No.532832

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第二章・十七話

月千一夜さん

皆さん、どうもです
月千一夜と申します

今回は、いよいよ白帝城の戦い終了
そして、明かされる二人の想い

続きを表示

2013-01-17 07:42:47 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:6330   閲覧ユーザー数:5240

霞んでいた

目の前の景色が滲み、酷く霞んで見えた

瞼も、重い

 

 

『ぅ・・・くそ・・・・・・』

 

 

参った

そもそも、どうしてこうなったんだっけか?

 

 

 

『ごめんなさい・・・』

 

 

 

そんな中、響く声

聞き慣れた声

 

 

『ごめんなさい・・・蘭』

 

 

この声は・・・紫苑だ

 

 

『蘭・・・蘭っ!』

 

 

俺の名前を叫び、彼女は泣いていた

ああ、そうだ

 

“思い出した”

 

俺は、紫苑に・・・

 

 

 

『ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・』

 

 

 

は、はは

おい、おいおい

謝って済む問題じゃ、ねーだろうが

 

 

『ごめんなさい・・・蘭』

 

 

ああ、もう

本当に、昔っからそうだったよな

俺はいつだって、“ツイていなかった”

 

本当に、最悪だ

なんでよりによって・・・“今日なんだよ”

 

 

『くそ・・・』

 

 

霞む、視線

おりてくる瞼はきっと、俺の人生の終わりを示す“幕”

そんな、もはや使い物にならないであろう瞳でも

確かに、見えていた

 

俺の目の前で、泣いている紫苑の姿が

 

その姿が、痛々しくて

凄く、悲しくて

 

動けない自分の体が、本当に悔しかった

 

 

 

『し、おん・・・』

 

『蘭、ごめんなさい・・・私・・・』

 

 

 

 

違う

違うんだ、紫苑

 

お前に、そんな言葉を言ってほしいが為に

お前の名前を呼んだんじゃないんだ

 

ただ、もう一度

俺の瞼が、閉じられてしまう前に

 

泣き顔なんかじゃなくって

悲しそうな顔なんかじゃなくって

 

 

最期に、もう一度・・・いつものように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第二章 十七話【笑って、くれよ】

 

 

ーーー†ーーー

 

「あぁ、くそ・・・人のこと、言えねぇよ」

 

 

そう言って、呉蘭は笑う

もはや長くはないであろう、自身の体のことを

誰よりも理解したうえで

 

彼はただ、純粋に笑っていた

 

 

「紫苑・・・俺も、思い出してたよ

紫苑のこと、いっぱい、思い出してた」

 

「ふふ・・・そう」

 

 

そんな彼の頭を、膝に乗せる女性

紫苑は、泣きそうになるのを堪えながら

彼の言葉を聞いていた

 

 

「初めて会った時のことも

あの日・・・お前に殺された時のことも」

 

「蘭・・・」

 

「紫苑が俺に、やたらと“お母さん”って呼ばせようとしてたことも

全部、思い出せるよ」

 

「蘭、貴方やっぱり・・・」

 

 

紫苑の言葉

呉蘭は、僅かに照れくさそうにはにかみ

“当たり前だろ”と、零す

 

 

 

「紫苑との日々を、忘れるはずがないさ」

 

 

 

言って、彼は笑う

しかしすぐ、眉を顰め彼女を見つめた

 

 

「ていうか、なんで紫苑はいっつも

俺が嘘ついたってわかるんだよ

これでも、結構嘘は上手いって自負してたんだけどさ」

 

「あら、そんなこと簡単よ」

 

 

“簡単”

そう言って、彼女は呉蘭の頭を撫でた

 

 

 

「嘘をついてる時・・・貴方、いっつも頭を掻いてるのよ」

 

「え・・・うそ?」

 

 

 

“本当よ”と、紫苑

そんな彼女の言葉に、彼は照れくさそうに笑っていた

 

 

「小さい頃から、貴方を見ていたんだもの

それこそ、実の息子のように

“母親”なら、息子の癖くらいわかって当然でしょう?」

 

「はは・・・参りました」

 

 

彼は、それから紫苑の頬に手を触れ

“紫苑”と、彼女の名を呼んだ

 

 

「ああ、ちくしょう

やっぱり、アンタ・・・すっげぇ、綺麗だ」

 

「蘭・・・いきなり、何を言うのよ」

 

 

“もう”と、紫苑は僅かに頬を赤く染める

そんな彼女の反応に、彼は面白そうに笑う

 

 

「なぁ、紫苑

今だから、言えるんだけどさ」

 

「なにかしら?」

 

 

紫苑の言葉

呉蘭は、少し躊躇った後・・・ゆっくりと、言葉を吐き出していく

 

 

 

「俺・・・紫苑のこと、“お母さん”って思ったこと

一度もないんだ」

 

 

 

呉蘭の、この言葉

紫苑は、僅かに眉を顰める

が、そんな彼女の反応に対し、呉蘭は笑って言った

 

 

「はは・・・違うよ

紫苑のことが、嫌いだったとか、そんなんじゃないんだ」

 

 

