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魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第三十九話 椿姫の実力

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2013-01-12 15:09:22 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:38838   閲覧ユーザー数:34460

 アースラの訓練室。

 現在、そこには四人の男女が居る。もっとも男子二人は地に伏しており対峙しているのは二人の女子。

 

 『さて、豚共は寝た事だしこれで貴女とゆっくりと過ごす事が出来るわね椿姫?』

 

 『貴女と過ごすつもりは無いのでとっとと終わらせてもらうわ。暁』

 

 『私の事は『澪』って名前で呼んでほしいのだけど?』

 

 『お断りしておくわ。私、貴女の事好きじゃないから』

 

 『もう♪ツンデレなんだから♪』

 

 『……………………』

 

 滝島椿姫と暁澪である。そして地に伏しているのは西条&吉満。

 俺達は訓練室の様子をアースラのブリッジから観戦していた。

 ここに居るのは俺達長谷川家に聖祥組、亮太、ヴォルケンリッターにリンディさん、エイミィさん、クロノ、そして久しぶりに地球にやってきたユーノである。

 

 「椿姫は大丈夫なんだろうか?」

 

 「そうだね。心配だよ」

 

 クロノとユーノはモニター越しに彼女(つばき)を心配する。さっきからソワソワしてるし。

 

 「少し落ち着きいや。クロノ君、ユーノ君」

 

 「そうだよ二人共。椿姫が負ける訳無いじゃん」

 

 「姉さんの言う通りだよクロノ、ユーノ」

 

 落ち着きのない二人にはやて、アリシア、フェイトが言う。

 

 「確かに魔力は椿姫が圧倒している。だが絶対に無事とは言い切れないのだが…」

 

 「ザフィーラ。オメーもかよ」

 

 狼形態のザフィーラも落ち着きの無い様子でモニターの向こうに映っている椿姫を見ており、ヴィータが呆れた様な表情で口を開く。

 

 「《ねえ勇紀。あの二人と一匹はもしかして…》」

 

 「《お前の思っている通りだ亮太。あの二人と一匹はもう椿姫のニコポで堕ちた(・・・・・・・・・・)》」

 

 そう…アースラに来てすぐの事だ。今日が椿姫と初対面だったユーノ、そして以前俺の知らない間に一度来たらしい時(第三十六話)自己紹介した際のクロノとザフィーラ。この男性二人と雄一匹は

 

 『私は滝島椿姫って言うの。よろしくね』(ニコッ)

 

 この時に見せた笑顔で

 

 「(か、可愛い…)////////」←ユーノ

 

 「(う…この笑顔は…)////////」←クロノ

 

 「(むう…不覚にも見惚れてしまった)////////」←ザフィーラ

 

 もう椿姫の虜になっている。

 

 「(ユーノ、ザフィーラはともかく、クロノはマズいのでは?エイミィさんとくっつかないとカレルとリエラも生まれないし)」

 

 エイミィさんが誰か別の人を好きになれば解決する問題かもしれないが…。

 

 「《そういえば士郎さんも堕ちたんじゃなかったっけ?》」

 

 「《士郎さんに関しては大丈夫だ。ここ最近、やたらと椿姫が客としてきた時に贔屓目にしてたのを美由希さんが不振に思ったらしくて俺に聞いてきたんだよ。んで俺が話した事を美由希さんが桃子さんに通報して桃子さんが士郎さんに徹夜でO☆HA☆NA☆SHIしたらしくてな。その甲斐あってか今はもう椿姫の笑顔でも『ドキッ』とする事は無くなったらしい》」

 

 「《そ、そうなのかい…》」

 

 桃子さんの本気のO☆HA☆NA☆SHIは……それはもう凄いらしい。言葉に出来ない程、そして二度と体験したくないと思うぐらいに。

 ちなみに恭也さんも堕ちかけたらしいが忍さんのO☆SHI☆O☆KIで事無きを得た。アイツのニコポ、思ったより効果有り過ぎだろ。高町家を崩壊させる気か?全く…

 

 「銀髪トリオ涙目の威力だな」(ボソッ)

 

 「???何がですか?」

 

 「ん?何でも無い」

 

 隣に居たユーリには僅かながら聞こえたみたいだ。

 

 「それにしても……椿姫さんも暁さんも規格外の魔力よねえ」

 

