これはいったい、どういうことなのだろうか?
“彼女”がその疑問を持ったのは、今から僅か数日前のことだ
城内の“雰囲気”が、何かおかしい
いつもとは、明らかに違う・・・彼女は、そう感じたのだ
「“張仁様”・・・いかがなさいましたか?」
と、自分に声をかけてくる侍女の声も
やはり、“違う”
“何か、あったのだろうか?”
しかし、それを確かめようにも
彼女は、ここから動くことは出来ない
この侍女に聞いてはみたものの、返事は“気のせいです”の一言
“嘘だ”
彼女は、そう確信していた
目が見えなくなった分、そういうところが常人のそれよりも遥かに敏感になった
この侍女は、何かを知っている
しかし・・・どうしたものか
おまけに、だ
彼女が気になるのは、それだけではない
この、城の中
何故だかわからないが
酷く、“懐かしい”と思えるような
そんな、気配を感じるのだ
“流石に、気のせいだ”
そう思いながらも、しかしやはり気になっていた
だから、彼女は深く
溜め息と共に、その“名前”を吐き出すのだった
「“縁様”・・・」
その時、彼女は想像すらしていなかっただろう
その、彼女が呟いた名が
彼女の本当にすぐ傍にあったことに
彼女は、まだ気づいていなかったのだ・・・
≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫
第二章 第十二話【泥棒猫は、かくも嗤う】
ーーー†ーーー
「よし、それじゃ出発するぞ」
と、そう言ったのは白蓮である
その言葉に、皆は力強く頷いていた
「ふぁ~~~・・・」
・・・若干一名、とある名家だけは呑気に欠伸なぞしていたが
ともあれ、出発である
向うのは、勿論成都
「あわわ・・・それにしても、管輅さんですか」
と、その道すがら
雛里は、深く考え込みながら呟いた
彼女はあれから少しして無事に目を覚まし、それから白蓮たちから状況を聞いたのだ
その中でも彼女が特に驚いたのが、管輅の存在である
「私も、初めて見たんだけどさ
なんか、わっけわかんない奴だったよなぁ」
と、白蓮
彼女は管輅から何やら言われていたのだが、それらが全く理解できずにホトホト困っていた
そんな彼女の隣
その背に、未だ眠る鄧艾を背負いながら歩く恋が小さく呟く
「不思議だった」
「そうですなぁ」
恋の言葉に、同意するのは音々だ
彼女はしかし、“まぁ、ですが”と苦笑する
「あの、預言者を信じるならば
この道中は、少しは安心できますぞ」
「確かに」
猪々子は、そう言って笑った
管輅の言葉を信じるならば、今のところ敵の襲撃はないということになる
皆が皆、それだけがせめてもの救いだと思っていた
「今襲われでもしたら、たまったものではないしな」
そう言って、星は苦笑した
彼女は深い傷を負っていたが、未だに応急処置しかしていない
槍を持つことは出来たが、その手は小さく震えていた
自身の手に馴染んでいたはずの槍が・・・“重い”
「早く、成都へと戻らなくてはな・・・」
と、痛む傷口をおさえ呟く
白蓮はその姿を見つめ、表情を歪めていた
「しかし・・・他の皆は大丈夫だろうか?」
「愛紗達か・・・」
あの時
星たちと共に、あの“浮かぶ剣”と戦っていた仲間達
その後のことは、勿論わかっていない
“不安”で、胸が苦しくなる
が、彼女は慌てて首を横に振るのだった
「なに、愛紗達のことだ
きっと、無事に違いない」
星の言葉
白蓮は、“そうだな”と笑う
「きっと・・・大丈夫だよな」
白蓮の言葉
小さく、か細い声
この言葉が、皆に聴こえることはなかった・・・
ーーー†ーーー
「皆・・・無事か?」
と、そう言ったのは全身に傷を負った美しい黒髪の女性
関羽こと、愛紗である
普段の凛々しい姿が信じられないほどに、今の彼女は傷だらけであった
そんな、彼女の言葉
応えるよう、一人の少女が力なく声を出す
「なんとか・・・けど蒲公英の部隊の殆どは、怪我でまともに戦えそうもないよ」
そう言った蒲公英自身もまた、多くの傷を負っていた
その隣で、翠は悔しそうに表情を歪める
「くっそ、なんなんだよ
いったい何だったんだよ、“あれ”は!?」
“あれ”
それは、思い出すのも恐ろしい程に
彼女達の記憶に焼き付いている、“幻影兵団”のことである
「兵は怯え、おまけにどう戦ったらいいのか・・・まるで、見当もつかない」
そう言ったのは、魏延こと焔耶である
彼女は右腕を怪我したのだろうか、表情を歪めながらそこをおさえていた
“惨敗”
愛紗は、あまりの事態に眩暈さえ覚える
ただの賊退治だと、そう思っていたのだが
その結果が、今のザマである
あのまま戦い続けていたら、恐らく・・・いや、確実に全滅していただろう
『おや、どうやら“王”がお呼びのようで
この続きは、いずれまた・・・』
あの時
もし、李厳が兵を退いていなければ
そう考えると、愛紗はゾッとした
しかし、なにより彼女が恐れていることは・・・
「星、雛里・・・何処に行ったのだ」
あの戦
共に戦っていたはずの仲間の行方
それが、わからなくなっていたのだ
「星の部隊にいる兵士の話によると・・・傷を負った星を、雛里が連れていったみたいだけど」
と、翠も同じく心配したように言う
傷を負った星を、雛里が連れて行った
そこまではわかる
しかし、その先は全くわからないのだ
彼女達がどうなったのか、それを知るすべが・・・今は、ない
「ひとまず、もう少し休んだら急ぎ成都へと戻るぞ
あの李厳という男の言葉が本当ならば、成都が危ない」
と、愛紗
この言葉に、皆が力強く頷く
その、時だった
「関羽将軍っ!!」
「ッ、何事だ!?」
彼女のもと
一人の兵が、慌てて駆けて来たのだ
その尋常ではない様子に、彼女は一気に表情が変わる
「此方に向ってくる軍団がありますっ!」
「なんだとっ!?
