No.522700

真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ十九

 
 お待たせしました!

 張怨との戦いの決着をお送りします。

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2012-12-24 23:19:59 投稿 / 全19ページ    総閲覧数:7286   閲覧ユーザー数:5094

「遅くなって申し訳ない」

 

 俺達は再び全軍を率いて孫呉の援軍として到着していた。

 

「まずは…雪蓮、すまなかった」

 

 俺が頭を下げると雪蓮は狼狽した様子を見せる。

 

「な、何よ。いきなり」

 

「先の連合との戦から大分経っているとはいえ、孫呉の者達が美羽…袁術に

 

 対して良い感情を持っていない事は確かだった。それなのに、俺は事前に

 

 連絡もせずに連れて来てしまった。只でさえ、皆が苛立っていた時にその

 

 ような無神経な真似をするべきではなかった。申し訳ないと思っている」

 

 俺が丁重に謝罪すると、雪蓮は完全にどう対応したら良いか、図りかねて

 

 いるようだった。

 

 そこに蓮華が口を挿む。

 

「姉様、一刀がそこまで言ってくれているのです。あなたもちゃんとしない

 

 とダメですよ」

 

 そう言われた雪蓮は、

 

「わ、わかっているわよ…え、ええ~っと、本日はお日柄も良く…」

 

「何の挨拶だ?雪蓮…」

 

 しどろもどろとなり、冥琳にツッこまれる。

 

「いや、そうじゃなくて…もう!堅苦しいのは苦手なのよ!!ごめん、一刀。

 

 私も言い過ぎたわ…よく考えたら私も苛立ち紛れにとんでもない事を言って

 

 しまって反省してる」

 

 ふ、雪蓮らしいっちゃらしいか。

 

「俺もあの時は少々ムッとはしたけど…味方同士、仲良くいこうか」

 

「ええ!」

 

 そして俺と雪蓮はがっちり握手する。

 

 

 

「ふふ、これで一件落着ね。いいですか?姉様もこれに懲りたら、あまり感情

 

 的な発言は控えてくださいね」

 

「…は~い、分かりました」

 

 どっちが姉なのだか。と、蓮華はこっちを向いて、

 

「一刀もこれで許してね」

 

 そう言って俺に微笑んでくる…ううっ、可愛すぎるだろ。あまり意識しない

 

 ように心がけようとはするが、どうしてもあの夜の事を思い出してしまう。

 

「あ、ああ。わかっているさ」

 

 俺は努めて冷静に返答したつもりなのだが…皆の雰囲気がおかしい。

 

 ~ちなみにその時の皆の心の内~(どの台詞が誰かはご想像にお任せします)

 

(一刀…ウチの方がずっと付き合いは長いのに、指一本も触れんでまさか他所

 

 の女に手ぇ出すとは…見とれよ、ウチかて今度こそ…)

 

(いいなぁ、蓮華様は。私だって一刀様に…って、何考えているんだ私は…。

 

 でも…今度機会があれば…)

 

(やっぱりあれって兄様と蓮華様がそういう関係になったって事だよね。それ

 

 じゃ、もう朱里さんだけじゃないって事かしら?なら…)

 

(ふふー、これは解禁という事で判断しちゃっていいという事ですねー。なら

 

 風も頑張っちゃいましょうかねー)

 

(あらあら、朱里ちゃんだけじゃなくなったという事は私達にも可能性がある

 

 って事かしら?ならば…夜討ち朝駆けは基本ね)

 

(これは儂らに対する宣戦布告という事かの?ならばお望み通り搾り取ってや

 

 ろうぞ…ふっふっふ)

 

(ぶう、一刀お兄様ったら、そんな遠くへ行かなくてもここに美少女がいるっ

 

 ていうのに…でも、これからはヤッちゃっても良いって事だよね~にししし)

 

(ああ、北郷様は遂に…何か皆さんの眼が怖いですね。この状況、同じ男とし

 

 て同情させていただきます。でもこういう事はご自身で解決を)

 

 ちなみにここにはいない雛里と輝里と燐里も後でこの事を知るや、心の

 

 中で他の女性陣と同じような事を思ったそうである。

 

