第29話 断罪者の選択
タイチが剣舞を始めた後方ではライカが突如襲いかかってきた黒き電撃に対応していた。
せめてもの救いは彼女が地獄神化していたところであろう。
謎の凶悪な気配に向けて放った火弾に大して相手が返してきた応酬がこれだ。
咄嗟に反応したライカは剣を盾にしてその砲撃をずっと耐えていた。
だが、それもたった数分耐え続けているだけで彼女の精神を大幅に削り取っていた。
「この、感じは━━━━畏怖の念!?」
そう彼女が今、まさに受け止めているのは人の負の感情を具現化させた畏怖の念そのものであった。
だが、畏怖の念にこのような力を与えることができるのはライカの知る中では一人しかいなかった。
「お兄様、なのです、か?━━━━じゃあ、私たちのそばにいるのは」
そこまで口にしようとしたところで畏怖の念━━━━電撃の威力が急に跳ね上がった。
彼女にとって畏怖の念は一種の性的ウイルスに近い。
地獄神は罪を裁くのが役目であり、様々な人の怨念が詰まった罪の塊をもろに受けてしまっては抵抗する間もなく堕ちてしまう。
堕ちたものが神であれ、人であれどもその者が辿る道筋など、狂った快楽か、死のどちらかだけである。
ライカはどちらに転んでも、待ち受けるのは身も蓋もない不幸と考え、すぐに目の前の電撃に対処する方法を記憶から探り始める。
十年間一緒に暮らしてきた彼のことだ。きっとこの技にも打開策があるのを知っている。
だが、そんな彼は今彼女に対して命懸けの試練を下してきているのだ。
こんな攻撃一つで自分の正体に気づかれるなど男は思ってもみなかったであろう。
しかし、彼女とて完全に自分の憶測を信じきっているわけはない。
ただ、この憶測通りなら最近のタイチの不信感などに筋が通るだけなのだ。
畏怖の念は罪と同じもの、なら罪と同様に浄化の炎を駆使すれば裁くことができるかもしれない。
ライカはすぐに剣に力を込め、切っ先から炎を炎上させていく。
すると、浄化の炎に触れた畏怖の念が少しだけであるが消滅し始めた。
しかし、完全にこの畏怖の念を消し飛ばすためには、総てを消し尽くす戦剣〈サウザンド・ブレイド〉並の威力を持った炎でなければいけない。
すぐに彼女は際限なき滅亡の砲〈エクスターメギド〉を思いつくがあれは今の彼女ではサウザンドブレイドと連携してやっとの思いで発動するものだ。
真名発動で制裁を下す戦剣〈カサルティリオ〉を顕現させようが、まずはこの畏怖の念をどうにかしなければいけない。
この一撃を止めるには同様な威力━━━━否!それ以上のもので飲み込まなければいけない!!
「賭け事は嫌いだけど、やってみせる!!」
ライカはそう言うと、体の奥底にある泉のような魔力を掬いだし剣に集中させ、一気にその魔力を前方に解き放った!
荒れ狂う魔力の奔流は畏怖の念を押しきり、次々と浄化させていく。
「お兄様、今だけでもいいから私に力を!!」
ライカは持っていた剣を両手で持ち切っ先を畏怖の念の根源に向ける。
「はあああああああああああああぁぁっ!!」
渾身の魔力を剣に溜め込むが、これではまだ足りない。
もっと純粋に放つための武器でなければこの炎は無残にも飲み込まれてしまう。
剣は放つための武器ではない、切り裂くためのものだ。
この力を放つためには今持っている武器ではダメなのだ、だから彼女はその想いを武器に乗せていく。
すると剣がその想いに答えてくれるかのように、徐々にだがその形を変えていく。
「もっと、もっと力を!!」
さらに魔力粒子〈エーテル〉が切っ先、彼女の全身からも溢れ出る。
それは赤き光をまとった地獄神の真の姿を形象させるもでもあった。
剣は彼女の想いにより強く答えようと、ついにその力を発現させる。
刹那、剣はカサルティリオとなり、さらに彼女を高みへと誘うために正真正銘の真の姿を見せる。
「この力はっ!?━━━━ありがとう、カサルティリオ...私たちの本気をお兄様に見せてあげなくちゃね」
彼女の右腕には肘から下までに巨大な砲門が取り付けられていた。
それこそ、エクスターメギドを腕に取り付けたようなものである。
ライカは静かに目を閉じると砲門に全身から溢れ出た魔力を集中させる。
砲門の黒き体表が魔力を与えられたことにより、その黒き体表を一気に展開し、輝きを放つ!
その美しい紅蓮の輝きはまるで彼女の気高き炎を具現化させたもの━━━━そう、これこそが地獄神ライカの断罪者としての真の姿。
「あなたの罪は、私が浄化します!!」
目の前では畏怖の念に飲み込まれていく浄化の炎たち。
ライカはその光景を目の当たりにしながらも、砲身を一切ぶらす事はせず狙いは決して外さない!!
砲身はその輝きを発したまま、発射口の奥底から展開した体表の輝き以上の純度の高い美しすぎる光を煮えたぎらせていた。
準備はもう十二分にできている。あとは心の中にあるトリガーを引くだけである。
私はお兄様の真意を知るためにも、ここでむざむざとやられるわけにはいかない!!
「黙示録の劫火〈メギドフレイム〉!!!」
放たれた想いは畏怖の念を浄化するのではなくそれを無かったことにするためのものであった。
彼が行ったことはまるで無罪と言わんばかりの一撃は怨念ごとその根源を容易く飲み込んでいった。
後方でライカが奮闘してた頃、タイチはすでに獲物を仕留めていた。
目の前には魔力粒子となりて消えていくナンバーズたちの姿。
タイチは悪魔のような不敵な笑みを浮かべてその場を立ち去っていくのであった。
「今から会いにいくヨ、僕のセフィア」
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後方はライカが畏怖の念に対抗していた。
追い込まれていく地獄神はついに断罪者として覚醒する!!