No.526036

遊戯王GX †青い4人のアカデミア物語† その12

赫鎌さん

誤字脱字報告、感想等お待ちしております。
■新年明けましておめでとう御座います。今年も頑張って書きますので、どうぞうよしなに。
■大分遅れておまたせしました!
■さっそく修正入れましたorz

2013-01-01 07:11:48 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1237   閲覧ユーザー数:1210

 

「さて皆さん。今年もデュエルアカデミア・ノース校との友好デュエルが来ました」

 

 アカデミアの会議室に集められた教師たちを前に、アカデミア本校校長鮫島はそう告げた。

 

「確か、去年は二年生だった原星華くんが代表でしたね」

「うむ。特に要望がなければ、今年も彼女に代表を努めてもらいたいと考えている。おそらく向こうの代表も一番強い生徒、つまりは三年生を出してくるでしょう」

 

 デュエルの腕に年功序列は存在しない。が、年代によって経験の差が大きいというのもまた事実である。

 必然的に経験の多い三年生に上位成績の生徒がくるものであり、ノース校はそれが殊更厳しかった。

 鮫島校長は各教師に推薦したい生徒を聞いたが、それに答える教師はいなかった。

 

「……では決まりですね。三年生に昇級してからというもの、原くんはますます成績を伸ばしているようですし、今年も期待できるでしょう」

「その通りでスーノ! しかも彼女ニーハ、アカデミア倫理委員会から推薦がきているノーネ! 将来有望ーデ、頭脳明晰ーデ、デュエル脳でもプロ顔負けとイーウ、まさにアカデミアを代表とする生徒として相応しいでスーノ!」

「そ、その通りですね、クロノス教諭……」

 

 興奮するクロノス教諭を前に、そう返す鮫島校長。

 これで話が終わるかというちょうどその時、会議室の内線が受信音を鳴らした。

 こんな時にどうしたのだろうと思いながら、鮫島校長は受話器を取った。

 

「鮫島です。どうかしましたか」

『もしもし校長先生? あたしだよ、購買のトメですよ』

「と、トメさん? どうしたんですか、内線まで使って」

 

 通話の相手は購買部のアイドル、トメさんだった。もっとも、アイドルというのは自称だが。

 思いもよらない相手に驚いた鮫島校長だったが、冷静に要件を伺った。

 

『実はノース校の一ノ瀬校長から電話がきてね? ああ、今そっちに繋ぐからちょっと待ってくださいね』

「一ノ瀬校長ですと?」

 

 相手の名を口に出した途端、会議室に集まった教師達が小言でささやき合った。

 たった今話し合っていた学校の校長なのだから、当然だった。

 

『……もしもし鮫島校長ですかな? 一ノ瀬です』

「これは一ノ瀬校長、お久しぶりです」

『突然の連絡で申し訳ないが、早々に話しておかなければいけないことがありましてな。今週末の友好デュエルの代表はもうお決まりで?』

「ええたった今決まりました。今年も原くんを代表として友好デュエルの場に立たせようと思っています」

『うぅむ……そうか、彼女か……』

「……どうか、しましたかな?」

 

 なんとも歯切れの悪い様子に、怪訝な顔をする鮫島校長。

 電話の相手である一ノ瀬校長は、申し訳ないといった様子で告げた。

 

『いや……実に情けない話なのだが、去年彼女と戦った生徒がウイルスにやられてしまって……』

「はぁ……。それはお気の毒に……」

『今の三年生には彼女に太刀打ちできる生徒がいないもので……今年は、一年生同士の対決にしてみてはどうか、と思った次第なんですよ』

「ほう。一年生同士で……」

 

 その言葉にまたも会議室はざわついた。

 一年生では未熟過ぎる、二年生ではダメなのか、三年生も最後の機会だ等、一年生同士の勝負に疑問を抱いているようである。

 その中で鮫島校長は一人、この提案について静かに考えていた。

 

「(一ノ瀬校長といえば、昔から狡猾な男として知られてきたが……何を考えている?)」

 

 ノース校は実力主義である。アカデミアも似た風潮はあるが、それ以上に厳しいと聞く。

 その中で、敢えて一年生を代表とする。その真意は一体何であるというのか。

 

『今年の一年生に、去年のうちの代表を抑えてトップになった者がいましてね』

「……ああ、そういうことですか」

「ど、どゆことでスーノ?」

 

 クロノス教諭が聞いてくるが聞く耳を持たない。

 鮫島校長はそのまま、相手の要望を飲み込んだ。

 

「いいでしょう。実はこちらも優秀な一年生を獲得しましてね、こちらとしても依存はありません」

『おお! そうですか、それはありがたい! ではその線で話を進めますので。ああ、代表生徒の情報は追って後ほど……』

「はい。ではまた後日に」

 

 そう締めくくり、電話は切れた。

 校長の頭の中には、既にどの生徒を代表に決めるかの脳内会議が開かれているのだった。

 

「マァスカルポーネチィーズ!? 一体、一体なんでスーノ!? 何があったのでスーノ!?」

 

 パニックになるクロノス教諭一人を置いて、会議室から一人、また一人と教師は自分の持ち場に戻るのであった。

 

 

「――――というわケーデ、シニョール丸藤とシニョール船坂」

「はい?」

「え?」

「君達二人ーガ、候補として上がっているノーデ、明日対決してもらって代表を決めるノーネ」

 

 教室中がざわざわと騒がしくなる。

 突然言い渡された決定に動揺する者、選ばれたことを讃える者、反面選ばれなかったことを悔やむ者と様々だった。

 

「では今日の授業はここまででスーノ。良い報告を期待していまスーネ、ムフフノフ~」

 

 上機嫌で教室を後にするクロノス教諭。それに続くように、それぞれ帰宅する者、部活動に行く者、残ってノース校とのデュエルについて談話する者といた。

 が、一部、件の人物の周囲では既に戦いが始まっていた。

 

「丸藤! 明日はよろしくな!」

「ああ。互いにベストを尽くそう」

 

 丸藤亮、そして船坂弘一。互いの視線からは、激しく火花が散っていた。

 

「……どうだと思う?」

「丸藤に80ジンバブエドル。デノミネーション後で」

「大穴狙いで船坂君に1000ペリカ! もちろん地下通貨で!」

「どっちも100円じゃイマイチ盛り上がらないな……」

『ちょっと待てそこの胴元』

 

 船坂弘一の制服は黄色。つまり、ラーイエロー生である。

 実力では限りなくブルーに近いイエローと呼ばれており、高校からの編入組では最良の成績だった。

 

「俺はイエローでお前はブルー。色ではお前のほうが上だが、実力までそうだと思わないことだな」

「生憎俺は相手をリスペクトしている。間違っても侮るなどという考えは持ち合わせていない」

 

 ブルー一年生最優秀生徒対編入組最終生徒。まさに竜虎相搏つ対決といえるだろう。

 

「オッズ的にはどんな感じだ?」

「僕としては1:1だと入りが少ない気がするね。いいとこ1.02:1.10かな?」

「成績から見ると切りよく1.1:1.2でもいいんじゃないか?」

「いっそ情報操作して1.01:10.0の絶望的対決に見せかけるのも手じゃないか?」

『なるほど』

『だから待てそこの胴元』

 

この上なく緊張感の無い三人に、二人は肩透かしを受けたような気がした。

 

 

 

「というわけで邪魔しに来た!」

「……毎度思うが何故俺の部屋なんだ」

「だって亮は『最終調整があるから勝負まで声をかけるな』なんて言って引きこもってんだよ!? 残された僕は一体どうしろっていうんだ!?」

「宿題でもやってろ!」

 

