~雪蓮視点~
今まで私は何度も勘にたよって、物事をきめてきた。私の勘は母様ゆずりだし、
実際ほとんどがあたっている。
今回のことだって、絶対に私はあっていると思う。
呂白乱舞、蜀を救ったという知らざる英雄。私は彼が我々の仲間になりうる存在
だとそう思っている。
しかし、やはり冥琳は様子を見ようといった。彼女はいつも用心なんだ。
最初は私だっていつものように、
わがままを通すつもりだったけど、寝台の上であんな弱り切った顔でいわれたら、
なにもいえないじゃない・・冥琳。
三国がやっと統一されてこれからいっぱい楽しもうってそう思った矢先のことだった。
冥琳は、私の親友は、血をはいて倒れた。
最初、彼女は疲れから来ているもので
やすめば治ると笑いながら言っていたけど、私はわかっていた。
昔からずっと一緒にいたからこそ私にはわかってしまった。
もう、残された時間はないのだと。
それでも、私はだれにも言わなかった。彼女の誇りにかけて。
事実二度目に倒れるまでは私以外彼女の病気のことを何も知らなかったと思う。
三国が魏にあつまったあの日も彼女は平然を装っていた。きっと、皆が幸せを感じているあの時期に皆に心配をかけたくなかったのであろう。
でも、冥琳。私はしっていたよ。
あなたが三国の将たちをどこか遠くを見るような目で見ていたことを。
そして何よりも、私のことを暖かく見守ってくれていたことを・・・
もう、あなたとすごす時間が少なくなっていることを。
私は明命が蜀より帰ってきたという知らせを受け、王座の間へ、冥琳を支えながら歩いていく。明命だけであるならば、その知らせを冥琳の部屋できいていたであろう。
けれど、今回は違った。
いつも命令を一番にするあの明命が冥琳からの指示を無視して呂白を呉に招いたのだ。
私も冥琳もなにかあったと思い明命に先に事情を聞き、すぐに王座の間へと
むかった。
王座の間に入るとそこには仮面の男と、そして呉の将たちが集まっていた。
「貴方が呂乱舞?」
王座についた私は、まず、そのように仮面の男に問いかける。
「はい、お忙しい中、謁見の場を頂き感謝します、孫伯符殿」
仮面の男はうやうやしくそう答える。
「・・・ふぅーーん、・・・貴方はなぜ呉に来たの?」
「それは孫策殿と周瑜殿、お二人だけに話したいことがありまして」
「・・・・そう」
明命から事前にこの男は医療に心得があると聞いている。
確かに冥琳の病気のことはなるべく外に漏れないようにしているけど、
それを気遣って
二人だけなのかしら?
いや、しかしそのことは彼は知らないはず。つまりほかに
何かを話さなければいけないことがある、そういうことね。
「わかったわ・・・
では、呂白と冥琳以外はこの部屋を去りなさい」
「ねっ、姉さま!こんな得体も知れない
男など危険です!」
「大丈夫よ、蓮華」
「ですがっ!こやつはこの場で、
顔の仮面をはずさないではありませんか!」
「それは火傷をおっているからと明命から
きいていたはずだけど?」
「それでもっ!」
「蓮華!これは王の命令よ!聞きなさい!」
そんな言葉にさすがの蓮華もあきらめたのだろう。
しぶしぶと彼女は王座の間から出て行った。
そしてそれを皮切りに、次々と将たちはその場を後にした。
そして玉座の間には、一刀、雪琳、冥琳が残っていた。
「・・・で、用というのは?」
私は静かになったのちさっそくそう男に問いかけた。
「はい、まずは周瑜殿の病気についてです。
自分は少しばかり医術の心得があるので、
お役に立てればと思いまして、
そしてもう一つは・・・」
そういいながら目の前の男はその仮面をを外した。
~一刀視点~
俺は孫策の前で、自らその仮面をはずした。
「あっ、あなたはっ!」
「はい、俺は北郷一刀というものです。」
やはり、孫策も俺の顔はしっているようだ。
「そう・・・で、魏で消えた貴方がなぜいまここにいるのかしら?