 「暁さんは吉満君と同じSS+、椿姫ちゃんに至っては…管理局でも幻のランクとまで言われているMランクですからねえ」

 

 リンディさんと会話するエイミィさん。エイミィさんは苦笑いだ。てか暁に関しては名前で呼んであげないんですね。

 …もうなのは達聖祥組以外の原作キャラ達に嫌われ始めてるのが手に取る様に分かるな。しかし…

 

 「(Mランクなんて存在したのか?)」

 

 俺が疑問に思っていると

 

 「あ…あの、Mランクってそんなに凄いんですか?」

 

 なのはがリンディさんに聞いていた。

 

 「ええ、Mランクって言うのは(Master(マスター))の『M』を取ってMランクと呼ばれているの。その力は最早常人では辿りつけないとまで言われている最高のランクを示すわ。…まさか生きている内にMランク魔導師にお目にかかれるとは思ってもみなかったけど」

 

 Master(マスター)…『極める』『最上』という意味か。つまり『極めし者』『最上級の魔導師』とでもいう意味があるのかな?

 

 「で…でも椿姫ちゃんって普段はここまでの魔力を一切感じなかったんですけど…」

 

 「シャマルさん、アイツが普段自分に掛けてるリミッターはそれ程強力だって事だと思いますよ」

 

 現にこうして椿姫が自分でリミッターを外さなきゃ判らなかったぐらいなんだ。椿姫が転生の際に願った『魔力ランクを最高クラスに』というのがこの結果なんだろう。

 

 「その割にはあの女、意外と冷静ですね。ユウキはどう思います?」

 

 圧倒的な魔力差にも関わらず、暁の未だに余裕を崩さない態度にシュテルが疑問を感じている。

 

 「…あの魔力差をモノともしない切り札でもあるんだろうさ」

 

 多分暁の転生の際に願った願い事かレアスキルなんだろうけど果たして何が出る事やら。

 

 「しかしあの二人ってホント弱いわね」

 

 アリサがバッサリ言うのは西条、吉満の事である。

 

 「模擬戦の開始と同時に椿姫は速攻で沈めていたからな。まさか『デアボリック・エミッション』を使えるとは思わなかった。アレは私と我が主、そして勇紀の三人だけだと思っていたからな」

 

 「「「「「「「「「「はいぃっ!?」」」」」」」」」」

 

 ここにいる魔導師達全員が驚いているが、間違い無くリンスが今言った言葉が原因だな。

 

 「ちょっと待てユウキ!貴様、融合騎が今言った事は本当か!?」

 

 「ああ、撃てるぞ。もっともリンスとユニゾンした時だけだがな。はやてに渡した夜天の書には俺のリンカーコア使ってるって知ってるだろ?だから融合事故も起こさず適正率も結構高いし、ユニゾンすればリンスが使える魔法は全て使用出来る。逆にリンスだって俺の魔法使えるしな。はやてもリンスとユニゾンしたら俺の魔法使える筈だぞ」

 

 「勇紀の言う通りです我が主。勇紀の魔法は威力が高い割に魔力の消費量が意外に少ないですし、誘導弾であるアルテミスは特に重宝するかと」

 

 はやては誘導弾の制御みたいな細かい作業や並列・高速処理は苦手らしいからなあ。アルテミスは一度放ったら使用者が制御しなくても勝手に追撃してくれるし。それにはやて程の魔力量ならアルテミスを30~40発ぐらい一瞬で展開できるだろうし。アポロンだってかなりの威力を発揮するはずだ。

 

 「そうなんやあ。てか勇紀君とリンスはユニゾンした事あんの?」

 

 「運動会前に一回だけな」

 

 どうしても興味があったのでリンスに頼んで一回やってみた。結果はさっき言ったみたいに成功。ユニゾン後の姿は銀髪で赤い瞳になった以外は特に変わらなかったな。

 

 「ふーん。ユウは凄いね。あれ?じゃあ椿姫が使えるのは何で?」

 

 「それはアイツのレアスキル…完成(ジ エンド)の能力だ。椿姫は一度見た魔法や技、体術や技術なんかは全て習得できる。それは直接だろうが映像越しの間接だろうが関係無くただ自分で見ればいい。しかも本来の所有者よりもさらに昇華…この場合はオリジナルの魔法・技よりも高い威力でだ。この模擬戦やる前に、椿姫は今ここにいるメンバーの映像見てたからな」

 

 「それってつまり…」

 

