モモとのデートから数日後の出来事である。
「風祭ぃぃぃ!! お前にお願いががががが!!」
「うおわ!?」
朝、何事もなく教室に入ると突然佐賀が叫びながらこちらに向かって突進してきた。思わず回し蹴りで迎撃してしまった俺は何にも悪くない。
「で? こんな朝っぱらから何のようだ佐賀」
「相変わらず名前を間違えられてることや何の躊躇も無しに回し蹴りを放たれたことにいくつか言いたいことはあるが今はそんなことどうでもいい! 風祭! お前に頼みたいことがあるんだ!」
「……頼みたいこと?」
本当に唐突だな。
しかし、こいつには以前『Default Player』探しのときにパソコン関係で力になってもらっている。いつまでも借りを作っとくのもあれだし、ここら辺で清算しておくのもいいだろう。
「まぁ内容にもよるが」
「そうか! じゃあとりあえず倒れた俺の背中を踏んだままの足を退かしてくれ!」
「お願いって言うのはそれでオーケーか?」
「踏んだままでお願いします!」
自分でやっといてなんだが、変な趣味に目覚められても困るので足を退ける。
「んで? お願いってのは?」
「あぁ! 風祭! 俺を
「……はぁ?」
ウン十年前の映画タイトルのような佐賀の言葉の内容に、俺は疑問符を浮かばせざるを得なかった。
咲-Saki-《風神録》
日常編・南三局 『バカと雀荘とメイドさん・前編』
次の週末、俺と佐賀は電車に揺られながら少し離れたとある町へと向かっていた。
何でも佐賀曰く――。
「可愛いメイドさんが一緒に麻雀を打ってくれるらしいんだよ!」
――とのこと。
そのメイドさんを一目みたい。だが一人で雀荘に行くのも忍びない(佐賀は麻雀初心者らしい)。そこで麻雀部員である俺に白羽の矢が立ったということだ。全く、そんな情報何処から仕入れてくるんだか。
本当だったら今日はまたモモと遊びに行くつもりだったが、こいつとの予定を入れるために断念せざるを得なかった。というか、わざわざモモから誘ってくれたというのにこちらから断るハメになってしまった。
……とりあえずもう一発殴っても許されるんじゃないだろうか。
「いやー! 本当に楽しみだな、メイドさん! 何でも一人凄い巨乳ちゃんがいるらしいぞ! 巨乳ちゃん!」
「えい!」
「うぼほあ!? 可愛らしい掛け声と共に放たれた抉るようなコークスクリュー!?」
ホント、後悔だよ。
†
「……ようやく着いたか」
佐賀が言う件の雀荘は、最寄り駅から徒歩三十分の位置にあった。
「『麻雀 roof-top』か」
雰囲気としてはそこら辺にある小さな喫茶店と同じだった。ふむ、なかなか良さそうなところだな。気軽に来れる位置に無いから通うこともないだろうが。
「ここに巨乳メイドさんが……!!」
もう本当にこいつはどうしたらいいのだろうか。寧ろ生き恥であるこいつをこのままこの雀荘の中に連れて行ってしまっていいのだろうか。ただの迷惑にしかならないような気がする。
「そういえば基本的過ぎて聞くのを忘れていたのだが、お前って麻雀のルールとか分かるのか?」
いくら目的が(不本意ながら)メイドさんとはいえ、麻雀が打てませんとなっては話にならない。
「応ともさ! 今日メイドさんたちと麻雀を打つために一通りのルール、役、マナーその他諸々は完璧だ!」
「そ、そうか」
麻雀って結構覚えることが多いはずなのだが、それのほとんどを覚えてきたというのかお前は。何というか、もう少しその努力のベクトルを別の方向へ向けることは出来ないのだろうか無理ですよね分かってます。
「んじゃま、行きますか」
鼻息荒い佐賀に若干引きつつ、俺は雀荘の扉を開けた。
「いらっしゃーい」
チリリンとドアベルの音と共に中に入ると、出迎えてくれたのはメガネをかけた……メイドさんだった。
「本当だったのか……」
「天パメガネメイド……それもまた良し!」
とりあえず後ろのバカは放っておいて、と。
「すみません、一見な上にこいつ初心者なんですけど、大丈夫ですかね?」
「そうですか? まあ、勝つのは厳しいかもしれんが、別に大歓迎です」
「だそうだ。よかったな」
「巨乳……! 巨乳のメイドさんは何処に……!」
来たばっかりでアレだが、もう帰りたい。
ともあれ、雀荘に来たからには麻雀を打たなければならない。何処か空いている卓は無いだろうかと見渡す。しかし空いている卓は数あれど、丁度良く二人空いている卓は無かった。
「おーい、咲―! 和―! お客さんじゃー!
どうしたもんかと考えていると、メガネメイドさん(仮)が店内奥にそう呼びかける。すると店の奥から二人のメイドさんが姿を現した。
「メイドさん来「黙れ」おごふ!?」
興奮して叫ぼうとするバカを先制して黙らせておく。
さて、二人の少女は、なるほど噂になるぐらいの美少女だった。片や長い桃色の髪の少女。その特徴は何と言ってもその大きく衣服を押し上げる胸元の膨らみだろう。小柄な体型にしてはかなり大きいその膨らみは、その目鼻立ちと合わせて確かに話題性は十分だった。もう片方の黒髪の少女は、桃色の髪の少女と並べてしまうとやや見劣りしてしまいそうだが、純朴そうな印象を受けるやはり美少女だった。
「わ、同い年ぐらいの男の子だ……」
「珍しいですね」
どうやらここの雀荘には学生があまり来ないらしく、二人は俺たちを見てそんな反応をしていた。
「何でも素人さんらしいんじゃ。練習にはならんじゃろうが、まぁ軽ーく打ってくれ」
天パメイドさん(恐らく立場的に二人より上)の言葉に、二人は素直に頷く。
「それで、お客さんはどれくらい打てるんじゃ?」
……今更だが、これは一体何訛りっていうんだろうか。東北?
そんなことを考えながら、そうですねと後頭部を掻く。
「まぁそこそこ打てるとは思いますよ。これでも麻雀部の部員やってたりするんで」
やや特殊な三角関係にはなっているが、まがいなりにも部長と競り合ってるんだ。一般人よりは強い……と信じたい。未だにゆみ姉に勝てない現状ではそれすらも強く言い切れないところが悲しいところである。
「……へえ」
「麻雀部員、ですか」
ん? 何だ? 急にメイドさんたちの雰囲気が変わったような気がする。
「まぁ、今回はこいつに合わせてある程度力抜いて打つんで、よろしくお願いします」
というわけで、佐賀+(メイドさん×2)との対局である。
《流局》
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遅ればせながらあけましておめでとうございます。