No.535651

銀の槍、家を得る

長い旅路の間に、神となった銀の槍は救いを求める者に次々と手を差し伸べていく。それが一つの問題を引き起こすことになった。

2013-01-24 21:02:43 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:370   閲覧ユーザー数:344

 神奈子と諏訪子の戦の後、将志は調停者としてしばらく残ることになった。

 その理由は、大和の神でもなく完全な中立の神として非常に都合の良い存在であったからである。

 もちろんその間の食事は全て将志が作ることになり、愛梨達も将志の社に一緒に寝泊りするようになった。

 その結果。

 

「ねえ、将志。うちの神社がいろんな神のたまり場になってんだけど、どうすんのさ」

「……こればかりは俺にはどうしようもない……」

「人間より先に神に知られる神って言うのもおかしな話だけどね……」

 

 と言う具合に、将志達の噂を聞きつけた神がしょっちゅう遊びに来る事態となった。

 なお、その迷惑料として将志は自分に集まってくる信仰を神奈子と諏訪子に支払っている。

 ちなみに、家内安全の守り神や料理の神、更には戦神として結構な信仰が得られている。

 そのお守りの形は槍の形をしているそうな。

 

 また、将志は神奈子や諏訪子から神とはどんな存在かと言うことを教え込まれ、それと同時に神力の扱い方を教わった。

 クソ真面目で馬鹿正直な将志は日々特訓を重ね、妖力と同じように使えるまでになった。

 その副産物として、日々将志の社から放たれる神気に民が感謝をし、より一層の信仰を得ることにもなった。

 

 それを確認すると、今度は知り合いの神のところに遊びに行くと称して営業に向かう。

 手の足りていないところの守護をして、神奈子や諏訪子の言うとおりにせっせと民のために尽力した。

 思いっきり便利屋扱いなのだが、その結果として将志はあっちこっちに分社を持つ神になった。

 分社を持ったことにより分霊を向かわせることが出来るようになっても、自身の鍛錬のために本体が自ら出動する。

 その分出張の機会も多くなったのだが、将志自身が身軽なためにそこまで苦にはなっていない。

 なお、愛梨達は将志が出張に言っている間は代わりに民の話を聞く役目をしているのだった。

 閑話休題。

 

 そしてそんな生活が続いて数百年。

 神奈子と諏訪子の仲も良くなり、将志も神としての仕事に慣れてきた頃、将志達は再び旅立つことにした。

 

「本当に行くのかしら?」

「……ああ。もしかしたら、どこかに主がいるかもしれんからな。捜しに行かねば」

 

 神奈子の問いかけに、将志ははっきりとそう答える。

 それを聞いて、諏訪子が大きなため息をついた。

 

「あ~あ、将志のご飯も当分は食べられないのか~……」

 

 諏訪子は心底残念そうにそう話す。

 その様子を見て、愛梨が諏訪子に笑いかけた。

 

「たまにはここに遊びに来るよ♪ その時にまた一緒にご飯食べようね♪」

「ここでの生活も悪く無かったですわ。また機会があったら会いましょう」

「また遊ぼうぜ、姉ちゃん達!!」

 

 笑みを浮かべる六花に、ぶんぶんと大きく手を振るアグナ。

 実際のところは二人よりもアグナのほうが年上なのだが、見た目的に誰も気にしない。

 

「……ここには俺の社もある。そのうちまた来ることもあるだろう」

「そうね。その時を楽しみにしてるわ」

「出来るだけこまめに帰ってきてね」

「……ああ」

 

 将志はそういうと、数百年にわたって神としての修行の日々を過ごした社を後にした。

 愛梨達も将志について社から離れていく。

 とある秋口の話だった。

 

 

 

 それから将志達にとっては少し、人間にとってはそれなりに長い年月がたった。

 世の中は、蘇我馬子が物部守屋を倒したり、中大兄皇子や中臣鎌足が蘇我入鹿を討ち果たしたりしていた。

 将志達は旅芸人の体裁を取りつつ、国中を回る。

 途中、甚大な被害を振りまく妖怪の退治や悪政を布く領主への制裁、果ては周囲に迷惑をかける妖怪退治屋の成敗など、守護神としての仕事にも余念が無かった。

 特に、法外な報酬を取る退治屋などには特に厳しく、それが適正なのか、はたまた退治する必要があったのかを厳しく追求した。

 すると、将志達にとって少し困ったことが起きた。

 

