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真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の娘だもん~[第42話]

愛感謝さん

無難な人生を望み、万年やる気の無かったオリ主(オリキャラ)が、ひょんな事から一念発起。
皆の力を借りて、皆と一緒に幸せに成って行く。
でも、どうなるのか分からない。
涙あり、笑いあり、感動あり?の、そんな基本ほのぼの系な物語です。
『書きたい時に、書きたいモノを、書きたいように書く』が心情の不定期更新作品ですが、この作品で楽しんで貰えたのなら嬉しく思います。

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2013-01-19 00:01:44 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2313   閲覧ユーザー数:2111

真・恋姫†無双~だけど涙が出ちゃう男の()だもん~

 

[第42話]

 

 

「あっ、あの。ご主人様……?」

「うん? なんだい?」

 

これまで()め込んでいたであろう諸葛亮の悲しい想いを晴らすべく、ボクは優しく抱きしめながら彼女が泣き止むのを待ちました。

暫くそうしていると、胸の辺りから気を(つか)うような、それでいて気恥ずかしそうでもある、そんな感じを思わせる言葉が投げかけられて来たのです。

その言葉を受けて何か問題でもあるのかと思い、ボクは何気に問いかけてみたのでした。

 

「いっ、いえ。もっ、もう大丈夫ですから、離して下さいませんか?」

「ん? そうかい? もう、大丈夫なのかな?」

「はっ、はい」

「ふふふっ……。そうか、それは良かった。朱里が元気に成ってくれて、ボクも嬉しいよ」

「はうぅ~」

 

上目使いで答えてくる諸葛亮の身体を離しつつ、ボクは笑顔を向けながら彼女の頭を優しく()でる事にしました。

頭を撫でられる事が気恥ずかしかったのか、彼女は照れて顔を桜色に染めていってしまう。

そんな態度が可愛くて、つい諸葛亮の頭を撫でる事に夢中に成ってしまうのであります。

ですが、そうした行為を堪能(たんのう)していると、ふとある事に気が付きました。

 

「あのさあ、朱里。もしかして、雛里(ひなり)も同じなのかなあ?」

「え?」

 

ボクは、諸葛亮に自分の気が付いた事を聞いてみる事にします。

でも彼女は、何を聞かれているのかが良く分からないようでありました。

 

「いや……。朱里と同じようにさ、雛里も苦しんでいるのかなあ……って思ってね」

「そう……だと思います。相談した事は無いですけど……」

「そうか……。じゃあ。橋頭堡に戻ったら、雛里とも話しをしてみた方が良いよね?」

「はい。雛里ちゃんも喜んでくれると思います」

 

聞きたい内容の詳細を諸葛亮に問うと、やはり龐統(ほうとう)も同じに苦悩しているのだと返答された。

この分だと軽重(けいちょう)はあるものの、華陽国の留守を任せてきた将軍たちも同様かも知れないと思い(いた)る。

 

(今回の乱の片がついて国元に戻ったら、それとなく聞いてみた方が良いかも知れないな……)

 

ボクはそう思い、大事に成る前に気が付けて良かったと、そう感想を抱くのでありました。

世界に起こる事象や人間関係であれ、それがどんな事柄であったとしても、最初は小さな(ほころ)びが生じるだけでしかありません。

それが自分にとって、良い事と感じられる出来事なら歓迎すべき事。

ですが、悪い事と感じられるような出来事であるなら、その些細(ささい)な兆候を見逃してしまうと、それこそ大事に成って火消しに翻弄(ほんろう)される事に成ってしまうのです。

だから、少ない労力で未然に防げる手立てが講じられる、そんな兆候が小さい内に気が付けた事に安堵したのでありました。

 

 

「じゃあ朱里、とりあえず陣営に戻ろうか。皆、心配しているかも知れないしさ。それに、これからの事も(はか)って、ボクたちの立ち位置を決めていこう」

「はい!」

 