“ちょっと、言い方が悪かった”と、呉蘭

彼はそれから、静かに言葉を続ける

 

 

「最初は、“この気持ち”に気付けなくて

紫苑なら、お母さんって呼んでもいいかなって

そう思ってた」

 

 

“けど・・・”

呉蘭は、紫苑の瞳を真っ直ぐに見つめ言うのだった

 

 

 

「俺、気付いちゃったんだ

紫苑・・・俺は、アンタをお母さんって思いたくない」

 

「蘭・・・?」

 

 

 

言って、彼が見つめる先

戸惑うような、そんな瞳の紫苑の唇に

彼は、ソッと触れる

 

 

「あの日・・・“旦那様”が死んだとき

俺、自分の気持ちに気付いたんだ」

 

 

“旦那様”と、呉蘭がそう呼ぶ人物は一人しかいない

紫苑の死んだ夫のことである

彼は何かを思い出す様、言葉を紡いでいく

 

 

「俺、見ちゃったんだ

皆にばれない様、一人で泣く紫苑のこと

その姿を見た瞬間・・・俺、思ったんだよ」

 

 

 

 

 

“俺が・・・守らなくちゃ”

 

 

 

 

 

「“息子”としてじゃない

“一人の男”として、紫苑を・・・一生、支えてあげたいって」

 

「蘭・・・」

 

 

“そんな”と、紫苑は声を漏らした

 

気付いたのだ

彼の言いたかった、その意味に

彼女は、ようやく気付いたのだ

 

 

 

 

 

「俺は、ずっと・・・紫苑のことが、好きだったんだ」

 

 

 

 

 

そう言って、彼は笑った

それに対して、紫苑は言葉が出てこないのだろう

口をパクパクとさせ、困ったように眉を顰めていた

 

 

 

「はは・・・ビックリした?」

 

「蘭・・・当たり前、じゃない」

 

 

“気付かなかった”と、紫苑は未だ動揺したまま言う

呉蘭は、そんな彼女の姿を見つめ

面白そうに笑うのだった

 

 

「息子としてじゃない

一人の男として・・・紫苑、アンタが好きだったんだ

ずっと、ずっとずっと

俺は、好きだった」

 

「そう、だったの」

 

 

“そうだよ”と、彼は笑う

それから、“そういうことには、気付けないんだな”と溜め息を吐き出した

 

 

「けど、なんでかな

近すぎたから、なのかもしれない

中々、伝えることが出来なくてさ

それでも、勇気をもって、とにかく“次に会ったら、伝えよう”って

そう決めたんだ

それが、その日が・・・」

 

 

彼はそこで、言葉を止める

そして、紫苑を見つめたまま・・・言うのだった

 

 

 

 

 

 

「紫苑・・・アンタに、殺された日だったんだ」

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

『正直に、伝えればいいでしょうに』

 

 

昼も中ごろ

いつものように兵の調練を終えた後のこと

俺は、親友である“雷”に相談した

無論、紫苑のことである

その答えが、それであった

 

 

『いや、まぁ、そうなんだけどよ』

 

『でしょう?』

 

 

雷の言葉

“確かにそうなんだけどさ”と、俺は言葉を詰まらせる

 

 

『まさかまさか、恥ずかしいなどとは言わないでしょうな?』

 

『いや、その・・・つーか、お前、なんで顔笑ってんだよ?

おいおいおい、まさかわかってて言ってないか?』

 

『バレましたかっ♪』

 

『て、てめぇ・・・』

 

 

“恐い恐い”と、雷が俺をからかってきた

しかし、それもすぐに終わり

雷は、真剣な表情を浮かべ言う

 

 

『しかししかし、実際問題・・・早く言うにこしたことはありませんぞ

何せ、“このような状況ですからなぁ”』

 

『そう、だよな』

 

 

“このような状況”

雷の言いたいことは、わかっていた

 

この頃、蜀は荒れていた

それこそ、あの李厳ですら他国に隠しきれないほどに

この国は、いや・・・“劉璋様は荒れていたのだ”

 

その噂を聞きつけて、だろう

あの“劉備”が近く、この蜀に向け派兵するというのだ

もはや、戦争は免れない

 

そうなれば・・・

 

 

 

『死ぬかも、しれないよなぁ・・・』

 

『かも、ではありませんな

このまま戦えば、確実に我らの負けですな』

 

 

雷の言葉

俺は、“確かに”と頷いた

 

 

『力は、確かにこっちにもある

戦っても、ちょっとやそっとじゃ負けない自信もある

けど・・・“流れ”は、完全に向こうにある』

 

 

“だろ?”と、俺は苦笑する

雷は、同じく苦笑しながら頷いていた

 

 

『時代が、とでも言うのですかな

それが劉璋様ではなく、劉備こそを求めている』

 

『やれやれ・・・参ったねぇ』

 

 

“けど”と、俺は溜め息をつく

それから、力強く拳を握り締め・・・言ったんだ

 

 

 

『俺たちは、この国を・・・いや、劉璋様を“裏切れない”』

 

 

 

雷は、この言葉を聞き

静かに笑った

 

 