「大将、次は北の悪徳領主を裁くんですかい?」

「殿、南方で不当な妖怪退治が横行しているようです。助けに行きましょう!」

「聖上、東では妖怪による限度を超えた人間の捕食が問題になって候。直ちに制裁が必要であるかと思われ……」

「御大、西で天照が御大を呼んでいるのだが……」

 

 気が付けば、将志の周りは妖怪だらけになっていた。

 彼らは将志によって窮地を救われた者であったり、将志の槍や食事によって改心したものであったりした。

 そんな妖怪達が、各地の情報を次から次に将志に持ってくる。

 

「……俺の体は一つしかないのだが……」

 

 あまりの仕事の多さと、ひっきりなしに自分の元にやってくる妖怪達に将志は頭を抱える。

 初めのうちは慕ってくる妖怪達を大勢のほうが楽しいと思って旅の仲間に加えていた。

 次に数が増えてきて大所帯になってくると、将志は妖怪達を各地に点在する自分の分社に妖怪達を配置し、本体への情報伝達に使っていた。

 最近ではその情報員も増え、どこにいても自分の管理地域の情報が流れ込むようになり、力があり信頼できるものは代行者として使いに出すこともあった。

 そして気が付けば、将志は人間の暮らしを守る守護神でありながらその一帯の妖怪達の総大将と言う、訳の分からない立場に収まることになったのだった。

 しかしこう毎日毎日妖怪達が自分を取り巻いていては、本来の旅の目的である主探しがおちおち出来ないのである。

 何しろ、探している相手は人間のいる場所にいる可能性が高いのだから。

 

「困りましたわね……これじゃあ人間の里になかなか立ち寄れませんわよ?」

 

 妖怪達が帰っていくと、銀色の艶やかな髪を手で梳きながら六花はそう呟いた。

 もう長いこと人間の里に入ることが出来ていないせいか、少し苛立たしげである。

 

「でもよう、妖怪の兄ちゃん達が持ってくる仕事を放って置くわけにはいかねえだろ? その情報を持ってきてくれんだから来るなって言うわけにもいかねえぞ?」

 

 将志が作ったおにぎりを口いっぱいに頬張りながらアグナがそう言う。

 それを聞いて、将志は腕を組んで考え込んだ。

 

「……せめて来る妖怪が一日に一人程度なら問題は無いのだが……こうも四六時中来られてはな……」

 

 将志がそう呟くと、隣で同じく考え事をしていた愛梨がぽんと手を叩いた。

 

「そうだ♪ それならそういう風にしちゃえば良いんだよ♪」

「それ、具体的にどうするんですの?」

「情報を集める場所を作って、そこからまとめて情報を持ってくるようにすれば良いんだよ♪ こうすれば、将志くんのところに来る妖怪も一人で済むでしょ?」

「でもピエロの姉ちゃん、それじゃあその集める場所はどうすんだ? 今あるところじゃ人目に付き過ぎて、妖怪が集まるのは無理じゃねえのか? それじゃ兄ちゃんがその妖怪達を懲らしめに行くなんて事になりそうだぞ?」

「……それならば、良い場所を知っている。人目に付かず、ある程度の広さを持ったところをな。ついて来い」

 

 将志はそう言うと緩めた速度で飛び始めた。他の三人も将志について飛んでいく。

 しばらく飛ぶと、岩山の山脈が見えてきた。山々は険しく、雲海を上から眺めることが出来るほど高かった。

 将志は山脈に着くと、辺りを見渡した。

 

「……あった」

 

 将志はそういうと、とある山の頂上に向かって飛んでいった。

 他の三人がそれについていくと、そこは三つの山が連なっている所であった。

 一つは比較的なだらかな白い山。元々火山だったようで、その河口には大きなカルデラがある。

 二つ目は剣のように鋭い外見の灰色の山。山頂付近は人一人がやっと立てるぐらいのもので、上るのは体力に自信のある妖怪でも一苦労であろう。

 そして三つ目は、中央に険しく高く聳え立つ円錐状の山。その山もやはり険しく、その上横にも広い大きな山であった。 

 将志はその三つ目の山に目をつけた。

 

