第1話~紅い傷跡~
剣と剣とがぶつかり合う音と、猛獣の怒りとも悲しみとも言い難い咆哮が支配する戦場を、イサクは疾走していた。
「くそっ。本当に何なんだこいつら」
目まぐるしく変わる風景の中で、視界に入る敵を片っ端から片手剣「インディクーム」で切り裂いていく。 その刀身はもうすでに獣の返り血で、嫌な緑色に染まっていた。
何体斬ったかわからない。 だが、視界を埋め尽くしていた獣の群れはやっとのことで小さくなってきていた。
一息ついでに辺りを見回す。
「大丈夫か!! マーシャ!」
イサクの藍色の瞳が流麗に揺れる金髪をとらえた。
マーシャはキツネの様な顔をした2本足で立つ獣と闘っていた。
彼女は敵の袈裟斬りをかわし、自慢のスピードで敵の懐に入り込むと足を素早く斬りつけた。ひるんだ相手にそのまま目にもとまらぬ速さで突きを3発放つ。
「ハアッ!!!」
最後は体を大きく回し、横一文字に渾身の一閃をかました。
獣が断末魔の叫びをあげながら倒れていく。 だが、それを見届ける彼女の眼には勝者の色はうかがえなかった。
「全然大丈夫じゃないわ」
マーシャはイサクの方へ歩きながら、眉間にしわを寄せて不満をぶつけるように言った。
「戦闘本能しかないように見えるけど、死の間際には死にたくないっていう気持ちが痛いほど伝わってくる」
「人間みたいに…な」
彼女が肯定の代わりに、サーベルの細長い刀身についた血を無言でピッと払った。
イサクはそこで話を切り上げ、顔を東方へ向けた。 もう一人のパーティーメンバーの身を案じたためだ。
コートから瞳、長い髪まで、全身を黒に染めた、親友でありライバルでもあるレイヴンは、黒い刀身が特徴の二本の刀を手に、悠然と立っているように見えた。
驚いたことにその刀身はまったく汚れておらず、口から流れる一筋の赤い血以外に、目立った外傷はなかった。
だが、ふと違和感を抱いた。
レイヴンは臨戦の体制さえとらず、そこから一歩も動こうとしないのだ。
いつもならイサクと競うように最前線を猛然と突っ走るのに、だ。 表情をうかがおうとしても髪に遮られてよく見えない。
―と、その時だった。
一体の獣が大太刀を構えレイヴンに襲い掛かって来たのだ。 咆哮と共に黒々とした両腕が降り下ろされる。
「レイヴン!!」
イサクがそう叫ぶのと、大太刀が弾き飛ばされるのとがほぼ同時だった。 レイヴンの刀が何の前触れもなく、鋭く振り上げられたのだ。 彼はそのまま音もなく猛獣の体を真っ二つに切り裂いた。
急所を的確に切り裂いたためであろうか、獣は何を理解するより先に絶命したようだった。
彼の剣術の腕前は都市の内部でも一、二を争うほどのもので、イサクも言葉には出さないながらも認めていた。
しかし、今日のそれは、明らかにいつものものではなかった。
二本の刀を使い、冷静に相手の弱点を連続で斬りつけるのが彼のスタイルなのだ。 それが、今のレイヴンの太刀は、相手を一閃で斬り捨てること以外考えていないようであった。
何でお前まで変になっちまってんだよ。 レイヴン―
イサクの問いに答えるともなく、レイヴンは迫りくる獣だけを一撃で仕留めていく。 その動きは今にも倒れそうなほどおぼつかなかったが、相対的に太刀筋は閃光のごとき速さで敵を切り裂いた。
その時、ゾクリ とイサクの背中を悪寒が駆け抜けた。 その信じられない思いを振り払うために頭を強く振る。
俺は今、あいつに……?
どんなにその考えを否定しても、心の底に一瞬の内に刻み込また感覚は消えてなくなることはかった。
無意識であろうと、一瞬であろうと、イサクは目の前の狂気に満ちた人外の生物に対して覚えたものよりも強く、レイヴンを恐怖したのだ。
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こんにちは QPです。
二回目の投稿ですが、これからは基本的に金・土・日のいずれかの日に投稿していきたいと思っています。
今回は早速の戦闘シーンですが、経験不足もあるため足りないところは皆さんの想像力にお任せします。
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