星「な──」
鈴々「え──」
男の攻撃に無反応のままその場に立ち尽くしている彼女を見て、星と鈴々は援護に回ろうとした。
しかし、目の前に広がる光景は直前の状況をすべて覆すようなものだった。
棒立ちの凪に男の怪力が振るわれ、彼女に直撃したかと思われた。
しかし
凪「…………」
目の前にあるのは、雨に濡れながら未だに立ち尽くしている彼女、そして
彼女の足元で、モノ言わぬ亡骸となっている兀突骨だった。
星と鈴々は目を疑った。
何故?何が起きてどうなった?
あまりの出来事に頭がついていかない。
それにあの死体の傷……通常ではありえないような痕だった。
まるで何か大きな、例えば、あくまでも例えばだが、巨大な猛獣の顎にでも食いちぎられたかのように
その男の体の半分が抉られている。
すると、立ち尽くしていた彼女が突然、一直線にどこかへ向かって走り出した。
星「凪!!」
呼び止めるも、彼女の声が届いているのか届いていないのか。
こちらに一瞥をすることもなく、まっすぐに走っていく。
星「ちぃ!……鈴々!」
押し寄せる白装束を迎え撃ちながら、近くで戦闘している鈴々へ呼びかける。
応答は無かったが聞こえていると判断し、そのまま言葉を続けた。
星「私は凪を追う!ここは任せたぞ!」
そう言い放ち、目の前の敵を切り伏せ凪の走っていった方へ向かう。
突然どこかへ走りだした事に困惑したが、先程から様子がおかしかった凪を放っては置けない。
星が走りだそうとした時、彼女の後方、つまり洛陽の入り口方面から砂塵が上がっているのが見えた。
立ち止まり、目を凝らしその旗を見る。
目に入ったのは風にはためく関の文字。
そしてその後方に劉。
星「──愛紗か!」
一刀「はぁ……はぁ……」
刀を握り、民家に寄りかかるようにしてかろうじて立ち、身構えている。
いつの間にか霞の姿も見失ってしまった。
彼女は無事だろうか。
霞の実力からして、白装束たちに討ち取られたということは考えにくいがやはり心配だ。
身体のあちこちから流れ出る血を、雨が洗い流すように滴り落ちていく。
一刀「……二人とも、この中に入って」
これ以上この子達を守りながら戦うのは難しいだろう。
恋との戦いで負傷した腕も、同じ箇所を切られてしまったのか動かない。
月「一刀さん……!」
詠「あんた……!」
一刀「俺は大丈夫だから。中から出入り口を全部塞いで」
そのまま強引に民家の中へ二人を押し込み、戸を閉める。
深呼吸をし、前を見据える。
もう何十何百と切り伏せてきた白装束たちが、その白い装束を血に染め、地面に倒れている。
しかし尚、無限に湧き出るかのようにどこからともなく群がってくる。
一体こいつらは何なのか。
本当に”生きている”ものなのだろうか。
于吉「おや、もうおしまいですか?」
笑いをこらえるような声で、男が言葉を投げかけてくる。
一刀「……霞はどうした」
于吉「あぁ彼女ですか。
やはり張遼ともなると少々厄介でしてねぇ。
どこからあんな力が湧いてくるのか知りませんが、末恐ろしい武です。
なので少々遠ざけさせてもらいましたよ。
私はあくまでも、貴方の苦しむ表情が見たいのでね」
一刀「……そうかよ」
安心した。
この男に何かされたのかと思ったが、そうじゃないらしい。
単純な白兵戦ならば、霞は必ず生き残るだろう。
なら、俺がやるべきことはひとつだけだ。
于吉「ふむ、まだ目に力が残っているようですね」
一刀「当たり前だ。まだまだこれからだっつーの」
于吉「ふふふ、その虚勢がいつまで続くのか。
貴方の表情が崩れた時を想像すると鳥肌が止まりませんよ」
一刀「……はぁ」
もうこいつの声を聞くのも億劫だ。
気の遠くなるような数の白装束を相手に、既に満身創痍。
この状況を見れば、この先にある結末は明白だった。
もたれ掛かっていた背を離し、囲むように群がってくる白装束を相手に構える。
左腕の傷口が開き、出血も激しい。
右腕一本でこの数と戦うのは厳しいだろう。
それでも最後まで戦うと決めた。
全力で守り抜くと決めた。
目の前にある命を、消えるべきではない光を。
于吉「董卓たちが気になりますか?