「……ここなら問題ないだろう。位置的にも他の社の中間ほどの距離の場所だ。ここを俺達の拠点にしよう」

「うんうん、確かにここなら普通の人間は近づけないね♪」

 

 愛梨は広場の周囲を見回して、満足そうに頷いた。

 広場の周りは切り立った崖になっており、並の人間ではとてもではないが近づくことは出来そうもない。

 しかし、それを聞いて六花が眉をしかめた。

 

「でもお兄様、これでは拠点になりませんわよ? 拠点にするにはそれなりの施設がいると思いますわ」

「施設って……ここに建てたってそんなに大きい奴は建てられねえ……いや、気合で何とかなるか!!」

「きゃはは……流石にそれは厳しいと思うよ♪」

 

 滅茶苦茶な根性論を展開するアグナに、愛梨が苦笑いを浮かべる。

 その横で、将志が六花に話を持ちかけた。

 

「……それなのだが、ここは一つ六花に頼みたいと思ってな」

「私にですの?」

「……ああ。六花、お前の能力でこの山の頂上を平たく切り開いて欲しいのだ」

 

 将志は三つ目の山を指差しながら、六花にそう言った。

 それを聞いて、六花は少し考えると笑顔で頷いた。

 

「……そう言うことですの。分かりましたわ、では少し離れていてくださいまし」

 

 六花はそう言うと、山の頂上を自分の正面に水平に来るように位置を取った。

 そして、静かに自分の若草色の腰の帯に刺さった包丁の柄に手をかける。

 

「はっ!!」

 

 次の瞬間、六花は気合と共に包丁を横に一閃した。

 しばらくの間、静寂が辺りを包み込む。そこに将志が近寄って山を確認して頷いた。

 見てみると、山はとある部分を境にすっぱりと切れていた。

 

「……よし、次は俺の仕事だな」

 

 将志はそう言うと、切り取られた山の頂上に妖力の槍を次々に突き刺して砕いていく。

 そして砕かれた山頂部を取り除くと、後にはかなり大きな広場が現れた。

 

「……これで良いだろう。助かったぞ、六花」

「どういたしまして、ですわ」

 

 その広場を見て、将志は満足そうに頷きながら六花に礼を言う。

 それに対して、六花も嬉しそうに微笑みながら答える。

 

「……さて、ここに拠点となる建物を建てたいところだな」

 

 将志は広場の中央をにらんでそう言った。

 

「ところで兄ちゃん、妖怪の中に大工仕事の出来る奴なんていたか? それに、柱をおっ建てるにも下が岩じゃきついんじゃねえか?」

 

 そんな将志に、アグナが燃えるような赤色の髪の頭をかきながらそう言った。

 将志はそれを聞いて、少し考え込んだ。

 

「……少し待っていろ」

 

 将志はそういうと、すさまじい速度で岩山を駆け下りていった。

 そしてしばらくすると、将志は大工を抱えて山を登ってきた。

 

「……連れて来た」

 

 将志は大工を抱えたままそう告げる。

 将志の腕に抱えられた大工はおびえきっており、顔が真っ青になっていた。

 

「連れて来た、じゃありませんわよ!? それ、人攫いになるのではなくて!?」

 

 突然の将志の奇行に、六花は大いに慌てた様子でそう言った。

 それに対して、将志は首をかしげた。

 

「……む? 報酬は払うつもりでいるし、終わればきちんと帰すつもりでいるのだが?」

「きゃはは……その前に、ちゃんと大工さんにお話はしたのかな?」

「……そういえば、まだだったな」

 

 乾いた笑みを浮かべる愛梨の言葉に、将志は今思いついたと言うようにそう言った。

 それを聞いて、アグナが唖然とした表情を浮かべた。

 

「おいおいおい、それじゃあマジで誘拐じゃねえか! 話ぐらいつけろよ、兄ちゃん!!」 

「……そういうものなのか?」

「そういうもんだよ!!」

 

 すっとぼけた将志の言葉に、思わずアグナが炎を吹き上げた。

 頭は悪くないのに常識と言うものが欠落している将志に、一同は唖然としている。

 それを気にも留めず、将志は大工のほうを振り向いた。

 

「……突然のことですまないが、頼みがある」

「ひっ……あ、アンタ何者だ!?」

「……おびえる必要は無い。俺の名は槍ヶ岳 将志。一応神をやっている」

 

