#15
時は流れ、場所も変わり、やって来たのは冀州。各地で暴れ回っていた黄巾党も、諸侯に抑えられ、逃げ、最終的にこの地へと集合していた。
「壮観だな」
「こんなにたくさんの人、見た事ないです……」
「あわわわわ……」
そして下された、黄巾党討伐の勅。諸侯が集まり、巨大な古砦を囲う様に、それぞれ陣を敷いている。亞莎はその光景に目を丸くし、雛里は緊張からか2文字しか発する事ができないでいた。
「で、どーするの、冥琳ちゃん?」
「待機だってさ」
孫家の軍師に問えば、返したのは孫家の長。
「なんで?」
「どの軍も、乱の首謀者である張角の首を獲ろうと画策している。最初に動いたところから反撃を喰らい、その功の可能性が減る。よって、どこも動けないのさ」
「へー」
「私達が袁術から独立する為にも、軍功や風評は手に入れておきたいですしねぇ。何処かが動いてから、私達も状況を開始する予定です」
今度こそ軍師である冥琳ちゃんと穏ちゃんが答えた。なるほどね。
「という事は、時間はある訳だ」
「えぇ」
こうしちゃおれん。
「よし、行くぞ、亞莎!」
「へっ?」
「レッツ・商売だ!」
「はやっ!?はやややややや――――」
俺は亞莎を連れ、商売の準備に奔走する。
「えー、弁当ー、弁当はいらんかねー?」
「今なら飲み物もついてきまーす。疲れた身体に、爽やかな果汁飲料は如何でしょうかー」
駅弁よろしく籠を首にかけ、俺と亞莎は弁当行脚に乗り出していた。
「んー、なかなか売れないな」
「仕方がないですよ。みんな隊列を作ってますし」
「折角、袁術のところから食材をかっぱらって作ったんだけどなー」
だが、売れ行きはよくない。というか皆無。このままでは、無駄足に終わってしまう。
「待てよ?普通の兵卒が買えないなら、軍の重鎮のところに売りに行けばいいんじゃないか?」
「はやっ!?流石にそれは……」
「亞莎の許可も貰ったし、決行だ」
「してないですよ!?」
さて、どこに行こうかな?
「……どこが近い?」
「んー、ここからだと、袁紹さんですかね。ほら、あそこに牙門旗が」
「あー、袁紹か。雪蓮は、『袁術はただの馬鹿』って言ってたし、従姉の袁紹も同じくらい馬鹿なんじゃね?」
「酷い事言いますね、一刀さんも雪蓮様も……」
という訳で、やって来ました。袁紹軍本陣。
「えー、弁当ー、弁当はいらんかねー?」
「今なら飲み物もついてきまーす。疲れた身体に、爽やかな果汁飲料は如何でしょうかー」
お馴染みの掛け声をしていれば、3人の女が寄って来た。
「あらあら、こんな所でなんですの?」
「売り子ですね」
「へー、おもしろい形の容れ物に入れてんだな。お前ら、商人か?」
金髪ドリルにおかっぱにお転婆っぽい3人組。
「へぃ。人集まるところに金有り。こうでもしなきゃ、生き残れませんので」
「この辺りでは、珍しい料理ですよ。如何ですかー?」
さて、買ってくれるかね。
「中見てもいいか?」
「へぃ、どうぞ!」
お転婆娘が覗き込んできたので、蓋を開けて中を見せる。
「へー、確かに初めて見る料理だな。斗詩、これ買おうぜ!」
「ちょっと、一応軍事行動中だよ?駄目だよ、そんな事しちゃ」
「いいじゃねーか。姫だって、食べてみたいですよね!?」
「えぇ、よろしいですわよ、文醜さん」
「姫!?いつ黄巾党が出てくるかわからないのに、呑気に食事なんて……」
「よいではありませんか、顔良さん。賊如きの相手は、他の軍に任せていればいいんですのよ。この高貴な袁本初が、この場にいるだけでも素晴らしい状況ですのに、さらに戦わせようとするお馬鹿さんなんておりませんわ!おーっほっほっほっほ!」
袁本初?……袁紹か!
