第26話 魔の邂逅
助けた少女を家というか、協会に送り届けた二人は取り敢えず行くあてもなく街をさまよい歩いていた。
「っていうか、宿を追い出されたんだっけ?」
ルウィーの街中を歩きながら白髪の少女は横を歩く俯きがちな青年に尋ねる。
「うん。僕が壊したんだ」
いつもと比べやけにテンションが沈みすぎているため、声も低くなり少しばかりその声音は恐ろしいものとなっていた。
少女は青年を咎めるわけでもなく、「戻りかけてるのかな?」と横で意味不明なことを呟いていた。
さすがの少女もこの雰囲気に耐えられるほどの精神の持ち主ではない。
人一倍罪悪感を感じやすい青年を少しでも元気づけようと、必死に思考を回転させている。
青年の方は少女が先程からぶつぶつと何かをつぶやいているので、そんな姿にわずかながらにも別の意味で恐怖を感じた。
と、そんな青年の不安を打ち消すように元気な声で少女は
「えいっ!」
と、言い青年の腕に自分の腕を絡めてきた。
「こうすれば、少しは不安を感じないんじゃないか?」
「.....ありがとう」
確かに少女の言ったとおり不安が少しばかり和らいだような気がした。
「とりあえず!どこか落ち着く場所に行こっか?」
「そうだね...あそこにある喫茶店でいいんじゃないかな?」
青年の目に入ったのはこぢんまりとした喫茶店であった。
それでも喫茶店の外まで列が出来ているのを見ると、かなり高評価の店だとわかる。
「えへへ...ダ~リンにしては結構いい線いってるよ」
「私も女の子だからね、あんな感じのお店入ってみたいとも思うんだよ」
「そうなんだ。じゃあ、早速行こうか」
青年が歩き出すと、少女もそれについてくいくように歩き出す。
数秒も経たないうちに列の最後尾に着くと、何やら前に並んでいた五人組がやたらと騒がしく揉め合っていた。
「おい待て!この店カップルしか入れんと書いてあるぞ!!」
周りに関係なく大きな声を上げる前の列に並んでいる青年。
彼の左右にはそれぞれが個性的だが、とても可愛い少女たちがいた。
しかし、最後尾に並んでいた青年はそれどころじゃなかった。
大きく見開いた不安と動揺の色を兼ねた瞳で、自分とほとんど同じ身なりの青年を震えながら見つめていた。
その瞬間、青年の脳裏に様々な光景が一気にフラッシュバックする。
突然ナイフを持った男に殺された光景、紫髪の女の子にキスをされている光景、洞窟で出会ってしまった魔女、闘技場で戦った赤髪の女の子、風呂で黒髪の女の子に抱きつかれている光景、氷を操る正体不明の青髪の女の子、黒髪ポニーテールの女の子と話すメガネの男、ダンジョンで暴れ狂う二人の騎士。
これらの光景が頭の中を入り組み、叫びを上げられない程の激しい頭痛に襲われる。
「....ダメ、だ。もう帰ろう」
青年は頭痛の痛みに顔を歪ませながらも、少女の手を取り列から離れその場から立ち去るのだった。
「だ、ダーリン?どうし「どうやら戻ったようだ」━━━━え?」
青年は自らの手に漆黒の炎を纏わせ、そしてすぐにそれを霧散させる。
後ろの方で未だに状況についていけてないであろう少女に青年はさらに追い討ちをかける。
「お前が求めていた優しい俺は死んだ。今ここにいるのはただの無力だった俺じゃない」
「何を、言ってるの?」
「全部を思い出した。俺の全てについて、この体に隠された秘密も」
青年は言葉を止めることはしない。
目の前にいる少女は困惑と不安でもはや青年のことをちゃんと見ようともしていなかった。
だが、かまわない。
彼女が悪しき覇道についていく資格があるかどうかをここで見極めなければならない。
「この力が何のためにあるのかも。そして、コイツの正しい使い方も」
青年は腰に携えていた剣を取り出し、地面に突き立てる。