そして、なぜ仮面をつけて正体を隠しいるのかしら?」
孫策の表情には困惑が目にとれたが、彼女の目は明らかに怒りにもえているといったようだった。
「それは・・・」
そういうと俺は、星に話したように、魏に戻ってからのことを話し始めた。
「そう、事情はわかったわ。それでは、なぜあなたはここにきて、
わざわざ正体をさらしたのかしら?」
孫策は俺の過去話はなんでもないように、話を先に進める。
「それは“呂白”としてではなく“北郷一刀”として
貴方達と話したかったからです。」
俺はそんな孫策に、ふっ、と一呼吸おいて、再び俺は話し始める。
「・・・あの赤壁の戦いにおいて黄蓋さん
の策を華琳に教え、黄蓋さんを死に追いやったのはこの俺です。
もう、いまさらなにも隠したりはしません。ごまかしたりもしません。
黄蓋さんを死においやったのはこの俺なんです。
黄蓋さんの魏への偽りの投降、連環の計、火計を
俺は知識としてすでに知っていました。
だから“スッ”・・」
言葉を続けようとする俺の首筋に、孫策がその刀を突きつける。
その刀は俺が一歩でも動けば命はないといっている。
「・・・それで、あなたは素顔を見せて謝れば、三国同盟が組まれているから
私たちが貴方を許すと、そう思ったの?だからあなたはここにきたっていうの!」
孫策はそう大声でいいながら殺気をおれにぶつけてくる。
確かに、正しい。けど、俺はそんなことのためにきたわけじゃない。
だから俺はしっかり顔をあげ、答える。
「俺は謝らないし、あなたたちに 許しを請おうとは思っていない」
俺は深呼吸をしたあとに確かにそうはっきりといった。
そう答える俺を孫策は冷たい目で鋭く睨む。
そして俺もそんな孫策の目を、目をそらさずにしっかりと見つめ返した。
「だったら貴方は、なんのために仮面をはずした?
謝罪以外にこの対面に何の意味があるっ!
お前は命を私たちに晒しに来たとそういうのか!」
覇気を滲みだしながら俺に問いかける孫策
「謝ったりなんかしない。そして、ここにきたのは俺が命を投げ出すことが目的でもない。・・・」
「ではなぜ!」
そう、おれがここに来なくてはいけないと思った理由、
確かにそれは俺が黄蓋さんのことの真実をつげにきたということだ。
けれど、それだけじゃない。伝えなければいけない。
俺の考えを、この思いを、俺の言葉で。
「戦場にいる人は、皆等しく死ぬ世界に身をおき、それぞれの覚悟というものがある。
そして、そんな覚悟をもった人達はそれぞれの誇りを胸に戦っている。
家族のため、大切な人のため、国のため、理由はたくさんあるであろう。
しかし、みんながもっていたはずだ。自分が生きて成し遂げたかった夢が。
黄蓋さんもその一人のはずだ。
そんな人を俺は殺したんだ。
だからこそ、貴方達に謝るなんてことはしない。
それは、自分を罪悪感や責任、そういった苦しみ
から解放するための“逃げ”だし、
自分勝手な考えでしかないのだから。
あやまってしまえば、それは、あの時夢を目指していた黄蓋さんに、
そして夢を追い求めていた自分に、嘘をついてしまうことになる。
意味ならある。
これから俺たちは、手を取り合って、共に支えあわなければいけない。
俺はそう、信じている。
俺も魏にいたころ共に酒を飲み交わし、共に笑った大切な仲間がいた。
しかし、今この世に彼らはいない。
みんな一緒なんだ。
この乱世で、大切な人を失った。
身分、間柄、功績、それぞれちがうこともあるだろうが、大切な人を思う気持ちは皆一様に変わらないはずだ。
そして、その人たちを失った悲しみは一生消えることはないだろう。
だからこそ、そんな人たちの思いを胸に、俺たちは今を、そしてこれからを、
いきていかなければいけない。
今を、そして未来を創るために。
手を取り合っていかなければいけないんだ。
将来、生きていく子供たちに俺たちが経験したつらい思いをさせないために。
昔を生きていた人が持っていた夢を俺たちが俺たちの形で引き継ぎ、そして一歩一歩前へと進んでいかなければいけないんだ。」
「・・・・そぅ、それで?」
「俺たちが今ここにこうしていられるのは、そのひとたちのおかげなんだ。
だから俺たちは、その思いを、その人たちが背負ってきたものを、
背負い、それをこれから先に、紡いでいく責任がある。
そのために俺はいまできる最大限のことを
やっていこうと思う。」
「・・・・貴方、・・・
では、祭を討ったこと、後悔してる?」
「・・・・・」
答えはもう決まっていた。
しかしそれは、軽々しく口にはできない。なぜなら、あのとき亡くなっていなければ、
俺が華琳に敵の策を教えていなければ、その笑顔がいまもここにあったはずなのだから。
その傍らで共に笑いあう光景があったはずなのだから。
でも、討ったことを、呉から大切な人を奪ってしまった
その責任を背負わなければいけないいんだ。
あの人の誇りを、そして自分の歩いてきた道を背負わなければいけないんだ。
だからっ
「後悔はしていない。」
そう、俺は言い放った。
俺の首筋にはもう孫策の刀はなかった。
そう、俺は後悔しているのかもしれない・・・
もしもって思ってしまう自分がいる。
あの時こうすれば殺さずにすんだかもしれないって
思ってしまう自分がいるんだ。でも、どうしたって、時を戻すことはできない。
俺は神でもないんだし、今を、確かに生きているのだから。
だから、過去にしがみついていてはだめなんだ。
もしもって考えるかとはいつでもできる。
だけど、今を考えるのはいましかできない。しっかりと自分をみつめてこれからを、
歩いていかなければいけないんだ。
「・・・・なぜ?」
「黄蓋さんが孫呉に命をかけて戦ったのと
同様に、俺も曹魏のために、俺の道をかけて、俺の魂をかけて、
そして俺の天へと誓った誇りをかけて、たたかったのだから」
「そう、じゃああなたはなぜないているの?」
「泣いてなんかいない」
なぜだろう。俺はちゃんと自分の思いを言ったはずだ。それは確かに嘘偽りのない
俺の気持ちだった。
それでも、やはり俺は心が苦しい・・・
「心が・・よ」
そんな俺の心を見抜くかのように孫策がそう答える。
もう孫策はその刀を腰にしまっていた。
「・・・もうひとつ聞いてもいいかしら?」
「・・ああ」
「なぜ私たちだけに正体をあかしたの?
