No.522721

ワン・ツー・パンチ

さん

去年の4月に書いたものです。劇場版にはドミジェンが出ることを切に願ってました。

2012-12-24 23:38:50 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:840   閲覧ユーザー数:839

 

 

 

 

 1945年8月ロマーニャ。古から文明と文化が発達してきたこの地にもネウロイが現れるようになったのは1945年春。各国のウィッチが集結し、ネウロイの撃墜・ロマーニャ解放を目指して戦っていた。戦っていたと過去形なのは先月、ロマーニャ解放が実現したためだ。

 現在、このロマーニャに駐在しているのが第504統合戦闘航空団、通称『アルダーウィッチーズ』である。先月までは501JFW(統合戦闘航空団の略)も駐在していたのだが、ロマーニャ解放が実現したために解散となり、正式な防衛任務が504JFWに移管されたのだった。

 だが、ロマーニャ解放が実現したといってもネウロイが出現しなくなったわけではない。全盛ほどではないものの散発的に出現し続けている。せっかく取り返したロマーニャを再び奪われるわけにはいかない。敵の手は薄くなっているものの501が解散したことにより状況はこちらも同じで、ここが正念場なのだ。

 

 本日もネウロイ出現の一報が届き、ドミニカ、ジェーン、赤ズボン隊の3人は目標に向かって海上を飛んでいた。

出撃したのが一一:○○時で現在は一一:二三時。どうやら昼食の時間には間に合いそうにはなさそうだとドミニカは思いつつ噛んでいたガムを膨らませる。

その視線はどこかだるそうにしているが、内心は少しイライラしていた。

 

(「今日は折角ジェーンが昼食を作ってくれたのに……」)

 実は今日の昼食の当番はドミニカの寮機かつ女房役であるジェーンが担当していた。そんな彼女の傍で話をしながらドミニカは完成を楽しみに待っていた。料理が完成してこれから食べようと準備していたところで警報が入りジェーン共々出撃することになってしまった。大事なところで邪魔をされたことにドミニカは怒っていたのだった。

 

 隣を並ぶように飛んでいた寮機のジェーンは彼女を横目で見る。そこには眉間の間に皺を寄せているドミニカの姿。

(「…なんか今日の大将の機嫌が悪そうな気がする……」)

 ジェーンはドミニカのことを『大将』と呼ぶ。しかしこれは愛称のようなもので、実際のドミニカの階級は「大尉」であり大将ではない。

二人は基本的に基地内でも一緒に行動していることが多いが、ジェーンはドミニカが眉間に皺を寄せるのはあまり見たことがない。どちらかと言うとドミニカはポーカーフェイスでいつも気だるそうにしているのだ。

よもやその理由が自らの作っていた料理を食べ損ねたことによるものだと知ったらジェーンはどんな顔をするのだろうか。

 

「目標発見! 距離およそ2000!」

 ドミニカとジェーンの前を飛んでいたフェルナンディアが叫んだ。目標は大型ネウロイのようで低空を飛行しながらこちらに向かってきている。それを確認した他の4人の目つきが鋭くなる。特にドミニカの目つきは凄まじく、血走っているほどだ。そこにはいつもの気だるそうな姿は無く、戦場に赴く軍人の眼だった。

 

「ジェーン、行くぞ!」

「あ、はいっ!」

 急に呼ばれて驚いたジェーンだったが、急加速したドミニカにしっかりと着いていく。

 

「ルチアナ、ティナ! 私たちも行くわよ!」

「「了解!」」

 赤ズボン隊の3人も出遅れないように速度を上げ、散開してそれぞれのポジションに移る。

 

 ネウロイの射程距離に入った5人に砲火が降り注ぐ。近距離で突撃・遊撃を担当するドミニカとマルチナにはより多くの砲火が降り注ぐが、掻い潜りさらに接近して弾を叩きこんでいく。そんな二人を中距離からジェーンとフェルが援護しつつ、ダメージを与える。さらにフェルは隊全体を見て、指示を飛ばすことも忘れない。

 敵は大型ネウロイであるが速度はそんなに早くない。破壊された表面部もなかなか再生しておらず、どうやら再生能力も高くないようだ。しかし、攻撃している5人の表情には余裕は見られない。

「…硬いな」

 一度距離を取ったドミニカは呟く。他の4人もそれを感じ取っていたようで、フェルが全体に指示を飛ばす。

「できるだけ再生中の場所を狙って!」

 フェルの指示が言い終わるとほぼ同時に再生途中の装甲部分が大きく爆発した。ルチアナの放ったボーイズMkⅠ対装甲ライフルが命中したためだ。今の一撃は効いたようで、目に見えてさらに再生速度が落ちた。