 時は変わりケイの部屋。夕食も済ませ、吹雪は入り浸っていた。

 

「しかし亮が学園代表ねぇ……ある意味ピッタリだけど」

「普段の行いを見れば当然と言えば当然だな」

 

 二人の亮に対する認識は『優等生』である。品行方正、授業は真面目、率先して動き、結果も残している。

 学園側から見れば、これ以上ない模範的な生徒だろう。

 

「お前たちも見習ったらどうだ? 授業中にラブレターの返事書いたりレシピを書いたりしているよりは、よほど良いと思うけどね」

「……お前はナチュラルにいるな。そしてくつろぎすぎだ」

 

 どこから持ってきたのか、ティーポットから紅茶を注いで優雅に嗜む優介に突っ込む。

 しかしもはや突っ込む気力さえ失われつつあるのか、ケイは力なくうなだれた。

 

「……たく、こっちはこっちで悩んでいるというのに」

「お、ケイ悩み事かい? 恋の悩みなら是非ともこの僕――」

「寝言は寝て言え」

「ひどい!?」

「…………悩んでいるのは、これだ」

 

 机の、鍵のかかった引き出し。厳重に施錠されたそこから、カードの束を取り出した。

 それを二人が囲むテーブルに広げる。その瞬間、吹雪の顔がひきつった。

 

「…………………………」

「見たことないカードだな…………天上院、どうかしたかい?」

「………………ケイ」

「………………ああ」

「『………………ああ』じゃなぁぁぁぁい! なんで、なんでこのカードがここにあるんだよ!?」

「……カードは拾った」

「ダァホかコラァァァァ!!」

 

 吠え猛る吹雪だが、それを意に介さずカードを手に取る優介。

 吹雪のように心乱されることなく、ただ普通に見ていった。

 

「フォーチュンレディ……? 聞いたことがないな。ケイ、これはどこで手に入れたんだ?」

「……冬休み、廃寮に行ったことがあっただろ?」

「ああ」

「その時の相手が持っていたカードが置き去りになっていたから、思わず……」

 

 その言葉に、優介は頭痛を覚える思いだった。

 

「…………返してきなさい」

「……いや、無理だ」

「無理?」

 

 優介の問いかけに答えたのは吹雪だった。

 

「……その相手ってのは、それなんだ」

「それ?」

「……そのモンスター」

「…………は?」

「『フォーチュンレディ・ライティー』……。それが、デュエルの相手だよ」

 

 わけがわからない。そうありありと顔に書いたまま固まる優介。

 しかし吹雪は嘘を言っていないようにも見える。それが更に優介の思考をかき混ぜていた。

 

「……俺の予想では、だ」

「うん」

「……あれは、”精霊”と呼ばれる存在の類ではないかと疑っている」

「待ってくれ。ちょっと待ってくれ」

 

 精霊と言い出したところで、優介が待ったをかけた。

 幽霊ならまだ納得はできないものの、理解はできる。変質者であるなら理解もできる。

 が、精霊となれば、さすがの優介でも理解が追いつかないのだった。

 

「いくらなんでも、それはないだろ」

「しかしあれが不審者のコスプレ、と言うには完成度が高かったな」

「いや論点そこじゃないから」

 

 ケイと吹雪が見た敵、ライティーは確かにデュエルディスクを使いデュエルをした。その事実は、二人が一番良く知っている。

 だからこそケイの仮説に対し、妙な現実味を感じてしまっていた。

 

「……確かにデュエルモンスターズの精霊の目撃情報はなくもない。大々的に公表されないだけで、いろんなところで目撃情報がある」

「あるのかい?」

「ああ。過去の例には、あの決闘王も『クリボー』や『ブラック・マジシャン』の精霊が見えたというし」

「へぇ、意外だね。そんな記録があったんだ」

「……だが公にしない方がよさそうだな」

 

 優介の話に反発するように、ケイはそう言った。

 

「そうだな。普通、見えない存在がいるなんて言えば、黄色い救急車を呼ばれたって文句は言えないな」

「現実に存在しているのに妄言扱いは勘弁だね……」

 

 デュエルモンスターズの精霊がいるというのは、ある種の『霊感があって幽霊が見える』という話以上に気味悪く思われる。

 幽霊はデュエルモンスターズの生まれるより遥か昔から存在しているが、精霊はそこまで世間に認知されていない。間違いなく、頭がおかしいか精神に異常があると判断されるだろう。

 

「……で?」

『で?』

「そのカード、どうするんだよ」

 

 優介が指さしているのは、ライティーの使ったフォーチュンレディデッキ。仮に誰かの忘れ物ならば、下手に動かさないほうが良い。

 だがそんな優介の意見に反し、ケイはあっさりと言った。

 

「俺が預かる」

「……本気か? 正直な話、俺はそんなカード見たことも無いし聞いたこともない。早いところ、学園に預けてしまった方が良いと思うけどな」

「現にカードがあるんだ。それに実際に使えていたのだから問題はない」

「……まぁ、何より廃寮に入ったことがバレたら処罰物だしね」

『(……確かに)』

 

 話はそこで終わった。

 結局カードはケイが預かるという話で決着がつき、二人は床につくとのことでそれぞれの部屋に帰っていった。

 二人が出ていった後、ケイはフォーチュンレディデッキを手にベッドに寝転んだ。

 

「(結局……一番聞きたかったことを聞き逃した)」

 

 ケイは知りたかった。

 何故、誰も噂のことを覚えていなかったのかを。

 廃寮の探検に行った後日、風見ヶ丘に報告しに行ったケイと吹雪は、そもそもそんな噂すらないという旨の話を聞かされたのだった。

 吹雪は大して気にしていなかったようだが、ケイは冬休みの間気になり通しだった。そして、目撃したという生徒全員にアタックをかけてみた。

 結果は惨敗。ただの一人も覚えていなかったのだった。

 

「(普通、恐怖体験は忘れ難い。そうそう忘れられるものでもないし、何より新聞部の風見ヶ丘がスクープを逃したり忘れたりするとは考えにくい。なら、何故? 何が起きた?)」

 

 手にしている『フォーチュンレディ・ライティー』に目を向ける。

 黄色い服装に顔の文様、そして手にしている杖、額のウジャト眼。見れば見るほど、あの日の対戦相手に似ていた。

 

「(…………何かひっかかる)」

 

 頭の中が霞がかったように、記憶をたどることができない。

 結局その日はそのまま寝てしまい、結論を出すことは出来ないのであった。

 寝る直前まで見ていたライティーのカードは、ケイの手からスルリと落ちた。

 そしてそのまま、溶けるようにデッキケースへ消えていった。

 

 

『ア、ア……テステス……ンン、ビュッフェアラモードラタトゥーユ……』

 

 独特のクロノス節でマイクの確認をする教諭。周囲では何人かの生徒が口元を抑えて笑っている。

 全校生徒が集められた体育館の中央で、クロノス教諭はマイクを握って大々的に宣言した。

 

『シニョールシニョーラ! おまたせしたノーネ! ただ今カーラ、学園代表決定デュエルを、始めるノーネ!』

『『『ワアアアアアッ!!』』』

 

 生徒達の歓声により体育館の空気が大きく振動する。

 そんな大声援を聞き流しながら、クロノス教諭は落ち着いて続けた。

 

『デーハ、対戦する二人を紹介するノーネ!』

 

 その宣言と同時に、中央のデュエルリングに上がる二人の生徒。

 互いに青と黄色の制服が、互いの対比を如実に表していた。

 

『オベリスクブルーかラーハ、シニョール丸藤ー!』

『きゃー! 丸藤くーん!』

『丸藤ー! 負けんじゃねーぞー!』

 