 ちなみにあまり事態を把握していない袁家ご一行は全員頭の上に?が浮かん

 

 でいたのであった。

 

 

 

「話も終わった所で軍議に入ります。まず、今の状況を教えてください」

 

 軍議が始まり、朱里がそう口火を切る。

 

「朱里も聞いての通り、向こうの一撃離脱の戦いにすっかり翻弄されてるわ」

 

 雪蓮が肩をすくめながらそう言う。

 

「張怨がここにいる事はわかっているのですよね?」

 

 朱里は地図の一点を指差して問いかける。

 

「ああ、そうだな。しかしここはなかなか攻めにくい所でな」

 

 冥琳がそう言う通り、張怨が拠点としている山は尾根の奥にあり、攻め口は

 

 一箇所しか無い。これなら少ない兵力でも戦えるわけだ。

 

「でも、あいつらは四方八方から出てくるんやろ?だったら何処か他にも行け

 

 る所があるんちゃうのか?」

 

 霞の考えももっともなのだが…。

 

「それは既に調べました。でも、数人程度で行くならともかく大勢で攻め込む

 

 事は出来ないような所で…」

 

 亞莎は神妙な顔つきでそう答える。ちなみに彼女からも真名は預かり済だ。

 

「なら少数精鋭で行ったらどうなんや?」

 

「それは既に実行済だ。しかし、張怨の奴はそれも想定したのか、そこには罠

 

 だらけでな。突破する事もかなわなかった」

 

 思春がそう悔しそうな顔で言う。彼女を以てしても突破出来ないとは…どれ

 

 だけ堅固なんだ?

 

「北郷、お前はどう考える?」

 

「お、俺ぇ?」

 

 いきなり冥琳が俺に意見を求めてきたので面食らう。

 

「ああ、ここではお前が一番突拍子も無い事を提案しそうだからな」

 

 

 

「如何に北郷殿とてそう簡単にはいきますまい」

 

 思春はそう言って俺を睨む。ていうか…何か彼女の態度が攻撃的だ。表面上、

 

 言葉は丁寧だがずっと俺に対して何かしら含みがあるような眼で睨む。

 

「思春、そんな眼で睨んだら一刀も落ち着いて考えられないでしょう」

 

「はっ…」

 

 蓮華の言葉で思春は直接睨むのだけはやめてくれたが、俺に対しての憎悪と

 

 言って差し支えない程の殺気を止めようとはしなかった。一体俺が何をした

 

 というのか?(←自覚無し)

 

 とりあえずはそれを何とか頭の隅に追いやって…この山を攻める方法ねぇ。

 

 その時、一つの案が浮かぶ…でも、かなり金と手間がかかるな、この作戦。

 

 それがネックとなり言い出せないでいる俺を見て、再び思春が睨みつけな

 

 がらとんでもない事を言ってくる。

 

「ふん、所詮は朱里のお飾りか」

 

 その言葉に場の雰囲気が再び緊張してくる。

 

「何や?思春は一刀が気に入らんのか!?」

 

 霞がその言葉に食って掛かる。

 

「別に気に入るも気に入らんも、元々興味など無い」

 

「なら下らん事言うな!」

 

 そのまま霞と思春の睨み合いが始まり、場の緊張が高まる。

 

「すまないな、俺が何も言わないばかりに」

 

 俺はやんわりと言う。

 

「一刀…馬鹿にされてるのはお前やぞ!もっと魏延に対しての時みたいにやらん

 

 かい!!」

 

 

 

「そうは言うがな、今けなされてるのは俺自身の事だ。それに朱里のおかげで、

 

 全てがうまくいっているのは事実だから、思春の言っている事は間違って無い

 

 だろう?逆に俺は的確な意見だと感心したけどね」

 

 俺がそう言うとさっきまでの緊張は何処へやら、拍子抜けした空気が流れる。

 

「「はあ、もういい…」」

 

 霞と思春の言葉が見事にハモッた。

 

 俺は二人が席に座るのを見て話を続ける。

 

「さて、一つ作戦は思いついたのだけど…俺が逡巡してたのは、これが金と手間

 

 のかかる話だからなんだけど…」

 

 そして俺が作戦を述べると、

 