 この機を逃してはならないと5人は攻撃の手を強める。どんなに硬くても再生が遅くなってしまえば、ダメージは与えやすい。

 ネウロイの表面を覆う黒い装甲が傷つき散っていく。

 

「ジェーン!」

 叫びながら両手に持った増弾カスタムされたコルト1911ハンドガンのマガジンを一瞬で取りかえる。

「はい、大将!」

 耳につけたインカムから返事が聞こえると、ジェーンへ視線で合図を送る。視線を向けられたジェーンも頷いて合図を送った。ドミニカは一瞬だけジェーンに微笑んだがすぐに険しい顔に戻り、目標に向かって右上方から撃ちながら突撃し始めた。同じようにジェーンも少し遅れて左上方から突撃を開始する。

ドミニカのハンドガンから放たれた弾丸は目標に全て命中する。二人は目標に対して下降するように飛び、目標を少し通り過ぎた所でクロスして、すぐに上方に向きなおって突撃し続ける。ちょうど二人は8の字を描くように攻撃しているのだ。二人は交差してる点にはネウロイがいるようにして動き続ける。

 

 3回目の下降突撃時にジェーンのブローニングM1919から放たれた弾丸によりネウロイのコアが露出する。そこにすかさずドミニカが猛烈なラッシュをかけ両手のコルトが火を噴く。

 そのうちの一発が命中してコアが砕け散ったと思うと直ぐにネウロイ本体も白いガラス片のように粉々に砕けた。

 

 敵を撃破したのを確認し、突撃を行っていた二人はブレーキをかけて減速して合流する。

「やりましたね、大将!」

「…ああ」

 声をかけるジェーンにドミンカも頬が緩む。しかし、少し不審にも思う。

 ロマーニャのネウロイの巣が破壊されてから出現が散発的になっているとはいえ、迎撃するのはそれなりに骨の折れる作業だったはずだ。にもかかわらず今回の手応えの無さはドミニカからしてみればあまりにも不自然だった。

 

 

 そのとき基地から連絡が入った。

『こちら竹井、みんな聞こえる? 』

「こちらフェルナンディア。どうしたの竹井?」

 ネウロイを撃破したというのに、イヤホンの向こうから聞こえる声はまだ緊張を保ったままで、竹井は報告する。

『まだ、ネウロイの反応がレーダーから消えていないの。現在も目標は進行しているわ」

 一瞬の間の後、フェルナンディアが叫ぶ。

「そんな! 今撃墜したのに! レーダーの故障ということはないの?」

 竹井の報告にフェルナンディアだけでなく他の4人も顔が再び険しくなる。

『その可能性も考えてこちらも複数の基地に問い合わせてみたのだけれど、他の基地も同じ反応だったから故障ということではないみたいなの。もしかしたらもう一機いるのかもしれないわ』

「……わかったわ竹井。もう一度目標を捜索してみる」

 フェルは竹井との通信を終え、指示を飛ばす。

「聴いていたと思うけど、もう一度目標を探します。発見次第攻撃し、撃破してください」

 他の4人も頷き、赤ズボン隊とリベリオン組に分かれて捜索を始めた。

 

 

 ドミニカとジェーンは赤ズボン隊の3人と逆方向を捜索していた。

 

「まだレーダーに映っているってどういうことなんでしょうね大将?」

 ジェーンは横を並んで飛ぶドミニカに話しかける。しかし、ドミニカからの返事はなく何かを考えている。

「……大将?」

 ジェーンが不審に思い、覗きこむようにしている間もドミニカはいままでのことを整理していた。

 

(「別の場所にネウロイが出たのならわかるが、レーダーから消えない反応……。しかし、間違いなく撃破しているはず。竹井もレーダーには同じ位置にいると言って……っ! まさか!」)

 ドミニカは何かに気づいたような顔をして、進行方向を180度反転した。急転回したドミニカにジェーンは慌てる。

「ど、どこ行くんですか大将!」

「ジェーン! 私について来い!」

 真剣な顔で言うドミニカにジェーンは「は、はい!」と返事をすることしかできず、同じように急転回し後へと続いた。

 

 

