No.525436

真・恋姫無双 花天に響く想奏譚 12話ーA 其の一

華狼さん

 今年も今日でおしまいですね。 ってなわけで行く年に付き合って下さった方々、来る年もまた宜しくお願いします。
 今回はようやく、ようやく視点と視点の合流と相成ります。 故に『OVERTURE To the Crossing』(交点への序曲)なのですよ。 彼女と彼女達がやっと一緒になってくれます。 ここまで本当に長かった。 今回を今年最後に出せて丁度良かったです。
 それと、 ……七乃さんがやらかしてくれます。 あぁもうなんで私の中の七乃はこうなるのかなぁ……
 ってことで、さぁどうぞ。 次は巳年でお会いましょう。

2012-12-31 01:59:09 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1199   閲覧ユーザー数:1068

 

 

 

 

  < 12話ーA 其の一  OVERTURE『To the Crossing』>

 

 

 ・汝、大いなる焔なるや唯消える石火なるや ~出会いへと~・

 

 

 

 

 

 どこまでも続く蒼。

 

 

 風を従えて。 白雲をなびかせて。

 

 

 形無い物々を伴う蒼の天球。

 

 

 其れ即ち、縛るもの無い自由。 其れ即ち、無限の空。

 

 

 

 

 その蒼のもと、道行く者が一人。

 

 颯々とした風が木々の枝葉、路傍の若草を撫で行く中、彼女は空を見上げて言う。

 

 

 「ここはどこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 ……ってか、叫んだ。

 

 

 

 魏延 文長、真名を焔耶。 ただいま絶賛迷子なう、であった。 どこかって、どこかの山道である。

 

 

 

 

 

 ・状況説明

 

 

 ……はぁ。詩的を気取った文をもう少し続けたいところではあるが。 それは因果か運命か叶わない様子。 何の因果ってこの私が書く物語であるって運命。ね。

 

 では溜息もそこそこに、焔耶がどうしてこうなったかを説明するところから始めましょう。 

 

 さて明朗快活な青空の下 しかし周りは木々の群れが立ち並ぶ山道を歩く焔耶は、

 「むぅぅまだ続くのか… 道があるならこの先に絶対人が居るはずなんだが…」

 独白し ちょっと背伸びをして道の先を見る。 が そんなのでなにかが新たに見えるはずも無く、いい加減に足が疲れたこともあって近くにあった岩の表面を手で払い、手の得物の鈍砕骨をその岩に立てかけつつ自身も荷を地に置いて岩に腰掛けた。

 

 現在、昨日から今立っている山道を単身行軍している状況。

 昨夜は日が落ちた時点で出立した邑に戻ることも出来たのだが、途中で道を間違えたらしく行き止まりの末の野宿といった次第。 そのせいもあるのだろう、疲れが抜けきっていないのは。

 だが別段野宿に関してはどうということもない。 小さい頃から育ての親である厳顔 伯貌こと桔梗と喧嘩しては外で過ごしたりしてたからある程度の慣れはある。

 

 ……ただそれはいいのだが、

 

  …いつになったらワタシの力で人を助けてやれる機会が来るんだ でないと今こうしている意義がないのに…

 

 傍から見れば顔は目の前の道の上の どういう因果か卑猥な形の配置になっている三つの石をぼんやり見ているように見えたことだろうが。

 当の焔耶はそんなもんには気付いておらず、 意識は心の中の そう、焦りに向けられていた。

 

 

 桔梗の屋敷を飛び出してどれくらい経ったか。 焔耶は流れ流れてどこかしらに流れ着いていた。 いや別に川に落っこちてどんぶらぷかぷか漂流したわけじゃなくてね?

 

 今居るところは道の上。 そう道の上ではあるのだが、…いかんせん周囲は木々が広がる山中、おそらく今の道を行けばいずれ街なり邑なりに着くことは出来るだろうけど、距離も そもそもどの辺りに居るのか位置関係すら掴めていないのが現状。

 知らない道を行くのなら諸々の位置関係ぐらいは把握しておくのが常。

 なのに焔耶が今こうして迷子になっているのは一応理由はあるのだ。

 

 昨日に出立した邑でのことである。

 何の気まぐれか、ここで一つ道を訊かずに行ってみようなどと思い立ち邑を出た もとい出てしまった焔耶。 それが此度の迷子の原因だった。

 …あぁ分かってる、理由になってないことぐらい。でも現象としての理由はこういった次第で、思い至ってしまった理由の説明はこれからである。

 

 

 桔梗の屋敷を飛び出してから、まぁ色々とあった。

 家出は前々から画策していたことだったので、先立つもの 即ち路銀は十二分に蓄えをしていたから金銭的な問題は無かった。 それどころか移動を兼ねた荷馬車の護衛の仕事を受けたりと金銭補充の機会はいくつかあったぐらいだ。

 

 しかし金銭はいいとして、問題なのはまともに世直し的な機会に遭遇できていないことだった。

 

 否、正確には『渦中に居ることがなかった』が正しい。

 幸か不幸か、賊が村や街を襲うといった場面に直面することは無かった。そう、直面することは。

 

 ・

 

 例えばある日。 宿を借りようと村を見つけたとある日の場合、尋ねてみると何やら内部や入り口部分が破損している家屋が数軒。

 聞けば少し前に野盗の集団が押し入り被害をこうむったとか。 しかし再び来た際に村民力を合わせて立ち向かったところ、…死者は一名出たものの、縛り上げることができたらしい。

 

 ・

 

 また別の日。 寂れた邑に立ち寄ると、どうやら為政者が重い税を課しているせいらしかった。

 だが残念、焔耶にはそういった案件を解決するだけの技量は無かった。

 こういった場合より上の統治者に訴え出るか、はたまた重税の不満を理由に蜂起して引き摺り下ろすなりする手はある。

 ただし。 前者の場合為政者の報復を阻止などする必要があれば諸々の問題を完全に消化しなければいけないし、後者に関しては蜂起を正当化することは絶対条件である。

 

 

 上記の如く、人が困っている場に遭遇することはあった。 しかしそれらを解決に導くことは叶わなかった。

 

 上の例では巡り合わせが悪いといえばそれまでだが、かといって適当な村や街が襲われるまで逗留し続けることは出来ない。

 その下の例に至ってはまず頭脳が要る。

 もしくは、為政者やその上の統治者に影響することが出来るほどの権力があれば良かった。

 統治に関する問題は腕力よりも、明晰な頭脳が不可欠なのであった。

 

 焔耶の育ての親である厳顔 伯貌こと桔梗は太守を務めている人間。 その桔梗の側近…とは違うが焔耶は近い位置に居る。

 が、今は家出の身。 元より桔梗の権力を傘に着る気は一切無いが、今になって思えばやはり権力はあって然るべきだった。

 それに加えて物理的な腕力、時には資源や金子も居るだろう。

 