『そうですな

あの御方を裏切ることなど、出来ようはずがない

それが、劉璋様の“心”を見知ってしまった我々の“誓い”』

 

 

“誓い”

 

雷の言葉に、俺も頷いていた

そんな俺の様子を見つめ、雷は満足そうに微笑み言った

 

 

『故に・・・もう、我々には時間がありません』

 

『ああ、わかってる』

 

 

わかってる

そんなことは、わかっていた

だがしかし、何というか

“近すぎた”のだろうか

俺は、未だにこの気持ちを紫苑には伝えられないでいた

だけど、このままじゃ駄目なんだ

このままだと、俺は何も伝えられないままだ

 

このままだと、俺は・・・

 

 

 

 

『よし・・・覚悟、決めたぞ

次だ、次

次、紫苑に会うことになったら俺・・・この気持ち、伝えるよ』

 

『おお、そうですそうです

その意気ですぞ、蘭』

 

 

俺の決意の言葉

雷は、嬉しそうにそう言ってくれた

 

そして、俺に向い拳を向ける

 

 

 

『武運を祈ってますぞ、我が友よ』

 

『ははっ・・・ありがとな、雷』

 

 

 

“コツン”と、おれ達は拳を合わせた

持つべきものは親友、だ

そして、それから数日たった日のことだった

 

 

 

 

紫苑が・・・“大事な話がある”と言って、俺のもとにやって来たのは

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

『ふぃ~・・・終わり~』

 

 

そう言って、俺は深く息を吐き出した

机の上には、大量の書簡がある

劉備軍の侵攻に備え、多くの準備がある

俺は主に軍備の調整などを行っていた

その仕事量は平時の何倍もあり、真面目にやっても今のように夜までかかってしまう

 

 

 

『そんくらい、劉備軍との戦いは“望み薄”ってことかねぇ』

 

 

 

呟き、苦笑する

俺のところで、この量なのだ

恐らく李厳のところなど、これの倍はくだらないだろう

“やれやれ”と、俺は筆を置いた

 

 

『呉蘭様、よろしいでしょうか?』

 

『うん?』

 

 

丁度、その時だった

執務室の扉の向こうから、兵の声が聞こえてきたのだ

“どうした?”と、俺は尋ねる

 

 

『実は、たった今・・・呉蘭様に会いたいと、黄忠将軍がやって来まして』

 

『は、はぁ!?』

 

 

“おいおいおい”と、俺はガラにもなく焦ってしまった

もう、夜も深いというのに

いやいや、というかそれ以前に、紫苑は確か劉備軍に睨みを利かせる為に前線の砦にいるはずだった

 

それが、何故・・・ここに?

 

 

 

『と、とにかくこの部屋まで案内しろっ!

くれぐれも失礼のないようにだ!!』

 

『はっ!!』

 

 

疑問に思うことも、多々あったが

それよりも俺の中には、“あの日”の言葉の方が思い出されていた

雷に言った、あの言葉である

 

 

『次に会ったとき、か・・・おいおい、やばいぞ』

 

 

まさか、こんなに早くなるなんて

緊張を通り越して、冷や汗が噴き出る

 

 

『い、いかん、落ち着け俺』

 

 

深く、息を吐き

俺は胸に手をあて、“よし”と呟いた

 

 

『大丈夫、大丈夫だ』

 

 

“大丈夫”

そう言い聞かせること数刻後

紫苑は来た

 

 

 

『久しぶりね、蘭・・・元気だった?』

 

『お、おう

久しぶり・・・紫苑』

 

 

 

いつもどおり、笑いながらそう言う彼女

しかし、何故だろう

そんな彼女の様子に、妙な違和感を覚えた

 

何か、“違う”

 

 

『いや、気のせい・・・だよな』

 

 

聞こえない様、小さく呟く

そう、きっと気のせいだ

ここ最近はずっと忙しくて、お互いに休む暇はなかった

最後に顔をあわせたのだって、成都での軍議の時だけだ

 

だから、きっとそのせいだ

そう自分に言い聞かせ、俺は笑った

 

 

 

『それにしても、驚いたよ

いきなり、訪ねてくるなんて

しかも、こんな夜中にさ』

 

『ごめんなさい・・・でも、どうしても貴方に話したいことがあったの』

 

『話したいこと?』

 

 

“ええ”と、紫苑は表情を曇らせる

それから、真っ直ぐと俺を見つめた

 

 

『とても、大事な話なの』

 

『大事な、話』

 

 

“大事な話”

その言葉を聞いた瞬間、体が震えた

 

“嫌な予感”がする

 

 

『なんだよ、その、大事な話って』

 

 

そんな気持ちを隠し、俺はつとめて冷静に

紫苑に、そう聞いた

 

 

『蘭、私ね・・・』

 

 

やがて、彼女の口から零れ出た言葉は

 

 

 

 

 

『劉備に・・・蜀を、治めてもらいたいと思っているの』

 

 

 

 

 

俺の勘ってやつが、最悪に当たったことを知らせるのだった

 

 

 

『おい、おいおい・・・』

 

 

