No.531132

Be Together

しいなさん

ラブライブ!のアニメ1話を見て、この希とエリチカにはこんなことがあったに違いないあったらいいなと思い、
2話になってこんなんじゃなかったと判明するまえにざっくり書いてみました。
なので設定とかかなり適当です。
そんなエリチカが生徒会長になるちょっと前のふたりの話です。

2013-01-13 06:59:39 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1273   閲覧ユーザー数:1247

 

 放課後の教室に、ひとりたたずんでいる。夕焼けに照らされた金髪は赤く燃えているようで、その美しさに思わず息をのんだ。遠く窓の外を眺めるその表情は見えないが、仮に泣いていたとしても不思議はないような気がした。廊下から見えるその情景は映画のワンシーンとも、美術館で絵画か彫像を鑑賞しているかのようだとも思える。

「なーにしてんの」

 しばらく息を殺し、その姿を目に焼き付けていた東條希は、思い切って声をかけた。驚きながら振り向く、その動作が希にはスローモーションに見える。

「エリち──」

 泣いてはいなかった。彫りの深い顔立ちに強く影が差し、本当に彫刻が動いたのかと思ってしまう。しかし見開かれた青い目は確かに生きた人間の意志が見て取れた。ぽっかりと開いた口が、それらと不釣り合いに間抜けで、しかしそのすべてが、希の時間を一瞬止めるほどに美しく思えた。

「……なんだ、希か。びっくりした」

 大きく息を吐きながら、絵里は破顔する。それと同時に希の時間も動き出した。

「なんだ、なんて失礼やん」

「そっちこそ、なにエリチーって」

 うっ、とうめき声が出る。みとれてしまい言葉を失っただけで、それに意味などなかった。

「……あだ名」

「あっそ」

 思わず出た言い訳を、絵里は受け流す。冗談だと思ってくれたのかもしれない。

 姿勢を正していすに座り直した絵里に、希は近づいていく。向こうはまだ帰るつもりがないようだった。

「そんで、なあにひとりでたそがれてたん?」

 絵里と机を挟んで、前の席に寄りかかる。少し見下ろすような姿勢で答えを待った。

「黄昏時だから、たそがれもするわ」

 また窓の外を遠く眺めるように、絵里は少し横を向いて軽く目を伏せる。長くはねたまつげが輝いたように見えた。

「言えない話?」

「そういうわけでもないけど」

「じゃあ、ウチには、言えない話?」

 少し強調して、どこか挑発的に聞く。ため息が聞こえ、絵里が希を見上げた。

「バカ、そんなわけないでしょう」

 真剣なその目に、自分の愚かさが打ち抜かれた気がした。

「座れば?」

 視線が希の体を抜けて、寄りかかったいすに向く。希は言われるがまま、それを引き出して絵里と向き合うように座った。

「長くなるかもだから。まあ、本題自体は大したことでもないんだけど──」

 希は自分の喉が鳴る音を聞いた。

「さっき先生に呼ばれてね」

「まさか退学!?」

「違うわよ……。なんでいきなり退学させられなきゃいけないの」

「いや金髪は校則違反だとかなんとかで」

「地毛に文句言われるなら入学できてないわね」

 呆れながらも絵里は正論で答える。希はその先に興味を失ったのか、本題に戻った。

「それで呼び出しの理由は?」

「ああもう、はいはい。生徒会長に立候補しないかって言われたの」

「ほー。すごいやん」

「すごくないわよ、別に」

 あまりおもしろくなさそうな顔を見せる。

「だってふつう、こういうのって元々生徒会だった人がやるものでしょう? 部外者の私を頼るってことは今の生徒会役員は誰もやらないってことじゃない。異常事態よ」

 そう言われて思い出そうとしたが、生徒会の面々の顔も名前も、希は思い出せなかった。そもそも去年いたのかどうかすら分からない。

 でも絢瀬絵里がそこにいる姿は、易々と想像できる。

「絵里ちゃん部活もやってないし学力優秀やし確かにちょうどいい人材かもしれんなあ」

「ちょっと希。私はやらないわよ」

「え、なんで?」

「だから部外者がいきなり会長になったって生徒会がうまく回るわけないでしょ」

 それは正論のようにも聞こえた。だがそれは、他に生徒会経験者がいたら、の話だ。絵里が請われる時点で、そもそも誰もいないのではないかという気がしていた。生徒会長ではないにしても、生徒会をやっていたら内申点がよくなる、という噂は昔から絶えない。それを手放すような子ははじめから生徒会に入らないだろう。