 「フェイトが思ってる通りだ。今のアイツはここにいるメンバーの魔法・技は全て使える」

 

 俺の説明に亮太以外の全員は開いた口が塞がらない様だ。

 もっとも正確には亮太の六式だけ椿姫は未だに使えない。亮太本人が俺達の前で使った事無いからだ。

 あと、亮太の光攻撃はレアスキル扱いなので習得出来ないと思っていたが椿姫の持つメティスには『ルミエール』又は『ポスポロス』がある。習得出来なくても真似事は出来るみたいだ。

 

 「…椿姫が唯一完成(ジ エンド)で習得出来ないのはレアスキルだ。…だけどアイツのメティスである『ジョーカー』を使えば他人のレアスキルですら使う事は可能だがな」

 

 椿姫に教えてもらったからな。『ジョーカー』ならば『習得は出来ないまでも使う事自体は可能だ』と。

 

 「「「「「「「「「「メティス?ジョーカー?」」」」」」」」」」

 

 皆、疑問に思ったのか俺の方を見て聞いてくる。

 

 「メティスっつーのは椿姫だけが持つ魔法でもレアスキルでもない特殊な能力(チカラ)の事だ。その一つである『ジョーカー』ってのは…」

 

 『ジョーカー』

 

 『カミカゼ☆エクスプローラー!』原作の主人公、速瀬慶司が所有する他人のメティスをコピーし、一度だけ使用出来る特殊なメティス。コピーの条件は対象者に触れる事で、コピーの取得は意志に因らず自動的に行われ、ひとつのコピーを得た状態で他のメティスをコピーしたり、同一メティスのコピーを複数ストックしたりすることはできない。また、使用する以外に睡眠などによる一定時間以上の意識喪失によってもコピーしたメティスは失われる。『メティスをコピーする』だけの能力だが、コピーできるメティスの種類に事実上制約はなく、『物質D』によって変質したメティスやヘリオス等のセカンドですらコピーでき、コピーしたメティスが第二段階を内包している場合はコピー後に進化させて発動することも可能な、非常に強力なメティス。椿姫が所有する『ジョーカー』は魔法・技・レアスキル等様々な能力をコピーできるが魔法・技については『完成(ジ エンド)』によって習得できるので実質、レアスキルや魔法以外の力をコピーするためのメティスとなっている。

 

 「…という訳だ。アイツ、模擬戦が始まる前に俺に触れてきたからその時に何かコピーした可能性があるな(触れたというよりいきなり抱き着かれた訳だが)」

 

 さっきから俺、解説してばっかりだな。

 

 「…そういえば滝島は長谷川に抱き着いていたな」

 

 「それに随分椿姫さんの能力についても詳しいのね」

 

 シグナムさんとリンディさんがそう言うや否や俺に鋭い視線がぶつけられる。ここにいるなのは、亮太以外の全員からだ。

 …何か悪い事しましたか俺?

 

 「(皆嫉妬してるね。勇紀が椿姫の事についてやけに詳しい事に。クロノ、ユーノ、ザフィーラでさえ睨んでるしね。女性陣に関しては…やっぱり以前のタキシード姿を見た時の影響で勇紀に好意持ち始めたんだね。リンディさんやエイミィさんでこれならおそらくここにいないプレシアさん、リニスさん、アルフさんもきっと…。高町さんだけが唯一影響無いみたいだけど勇紀のフラグ建築能力は一級品だしいずれは高町さんにも…。それどころか美由希さんや月村家のメイドさん達、メガーヌさんにルーテシアちゃん、更にStsで出て来るメンバーやナンバーズも勇紀が無自覚な内に堕としそうだね。この事を椿姫が知ったら……。勇紀、僕は自分から現状を椿姫に報告しないという事だけは誓っておくよ)」

 

 亮太は何か一人で考え込んでは首を縦に振って『うんうん』と頷いてるが?