ドミニカは先程ネウロイを撃墜した空域へとたどり着くと

太陽を見ながら旋回する。ジェーンはその行動の意図が分からず、疑問符を浮かべるばかりだ。

ドミニカは目を細め、太陽を凝視しながら旋回し続ける。すると太陽の上に一瞬黒い点が重なったのが見えた。

「ビンゴだ」

ドミニカはそう呟くとその黒い点めがけて上昇し始める。再び軌道を変わる軌道にジェーンはしっかりとついていく。

 

 その黒い点は近づいていく内にみるみる大きくなる。そして見えてきたのは無機質な黒のボディに独特の赤いモザイク模様。あんなデザインを持つものをドミニカは一つしか知らない。ネウロイだ。その姿はドミニカの後を飛ぶジェーンにも見えた。

 ネウロイは低空と高高度に分かれ、重なるように飛んでいたのだ。これではレーダーに映っているのは一機にしか見えないはずだ。

 

「こちらドミニカ。敵を発見! 場所は先程の空域よりさらに1500m上空、ローマ方面。至急応援を頼む」

 すぐに『了解、すぐに向かいます!』と耳に嵌めたインカムからフェルの声が聞こえた。

 

 どうやら敵は先程と同じ型の大型ネウロイのようだ。しかし、下部に円筒の物体をぶら下げている。あれが何なのかは分からないがさっきのには無かったということはこちらが本命ということなのだろう。

 本命だということがすぐに分かったドミニカは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「チッ……ジェーン、さっさとアイツを堕とすぞ!」

「はいっ!」

 二人は目標に弾を撃ち込むが、本命ということもあってか先程よりもさらに装甲が硬い。加えてこちらは先程の戦闘で魔力を消耗している上にフェル達が来るまでにはまだ時間がかかる。

 陸地まではもうあまり距離がない。援軍を待っていては上陸を許してしまう可能性が大きい。ここはなんとしてもジェーンと二人で撃墜しなければならない。

 ドミニカは銃弾に込める魔力を増やす。こうすれば相手が硬くてもダメージを与えることができ、再生速度も遅らせることができる。しかし、込める魔力を増やすということはも魔力消費ももちろん増加する。今回のように魔力を消費した状態で使用すれば自身が墜落する危険すらある。

 

 それでもドミニカは躊躇なく弾を叩きこむ。どうやらきちんと効いているようだ。ジェーンもしっかりと援護しており、ドミニカの弾が着弾した部分を集中して狙っている。

 

ジェーンはドミニカのことを凄いというが、ドミニカ自身はジェーンこそ過ぎた寮機だとドミニカは思う。戦闘では自分の横を飛び的確なアシストを返してくれる。日常生活でも『大将』と慕い、いつでも隣にいてくれる。

『ワンマン・エアフォース』と称されるドミニカ独特の戦闘スタイルは突っ込んで打つという単純なものだが、それ故に付いて来れる同僚が少なく今まで寮機に恵まれなかった。

 そんな中でジェーンは自分の後を飛ぶことのできるかけがえのない唯一の寮機だ。

こんな素晴らしい相方を堕とさせないためにも、ドミニカ自身が堕ちるわけにはいかなかった。

 

「ジェーン! 攻撃(アタック)だ!」

「はいっ!」

 左右に分かれた二人は一機目のネウロイを倒したときのように交互に攻撃を加えていく。先程と異なるのは上下方向でなく左右方向に8の字を描いている点だ。

 互いに3回ずつ攻撃をかけた後から、8の字がだんだんと上下方向へと傾き始めた。ドミニカが傾ければ、ジェーンも同じように傾き、軌道に残された煙が美しく模様を描いていく。

 軌道が完全に上下方向になった時、ドミニカが目標から離れるように上昇し、ジェーンが下降していた。そのまま二人は今までより大きく上昇と下降を続け、ジェーンが下降のエネルギーを保ったまま転回し目標へと上昇し始めるとドミニカもネウロイ目掛けて下降を始めた。

 二人の角度はほぼ垂直。ドミニカに至っては下降しているというよりもほとんど落下だ。それでも尚、ストライカーを回し加速度をさらに加えて速度を上げる。

 

 ドミニカは両手のコルトをネウロイへと突き出し弾丸を発射する。ありったけの魔力を込めて。

 着弾した弾は大きくネウロイのボディを抉る。先程までの攻撃も合わせてネウロイ独特の黒い部分は少なく、白い破片が舞い上がっている。

 ドミニカは打ち切った両方のコルトを一瞬でリロードする。これが最後のマガジンだ。しかし、これを打ち切るつもりはない。

 正面にシールドを3枚重ねで展開する。ドミニカ側からだんだんと小さくなるように展開されたシールドは円錐のような形にも見える。

 ドミニカは残り少ない魔力をストライカーにつぎ込みさらにネウロイに向けて加速し、避ける素振りすら見せず突撃した。

ドミニカは一本の槍と化していた。

 

