2009.5.13
「偽りの年末行事」
夕暮れどきなのか
薄暗い街角
やけに閑散としているその場所で
クリスマスセールをやっている旨の
やけに寂しい看板を見かけた
そのお向かいの
わらぶき屋根の もはや何屋か分からないお店が
新年セールだと言って
福袋をたたき売りしている
その威勢のいい声に釣られて
お客さんがボチボチと集まり出した
そして通りすがった行商人が
私の手にハンドクリームを乗せる
今の時期 手がひび割れては大変だろう?と
しかし
この町を一歩出れば
空には青空が広がり
桜が一面に広がる
もはやそこには年末年始など無く
普通に春が来ていると言うのに
何故 誰も気づかないのだろう?
既に春が来ている事に
遅れてきた年末セールなのか
早過ぎる年始セールなのか
私には分からない
何故 誰も違和感を持たないのだろう?
何故 皆はありのままを受け入れられるのだろう?
2009.4.22
「永久ペンギン」
目の前に広がるのは
小さなプールと
嘘臭い南国の観葉植物
そして灰色の床が延々と続く空間
プールの中から
もこもこと湧き出てきたのは
沢山のペンギン達
ペンギン達は脇目も振らず
観葉植物に隠れるようにしてそびえている
螺旋階段をひた上る
お腹が空いたから食べるとか
眠たくなったから眠るとか
それと同じLvの思考回路で
そこに階段があるから上る
疑問なんか浮かばないのだろう
一目散に上っていく
そうして高さ40m
上りきった先には一つの飛び込み台
この高い所から
ペンギン達は一目散に落ちていく
お腹が空いたから食べるとか
眠たくなったから眠るとか
それと同じLvの思考回路で
そこに飛び込み台があるから飛び込む
高さ40m
必死に羽ばたいても 所詮ペンギンは空を飛べない
眼下に広がるのは広大な地面と 点のように小さなプール
一斉に上り
一斉に飛び降り
そして
一斉に小さなプールに落ちていく
暫くの間の 轟音
その後に訪れる静寂
そうしてまた暫くすると
プールの中からもこもこと
ペンギン達が現れ
再び観葉植物の植木鉢の影にある
螺旋階段を上り始める
お腹が空いたから食べるとか
眠たくなったから眠るとか
それと同じLvの思考回路で
そこに階段があるから上る
飛び込み台かがあるから飛び込む
何も考えずに
生涯を同じリズムに乗せて過ごす
2009.3.27
「偽物の町」
路地裏に立つ
かやぶきの塀と小川
塀に無数に差し込まれている風車
茜色に染まる空の中
風も無いのに風車が
くるくるくるくる くるくるくるくる
でも この町は本当では無いと
この町は偽りなのだと
私は気付いている
風車にも 茜色の空にも
私は騙されない
この塀の向こうには何も無く
茜色に染まる空も永遠には続かず
この小川も どこにも繋がっていない事を
私は知っている
まるで撮影スタジオの中
組み立てられたセットのように
この町は
延々と続く風景を かもし出しながら
実際には延々と続かず
四角い空間の中に
塀と小川があるだけなのだ
そして私はただ ここに立ち尽くしていた
恐らく 私も
この偽物の町を彩る
オブジェの一つに過ぎないのだ
2009.2.3
「無い筈の鐘の音」
私の背後から
重く静かに
澄んだ鐘の音が聞こえてくる
カーンと響き
また忘れた頃に
カーンと響く
でも ここは教会なんかじゃない
私は机の前に座り
背後にあるのはコピー機だけ
その音は忘れた頃に
カーンと深く鳴り響く
何故だか分からないけれど
この鐘の音は鎮魂を示し
神が人の命を刈りに来る
私にはそう聞こえる
また鐘の音が響く
嫌だな
また誰かが 神の元に旅立ったのかな
そんな思いが イメージが湧きあがる
私の背後にあるのは 1台のコピー機だけ
そして私の背後から
鎮魂の為の鐘が今日も打ち鳴らされる
2009.2.2
「怖いの怖いの怖いの怖いの」
気が付けばベッドの中
全身を硬直させ
何かに怯える自分がいる
何が怖いの?