 おびえる大工に将志が自身の象徴である銀の槍を取り出して自分の名を言うと、大工は一転して豪快な笑顔を見せた。

 

「な、何でえ、誰かと思えば守り神様かい! こりゃこっ恥ずかしいところを見せちまったな!」

「……頼みを聞いてもらえるだろうか?」

「あったりめえよ! 守り神様のおかげで夜もゆっくり眠れるんだからな!」

 

 将志は大工に事情を説明した。

 すると大工は苦い顔をした。

 

「むう……守り神様の注文は難しいな……材料を運ぼうにもここじゃあ無理だし、柱も建てられねえ。どうしたものか……」

「……材料は俺の方で用意しよう。それから柱なのだが、建てるのは俺に任せてくれないか?」

「良いんですかい? 結構な大仕事になると思いますぜ?」

「……男に二言は、無い」

 

 平然と言い放った将志の言葉に、大工は豪放磊落に笑った。

 

「はっはっは! 守り神様は男前だな! それじゃあお願いしやすぜ」

「……任された。何を持ってくれば良い?」

 

 将志は大工から必要なものを聞くと、頷いた。

 

「……了解した。明日までに全てそろえよう」

「あ、あの……こう言っちゃなんですが、本当に出来るんですかい?」

「……出来る。まあ、待っていろ」

 

 将志は半信半疑の大工の棟梁を村まで送っていく。

 そして山の頂上に戻ると、将志は妖力で槍を作り出した。

 

「お兄様? 何をなさるんですの?」

「……なに、少し人手を集めるだけだ」

 

 首をかしげる六花にそう言うと、将志は空に向けて手にした槍を放り投げた。

 槍は空高く飛んで行き、最も高いところで強烈な光を放って消えた。

 まるで太陽が二つに分かれたかのようなその光は、遥か遠くまで届いていた。

 

「どうしたんでい、大将!」

「どうかなさいましたか、殿?」

 

 すると、その光を見た妖怪達が続々と将志の下へ集まってきた。

 その光景に呆気にとられている一行をよそに、将志は事情を話した。

 

「……というわけで、お前達には資材を集めてもらう。良いな?」

「「「「「了解!!」」」」」

 

 妖怪達は将志が話し終わるが早いか、即座に散って行った。

 将志はそれを見届けると、広場に座して待つことにする。

 

「将志くん、いつの間にあんな号令考えたんだい?」

「……ついさっきだ。一度俺と戦った奴なら今ので分かるはずだからな」

 

 愛梨の質問に将志は淡々と答える。

 それを聞いて、六花が苦笑いを浮かべた。

 

「……そのむやみな確信はどこから来るんですの?」

「こまけえことはいいじゃねえか! そんなことより腹減っちまったよ! 兄ちゃん、そろそろ飯にしようぜ!!」

「……そうだな」

 

 将志はそういうと、いつもどおり食事の準備を始める。

 ただし、今回は材料をかなり大量に用意している。資材を集めに行っている妖怪達の分も作るつもりなのだ。

 

「……今日は少し量が多いぞ。時間まで持つか、アグナ?」

「はっ、俺を誰だと思ってるんだ!? この炎の妖精に不可能はねえ! うおおおおお、燃えてきたああああああああ!!!」

「……良い火力だ」

 

 眼に炎を宿らせて火柱を吹き上げるアグナの頭の上に、将志は具材の入った中華鍋を置く。

 幼女の頭の上に置かれた中華鍋が、何ともシュールな光景を生み出している。

 少しずつ料理が出来始めた頃、資材を取りに行っていた妖怪達が段々と戻り始めてきていた。

 

「む、この匂いは……」

「おお、これは運が良い、御大の手料理が食せるとは!」

 

 一帯に広がる料理のにおいをかいで、妖怪達は歓喜の表情を浮かべる。

 将志はそれを見て、今ある材料で足りることを確信する。

 

「……早かったな。もうすぐ食事が出来る。手間賃代わりに食べていけ」

 

 将志はそういうと、調理している鍋を振り上げた。

 すると鍋の中の料理が机の上にセットされた皿の上に極めて正確に飛び、綺麗に盛り付けられる。

 そして調理を終えた将志が席に着くと、一斉に食べ始める。

 