 ゆっくりと自分の立ち位置に立つ亮。その顔からは、若干の緊張が見られる。

 

『対すルーハ、ラーイエローのシニョール船坂なノーネ!』

『いけー! 船坂ー!』

『オベリスクブルーなんてやっちまえー!』

 

 船坂もゆっくりと自分の位置に立つ。やはりこちらからも、緊張の色が見て取れる。

 

『デーハ、両者向かい合うノーネ!』

 

 既に向かい合っているが、教諭の言葉で互いにデュエルディスクを構える。

 前口上代わりの挨拶は先日のうちに済ませている。あとは戦うだけだった。

 

『デュエ~~~~ル、スタートゥ!!』

『デュエル!!』

 

丸藤亮 LIFE4000

船坂弘一 LIFE4000

 

「先攻は俺がもらう、ドロー!」

 

 先攻を取ったのは船坂だった。亮は自分の手札を確認し、動きださない。

 

「始まったか」

「ああ。丸藤は後攻型だし、これは当然だな」

 

 ギャラリー席には全校生徒がひしめき合っている。その中の一部、ケイと優介は静かに観戦を始めた。

 

「俺は『マシンナーズ・ソルジャー』(ATK1600)を攻撃表示で召喚だ!」

 

 ガシャ、ガシャと音がして、機械の兵士姿を現した。

 オリーブドラブ色の身体はまさしく兵士そのもので、携える剣は刃渡りの長いソードだった。

 

「『マシンナーズ・ソルジャー』の効果発動! 俺の場に他のモンスターが存在しない時に召喚した場合、手札からコイツ以外のマシンナーズ一体を特殊召喚できる! 招集命令だ、こい『マシンナーズ・ピースキーパー』(ATK500)!」

 

 次いで現れたのは両手と胴体にホイールのついたマシンナーズ。キュラキュラと歯車の回転音を軽快に奏でている。

 

「こいつはユニオンモンスターだ! 『マシンナーズ・ピースキーパー』を『マシンナーズ・ソルジャー』に装備する!」

 

 ガキン、という音と共に体中のパーツが外れる。パーツは細かく分離したと思いきや、鎧のように結合されソルジャーに装着された。

 

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ!」

 

 船坂のプレイに、ラーイエローの生徒たちから『オ~……』と感嘆の声が上がる。

 同時に、ケイも感心した。

 

「船坂はマシンナーズか」

「機械デッキ同士の対決。となると、あのカードをいつ使うかで勝負が割れるな」

 

 亮はサイバー・ドラゴン。船坂はマシンナーズ。

 機械族デッキを使う者同士の対決に、体育館中の生徒が固唾を飲んで見守った。

 

「俺のターン、ドロー! 相手フィールド上にのみモンスターが存在する時、このモンスターは特殊召喚する事ができる! こい、『サイバー・ドラゴン』(ATK2100)!」

『キシャーッ!』

 

 威嚇をしながらフィールドを動きまわる鋼鉄の竜。亮のエースモンスターが早くも姿を現した。

 

「『サイバー・ドラゴン』(ATK2100)で『マシンナーズ・ソルジャー』(ATK1600)に攻撃! エヴォリューション・バースト!」

 

 『サイバー・ドラゴン』の放つ熱線が『マシンナーズ・ソルジャー』の装甲を貫く。

 しかし装備された『マシンナーズ・ピースキーパー』の鎧が砕けただけで、本体はほぼ無傷だった。

 

船坂弘一 LIFE4000 → 3500

 

「『マシンナーズ・ピースキーパー』の効果! 装備モンスターが破壊される時に犠牲となる! 更に破壊された時、デッキからユニオンモンスター一体を手札に加える! 俺は『マシンナーズ・ギアフレーム』を選択する!」

 

 場にモンスターを残し、次の手を既に残している。一年生ながら上級生顔負けのタクティクスを披露する船坂に、苦い顔をする上級生がちらほらと伺えた。

 

「…………ねえ、ケイ、藤原」

「なんだ吹雪」

「トイレなら先に済ませろと……」

「…………ユニオンモンスターってなんだっけ?」

 

 スパーン、とケイの持つハリセンが吹雪を打ち据えた。

 

「冬休み明け最初の授業でやっただろ!」

「あいにく僕は、休みボケが酷くてね」

「天上院、人はそれを馬鹿ということを知っているのかい?」

 

 全く悪びれない吹雪に対し、二人は呆れてしまった。

 復習にちょうど良いから教えるが、と前置きして優介が説明を始めた。

 

「ユニオンモンスターというのは、特定のモンスターに装備することのできるモンスターのことを言う。この時、ユニオンモンスターは装備魔法扱いだ。共通の効果として、モンスターの戦闘破壊、あるいはあらゆる破壊に対して身代わりになる効果を持っている。今回の場合は、戦闘破壊に対する身代わりだな」

「補足だが、反対に装備を解除してモンスターとして場に出すこともできる。装備するか解除するかは、一ターンに一度しかできないがな」

「へぇー。手札から装備ってできるのかい?」

「いや、ユニオン効果はフィールド上でしか使えない。手札から直接、というのは無理だね。できたら恐ろしいことになるし」

「それもそっか」

 

 優介とケイは吹雪に説明していたが、周囲の生徒はその会話をしっかりと聞いていた。

 ユニオンモンスターの授業ではクロノス教諭と亮が模範デュエルで説明してくれたが、わかりにくいところが多々あった。しかも時間いっぱい使ってしまい質問も録にできずわからずじまいだったのを補足してくれたのだから、聞き漏らすまいとばかりに聞き耳を立てていたのだった。

 そのことを、三人が知ることはない。

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー! 俺は『マシンナーズ・ギアフレーム』を召喚! そして効果発動! デッキからコイツ以外のマシンナーズを一体手札に加える! 俺は『マシンナーズ・スナイパー』を選択だ! そして『マシンナーズ・ギアフレーム』を『マシンナーズ・ソルジャー』にユニオンだ!」

 

 現れたのは細身にオレンジ色の配色が目に痛いマシンナーズ。その身体が分解され、ソルジャーの身体に装着された。

 オリーブドラブ色の本体にオレンジ色のパーツがよく映える。しかし、ステータスには一切の変化はなかった。

 

「そしてカードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

 亮は考える。何故、船坂は同じような手を出してきたのか、と。

 先程と同様に『マシンナーズ・ソルジャー』に別のモンスターを装備させただけであり、ステータスも上がっていない。ただ『マシンナーズ・スナイパー』を手札に加えたかっただけなのだろうか。

 そして『サイバー・ドラゴン』より攻撃力の劣る『マシンナーズ・ソルジャー』を守備表示にしなかったのも、不審感を強めていた。

 

「俺は魔法カード『ダブルアタック』を発動する。手札から七ツ星の『メタル化寄生生物-ルナタイト』を捨て、『サイバー・ドラゴン』の攻撃回数を二回にする」

「連続攻撃か。てことは、ユニオンの身代わりも突破されちまうってことか……」

 

 一度だけ身代わりになるユニオンモンスターも、二回の攻撃に耐えることはできない。

 何もなければ、確実に倒せるであろう手段だった。

 

「『サイバー・ドラゴン』で攻……」

「リバースカードオープン! 永続罠『血の代償』発動! 自分のライフを500払い、モンスター一体を通常召喚する! 俺は、『マシンナーズ・スナイパー』(ATK1800)を召喚だ!」

 

 『サイバー・ドラゴン』の攻撃の寸前に、船坂が伏せていたカードを使用した。

 現れたのは長いライフル銃を持ったマシンナーズで、『マシンナーズ・ソルジャー』をかばうように一歩前に出た。

 