 ……それよりもこの視線をどうにかしてもらいたい。

 …っと、そんな事してる間に状況が動いた。どうやら暁が自分の切り札を見せるようだな………。

 

 

 

 ~~椿姫視点~~

 

 私は現在、アースラの訓練室で面倒臭い連中を相手にしている。

 事の発端は今日も勇紀達と翠屋に行くと西条、吉満、暁の勇紀曰く銀髪トリオが居たからだ。

 あんな三人に常に付き纏われてるなのは達には同情するわ。特に暁は女性であるため体育の着替えの時にもチョッカイ出してるみたいだし。

 そんな三人がしつこく迫ってくるので『模擬戦をして私に勝ったら付き合ってあげるわ』といったらすぐにここに来ることになったのよね。まあ勇紀と亮太以外の転生者の実力を見たいというのも多少はあったのだけれどハッキリ言って西条と吉満は論外ね。高魔力に物を言わせての物量戦しか出来ていない。

 …とりあえず西条の『投影』『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』は勇紀と模擬戦した時の映像を見て覚えさせてもらったけど。

 ついでに模擬戦を始める前に他の皆の模擬戦や訓練時の映像を見せて貰い魔法や技はほぼ覚えられた。そして今回の模擬戦開始と同時にまず二人を潰しておいたのだけれどいっその事三人で争わせておいた方が楽で来て良かったんじゃないかしら?今更そんな事言っても後の祭りだし。

 

 「うふふ。そろそろこの模擬戦も終わらせて貴女を私のモノにさせて貰うわ」

 

 っと、少し現状までの経緯を振り返ってたら最後に残った暁が何か言ってるわ。それにしても暁の実力は他の二人よりかは幾分かマシね。私の『デアボリック・エミッション』を上手く回避したみたいだし近・中・遠距離戦闘のどれに関してもそれなりに闘える。少なくとも腕力は今の私より上ね。何度か打ち合ったけど中々重い一撃を放ってくる。

 

 「我が才をご覧なさい!万雷の喝采を聞きなさい!インペリウムの誉れを今ここに!咲き誇る花のごとく……さあ…開きなさい。黄金の劇場よ」

 

 暁が魔力を解放したと同時に訓練室の風景が書き換えられていく。

 

 「これは!!」

 

 書き換えられた風景…それはとある劇場。だが、私は原作知識で知っている。この劇場の事を。

 それと同時に

 

 「…身体が重く感じるわ。面倒な劇場ね」

 

 私の全身から力が抜けていくような感覚に陥る。

 

 「どうかしら?これが私のレアスキル『招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)』よ」

 

 劇場を出現させた暁が、もう勝利を確信したかの様な表情を浮かべている。

 

 『招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)

 

 『Fate/EXTRA』のセイバー(赤)が使用する宝具であり固有結界に似て非なる大魔術。 原作では彼女がローマに建設した劇場を魔力によって再現したものであり、自己の願望を達成させる「絶対皇帝圏」。この宝具を使用している間は、相手の能力を弱体化させて自分に有利な空間を創り出すことができる。

 

 「ふふふ、私の招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)は空間内に閉じ込めた魔導師のステータスをFランクまで下げる効果があるの」

 

 Fランクまで…ねえ。思っている以上に身体に力が入らない訳だわ。

 といっても向こうの切り札は予想通りのものだったけど。バリアジャケットがセイバー(赤)と同じ赤いドレスだから『もしかして…』と思っていたら案の定だった。

 ちなみに私のバリアジャケットは箱庭学園の制服姿だったりする。

 

 「貴女の魔力がいかに強大であろうとこの空間内では満足に本来の力で使えないでしょう?」

 

 確かに魔力は本来の威力を発揮できないわね。魔力は(・・・)

 そう思いながら暁を睨みつけていると彼女は魔力を溜め始めた。

 

 「砲撃魔法…」

 

 私は呟く。

 流石高ランクを誇る魔導師(てんせいしゃ)。あの一撃はかなりの威力があるみたい。Fランクまでステータスを下げられた私がアレの直撃を受ければ一撃で沈むわね。でも…

 

 「墜ちなさいっ!」

 

 放たれる砲撃魔法。でも私はその砲撃を避けようとせず、自分の目の前に空気を圧縮した不可視の壁を作り出す。

 

 「『アイギス』」

 

 ドオオオオンンンンッッッッ!!!!!!!

