人がイサクの心配を蹴り飛ばし、まったく反応しなかったことが悪い。
こっちは心配しているのに、マーシャは軽く「ん」と言っただけで、後はレイヴンから聞いたという、あの獣に関する情報を簡潔に述べて何か考え事にふけってしまった。 時々顔を上げてレイヴンの顔を見る以外はうわのそらといった感じでゆったりした調子で歩を進める。 レイヴンに至っては反応もせずにそっぽを向いてしまった。 それからは地面をじっと見ながら一応イサクについて来る。
レイヴンに関しては、いつも通りと言ったらそうだが、こっちはいつも以上に心配してるんだから、せめて一言位欲しかった。
俺くらいの歳になると自分が無視されること以上に辛いことはないのだ。 この分だと、あの時のレイヴンの変な様子は勘違いだったのかもしれない。
イサクまでもが思考に落ちそうになったその時だ。
「生きててよかったよ」
落ち着いた声と共に、二つの人影がこちらに近づいてきた。
大剣を背負ったその人物、カイトは所々がはねている金髪をかきながら側まで寄って来ると三人の様子を見て怪訝そうな顔になった。 すかさずイサクを捕まえて顔を近づけると、理由を聞いてくる。
「君達、まさかマーシャにやましいことでもし…ふグッ」
「どうもこうも…」
イサクがカイトのくだらない質問を封じて愚痴ろうと口を開いた時、甲高い声が後ろから突き刺さった。
「あ、ハリルちゃん!! 大丈夫だった?」
マーシャが今までの様子からは想像できないほどのテンションで、カイトの後ろに遠慮がちにちょこんと立っていたレイピア使いの少女、ハリルに意気揚々と話しかけたのだ。
「う…うん。 こっちは大丈夫だったけど、マーシャたちの方こそ大丈夫? なんか元気がないみたいだったけど」
「ああ、気にしないで。 イサクがうるさくてうんざりしてただけなの」
よく言ってくれる。 レイヴンに見とれてるように俺には見えたぞとでも皮肉ろうとしたがやめておいた。 きっと、さっきまでいたあの荒野まで吹っ飛ばされるだけだ。
代わりに大きくため息をつく。
「イサク君も、無事みたいだね」
ハリルがマーシャの喋り地獄に捕まる前に、小柄な体とショートボブの髪を揺らしてイサクの方を見て小声で呟いた。
「オウ。 元気はつらつオフコウスだ」
陽気にそう答えると、ハリルは顔を少しほころばせ、ホッと息をはきながら安堵の言葉を口にした。
「よかった…」
マーシャがその後ろで、なぜかニヤニヤしていた。 それに気付いたハリルは顔を赤く染めて話をそらす。
「それにしても合同ミッションなんていつ以来だろう。 でも、ああして戦場で会うのはいい気はしないね」
「ええ。 今度はまたちゃんとした場でお茶会でもしましょ」
マーシャはニヤニヤを引っ込めず、ハリルと会話を続ける。 男子が蚊帳の外へと出されてしまったのに気付き、カイトはイサクに向き直って腰に手を当てて言う。
「それにしても、アラディフィスの三剣は健在だね。 まあ、ラバールのエースである僕には劣るけど」
この言葉にカチンときたイサクは、対抗すべくカイトをきっと睨みつけたが、彼の少しかなしげな表情を見て言いかけたことを飲み込んだ。
「でも、これからこの剣が何かを殺めるために使われるようになってしまうかもしれないと思うと、気が気でないよ…」
そう、イサク達の国の剣術は身を守るためのものであり、人体や環境に害を及ぼす獣や盗賊に対してでさえ、殺さずに連行する掟であった。 それが今回の“亜獣”に対しては、抹殺が任務とされたのだ。
もしこのような怪物がどんどん現れるようになったら、この剣は緑色のドロドロとした血に染まり続けることとなる。
それだけは絶対に嫌だった。
「そうだな…」
悲しげに眉をひそめるカイトに、イサクは慰めの言葉一つかけることが出来なかった。
ここでまずイサク達の生きる国のことについて話さなければならない。
国は大まかに分けると、四つの巨大な都市によって成り立っている。 都市と都市の間にある小規模な居住地は、村という単位で分けられている。
四つの都市を特徴ごとに挙げて行くこととしよう。
まずイサク、マーシャ、レイヴンが所属しているのは、 その名を“アラディフィス”と言い、中央にある、煙が絶えず立ち上るという巨大な山を象徴としていて、採取することの出来る珍しい植物を輸出することで生計を保っている都市だ。
次が発達した化学技術を誇るが各都市に対して好戦的な“サルヴァン”。 対象的に、豊富な水産資源が自慢で、対都市交流では友好的な姿勢を崩さない“フリーデン”。
そして目の前のカイトとハリルが暮らしているのがアラディフィスの同盟都市であり、剣術の腕前が達人級のものを何人も排出している、“ラバール”だ。
今日の“亜獣”討伐は、同盟都市間であったことと敵の戦力を考慮しての合同任務だった。
この様に、どの都市も協力の中で共存している。
だが、危なげなく保たれていたそれぞれの都市の平穏な関係は、この怪物によって瓦解して行くこととなる。
その国全体が驚愕することとなる“スウル村の消失”はこの一ヶ月後に起こった。
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こんにちは、QPです
今回のは自分の説明が下手で、なかなか納得の行くものができませんでした。
その埋め合わせというか、作者の都合というか、第4話は早めの火曜日に投稿したいと思います。
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