「へぇ~っ、いいじゃない。そういう派手なのは私好きよ」

 

「雪蓮も気に入ったようだし、それにこれは此処を攻めるのに確かに的確だ。私も

 

 異存は無い」

 

 雪蓮・冥琳はすぐに賛意を示す。

 

「確かにお金と手間がかかりますが、問題は無いかと思いますね~」

 

「張怨をあの山から引きずり出すのに最も良いと私も思います」

 

 穏と亞莎も賛同する。

 

 北郷軍の面々からも特に反対意見は出なかったので、俺の作戦が実行される事に

 

 なった。とはいえ、準備に時間がかかるのが難点だが…。

 

 

 

「お頭!奴ら何か作ってますぜ!!」

 

 張怨は部下からの報告を聞くと、見張り台に自ら登りそれを確かめる。

 

「一体何ですかね、あれ?」

 

「わからない…でも嫌な予感がします。あれを破壊に行ってください」

 

「あれをですか?…わかりました」

 

 ・・・・・・

 

「野郎共!行くぞ!!」

 

 張怨に命令された賊はいつものように間道をつたって攻めかけるが、

 

「やあやあ、ご苦労さん。ご褒美に、ここはウチがしたるさかいにな」

 

 出口に霞が待ち構えており、ここに出て来た二十人程の部隊は一瞬にして首と胴が

 

 離れていた。

 

 また別の道では、

 

「北郷様の命により、ここは通さない。死ね」

 

 凪が待ち構えており全員の頭が潰れたトマトのようになっていた。

 

 そしてまた別の道では、

 

「ここまで来た以上、我が鈴の音で地獄に送ってやる」

 

 思春によって全員が斬り刻まれていた。

 

 ・・・・・・

 

 全道にて失敗の報を受けた張怨は驚きと焦りに包まれていた。

 

「そんな…何故出てくる所がわかった?」

 

 自分の策と長い間をかけて準備してきた罠に絶大の自信を持っていた張怨は、何故

 

 ここまでしてやられるのか、全くといっていいほど分からなかったのであった。

 

 

 

「そうですか、それでは引き続き警戒を」

 

 全てで撃退に成功した報告を受けた本陣では皆、特に孫呉の面々が驚いていた。

 

「朱里、一体どうやったら出てくる所が分かるのよ?」

 

 雪蓮にその問いに、

 

「ここに来てから、張怨の部隊に襲われた生き残りの人に聞き取りをして、どのように

 

 して敵の部隊が現れたのか、どのように去っていったのかを調査しました。その結果

 

 がこれです」

 

 そう言って朱里が見せたのは…何やら地図にいろんな線やら数式やらが書き込まれた

 

 物だった。とはいっても俺はそれが数式だと分かるのだが(その数式の答えは分から

 

 ないが)、初めて数式を見る他の者達には何かの呪文のようにしか見えないらしく、

 

「何だ、これは?この地に呪いでもかけたのか?」

 

 この中で最も考えが柔軟であろう冥琳がそう聞いてくる位だ。

 

「これは敵部隊の移動の行程を計算した物です。そして、それにより道の元は分からず

 

 とも、出てくる場所は幾つかに絞られてくるのです。後は、そこに兵を配置するのみ

 

 というわけです」

 

 その説明を聞いても俺ですらその程度にしか認識出来ない物をこの時代の人間が理解

 

 出来るはずもないので、ただ漫然と頷くのみかと思いきや、

 

「ううっ…素晴らしいですぅ~~~!その方法、是非に教えてください!!」

 

「ああ、私も教えてほしいな!」

 

「あ、あの…出来たら私も…」

 

「風も聞きたいですねー」

 

 知恵者の面々だけは眼を輝かせていた。

 

 

 

「くっ、こんなはずは…またしても…諸葛亮!!」

 

 張怨は苛立ちを隠せなかった。

 

 何故なら、何かを作っている事は分かったので、幾度もそれを破壊に行かせるも、

 

 その都度全ての部隊が全滅し、山深くに誘い込もうにもある程度まで来ると、即座

 

 に退いていってしまい、孫呉のみを相手にしている時のような勝利を得る事が出来

 