そう言ってボクは、諸葛亮と手を(つな)ぎながら陣営の方へと歩いて行くことにします。

彼女は手を繋ぐことに照れはしたものの、拒絶はしてきませんでした。

ボクたちは互いに照れつつ、それでいて嬉しくもある、そんな気分を感じながら、もと来た道を戻って行くのでありました。

 

 

 

 

「わしらに気を()ませておいて、ご自分は仲良く逢引(あいび)きとはのう。いつの間にか、若も随分と女(たら)しに成ったようで御座いますなぁ?」

 

諸葛亮と談笑しながら華陽軍の陣営近くまで来ると、そんな(とげ)のある言葉が厳顔の声で投げかけられてきました。

そんな言葉がかけられる事に驚いたボクは、顔を声のする方向へと向けます。

すると、そこには厳顔だけで無く、他の将軍たちも勢揃(せいぞろ)いしていたのでした。

諸葛亮は厳顔の『仲良く逢引き』と云う言葉のくだりで、恥ずかしがって繋いでいたボクの手を離してしまう。

ぬくもりを感じていたボクの手に冷たい風が吹き込んで来て、ちょと切ない気分になりました。

 

「皆どうしたの? 何かあった?」

 

ボクは皆が勢揃いしている事に疑問を持ったので、素直に問いかけてしまいます。

そんな緊張感の無い言葉を受けてなのか、厳顔は苦虫(にがむし)()みつぶしたような顔をしだし、その他の将軍たちは溜息をついて(あき)れ顔を向けてきました。

なんでしょうね?

この、『こいつ、何も分かってねぇんじゃね?』みたいな失礼な態度は。

温厚(おんこう)なボクでも、ちょっとムカつきます。

 

「若……。それを言いたいのは、わしらの方でありましょう」

 

ムッとした思いが顔に出てしまったのか、ボクの態度を見た厳顔が呆れ顔に成って話しかけてきました。

 

「何がさ?」

「真桜の言葉を受けて顔色を変えるわ、ろくに説明もせずに陣営を離れるわ、さらには小半時で帰ると言って置きながら、刻限を過ぎても帰ってこんのですからな」

「えっ……? そんなに経ってるの? 気が付かなかったよ」

「これじゃからのう……。明命や護衛の者が遠巻きで警護しておるとはいえ、少し無防備すぎるのではありませぬかな? しかも、呼びにやった朱里も中々戻ってこぬし、わしらに散々気を揉ませたのですから、文句の一つも言いたくなるというものでありましょう」

「うっ……。それは……ごめん」

 

そう言われると、その通りだと思える正論。自分の取った行動を客観視すれば、至極(しごく)ごもっとも。

自分の事に手一杯であったボクは、周りの人達への配慮が欠けていた事に気が付く。

それを指摘されてしまえば、謝る事しか取れる手段はありませんでした。

 

「まあ、良いでしょう……。どうやら、若の調子も元に戻った様子。それに、朱里の方も元気が出たみたいですからな」

「え?」

 

溜息(ためいき)交じりの厳顔の言葉を聞いて、ボクは驚いて問い返してしまいました。

彼女が諸葛亮の苦悩に気が付いていて、それで彼女をボクの所に寄越したのだと思ったからです。

 

「なんですかな?」

「いや……。桔梗(ききょう)は気が付いていたの? その……、朱里について……さ」

 

厳顔はボクの取った態度を怪訝(けげん)そうに問うてきました。

それを受けてボクは、言い(にく)い事を(ほの)めかすように、自分の思っている事を彼女に話します。

 

「ふむ。これでもわしは、軍全体の事や国元での統治など、朱里とは一番長くおるのですぞ? 気が付いておるに決まっておりましょう。紫苑(しおん)からも、それとなく雛里について相談されてもおりますしな」