安心してくださいよ。
舞台は整っていないのですから、まだ殺しませんよ」
一刀「……まだ、ね」
男の言葉を、小さく呟くように反復する。
一刀「──ふざけんじゃねぇぞクソ野郎が……!」
動かない身体に氣を循環させ、無理やり動かし、白い群れに突っ込んでいく。
前後左右から襲いかかる刃を躱し、いなし、一撃を与えていく。
しかしそれも長くは続かなかった。
本来2本の刀で戦うはずの彼が、片腕のみで戦っているのだから当然だ。
それも恋との戦闘の疲労、愛紗の怪我を治癒した疲労を抱えている。
致命傷や急所への攻撃は辛うじて避けるものの、胸や背中に刃を受け、彼の衣服を赤く染め上げていく。
それでも止まることなく、次々に湧き出てくる白装束を切り伏せていく。
しかし足を切られバランスを崩し、膝をついてしまう。
そこへ
──ゴズンッ
と、後頭部に強い衝撃が走った。
鈍器か、それとも剣の腹で殴られたのか、意識を失いそうな程の衝撃が襲う。
視界がチカチカと黒に近い紫色に覆われ、視界がぐるぐる回る。
一刀「か──ぁ……──ぁあああッ!!」
後方から襲った衝撃のもとを確認することなく、振り向きざまに首を撥ねる。
そして振り向いた瞬間、背中を襲う鋭い痛み。
またしても後ろから斬られたようだ。
しかし先程の頭部への一撃が余程効いてしまっているのか、鋭い痛みはすぐに無くなる。
その隙に自分を切りつけた白装束を切り伏せる。
今にも途切れそうな意識の糸をかき集め、刀を振るう。
もう、あの男の鼻につくような笑い声も、鉄がぶつかり合う音も、人を切る音も、切られる音も、
何も自分の耳には届かない。
自分の鼓動のみが、うるさいくらいに耳へ、頭へ響いてくる。
どくん、どくんと、まるでこの音が消える前に、敵を倒せと言わんばかりに。
自身のタイムリミットを知らせる時計のように、己の心臓の音のみが響いてくる。
まだ意識はある。
まだ身体は動く。
まだ刀は握れる。
多分、あの男は、俺が死ぬ一歩手前でやめるだろう。
そうして俺が動けなくなり、どうしようもなくなったところで彼女たちを殺すのだろう。
俺の目の前で、その首を撥ねるのだろう。
俺が倒れれば、それが全て現実となり襲いかかる。
嫌だ。
絶対に嫌だ。
恋のため?
霞のため?
月のため?
詠のため?
……いや、自分のためだ。
そんな未来を見るのは、俺が嫌なんだ。
たとえ世界が違うとしても。
たとえ俺がいずれ居なくなる世界だとしても。
だってそうだろ?