 ず、しかも山を遠巻きにした状態で兵が配置されており、補給(という名の略奪)

 

 に山を降りた者達は全て捕縛されるか討ち果たされており、物資の欠乏が甚だしい

 

 状況になっていたからであった。それもこれも全て北郷軍が来てから…間違い無く

 

 諸葛亮の指示による物である事を理解する張怨には既に「諸葛亮」という名前が、

 

 大きく立ちはだかる壁の如くに見えていたのであった。

 

「お頭!敵陣に何か変な物が見えますぜ!」

 

 それを聞いた張怨は急ぎ見張り台に登る。そこに見えたのは…。

 

「なっ…まさか、あれは…投石機?しまった!」

 

 張怨のその声を訝しげに聞いていた部下の眼に一つの物体が映し出されていた。

 

 それは…。

 

「岩っ!?」

 

 その声があがると同時に見張り台に岩が直撃する。張怨はそこから投げ出されなが

 

 らも、何とか無事ではあったが、声をあげた部下は岩の下敷きとなっていた。

 

 そして先程と同じ位の大きさの岩が次々に投石機より弾き出されて山中に落ちてきて

 

 城を破壊する。

 

 何人かの者が間道から攻撃を仕掛けようとするが、その間道の場所にも岩が落ちてき

 

 て道がふさがれる。

 

「よし、どうやらあの辺りに道があったのは間違い無いようだな。しかし、何とも凄い

 

 光景だな。それに北郷の言う通り、本当に金と手間がかかったがな」

 

 冥琳は感心しながらも、そう呟いていたのであった。

 

 

 

 ~張怨の城山にて~

 

 先程より無数に降り注ぐ岩により山中にあった施設の殆どが破壊され、しかもその岩

 

 が木をなぎ倒してさらにその下敷きになる者もあり、兵の被害はわずかの間に甚大な

 

 物となっていたのであった。

 

「助けてくれぇーーーーー!」

 

「嫌だ、来るな、来るなぁーーーーー!」

 

「ぎゃぁーーーーーーーー!」

 

 先程より山中にこだまするのは張怨の兵達の悲鳴ばかりであった。

 

 張怨はそれを見ているだけしか出来なかった。

 

 そこに一人の兵が寄ってくる…しかしその者は既に頭から大量の出血があり、眼の焦

 

 点もあっていなかったのである。

 

「お頭…助けてくださいよぉ。何時もみたいにさぁ、何か……いい知恵あるんでしょ…

 

 …た、す…け、て…」

 

 そのままその者は崩れ落ち、事切れていた。

 

 それに対して張怨は冷ややかに見つめるだけであり、

 

「もはやここまで…逃げるが勝ちか」

 

 全てを見捨てて逃げる腹づもりをしていたのであった。

 

 

 

「大分静かになったな…」

 

 俺達が投石機で岩を撃ち込み始めてから一刻程が過ぎ、最初は響き渡っていた賊

 

 共の悲鳴がすっかり聞こえなくなっていた。

 

「あれだけ撃ち込めば、ほとんどやられちゃったんじゃないの?もういいでしょ、

 

 踏み込んでも?」

 

 雪蓮が突撃したがっているので朱里と冥琳に視線を向けると二人共頷くので、

 

「じゃ、後はよろしく」

 

 俺がそう言うと、

 

「待ってました!それじゃ行くわよ!!抵抗する者あれば容赦無く斬りなさい!!」

 

 雪蓮はそう号令し、嬉しそうに突撃していった。

 

「さて、麗羽達はうまくやっているかな?…大丈夫だよね?」

 

 ・・・・・・・

 

「はぁ…はぁ…ここまで来れば追っては来れないはず…」

 

 張怨は半分崖になっているような道を進み、山の反対側まで出ていた。

 

 実を言えば、この山を根城として用意した時からもしもの場合の逃げ道として準備

 

 していたのであった。ちなみに部下達はこの道の存在を知らない。自分一人が逃げ

 

 る為の道だったのである。

 

「くっ…ここでは負けましたが次こそは…」

 

「あらあら、次があるなんて本当に思っているのかしら?なかなかおめでたい方です

 

 わね」

 

 

 

 

 その声に驚いた張怨が振り向いた先には、

 

「我が名は袁紹。劉弁陛下の世を乱さんとする悪党を成敗する為、洛陽より参上ですわ!