 それらを総括して考えると、『軍を持つ統治者という力の形を良い方向に使うこと』が一番人助けに適していると出来る。

 特に今の世の中は統治者の段階で問題が起こり、その弊害で賊や野盗が増えているのだから。

 

 でも焔耶はそれに嫌気がさして出て行ったわけである。 

 大所帯は動きが鈍い、それ故死角も大きくなる。

 その死角を補うべくと奮起したのがそもそもの始まりなのである。 …まぁ先走った義侠心が根底にある反骨心故であることも、焔耶が自覚していない事実なのだが。

 

 なのに一周回って鼠の嫁入り、結局は統治者層に身を置いておくべきだったなどとは。 皮肉と言うのか然れども真理か。

 

 …と、上記のように地の文で委細を述べさせてもらったが。

 

 「…、 あぁもう!とにかく考えるよりは行動だ! まずはひと気のあるところに出ないと話にならん!」

 焔耶当人が小難しく考えてることは無かった。 理由は脳筋、それ以外に無い。

 思考に頭が回らない時点でそれは無計画な行動に他ならず、なれば焔耶がこうなるのは遅かれ早かれ必然だったのかもしれない。

 

 

 で、当初のどうして道を訊かずに邑を出たのか の件だが。

 要は巡りあわせも無く、かと言ってどうすればいいのかも分からない自分の現状にイラついていて、自棄がちょっと顔をのぞかせた訳である。

 

 

 

 

 ・

 

 

 で。 話は焔耶が気を取り直して木々の間の道を再び行くところから再開させることとする。

 水筒の水で喉を湿らせたりしながらそのまましばらく足を進めていくと、徐々に木々の密度が薄くなりやがて目の前には空と遠景が広がった。

 その遠景の中に何かを見留めた焔耶は小走りして前に出ると、

 

 「ん? あっ あったぁ!」

 周囲の木々と共に焔耶の顔がぱっと晴れる。

 どうやら山を抜けたここは今の山から平地へと続いている所らしく、向こうに目を向ければ家々の集まった割と大きい区画が見える。 

 今の場所と家々の区画との間には森が広がり、その森を大きく蛇行し貫くような道が傍らから続いていた。

 

 ようやく人の気配が見えたことで少しは気持ちが上を向いた焔耶は、兎にも角にも人の気配のある場所へ行くことを第一として平地へ降りて行くこととなった。

 

 

 

 さて 思えばここからだろうか。

 

 否、焔耶が自棄気味に道を聞かずに邑を出たところからだろうか。

 

 そうではなく。 世を憂う正義感 義侠心によって焔耶が家出をした時点で、

 

 焔耶のこれからの出会いは確定していたのだろう。

 

 

 

 焔耶は、 彼女達と出会うこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・ぶろーくんプリンセス ~仮にセクハラだとしても、セクハラと言う名の授業だよ! と その他 ~・

 

 

 

 ・【ジャスティスノイズ!】

 

 

 先に述べておくと。 【】の中は規制音と思ってください。 別名ここでは『ジャスティスノイズ(正義の雑音)』

 

  例: あははっ キミが【『寄生虫』って書いて『ニート』って読むことぐらいは知ってたら】私嬉しいなっ。

 

 あぁ おっけー。 カバー出来て柔らかいかんじになってる。

 因みに規制音取っ払ったセリフは【'(;rC]3j06m,juhgU!~=%hw09tkiie@-wekgp】となっています。 まぁなんと酷い皮肉と罵倒でしょう。

 

 それと一応言っとくと、これは前回の美羽達視点をそのまま続けてるので。 前のを読んでからそのまま読んだほうがより分かりやすいかもですね。

 

 ではどうぞ。

 



 

 「好き合って夫婦になったら子供をもうけます。

  端的に説明するとここ、俗には【いや】って言いますけどここに【もうほんと】を挿入れて白【しょっぱなから】を奥の【こんなんで】に出されると【すいません】して、十月十日したら子供は産まれるんです。

  当然そんなところを見せ合うわけですから、色々状況の差異はありますけど相応に大切なことなんですよ。」

 

 よっし、規制音がいい仕事してる。 謝罪を同時にするとは流石は我らがジャスティスノイズ!

 

 「で でも本のは 痛いって…」

 「あぁそれは大丈夫ですよぉ。 実は『ここ』には奥にある さっきも言った【っと危ねぇ油断した!】ってところまで繋がってる隙間がありますから。 美羽様の【だぁもう】にも割【やめぇ!】るでしょう?

  口の奥にもお腹に続く穴があるのと同じですから、別の言い方で『【@】の口』とか言われてますねぇ♪」

 …一応説明しておくと。 ここ と言ったとき、七乃は下腹部よりも更に下の部分、足の付け根の間のまぁいわゆる【やっぱ書けません】を 手で押さえて示していた。 しかもあろうことか、地味なスカートをたくし上げて露出させた下着の上からである。

 そこまでした理由はもはや女の子同士だから恥ずかしくないもんっ ってことではない。 したかったからしたのです。だって七乃さんだもの。

 それに際した七乃さんの表情は美羽の前での下着露出とのコンボでなんかもう背徳感で上気した素晴らしいものであったよ。 セクハラもいいとこである。

 「……では ここのは子【だぁもう小さい子に何言わせてんだ】るためにあるのか?」

 「その通りです♪ 痛いのはこの奥に【おい作者いい加減に】があってそれを破」

 因みに部屋は蝋燭のおかげで一応の明るさはあるがそれでも暗がり。

 そんな中、寝台の上で上気した七乃がちょっと脚を開いて下着を露出、【だからやめろバカ】に手を添えてるこの状況。美羽が羨ましいと思ったらその瞬間に負けな気がする。

 そして美羽はイケナイことを聞いてるという意識もあってか真剣そのもの。 授業の態度としては満点花丸ってなもんだけどこんな授業なんか肯定できるか。 お巡りさん、七乃さんです。

 

 

 さぁこんな出だしで申し訳ない気持ちだけはいっぱいいっぱいですが暴走特急NANANO-Ⅲは止まらない。ガンガン行こうぜBeyond the horizon。

 駄菓子菓子。 そもそも出だしの説明からしないといけないのか。どうしてこうなった。 作者も自身に肉体言語で強制聴取したい。頭を殴れば治 りはしないか。むしろますます悪くなる。

 

 さて。 例の御本の一件から、美羽と七乃の時間は夜へと移る。

 昼中にはちょっとした都合のいいことに巡り合わせて明日の行動の目処も立ち、本当にちょっとだが気も和らいだ七乃は、

 

 ……はい、ついに『授業』に取り掛かることにしました してしまいました。 あぁそれと本は頂戴する なんてことはせずに元の場所に置きっぱにして、その数分後に落とし主がようやく見つけて回収したことを一応記しておく。

 