 

 直後に砲撃魔法が着弾し激しい爆発が起こる。

 

 「直撃しましたわね。Fランクまで落ちた今の貴女では耐え切れない筈」

 

 砂煙に覆われているこちらを見ているのが分かる。でも残念。この程度の威力では私のアイギスを突き破る事は不可能よ。

 

 『アイギス』

 

 『カミカゼ☆エクスプローラー!』原作の姫川風花が使用するメティス。空気を圧縮することで目に見えない強固な壁を作り出し、どんな攻撃からも身を守る。戦車砲すら防ぐといわれる程の高い物理的防御力を持つ上、壁の内側には排他的覚知範囲が展開されており、メティスによる干渉も遮断されることから『絶対防御』の異名を持つ。覚知範囲は周囲3m程度の球状。

但し文字通りの無敵ではなく、『ペネトレイター』のように排他的覚知範囲を持つ能力との衝突時の防御能力は双方のMWI値に依存し、また透明なため、発動していても人の目には見えない反面、空圧の壁が意味をなさない可視光線や電撃などに対しては基本的に無力。しかし、正面から受け止めずにベクトルを変えて受け流したり、高圧縮した空気の楯を制御することで光線を屈折させるなど用法による対処も可能であり、それ以外にも足場にしたり水中での空気確保の傘にしたりと、使い方次第で様々な状況に柔軟に対処し得る、非常に汎用性の高い能力でもある 。

 

 「さて、後は私が優しく介抱をしてあげましょう(ふふふ、これで椿姫も私にデレた姿を見せてくれる筈)」

 

 足音がこちらに近付いて来てるわね。

 私は息を殺しながら、静かに彼女が近付いてくるのを待つ。そして砂煙が晴れ

 

 「なっ!?」

 

 暁が驚いた表情を浮かべたのと同時に

 

 「はあっ!」

 

 ブオンッ!

 

 槍の形状をした私のデバイス『めだか』を水平に薙ぐ。

 

 「チッ!」

 

 舌打ちし、私の一撃を躱して距離を取る暁。

 力が抑えられているせいでいつものキレが無い。…本当に厄介ね、この劇場は。

 

 「驚いたわ。まさかあの砲撃を受けて全くの無傷だなんて。一体どんな手品を使ったのかしら?(魔法を使った訳ではなさそうね。…彼女のレアスキルかしら?)」

 

 「自ら手品のタネを明かす人がいると思う?」

 

 再び槍を構え直し、暁の行動に備える。

 

 「…まあ、良いでしょう。私が優位である事に変わりはないのだから」

 

 今度は自分の周りに魔力弾を形成し始めた。その数は30個。『質で駄目なら量』という事かしら?

 私に向かって一斉に放たれる魔力弾。誘導弾ではないようね。

 私は最小限の動きで魔力弾を避け、当たりそうな弾にはめだかを振るって叩き落す。

 

 「限定された力しか発揮出来ないこの劇場でそこまでやるなんて流石私の椿姫ね♪」

 

 …もう反論する気も失せてきた。私は貴方のモノでも何でもないというのに…。馬鹿には何度言っても無駄みたいね。

 それにこれ以上彼女と模擬戦を続ける気も無いのでさっさと終わらせるとしましょう。

 私は腑罪証明(アリバイトリック)で暁の正面に現れる。

 

 「なっ!?何時の間に!?」

 

 驚愕する暁を無視し、

 

 「唯我独尊(オンリーワンフラワー)

 

 模擬戦を始める前に勇紀に触れ、コピーしておいたレアスキルを発動する。

 

 「これは!?」

 

 暁は既に唯我独尊(オンリーワンフラワー)の範囲内に立っている。慌てて離れようとするが

 

 ガシイッ!

 

 拘束魔法(バインド)で動きを止める。

 

 「くうっ!」

 

 必死にもがいてるがバインドは外れない。

 私はそのまま暁の前でデバイスの先端を彼女に向け、魔力を集め始める。

 

 「っ!?この魔力…そんな!?貴女の魔力は確かにFランクまで下がった筈なのにどうして元に戻っているの!?」

 

 「それは勇紀からコピーしたレアスキル、唯我独尊(オンリーワンフラワー)のおかげね。こうやって展開してる範囲には貴女のレアスキル、招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)による干渉ですら跳ね除けてしまうのだから。私の『パラス・アテナ』でもこんな事は出来ない。ホント、彼のレアスキルは反則物よね」

 

 しかも唯我独尊(オンリーワンフラワー)は敵味方の識別も出来るため混戦、乱戦になっても気にせず使えるだなんて…。私の『パラス・アテナ』より遥かに使い勝手が良いじゃない。

 味方にとっては心強く、敵にとってはこの上なく厄介なスキルよね。

 

 「あのモブのレアスキルですって!?」

 

 ……そういえばこの子、勇紀や亮太は『モブ』、西条と吉満は『豚』と呼び分けているけど呼ばれ方としてはどっちの方がマシなのかしら?