 

 さあ、斗詩さん、猪々子さん、やっておしまいなさい!!」

 

「「あらほらさっさー」」

 

 朱里の指示により待ち構えていた麗羽とその号令に律儀に応える二人がいた。

 

(そんな、まさか…?れ…袁紹が何故ここに!?この状況でこれは…)

 

 張怨は内心かなり焦りながらも、何とかして逃げる糸口を見つけようとしていた。

 

「逃がすわけにはいきません!」

 

「あたい達二人にかかればお前如き敵じゃねえしな」

 

 斗詩と猪々子は得物を構えてジリジリと間を詰める。

 

(くっ、前だったら間違いなく文醜は考え無しに突っ込んで来たから、そこに隙が出来た

 

 のに…二人共まったく隙を見せない…どうすれば…こうなれば、どちらかを道連れにし

 

 て…)

 

 張怨は剣を構えてどちらかとの相討ちを狙ったその時、

 

「七乃~~~!!もうこんな事はやめるのじゃ~~~~!」

 

 その場に響き渡る声に張怨の動きが止まる。

 

「ま…まさか…今の声…?」

 

 張怨の発した呟きに斗詩が反応する。

 

「その声…やはりあなたは七乃さんなのですね?」

 

「えっ!?そうなのか、斗詩?本当なのか…ならば!」

 

 猪々子がやがらもがらで張怨の兜を弾き飛ばすと、その下から出て来た顔は…。

 

「七乃さん…間違い無いですね?」

 

『張勲』はもはや正体を隠せないと悟り、力無く頷くのみであった。

 

 

 

「ああっ、もう!!また逃げられた!!張怨の奴、逃げ足の早いったら…このっ!!」

 

 根城に踏み込んで徹底的に捜索し生き残りの賊全てに問いただしても、張怨らしき人物

 

 を見つける事が出来なかった雪蓮は陣の中で喚いていた。

 

「あらあら、随分と騒がしい事ですわね」

 

 そこに入って来たのは麗羽だった。

 

「袁紹…今私ちょっと虫の居所が悪いの。しばらく消えててもらってていい?」

 

 麗羽を見る雪蓮の眼はかなり血走っていた。

 

「言われずとも、すぐに消えますわ。ここに来たのはこれをあなたに渡す為ですわ」

 

 そう言って麗羽が取り出したのは、布にくるまれた物体であった。その下の方が赤く染

 

 まっているので、それが首である事は容易に分かる。

 

「首…まさか!?」

 

 雪蓮は麗羽からそれをひったくるようにして取ると、その包みを開ける。

 

 その中から出て来たのは、銀の兜を被った首であった。そしてその兜は…。

 

「張怨の兜…まさかあなたが首を取ったというの?」

 

「正確には私ではなく、私の優秀なる家臣ですけど」

 

 雪蓮はその兜を剥がすようにして取ると、その中の顔は…女性らしくはあったのだが、

 

 火傷の跡が凄まじく一目では顔形が判別しづらいものであった。

 

「まあ、本当は私が手柄としたかった所ではありますけど、あなた方も随分この方には

 

 辛酸を嘗めさせられたようですしね。首の始末位はお任せしようと、私自らが持って

 

 来て差し上げたのでしてよ!お~ほっほっほっほっほっほ!!」

 

「その首が本物だという証拠はあるのか?」

 

 そこに入ってきた冥琳が問いかける。

 

「私を疑うというのならどうぞご自由に捜索されればよろしいですわ。それでは、私は

 

 これで」

 

 それだけ言って麗羽は去っていった。

 

「どうする、雪蓮?我らは我らで捜すか?」

 

 冥琳はそう雪蓮に聞くが、

 

「ふぅ…蓮華に聞きましょ」

 

 雪蓮はただそれだけを告げた。

 

 

 

「ありがとう、一刀。あなた達のおかげで張怨を討ち果たす事が出来たわ。私達の手で首

 

 を取れなかったのは残念だけどね」

 