 それに絵里なら、いきなり生徒会長になったってうまくやれると希は思うのだが──。

「じゃあさ、なんで悩んでたの」

「どうやって断るか、考えてたのよ」

 それは多分嘘だと思った。今話を聞いている時点で、絵里は断るつもりはないのではないか。断るならその場で断ったはずだ。そして自分が会長選に出たときのことも考えて、その先のことまで思いを巡らせていたはずだ。絢瀬絵里はそういう人だと希は信じて疑わない。

 だから、悩んでいるのだとしたらそれは、きっと不安だからに違いなかった。断るのだとしたら、原因はそれになるはずだ。もしそうなったら、希はきっと後悔するという気がした。

 しかし彼女が不安を口にすることはないだろう。ならば動くのは希の方だ。

「じゃあウチも立候補しよっかなぁ」

「はぁ?」

 眉根を寄せて、絵里が体を乗り出してきた。

「話聞いてた? 私は出ないの」

「いいやん。エリチーが会長で、ウチが副会長。どう?」

「……はぁ。希、これはジョークじゃないのよ?」

「ウチだって本気だってば。会長候補がいないんじゃあ、他のだってまだ決まってないっしょ。なら誰が立候補してもいいやん」

「そうかもしれないけど……。あなたそんな余裕あるの?」

「ダイジョブだって! エリチーの代わりは無理だけど、ウチにだってエリチーの補佐くらいならできるって」

「いやそういう意味じゃなくて。部活とか勉強とか、そういうのよ。生徒会の仕事がどんなものか分からないけど、最低でもやることは増えるのよ?」

「部活はやってへんし、大丈夫、いける、いけます」

 ちょっと驚きながら絵里は聞く。

「部活やってなかったの? 占い研みたいなのやってるのかと思ってたわ」

「あれはただのボランティア。趣味やん」

「そうだったの。でもその時間減っちゃうかもしれないのよ」

「ええよ。エリチーのためやもん。それにみんなの相談にはいつでも乗れるし」

「……ふーん」

 少し照れくさそうに目を伏せながら、絵里は後れ毛をかきあげる。

「──じゃあ勉強のほうは? 得意だった記憶はないけど?」

「その辺は絢瀬大明神様に……」

「私はスパルタよ?」

「おっ、それって、オッケーってこと?」

「まあ、立候補は自由だし、私がどうこう言えるものじゃないから」

 顔を逸らした絵里に、希は机を越えて抱きついた。

「さっすがエリチー、話が分かる」

「ちょっ、希、やめ」

 がたがたと机の足が暴れる。

 絵里は引きはがそうとしていた手を希のわき腹へと移動させ、もみしだいた。

「な、なにすんの」

「こっちのせりふよ、もう」

 お互いに少し息を切らせ、顔を赤くしている。それがおかしくて、ふたりは少し吹き出した。

「じゃあ、出るからには、当選するわよ」

「もち。他に出る人がいれば、だけど」

「信任投票はあるんだから。形式とはいえ落ちる人だっているかもしれないわね」

 絵里がにやついた目で希を見る。

「ウチが落ちるわけないやん!」

「まあ、すごい自信だことで」

「成績優秀容姿端麗のエリチーとは違うけど、ウチだってわりとみんなの信頼は篤いんよ? これも日々積み重ねた恋愛相談のタマモノってやつぅ?」

「ああ、落としたら呪われそうだもんね」

「ウチはのろいとか専門外ですが」

「あ、そ」

「エリチーのいけず」

 興味がないという風の彼女に、希は唇をとがらせた。

「さっきから気になってたんだけど、そのエリチーってのはなに、流行らないわよ」

「だぁかぁら、あだ名だって。ウチ専用の。さっき決めたん」

「……恥ずかしいから、それ、他の人がいるところでは使わないでよね」

「はいはい。分かってます」

 絵里の頬はすぐに赤く染まる。こんなに照れ屋だったとは知らずにいたことを、もったいなく思った。

 絵里は時計に目をやり、立ち上がった。

「まだ先生残ってるだろうし、早速出るって伝えてきましょ。私の気が変わらないうちにね」

「エリチがちゃんとフォローしてよ、ウチのこと。絶対なんか言われるもん」

「分かってる。希がだめなら私も出ませんって言ってやるわよ」

「おー、かっこいいやん」

「だからあなたもしっかりしてよね」

「心を入れ替えて臨みますか」

 鞄をとり、職員室へと向かう。会話はあまりなかった。覚悟を決めたとはいえ、絵里だって緊張しているのだろう。もしかしたら自分もそうかもしれないと、希は思った。教室での出来事は、少し舞い上がりすぎていた気がする。でもあのとき、絵里のために何かしたいと、心の底から吹き上げてきた感情に、この先後悔をもって振り返ることはないだろうと確信している。