船坂弘一 LIFE3500 → 3000

 

「『マシンナーズ・スナイパー』がいるとき、他のマシンナーズを攻撃することはできない!」

「ならば『マシンナーズ・スナイパー』を攻撃するまで。打て! エヴォリューション・バースト!」

 

 超々高温の光線を『マシンナーズ・スナイパー』目掛け照射する。しかし音速を超えた速さのそれを、『マシンナーズ・スナイパー』は躱してみせた。

 

「なにっ?」

「罠カード『援護射撃』の発動だ! 相手の攻撃に合わせ、自分フィールド上のモンスターは二体の攻撃力で迎え撃つ! 迎撃しろ! コンビネーション・アタック!」

 

 『マシンナーズ・スナイパー』がライフル銃を乱射し、『サイバー・ドラゴン』の動きを止める。

 身体の各所を撃ちぬかれ機能の低下した『サイバー・ドラゴン』の懐へ『マシンナーズ・ソルジャー』が潜り込み、大きなブレードで一文字に斬り裂いた。

 

丸藤亮 LIFE4000 → 2700

 

「……! ならば、俺は『プロト・サイバー・ドラゴン』(DEF600)を召喚! カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 この一ターンで、確かに舩坂が亮を抜いた。その事実に、ギャラリーの一年生たちはザワザワと騒ぎ立てた。

 

「見ろ。亮が押されているぞ」

「やるね。イエローの船坂って奴」

 

 亮は強い。それはケイ達のみならず、数ヶ月共に学んできた一年生達の共通認識だった。

 しかし今、そのケイが押されている。更に言えば、押しているのは同じブルー生ではなくイエロー生であり、亮の強さが相対的に船坂の強さの底上げとなっていた。

 船坂は強い。全員が、そう認識した。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 今、亮の場には『プロト・サイバー・ドラゴン』と伏せカードが二枚存在している。対する船坂の場には、『マシンナーズ・ギアフレーム』を装備した『マシンナーズ・ソルジャー』と『マシンナーズ・スナイパー』、発動されている『血の代償』が存在していた。

 今四枚ある手札の中にモンスターがあるのであれば、『血の代償』を使い展開することで一気に攻め立てることも可能である。

 

「丸藤。兵法の中に、兵は拙速を尊ぶというものがあるのを知っているか?」

「……多少の怠りはあれど、相手より早く動くことが肝要、というものだな」

「その通り。お前の伏せカードは気になるが、ここは臆せず攻める! 二体のモンスターで攻撃だ!」

 

 『マシンナーズ・スナイパー』が構え、『マシンナーズ・ソルジャー』がフィールドを駆ける。

 『プロト・サイバー・ドラゴン』は多少の抵抗を試みるが、左右に翻弄する『マシンナーズ・ソルジャー』の揺すぶりに惑わされ迎撃できていない。

 やがて『マシンナーズ・スナイパー』のライフル銃が『プロト・サイバー・ドラゴン』を射ぬかんとばかりに放たれた。

 が、その弾は命中することなく、亮の背後の壁へ着弾した。

 

「罠カード『アタック・リフレクター・ユニット』発動。自分の『サイバー・ドラゴン』一体を、『サイバー・バリア・ドラゴン』へ強化する」

 

 『プロト・サイバー・ドラゴン』の首に、パラボラアンテナのような機械が取り付けられる。

 さながらエリマキトカゲのような風貌となったそのモンスターは、ライフル銃から放たれた弾の軌道をずらし後方へと逸らしたのだった。

 

「兵は拙速を尊ぶ……尤もな話だ。だが、兵に常勢無しだ。俺の『サイバー・ドラゴン』は形を選ばん」

 

 相手をリスペクトし、攻撃的な姿勢を取ってきた亮には珍しい守備型の『サイバー・バリア・ドラゴン』の出現に、いろんなところで話し声が飛び交う。

 やれ「さすがは学年主席だ」、やれ「守っていては勝てない」と、実に多種多様である。

 

「くっ……感そう簡単にはいかないか……。俺はモンスターをセット、そしてカードを二枚セットして、ターンエンド!」

 

 モンスターがセットされ、船坂の場にはモンスターが三体、伏せカードが二枚という布陣が出来上がった。反面、亮の場には『サイバー・バリア・ドラゴン』が一体と伏せカードが一枚のみ。

 しかし亮には焦りの色は見受けられなかった。

 

「俺のターン、ドロー。リバースカードオープン、永続罠『リビングデッドの呼び声』を発動する」

「……お、これはきたか?」

 

 亮の宣言に、一番に反応したのはケイだった。

 

「あー……これはアレだね」

「ああ。アレだ」

「一気に勝負を決めにかかったってところだね」

 

 ケイに続き、吹雪と優介も頷く。

 この場面に三人は見覚えがあった。

 

「墓地の『プロト・サイバー・ドラゴン』を特殊召喚する。そして、速攻魔法『地獄の暴走召喚』を発動! デッキ・手札・墓地より、『サイバー・ドラゴン』を可能な限り召喚する! 集え、『サイバー・ドラゴン』!!」

『『『ギュアアアア!!』』』

 

 一瞬で展開される、三体の機械竜。エースモンスターを素早く召喚するタクティクス、そしてそのフィールドの壮観な図に、ギャラリーの生徒達は少なからず驚いた。

 僅か二枚の手札で自分のフィールドを全て埋める。この離れ業に、ケイは冷静に言い放った。

 

「しかし、これでは勝てないな」

 

 吹雪と優介は耳を疑った。

 ケイは今、勝てないと言ったのだ。それも船坂ではなく、亮を見据えて。

 

「これまでのデュエルを見たところ、船坂はかなり用心深いデュエルをする。『援護射撃』のようなコンバットトリックはあれど、基本は自分の場を固めてから特攻するタイプだな。そんな奴が、自分のモンスターを守らない手段を用意していないわけがない」

「……ならケイ、君は具体的にはどんな策を用意する?」

「『ゲットライド!』で『マシンナーズ・ギアフレーム』を『マシンナーズ・スナイパー』に装備するな。セットモンスターが何かは分からないが、そうすればマシンナーズを手札に呼びこみつつスナイパーを守れる。他には様々な方法で攻撃自体を防ぐか、だな」

 

 淀みなく答えるケイだが、吹雪にはいまいち理解できなかったようだった。しかし、優介はその意味を汲み取った。

 

「攻めるか守るか、か。結構野心家っぽいし、攻める方が可能性としては高いかな」

「ああ、そういうこと……。僕は多分守ると思うね。一度凌いでも、あの数を全部捌ききるのは難しいと思うよ」

 

 それぞれの考えを述べるが、結論は出ない。結局、結果を待つ以外方法はないのである。

 

「『地獄の暴走召喚』の効果により、相手も同様にモンスターを召喚できる。船坂、お前はどうする」

「……俺のデッキには、ソルジャーもスナイパーも一枚ずつしか入っていない」

「ならば俺は、『強欲な壺』を発動。デッキから二枚ドローする」

 

 二枚に増えた手札を見て、わずかに思案する亮。

 メインフェイズではこれ以上何もせず、バトルフェイズへと移行した。

 

「『サイバー・ドラゴン』(ATK2100)の攻撃! エヴォリューション・バースト!」

「何度も同じ攻撃はくらわん! 罠カード発動、『進入禁止!No Entry!!』! モンスターは全て守備表示になる!」

 

 熱戦を溜め照射しようとしていた『サイバー・ドラゴン』は、エネルギーを霧散させ防御体制を取った。船坂の場のマシンナーズモンスターも、同じように警戒態勢を取っている。

