第28話 ナンバーズ奇襲
「ねえ、魔王様?私たちは何をすればよかったんだっけ?」
「お前らにはこれから遭遇する男を徹底的に暴殺してもらうだけだ」
洞窟内を歩く足音が『魔王』と呼ばれた男を含めて、三人分響いていた。
男の前を歩くのは妖艶な雰囲気を醸し出している長髪の美人と未だにフードを被っているちっこい少女。
ゆっくりと洞窟内を歩いていると前方が左右に分岐していた。その左側から二つの異様な気配が感じた。
「来たか。頼むぞ、お前たち」
「任せなさい!」
「ラジャー」
そう言うがすぐに、男の前にいた二人は目も眩むような速さで気配のある方へと移動した。
男はそれを確認すると気配のない右側の通路の方に向かって歩みを進め始めた。
「流石に、騎士と神を抑えられるわけがないか」
男はそう言うと背に背負っていた巨大な白銀の大鎌を手に取ると同時に柄の中心を支点にし手首を素早く回した。
鎌がその動きに呼応して、一瞬にして円を描く。
ズドンッ!!
案の定、男の持っていた鎌が鈍い音を上げる。その音は金属がぶつかった音ではなく、大砲の砲弾が着弾した時のような音に似ていた。
否━━━━それはそんなに生易しいものではなかった。続けざまに鎌にぶつかる物体はまるで弾切れを知らないかのように止む気配がない。
男は無言で鎌を回し続け、その衝撃の正体を目に収めた瞬間、奥歯を噛み締めた。
「火弾....地獄神か」
このままじゃ埒があかないと判断した男は鎌を背中に収め、両手を前に突き出す。
突如、突き出した両手の数センチ先で黒い雷風が靡き、その風が収束を始めた。
黒風はあたりに暴風をまき散らしながらも、徐々に形をなし複雑な形をした球体になりつつある。
件の火弾はその風により、男に届く前に明後日の方向に吹き飛んでしまう。
「コイツを超えて見せろ!」
風が複雑な形の球体に仕上がった刹那、男の叫びと同時にそれは火弾の主、地獄神のいるだろう場所に放たれた。
放たれた砲撃は黒き電撃と成りて、通過した地面を抉りながらとてつもない速さで洞窟内を駆ける。
「術式固定〈アインハルト〉!」
さらに両手に力を込め、瞬時に黒い魔法陣を作り上げる。
この魔法陣は魔法を持続させる効力が有り、この魔法陣が固定されている限りは男が射出した黒き電撃は消え去ることなく対象を潰すまで存続し続けるのだ。
魔法陣が何も無尽蔵の魔力を蓄えているわけではないが、少なくとも一時間は持つ。
いくら地獄神と言えども、この威力に丸一時間耐え続けることは不可能だ。
つまり打開策は雷撃ごと魔法陣を消し飛ばすもので反撃するしかないのだ。
「用事は早くすませるに限る」
男はそれだけを呟くと分岐点の左側に向かって歩いていくのであった。
洞窟内の空気が変わったことに気づいたタイチは向かってくる気配に向けて腰に携えていた剣で居合切りを放つ。
だが、虚しくもその居合切りが捉えたのは虚空であり、対象としていた二人はいつの間にか後方に着地しようとしていた。
タイチは二人が着地する前に距離を一気に詰める。
その行動を予想していたのか、背の高いほうが空中で手を振り上げると洞窟内が激しく振動しだした。
「大いなる槍山〈ジアザ・ブレイク〉」
女の妖艶な声と共に天井から数多もの岩で形成された槍が突き出てきた。
タイチは接近をやめ、すでに雨のように降り注いでくる巨槍に向かって肉薄する。
「愚息だな、ナンバーズ!!」
「滅しろ」
タイチは剣を軽く上空に向かって薙いだ。
その一振りだけで、全ての槍がドンッと派手な音をあげ粉塵となって地面に降り注いだ。
「再生と破壊〈エグゼクション〉」
妖艶な声と違い少し幼さを帯びた声が洞窟内に響き渡るのも束の間、地面にあった粉塵は幾千もの針となりタイチに向かってなんの合図もなく襲い掛かってきた。
だが、彼はその攻撃に臆することなく剣を構え
「鈍りきった体にはちょうどいい」
狂瀾怒濤の剣舞を開始した。
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気配を感じ取ったタイチの前に突如として現れたのはナンバーズであった。