“マジかよ”と、俺は息を呑んだ

紫苑が言ったこと

 

“劉備に蜀を治めてもらう”

 

これは以前から、何人もの臣が言っていたことだった

そのたびに李厳や張仁がその口を“封じていた”のだが

しかし、その考えはもはや止められないほどに広がっていた

 

そして、また・・・彼女も、紫苑もその答えに至ったのだろう

 

ならば、彼女が

紫苑が訪ねてきた理由など、考えるまでもなかった

 

 

 

『俺にも・・・その、“裏切り”に付き合えと?』

 

『蘭・・・そうよね

これは、立派な裏切りよね』

 

 

“けど”と、紫苑は唇を噛み締める

よく見ると、その手は震えていた

 

 

『このままだと、民は苦しみ続ける

縁様が・・・いえ、劉璋がいる限り、ずっと

それを止められるのは、もはや劉備だけよ』

 

『劉備、か・・・そうだな』

 

 

彼女の言うとおり

劉備ならば恐らく、民を苦しませるようなことはないだろう

“今の劉璋様”では、きっとこのままだろう

 

だけど・・・駄目だ

 

 

 

『だから、蘭

貴方も、力を貸してちょうだい』

 

『紫苑・・・』

 

 

紫苑

駄目、なんだ

 

俺は・・・

 

 

 

 

『断る』

 

『っ、蘭!?』

 

 

 

 

この国を、劉璋様を裏切れない

だからこそ、俺はあえてキツイ口調でそう言い放った

この言葉に対し、紫苑は驚きのあまり俺に詰め寄ってきた

 

 

『どうしてなの?

蘭、貴方ならわかるはずよ

このままではいけないと・・・!』

 

『ああ、わかってる

このままだったら、何も変わりゃしない

どころか、どんどんとこの国は酷くなっていく

そんなこと、言われなくたってわかってる』

 

 

“だけど”と、俺は彼女を睨み

傍らに置いてあった剣を手に取った

 

 

『俺は、劉璋様を裏切らない

劉備が攻めてくるというのなら、俺はそれを迎え撃つだけだ』

 

『蘭・・・どうして?』

 

『それが、俺の“誓い”だからさ』

 

 

言って、俺は剣を抜いた

そしてその切っ先を、紫苑に向ける

 

 

『俺は、最後まで蜀の将だ

故に、反逆を企てた“黄忠”よ・・・貴様を止めるのもまた、俺の仕事だ』

 

『蘭っ!!』

 

 

紫苑の声

俺は、自身の首を静かに横に振る

 

 

『どうした?

アンタも、武器をとったらどうだ』

 

『蘭・・・どうしても、賛同してもらえないの?』

 

『くどいぜ?

紫苑、俺の気持ちは変わらないよ』

 

『そう、なら・・・仕方ないわね』

 

 

“仕方ない”

彼女がそう言った瞬間

城内が、一斉に慌ただしくなった

 

それがいったい、どういうことなのか

俺は、一瞬にして理解する

 

 

 

『なるほどな

流石は、紫苑だ

俺の“返答”に対し、一応の保険をかけてたってことか』

 

『ええ、本当に万が一に備えてだったのだけれど

ハッキリ言うわ・・・この城は、間もなく落ちる』

 

『ああ、そうかい』

 

 

紫苑の言葉に、俺は内心で溜め息をついた

どうやら“劉備を迎え入れたい”と思っている者は

俺の守る城にも多数いたらしい

それらの者らの手引きで、紫苑がこっそりと引き連れた兵士が城内に入ってきたのだろう

 

 

『降りなさい、蘭

今なら、悪いようにしないわ』

 

『嫌だね』

 

『・・・頑固、ね』

 

『アンタに似たんだ』

 

 

そう言って、俺は笑う

つられ、紫苑も笑っていた

 

 

『さぁ、殺せ紫苑

何と言おうと、俺は蜀の将であり続けるぞ』

 

『蘭・・・』

 

 

“カラン”と、俺は剣を落とした

そして、紫苑に歩み寄る

 

 

『長い間、それこそ旦那様が仕えていたこの国を裏切るんだ

相当、覚悟してのことだったはずだ

それなのに、俺を殺せないなんて・・・そんな、馬鹿な話はないだろ?』

 

『それは・・・』

 

 

歩み寄る俺

それに対し、紫苑は俺を避けるように一歩下がった

 

そして・・・

 

 

 

『嫌、よ・・・やっぱり私は、貴方を殺せない』

 

『紫苑・・・』

 

 

そう言って、紫苑は涙を流したのだ

俺は、言葉を失ってしまう

 

俺の為に涙を流してくれたのが、嬉しかった

俺のことを、こんなに想ってくれているのかと

心の底から、嬉しかった

だけど、このままだと

 

 

 

俺は、紫苑を・・・“反逆者”として、捕えなければならない

 

 

 

 

『くそ・・・』

 

 

 

 

ああ、ちくしょう

本当に俺は、心底ついていない

 

何で、よりによって今日なんだよ?