 先生とのやりとりは、絵里のおかげもあってスムーズに終わった。ふたりは申請用紙に名前を書いて渡し、職員室を後にする。

「なんか拍子抜けやったなぁ」

「そう? あんなもんでしょ」

「エリチのかっこいいせりふきけんかったしぃ」

「言わないに越したことないでしょ」

「希がだめなら、私も出ません!」

「次やったら殴るわよ」

 顔をひきつらせて、絵里が希の襟首を後ろからつかんだ。

「ご、ごめんなさい」

 解放され胸をなで下ろす希を足早に追い抜き、絵里は振り返った。

「にしても、希があんなおしとやかな態度とれるとは思ってなかったわ」

「心外やなぁ。ウチだってやるときはやるんよ。それに巫女さんやし」

「そうだったの? へぇ、希がねえ……」

 希の体を上から下まで往復して見る。

「どっからどう見ても巫女さんやってそうな純真さであふれてるやん」

「ま、それはそれとして」

 背を向けて歩き出す。んもう、と小さく抗議の声を上げながら、希は絵里の隣に並んだ。

「これから一応選挙運動とかしなくちゃいけないのね」

 少し遠い目をするように言う。

「だいじょぶだって」

「そうは言ってもね──」

 希は胸を張って、高らかに告げた。

「音ノ木坂のパワースポット希様と呼ばれたウチがついていれば百人力やん!」

「初めて聞いたわよそれ」

「絵里ちゃん以外はみんな言ってるって」

「でもそれって希は大丈夫だけど私は落ちるってことじゃないの」

「ウチとエリチはセットだもん。運命共同体は運勢も共通するもんやん」

「それも初めて聞いた」

「これは今初めて言った」

「ま、そういうことなら仕方ないわね……」

 希の肩に手を置き、笑いかける。

「よろしく、希」

「なに改まって、くすぐったいやん」

「だって今初めて、私たちは──」

 絵里は言葉に詰まったように、そこで一度顔を伏せた。

「エリチ?」

「私たちは、一緒に生徒会を目指す、仲間になったんだから」

 あげた顔に涙はなかった。照れてはにかんだその表情に、希は言葉を失う。絵里の姿がきらきらと輝いていたように見えた。揺れた髪の毛がそうさせたのかもしれない。

「ごめん」

 どうしてそう言ったのか、希には分からなかった。言葉より早く、希は絵里を抱きしめていた。

「ちょっと希、廊下で」

「ごめん、絵里ちゃ、少しだけこうさせて」

 泣いてはいなかったが、泣いてもいいと思った。でも泣いたら、多分ごめんしか言えなくなる気がして、我慢した。希が言いたいことは、そんな言葉ではない。

「分かった。しばらく許してあげる」

 絵里もそっと腕を回し、希を軽く抱きとめる。その背中を優しくさすった。まるで泣いた子をあやすように。

「ありがと。エリチと出会えてウチ、最高に幸せやん」

「大げさな……」

「一緒にがんばろな?」

「ええ。がんばりましょ」

 しばらく無言で抱き合った。誰も通りがからなかったのは、ふたりにとって幸運だった。

「満足した?」

 離れた希に、火照り顔の絵里が聞く。その表情を見た希から照れ隠しに、思わず冗談が飛び出す。

「なにいってんの。ウチのパワーをエリチに分けてただけやん。んもう、エリチってムッツリさんやなぁ」

「二度と私に抱きつかないで」

 冷たい目を向けて、絵里は希をおいて歩きだした。

「ああごめんごめんー。嘘やんか、もう」

 急いで絵里に並んだ希から、ふん、と顔を背ける。

「エリチのおかげで、ウチも頑張れそうだし、ホント感謝してるん」

「そんなおちゃらけた副会長はいりません」

「こんなんエリチの前だからしてるんであって、みんなの前ではしゃんと真面目にするって」

