No.533299

cross saber 第2話

九日 一さん

こんにちは、QPです。

三回目の投稿ですが、今更ながら一話が短いですよね…。 長く書いてるつもりが、投稿画面にペーストすると「あれっ?」てなります。
申し訳ありません。 少しずつ長くしていくつもりです。

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2013-01-18 16:39:33 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:268   閲覧ユーザー数:266

 

 

 

 

 

 

 

第2話~亜獣~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【side マーシャ】

あいつで…ラスト!!!

 

純白のサーベルを持つ手に力が入る。

 

前方にいるのはゴリラの様な風貌をした怪物。 手には大きな斧型の武器を持っている。

 

ーそう、怪物、怪物だ。

 

自分に暗示をかけるように強く思い、大きく声を出して身を奮い立たせる。

 

「ハアァァァ!!!」

 

それに呼応するかのように、獣がものすごい速さで斧を振り回した。

 

マーシャは姿勢を低くしたまま左右に跳ねて攻撃をかわしていく。 そして獣の斧が大きく空を斬ったときに生じたその隙を、逃さず捕まえ剣技を放った。

 

構えたサーベルが仄かに光を帯びる。

 

「《プリマヴェーラ》!!」

 

まばゆい閃光が獣の赤黒い体を駆け抜けた。 同時に薄桃色の花弁を乗せた一陣の旋風が吹き、敵を飲み込む。

 

「グオォォァァ!!!!」

 

獣が天を仰ぎ咆哮をあげる。 マーシャはその悲鳴から逃れるように目を固く閉じた。

 

やがてそれは風と共に戦場を去って行った。 あとに残ったのは無惨な獣の姿だけ。 今まで騒然としていた荒野が、水を打ったように静かになった。

 

「終わった …」

 

いつの間にか口から長い吐息がもれていた。 晩秋の空に白い息が消えていく。

 

そんな自分に心の中で喝を入れる人がいた。 ー優しかったおばあちゃんだ。

 

“いいかい、マーシャ。ため息はつくものではないよ。 誰一人として幸せになんかしないんだから。 強く美しい女の口から出ていいのは、決意の言葉だよ”

 

祖母の言葉がマーシャの顔を上げさせた。

 

「そうだよね、おばあちゃん。強くならなきゃ…」

 

少なからず明るくなった視界に黒い人影が映った。

 

身の安全を心配して、その影にそっと近づく。 だがすぐにその心配は無用のものだとわかった。 汚れ一つついていない黒いコートが彼の剣術の腕前をはっきりと示している。

 

「レイヴン」

 

小さく彼の名前を読んだ。 その顔を見て、声を聞いて、お互いの存在を確認し、心の中のモヤモヤした不安を振り払いたかったのだ。

 

しかし、彼に反応はなかった。 マーシャに気付いているのかどうか、反対側を向き首を小さく動かすだけだった。 思考をあちこちに巡らせているようにも、何かを躊躇っている様にも見える。

 

心配になったマーシャが顔を覗き込もうとした時、彼の整った顔が不意にこちらを向いた。 至近距離で彼の赤く澄んだ瞳と目が合う。 思わず後ろに飛びのいてしまった。

 

「わわっ。 ごめん」

 

顔がものすごい早さで上気していくのがわかる。

 

おばあちゃん、ゴメン。また顔を上げられなくなっちゃった。

 

「どうした、マーシャ」

 

慌てるマーシャを、レイヴンは不思議そうな顔で見つめる。 ビクッとマーシャの肩が波打った。 余計に目を合わせられなくなってしまった。

 

うえ~ん。 嫌われちゃうよ。

 

すると今度は心配になったのか、レイブンが静かに聞いてきた。

 

「俺の顔にタランチュラでも付いてるか?」

 

「………」

 

きっと冗談のつもりなのだろう。 うん、きっとそうに違いない。それにしても…

 

「ふふっ」

 

安心したのか、自然と笑みがこぼれた。

 

ああ…いつものレイヴンだ。

 

そのマーシャの様子を見てレイヴンも安心した様だった。

 

「ありがとう。 でも、冗談が下手にも程があるよ」

 

「ああ、来週中に勉強しておくよ」

 

優しげにつぶやきながら彼は視線をどこか遠くへ向けてしまった。 心なしか、元気な様子を取り繕っているように見えて、マーシャは寂しさを覚えた。

 

視線をレイヴンと合わせてみるが、そこに広がってているのは何もない荒野だ。

 

「無」の世界を、彼は瞳を微動だにもさせず悲しげに見つめていた。

 

 

あなたは一体何をその目に映しているの?

 

私の目にもそれは映るの?

 

あなたの目に私はどう映っているの?

 

心の中の声を言葉にすることもできず、マーシャはそれをギュッと底に押し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「できることなら、あいつらとはもう、逢いたくないな」

 

視線を逸らすことなく、不意にレイヴンが語りかけてきた。

 

「うん」

 

それはマーシャも同じだった。

 

レイヴンもあの悲鳴から“死への恐怖”を感じ取ったのだろうか。

 

あの怪物達は明らかに異質だった。

 

赤黒く変色した体は筋肉が恐ろしいほどに隆起していて、所々にその獣の形質が見受けられた。

 

半分程は普通の獣の様に四本の足で地を這い、その鋭い牙を武器に襲い掛かってきた。 だが残りの半分は二本足で立ち、走り、二本の手に装備した剣や斧、槍などの武器をもって戦場を血に染めたのだ。

 

目の前の人々を、体を血に染めながら躊躇なく切り裂く様は悪魔と形容するに相応しかった。 だが、悪魔は死の間際に悲痛な叫びで生を切望するだろうか。

 

もっと生きたい、死の苦しみが恐い。 そんな感情が絶命するその瞬間にふっと溢れ出してくるようにマーシャは感じたのだ。 その感覚に最も苦しめられたと言っても過言ではない。

 

マーシャは荒野に緑色のおびただしい血を残して死に絶えた獣をじっと見つめた。

 

本当に、この怪物達は何をもって生まれてきたのだろうか。

 

「あいつらって、一体何者なの」

 

思わずレイヴンに問いかけてしまった。

 

答えを知るはずもないと思ったが、マーシャの驚いたことに彼の口からはっきりと答えが帰ってきた。

 

「こいつらは上の連中からは亜獣と呼ばれているらしい」

 

「亜獣?」

 

なんでそんなことを知っているのか問うても彼は小さく肩を竦めるだけだった。

 

亜獣ー 全く聞いたことのない言葉を口の中で何度か転がしてみる。

 

「数ヶ月前から小規模ながら何度か他の都市や村で目撃情報がなされている。 だが、そのどれもこんなに戦力を保持してなかったため、内部だけで鎮静化していたらしい」

 

「数ヶ月も前から!?」

 

「それにしても、この進化の早さは異常だ。 まさか……」

 

レイヴンは意味深なことをつぶやくとその先を続けることなく、顎をつまんで考え込んでしまった。

 

聞きたいことは沢山あったが、こうなった彼には基本的に何を話しかけても無駄だ。

 

マーシャはもう一度“亜獣”という言葉を小さく口にする。 何故だかは分からないが、その短い単語はマーシャに得体の知れない不安をもたらした。

 

 

 


 
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