 

こうなったら、もう

俺は

俺がしなくちゃいけないことなんて、たった一つじゃないか

 

 

 

 

『貴様の覚悟は、そんな程度のものなのか・・・黄漢升!!』

 

『ら、蘭・・・!?』

 

 

それは、彼女にしたら急な展開だったろう

俺は、彼女の胸ぐらをつかみ叫んだのだ

 

 

 

『アンタ、この国を救いたいんだろ!?

この国の苦しみを、悲しみを終わらせたいんだろ!?

だから悩んで苦しんで、そして劉備を迎え入れようって・・・そう決めたんだろっ!?』

 

 

ああ、そうだ

紫苑・・・お前は、優しすぎるんだ

それなのに、そんな慣れないことをして

俺なんかに、気をつかってさ

 

本当に、良い女だよ

 

 

 

『なら、アンタがここですべきことなんて唯一つじゃねぇか!!!!』

 

『蘭、でも、でもっ!!』

 

 

“貴方を、殺したくない”と、紫苑は泣いた

 

胸が、痛い

泣きたいのは、こっちの方だ

そう言って、思い切り泣いてしまいたい

 

 

『俺を殺せないのなら、俺はアンタを捕まえる

もし・・・ここで、アンタが捕まったら

璃々ちゃんは、一人になっちまうぜ?』

 

『そ、それは・・・』

 

『璃々ちゃんには、まだまだ母親が必要だ

だから、アンタは・・・此処で、終わるわけにはいかないだろ?』

 

 

だけど、さ

やっぱり・・・好きな女の前でくらい、かっこつけたっていいじゃないか

 

 

『紫苑・・・アンタはまだ、この国に必要なんだよ

俺なんかと違って、さ

だから・・・』

 

 

 

 

 

 

“俺の屍くらい、軽く越えてみせろ・・・紫苑”

 

 

 

 

 

静寂

静まり返った部屋の中

もはや、彼女の泣き声は聞こえなくなっていた

 

 

『わかったわ・・・蘭』

 

 

変わりに、響いたのは声

紫苑の声

其の声は、先ほどまでとは違う

 

凛とした声

 

 

『私は・・・貴方を、殺します』

 

『紫苑・・・』

 

 

ああ、それでいい

それでいいんだよ、紫苑

そう思い、俺は一人微笑んだ

 

 

『紫苑・・・一つ、約束しろ』

 

『ええ、なにかしら?』

 

『絶対に、立ち止まるなよ

アンタは、その為に俺を殺すんだろ?』

 

『蘭・・・わかったわ』

 

 

“わかった”

 

そう言って、彼女は俺の落とした剣を拾った

そしてそれを、振り上げる

 

 

 

 

『はぁ・・・ったく』

 

 

 

 

最悪、だ

俺は自身のあまりの運の無さに、もはや笑うことしか出来ないでいた

 

しかし、いまさらこの気持ちを伝えるなど

到底、無理な話である

すれば、紫苑はまた“迷う”だろう

彼女は、とても優しいから

 

だけど、さ

それは、それだけは駄目だ

 

 

 

『最悪、だぜ』

 

 

 

損な性分

いや、ホレた弱みだ

 

悔しいけど

悲しいけど

苦しいけど

本当は、泣きたいくらいに悔いがあるけれど

 

しょうがない、よな

ああ、これはしょうがねぇよ

好きな女の為だ

 

やがて、振り下ろされた刃が

俺の体を切り裂いた瞬間

 

 

 

 

俺は・・・この“想い”を、己の命と共に消し去ったんだ

 

 

ーーー†ーーー

 

「本当に、ついてなかったよ」

 

 

その言葉で、ようやく彼の話は終わったようだった

紫苑は、ただ茫然と

黙って、その話を聞いていた

 

 

「そんな、私・・・」

 

 

何か、言いたかったのだろう

しかし様々な想いが同時に湧き上がり

結局、紫苑は言葉を発することが出来ない様だった

 

そんな彼女に対し、呉蘭は笑ってみせた

 

 

「いいんだ、紫苑

お前がやったことは、きっと正しかったんだ

少なくとも、俺はそう信じてる」

 

「蘭・・・」

 

 

呟き、彼女は泣いた

呉蘭は困ったように笑うと、ゆっくりとその視線をずらす

その先にいたのは、鄧艾こと一刀であった

 

 

「こっから先の話は、たぶん・・・アンタも関係してるはずだ

鄧艾、いや“天の御遣い”って言った方が正しいか」

 

「好きに、呼んで」

 

 

“そうかい”と、呉蘭は笑った

しかし、その表情はすぐに真剣なものに変わる

 

 

 

「“泥棒猫”・・・そう名乗る女が、劉璋様を甦らせたらしい」

 

「泥棒、猫・・・?」

 

 

“ああ”と、呉蘭は頷いた

 

 

「どうやったのかは、たぶん俺なんかよりもアンタの方が詳しいと思う

とにかく、その泥棒猫が劉璋様を甦らせた

そして・・・その次に、“劉璋様がおれ達を甦らせた”」

 

「劉璋が・・・蘭たちを?」

 

 

驚く紫苑

そんな彼女の言葉に、呉蘭は瞳を閉じる

 

 