「そうか……。やっぱり、雛里も同じか……」

「まあ、大事に至る前にケリがついたのですから、喜ばしい事でありましょうな。雛里とは、今回の戦いが終わった後にでも話し合えば宜しかろう」

「そう……だね。そうする事にするよ。ありがとう、桔梗」

 

ボクが至らない所は、それとなく厳顔や黃忠たちが支えてくれていた。

その事に感謝の意を表すと、厳顔は満足そうに微笑んで意をくんでくれる。

厳顔との会話を聞いていた他の将軍たちは、良く意味が分からない為なのか、それとも気を利かしてなのかは分かりませんでしたが、ただ黙って見守って居てくれた。

気が付けていないだけで、色々な人達に色々な所で助けて貰っていたのかも知れません。

だからボクは、皆の心遣いに心の中で感謝を(ささ)げるのでありました。

 

 

「じゃあ、皆で一緒に天幕に戻ろうか。これからの事を諮りたいし。それに天和たちの処遇も、どうするか決めなきゃいけないしさ」

 

この場の雰囲気が良い感じになったのを受け、ボクは皆を連れ立って天幕へ戻る事を提案します。

横に居る諸葛亮へと視線を合わせてみると、同意を示すように(うなず)いてくれました。

そんな彼女に笑顔を見せて、ボクは一足先に天幕へ戻ろうと歩き出します。

 

「ところで、若?」

 

ボクが天幕へ少し歩き出していると、背後から厳顔に呼び止められます。

不思議に思って歩くのを止め、振り返って彼女を見ました。

すると厳顔は、底意地の悪そうな、それでいて楽しそうにも見える、そんな(ろく)でもない笑顔を見せている。

こういう笑顔を見せる時は、決まって良くない事を(たくら)んでいると経験則から警告がきた。

だからボクは、少し警戒しながら返答していく事にします。

 

「なっ、なにかな、桔梗?」

「ちょっと若に、お聞きしたい事が御座いましてな?」

「……なにを聞きたいの?」

「いや、なに。若が大好きな人だと言われるのは、朱里”だけ”なのかと思いましてな? それを、ちょっとお聞きしたかっただけで御座いますよ。本当に朱里”だけ”が、若の()いておる人であるのかと……そう思いましてな?」

「なっ――?!」

 

厳顔から言われた言葉を聞き、ボクは思わず(さけ)びそうに成り、恥ずかしくて自分の顔が真っ赤に成っていくのを感じました。

彼女の言動は、明らかに先程までの諸葛亮との会話を揶揄(やゆ)していたからです。

何故それを彼女が知っているのか? と思った時、ボクの視界に周泰(しゅうたい)が少し(あわ)てているのが見て取れた。

それを見て、ボクは周泰が厳顔や皆に話しをしたのだと理解する。

いつ、どこで見聞きをし、どれだけの事を報告したのかは分かりませんが、そうに違いないと確信しました。

たしかにボクが居ない時は、厳顔が筆頭の家臣として軍を取りまとめる責任者。

であるからして、事のあらましを彼女に報告しても周泰を(とが)める訳にはいきません。

でも、それはそれ、これはこれ、です。

実直なのは周泰の良い所だとも思いますが、もう少し人の心の機微(きび)と云いましょうか、場の空気を読んで欲しいと云いましょうか、それをしたらどうなるかと云う事をもう少し想像して欲しいと思うのは、ボクの我儘(わがまま)なんでしょうか?!

いいえっ、違います! 絶対、ボクの贅沢(ぜいたく)な悩みでは無いと思います!

それとも天然印の人間は、いくら学校で司馬()に教育して貰っても変わらない、と云う事なのでしょうか?

もしそうであるのなら、そんな事実なら知りたくなかったと、ボクは思わずには居られませんでした。(泣き)

 

「どうなのですかな、若?」

「そっ、それは……」

「ふむ。返答がないと云う事は、わしらは違うのだと、そう理解して宜しいのですかな?」

「あうっ、あうっ」

 

これって、なんの羞恥(しゅうち)プレイでしょうか?