 何の授業ってそれはもう言わせんな恥ずかしいってな具合の内容の上記の如くです。現代で言う保健体育の保健のほう。

 そう その保健のほうをかなりディープな部分からスタートさせたのである。 初っ端からあんな御本に目を通してしまっているのだから暈して迂遠に言う必要も無く、知ってしまったなら正しい知識を教えたほうがむしろ健全との考えだが七乃さん、だからってそれはあまりにもあんまりではなかろうか。 

 保健どころか『いやらしいな おいっ!』な段階をすっ飛ばしていて、それを子供に教えるのはなんかの罪状に問われるかもしれないけどそんなもん今の七乃さんにはなんの縛りにもなりません。

 

 で、こっからアレ加減はもっと加速する。 ジャスティスノイズ大忙し。

 

 「男女が【やめろってのに】するっていうのはそれだけで相手を大事に思ってるって証明みたいなものなんです。

 『あの本』の想い人同士がやってたのも、主が女中を好いているからであり、また女中も主の寵愛を嬉しく思ってるからこそです。

 ですけど逆に言えば女性を征服することにもなりますから【以下割愛想像は自由だ】。」

 『交わり』についてちょっと真面目なこと言ってると思えばこれだよ。 例の御本の内容をインモラル気味にした内容を即興で言えるのは何かの才能だろうか。

 

 「【あぁもう】る方法は例えば【テレビとか】を口【だったら】したり、本のなかでもヤってた縄でギチギチに縛【規制音ばっかで】も含めた全身を余すとこ無【何言ってるか】たりですねぇ。

  ナカに挿入れ【意味不明ってな】下手したら【ぐらいですが】うので、どれだけ手足や他のところで気持【広い心で】してあげるかが【御容赦下さい】。」

 「ほかのところ…?」

 

 やめろ やめるんだ美羽聞くな七乃さん教えるな、そんなマニアックなの知ったら

 

 「はい、腋とか。 男性のアレ、広くは【しかしこの作者は】って言い方で呼ばれるモノですけど、あれは棒みたいな形なので腋や、胸が大きい女性なら挟【七乃を何だと】です。

  私もたぶん挟【思っているのかまったく】かもですけど、こーやって谷【ファンの人達】押さえつけて上下に【ごめんなさい本当に】するんですよ♪」

 言うと七乃は二の腕で胸を寄せて谷間を深くすると、手を手刀にしてナニかに見立て その谷間に押し付ける。

 そして胸を上下に、ナニかに見立てた手に擦り付けるように動かすジェスチャーをしでかしましたこの人。

 ランクとしては充分にあるほうなので、手を挟んだふくらみが 衣服を下から押し上げる柔らかくしかし確かな質量の双丘が上に下にふよんふよんと。 手を埋めてあるから余計に谷間が強調されててこれはひどい。且つひy。服の上からでも分かるぞなに勃ててるんだ七乃さん(ナニをとは明記しない)。

 

 …だめだった。私の声も七乃さんには届きすらしなかったよ。 いや地の文の作者の声が届くわけねぇだろってところは言いっこなしで。

 

 

 さて、他にも七乃は『あ~んなこと』や『こ~んなこと』を、本当は知ってるだけの淑女で耳年増な知識を美羽に伝授していった。 それらには淫 間違えた 隠語とか通俗的な単語だとかもたっくさん込みであり、美羽の同年代どころかそこらの片田舎の女盛りよりも多くのアレな知識を手に入れてしまいました。 めでたしめでた

 

 めでたか無ぇよ。 『食べる』とか『花びら』とかの普通な単語すらまともに捉えられなくなったらどうするの。 …あぁ だから幼年期に知るのは駄目なんですね。人格構成に関わるから。

 

 「でもこんなこと人の前で話題にしちゃだめですよ? 人前で全裸になるみたいに恥ずかしいことですからね。」

 が、そこは美羽に対するこういった配慮とでイーブンにしてあげて欲しい。 イーブンに出来るわけ無いだろ? そんなの作者が一番分かってますよ。

 それとついでに、

 「じゃあ、七乃はその、やったことあるのかの?」

 「いいえ、無いんですよ。 美羽様以外の人に仕えたことはないですし、男の人を好きになった事も無いですし。」

 「ぇ? それならなんでそんなに知ってるのじゃ?」

 「それはそれ、ああいう本は多くありますから。 もぅ ほんとは美羽様ぐらいの人が読んだらいけないんですからねぇ♪」

 いけないと言いつつも咎める風でないのは、頭ごなしに怒るよりは評価できる… と しておくこととする。

 

 何はともあれ 大事な部分も余計な部分も玉石混交に一通りの伝授は完了。

 美羽へといけないことを口頭で堂々と教えられたことで七乃の頭の中は春の如くになっていた。 春真っ盛り的な意味で。春の陽気は眠気を誘うが、さて今宵の七乃はまともに眠れるのでしょうか。

 

 「ってところで。 今日のところはここでやめておきましょう。 明日からのこともありますからね。」

 色々と出し切って満足したらしい七乃は、明日のこともあるからこのあたりでと切り上げた。

 

 

 あとは夜も更け行く頃だから寝るのみであるが、なにやら不安そうな美羽が七乃にぽつりと訊いてくる。

 

 「…のぅ 七乃。 妾もいつか、殿方とそういうことをするのか?」

 「あら美羽様もうそんなこと考えちゃいますかぁ。 小さいのにそんなこと言うのはダメなんですからねぇ?」

 とか言いつつ、ついには『あの美羽様が美羽様がまだ小さいのにこんな話できるなんてはぁぁ私もうどうなっちゃうんですかぁぁぁっ』みたいなダメ思考に陥りかけてお腹の下辺りがきゅっと熱くなる始末の七乃。 もうどうにでもなれよ としか。

 「だ って、 痛いのは嫌なのじゃ…… 痛いことなど妾はしたくないのじゃ。」

 「そういうことですか。 でも美羽様?【まだ出番かっ!】っていうのは、言ったように本当に好きな人としかしたらいけないんですよ。 もし本当に好きになった人となら、その痛みすらも得難いものになるんです。」

 「痛いのが、よいものなのかの?」

 「それはそれでまた違う意味になっちゃいますけどねぇ。

 大事なのは最初で最後の【あぁもうアウト】をされてもいい むしろして欲しいって思える人を見つけることです。」

 

 と、存外にロマンチックないいことを七乃が言ったところで、

 

 「でもやっぱり痛いのはこわいのじゃ……

 

 じゃから七乃、 妾がするときには一緒にいてくれるかの?」

 

 ……、美羽からすれば怖いことなら七乃と一緒に臨むと思うのはまぁ当然のことなのだろうが。 七乃からすればもうこの世の春大爆発 春気爛漫 桜花絢爛ってなことを言ってのけた。

 