「泥棒猫が、劉璋様を甦らせる際に使った“力”

その自身に宿った力を、“俺たちに分け与えたんだ”

この“能力”は、その時のオマケみたいなもんさ」

 

「そう、だったの・・・か」

 

 

言われ、一刀は一人納得する

しかし他の者は、話にはついていけないようだった

そんな者達をどうとも思っていないのか

はたまた、好都合とでも思っているのか

 

彼は、話を続ける

 

 

 

 

「とにかく、おれ達四人は劉璋様の力によって蘇った

そんな俺が見たのは・・・紫苑、君の“無様な姿”だった」

 

 

“無様な姿”

そう言われ、紫苑は表情を曇らせる

彼は、そんな彼女のことを見つめ

 

温かな笑顔を浮かべ、こう言うのだった

 

 

 

 

 

「紫苑、俺が許せなかったのは“俺を殺した紫苑”じゃない

俺との約束を破ったこと

“俺を殺したことをいつまでも引き摺って、いつまでも前に進めない紫苑”だったんだ」

 

 

 

 

 

 

紫苑は、言葉を失った

呉蘭は、そんな彼女の目を見つめたまま言葉を続ける

 

 

「大好きな人が、未だに苦しんでいる

そんな紫苑の姿を見て、俺は決めたんだ

この“二度目の命”は、君の為に使おうって」

 

「蘭・・・」

 

 

紫苑は、涙を流し彼の名を呼んだ

その、直後

彼が、激しく咳き込んだのだ

 

その口元には、血が・・・真紅の血が、流れていた

 

 

 

「は、はは・・・もう、限界っぽいな」

 

「蘭、そんな・・・っ!」

 

 

戸惑う紫苑

彼は、“しょうがねぇよ”と、笑った

所詮は偽りの命だと

そう言ったのだ

 

 

「ただ、このまんま“泥棒猫”の思うとおりにはなりたくないよな」

 

 

そう言って、彼はスッと手を伸ばす

 

 

「受け取れ、天の御遣い」

 

 

その手には、“小さなガラスの破片”のようなものが乗っていた

しかも、それは僅かに光っている

一刀は“これは”と、言葉を失くす

 

 

「こんだけなら、俺でも自由に出来るみたいだ

これが何かは、アンタなら見ればわかるよな?」

 

「・・・ん、わかる」

 

「だったら、黙って受け取ってくれ」

 

 

“頼む”と、呉蘭は咳き込みながら言う

一刀は、その手から欠片をとった

 

その瞬間・・・

 

 

 

 

 

“やっと・・・来たのね”

 

 

 

 

 

欠片は、溶けるように消え

同時に彼の頭の中、“懐かしい声”が響いた

“誰の声”なのかわからない

どんな姿だったのかもわからない

しかし、確かに“懐かしい”と

 

そう思ったのだ

 

 

 

「残りは、悪いけど劉璋様んとこに帰っちまう

あとは、自分で何とかしてくれ」

 

「ん・・・ありがと」

 

 

“おお、感謝しろ”と、彼は笑った

その体が、ゆっくりと“透けていく”

 

 

「おお、マジでもう・・・限界みたいだ」

 

「逝くのね?」

 

 

紫苑の言葉

呉蘭は、“ああ”と笑った

 

 

「本当に、貴方は酷い人だわ

二度も、殺させるなんて」

 

「悪い」

 

「謝らないで・・・」

 

 

そう言って、彼女はまた泣いた

今度は先ほどまでとは違い

もはや、止まらないんじゃないかという程に

 

彼女は、泣きじゃくった

 

 

 

「紫苑・・・」

 

 

 

そんな彼女に、彼は優しく笑い掛ける

その頬を流れる涙を、手で拭い

彼は、彼女を見つめ言った

 

 

「泣き顔は、悪いけど見飽きたよ

一回目の時も、散々見たしね」

 

「蘭・・・」

 

「紫苑、俺のことを想ってくれているんなら

泣かないでくれよ

最期に見た君の顔が泣き顔だったなんて、そんな悲しい思いはもうしたくない

大好きな人の泣き顔は、もうお腹いっぱいさ」

 

 

そう言って、彼は紫苑の手をとった

そして、やや照れたようにはにかみ

 

言うのだった

 

 

 

 

 

「笑って、くれよ

また、いつものように・・・笑って、見送ってくれよ」

 

 

 

 

 

“笑ってくれ”

 

この言葉が

その言葉に込められた想いが

 

彼女の涙を、僅かばかりおさえた

 

 

「蘭・・・私」

 

 

そして、彼女は笑う

 

優しく、温かく

そしてなにより・・・“愛”に満ちた、その笑顔で

 

 

 

 

 

「私も、貴方のことを愛しているわ・・・蘭」

 

 

 

 

 

彼を見送ろうと

そう、決めたからだった

 

 

「はは、は・・・ほらな、やっぱり」

 

 

呟き、彼が伸ばした手

その手はもはや、殆ど消えてしまっている

 

もう、最期だ

これで、自身の二度目の人生は終わるのだ

 