 

 「椿姫!目を覚まして!!あのモブがどうやって貴女にレアスキルを渡したのかは知らないけどそうやって貴女に貸しを作り、後でとんでもない要求をしてくるわ!」

 

 勇紀から借りた訳じゃなく私が彼のレアスキルを勝手にコピーしただけなんだけど…。

 

 「ちなみに貴女が思っている『とんでもない要求』って何かしら?」

 

 「そんなの貴女の身体目当てに決まってるじゃない!!」

 

 ハッキリと言い切った。転生者だから精神年齢が高くても勇紀の様子からして女の子の身体に興味があるとは思えないのだけれど。…少なくとも今の所は。

 ホント、オリ主を名乗る転生者ってどうしてこう性格が残念なのかしら?特に暁は西条、吉満と違いそれなりに実力はあるのだから真面目にしてれば百合ハーレムも可能だったかもしれないのに。とは言っても既になのは以外の聖祥メンバーとシュテル達は勇紀に惚れているけど。

 しかし私の身体目当て…か。

 

 「別に構わないわよ。彼が私の『未来の旦那様』になるなら大歓迎だし//」

 

 「なあっ!?」

 

 驚いてる驚いてる。ついでに頬を染めて本気で惚れている様に演出しておく。実は私結構演技が得意なのよね。

 こちらの状況はおそらく皆見ているでしょうから向こうで今頃勇紀は……。

 後で亮太に事の顛末を確認しておきましょう。自分の目で確認出来ない事が残念、本っ当~~~~~~に残念で仕方ないわ。

 

 「そんな…私の椿姫が既にあのモブの毒牙に……」

 

 ワナワナと震えながら言う暁。

 さて、会話してる内に魔力も充分溜まった事だしこの一撃で暁には眠ってもらうとしましょうか。

 

 「咎人達に、滅びの光を…」

 

 「っ!?その詠唱は!?」

 

 流石転生者。これだけの詠唱でもう気付いたのね。私がこれから放つ魔法に。

 私は既にチャージを終えている収束魔法に詠唱を加え、更に魔力を高めていく。

 

 「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ…」

 

 バインドで縛られていると分かっていながらも暁は必死に逃げようともがく。だけど 

 

 「貫け!閃光!スターライト・ブレイカー(プラス)!」

 

 私は暁にゼロ距離からのスターライト・ブレイカー(プラス)を放つ。

 崩れゆく黄金の劇場。暁の意識が失うと消える劇場なのだがそれよりも前にスターライトブレイカー(プラス)の結界破壊効果により、魔力によって再現されていた劇場は完全に消滅し、元の訓練室に戻る。その風景を見て私は…

 

 「……少しやり過ぎたわね」

 

 私が撃ったスターライト・ブレイカー(プラス)の直撃を浴び、気絶した暁とスターライト・ブレイカー(プラス)の威力に耐え切れず一部の壁が崩れていた訓練室だった………。

 

 

 

 ~~椿姫視点終了~~

 

 「…やっぱり椿姫が勝ったか」

 

 まあ当然の結果だな。あの暁が西条、吉満と違いそこそこ戦えるという事実には若干驚いたが。てっきり自分の力に過信してアッサリ負けるんじゃないかと思ってた。

 それにしても招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)とは…。

 何つーかアレか?銀髪オッドアイでオリ主を自称する転生者ってのは皆世界の風景を書き換える類の能力が好きなのか?

 …もしもこの世界以外に転生させた人がいるなら今度鳴海少将から神様に連絡してもらって統計を取らせてみようかな?『銀髪オッドアイのオリ主が望んだ願い』について。

 さて、魔力が一時的にとはいえFランクにまで落とされ危機的状況にも関わらず勝った椿姫に対し俺は…

 

 「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」

 

 なのは、亮太以外のドス黒いオーラを噴出して殺気を俺に飛ばしていらっしゃる皆様から逃げ切らないと命が危ういと言う危機的状況に陥っている。

 多分きっかけは椿姫の言った

 

 『別に構わないわよ。彼が私の『未来の旦那様』になるなら大歓迎だし//』

 

 このセリフのせいだと推測出来る。その直後に現在の状況になった訳だし。にしても椿姫の奴、頬まで染め本気で惚れてるフリしやがって。

 アイツ、あの演技力なら間違い無く女優になれるぞ。

 それと皆さんも何故俺に殺気を向けるのさ?