分からない…
瞼を閉じている筈なのに
部屋に降り注ぐ青い光が見て取れる
覚えているのは
金箔の衣装を身にまとった うさんくさい教祖様と
赤い柱が印象的な アジア風の建築物
それ以上の記憶は何も無く
思い出そうとしても
記憶はヘドロの海に飲み込まれて行く
覚えているのは 真っ暗になった視界と
「怖い」と言う感覚だけ
何かがあった筈
私は何かをしていた筈
細分化された記憶は統合する術を知らず
覚えているのは
「分からない」事への「恐怖」だけ
どうしたの? 何が怖いの?
分からない どうしてなのか
分からない事を説明する術が私には無い
どうしたの? 何が怖いの?
どうしたの? 何が怖いの?
どうしたんだろう 何が怖いのだろう
ヘドロに塗りつぶされた記憶の中には
一体何があったのだろう?
2009.1.30
「消えかけた思い出」
ほんの僅か前の事
そんな昔の事では無いはず
なのにセピアがかった記憶
酷く遠い出来事に思える光景
彼は旅立とうとしていた
擦り切れてボロボロになったリュック
明らかに何も入りそうにないリュックを背負い
満面の笑みを浮かべていた
そんなリュックでは
何も持たない状態じゃ
旅立った所で どこにも辿り着けない
私はそう言って止めたけれど
彼には何も聞こえなかったのか
そのまま 地平線の向こうに消えていった
ほんの僅か前の事
そんな昔の事では無いはず
夕日に照らされた 彼の笑みを見た事は
彼は今 何をしているのだろう?
そもそも彼は
今 生きて いるのだろうか?
思い返してみても
涙すら浮かばない
ほんの少しの
些細な記憶
2009.1.23
「阿鼻叫喚の固まり」
細い細い通路の奥
レンガの倉庫の脇に
その水路はあった
僕は観光気分で
その水路に身を投げ
流されて行ってみる
どこまでも灰色な 空と 世界
奇麗というよりは不気味と言える程
不自然に青く染まった水路が流れ
その下には
同じように不自然に青く染まった岩肌が見え
その上に
同じような色をした オットセイが数匹見える
不自然なほどの青い肌に
びっしりとひしめく 黒い模様
その一つ一つが まるで人間の阿鼻叫喚を記しているよう
不気味な雰囲気をたたえ
ギロリとこちらを睨んでいるよう
そして 彼らは
生きているのか 死んでいるのか
それとも ただのオブジェなのか
ピクリとも身動きしない
そのオブジェのようなオットセイに
僕の目は釘付けになる
けれど水路はそんな僕の思惑を無視して流れつづけ
やがて 明るい場所に流れ着いて止まる
水路の脇にはタクシー屋の姿があった
乗らないか?と誘われるも
僕はその誘いを断り
水路脇を小走りに逆送して行く
あのオットセイは何だろう?