しかし、彼は思う

“悪くなかった”と

故に、彼は笑っていたのだ

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり紫苑は、泣き顔よりも・・・笑顔のほうが、百倍素敵じゃんかよ」

 

 

 

 

 

 

呉蘭

彼の二度目の人生は、こうして閉幕と相成ったのである

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「蘭・・・」

 

 

場所は、変わる

此処は一刀たちのいる場所よりも、少し離れた場所

雷銅はふと、空を見上げ小さく呟いた

 

 

 

「そうですか・・・逝きましたか、友よ」

 

 

 

それから、彼は笑みを浮かべた

そのまま、見つめる先

彼女はいた

 

戦斧を構え、凄まじい氣を放つ武人である

 

華雄こと、夕である

彼女はその身に幾つもの傷を負いながらも、その瞳を逸らすこともなく

ただ真っ直ぐに、雷銅を見つめていた

 

そんな彼女を見つめ、彼はフッと笑った

 

 

 

 

「華雄殿

そろそろ・・・決着と、いきたいところですな」

 

「ふっ・・・それは、此方の台詞だ」

 

 

彼の言うとおり、事実二人の戦いはそういう段階にまで進んでいた

 

お互いに、決定打がない

それだけのこと

 

雷銅の攻撃を、夕は躱し続け

夕の攻撃を、雷銅はその雷を持って防いでいた

そのまま、ズルズルと続く長い戦い

無論、どちらも全力である

 

その為・・・お互いの体力は、もはや限界に近かった

或いは、限界などはとうの昔に超えているのかもしれない

 

 

 

「そろそろ、終わらせましょう・・・貴女を、倒すことによって!」

 

「それも、此方の台詞だ

終わらせてやろう・・・お前を倒すことによってな!」

 

 

 

瞬間

夕は、駆けだした

その勢いは、凄まじい風圧を生み出すほどである

 

そんな彼女の行動に

雷銅は、ニヤリと笑みを浮かべ

 

彼女めがけ、落雷を放った

 

 

 

「このままでは、先ほどまでと同じ・・・!」

 

 

 

その様子が、見えたのだろう

彼女は、静かに息を呑んだ

ならば、“また躱すのか?”

 

答えは・・・

 

 

 

 

「う、おぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!」

 

 

 

 

“否”である

 

彼女は止まるどころか、躱すどころか

“加速したのだ”

 

 

「なっ!?」

 

 

戸惑う、雷銅

しかし彼女は、止まらない

 

加速していく

どんどん、加速していく

 

 

「ま、まさか・・・まさかまさか!!」

 

 

迫る落雷

幾ら彼女が早かろうと、それが外れることはない

彼には、わかっていた

しかし彼は、それでも戸惑いを隠せない

焦りを隠しきれない

 

やがて、落雷は彼女の身に・・・降り注いだ

 

 

 

 

「な、なんと・・・」

 

 

 

 

落雷は、確かに彼女に命中した

それはこの目で見ているのだ

 

しかし

 

 

 

 

「あ、あぁぁぁぁああああ!!!!!」

 

 

 

 

彼女は、“止まらなかった”

 

その戦斧を、凄まじい“雷撃”で包み

その瞳を、真っ直ぐと雷銅に向け

 

彼女は、駆けていたのだ

 

 

「ああ、なんと・・・なんということでしょうか」

 

 

迫るのは、もはや“雷撃”

しかも、自身が放つよりも強大で

恐らくは、とてつもなく“重い”であろう

 

そんな、“一撃”だ

喰らえば、ひとたまりもない

 

故に・・・

 

 

 

「ああ、やはり・・・私は、運が良い」

 

 

 

彼は、笑った

そうして、待ったのだ

自信を貫くであろう、その一撃を

 

 

 

 

「雷銅っ!!!」

 

 

 

 

やがて、彼女がその“雷撃”を放つ瞬間

彼は・・・静かに目を閉じていたのだった

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「参り、ました・・・」

 

 

そんな、弱々しい声が響いた

彼女、夕の目の前

そこで倒れる、雷銅が発した声である

 

 

「お見事な、お見事な武でした」

 

 

そう言って、彼は微笑む

夕もまた、そんな彼に向い笑みを浮かべていた

 

 

「雷銅・・・お前も、見事だった」

 

「これはこれは・・・ありがたい、お言葉です」

 

 

“お世辞でも、嬉しいです”と、雷銅

“そんなんじゃない”と、夕は疲れたように溜め息を吐き出した

 

 

「実際、危なかったさ」

 

「そのこと、なのですがな」

 

 

と、雷銅は思い出したように声をあげる

 

 

「最後の、私の一撃

あれを貴方は、どうやってあのようにして“受け止めたのですかな?”」

 

 

雷銅の言葉

夕は、“ああ、アレか”と呟く

 

 

 

「あれはまぁ、上手くは言えないんだがな・・・“気合”だよ」

 

「き、気合・・・ですか?」

 

「うむ

絶対に負けたくないと思ったら、不思議と何とかなるような

そんな気がしてな

実際、何とかなっただろ?」

 

「な、なんと・・・」

 

 

“これはこれは”と、雷銅は震える声で言い

 

やがて・・・大声で笑うのだった

 

 

 

 

「まさかまさか、気合とは・・・これは、蘭に良い土産話が出来ましたぞ!!」

 

「そうか、なら良かった」

 

 

 

 

言って、夕も笑う

そんな彼女の隣、雷銅がゆっくりと立ち上がった

その体は、殆どが透けている

 

 

「最期に、貴女と戦えてよかった

おかげで、私の願いは叶いましたよ」

 

「雷銅、お前の願いとは・・・」

 

 

“なんなんだ?”