 美羽の返しで七乃の思考に一瞬空白。 

 その一瞬の間に刹那の妄想がいくつもスパーク、肌色とピンク色とあれこれの花火がどんどんぱふぱふ。

 内容はまぁもうはっちゃけて言っちゃえば【ここから作者はかなりの妄言を垂れましたごめんなさい。 私はこれで今回はさようなら by JusticeNoize】ってな具合。

 

 どうにも未だよく分かっていないらしい美羽の純粋な目に映る七乃は、

 

 「 えぇ はいっ それはもう当然じゃないですか!」

 

 暗めな部屋の中なのに、なんだか輝いていた気がした。

 

 

 以上が、『七乃先生のどきどき大人講座』の全てである。

 

 タイトスーツに赤いセルフレームの眼鏡かけた七乃が先生なら受けてもいいと思ったら負けです。

 いやフレームレスの細レンズのほうがいいかな? まぁどっちでもい【いやよくない拘れ拘って下さいお願いしますっ!!】

 

 …ジャスティスノイズ…… あんたってやつは……

 

 

 

 

 

 

 ・なかがき・

 

 

 …… と こんな感じでした、はい。 やめて、そんな目で私こと華狼を見ないで。

 あとがき代わりにここで言っときますなんかもうごめんなさい。ジャスティスノイズに重ねて色々すんません。七乃さんが何言ってるかわからんですたいって人はそのまま健全であってください。  あぁ なんであとがき代わりかは最後まで読んでくれれば分かりますので。

 

 しかし今回はまぁ酷いですね。 なに? 私はそっちな感じの話にもってくつもりなの?

 いやいやあくまであれはスパイスというか。 アクセントですよあくせんと。 ちょっと使うだけでかなり誤解されかねない強力なものですが。

 たまにはいいじゃいあーいうの書いても。 ただでさえ前回のコメントで『地の文が無いとわけわかんないよ』って言われた気がするんだから。 いろいろ書いて試したいのよ。

 

 七乃「まったく作者さん、疑心暗鬼の深読みで被害者面なんてタチ悪いですねぇ♪」

 焔耶「? そんなのあったか?」

 華狼「あくまで私がそんな気がしただけだよ。 仮にそうでも客観的な意見は嬉しいよ?

    それと七乃、あんたにだけはタチ悪いとか言われたく無ぇ。」

 美羽「む 七乃は悪いやつなどではないぞっ」

 華狼「そうじゃなくて あぁもういいや……」

 

 アルヤさん、勝手に深読みで捉えてすいません。

 

 で 話は七乃がアレって話に戻りますが。

 何はともあれ直接的な単語でなく迂遠な書き方だけなので問題は無いはず。 問題ないわけ無いだろ? それは私が一番分かってますよ。 

 

 けどほんとに私は七乃を何だと思っているんでしょうか。 はい『淑女』ですが何か?

 

 いや正直言ったらここまでアレになるとは思ってもみなかった。 ナチュラルで腹黒ってのは念頭にあったのですがそれが何故かうっかりちゃっかりついついどうしてこうなった。

 まぁ世界は不可思議で満ち満ちていますね ってことでここは一つ。 さぁ今こそアドベンチャーですよ。

 

 

 では。 引き続き読んでいってください。 これからもよろしくねっ!

 

 それとペルソナ4の眼鏡センスには舌を巻いた。 まさかのサングラスという外し技は特に。 けど視界が暗くなってむしろ支障にならんのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 

 

 『東雲』と書いて『しののめ』と読む。

 これは昔の住居の壁面の内、明かり取りのための部分が篠竹で荒く網状に組まれたものを嵌められていたことに由来する。 今で言うブラインドのようなものだろうか。

 『篠』で出来た網の『目』からは光が差し込んで、その様が夜明け頃の東の空の雲間から朝日の光が出る様に似ていることから『篠の目』転じて『東雲』が『しののめ』と言われるようになったのだとか。

 

 そんな風情ある情景…と比べるのは酷も酷だが。 美羽と七乃のもとにも朝は来た。

 安宿の一室の窓には板がはめ込まれていて、その板の周囲を縁取るかのように朝の光が薄っすら入ってきた。

 それはさながら、開けた瞬間光に包まれることを想像させる光へと続く窓のようにも見える。 美化しすぎか。

 

 しかし美化であろうが無かろうが、今日からは指針がある。 行くべき道が分かっている。 それを希望の光とせずになんとする。

 

 朝日が薄く入ってくる窓は、そんな二人の希望を暗喩でもしているかのようであった。

 

 「ぅ んん…… ぁふぅ…」

 七乃と その隣で小さくなって眠る美羽が起きるのは、もう少ししてから である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 さて、昨夜はお楽しみ だったのは基本七乃だけだったが、それはもう置いといて今日の午前である。

 

 時刻は九時を過ぎた頃だろうか。

 数日振りに他の人間達と同じ時間帯に起きることができた二人は宿の朝食をとってチェックアウトの後、荷物を一式持って目的の場所へと向かうべく通りを歩いていた。

 双方共に地味な服で、七乃の腰には『袁術親衛隊正式採用鋼剣』が提げられているせいだろう、二人が今周辺を騒がせている『袁術』とその側近である風にはどうにも見えなかった。 面子は妙だが旅の二人然としたものである。

 「美羽様、調子は戻ってますか?」

 「う む、だいじょうぶ なのじゃ。」

 改めて七乃は美羽に訊くが、纏う調子はなんだか低空飛行。 だが無理も無いだろう。

 

 (数日前と全然違う環境ですからね だだこねてくれないのはいいんですが心配です…)

 

 七乃が思ったように、環境の変化によるストレスは既に顕著に出ているようである。 早く慣れればいいのだが、その慣れる期間にぷっつんと限界が来ることは恐れて然るべきこと。

 

 「あ、ところで昨日のアレなことは人前で言ったらダメですからねぇ?」

 「ぁう?   わ 分かっておるのじゃ。」

 …、だからって七乃、そういう気の紛らわしはどうかと思うぞ。 『アレ』という表現はもう定着しちゃってるようである。

 

 「まぁそれはいいんですが。 これからしばらくは移動し続けることになりますけど、美羽様我慢してくださいね?」

 「…あそこに着いたら孫策につかまらなくてすむのじゃな?」

 「 はい。 着いてからのことは私に任せてください。」

 「…ん。 それじゃ我慢するのじゃ。」

 美羽の手前こう言っているが、七乃とて十全の自身があってのことではない。 むしろ今の状況になってしまった以上、賭けに近いことでもしなければどうにもならない。

 ただし。 賭けとはしても負けられない以上、七乃はベストを尽くすだけである。 つってもこうして必死になるのは美羽絡みの件だけ な人間であることは皆様方既に承知のことと存じ上げる。

 

