No.528922 いきなりパチュンした俺は傷だらけの獅子に転生したたかBさん 2013-01-07 10:17:10 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:4687 閲覧ユーザー数:4278 |
第九十六話 『嘘』の『夢』見る『未来』
アサキム視点。
「…助けてくれてありがとうございます。アサキムさん」
「本当に助かりました」
茶髪の少年と銀髪の少女はアサキムに頭を下げて僕に頭を下げてきた。
「君を守っていたのはそこの二人だ。僕は目の前の奴らを狩っていただけだ」
言葉通り。
僕は『偽りの黒羊』を追う為に彼女の放った獣をシュロウガで狩っていただけだ。
シュロウガでいくら狩っても得られる情報は僅か。
獣から得られたのはこの獣がこの世界の機雷のように僕がある程度近づいたら亜空間にしまっていた獣が飛び出る仕掛けらしい。
だが、それは僕だけではなくある程度魔力を持った物が近づいても解放されるので目の前の少年のように襲い掛かる。
「でも本当にトーマだったんだ。…あんな格好していたから別人かと思っちゃった」
「私だってヴィヴィオに忘れられちゃったと思ったよ」
「でも、この世界は本当に過去なんでしょうか?はっ!」
(未来の人が過去の人物に出会ったらまずいんじゃ…)
「どうしたアインハルト?」
どうやら彼女達は彼女達で話があるようだ。一方で彼女達の相棒はというと…。
ウサギのストラップのようなデバイスのクリスはちっこい猫型デバイスのティオの行動を懸命に止めようとしていた。
そのティオが先程から噛んでいる一冊の本。
それは拍子に銀の十字架をあしらった夜天の書にも似たデバイス。
トーマとリリィの相棒『銀十字』。
[にゃ~♪]
[噛むな猫公」
「銀十字?!さっき戦った時に人格機関を壊しちゃった?!」
ただ先程の戦闘でのショックの所為でか、元の人格より少しばかり過激になっていた。
[………]懸命にティオを止めようとしている。
[にゃ~♪]
[…ひき肉にするぞ]
「銀十字駄目だよ!」
[………]ペコペコと銀十字に謝りながらティオを引き離そうとしている。
彼女達も、彼女のデバイス達も何やら騒がしくしている間に…。
「どこに行くんですか?アサキムさん」
馬鹿な!この僕を捕まえるだと!?
完全に気配を絶っていたはずなのに!
「いや、僕はあの獣に用があるんだ」
金髪少女のヴィヴィオが僕のマントを掴み、僕について行くと言い出してきた。
「だったら私もついていきます」
「来るな。邪魔だ」
「ぴっ」
彼女についてこられても邪魔なだけだし…。
僕の言葉を聞いて涙目になる彼女だが知ったことではない。
それに今まで得た情報はすべてシュロウガで直接狩って得た情報だ。つまり僕自身であの獣を倒さないと得られない。彼女達に倒されると情報が得られない。
「わ、私は強いですよ!あんな怖い生き物なんか楽勝です!だから邪魔にはなりません!」
「そういう問題じゃない。それになんで僕についてくるんだ」
「アサキムさんだって何であの怪獣を相手に戦っているんですか!」
「僕は僕の為にあの獣を狩っているんだ。…シュロウガ」
ドオンッ!
僕はシュロウガを展開して彼女達から離れる。これ以上付きまとわられても困るだけだ。
「あ、待ってください!アサキムさん!クリス!」
[………]びっ。ヴィヴィオの肩に乗ってバリアジャケットを展開する。
「ヴィヴィオさん?!ティオ、銀十字さんを噛んでないで行きますよ!」
「ヴィヴィオ!アインハルト!行くよリリィ!」
「え?!う、うん!銀十字!」
[いい度胸だ猫。その毛皮を三味線に…]
「駄目だよ!銀十字!」
「ティオも銀十字さんをいつまでも噛んでないで行きますよ!」
[にゃー]
ヴィヴィオに続いてアインハルト。トーマ、リリィもアサキムを追いかける為に空へと舞い上がった。
リニス視点。
とある海上では幾つもの光がはじけていた。
その中で黄金の光と黄土色の光が対峙していた。
「っ。…フェイト」
『知りたがりの山羊』のアサキムの目から引き離すためにU―Dからこの獣。『傷だらけの獅子』の記憶にあった獣のデータを元にして作り出した次元獣を借りて誤魔化せればいいと思っていたら…。
「変な反応があったから、…リニス。こんなところで何をしているの。こっちに向かおうとしていたら変な怪物が襲ってくる。その中心にいるなんて…」
「『知りたがりの山羊』を欺くために放ったのにあなた達が引っ掛かるなんて…」
私は額に手を当ててため息をつく。一応アサキムの足止め用に作った怪物だったのにまさかフェイト達が来るなんて…。
あの獣たちも戦闘力を高めた分、あまり制御も効かない。一度戦闘になれば敵対戦力がその場からいなくなるまで戦い続ける。
「答えてリニス!」
「さっき言った通りですよ。私は『知りたがりの山羊』の目を欺くためにあなた達の戦っている獣を引き連れてこの辺りの空域をうろついていたんですが…」