ボクが恥ずかしがって返答を渋っていても、厳顔は追及を止めようとはしてくれません。

こちらの心情を理解しているのにもかかわらず、意地悪く返答を(せま)って来るのです。

 

(うん? これって、もしかして皆に心配かけた事への仕返し?)

 

ボクはふとそう思い至り、周りを見回してみる事にします。

すると案の定、趙雲や李典、それに郭嘉(かくか)程昱(ていいく)たちも、厳顔と同じように底意地の悪い笑顔でニヤついていました。

 

うわーん!

やっぱり仕返しなんだぁー?!

そうじゃないかって思ったよぉー?!(号泣)

 

ボクはやけっぱちに成り、心の中で悲痛の叫び声を上げました。

先程まで皆が黙っていたのは、この時のための布石(ふせき)だったと理解する。

そしてなにより、ボクがこの茶番に乗らないと、この場が収まらない事を意味していたからです。

 

「さて、覚悟はお決まりに成りましたですかな?」

「うぐっ……」

 

成り行きを見守っていた厳顔が、さらに人の悪い笑顔に成って最後通告を突きつけてきた。

厳顔の口元は、ニタついていると云いましょうか、まるでどこぞの意地悪な年寄り魔女みたいにニンマリとしています。

さらには、ボクを気の毒そうに見ている呂蒙(りょもう)と、どうしたら良いか分からずにどっちつかずの態度を取る魏延と周泰以外の将軍たちも、どういう答えが返ってくるのかを楽しみにしている様子。

ボクはそんな絶体絶命の窮地(きゅうち)に立たされ、言葉を()まらせてしまうのでありました。

 

「……だよ」

「ん? 若、良く聞こえませぬが?」

「だから、……だよっ!」

「ん~? わしは年寄りでしてな、もっと大きな声で言って頂けぬと分かりませんぞ?」

「っ――!!」

 

ボクは羞恥心に耐えながら何とか言葉を(つむ)ぐのですが、厳顔は追及を止めてくれませんでした。

本当に嬉しくて、涙が出て来て止まりませんよ?!

もう、こうなりゃヤケです。恥も外聞もありません。

そう思って、言葉を身体の中から(しぼ)り出していきます。

 

「皆、大好きだよ! ええっ! 皆、大事(だいじ)ですとも! これで良い?! 良いよね?! なんか文句ある?!」

 

自分の顔が羞恥心の余りに真っ赤に成っている事を自覚しながら、ボクは厳顔だけで無く他の将軍たちにも届くように大声で叫びました。

そんな熱烈な告白を受けた彼女たちは、お互いを見合いながら満足そうな笑顔を見せている。

出会った最初の頃は初々しくて可愛かったのに、どうして皆こんな意地悪に成ってしまったのでしょうか?

厳顔の良くない所が、病原菌のように感染したんだと思うんです。絶対そうです。そうに決まっています。

 

「まったく、もう! じゃあ、もう行くからね?!」

 

ボクそう言って振り向き、肩を(いか)らせながらガニマタで天幕の方へと歩いて行きました。

自分の仕草は照れ隠しだと分かっていましたが、自分は怒っているんだと云う事を表さないとやっていられなかったのです。

でも、そんな子供じみた表現をしているボクを、ささやかに笑っている声が後方から()れ聞こえてくる。

それは微笑(ほほえ)ましい者を見ているようでもあり、してやったりと思っているようだとも思える、そんな微笑でした。

 

次第に大きくなる将軍たちの笑い声を背後に聞きながらも、ボクは歩みを止めることなく進み続けました。

恥ずかしい告白をさせられたと云う羞恥心、そんな告白を受け入れて貰える大事な仲間が居ると云う感謝、そんな複雑な心境から(かも)し出される温かみを、己の胸の内で(おだ)やかに感じながら。

 


 
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