 と そんな会話をしていると目的の広場に着いた。

 その広場には何人かが点々としている中に、一頭の馬に繋がれた幌馬車が停めてあった。まぁ幌車とはしても、数頭で曳くような立派なものではなく中程度のものだが。

 横にはその馬車の主の中年男性が立っていて、彼は七乃と美羽を見ると軽く手を上げた。

 「やぁ来たか。」

 「どうも、今日はお世話になります。」「せ 世話に、なるのじゃ?」

 「っはは、 この子は人見知りなんだ?」

 「えぇ まぁ、そんなところですねぇ。」

 どう言っていいものか分からずおかしな言い方になった美羽を可愛らしいなと思いつつ、馬車の主の男性は軽く笑った。

 

 この男性とは昨日 お昼の美羽の御本の一件の後に出会った。

 路銀が出来たことで二人は通りを見て回っていたのだが、その最中立ち寄った一件の茶屋で彼とは出会った。

 すぐ近くで彼はなにやら他に居たもう一人と会話をしていた。 耳に入ってきた内容によるとこの男性は商人らしく、七乃達が行こうとしていた方面へと発つのだと。

 それを聞いた七乃は丁度いいと思い立ち、「お代は払うんで乗せてくれませんか?」と切り出した。

 するとその彼は「乗せるのが商売じゃないからな。ついでだしタダでいいさ。」と返し、今日の二人の足となった次第である。

 「今日中には向こうにあるってところに着くんですね?」

 「おぅ、日がある内には確実にな。 ま 乗り心地は保障できたもんじゃないが。」

 

 して、いざこれから発つ 筈なのだが。

 

 「じゃあとりあえず乗って待っててくれるか。 あぁ積荷には触れないでくれよ。」

 「?、 出ぬのか? 早よう行かねばいけないのじゃが……」 

 「?、 そういえば昨日居た人はどうしたんですか?」

 

 「あぁ それがまだ来てないんだよ…… 来たらすぐにでも出るから まぁ待ってて。」

 

 あいつ雇ってよかったのか…? との懸念が、馬車主の表情には出ていた。

 

 その後待つこと幾許か、ようやく一同を待たせた人間がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・誰彼曰く 教えたがるは愚者、知りたがるは賢者 だとか。

 

 

 馬車は山道に続く広い斜面の森を蛇行して貫く道の上に差し掛かっていた。 傍らの若草や梢を柔風が撫で抜けていく、麗らかな日和である。

 

 カポコポと馬の足音が鳴り、ガタゴロゴトゴロと小刻みに揺れる幌車の中、座しているのは三人。 二人は当然我らが美羽と七乃。

 

 そしてもう一人は、

 

 「ほぇ~… おぬしはすごいのじゃのぅ。」 

 「ふっ まぁどうでもいいことだがな。 っておい聞いているのか?」

 「 はい 考えながらもちゃんと聞いてますよぉ。」

 七乃には全く興味を持たれていない、さっきから自分のことを自慢げに話しているこの馬車の護衛を買って出た旅の剣士である。

 あぁそう。七乃は自分達のことに関しての考えを巡らせていたから一切聞いては居ないのだった。

 「七乃、武をなりわいとする者は十や二十の相手にも簡単に勝ってしまうのじゃなっ」

 「そうですねぇ 一騎当千なんて言葉もあるくらいですから。 あなたは相応の使い手ってことなんですねぇ。」

 「まぁそういったところだ。」

 

 聞いていないのにちょっとの情報から話を合わせられるのも当意即妙というものだろう。

 

 

 二人が馬車主と共に十分ほど待っていると、ようやくそれらしい人物 もとい二人も昨日見ている、護衛を買って出たという人物がこちらに近づいてきた。

 

 「おい護衛の、嬢ちゃん達より遅く着くってなぁどうなんだよ。」

 呆れた様子で馬車主が声をかけるのは割と背のある男。 年のころは中年期前半といったあたりだろうか。

 顎には無精ひげがばらつき、後ろに縛って垂らしている肩より下までの長さの髪は毛先がとげとげしていて黒く硬そうである。

 服は丈の長いロングコートのような意匠の、右の袖は長いが左は肩口からが無いアシンメトリーな黒い上着を腰の辺りに帯を巻いて着ている。 全身を黒で統一していた。

 携えているのは片刃の幅広・肉厚な段平のような無骨なつくりの長剣で、刃側をカバーのように覆う形の鞘を嵌めて峰側の数箇所の紐で固定してあった。

 肩口先から見える腕も鍛えられていており、

 「なに、何時に於いても武に生きるものは精神を据えておかねばならぬのでな。 唯の人間からすればゆるりとしているように見えるも必然であろう。」

 遅れたことの非礼を詫びない神経の図太さも相まって、成程強そうな剣士然としていた。

 

 ただしちょっと気になる部分が。

 実際に振るうことを考えると、柄頭の飾り紐は邪魔になるであろう長さ。 しかも青朱黄白黒の五色五本では尚のこと邪魔。 綺麗ではあるけど。

 それとなんで『同じ深さ・溝幅の似たような傷』ばかりが全体的に満遍なく付いているのだろうか。

 筋肉もあるのはそうなのだが、やけに人工的と言うのか無駄にあると言うのか。 そんなだった。

 

 しかし美羽は勿論、七乃も個人の武に関しては疎いからか別段上に挙げたことは気に留めなかった。

 

 何より、

 

 「女子達よ、二人旅などと心細いこともあろうが少なくともこの我と共にある内は安心するがよい。」

 「そうですかぁ。」

 にこやかではあっても関わる気なんか毛頭無い七乃はいちいち気にかけることすらしていないのだから尚のこと であった。

 

 そして一同馬車に乗って出発した後、護衛の剣士が女子供だけで行く理由の話を振ってきて、七乃が理由ををぼやかして言うと剣士は聞いてもいないのに今度は自分の武者修行のあれこれを語り出し今に至る次第。

 七乃も最初は聞いていたが、相乗りの道すがらの相手の自慢話なんか聞く価値無しと見切りをつけて自分の思考に入っていたのだ。

 

 でもまぁ、美羽は剣士様の話に興味津々な様子で耳を傾けていて楽しそうであり、表情も幾分かは明るくなっているからよしだろう。

 

 「おぉ 妾より小さい頃より剣を振るっておったのか ならば妾も出来るようになるのかっ?」

 「ふっ まぁ我の才覚あってこそ故、我の域に達するは不可能だがな。

  お主も剣など携えてはいるようだが、半端な者は逆に己を危険に晒すと心得ることだ。」 

 「そうですねぇ。 でも無いよりはましですから。」

 

 どや顔で剣士様は説き、七乃はそれを適当に流し、話を真に受けて調子が上を向いた美羽。

 

 とりあえずは心持穏やかに、のどかな陽光と薫風の中、馬車はゆるゆると進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

  なん で……?