あんな可愛い女の子達を放ってなんておけないって。
思わず口角が上がる。
そうだ。
なんてことはない。
自分を貫けばいい。
どこまでも、どこまでも。
俺はどこまでも俺を貫く。
それが、俺があの世界で”覇王”である少女に教えられたことだ。
一刀「……まだまだ────行くぞおらあああああああああ!!!!!!」
霞「ちぃッ!こいつら……!」
波のように押し寄せる白装束に応戦しながらも霞は自分が遠ざけられている事に気づいていた。
強行突破しようにも、数が多すぎて物理的に無理だった。
今の状況でも既に白装束の死体が次々と折り重なり、小さな山のようになっている。
死体が進路を塞いでしまう。
到底生者とは思えないしぶとさで自分へ向かってくる白装束達の命を断ち切ることさえも、足場の悪さで困難になりつつある。
それに加え、一刀達と離れてしまっている焦燥感が自分の腕を鈍らせる。
一刀がいれば月達に直接手を出される心配はない。
それくらいに、近くで見ていて彼は強いと思う。
しかし今の彼の状態は最悪と言える。
どうやったのか、どんな方法を使ったのか知らないが、彼は月達の疲労を肩代わりした。
そして恋との戦闘で負傷し、動かすことのできない腕。
霞「くそ……一刀──!!」
不安、焦り、苛つきばかりが大きくなっていく。
霞「どけえええええええええええええええ!!!!!!」
切り伏せても切り伏せても、次から次へと無限に湧き出てくる白装束。
霞が叫び、捨て身覚悟で敵の中心へ突っ込もうとした瞬間、
何かが白装束の集団へと突っ込んで行ったのが見えた。
そして──
霞「な────」
今まさに、自分が突進しようとしていた集団の前衛が
──消えた。
いや、消えたわけではない。
ある者は右半身を。
ある者は上半身を。
ある者は下半身を。
共通していることは、息絶えている白装束全ての半身がなくなっていることだ。
何が起きたのか理解が追いつかない。
まるで自然災害に巻き込まれたかのように、百に近い人間が一瞬にして息絶えた。
何かが過ぎ去っていった方へ目を向けると、一人の人間が走っているのが見えた。
こちらには目もくれず、まるでそれらが”邪魔だったから”そうしたというように。
そしてそれを追うように、少数の人間がこちらへ走ってくる。
旗は確認できないが、それぞれが只者ではない事がわかる。
遠目からでも認識できる、己の身の丈を大きく上回る得物を持っているからだ。
そしてそれらが近づきようやく顔が確認出来るところまで来た時、霞は驚いた。
霞「か、関羽ぅ!?」
それだけではない。
こちらを確認し、ようやく旗を掲げ、その文字を見る。
趙、張、劉の旗が同時に上がった。
走った。
走り続けた。
目的となる”氣”が感じ取れた場所に向かって。
その感じ取った氣。
自分が一番大好きな、優しくて、温かい”氣”が、今にも消えそうになっている。
消える直前の蝋燭の火のように、一瞬だけ増幅し、今はもう、小さく揺れている。
一刻も早く。
一秒でも早く。
貴方のもとへたどり着く。
大粒の雨が降りしきる中、走って、走って、走り続けた。
無我夢中に走り続け、そして。
ようやく、ようやくたどり着いた。
たどり着いた瞬間目に飛び込んできた光景を見て、時間が止まった。
凪を追って来ていた愛紗達も、霞が戦っていた白装束達を蹴散らし、凪に追いついた。
今まで一心不乱に走り続けていた彼女が、一点を見つめて停止している。
何があったのかと皆が目を向ける。
愛紗「ご主人様……!」
星「主……!」
鈴々「お兄ちゃん!」
桃香「……ッ!」
霞「一刀──!」
降りしきる雨の中、一つの家屋を守るようにして扉を背に座り込んでいる彼が目に入る。
一刀「────」
慣れ親しんだ氣を感じ取り、彼が言葉を発するも雨音に消され聞き取れない。
雨に濡れた衣服が真っ赤に染まる程に傷ついた身体を扉に預け、
それでも刀を抜いて、座り込んでいる。
そんな姿に成り果てた彼を見て、桃香達は声を失った。
凪「…………」
彼の身体を滴る雨が赤く染まり、地面を流れていく。
一刀達を取り囲むようにして、集まってくる白装束達。
それを感じ取ったのか、動かない身体を無理に起き上がらせようとする。
愛紗「無理をしないでください!」