他の子だって祭が討たれたことを、
悲しんでいたはずよ
「周瑜さんの治療が終わったらあかすさ」
「なぜ?」
「俺はさっきも言った通り、貴方達はこれから手をつなぎ歩いてゆける仲間
だと思っている。
けれど、恨み、悲しみ、そういった感情は、
簡単に理解できるものじゃない。
さっき、みんなの前で俺がこのことを言えば、俺を周瑜さんに近づけさせないだろう、
それは、時間がたてばわかりあえることも
あるかもしれないが、その間に、周瑜さんが手に負えなくなったら、
俺は自分を許せない・・・」
「・・・貴方」
「でも他の子たちはさっき話さなかったことで
貴方を余計に
許さないかもしれないわよ」
「あぁ、そうだな。それだけのことを俺はやったんだ。
周瑜さんを治療できた後なら
それくらい背負う覚悟はできてるさ」
「どうして?なんで貴方はかかわりのない人を
こんなにも思えるの?」
「関わりのない?孫策、俺にとってあなたたちは決して関わりのない存在ではない。
それに、関わりがなくたって答えは同じだ。」
「なぜ?」
「孫策、貴方の目の前で苦しんでいる人がいる、
助けを求めている人がいる、
貴方はそんなときどうする?」
「もちろん助けるわ」
「・・・そう、それと同じなんだ。
俺には、人を助けられる力がある。そして目の前には救えるかも知れない
命がある。守れる笑顔がある。
それだけで、理由は十分じゃないか?」
俺はそう答えながら、この世界に来た時のことを思い出した。
そう、これは俺の言葉じゃない。俺は大切なあの強がりな王、華琳から学んだことだ。
彼女は背負っていた。その背中に、多くの民の命を。
彼女はいつも探していた、彼らが笑顔になれる道を・・・
華琳はいつもその細い腕で、抱えていたよ。みんなの思いを。
「だから、俺は、いまここにいる。」
そう俺ははっきりと答えた。
「ふっ、ふっはは、あははは」
「・・・・っ!?」
手が震えていた俺をまるで試していたとでもいうように
孫策が突然大声で笑いす。
そんな、孫策の横では周瑜までもが笑っていた。
「・・・・」
俺はまだわけがわからずぽかんとしている。
「貴方最高よ。ね、冥琳。私の予想はただしかったでしょ?
呂白、これから私のことは雪蓮ってよんでいいわ」
そんな孫策の言葉によこにいる周瑜が同意する。
「確かにな、
まさかこれほどの言葉が聞けるとは思って
いなかったな、雪蓮。
いじめることができなかったのが残念ではあるが」
ん?・・なんだ?今の言葉は?いじめる?
「あの、俺の聞き違いだったら申し訳なんだが、今
いじめるって・・」
「あー、もう、あわてちゃって、
かわいいわね、
そう、あなたが思っている通り・・・
いいわよ、もう入ってきて」
雪蓮がそういうと扉が開き、
一人の女性が入ってきた。
それは・・・・・祭だった。
皆様、あけましておめでとうございます。
そしていつも読んでくださる方々に心からお礼を申し上げます。
これからもどうぞよろしくおねがいします
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周泰とともに一刀は呉へと行く決意をする。その一刀の決意の先にあるものとは?一刀が呉でやらなくてはいけないものとは?