まさか・・・また、奴らか!?」
“奴ら”とは、李厳たちのことである
しかし、兵はその言葉に対し
僅かに表情を歪め、“困惑”したように声をつまらせた
「それが、違うのですっ・・・」
「なんだと?
では、いったい何処の軍だ!?」
愛紗の言葉
兵は未だ困惑したまま、言葉を詰まらせながら
それでもやがて、大きな声でこう言ったのだった
「軍団の先頭に見えるのは“劉”の牙門旗、その傍らには“諸葛”の旗・・・あれは、劉備様の軍ですっ!!!」
ーーー†ーーー
「愛紗ちゃんっ!!」
と、大きく声をあげ
桃香は、ボロボロの愛紗を抱き締めた
愛紗はというと、未だに状況が理解できていない様だった
嬉しいのだが、しかし素直に喜ぶことが出来ないでいるのだ
「桃香様、いったいどうしたのですか?」
と、ようやく出た言葉がそれである
この一言に、桃香の表情が曇る
それを見て、愛紗は瞬時に理解した
“何か、あったのだ”
「そのお話は、とりあえず落ち着いてからにしましょう」
と、そんな中
朱里はそう言って、愛紗達の傍まで歩み寄った
その表情は、何処か“暗い”
「まず、相談したいことがあるので
雛里ちゃんを呼んでもらえますか?」
朱里の言葉
愛紗は、“その、ことなのだが”と言葉を詰まらせた
しかし、このままではいけない
そう思い、ゆっくりと事情を説明していく
やがて話し終わった後、朱里の瞳が一瞬揺れたのが・・・見えてしまった
しかし、彼女はすぐにそれをばれない様誤魔化し
“それなら、仕方ないです”と
つとめて気丈に、そう言ったのだ
「朱里・・・」
「大丈夫です・・・大丈夫、ですから」
言いながらも、彼女の声は微かに震えていたが
皆は、気付かない振りをする
「まずは野営の準備をします
ひとまず、兵を休ませて・・・それから、これからの事についてお話をします」
「うむ、了解した」
朱里の言葉に、皆は一斉に動き出す
その胸の中、大きな不安を抱えながら・・・
「雛里ちゃん・・・無事でいてね」
ーーー†ーーー
「成都が・・・落ちた、だと?」
野営の準備も終わり、様々なことが一段落した
そんな折
蜀の者は皆、桃香の天幕に集まっていた
その中で、愛紗達はおおよそ信じられない話を聞くことになる
成都が陥落したこと
その首謀者が、死んだはずの“劉璋”であること
そして・・・
「う~~ん、何だか居心地が悪いのじゃ~」
「ですねぇ・・・」
「はぁ・・・酒が飲みたいのう」
「お前は、相変わらず通常運転だな」
あの日、管輅が現れた日
その時に告げられた、蜀を滅ぼすという男・・・“鄧艾”の仲間である少女達の存在である
おまけに、そのメンバーに対しても驚きを隠せなかった
華雄
袁術
張勲
黄蓋
その誰もが、あの乱世において消えていったはずの名だったからだ
驚くな、というほうが無理な話である
「いったい、どうなっているのだ」
もはや、愛紗の想像の範疇を遥かに超えている
頭をおさえ、彼女は唸り声をあげていた
彼女だけではない
皆が皆、あまりの事態についていけないでいた
しかし
朱里は、彼女だけは違った
「確かに、ワケのわからないことばかりです
しかし、私たちが今すべきことはわかります」
と、朱里
彼女はその視線を、七乃に移した
「張勲さん
ひとまずは、貴女達の身柄は我々が預かります」
「まぁ、そうなるだろうな~とは思ってました」
“問答無用で斬られるよりはマシですね”と、七乃は笑う
「ウチは、どうしたらええの?」
と、そう言ったのは王異である
それに対し、朱里は“そうですねぇ”と声を漏らす
「とりあえず、一緒に来てください
今は、“少しでも情報が欲しいですから”」
「りょ~かい
しゃ~ないわな」
と、王異
この返事を聞き、朱里は再び七乃を見つめた
「張勲さんにも、お話を聞きたいのですが
貴女はあの不可思議な兵士相手にも、何処か“慣れているようにも見えましたし”」
「う~ん、慣れっていうか
まぁ、同じようなものなんでしょうけど」
