「何じゃこりゃあっ!?」
冬の寒い朝、俺は布団から飛び起きて往年のドラマの主人公ばりに叫んでしまった。自分の身体に異変が起きていたからだ。
「お、女になってる!?」
その異変とは、性別が男女入れ替わっていた事だ。
筋骨隆々とまでは言わないがそれなりに運動して引き締めていた身体が、今では見る影もなく肉付きが良くなっている。おっぱいも巨乳じゃないがあるし、腰は細くなっている。肌の質感もどことなく綺麗になっている気がする。少なくとも結構目立っていた腕毛が今では産毛以下だ。
「何でこんな事になったんだ」
少なくともここ数日、変な事をした記憶は無い。珍しい物を食べたわけでも薬を飲んだわけでも罰が当たるような事をしたわけでもない。本当に唐突に女になったのだ。
「一体どうすれば……」
俺は考え込もうとして腕を組――もうとして、腕に当たる感触に驚いて思わず腕を上げてしまった。自分の胸元から感じる柔らかな感触。自分のおっぱいだ。
「や、柔らかい」
何よりも先にそんな感想が口から出てしまった。今までの人生でスキンシップなんて俺が物心つく前に親がしていただろうというくらいで、自分の記憶の中にはない。ましてや女の子に触るなんてこれから先もあるかどうか分からない。
「……自分の身体、なんだよな」
思わず唾を飲み込む。自分の身体を見下ろすと胸元が盛り上がり、その先端は更に突出している。下手なイメージビデオやAVよりもいやらしさを覚えるのは何故だ。
「ちょっくらこの目で確認を、と」
俺は誰に対してかそんな言い訳を口にしておもむろにTシャツを脱ぎ――
「――という夢を見たんだが」
「病院行ったらどう?」
俺は教室の机を挟んで目の前にいる友人から悪態をつかれた。
「何で朝から君の夢、それも女になったとかいう古くさい漫画みたいな夢を聞かされなきゃいけないのさ。変に想像してしまったおかげで気分は絶不調なんだけど」
「起った?」
「今すぐ君のを磨り潰すよ」
俺のナニが縮み上がった。そっちの想像の方がよほど恐ろしい。
「たださ、この夢での『自分』、俺じゃないんだよな」
「はい? 君が見た夢なら君の事じゃないの」
眉間にしわを寄せて俺を睨んでくる。整った顔をしてるが、怒った顔は結構怖い。
「これがさ、『お前』なんだへぶっ!?」
話している最中に脳天から衝撃が全身に響き渡った。垂直にチョップを食らったからだ。
「何するんだよ!?」
「き、ききき君が気持ち悪い事言うからだろ!?」
友人が今までに見た事ない、困り顔と怒り顔の中間ぐらいの表情で睨みつけてきた。
「俺はただありのままの事実を言っただけだ!」
「それがよくないって言うんだ! この変態! ホモ!」
「俺は普通に女が好きだ!」
まったく、何でこんなに罵られなきゃいけないんだ。いくら何でも理不尽すぎるだろ。
「はあ」
その日の夕方。ボクは自分の部屋に入ってベッドに座り込むと同時に軽くため息をついた。
「まったく、変な事を言うんだから」
独り言をつぶやきながら、ボクはブレザーを脱いでネクタイを外し、ワイシャツに手をかける。そこで手が止まった。
「……気づいてるわけじゃないけど、何となく察してるのかな」
ゆっくりと手を動かし、一つ一つボタンを外していく。その下から胸にサラシを巻いた細身のボクの体があらわになる。
「結構、苦しくなってきた……」
留め金を外してサラシをほどいていく。潰されていた乳房が解放されて揺れた。
「ボクが女だって事、卒業までには何とかごまかしきらないと」
あと数ヶ月。ここまで来たんだから、何としても秘密がバレないようにしたい。そして、卒業したら――
「……よし、頑張ろう」
ボクは意気込んだ後にブラジャーをつけて着替え、いつものようにウィッグを手にして鏡の前に立った。
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