「守護騎士じゃなくてもアイツ以上の悪に染まればコイツを使うことができる」
「俺の体をひどく穢れてるからな、守護騎士になれるのもあと一回きりが限界だ」
「これで、わかっただろう?コイツを使うには俺はもう目覚めるしかねぇんだ」
「魔騎士でもなく守護騎士でもなく、最も最悪で女神の敵にふさわしい魔の『王』にな」
「あれは、マジェコンヌがついた嘘じゃなかったの?」
「嘘じゃない。あの時の俺は気づいていなかっただけだ。もう既にあの頃から俺の体には魔王と呼ばれるにふさわしい畏怖の念を溜め込んでいた」
「全てはマジェコンヌの手中にあったわけだ。だが、俺が染まりすぎてしまったせいでセフィアは俺の元からはなされることになった」
「俺はそれを奪われたと勘違いをし、怒りのままに『魔王』の力を使った」
「バカみたいに破壊と消費をしすぎた俺は記憶を剥奪されることになった。俺が二度と『魔王』に目覚めないようにな」
「....そんなこと「信じられるわけがないよな。だが、全部ホントなんだよ」━━━━でも、あなたが女神の敵になってしまったら誰が彼女たちを守るの!?」
「誰がってそれは守護騎士に決まってんだろ?」
「けど、その資格を持っているのはこの世界にはアナタしか━━━━まさか」
「何も俺が特別なわけじゃない。俺の能力を持っていればソイツは守護騎士の資格を持つことができる」
「俺はもう後戻りできない位置へと来てしまっている。戻る気もないし、ここで中途半端に終わらせもしない」
「あの子に協力させるというの?そんなの酷すぎる!!考え直して、あなたはまだ戻れるはずなのに...」
「すまないな。こうでもしないと俺はアイツを殺すことができない。俺は『魔王』の力を使ってすべてを取り━━━━奪い尽くす」
「それで、世界が女神たちが生きていけるなら助かるなら安いものだ」
自分の考えを言い尽くした青年は少女をまっすぐと見据える。
対する少女も数分の後彼のことを直視し、微笑みながら
「やっぱり、あなたは私の優しいダーリンだよ」
そう告げてくれた。
青年はそんな少女の手を取り、最後の彼女の覚悟の強さを聞いてみることにした。
「俺と共に歩いてくれるか?道は暗いが、いつかは明けさせることができると俺は思っている」
「いいや、俺がそのための道を作ってみせる」
「それを明けさせることができるのは未来を担うアイツ等しかいない」
「お前にも、一緒に道を作って欲しいと思っている。俺にはお前が必要だ」
「セブンスとしてではなく、一人の女として━━━━姫月(ひめき)頼めるか?」
「それはつまり汚れ役のお誘いだよね?━━━━いいよ。私ダーリンとならどこまでも行けるから」
「ありがとな....行こうか。まずは準備だ」
別に隠していたわけではないが、この目の前にいる女の子は青年が使用していた意思のある武器七神武(セブンス)の月影刻鎌の姫月である。
ただ、記憶がすっぽ抜けていたから仕方ない。
そして、こいつらは青年のことが好きすぎて可哀想に封印されてしまった身なのである。
封印が解けてこうして目の前にいるってことは、封印した主のマジェコンヌに何らかの支障があったということになる。
「えへへ...ついてきて、ダーリン!」
「.....お前道わからんだろ」
青年は先を行く姫月の手を取り、目指すべき場所へと歩みを進めていくのであった。
「やるしかないんだよな....俺が」
もうあいつらのもとには戻れねえ。
...........約束、守れなかったな。
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些細な出来事目覚めてしまった青年。
彼は魔騎士からさらに悪に染まりゆく!
明かされていく『魔王』の力、そして真実!