「流石は袁紹様です。その余裕のお姿、大変お美しい」
「あらあら、いち商人の方にも、この高貴さがお分かりになるのですね」
「いえいえ。高貴な御方は、その雰囲気でわかります。これでも商人ですんでね」
「気に入りましたわ!顔良さん!この商人さんの弁当とやらを、全部買い取ってあげなさいな」
「え、えぇっ!全部ですか!?」
「当然ですわ。袁家の者は、たかだか2~3個買うなどとみみっちい真似はしませんわ」
「姫ぇ…」
「いいじゃねーか、斗詩。このくらいなら、アタイが全部食ってやるぜ」
「そういう問題じゃ――」
「それでは商人さん。そのお弁当やらを全部くださいな」
なんというか、予想通りに馬鹿だったな、袁紹は。ま、全部捌けたから善しとするか。
「かしこかしこまりましたかしこー!」
袁紹の陣を離れ、またテクテクと歩く。
「弁当は完売だが、ジュースが残ってんな」
「あぅ、すみません……」
「いいさ。これから売っちまえばいいんだ」
そんな会話をしていると。
「そこの者、止まれっ!」
何やら呼び止められる。
「毎度!ジュースをお買い求めで?」
振り返れば、黒髪のお美しいサイドテール(?)の嬢ちゃん。……ちょっと怖い。
「ここは劉備様の陣地だぞ。勝手な商売などするな!」
「あぅぅ、すみません……」
その怒気にやられ、亞莎が謝罪をする。もっと堂々とすればいいのに。
「あいやすみません。ですが、商売をしてはいけないとも言われてなかったもので」
「常識的に考えればわかるだろう!今は黄巾党討伐の、最後の大戦なのだぞ?」
「しかし、こっちだって生活が懸かってますんでね。アンタらが戦って給料をもらうなら、ウチらは物売って金を得るんでさぁ」
「屁理屈を……」
おっと、さらに怒らせてしまったようだ。だが、こっちだっていきなり怒られたらいい気分はしないんだぜ?
サイド(仮)嬢ちゃんは右手に持っていた偃月刀を構えたかと思うと……って、え?
「さては、貴様ら黄巾党の間者だな!ここで成敗してくれるっ!」
「いやいやいやいや、待て待て待て待て――――」
ちょ、短気にも程がある。眼が本気と書いてマジなんですけど……って。
「ぎゃぁぁぁああああああああああああああっ!!!」
「このっ!クソッ!……当たらぬか!」
「いやいや、当たったら死んじゃうって!」
「はやややややや……」
サイド(偽)娘の攻撃を紙一重で躱す。躱す。躱し続ける。
「ちょちょちょちょっと、愛紗ちゃん!何やってるの!?」
「桃香様っ!」
そこへやって来ました、新たな登場人物。鳶色の髪をした、ほんわか、って感じの女の子だ。
「お下がりください、桃香様。こやつらは、物売りに扮した黄巾党の間者です。いま、成敗致しますので」
「待てって!俺らは本当に商売してんだよ!さっきも袁紹んトコで飯売ってきたんだから!」
「そのような言い訳を……」
「愛紗ちゃん!」
頭でっかちの頑固娘はいまだに俺達に殺気を向けていたが、ほんわかちゃんの一声で、ようやく武器を収めた。……もしかして、コイツが劉備か?
「あの、愛紗ちゃんがごめんなさいっ!真面目な子だから……許してください!」
「桃香様!そう簡単に頭を下げてはなりません!」
興奮冷めやらぬようだが、(推定)主の態度に、殺気もどこかへと霧散してしまった。
「ほんと、ごめんなさい」
「いえいえ、ウチらも誤解が解ければいいんで」
「ありがとうございます!それで、何を売っているんですか?」
「と、桃香様!?」
おっと、この子は袁紹とは違った意味で馬鹿らしい。まぁ、お客様だから丁重にもてなすがな。
「へぃ。今は果汁を使った甘い飲み物を売り歩いております。皆さん、長旅で疲れているでしょうから」
「へー、いくらなの?」
「なりません、桃香様!毒でも入っていたらどうするのですか!」
「何を仰います。ウチらだって商売人。信用がなくなれば生きていけません。売り物に関しては嘘はつきませんぜ?」
「ほら、愛紗ちゃんもそうカリカリしないの。じゃぁ、私と愛紗ちゃん、それと星ちゃん、鈴々ちゃんと、あと朱里ちゃんの分で5つくださいな」
「毎度!」
「桃香様!?」
5本売れた。
「わぁっ、美味しいよ、愛紗ちゃん!」
「……確かに、悪くはない」
へっへっへ。商品には自信を持ってんだぜ?