 

 「ユウキ、いつ椿姫を手籠めにしたのですか?」

 

 「失礼な事言うなシュテル!!してねーから!!手籠めになんてしてねーから!!」

 

 「だけど椿姫の表情は正しく恋する乙女のモノじゃない!!」

 

 「アリサ、何でお前はあの悪魔の演技を見抜けないんだ?いや、アリサだけじゃなく他の皆もなんだけどさ」

 

 「勇紀、本当の事言ってよ。隠し事なんてしないで」

 

 「フェイトまで俺の事そんなに疑ってんの!?」

 

 「まあ、お前が悪い。大人しく正直に言って裁きを受けろ」

 

 「シグナムさん、俺嘘なんて吐いてないですから!!それとレヴァンテインこっちに向けないで!!」

 

 俺が後ずさりしながら答えると黒いオーラを出してる皆さんもジリジリと距離を詰めて来る。

 

 「おいクロノ!!ここにいる連中を何とかしろ!!執務官だろ!?このままだと一人の少年()が命を散らしそうなんだよ!!」

 

 「いや、僕も執務官として君と椿姫の本当の関係を問い質しておかないとな。まずは君を拘束させてもらう」

 

 「執務官関係無えよ!?てか助けろよ!!」

 

 だがクロノはおろか、ユーノやザフィーラですらシュテル達側についている。

 なのはは『あわわわ』と怯え、亮太は視線を逸らす。…あの二人はアテにならねえ。

 

 「リンディさん!お宅の息子さんを始め、ここで集団暴行が行われようとしてます。何とかして下さい!!」

 

 最後の望みでリンディさんに助けを求める。

 

 「ゴメンなさいね、私も問い詰める側だから♪」

 

 最後の望みも絶たれ絶望する俺は

 

 「敵だー!!コイツ等皆敵だー!!」

 

 叫びながらブリッジを飛び出した。

 

 「「「「「「「「「「逃がすかああああっっっっ!!!!」」」」」」」」」」

 

 追いかけて来るシュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリ、フェイト、はやて、アリシア、アリサ、すずか、シグナムさん、シャマルさん、ヴィータ、ザフィーラ、リンス、リイン、エイミィさん、リンディさん、クロノ、ユーノ。総勢十八人と一匹。

 俺はこの日、TV番組の『逃走中』でハンターから逃げる逃走者の気持ちが痛いほど理解した様な気がした………。

 

 

 

 15分後…。

 ブリッジに戻ってきた俺の前にはなのは、亮太、そして椿姫の三人が居た。

 

 「お帰りなさい。随分と早かったのね」

 

 ニヤけついている椿姫にクリュサオルで斬りかかりたくなる衝動をグッと堪えた俺は偉いと思う。

 

 「お疲れ様勇紀」

 

 亮太が労いの言葉を掛けるが俺としては助けてほしかったよ。

 

 「あ…あの勇紀君。皆はどうしちゃったのかな?」

 

 「…全員叩き伏せた」

 

 なのはの質問に答える。

 あの後、ひたすら追い回された俺は椿姫と入れ違いになったであろう、銀髪トリオが未だに放置されておいた訓練室に逃げ込んだ。その後、訓練室に現れたハンター(シュテル)達。もっとも全員のO☆HA☆NA☆SHIは鋼鉄乙女(アイアンメイデン)で凌ぎ、疲弊しきった瞬間に結界で閉じ込め、唯我独尊(オンリーワンフラワー)とアフロディーテで全員をほぼ無力化した後にバインドで縛り上げ、一か所に集めてから全力のアポロンぶちかました。アリサとすずかは魔導師でも何でもない民間人だがそもそも集団暴行に加担してたのだ。今回ばかりは民間人相手に魔法をぶっ放した俺は悪くない。裁判でも正当防衛が適用されるだろう。ちなみにアポロンに巻き込まれた銀髪トリオに関しては反省も後悔もしていない。

 

 「…O☆HA☆NA☆SHIに耐えたんだね?」

 

 「…亮太よ。俺はふと思った。『いつも逃げる事ばかり考えてるからO☆HA☆NA☆SHIを受けるんだろうな』と。だからいっそ『正面から受け止めて疲れた所を迎撃してやろう』とな。結果、俺は皆を鎮圧する事に成功したんだ」