僕は取り付かれたかのようにそう呟き
階段の踊り場の博物館も
メイン通りでの嘘っぽい政治家パレードも無視して
再びレンガ倉庫の脇に辿り着く
しかし そこは既に
嵐によって侵蝕されており
暗い空は更に暗くなり
稲妻と豪雨が吹き荒れ
水路は灰色の水をたたえながら
ゴミと一緒に猛スピードで流れていく
オットセイの事は気になったけれど
僕は水路に行くのを諦めざるを得なかった
失意の中 政治家パレードの間を抜け
階段の踊り場の博物館に行き着いた
天井にある 古めかしいタペストリー
そして 同じくらい古めかしいオルゴールが
誰も知らない讃美歌を称え
数百体の天使の銅像が 天を仰ぎ祈っている
でも 僕はそんな光景を見ても…
あのオットセイの姿を忘れる事が出来なかったんだ。
2009.1.8
「闇に包まれた洋服屋さん」
六畳一間の狭い店
真っ白い壁 低い天井
その中にびっしりと並べられているのは
一面の洋服達
人が行き来する空間すら保てずに
脇を通ればガチャガチャと
洋服の袖達が 人間の肩を取る
そこに広がるのは モノトーンの世界
真っ白い壁 低い天井
真っ黒なドレス 市松模様のズボン
数点の品物を手に取るも
どれも あまりピンとするデザインじゃない
そう思い 改めて店を見回すと
角に意味深に 上に上る階段がある
お店の2階に上がってみた
そこにあるのは 更に低くなった天井と
数点の服が浮いている やけに薄暗く 空っぽの空間
奥にある押し入れらしき所には
闇が渦巻き 見遣る事が出来ない
あまりの天井の低さに立ち上がる事も出来ず
私は這った状態で その押し入れに近づいて行く
宙に浮いている洋服達を無視し
その押し入れに手を差し入れようとした瞬間
世界が歪む
今まで自分達がいた部屋が
突如物凄いスピードで離れて行く
何かを手に取ろうと腕を伸ばすも
もはや何もかもが 私の手の届かない距離へと流れて行く
最後に見たのは 浮いている洋服達…
彼らが
哀しそうに
私に手を伸ばそうとしている姿…
私が最後に見た光景は そんなものだった
2009.1.7
「傷だらけの君を見る」
笑顔を振りまく君がいる
笑顔で返す周囲の人がいる
周囲の人には見えていないのだろう
きっと僕だけに見える光景なのだろう
優しく微笑んでいる君
その君の瞳から 透明な涙が溢れている
色を失った 透明な血の涙
音も無く ただ静かに 君の頬を染めている
吐き出す空気に混じって
透明な血を吐く君がいる
周囲の人には気付かない
でも僕には確かに見える
透明な血液
「泣きたい時は 泣いていいんだよ
辛い時は 辛いって言っていいんだよ」
僕が君にそう伝えたら
君は怪訝な顔をして僕の事を見る
あぁ そうか…
君は既に、自分が血を流している事にも
気付けなくなってしまったんだね…
2009.1.5
「~ABYSS~」
話の内容は忘れてしまった
ただ私は 男と何か話した後
洞窟の中を散策し続けたんだ
何があったのか覚えていない
何かを探していたのかも知れない
誰かを探していたのかも知れない
何も覚えていない
ただ私は 洞窟の中を散策し続けたんだ
歩みを進め
赤外線カメラを通したような
ノイズが入る暗闇の中を歩き続け
そして
足下が一瞬 ふわりと浮いた
踏み出した場所に地面と呼べるものは無く
永遠の暗闇が続くだけだ
足下が一瞬 ふわりと浮いた
全身の血液が逆流するかのような浮遊感に襲われる
が
本当に そんなのは一瞬で
そうして何事も無かったかのように
私の目の前には暗闇が続くばかりだ
血液が逆流するかのような浮遊感
瞬間的に沸き上がった「絶望」と言う感覚
息が止まる 緊張の一瞬…
本当にそれは
比喩でも何でもなく
一瞬の間だけに沸き上がった感覚で
ああ 落ちるって
私が思っていたよりも簡単なんだなあと
知識ではなく 感覚で理解して
以後 私は動かなくなった
動けなくなった
動く理由も無くなった
目の前に広がる暗闇…
上下左右 どこを見ても暗闇しか見えてこない
そして私の肉体は…
もう どこに行ってしまったのかも分からない
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
夢で見た事や思いついた文字を羅列している詩集…と言うより散文集です。以前ブログにて掲載していたものをこちらに転写しました。
下に行く程古く、上に行く程新しいものです。
↓最近の作品はこちら
続きを表示