“まぁ、いいです”と、七乃は苦笑した
その返事を聞き、朱里は“ありがとうございます”と頭を下げる
それから、桃香を見つめ口を開いた
「桃香様
これからのことについて、一ついいでしょうか?」
朱里の言葉
桃香は、力なく頷く
そんな君主の姿に、朱里は胸がつまった
しかし、彼女はそれを隠す様に言葉を放つ
「まず、私たちは“ある場所”へと移動します
其の地で、成都を取り戻すべく軍を再編いたしましょう」
「“ある場所”、だと?」
愛紗は、その言葉に首を傾げていた
愛紗だけではない
どうやら朱里以外は皆、その言葉に対し同じような反応をしているようだ
それに対し、朱里は真剣な表情のまま言う
「非常事態を想定し、私と雛里ちゃんで密かに準備していた・・・皆さんに教えていない“場所”です
言うならば、“最後の砦”でしょうか」
“最後の砦”
この一言に、場は一気に静まり返った
「その、場所の名は・・・?」
愛紗の一言
朱里はその瞳を閉じ、やがて静かに言葉を紡ぎだす
「“白帝城”・・・それが、私たちの“最後の砦”の名です」
ーーー†ーーー
「白帝城・・・か」
「はい」
玉座の間
劉璋は、愉快そうに笑いながら言う
「まさか、そのような城を造っていようとはな
これはこれは、中々楽しめそうだ」
「そうですね」
劉璋の言葉
同意したのは、呉蘭であった
彼は劉璋に対し、ニヤリと笑みを浮かべる
「どうします?」
「どうするも何も・・・行きたいのだろう?」
“そりゃぁ、まぁ”と、呉蘭は笑った
それに対し、劉璋は笑みを返す
「呉蘭よ・・・雷銅と共に、白帝城を攻めろ
奴の“雷電兵”と、貴様の“紅焔兵”ならば・・・充分だろう?」
「御意」
言って、呉蘭は歩き出す
向うのは、最後の砦・・・“白帝城”
その彼の背を見送り、劉璋は呟いた
「さて、“貴女”はどうするのだ?」
≪あら、つまらないことを聞くものね≫
気付けば、そこに・・・劉璋のすぐ真後ろに、“彼女”はいた
黒き禍々しい衣服に、黒い“猫耳”のフードを被った少女だ
その背には、“巨大な十字架”を背負っている
「つまらない、ですかな?」
「ええ、つまらないわ」
少女は言う
不気味な笑みを浮かべ、少女は・・・“嗤う”
「私は、“アイツ”さえ取り返せればそれでいいのよ
だからこそ、私はここにいるんじゃない」
その瞳
闇は、深い
「あぁ・・・早く、早く会いたい
アイツだってきっと、そう思ってるはずよ」
言って、彼女はその頬を朱に染める
少しだが、体も震えていた
「あぁ・・・ついに、会えるのよ
今度は、今度は“逃がさないわ”、“離さないわ”、“消させないわ”
私がちゃんと、“縛っておくの”」
彼女の言葉
瞬間、彼女の周りには・・・不気味に漂う、“幾つもの鎖”が現れていた
その鎖を眺め、彼女はまたウットリとしていた
その、彼女の右腕の甲
“鎖”という文字が、不気味に光を放っていた
「“鎖”・・・私が、アンタの為に選んだ“力”
あぁ、早く、早く私に会いに来て・・・“北郷一刀”っ!!!!」
響くのは、ジャラジャラという
狂気の鎖の音色
「貴方は、この私・・・“泥棒猫”、“荀文若”のモノなんだからっ!!!!!」
物語の舞台の上
役者は、そろい始めていた・・・
★あとがき★
どうも、こんちわ
月千一夜です
二章、十二話
いかがだったでしょうか?
いよいよ、泥棒猫も登場し、二章の登場人物が物語に揃ってきましたw
さて、閑話休題
実は今、ニコニコ動画にて≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫の紙芝居動画が公開されていますww
作ってくれた方に、感謝です♪
お暇でしたら、ぜひともご覧になってくださいww
では、皆さん
またお会いする日までww
Tweet |
|
|
30
|
8
|
追加するフォルダを選択
どうも、徹夜明けです(ぇ
ひゃっはぁ、投稿じゃ
ハルカナ、二章十二話です
蜀編も、間もなく折り返しっすかね
続きを表示