愛紗が彼に駆け寄り、座ったまま地面に倒れそうになった身体を支える。
一刀「……大丈、夫……だから」
愛紗「そんな身体で何を仰っているのですか……!」
支えている彼女の肩を押しのけるようにして、自分の身体を立たせようとする。
愛紗「どうしてそこまで──!」
どうしてこんなになってまで、どうしてこんなになっても尚、彼は戦おうとするのか。
普段の優しい彼からは考えられない、何が彼をそこまで突き動かしているのか。
力のない人々を守るために戦うというのならば、自分たちの掲げているものだからわかる。
だが彼が違う。
この戦においての敵であるはずの董卓を救おうとしているのだ。
たとえそれが、董卓への嫉妬で諸侯により引き起こされた戦だとしても、
彼と何の接点もないはずの董卓を、どうしてここまで必死になって救おうとするのかがわからない。
もう、手遅れなのに。
もう、何をしても、董卓への世論は変わらないというのに。
一刀「皆の……前に、立つって……ッ決め、たんだ……
いつ、も……俺は……後ろに居て……」
悔しさを噛み潰すように、彼が歯を食いしばる。
一刀「……ッ情けなくて……」
身体中を切り刻まれ、血を流しながら、刀を握りしめ、
一刀「俺、は……弱い、けど……ッ」
脚に力を入れ立ち上がろうとするも、傷口から血を吹き出し崩れ落ちてしまう。
一刀「ッ……目の前に……
手の……届く場所、に……いる人、を……
……ッ全力で……守る。
そう、決めたんだ……ッ!」
まるで自己暗示のように、自分に立てた誓いを言葉にする。
ちぐはぐな言葉で、それでも歯を食いしばり、刀を構えている。
意識もはっきりしているのか、既に無いのか。
虚ろな瞳で、それでも自分の信念を貫こうと必死になっている。
目の前にある命を救おうと必死になっている。
愛紗「────ッ」
その姿を見て、愛紗はこみ上げてくるものを堪えきれなかった。
自分がどんなに苦しもうと、どんなに傷つこうと、
必死になって手を伸ばす彼の姿、彼の掲げた信念。
まさに自分達が最初に掲げた理想をそのまま形にしたような、
傷ついたその身で尚、守ろうとしている彼の姿を目の当たりにし、
こみ上げてくる涙を堪えきれなかった。
すぐにでも目の前に群がっている白装束を切り刻んでやりたかった。
しかし、体中傷だらけになり、今にも倒れ込んでしまいそうな彼を手放せなかった。
悔しくてたまらない。
こんなにも心が綺麗な人を、今まで生きてきた中で見たことがない。
こんなにも心が真っ直ぐな人を、見たことがない。
その想いを叶えてあげたい。
想いを汲んであげたい。
想いを支えてあげたい。
彼の信念、理想、志、全てが胸の奥深くまで染み込んでくる。
その胸の奥から溢れてくる涙が止まらなかった。
傷ついた彼の身体を支えてあげる事しか出来ない自分が、悔しくてたまらない。
凪はその光景を静かに、只静かに見ていた。
雨に流され、他の者にはわからなかったが、凪には見えた。
守れない悔しさに歯を食いしばっている彼の瞳から零れ落ちる涙を。
もう、立ち上がることすら出来ないほどに傷ついて、
それでも守ろうと必死になって。
それが弱い?情けない?
いつだって一生懸命で、いつだって皆を想って。
そんな優しい貴方だから、私は。
皆は──
座り込み、支えられている彼のもとへ行き、その手を取る。
凪「貴方は弱くなどありません。
情けなくなどありません」
彼の言う事を真っ向から、はっきりと否定する。
凪「貴方は明花を救いました。
星様を救いました。
冥琳様を救いました。
あの大乱の時も、貴方は自身の存在を投げ打ってまで
皆を守ってくださいました。
秋蘭様も、雪蓮様も……
皆、貴方に身も心も救われています」
静かに、彼の歩んできた軌跡を辿る。
何が情けないものか。
何が弱いものか。
貴方は誰よりも優しくて、誰よりも強い。
掲げた志に真っ直ぐで、掲げた信念を曲げない人だ。
彼女たちを取り囲んでいる白装束など眼中に無いというように、
彼の手を両手で包み、片膝を立て
凪「貴方がその身を傷つけたなら、私は守る楯となりましょう。
貴方が怒りを見せたなら、私は穿つ矛となりましょう。
貴方の信念は私の信念です。
貴方の全てを、私は肯定します」
一刀「な、ぎ……」
凪「北郷、一刀様──」