 

「正解は守る、だったね」

「いや、まだわからん」

 

 吹雪にそう言い返すケイだが、二人の目にはただの強がりとしか映っていなかった。

 

「……俺は、カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン、ドロー! まずはモンスターを反転召喚だ! 現れろ『マシンナーズ・ディフェンダー』(ATK1000)!」

 

 シアン色のボディが眩しい、先の二体とは一風変わった姿をしたマシンナーズモンスターが現れる。

 平たいボディは攻め入るのではなく、守るのを得意としているように見える。

 

「コイツのリバース効果で、デッキから『督戦官コヴィントン』を手札に加える! そしてコヴィントンを召喚する! 更に『マシンナーズ・ピースキーパー』のユニオンを解除する!」

 

 新たにモンスターが召喚され、ユニオンモンスターの装備も解除された。これにより、船坂のフィールドも五体全て埋まることとなった。

 しかし、召喚された『督戦官コヴィントン』を見た瞬間、亮の顔が険しくなった。

 

「丸藤、その反応だと、コイツの効果を知っているな?」

「……無論だ。同じ機械族の使い手として良く知っている」

「ならわかるな? 俺が今、何をしようとしているのか?」

 

 亮は答えない。わかるがゆえに、だ。

 

『ピーーーーーーッ!!』

 

 突如、コヴィントンがホイッスルを鳴らした。そしてそれに追従するように、ソルジャー・スナイパー・ディフェンダーが整列した。

 ギャラリーで見ている生徒達は何事かという目で見ていたが、数名のイエロー生は『面白いものが見れる』とばかりに笑っていた。

 

「督戦官の指揮の下、行動せよ! フォーメーションA、行動開始!」

『ピッピッピッ、ピーーーーッ!!』

 

 一際大きくホイッスルを鳴らす。すると三体の身体が分解し始めた。

 分解された『マシンナーズ・ディフェンダー』の足に、『マシンナーズ・ソルジャー』の胴体が取り付けられる。

 それを横にして四本足のような格好にすると、『マシンナーズ・スナイパー』の胴体が取り付けられる。その肩に、『マシンナーズ・ディフェンダー』の前足部分が三本、四本目の腕のように付け加えられる。

 残った部品が各所に散りばめられ、『マシンナーズ・ソルジャー』の頭をヘッドに付け、『マシンナーズ・スナイパー』のライフル銃を持ち直す。

 

「最強の一人軍隊(ワンマン・アーミー)、『マシンナーズ・フォース』(ATK4600)召喚!!」

『プシューーーー……』

 

 巨大な身体。

 破壊力を内包した腕。

 機動力を備えた足。

 彼方まで届くライフル銃。

 そして何より、永久に止まることのない機械の体。

 一人軍隊の名に相応しいその力は、まさに強力無比の塊だった。

 

「やはりか……」

 

 キッと睨みつける亮だったが、その攻撃力の前には何の意味もなさない。

 船坂は、召喚された最強のしもべに早速命令を下した。

 

「特攻せよ、『マシンナーズ・フォース』!」

 

 『マシンナーズ・フォース』がその巨体らしからぬ速さで『サイバー・ドラゴン』へ肉薄する。

 おもむろに肩の豪腕を振り上げた。

 

「一撃必殺! マシンナックルゥ!!」

 

 振り上げられた豪腕を振るうと、標的となった『サイバー・ドラゴン』は身体がバラバラに砕け散った。

 スクラップとなった『サイバー・ドラゴン』は深々と地面へめり込んでおり、腕を引いた途端に爆発した。

 

「『マシンナーズ・フォース』の攻撃時はライフポイントを1000払わなければならない! だがそれを省みてもあまりある破壊力! 力こそがマシンナーズ! 力こそパワーなのだ!」

「だが、守備表示ではダメージは通らない!」

「無用な心配だ! 俺はカードを一枚セットしてターンエンドォ! 丸藤、貴様のターンだァ!」

 

船坂弘一 LIFE3000 → 2000

 

 船坂のライフが大きく削られるが、それを意に介した様子もない。それどころか、デュエルが進むにつれて口調が荒くなっていた。

 

「随分と口の荒い奴だな」

「あんなの、同じクラスにいれば目立つと思うけどねえ」

 

 そう二人がこぼしていると、優介が口をはさんだ。

 

「あー……俺知ってるんだけど、あいつの家って軍人の家系らしくてさ……」

『…………あー……』

「テンション上がると軍人口調が出るらしい……親が自衛官でも有名な鬼教官なんだってさ」

 

 言葉の威圧感に圧されながらではあるが、負けじと亮も声を張り上げた。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は手札から速攻魔法『フォトン・ジェネレーター・ユニット』を発動! 二体の『サイバー・ドラゴン』を素材に、デッキから『サイバー・レーザー・ドラゴン』(ATK2400)を特殊召喚する! いでよ、『サイバー・レーザー・ドラゴン』!!」

 

 二体の『サイバー・ドラゴン』が分解され、新たなモンスターとして組み上げられる。

 『サイバー・ドラゴン』よりもシャープな頭部になり、尾の先にはレーザー銃のような突起が付けられた。

 

「『サイバー・レーザー・ドラゴン』の効果発動! このモンスターより攻撃力か守備力の高いモンスター一体を破壊する! 狙いは『マシンナーズ・フォース』! 破壊光線、フォトン・エクスターミネーション!!」

 

 尾の先のレーザー銃にエネルギーが蓄えられる。膨大なエネルギーは凝縮され、青白く光り始める。

 蓄えられたエネルギーは、『マシンナーズ・フォース』を目掛け放たれた。

 

「罠発動『フォーメーション・ユニオン』!! 戦線に立つ『マシンナーズ・ピースキーパー』を『マシンナーズ・フォース』へ装着する!!」

 

 レーザーが『マシンナーズ・フォース』の装甲を焼ききっていく中、分解された『マシンナーズ・ピースキーパー』の部品が装甲を補強するように取り付けられていった。

 

「『マシンナーズ・ピースキーパー』を身代わりにすることで、『マシンナーズ・フォース』は破壊を免れる! 一人軍隊は無傷だァ!」

「くっ……! だが攻撃する的は他にある! 『督戦官コヴィントン』(ATK1000)を攻撃しろ! エヴォリューション・レーザーショット!!」

 

 レーザー銃から第二射が放たれる。しかしレーザーが着弾するよりも早く、コヴィントンが爆発した。

 

「罠カード『デストラクト・ポーション』発動! 自軍のモンスター一体を犠牲に、その攻撃力分のライフを回復する! 俺へのダメージはゼロだ!!」

 

船坂弘一 LIFE2000 → 3000

 

 弱点と思しきモンスターへの攻撃だったが、それは躱された挙句に次の攻撃へ繋げられてしまった。

 丸藤亮は今、アカデミアでの最大の危機を感じていた。

 

「ぐっ……俺は、ターンエンドだ!」

「俺のターン、ドロー!! 俺は装備魔法『巨大化』を『マシンナーズ・フォース』へ装着する!! その効果により、『マシンナーズ・フォース』の攻撃力は倍加する!!」

『あ、やばい』

 

 そう言ったのは誰だったのか。それとも、その場の全員だったか。

 亮のライフポイントが2700に対し、船坂のライフポイントは3000である。しかし、攻撃する時にライフポイントを1000払うため、実質ライフポイントが下回るのは船坂である。

 『巨大化』の効果は、自身のライフが相手より勝っていれば攻撃力は半減、劣っていれば倍加するというもの。

 つまり、『マシンナーズ・フォース』の攻撃力は――。

 