 

 

 彼女は呆然としていた。

 

 どうしてこんなことになったのか、それが分からない。

 

 『形跡』は確認できた。 しかし自分がなにかした覚えは無い。 覚えも何も、事を起こすのはまだまだ先の話だからだ。

 では誰かが 他の誰かがやったのか。 否 他に自分の計画を知ってる者など居る筈も無い。

 

 呆然としつつも、頭の端には徐々に『彼女』の状態を案ずる思考が発生してくる。

 すぐさま状態確認を行うが、しかし『彼女』へのアプローチは未だ不可能な状態であることが分かっただけだった。

 

 不安だった。

 自分があずかり知らない事柄が進行している 芽生えたその自覚が頭を焦らせる。

 もしかしたらなにか起こっているのでは との懸念が心を逸らせる。

 

 

  いやだ あの人に変なことが起きてるなんていやだ

 

  お願いだから いやなことになっていないで

 

 

 

 その顔は 泣きそうな色を帯びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・偽火

 

 

  

 事はいよいよ山道に差し掛かった、左側はちょっとした崖 右側は上の方に木々の群れが続く土の斜面 そんな道で起きた。

 

 突如、幌車が急に停止し、美羽と七乃はガクンッと横様に倒れ込んだ。 他の質量が軽い荷物も横にすべりズレて落ちたものがいくつか。

 

 「痛っ たいのじゃ…」「美羽様平気です か  ……?  なに…?」

 美羽に怪我が無いのは幸いだったが、すぐさま異常が纏わり付いてきた。

 「怪我は 無いようだな。 まぁどうでもいいこ」気取るのに頭いっぱいで異常を察せてない剣士様はほっといて。格好付けた座り方から一転、急停止で横の箱に頭を派手にぶつけてやせ我慢している今の姿も間抜けだし。

 

 幌は車の横の面同士を基点にアーチ状に荷台を覆っていて前後は開いている。 その開いている前の面に目を向けたところ、馬車の進路上に複数の人間が躍り出、それによって馬車が急停止したらしかった。 その内一人は馬に刃を突きつけているのが見て取れ、そりゃ馬も驚いて嘶きもするだろう。

 数は数人、前方に五人以下の数が陣取っていた。

 

 「な んだよあんたら!」

 馬車の主の怒声と共に前方に現れた人間達の声が幌の中の面々にも聞こえた。

 

 「死にたくなかったら持ってるモンよこせ! そうすりゃ命は盗らないでやらぁ!!」

 やっかいなことに野盗らしい。 中の面子に緊張が渡る。

 

 「野 盗…ですか?」 

 「野盗? ふん 下らぬ。愚かな愚者共が 我が前に出たが運の尽きよ。すぐこの愛剣の錆にし」

 野盗と聞いて剣士様の表情が硬くなったがそれも一瞬、すぐにスカした態度で目をつぶり傍らの剣に手をやる。 まぁ場所の見当がズレて一二度手探りになってたけど。 あと愚かと愚者で重複してますよと言うのはめんどくさいけど一応言っておく。サービスサービス。 

 

 だが剣士様の台詞は見ての通りに途切れている。 なぜってそれは

 

 「何日か前に寿春のバカ領主の袁術をぶっ殺した黄巾党ってのは知ってんな?

  この黄巾が見えてんだろォ? おれ等がその黄巾党だァ!!」

 二の腕に巻いた黄色い布をどやとばかりに馬車主に見せ付ける男のこの言葉に、先日寿春の町に大被害をもたらしたという賊軍を思い出したからだった。

 「黄巾 って…!」「…!!」

 『黄巾党』 この単語に馬車の主と剣士様、

 「殺…? わ 妾は死んでなど」「しっ 美羽様っ」

 美羽に七乃にも戦慄が奔った。 特に美羽は自分はこうして生きているのにどうして死んだなどと言われなければならないのかと当惑しているのだ。

 

 しかし七乃は冷静に、これは九分九厘嘘であると察していた。

 小さな馬車を襲うのであっても、あれだけの人数を擁するなら五人以下などではなく数十人規模で確実に囲んでしまえばいい話。襲う対象と自軍、彼此に圧倒的な戦力差があるなら単純に物量で押すのは戦術のセオリーの基礎の基礎である。 場所も人気の無い山の途中だし。

 いやそれ以前に戦術云々を考えなくとも、大勢を擁するというなら数で威圧するのは作戦とも言えない段階で誰にでも思いつく。強盗などという行為をはたらくなら遊びも無いだろう。

 それをしてこないなら、バックに他にも大勢が居るなどとは真っ赤どころかむしろそれ赤外線です何も見えません熱いですレベルの嘘とできる。

 

 そう、実際のところ嘘である。 だから七乃の見立ては正しく、だったら言動は目障りだけど腕の立つと言う護衛の彼ならどうにかなるのでは

 

 との算段だった ……のに、

 

 「護衛のっ、頼 ん だ…?」

 …馬車の主はしょうがないとして大剣持ちの剣士様の野郎、

 

 「ッ!! ぃ いや わ 我は ……」

 いつの間にか馬車から降り、こそこそ忍び足してたかと思えば馬車の主に声をかけられるとビクッと体を震わせ、

 

 「、 ひいいぃぃぃぃィィィィ……」

 ……女子供 更には自分が持っていた剣すら置いて真っ先にお逃げになりやがりましたあん畜生。

 まぁその剣も 七乃は武に疎いから仕方ないが、ちょっと齧った者が見れば実際は無骨どころか適当な安っぽい作りであることが分かる剣だった。 傷は自分でつけたものだし、その剣を振るえる筋肉ではあっても技として扱える筋肉ではないのである。

 こちらも嘘八百の八百万らしいかったようで。大群であるという黄巾党と聞いただけで縮み上がったのだ。 そのまま動けず大小セットで漏らしでもすればよかっ(やめとけ美羽居るんだぞ)

 

 「あ っのやろふいてやがったな!」

 「ハッハァ! さァてどうするよ? 大人しく金目のモン全部出せば ァん? 中に他に居やがんのか?」

 ちらと馬車の中に目をやった腕に布を巻いた男は中で動く頭の端を見取った。

 自分達の存在に気付かれた このことで幌の中の二人の背筋から頭に電流が奔る。

 

 間を空けずに幌の後ろ側に他の男が移動してきた。

 