彼をそう呼び、包んだ手に額を当てる。
そして顔を上げ──
凪「貴方は──私の全てです」
彼の目を見つめ、まるで自分の一生を彼に捧げるような誓いを立てた。
その誓いの言葉を最後に、彼の意識は途絶えた。
何故、貴方ばかりが傷つかなければならないのか。
何故、貴方ばかりが苦しまなければならないのか。
何故、貴方ばかりが涙を流さなければならないのか。
先程とは打って変わって、全身の血が沸騰していく。
氣が爆発しそうな程に、身体中を駆け巡っている。
だが暴走はしない。
それを全て操り、手足に集中する。
凪「……一刀様を、お願いします」
愛紗「凪……?」
二人の誓いを間近で見ていた愛紗に、意識を手放した彼の身を預ける。
愛紗も彼をこんな目に合わせた奴らを自分の手で葬り去ってやりたかったが、
凪から発せられる異様な気配、そしてボロボロになった彼を放っておけなかった。
片膝立ちのまま彼の傷ついた身体を抱き寄せ、庇うように偃月刀を構える。
凪「感謝致します」
凪が言葉と共に立ち上がり、ゆっくり振り返る、と、
身体の芯を揺さぶられるかのような振動が響いた。
周囲がその音に驚き、原因を探ろうと辺りに目を走らせる。
その原因はすぐに解った。
一刀と愛紗を背に、こちらを向いている凪の腕に赫く揺らめく氣の”蒼炎”。
その蒼炎を纏っている腕に力を込める。
それだけで、蒼炎がさらに濃くなり、まるで周りの空気全てが震撼しているような衝撃が生まれた。
「諸悪の根源を根絶やしに──!」
誰もがその姿に目を奪われる中、
白装束の一人が凪に向かって突進し、接触しようかという瞬間、
白装束に向けて、腕に纏った蒼炎を氣弾として飛ばすのではなく、
拳を握りこまずに五指を突きたて腕を振り切った。
見ていた者は、目の前で起きた光景をすぐには理解出来なかった。
彼女に向かって突進した白装束の、肩から腹に掛けてまでが──
──無い。
まるで巨大な顎で食いちぎられたかのように、身体の半分がごっそりと抉り取られている。
兀突骨の身に刻まれた傷跡と、全く同じものだった。
白装束は声を上げる間もなく、血を吹き出し、ドチャっと嫌な音を立て崩れ落ちた。
霞や鈴々達がいくら致命傷を与えようとも、まるで何かにとりつかれたように
起き上がり、しつこく向かってきたあの白装束が、一瞬にして沈んだ。
あまりの出来事に、時間が止まったかのように誰も動けず、声を発しない。
白装束でさえ彼女の姿を見て怯み、動けずにいる。
一刀達を守るように、蒼炎を纏い、立ち塞がる獅子を前に誰もが息を呑む。
その静かな、雨の降りしきる音だけが存在する世界に──
『────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
鼓膜を破壊するかの如く、獅子の咆哮が響き渡った。
それと同時に右足を思い切り地面に叩きつけ、脚の獅子王からも蒼炎が揺らめいた。
その雄叫びに呼応するように、降っていた雨が一瞬、暴風雨となって吹き荒れる。
白装束達は、ついに彼女を極限まで怒り狂わせた。
氣を暴走させたものとは訳が違う。
自分の体内で極限まで活性化した氣を腕、脚に凝縮する。
呂布や一刀の身に起きた、全身の氣を無理に活性化させていたあの現象を
凪は己の意思で操り身体の外へ、身体の一部に纏った。
貂蝉が一度、彼女の事を『氣の扱いに関しては達人の域を超えている』と言った。
それは凪自身も知らない、彼女の”本気”になった姿を想定した言葉だったのかもしれない。
一刀が消えた3年間、凪は血反吐を吐いて己を鍛えた。
愛する人を守る為。
愛する人を失わぬ為。
もう二度と、離れることのないように。
皆でずっと、笑顔で過ごせるように。
一刀の願いは凪の願いであり、一刀の信念は凪の信念。
『守る』というその想いは、彼女を一騎当千の猛者にまで押し上げた。
そして今、彼女は認識した。
この目の前にいる”モノ”は、彼にとって本当の”敵”であるという事を。
自分が守るべき人に、仇を成す存在だと。
殺意を剥き出しにした双眼で白装束を捉え、誰ひとりとして生かしては返さんとばかりに殺気が膨れ上がっていく。
蒼炎を纏いし
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