「ゆけえ『マシンナーズ・フォース』!! ギガントマシンナックルゥ!!」

 

船坂弘一 LIFE3000 → 2000

『マシンナーズ・フォース』ATK4600 → 9200

 

 倍以上に思えるほど増大した腕を振りかぶり、『サイバー・レーザー・ドラゴン』へ襲いかかる。

 振りぬかれた腕は機械竜をたやすく殴り飛ばし、重力を無視した機械の身体は体育館の壁へと激突し粉砕された。

 

「これこそが一人軍隊! これこそがパワー! 我が最強の兵士の前に屈しろォォ!!」

 

 船坂が勝鬨を上げた。

 『サイバー・レーザー・ドラゴン』の攻撃力は2400である。『マシンナーズ・フォース』との差は実に5800で、たとえライフが万全の状態であっても容易にねじ伏せられる数値だった。

 デュエル中、舞台の外でデュエルを見守っていたクロノス教諭も、元より白い顔を更に白くした。

 

「(アワワワワ……ど、どうするノーネ。まさか、まサーカ、シニョール丸藤〜が負けてしまうなンーテ……)」

「フフフ……どうやら私の方が、目は確かだったようですね。クロノス先生」

「マスカルポーネ!? し、茂分センセーイ!?」

 

 クロノス教諭に茂分(しげわけ)と呼ばれた教師は、室内だというのにサングラスをかけている。そのサングラスの奥の瞳は、なんとも嫌らしい形に歪んでいた。

 

「言ったでしょう? 負けを知らない丸藤君では彼には勝てないと。彼は自分の弱点を知り尽くしていますからね、そこを補えるタクティクスも持っている。そして純粋に強い。イエローで最強と言われているのも、伊達や酔狂ではないということですよ」

「ヌグググググ……し、シカーシ……」

「もう決着はついたのです。さっさとコールしましょう」

 

 マイクを持ってデュエルリングへ立つ茂分教諭。依然デュエルリングでは、ソリッドヴィジョンにより映しだされた砂埃が舞っていて晴れる様子はない。

 マイクの音源を入れ、ギャラリーに座る生徒達に告げた。

 

『生徒諸君! たった今デュエルは決した! 勝者、ラーイエローのふ――――』

 

 不自然に、音が途切れた。マイクの音源が切れたのだ。

 勝者の名前を上げようとしていた茂分教諭は突然のことにしばし呆然となったが、すぐに握っているマイクの不調ではなく根本的なところの問題ということに気づいた。

 マイクがつながっている舞台外を見ると、そこには自分と同じように驚いた顔のクロノス教諭、そしてもう一人の顔があった。

 

「いけませんね、茂分先生。最後まで見ずに決めてしまうのは」

「さ、鮫島校長!?」

「さ、鮫島コウチョーウっ? 一体、どうしたんでスーノ?」

 

 二人の質問に答えず、校長はデュエルリングを静かに見つめた。

 

「御覧なさい。まだデュエルは終わっていませんよ」

 

 その言葉にデュエルリングを凝視する二人。茂分教諭はより明確に見るため、一度デュエルリングを降りた。

 やがて砂埃が晴れてきた。そこには、ライフポイントが全く変わらない二人の生徒が対峙していた。

 

「…………間に合ったか」

 

 亮は頬から汗を伝わせながら、そう呟いた。

 

「罠カード『ガード・ブロック』を発動させた。一枚ドローし、この戦闘で受けるダメージをゼロにする」

 

 ――――ワアアアアアア!!!!

 ギャラリーで固唾を飲んで見守っていた生徒達から、割れんばかりの歓声が響き渡った。

 船坂は一瞬驚いた後、悔しさ半分、喜び半分といった顔をした。

 

「俺の最高威力を受け流すとは、見上げたぞ丸藤!」

「そう簡単に、俺を倒せると思っていたのか?」

「ふん! 相変わらず大した度胸だ! 俺は『ブルー・ポーション』を発動し、ライフを400回復! ターンエンドだ!」

 

船坂弘一 LIFE2000 → 2400

 

 僅かにライフを回復した船坂の場には、攻撃力が倍となった『マシンナーズ・フォース』、それとセットカードが一枚残っていた。

 対する亮の場には『サイバー・バリア・ドラゴン』と『プロト・サイバー・ドラゴン』が残っているのみ。普段ならば頼りになるその守備力も、現状では焼け石に水程度にしかならない。

 だが亮はあきらめなかった。

 

「(俺が勝つには、俺の持つ最高パワーをぶつけるしか無い……。そのための一枚は『ガード・ブロック』で引けたが、後一枚足りない)」

 

 亮の手札には魔法カードが二枚あるだけだった。しかし、この手札では逆転はおろか、モンスターを召喚することもできない。

 意を決して、亮はドローした。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

 引いたカードはモンスターカードだった。しかし、このカードではない。

 だが亮は戸惑わずモンスターカードゾーンへと叩きつけた。

 

「『サイバー・ヴァリー』を召喚! そして効果発動! このモンスターと自分フィールド上の別のモンスターを除外することで、デッキから二枚ドローできる! 俺は『サイバー・ヴァリー』と『サイバー・バリア・ドラゴン』を除外! 二枚ドローする!」

 

 フィールドから消滅する二体の機械竜。その様子を見たケイは、静かに言った。

 

「これで引かなければ、負ける」

「……なんとなくわかるよ。もう亮は召喚権を使った。これ以上はモンスターを出せない」

「そして『プロト・サイバー・ドラゴン』で耐えてもせいぜい一回。文字通り、これが最後のドローだろうな」

 

 三人の他の生徒も、多かれ少なかれしゃべり合っている。だが、亮にはその全てが聞こえていなかった。

 周囲の音を完全に絶ち、並の立たぬ湖の如く精神を研ぎ澄ます。

 信じるのは、自分のデッキのみ。

 

「――――ドロォーッ!!」

 

 引いたカードは、魔法カード。

 亮が待ち望むカードだった。

 

「俺は手札から魔法カード『パワー・ボンド』を発動! 自分の手札、フィール上から決められたモンスターを墓地に送り、機械族の融合モンスターを特殊召喚する!」

 

 この言葉に、ギャラリーに波紋が広がっていく。

 『パワー・ボンド』は機械族専用の融合カードである。しかし、亮の場には『プロト・サイバー・ドラゴン』一体のみ。手札に他のモンスターでもいるのかと、生徒達は互いに聞きあった。

 

「丸藤! 貴様、ついに頭が壊れたか!? 貴様の場には『プロト・サイバー・ドラゴン』が一体のみ! そして貴様の持つ融合モンスターは『サイバー・ツイン・ドラゴン』と『サイバー・エンド・ドラゴン』のみ! 更に『サイバー・ドラゴン』は全て墓地にあり、融合など不可能だ!」

 

 亮はバカではない。自分の持つ融合モンスターくらい把握しているし、自分の墓地も把握している。

 そして当然、このままでは融合召喚など不可能であることも承知していた。

 そう。このままでは、だが。

 

「……その通りだ。俺の墓地には、三体の『サイバー・ドラゴン』が存在する」

「ならば何故だ!? 血迷ったか!?」

「速攻魔法! 『サイバネティック・フュージョン・サポート』発動!!」

 

 突如、フィールド上に不可解な現象が起きた。

 亮のフィールドに存在するのは、『プロト・サイバー・ドラゴン』が一体のみのはず。

 しかしこの瞬間、確かに三体の『サイバー・ドラゴン』が存在したのだった。

 