 「…… 二人、出ろ。」

 これまた黄色い布で顔の目から下をマスクのように隠したその男、美羽と七乃を見留めるとボソボソとした声で命じる。

 「ひっ ぅ」

 「…美羽様、言うこと聞いときましょう。 さぁ、」

 怯えて腰の引けた美羽を促しながら、七乃は黄マスクが数歩下がって空けた地面に美羽と共に降りた。

 「女とガキか? 家族には見えねぇが まぁいい。」

 ぞんざいな物言いのこの男は黄色の布を腹巻のように巻いていて、目つきの据わっている長身痩躯。

 「へェ、中々いい女じゃねぇの。」

 七乃を値踏みするように寄ってきたこっちは、最初に黄巾党だと名乗った布を腕に巻きつけた軽薄そうな男。 身長は腹巻と七乃の間ぐらいか。

 「…ここは素直に誉め言葉として貰っておきます。」

 「ハッ 中々にいい度胸もしてやがらァ。」

 美羽は適当にかけられる言葉を流す七乃のスカートを握り締めて固まっている。 そんな美羽にもう一人の男が声をかけた。

 「…と とりあえず座っててもらえる かな?」

 「ッ!」

 ビクッと美羽は体を震わせて、怯えた顔で音源を見た。 居たのはいかにもヘタレっぽい青年で、こっちは黄色い布を鉢巻の形にしている。 その実、彼は怯えた美羽に罪悪感を覚えた『まだいいやつ』であるが、しかしこんなことに加担して子供を怯えさせたのだから同程度であることには変わり無い。

 

 二人は言われた通りに馬車を降りたその場に、美羽は七乃にすがるような体勢でしゃがんだ。

 見下ろすマスクと鉢巻に腕布、三人は美羽の目にはそれはもう恐ろしく映った。各々腰や手には剣を帯びていて、それらが触れれば傷付き血が出ることは重々承知している。

 ここで美羽は数日前の城内を思い出した。 直接に死体を見てはいないが、…血は多く目にしていた。 そして過去には怪我をして血を出したこともある。少し血が出ただけでも痛かったのに、あれほどの血が出てしまったらどうなるか。

 それらの記憶と今の心境がごっちゃになって、頭が徐々に混乱してきて。 美羽の体は小刻みに震え出し、目には自然と水気が満ちてくる。

 

 「したら次は おい、馬から下りろ。」

 二人が大人しく従ったことを確認すると、腹巻は今度は未だ馬に乗ったままの馬車主に降りるよう命じた。

 

 が、馬車主は動かない。 顔すら向けずにじっとしていた。

 「…あぁ? おい聞こえてんだろ早く降りろってんだろが!」

 腹巻が語気を強くした その時、

 

 「 ハァッ!!」

 短く馬への掛け声がすると幌馬車は急加速して、 降りた美羽と七乃を置いて走り出してしまった。

 

 「お いテメこらッ!!」

 「ぇ?」「…!」

 怒声に幌の後ろを向け、あっけにとられた美羽と驚く七乃には振り向くことすらせず、しかしその代わりとばかりにガタンッと地面の深い凹凸で荷台が大きく跳ねると、後ろの開いた部分から荷物がいくつか零れ落ちた。 馬車の主の商品が数点と美羽達の荷物がばらばらと。 その内の七乃の剣が、持ち主である七乃のすぐ傍に横たわる。

 ところで馬車の主を責められるだろうか。生活の為にこうしてしまった彼を責められるだろうか。 まぁ免罪符になるとは思ってませんが少なくとも。

 

 「チッ 逃げやがった… しゃぁねぇ おい女、持ってんなら金目のもん全部出せ。」

 護衛と馬車主、今のところ頼るしかない存在としていた双方に最悪の形で裏切られ危機的状況に陥った。

 このことが頭にあるせいか七乃の回路の動きが若干鈍ったが、それでも数拍の沈黙の後に七乃は打開策を打ち出した。

 

 「……待って下さい、ここは取引しませんか?」

 「取引 だ?」

 冷静で事務的な声音と表情で七乃は続ける。

 「私達はとりあえず行かないといけないところがあるんです。 ですからこの先に着いたらそこで出せるだけの金銭をお渡ししましょう。 護衛とでも名目を立てて着いてきてくれればどこかに訴え出ることもしないと約束します。」

 

 「……成程な。 そりゃそれで後ろ暗くなくていいってか。」

 目の前の少女が出した提案、これもまた一つの考え方と片眉を上げた腹巻。

 「だよ な、その子の言う通りにしたほうがいい と思うな、おれは。」

 七乃の案を飲めばまだ平和的と出来る解決になることを理解してか、ヘタレな鉢巻はより七乃の案に肯定的な表情を見せた。

 

 しかし。

 

 「だがな、 こっちがその取引に応じないといけねぇことも無ぇだろ?」

 「ここで頂いちまえば手っ取り早ぇってもんだからなァ?」

 腹巻と腕布は応じる気は無しとの態度を示した。

 取引が成立するのは人間社会内での理性ある人間同士間なのである。 七乃はこの場に於いて 野生に近い状況と獣に似た対象の中に於いて、場違いなほどに理性的過ぎた。

 

 人の居るところに入りさえすればあとは気持ち程度の金銭を渡してさよなら、ごねればその時はどこぞに助けを求め出ればいい と考えていたのに。

 駄目だった このことを即座に念頭に置いた七乃はすぐに別の方法を模索する。

 「…やるのか?」

 「ヤるってなぁどっちのだ? ま どっちにしろここでやるなんてこたぁしねぇよ。 

  こういうなぁ売るといい金になんだろ? 売るなら売るで手ぇ付けてないほうがいいんだろうしよォ つってもねえちゃんのほうが新  品かどうかは知らねぇけどな?」

 成すことが低レベルなら言うことも下賎なものである。 昨夜のようなことがあっても流石に美羽は腕布の言っていることを理解できていないのは幸いだろうか。 何と比しての幸いかは知らないが。

 「待て。 売るとか言っても どう売ればいいか 知らない。その筋に当ても 無い。」

 「それに… その、金にするまで無駄に食い扶持増やしてどうするんだよ?」

 「んなもん家畜育てる金とでも思えばいいだろォ? 売れさえすりゃでかい金になんだからよ、どうにでもなんだろ?」

 「おれはどっちでもいい。 さっさと終わればそれでな。」

 冷静 というか単に知識情報足らずなマスクと、今の状況に気後れしているヘタレな鉢巻が一歩前に出て腕布と腹巻に物申し出る。

 これによって男達の間に小さな議論が展開、美羽と七乃の二人への注意がそれた。

 

 このときには既に七乃の頭のギアは回っていた。

 

  とりあえず乱暴を働かれることは無いと思っていいでしょう 売るだのと下衆臭いこと言っているのなら

  でも取り入った後に隙を見て逃げる なんてのはいくらなんでも博打が過ぎます 機会がいつ来るかわからないしなにより今は呑気にしている時間はありません

  文字通り一刻も早く行かなければ間に合わなくなるかもしれません そもそもお金が無くなればそれでおしまい

 

  それだけは絶対に避けないと

  

 

  そう 何をしてでも 

 

 

 ……一応は、七乃の場合は本当に所謂道場剣術だが剣の心得はある。 先日の黄巾党襲撃の際は抵抗することは真っ先に放棄したが、今のこの状況はどうにもならない。

 

 そう、戦う以外は。

 美羽を連れて逃げる間も、最悪自分が剣を振るって美羽を守ることは視野に入れていた。 今のようなことが起こりうるからだ。

 