「……あ~……」

「あ~……はむっ! んぐんぐ、今日の飯もうまいな、兄ちゃん!!」

「……そうか……あ~……」

「あ~……むっ!」

 

 将志は隣に座ってにこにこと笑っているアグナに料理を箸で差し出す。

 すると、ひな鳥のように口をあけたアグナが差し出された将志の手を両手でつかんで料理を食べる。

 

「……これは……愛いな……」

「まったくもって微笑ましいな」

 

 そんなアグナを、周りは愛玩動物を愛でる様な視線で眺めていた。

 ほっこりと心温まる食事の時間を終えて妖怪達が帰ると、再び将志は人里に下りて大工を連れてきた。

 ただし今回は一人ではなく、数人まとめて抱えてきている。棟梁は将志が用意した資材を見て、眼を丸く見開いた。

 

「こいつぁおでれぇた! まさかもう用意しちまってるとはな!!」

「……これで足りるか?」

「ああ、十分すぎるほどだ! おい野郎共! とっとと仕事に取り掛かるぜ!」

「「「「「「応!!」」」」」」

 

 棟梁の号令で大工達が仕事を始める。

 信仰している神直々の依頼とあってかやたらと気合が入っており、人数の多さも手伝って異様な速さで仕事が進んでいく。

 気が付けば、あっという間に柱が完成していた。

 

「で、守り神様よ、柱を建てるってどうするつもりで?」

 

 棟梁がそう問いかけると、将志は無言で大黒柱となる大きな柱を片手で担いだ。

 その怪力に、大工達は騒然となる。

 

「……どこに建てれば良い?」

「あ、ああ、その辺りに建ててもらえれば立派なものが出来るが……」

「……分かった」

 

 将志は柱を建てる場所を聞くとそこに向かい、岩で出来た地面をにらんだ。

 

「……貫け」

 

 将志はそう短く呟くと、大黒柱を地面に突き込んだ。すると大黒柱は容易く岩にもぐりこみ、直立したまま動かなくなった。

 それを見た棟梁は、驚きのあまり手にした鎚を落とした。

 そんな棟梁達を前に、将志は涼しい顔で二本目の柱を担ぎ上げた。

 

「……次はどこに建てれば良い?」

「お、おおおお、次はその柱をそこに……」

 

 棟梁の指示に従い次から次に柱を建てていく将志。

 その後も力仕事は将志が担当し、職人の技が必要な部分は大工達が引き受けて協力しながら作業を続けた。

 そのような感じで予定よりもはるかに早いペースで社を組み立てていく。

 

 

 そして作業することわずか数ヶ月。

 凄まじい人海戦術の末、険しい岩山の頂上にどう建てたのか分からないほどの堂々たる社が完成した。

 入り口には大きな石の鳥居が建ち、拝殿へ続く参道には灯篭が並べられている。

 そのところどころに金細工を施された本殿には、将志のもつ銀の槍を模した直槍が奉られている。

 なお、人を呼ぶ気も無いのに拝殿どころか摂末社までしっかりとある。

 その摂社に祭られているのは愛梨達であったり、過去に世話になった神奈子や諏訪子だったりした。

 

「……これはまた……ずいぶんと大きいものが出来たな……」

 

 完成した自分の神社を見て、将志は呆然とした様子でそう口にした。

 建てているときは少し広いなと思っていたが、まさかここまでの規模になるとは思っていなかったのだ。

 ……なぜ資材運搬のときに気付かなかったのか。

 

「なあに、これも日ごろの感謝の気持ちって奴だ! これからもよろしく頼みますぜ、守り神様!」

「……あ、ああ。この礼はしっかりとさせてもらおう」

 

 剛毅に笑う棟梁たちに引きつった笑みを返してから報酬を払って人里に送ると、将志は気を取り直して各地にいる自分の配下の妖怪達を呼び寄せ、この社の説明をした。

 その後行われた協議の結果、情報処理が得意な妖怪をここに配置し、将志不在時の代行の者を当番制でここに住まわせることになった。

 ちなみに妖怪達は自分達の大将の社を見て、しばらく言葉も出なかった。

 

 こうして、将志は自分を祭る立派過ぎるほど立派な神社を手に入れることに相成った。

 

 ……なお、当の本人が考えていたのは少し広いだけの掘っ立て小屋のような社だったことをここに述べておく。貧乏性め。


 
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