「『サイバネティック・フュージョン・サポート』はライフを半分払い、このターンのみ機械族の融合召喚に必要な素材を墓地から除外することでこのカードを代用することができる! 俺は、墓地から三体の『サイバー・ドラゴン』を除外する!」

 

 ――――バチバチバチバチッ

 電気の弾ける音がフィールドにけたたましく鳴り響く。

 『サイバネティック・フュージョン・サポート』にエネルギーが集中し、漏れだした電気が互いに干渉し合い音をかき鳴らしていたのだ。

 そして溜められたエネルギーは臨界点に達すると、一層強い光を放った。

 

「――現れろ。『サイバー・エンド・ドラゴン』」

 

 大きな身体に三つ首がつながれている。背には屈強な鉄の翼を持ち、その立ち姿は威風堂々。

 正真正銘、亮のエースモンスターにして切り札。

 史上最強の機械竜が、フィールドに降臨した。

 

「な、なんということだ……!」

「スーープレンディーーーーッド!! シニョール丸藤! やはりアナタは素晴らしい生徒でスーノ!!」

 

 怒涛の融合召喚に、二人の教師は反する反応を取る。

 その後ろでは、鮫島校長が未だ静かにフィールドを見据えていた。

 

「…………見事だ、亮」

 

丸藤亮 LIFE2700 → 1350

『マシンナーズ・フォース』ATK9200 → 4600 → 2300

 

 亮のライフが船坂を下回ったため、『巨大化』の効果が逆転した。

 巨体だった一人軍隊の身体は小さくなってしまい、今や見る影もない。

 

「『パワー・ボンド』によってい融合召喚された『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃力は、倍になる」

 

『サイバー・エンド・ドラゴン』ATK4000 → 8000

 

 先ほどの『マシンナーズ・フォース』に見劣りすることもなく、サイバー・エンドはその威光を振りかざした。

 

「ラストバトル! 『サイバー・エンド・ドラゴン』(ATK8000)で『マシンナーズ・フォース』(ATK2300)を攻撃! エターナル・エヴォリューション・バーストォ!!!!」

 

 三本の首から照射される、極太の超熱線。それが互いに干渉し、一本の線となる。

 だが船坂も、この程度で諦める男ではなかった。

 

「永続罠『光の護封壁』発動! 2000ライフポイントを払い、それ以下の攻撃を無効にする!」

 

 この時、数人の生徒は『何故今使うのか?』と考えた。しかしその他の生徒は皆、船坂の執念深さに驚いた。

 『光の護封壁』の真の目的は、そのライフコスト。亮のライフを下回ることこそ、船坂の狙いだったのだ。

 

船坂弘一 LIFE2400 → 400

『マシンナーズ・フォース』ATK2300 → 4600 → 9200

 

「ライフが下回ったことで『マシンナーズ・フォース』の攻撃力は9200まで上昇! 迎え撃て! ギガントマシンナックルゥッ!!!!」

 

 肩の装甲を使い、サイバー・エンドの攻撃を一身に受け止める一人軍隊の大兵士。

 一歩、また一歩と、攻撃を食い止めながら歩みを進めた。

 

「……やはりか」

「なにィ?」

「船坂。お前は強い。だからこそ必ず俺のサイバー・エンドの攻撃力を上回ってくると予想した」

「……」

「だが、終わりだ」

 

 そう言うと、サイバー・エンドの熱線が威力を増した。受けながらも歩み続けていた大兵士が、押され始めたのだ。

 

「速攻魔法『リミッター解除』発動! サイバー・エンド・ドラゴン」の攻撃力を二倍にする!!」

『なにィィィィ!?』

 

 ギャラリーから声が重なって響いた。

 

『サイバー・エンド・ドラゴン』ATK8000 → 16000

 

 『サイバー・エンド・ドラゴン』の発する熱線は更にその太さを増し、『マシンナーズ・フォース』では最早受け切れない程大きくなっていた。

 このままでは一人軍隊が崩れ落ちるのもすぐであろう。そう思った時だった。

 

「本軍はこれより最終計画に突入する! 発動せよ! 『リミッター解除』!!」

「なんだと!?」

 

 船坂の場に伏せられていた最後の伏せカード。それは亮と同じ、『リミッター解除』だった。

 大兵士の身体が、更に大きくなる。その所々からは反動に耐え切れなくなった装甲の破片がパラパラと落ちている。

 そして再び、サイバー・エンドに向かって進みだした。

 

「タイミングを誤ったな丸藤! 我が最強の『マシンナーズ・フォース』は、その攻撃力を更に倍加させる!」

 

『マシンナーズ・フォース』ATK9200 → 18400

 

「こ、攻撃力18400ぅ!!?」

「躱せ! 丸藤ーー!!」

 

 吹雪と優介は思わず立ち上がり、亮の名を呼んだ。しかし、二人が立ち上がろうと、叫ぼうと、ケイだけはただ悠然と座り続けた。

 視線の先には亮、いや、その手札があった。

 

「(……おそらく、あれは……)」

 

 亮は考えた。時は違えど、ケイも考えた。

 亮のデッキの本分はなにか、と。

 『サイバー・ドラゴン』? 確かにそうだ。

 機械族? そうとも言えるだろう。

 圧倒的なパワー? そう言えなくもない。

 いくつも当てはまり、同時にいくつも外れていた。

 亮のデッキは、あらゆるデュエリストをリスペクトするものである。

 相手が搦手で来ようとも、正攻法で来ようとも、圧倒的防御力で来ようとも、そして圧倒的攻撃力で来ようとも、全てをリスペクトするデュエルをすることこそ、亮のデッキの本質である。

 ならば、この場合はどうするのか?

 相手は『マシンナーズ・フォース』。単体で『青眼の究極竜』を上回る攻撃力を有し、今は様々な手で攻撃力を最大限上げている。

 この相手を、どう相手取るのか?

 答は自ずと、導き出された。

 

「速攻魔法『決戦融合-バトル・フュージョン』発動!」

「ヌゥ!?」

「自分の融合モンスターがバトルする時、相手の攻撃力を自分に加える! よって『サイバー・エンド・ドラゴン』の攻撃力は!!」

 

『サイバー・エンド・ドラゴン』ATK16000 → 34400

 

「ウオオオオォォ!! ファイナル・エヴォリューション・バーストォォォォッッ!!!!」

 

 最大威力の大激突。

 反動に身体が保たず朽ち始め、崩壊した。

 限界を超えた身体に、身体を動かすためのエネルギー源が暴走する。

 身体中のあらゆる場所をエネルギーが駆け巡り、収束、膨張、圧縮を繰り返す。

 やがてエネルギーは一箇所に、心臓を冠する部分に集められ、フィールドの全てを巻き込みながら大爆発を起こした。

 

「――――俺は、負けん!」

 

 亮が勝利した瞬間だった。

 

船坂弘一 LIFE400 → 0

 

 

「あー……コホン。では亮の勝利と代表選抜を祝って――――カンパーイ!!」

『カンパーイ!!』

「……前にもこんなことをした気が……」

 

 テーブルを囲んで、数人の生徒が各々自由に菓子をつまんでいく。

 外はすっかり夕焼けが映え、遠くの海には太陽が沈んでいくところだった。

 

「いやぁ驚いたよ! 攻撃力30000オーバーとか中々お目にかかれないよ!」

「吹雪、イタッ、痛いんだが……」

「ほら丸藤笑って! ピース!」

「いやいや流石ですねぇ! 今月の特ダネいただきました!」

「……お前ら自由だな」

 

 吹雪は亮の背中を叩きながら笑っている。

 優介は亮と吹雪と肩を組んで写真を撮っている。

 絢はその様子を色んな角度から写真に収めている。

 ケイはそれを見て呆れていた。

 

