No.535499

ひざまくら(SPN/cd)

ディーン誕生記念SS。の割には書きなぐりという不甲斐なさ。ほのぼの目指したのに最後はif世界である2014年の二人を書きたいが為に入れたら、なんともな結果に。とはいえハピバ!

2013-01-24 07:27:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1910   閲覧ユーザー数:1908

 ある夜、ディーンは酔っていた。悪魔の血を飲む弟が帰ってくるのを待つためか、地獄で起きた出来事を夢に見たくない為か。

 

 彼が何も言わないのはよくある事だが、結果、私の膝を枕替わりにベッドで寝るのは初めてだ。

 

 最初は状況がよく飲み込めなかった。ベッドに腰掛けている私に、時折話しかけては、独り言を零していた。そして私があまり好まない皮肉げな笑みを浮かべ、酒を煽る。

 

 眠れない夜を何度見たか。

 

 この日もさほど変わらない、悲しい夜の筈だった。恐らく彼が摂取していたアルコール量と、彼の適量を把握していなかったのが原因だろう。

 

 でなければ、気付けば私の膝に頭を預けて寝たりはしない。

 

 私は思わず、間近で眠る彼を見下ろした。

 

 声をかけたくなったが、眠りの浅い彼が起きる可能性がある。けどもし呼んで起きない場合、髪に触れたらどうだろう。髪以外は?そして、キスなら?

 

 いつしか芽生えた彼への傾倒は、当人に、既に知られている。ならば願うままの全てをディーンにしても、問題はない。

 

 そうしていざしようとすると、どうにもうまく出来ない。何かをしてしまっては、今ある初めての出来事が少なからず崩れてしまう。

 

 惜しむ心が、彼の安らかな眠りであれと願う夜に呼応する。

 

 サムが戻る気配も無く、モーテルの外からも騒がしい音は聞こえない。彼の寝息だけが聞こえるこの世界を、私だけが共有している。不謹慎だと自覚しているが、特に後ろめたさは無い。

 

 私は限られた時間の全てで、ただただひたすらに彼の寝顔を眺める事にした。

 

 そうしてどれぐらいの時間が経ったのか定かではないが、夜が明ける前にディーンは目が覚めてしまった。

 

「やあ、ディーン」

 

 目を丸くさせる彼に挨拶を交わす。しかしディーンはパチパチと、長いまつ毛を羽ばたかせるばかり。

 

「どうした」

 

 何か気になる事でも、と問えば、「大アリだ」と言いながら、私の膝から急いで離れる。

 

 彼の温もりが離れる寂しさを伝える前に、先にディーンが口を開いた。

 

「てめえ俺に何した」

 

 警戒心を露わに、目を細める。だから私は正直に答えた。

 

「何もしていない。ずっと見ていただけだ」

 

「何を」

 

「君を」

 

 ディーンの目が益々細められた。眉間には無かった皺が寄っている。

 

「どうした」

 

 私はもう一度、同じ問いかけをする。

 

「どうした、じぇねえ。どうやったら俺がてめえの膝で寝なきゃいけねえんだ。お前が俺に何かしたに決まっている」

 

 何故そのように疑うのかを聞き返したいが、ひとまずは何もしていないのを伝えなければ。

 

「本当に何もしていない。私がここへ来た時には、既に君は酔っていた。しばらくは明瞭でないことを話続けていたが、静かになった途端に、私の膝に頭を乗せてきた。後は、君が起きるまで見ていた。それだけだ」

 

「それだけって……」

 

「嘘は言っていない」

 

 私を凝視する目が揺らいでいる。葛藤と言えばいいのか、よく分からない。

 

 ディーンの反応を待っていると、彼は飲みかけの瓶ビールを足元から拾った。

 

「この俺が記憶なくすまで飲むなんてな」

 

 悔しげに呟き、温くなった残りを飲み干す。どうやら私の誤解は解けたようだ。しかし私を睨む目は強くなった。

 

「ていうか何だよ、見てるだけって。人の寝顔勝手に見るなって言ったろ」

 

「君が勝手に私の膝で寝るからだ」

 

「はあ?」

 

 人間が使う言葉で言うなれば、揚げ足を取っている感は否めないが、私だけに非があるとは思えなかった。

 

「本当は見てるだけではなく、声をかけたかった。髪に触れて、キスもしたい。それを私は起きてしまうのが勿体なくて」

 

「分かった!もう言うな!もう充分だ!」

 

 ディーンは空いている左手を、私の眼前に突き出してきた。

 

「何が充分なんだ?」

 

「全部だよっ」 

 

 怒鳴りながら、今度は本物の枕に頭を突っ伏して寝転がる。

 

「寝るのか」

 

「むしろ今が夢であって欲しいよ。俺が野郎の膝枕で寝るなんて悪夢も良い所だ」

 

 背を向けてしまったのを寂しく感じながらも、私の心は、何か温かい物で満たされていた。

 

「これが君の夢なら、それはそれで嬉しい」

 

「……なんだって?」

 

 寝転がった姿勢のまま、ディーンは肩越しに、こちらを向いた。

 

「君の夢の中に入ることなく、ディーンが私を夢に見るのは、うまく言えないが、嬉しいことだと思う」

 

 悪夢を取り去ってやれない私が、魘されない夜に加担出来たなら嬉しい。だから現実でなくても構わない。

 