 その槍は蒼い魔力光を放ちながらネウロイを貫いた。

 

 ドミニカがネウロイを貫いた時ドミニカのシールドは1枚残し割れていた。しかし相手の被害も甚大で胴体は二つに折れ、コアは衝撃で本体を離れ宙に舞っていた。

 速度を殺しきれないまま落下するドミニカはコアを確認した瞬間、ジェーンが横を通り過ぎドミニカはジェーンに向けて叫ぶ。

「ジェーン、今だ! やれええぇぇぇぇっ!」

 そこにはいつもの気だるそうなドミニカはなく、彼女本来の情熱あふれる声だ。

 その声はジェーンの耳にも届き、引き金をコアに向けて引いた。ジェーンのブローニングM1919はネウロイのコアに銃弾の雨を降らし、コアを砕いた。

 そしてすぐに本体も砕け散り、辺りにはネウロイの破片が降り注いだ。

 

 

 

 ネウロイを撃墜したジェーンはすぐに方向を変え、ドミニカの方へ向かう。海面すれすれで水平方向に方向転換できたドミニカは辛うじて激突は免れた。そのまま減速しながら少し上昇したところでホバリングする。

「大将ぉぉぉぉっ!」

 ジェーンはドミニカ目掛けて下降し、隣まで来ると急ブレーキをかけて合流した。

「ジェーン、そんなに叫ばなくても私は大丈夫だ」

 だから心配するなと言うドミニカであるが、いつも着ている革製のジャケットは破けてしまっているし、大きな傷は無いものの体は傷だらけだ。

 

「おっと」

「大将!」

 ドミニカのストライカーのエンジンが一瞬止まる。どうやら魔力を使いすぎたらしい。隣にいたジェーンがさっと支え、バランスを崩さずに済んだ。

「……すまない、ジェーン。助かったよ」

「もうっ! 何が『大丈夫だ』ですか! 大将は無茶しすぎです。弾に込める魔力を増やすなんて!」

「なんだ、気づいてたのか」

 捲し立てるジェーンに対して意外そうな顔を向けるドミニカ。

「あれだけ銃の威力が変わったら誰だって気づきますよ! それにネウロイにシールドで突撃なんて、失敗して堕ちたらどうするつもりだったんですか!」

「ジェーンなら私が堕ちる前に私を助けてくれるだろう?」

 ドミニカが歯の浮くような台詞を吐く。

ジェーンはさらっとこんなことを言われるといつも恥ずかしがって慌ててしまう。今回もそれで誤魔化せるとドミニカは思った。

 

しかし、返ってきた返事は

「当たり前です! 大将の背中を守るのが私の仕事なんですから!」

「……っ!」

 予想外のストレートな答えにドミニカが真っ赤になってしまった。当のジェーンは勢いで自分の言ったことに気づいていなかった。

 

 その後、赤ズボン隊の3人はドミニカとジェーンにやっと合流した。どうやって撃墜したのかとフェルに尋ねられ、そのときドミニカがガムを膨らませながら『加速してシールドで貫いた』と言ってのけると赤ズボン隊の3人は信じられないといった感じでぽかんとしていた。

 

 撃墜を竹井に報告し、5人は504JFWの基地に帰投する。戦闘で魔力が底を尽きかけているドミニカにはジェーンが肩を貸している。

 

「大将、次あんな無茶したら怒りますからね」

窘めるようにジェーンが言うと

「そうか、それは楽しみだ。怒ったジェーンも見てみたい」

「もう! 私は本気で言っているんですよ」

 全然効かないドミニカにジェーンは呆れるように溜息をつく。

 

「そんなことよりジェーン、基地に戻ったらランチをもう一回作ってもらってもいいか? 食べ損ねた」

「…あ、そういえばそうですね。フェルナンディアさん達の分も作らないといけないから5人分かな? そうだ! 心配させた罰として今度は大将にも手伝ってもらいますよ! 見ているだけはダメなんですから!」

 そう言ってジェーンは基地へ飛ぶ。肩を抱えられたドミニカはガムを膨らませて『わかったよ』と呟いた。

 

(終)

 

 

 
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