「あ、あははは……」

「……そういえば龍剛院がいるのは珍しいな」

「あ、それは……」

「あーハイハイ! 私が呼んじゃいました!」

「よろしいデコを出せ」

「デジャブ!?」

 

 真理は大いに盛り上がる彼らを見て、ただただ苦笑いするだけだった。

 

「それにしても……ププッ」

「……何がおかしい」

「丸藤カッコ良かったねぇ。特に最後の『俺は負けん!』だっけ? 最っ高にクールだったな!」

「言うな! 忘れろ!」

「あっはははは! 無理! もー無理! あっははははは!!」

「忘れろォ! 吹雪、忘れるんだァ!!」

 

 最後に亮のはなった台詞を思い出した吹雪は腹を抱えて笑い出した。

 

「楽しそうだねー」

「そうだな。普段はもう少しおとなしい…………いや、大体こんなものか」

「あはは。やっぱ早乙女君達といる方が楽しそうだね」

「苦労させられるがな」

 

 亮が吹雪の襟首を持って前後にガックンガックンと揺らしていなければ、今頃『お前が言うな!』と三人口を揃えて言っていただろう。

 テーブルの上の菓子やジュースが少なくなっていくにつれて、乱痴気騒ぎもナリを潜めていった。

 

「そういえばノース校の代表って決まっているんだよね?」

「ああ。確か……江戸川、と言う男が相手のはずだ」

「江戸川?」

 

 その名前に、ケイがピクリと反応した。

 それに目ざとく反応したのは絢だった。

 

「知っているんですか?」

「……ノース校の中等部で、一番強かった奴だ。その強さから『キング』と呼ばれていた」

「へえキング! そりゃあ強そうだね!」

 

 大袈裟に吹雪が驚く。反面。対戦する亮は冷静だった。

 

「ケイ、その江戸川という男のプレイスタイルは?」

「パワー型だ。ただし船坂と違い、かなりスピーディーだ」

「そういう奴とばっかり縁があるな、丸藤は」

「けど相手がわかっているなら、戦いやすそうだね」

 

 優介と違い、真理はかなり楽観的に見ているようである。誰もそれが悪いとは言わないし、今この場で言うべきではないと察知したのだろう。

 宴もたけなわとなり、外も暗くなってきた。

 良いネタが出来たとホクホク顔の絢と、それに連れてこられた真理も帰るときは笑顔だった。

 

「暗いし送ってくるよ」

「ああ。……襲うなよ?」

「できない約束はしないタチなんでね」

 

 そんな軽口を叩く吹雪だけでは心配だということで、吹雪と優介の二人で送っていくこととなった。

 四人が抜けて、二人だけとなった私室でケイは亮に聞いた。

 

「亮。江戸川のことだが……」

「ああ」

「……おそらく、相手にならないぞ」

「…………は?」

 

 何を言っているんだと言わんばかりんに目を丸くする亮だが、ケイはいたって真剣だった。

 

「江戸川と言う奴は、ノース中学最強だったのだろう? 何故相手にならないと思う?」

「……簡単な話だ。あいつは別に、最強じゃない」

「…………話が矛盾しているぞ」

「ああ悪い。大勢いると話せなくてな。特にネタに飢えた新聞部、とかな」

「……それで、どういう意味なんだ?」

 

 コップに注がれたジュースを一気に飲み干し一息つくと、ケイは話しだした。

 

「俺がノース中学出身というのは、知っているな?」

「ああ」

「……江戸川は、何度か負けている」

「……普通だと思うが」

「ああ、普通だ」

 

 だが、と一言入れ間を置く。

 

「勝ったのは、俺だ」

「………………待て、話が見えない」

「……簡単に言うと、俺は江戸川より強かった」

 

 ケイの言いたいことが理解できない亮は、やや苛立ったように聞いた。

 

「だから、それはどういうことだ?」

「……江戸川は、本来あまり強くないんだ。デュエルの腕は上の中、使うカードもパワータイプで、特別強力なカードや、目玉の飛び出るようなレアカードも持っていない」

「なら、どうして一番強いと言ったんだ?」

「……江戸川の強さは、デュエルタクティクスじゃない。それより前の、情報処理能力にある」

 

 情報処理能力。

 一概に言うと、相手のデッキを分析したり、そこから相性の良いカードを導き出して対策を組んだりする能力のことである。

 無論それは対策だけにとどまらず、そこから自分で使える戦術を模倣したり、逆手に取るためのコンボを組んだりするのも情報処理能力の高い者なら簡単にできる。

 

「あいつは自分がデュエルするよりも前に、まず相手を徹底的に分析する。そこから対策を組み、徹底的に相手を攻略した後、単純なパワーで勝利する。繊細かつ大胆、といったタイプのデュエリストだ。だからこそあいつは、全生徒のデッキを分析し、デュエルを解析し、勝利し、生徒で一番強くなった」

「……だが、お前がそれより強かったというのはどういう意味だ?」

「単純な話だ。ノース校は実力主義の縦社会、弱いカードはゴミのように捨てられていく。それを拾い集め、組んだデッキで勝った。それだけの話だ」

 

 それだけ、とケイは言い捨てたが、捨てられたカードで組んだデッキが強いはずもない。

 亮は妙な引っ掛かりを感じ、更に問いただした。

 

「お前は、どうやって勝ったんだ?」

「江戸川と同じ事をしたよ。徹底的に江戸川のデュエルを分析して、解析して、挑んだ」

「だがデッキは捨てられていたカードを集めたもの、つまり寄せ集めだ。どうやった?」

「攻撃力主義の学校で、低攻撃力の優秀なモンスターを集め得るのに苦労はなかったな」

「優秀なモンスター?」

「ああ。『逆巻く炎の精霊』や『ものマネ幻想師』なんて、その時の戦利品だな」

 

 亮はにわかに信じられなかった。

 元々ケイは低攻撃力や低レベルのモンスターを使うことが多かったが、そこにそんなルーツがあるとは露とも知らずにいた。

 

「……さて、以上が、江戸川が最強ではないという話だったが……亮」

「なんだ」

「このままでは、間違いなく負ける」

「……やはり話に矛盾があるぞ」

「そういうな。さっきも言ったが、江戸川は情報処理に関してはノース校で一番だ。間違いなくお前の対策を組んでくる。だから、今のままでは確実に相手の罠にかかってお陀仏だ」

「ひどい言いようだな」

「事実だから仕方ない。お前の信念にあるリスペクトデュエルの正反対にある戦術を相手は使ってくるわけだが……お前はどうする」

 

 亮は考える。ケイの話通りなら、このまま何もしなければ間違い無く負ける。そう言われたのだ。

 だが相手に合わせ対策するのは、自分で信じるリスペクトデュエルとは別のものになってしまう。

 リスペクトを取るか、学園の尊厳を取るか。答えは、見つからない。

 

「……まあ、結局は俺の戯言だ。それに今、あいつがどうなっているのかも分からない。頭の隅にでも置いておいてくれ」

「…………中々ひどいな。ここまで話されたら、意識するなという方が無理じゃないのか?」

「最後に決めるのはお前だ。それに友好デュエルは週末、あと三日もあるんだ。ゆっくり決めた方がいい」

「……そう、だな」

「たっだいまー! いやー春先だっていうのに夜は冷えるねー! あ、そこで温かいの買ってきたよ」

「ただいま……。まったく、吹雪が騒ぐせいで女子寮の寮監に目つけられたよ」

 

 二人が帰ってきたところで、この話はお開きとなった。

 亮の中に、かすかな揺さぶりを残したまま。

 

 

To be continued...


 
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