フェイト達に先に感知されて向こう側から仕掛けてくるなんて…。
「どうして…、そんなことを?」
「…システムU―D。あの子を助けたいのですよ。あの子は何処かあなたに似ていますから。誰かに頼りたいのに甘えたいのに、それを我慢しているように見えてついつい甘やかしてしまうんです」
ダメダメですね。と、私は頭をポリポリと掻く。
フェイトはその様子を見て悲しそうな顔をしている。
「…リニス」
「…フェイト。出来ればあなたの仲間をこの空域から離れてもらえないでしょうか」
「え?」
「あの子から借りた獣もここにいるので最後。…私は私自身を囮にして『知りたがりの山羊』を出来る限りおびき寄せます」
これ以上の戦闘は無意味。いや、お互いの戦力を削りあってアサキムが喜ぶだけだ。
「駄目だよリニス!そんなの危なすぎるよ!そんなことしないで私達と協力してよ!」
泣きそうな顔になりながらも私に詰め寄ろうとする。
だけどこのままじゃ、お互いの戦力の削りあいになるだけだ。
「…ありがとう。フェイト。貴方は優しいままなんですね。…プレシアは元気ですか?」
「え?う、うん」
フェイトのこの様子を見ると、
プレシアがフェイトとアルフで仲良く過ごせている映像。
まだぎこちないなりにも彼女達は過ごせていた。
そのすぐ近くにいた『傷だらけの獅子』。
彼には感謝しなければいけないですね…。
「そう。…ですか。これで思い残すことはないですね」
ずっとこの子の傍にいたアルフ。
フェイトのすぐ傍で笑っていたアリシア。
これからは傍にいるだろうプレシア。
「…リニス?」
「フェイト。貴女は私をどうしたいですか?」
「…え」
「私は逃げます。ディアーチェとシュテル。レヴィがシステムU―Dを救ってくれる手段を見つけ出すまで…」
ディアーチェも今頃あの二人を治療し終えた後だろう。
あとはこの壊れかけた私の体が持つまで逃げればいいだけだ。
今の私はディアーチェの使い魔に近い存在だ。
だけど、私のほうから彼女からの魔力の供給を断ち切っている。 U―Dを救うには全力で立ち向かわないといけない。私に魔力の供給をしていれば勝てる物も勝てなくなってしまう。
もう私に残された時間はあまりにも少ない。
「…リニス。私は。私はリニスと一緒に暮らしたい!母さんとアルフ!アリシアお姉ちゃん!それに…タカシ!それだけじゃない!なのはやアリサッ、すずか達!クロノやリンディさんエイミィ!皆と一緒にいたいよ!」
フェイトは涙を流しながら私に叫んでくる。
あなたは感じ取っているのですね。私の消滅に…。
プレシアという最大の気がかりもなくなった。
「…フェイト」
使い魔という制約もなくなった。今の私ならこの残された時間をフェイトの為に使える。
…だけど。
「フェイト。私は…。私も」
あなた達と一緒に…。
―それは叶わない夢だよ―
ドンッ
「え?」
「リニス!!」
フェイト。なんでそんなに驚いた顔を…。
「『偽りの黒羊』の使い魔。所詮、君の存在は『嘘』でしかない」
そんなどうして『知りたがりの山羊』の声が私の背中から聞こえる?
彼対策に設置した次元獣の群れからはそんな情報は来ていないのに…。
………次元獣は、未確認の何者かと戦ってい、る?
「『時の操手』の連れられてやってきた者達が僕の道を作ってくれた。皮肉だな『嘘』に生まれ、『未来』に夢を壊される。そして…」
[カートリッジフルロード!フルドライブ!!]
ガシュン!ガシュン!ガシュン!ガシュン!ガシュン!
「リニスから離れろぉおおおおおおおおおおおお!!」
幾つもの薬莢をバルディッシュから吐き出させながらフェイトがこちらの方に向かってくる。
黄金の鎌を雷の大剣に変えて突撃。雷光のごときスピードでアサキムの背中に移動し、その大剣を振り降ろす。だが…。
「忘れたのか?僕は『知りたがりの山羊』だ」
転移魔法には多少なりにも時間がかかる。短距離転移にも瞬間移動をするにも数瞬の間を開ける。それはアサキムも同様だ。だが、『予め知っている』としたら?
フェイトが後ろから斬りかかる。それをスフィアの力を使って知っていたとしたら?
雷の大剣が振り降ろされる。
シュロウガはフェイトの方を見ない状態でリニスを貫いている剣を振りほどくかのように自分の後ろに向ける。
そして、アサキムは短距離転移する。
そこに残されたのは
[?!マイティーチャー!]
(リニス?!止まれ!止まれぇえええええええ!!)
―君は教え子に殺されるー
リニスの眼前に雷の大剣が振り降ろされる。
フェイトはバルディッシュを
全力中の全力。それは最少の抑止力でしかない。フェイトがそれに気が付いた時には…。
「止まれェええええええええええええええええええええええ!!!」
―…これでいい―
その剣は無情にも振り降ろされていた。
Tweet |
|
|
9
|
2
|
追加するフォルダを選択
第九十六話 『嘘』の『夢』見る『未来』