5本のうちの2本を2人で飲みながら、それぞれ感想を返してくれる。いやぁ、商人冥利に尽きるね。
そんな事をしていれば、また別の声が。
「桃香様ぁ、軍議を開きま……何をしてるんですか?」
やって来たのは、金髪ロリ。雛里と同い年くらいか。
「あぁ、朱里ちゃん。いまね、この商人さん達から、美味しい飲み物を買ったの。朱里ちゃんの分もあるよ」
「はわわっ!?そ、そんな危険な事しないでください!?」
「大丈夫だってー」
これまた独特の口癖だ。それにしてもデカいスカートだな。雛里が着ている服によく似て――――。
「なぁ、亞莎」
「はい?」
「そこのちっこい娘の服って、雛里の服に似てないか?」
「そう言われてみれば……色遣いは違いますけど、よく似てます。もしかして、雛里ちゃんが居たっていう塾の制服でしょうか?」
「もしかして、コイツが孔明なんじゃね?」
「えぇっ?」
コソコソと亞莎に問えば、肯定が返ってくる。そして、更なる推測の材料。試す価値はある。
「なぁ、そこのお嬢ちゃん」
「はわっ、私ですか!?」
やっぱり口癖が似てるな。
「その服、もしかして、水鏡塾の出かい?」
「はわわ、なんで分かったんですか?」
「いや、うちの妹も水鏡先生のところにお世話になってたんだよ。よく似た服を着ている」
「そうなんですか!?思わぬ縁ですね。差し支えなければ、妹さんのお名前を窺っても?」
「あぁ、鳳統だよ」
「雛里ちゃん!?」
ドンピシャ。
「おや、知ってるのかい?」
「あのあの、雛里ちゃんは今何処に!?」
「おっと待ちな。その前に、お嬢ちゃんのお名前を伺っても?」
「あ、はい。私は諸葛亮孔明と言い――――」
「孔明ゲットォォォォォオオオオオオオオ!!!!」
言い切るよりも早く俺はその少女を抱きかかえ、自陣へと遁走する。
「はやっ!?待ってください、一刀さんっ!」
「え、朱里ちゃん!?」
「朱里!」
後ろの声は気にしなーい。
「待ってろ我が妹よぉおおおおお!!」
「はわわわわわわわ――――」
自陣の中を、俺は亞莎を引き連れて駆け回る。何処だ。雛里は何処だ。
「朱里を返せぇ!」
「はぁ…はぁ……愛紗ちゃん、待ってぇ……」
サイド(っぽい)女が叫んでいるが、体力のない劉備がいる為、全力にはなりきれていない。その隙に、俺は妹の姿を探す。
「一刀さん、いました!あっちです!」
「でかした!愛してるぞ、亞莎!」
「はやややっ!?」
亞莎が指差す方を見れば、ピョコピョコと揺れる魔女帽子。
「雛里ぃぃいぃいいいいいい!」
「あわわっ、お兄ちゃん!?……って、朱里ちゃん!!」
「雛里ちゃぁん、助けてぇえええ!」
雛里もこちらに気づいたようだ。俺目掛けて、一目散に駆けてくる。
「雛里ぃいぃいごふっ!?」
「朱里ちゃぁあああん!」
「雛里ちゃぁあああん!」
抱き締めようと手を広げれば、雛里の体当たりが俺の鳩尾を打った。兄妹愛より、友情をとるのか……お兄ちゃんは哀しいです。
「よかった!よかったよぉ、雛里ちゃぁん!」
「朱里ちゃぁん……」
「大丈夫ですか、一刀さん?」
「ぜぇ…ふへぇ……も、無理ぃ……」
「桃香様ぁ!」
抱き合って涙を流す幼女2匹。その横で悶絶する俺。俺に声を掛ける妹。倒れ伏すほんわか。抱き留めようとして失敗するサイド(笑)。
あぁ、カオス。
あとがき
ポンポン進むよ!
という訳で、#15でした。
・袁紹たちは、やっぱ馬鹿でした。
・劉備ちゃんも馬鹿でした。
・愛紗ちゃんが怒りっぽいです。
・朱里りんも妹候補にしたいです。
こんな感じ。
ではまた明日。
バイバイ。
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1週間が終わった。
でも一郎太の早朝プレイは終わりが見えない。
という訳で、#15。
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