「説得力がないんですけど」

「さっきセンセの前で見せたやん!」

 とりつく島もないまま、廊下を突き進む。昇降口で靴をはきかえたあと、ようやく絵里は希を見た。

「ちょっと、こっち」

「どこ行くん」

「黙ってついてきて」

 袖を引っ張り、外の物陰につれていく。

「じゃあ、誓って」

 希に向き合った絵里は腕を組み、出し抜けに言った。

「……なにを?」

「今後私の前以外では、真面目な態度でいること」

 呆気にとられ、希はぽかんと口を開けた。

「誓うの? どうなの」

「あ、うん。誓う。誓います。エリチの前でしかふざけません」

「希」

「ちゃんと真面目な態度でがんばります」

「よろしい」

 今までのことは夢だったのかというほど、鮮やかに笑顔へと変わり、声も柔らかさを帯びる。きちっと背筋を伸ばしていた希も、肩の力が抜けた。

「それじゃいきましょ」

「えっ、なに今の」

「ほら、もう私たちの誓いを忘れたの?」

「いや今誓ったのウチだけだし、たちじゃなかったし」

 不平を訴えるも、絵里は軽やかにスカートをひるがえした。

「あら、私も誓ったわよ?」

「なんも誓ってないやん!」

「口に出してないだけで、誓ったの」

「ずっこい、それずるやんか」

「希のそういう仕草をみていいのは、私だけって今誓ったばかりじゃない。ほら、真面目モードになりなさい。帰るわよ」

 笑顔を残し、背中を向けて歩き出す。希はふてくされて膨らんだ頬をたたき、大きく息をして、手をのばした。

「ちょいまち」

「まだなんかあるの?」

 振り返った絵里に、希はとびきりいたずらっぽく笑った。

「今後に備えて、ちゃんとウチのパワーをエリチに入れとこと思って」

「まあ、いいけど、どっちでも」

 無愛想な絵里を無視し、希はそっと目を閉じた。

「はい、希パワー”ちゅー”にゅう」

 唇を突き出した。

「やめなさい」

 それを絵里はチョップでいなす。

「……いけず」

「バカやってないで。ほら、行くわよ」

「はーい」

「まったく、ホントにあんたは。先が思いやられるわ」

 頭を振ると、そのポニーテールがさらさらと揺れた。気づけば日はかなり傾き、あたりはずいぶんと暗くなっている。それでもまだ日が当たるところでは、影が長く伸びていた。

「まあ、できる限りでいいから、副会長らしい振る舞いをしてよね」

「分かってるって。生徒総会がお笑い会場になるようなことはしないから」

「いちおう、期待というか、信じるというか、願ってはおくわ……」

「なにに願うん」

「希様以外に」

「ホント、エリチはいけずなんやから」

「はいはい。お願いします希様」

 ぶっきらぼうな物言いに、確かな親愛が感じられた。

「ま、ウチのこれもこれからはツンデレってやつになるんやな」

「みんなの前でツンツンされても困るんだけど」

「んもう、たとえやん。正確に言うなら、おしとやかデレ?」

「なにそれ、変なの」

 困ったような顔をして、笑う。その笑顔が見たくて、今ここにいる。

 そばにいて支えたいと思っただけなのに、もうすでにどちらが支えられているのか分からなくなってしまった。

 でも希は思う。絵里のためにやれることをしたいと。絵里が笑っていられるよう、自分も笑顔でいようと。そしてこのふたりだけの誓いを、大切にしていこうと。

「エリチ」

「なに?」

「いこっか」

「そうね、いきましょ」

 ふたりは並んで歩き出す。これから先も並び立てる相手が彼女であることを願って。

 

 

 
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