 なればこそ。 今こそ、剣を振るう時。 

 

 やるしかないと思ったときから七乃は隙を見ていた。

 売る売らないと言い出したときに隙の到来を見た七乃は、考えを巡らせ、即座に戦うことに至った途端、傍に落ちた剣に意識を送りながらも男たちの動作に気を配り続け、

 

 今だ と至ったこの時、

 

 「 やぁッ!!!」

 触れていた剣の柄を掴むと立ち上がりながら大きく振りかぶって、一番細身の鉢巻の頭を斜め上から剣で力いっぱい殴りつけた。

 そう、殴りつけた。剣の鍔と鞘を紐で縛っていたからである。

 しかしそれでも鞘つきの剣、鈍器としての重量は十二分。 それに女の力とは言っても上段から斜めに殴りつけられて、しかも頭からずれはしたが打点は首筋斜め後ろを捉えていた。

 「ひぅっ!?」

 いきなりの七乃の行動にビクッと体を震わせた美羽。その目からは溜まった涙が振動で筋となって下に伝う。 が 今はそれに構っている暇は無い。

 「う゛ぐ ぁ…」

 完全に油断していたことでクリーンヒットした鉢巻は意識を失って崩れ倒れた。

 「な」「ぅ わ!?」「!」

 急襲に危機感を覚えた残りの三人は反射的に一歩後ろに下がる。 そして七乃は自分を なにより美羽を守るために、白刃を放つことを決めて鞘を鍔に固定してある紐を解こうと結び目に手を掛けた。

 

 そう、手を掛けた。鞘を固定している紐を解こうとした。

 

 その数拍の時間が命取りだった。 なにせ紐を数回巻きつけていたからその分手間取り、

 

 ( …! 解けな)

 「く っそがあッ!」

 今度は逆に隙を突かれ、腹巻がゴリ押しに詰め寄って七乃の剣を掴み、

 

 バシッ 「きゃんっ!」

 …乾いた音の後、手の甲側での裏拳に近い形の平手を頬に食らった七乃は地面に倒れこんだ。 頬がうっすら赤く色付き、手は柄を離してしまい剣は腹巻に奪われてしまう。

 

 「ぁっ なな のっ…!」

 自分の数歩先で七乃が倒れたことで美羽の思考は一瞬の空白の後に混沌へと転がる。 思考といっても頭の中には既にまともな事象は無かった。 思考は恐怖と共に頭の中で混乱の渦となり、唯々怯えることしか出来ないでいた。

 

 「っのアマなめてんじゃねぇッ!!」

 メンバー内では比較的落ち着いているようにも見えたが、どうやら今ので瞬間的に沸騰したらしい。 七乃の剣を乱雑に放り捨てると自身の腰に帯びていた剣を抜き放った。

 腹巻のこの剣、多少錆が浮いている拾い物だが、それでも未だ切れ味は健在で人を屠るには充分な凶器である。

 「おいキレんな傷物にしたら金にならねぇだろうがっ」

 「るっせぇいい機会だここで殺してやらぁッ! 女が調子付きやがって畜生!!」

 

 野卑な激昂、制止の怒声、

 

 「やってやる 殺ってやろうじゃねぇかおれは出来るんだからなぁッ!!」

 目は露わになった怒りで 刃は光を反射してギラつき、そこには負の空気がどす黒い火が地に渡るように満ちる。

 

 「ぁ ぁ  」

 そのせいだろう、へたりこんでいる美羽はいよいよ耐えられなくなった。

 

 周囲の空気が火のように美羽を侵し、なにより先程から頭の中にある先日の城内での一件とごちゃまぜになって反応を起こした混沌が、美羽を恐怖の鎖で縛り上げる。

 

 「っく ぅ ひぐ う ぇうぅぅぅぅっ」

 

 そう 恐怖。 起こっている事象は混乱で把握できていなくても、本能的な恐怖が体を支配する。

 

 

 足は動かない 手は固まる なのに体の芯からが小刻みに震える。

 

 

 膨らんだ恐怖に圧迫されるように呼吸が乱れ 目は熱を帯び 涙はもう止め処無く

 

 

 しかし声すらも上がらない 上げられない 上げられすら出来無い。 何もすることが出来ない。

 

 

 「だ れ かっ」

 

 

 それでもどうにか へたりこんで涙と嗚咽で整った顔を汚した美羽に出来た事は、

 

 

 「ぇうっ うっ  誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 美羽は叫んだ。 誰にともなく、嗚咽交じりに唯叫んだ。 それしか出来る事が無いと考えてのことですらないが、漠然と助けを請い 叫ぶことしか美羽には出来なかった。

 両の目から涙が止め処無く落ちる。 声に 表情に宿るは悲哀 絶望。 それは何も出来ない己へ向けてのものだろうか。

 

 地に落ちた温室の鳥は現実をここで知った。

 これもまた産声と表現出来るだろう。 殻から出た幼い鳥の如く、世間と唯々無力な己を知った美羽という鳥。

 

 

 あるのは 唯々無力な己という現実のみだった。

 

 

 そんな美羽の哀れな声も、気の立った者からすれば耳障りな雑音でしかない。

 その産声をかき消すように、腹巻は怒りを露にした表情で美羽を見下げて怒鳴る。

 「ッせぇんだよガキが黙ってろ!! てめぇから殺って や …?」

 

 そこで野卑な声が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・

 

 

 

 音。

 

 

  ……ザザザザザザザザザザッ

 

 

 一同が立っている面積の傍の、草もまばらな土の急な斜面の上の奥、木々の群れの中からの音を全員が聞いた。

 明らかにこちらへと誰かが走って来る音。草を踏み地面を駆ける音が近づいてくる。

 

 自然と皆の注意はそちらへと向く。

 べしょべしょの涙顔な美羽も、こうなったら強引にでも今一度剣を拾って今度こそ刃を晒さんと身構えすらしていた七乃もその斜面からの音へと注視していた。

 

 そしてその音源はたちまち姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 絹を裂くよな少女の悲痛な叫び。

 

 それを救わんとすべく 掛かる災厄を討ち祓わんと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今は鞘の中に納まっている、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一振りの 日本刀を持つ者が現れた。

 

 

 

 

 

 

                        秋水乙女 To be Continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・あとがき・

 

 

 

 ……、詳しくは次回以降に持ち越しってことで。

 

 ただ一つだけ言いたい。

 

 

 っしゃきたこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇェェェェェェェェェェェッ!!!

 

 

 と。

 

 

 

 PS

 

 ほんとようやくだよ彼女。ほったらかしにもほどがあるぞ。

 まぁ予定調和なんですが。ほんとに出したかったんです。 でも流石にここまで期間がかかるとは思ってもみなかった。

 

 

 も一個PS 

 

 『秋水乙女』って『日本刀少女』って意味ですからね? 『秋水 乙女』って名前のキャラじゃないですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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