そう言おうとした彼女を、彼は見つめ笑った

 

それから、空を見上げ言うのだった

 

 

 

 

 

「死すならば、戦場で

この命果てる時は、“最高の敵”の手によって」

 

 

 

 

 

 

“それが、私の願いです”と

雷銅は、そう言って笑った

 

一見すれば、今の時代

難しいことでは、ないのかもしれない

 

しかし、彼は違った

彼は戦場で、死ぬことはなかった

戦って死んだわけではなかった

 

彼は、それが悔しかった

 

 

 

「私は今・・・“幸せ”です」

 

 

故に、彼は言う

その一言に

その想いに

 

彼女もまた、笑っていた

 

 

 

 

「雷銅よ

私にとっても、お前は・・・“最高の敵”だった」

 

 

 

そう言って、彼女は金剛爆斧を天高く掲げた

空は、いつの間にか太陽が昇り

 

“蒼天”が広がっていた

 

 

 

 

「お前という男・・・雷銅という“強敵(とも)”の名は、この金剛爆斧と共に私の心に刻まれた

私はお前を、生涯忘れることはないだろう」

 

「華雄殿・・・ありがとう、ございます」

 

 

言って、彼は“泣いた”

そして透き通っていくように、消えていく

その時、だった

彼はふと、思い出したように腰に手をやった

そこには、彼の武器である短戟が差してある

彼はそれを手にとり、夕に向って差し出した

 

その武器は、不思議なことに・・・透けていない

 

 

 

 

「これを、受け取ってくだされ

貴方の武に、敬意を表した・・・私の、その気持ちを」

 

「雷銅・・・うむ」

 

 

頷き、受け取った短戟

それが、“パチリ”と音をたて・・・微かに光った

 

 

「これには、私の“力”が込められています

きっと、お役にたつでしょう」

 

「名は?」

 

「名は、ありませぬ

貴女が決めて下され」

 

 

“ふむ”と、夕は顎に手をあてる

それから何か思いついたのか、雷銅を見つめ

 

そして、こう言ったのだ

 

 

 

「“雷銅”・・・それが、この武器の名だ」

 

「華雄殿・・・貴女という人は、つくづく人を泣かせるのが上手い」

 

 

 

そう言って、彼は笑う

その瞳を、大きく揺らしながら

 

 

 

「お気を付けください

我々と違い、他の“二将”は純粋に今の蜀に恨みを持っています

そして、劉璋様は我々四人が倒れるたび・・・“力が戻っていく”」

 

「戻っていく・・・だと?」

 

 

“はい”と、雷銅は頷いた

 

 

「我々が蘇ったのも、劉璋様の身に宿った力を分け与えられたから

それ故我らが倒れる時、その力は劉璋様に戻り

劉璋様は・・・“強くなる”」

 

「そう、か・・・」

 

 

夕は、そう言って腕を組んだ

そんな彼女に向い

彼は消えかけた体のまま、頭を下げた

 

 

 

「どうか、後を頼みましたぞ

あのお方を・・・“劉璋様”を、止めてくだされ」

 

「ああ、任せろ」

 

 

 

夕の言葉

これに、雷銅は安堵の溜め息を漏らした

 

 

「ありがとうございます

これで、ようやく・・・蘭のもとにいけそうです」

 

 

言って、彼は空を見上げた

 

 

 

「さぁ、いくとしましょうか

そして親友の“遠回りな恋”をからかいながら、酒でも酌み交わしましょう

今ならば、きっと酒も美味い」

 

 

 

空は、果てしない蒼天だ

雷銅はそんな空を見上げながら、嬉しそうに笑っていた

 

 

 

 

 

「そして、自慢してやるのです

この私を最期に倒した“武人”のことを、この私の“最高の強敵(とも)”のことをっ!!」

 

 

 

 

 

そして、彼は“消えた”

いや、“旅だった”のだ

 

この空の向こう

先に行って待つ・・・親友のもとへ

 

 

 

「さらばだ、雷銅・・・我が、“強敵(とも)”よ」

 

 

 

彼女は、小さく呟いた

その呟きに応えるよう

 

青空にも関わらず・・・星が、流れたのだった

 

 

 

★あとがき★

 

さて、どうもこんにちわ

月千一夜ですw

 

二章、十七話更新しました

 

今回もまた、多くなってしまった

ま、まぁ仕方ないよね

うん、仕方ない

 

さて、白帝城決着

次回はいよいよ、一刀と蜀の皆がご対面!?

波乱の予感がしますねww

 

ではでは、またお会いする日まで


 
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