 心からの言葉に、ディーンはゆっくりと起き上がった。

 

「キャス、お前」

 

 腕だけで身体を支える形を取り、私を見つめる。

 

「何だ」

 

「ほんっとに馬鹿だな」

 

 ため息混じりのセリフは、恐らくは、彼の心からの言葉だろう。そして言うなり、また背中を向けられてしまった。

 

 馬鹿と言われるのは不本意だ。何を基準にそんな評価を下されるのか。

 

 しかしディーンから先ほどまであった刺々しさが消えている。益々もって分からない。だが、彼の警戒心が消えたのは良い傾向だ。

 

「ディーン、一つ良いか」

 

「……なんだよ」

 

 私は背中に要求する。これが現実でも、彼の夢の中でも。

 

「君に触れてキスをしても良いか。そして私も、君の膝に頭を乗せてみたい」

 

 

               *****

 

 

 あの時、ディーンはどんな態度を取ったっけ。

 

 意識が浮かび上がるのを身体中で感じると、眼前にはリーダーが居た。何故か、彼の膝枕で。

 

 僅かな記憶を掘り起こし、狭い視界から整理する。どうやらここは森で、リーダーは木に持たれている。そんな彼の膝を、僕が拝借している訳だ。

 

 景色は暗いけど、これは夜明け前の暗さだ。雲が光を遮っているが、間違いないだろう。

 

 そして、お互い傷だらけなのは、悪魔と一戦交えたから。

 

 ようやく全てを把握したのを待っていたかのように、鋭利の鈍い眼差しを僕に当ててきた。

 

「起きるのが遅いぞ、死にぞこない」

 

 乱暴な口ぶりに、僕は痛みを隠して口角を上げる。リーダーが無理をしているのが丸分かりだった。だから僕もいつもの軽口で応戦する。

 

「リーダーの膝枕が気持ちよくってね」

 

「良いから早くどけ」

 

「無理だし嫌だ。なんなら、リーダーから退かせば良いんじゃないか」

 

「出来るならとっくにやってる」

 

 つまりは彼も、見た目以上の傷を負っているようだ。

 

 それでも僕らは生き延びた。

 

 森の風が、僕らの肌から体温を奪う。

 

「助けは来るのかい」

 

「夜明けまでには来るだろ」

 

 願望の交じる口ぶりは、焦りを隠す現れだ。

 

「なら僕は、それまでこれを借りておくよ」

 

 これ、とはリーダーの膝枕。

 

 寝返りも打てない満身創痍さに、笑ってしまいそうになる。

 

 いや、むしろ、意識の底で見た夢のせいだろう。

 

「退け」

 

「言ったろ、無理だって」

 

「嫌だとも言ったな」

 

「言ったっけ?気のせいじゃないか」

 

 人間になってから覚えた笑い方をすれば、リーダーの眉間の皺が増えるのを、知っている。そんな顔させたい訳じゃないんだけどな。

 

 身体中が痛いし、寒い。本当に助けが来るかの保証もない。目覚めた先の結果がこれでは、生き延びたというより、やはりリーダーの言うように、死に損なったが正しいな。

 

 全く、この現実が、僕の見る夢なら良いのに。

 

 そうすれば、僕が彼を、僅かな時間でも独占している素晴らしさと、灰色の世界が作り物だという安堵に満たされる。

 

 そしてもう一つ。ある時、幸運にも君が生まれた日を知った時から伝えたい言葉を、目覚めた世界なら、きっと言えるだろうに。

 

「なあ、リーダー」

 

 なあ、ディーン。

 

「何だよ」

 

「今日なんて所詮、昨日の続きでしかない」

 

 天がどれだけ精巧に作った設計図に基づいて、君が地上に生まれたとしても。

 

「何が言いたい」

 

「それでも昨日と違う今日は、ちゃんとあるって事さ」

 

 ディーン・ウィンチェスターの誕生は、やはり奇跡であり、祝福であり、感謝に満ちているんだよ。

 

 それを信じない、信じられる物全てを失った彼には何も届かない。

 

「クスリ入れすぎて馬鹿が増したか」

 

 僕が覚えた皮肉の元凶が、ため息をつく。

 

 祝福の言葉など、かつて僕が天使であった頃では、きっと嫌味に聞こえただろう。

 

 今となっては嫌味ですらなくなり、つまりは、伝える機会も失ってしまった。

 

 一度目も無かったのだから、二度目はもっとない。二度と、彼には言えなくなってしまった。

 

 それでも、僕は今も君の傍に居る事で、ディーンが生まれた世界の奇跡を信じ、祝福の夜明けが見える。二人で今日を迎えられる喜びに感謝するよ。

 

 やはり死に損ないより生き延びたという方が良いな。

 

 僕はほんの僅かだけ首を動かして、寝返りを気分だけでも打つ。

 

「ところで君の膝枕は硬いな。早く戻って、もっと柔らかい物に替えたいよ」

 

「じゃあ退け」

 

「嫌だ」

 

「無理じゃなくなったのかよ」

 

「嫌だし無理だ」

 

 せっかくだから、僕の名を呼んで髪に触れ、キスでもしてくれたら良いのに。

 

 彼がどんな感情でもって、目覚めるまでの僕を見ていたかを知らないからね。

 


 
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