 

 鋼鉄乙女(アイアンメイデン)万々歳だわ。今後のO☆HA☆NA☆SHI対策として充分に活用させてもらうとしよう。

 

 「耐えたのね、皆のO☆HA☆NA☆SHIに。…チッ」

 

 「おいコラ悪魔(つばき)!!今舌打ちしたよな!?」

 

 「してないわよ。それに字が違くないかしら?」

 

 「いや、間違ってないぞ」

 

 「…まあ、いいわ(その代り面白い事実が発覚したし。ヴォルケンリッターの面々やリンディさん、エイミィさん達がここに居ないって事は既にあの人達までもが……。やはりあの時の『ミタポ』の影響ね。ふふふ、ますます火種が大きくなるのを感じるわ)」

 

 「…おい。今スゲーお前を斬り伏せたくなったんだが?」

 

 「か弱い乙女を斬り伏せようというの?」(ウルウル)

 

 上目づかいで見て来るがコイツにされると何故か殺意が沸いてくる。

 

 「…分かった。斬り伏せるのは止めて焼き殺してやる。焼き加減はお前が決めていいぞ?」

 

 ゴオッ!

 

 俺は結界を張って天火布武(テンマオウ)一応(・・)非殺傷設定で周囲に展開し始める。最近は指パッチンしなくても展開出来る様になった。これも訓練の賜物だな。

 

 「まあ勇紀はお人好しだから適当に謝っとけば許してくれるでしょ(ゴメンなさい)」

 

 「言ってる事と思ってる事が逆ですよねえっ!?」

 

 ゴオオオオッッ!!

 

 更に燃え盛る一応(・・)非殺傷設定の炎。

 

 「ゆ、勇紀君!少し落ち着いてほしいの!!椿姫ちゃんも!!何だか知らないけどちゃんと謝るの!!」

 

 「…そうね。悪ノリが過ぎたわゴメンなさい」

 

 「……………………」

 

 納得は出来ないがなのはの注意によって一応頭を下げ、謝罪してきた椿姫。俺も炎を消す。

 

 「本当に反省してるんだよな?」

 

 「ええ、心の底から(なのはも勇紀に惚れていたら私が注意される事も無かったし、何よりもっと面白い状況になっていた筈!心底悔やまれるわ。反省しなくちゃ)」

 

 何となくだがコイツが反省してる点はどこか違う様に感じる。……やっぱ焼くか?

 

 「…ところで勇紀。月村さんを背負ってるのは何故だい?」

 

 俺が背負ってるすずかを見ながら亮太が尋ねてきた。

 

 「いや、一昨日貰ったゆうひ姉さんのコンサートへ一緒に行く約束してたからな。忍さんとも合流しなきゃいけないし、気絶させた手前、すずかの家に連れて行ってやらないと。制服で行くのもアレだし」

 

 ゆうひ姉さん、俺が観に行かないと確実にガチ泣きするだろうしコンサートそのものを中止しかねん。それこそ忍さんやすずかを始めとする大勢のお客さんに迷惑が掛かる。

 

 「勇紀は?君も制服だけど?」

 

 「既に宝物庫に着替えは入れてあるからすずかの家で部屋借りて着替える予定」

 

 そう言って俺はすずかを背負ったままアースラを後にし、月村邸へと転移して行った。

 その後、目を覚ましてからもしばらくは不機嫌だったすずかもゆうひ姉さんのコンサートが始まると一転して上機嫌になりコンサートが終わった後もしばらく興奮冷めぬ様子だった………。

 ~~おまけ~~

 

 「それにしてもクロノやユーノ、ザフィーラも勇紀を追いかけ回していたのは意外だったのだけど何かあったの?亮太」

 

 「それは間違い無く椿姫のせいだね」

 

 「私の?何で?」

 

 「何でって…気付いて無いのかい?」

 

 「???」

 

 首を傾げる椿姫を見て亮太は

 

 「(まさか椿姫、あの二人と一匹の気持ちに気付いてないのかい?)」

 

 「ねえ。何か思い当たる事でも有るの?」

 

 「…いや、無いね(この表情…全く気付いて無いんだね)」

 

 『ハア~』と軽く溜め息を吐く亮太を見て椿姫は頭の上にずっと疑問符を浮かべていた………。

 


 
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