 戦いが終わり、陣に集結した俺達に蓮華がそう声をかける。

 

「いや、俺達だって大した事はしてないしね」

 

「あら?袁術は何処へ行ったのかしら?」

 

 美羽の姿が見えないので、蓮華は辺りを見回す。

 

「ああ、美羽には先に帰ってもらったよ。やはり雪蓮の言う通り、彼女は戦いには向いて

 

 ないからね」

 

「そうなんだ…確か彼女って『芸の村』で歌っているのよね?今度聞きにいってもいいか

 

 しら?」

 

「それなんだけど…彼女には少々慰問活動をしてもらう事になってね」

 

「慰問?」

 

「ああ、今回の戦いで揚州もそうだけど、益州や交州も随分と荒れててね。多くの兵や民が

 

 復興に携わるのだけど…何分辺境の地で心の慰めになる物が何も無いんだ。そうしたら、

 

 美羽が『妾が歌で皆の心を癒す』とか言ってね。一旦は荊州に寄るけど、そのまま交州に

 

 出発するってさ。おそらく数年は交州と益州を回る事になると思うよ」

 

 俺の説明に呉の皆は納得したようなしないような表情を浮かべていた。

 

「雪蓮はやっぱり美羽の事が許せないか?」

 

「今更どうって事ないわよ、あんなの。どうせ何も出来はしないんだし」

 

 雪蓮は苦笑しながらそう言った。

 

「それじゃ、蓮華」

 

「ええ」

 

 そして俺達は二人声を揃えて宣言する。

 

「「これにて張怨との戦いは終わりである。皆、ご苦労だった!」」

 

 

 

 場所は変わり、洛陽にて。一段落ついた俺達は陛下に報告に来ていた。

 

「皆、ご苦労じゃったな。これで南方は安泰よの」

 

 上々の結果に劉弁陛下の声も明るかった。

 

「それでは早速じゃが、ここで論功行賞を行う」

 

 その言葉に集まった皆は平伏する。

 

「北郷一刀、先帝亡き後、ここまでの混乱の収拾において、そなたの功績は

 

 随一である。よってその功として、益州・交州をそなたに与える。そして

 

 馬騰と同じく、宮中における帯剣を許可するものである。以上」

 

 その言葉に場がどよめく。確かに幾ら俺達が頑張ったとはいえ、州を二つ

 

 与えた上に帯剣まで許可するなど異例の恩賞であったからだ。

 

「恐れながら陛下…過分なる恩賞に痛み入るばかりにございますが、これは

 

 私一人の物ではなく、我が家臣は言うに及ばず、孫呉の協力あっての事。

 

 どうか私にくださると申された分の一部なりとも皆にお分けくださるよう

 

 お願い申し上げます」

 

 俺がそう言ったが、陛下より驚きの言葉を言われる。

 

「実を言えば、交州は孫権に与えるつもりであったのだが、孫権から『交州

 

 も一刀に与えてくださるよう』と既に言われておるのじゃ」

 

 それを聞いた俺は後ろに畏まっている蓮華の方を向いたが、蓮華は何事も

 

 無かったかのように畏まったままであった。

 

 結局、俺は恩賞をそのまま貰う事になったのであった。

 

 

 

「蓮華…本当に良かったのか?」

 

 論功行賞の終わった後、俺は蓮華にそう話しかけたが、

 

「ええ、今回私達はほとんど何もしてないもの。当然でしょ」

 

 蓮華はただそう言って笑っているだけだった。

 

 そしてそのまま祝宴となったのであるが…、

 

「何だこのカオスな空間…」

 

 既に宴会というか、ただのへべれけ集団の盛り場的な状態になっていた。

 

「わはは!もっと酒を持って来い!!こんな程度の量で儂らを満足させられると

 

 思っておるのか!!」

 

「そうじゃ、そうじゃ!幾ら儂が建業の留守居を命じられて活躍しとらんから

 

 といって、ここじゃ酒をケチるのか!?」

 

「ふふ、これだけのお酒だもの…たっぷりといかせていただきますわ」

 

「ウチもガンガン行くで~~~!!」

 

「無礼講、無礼講!酒盛りって最高ね!!」

 

 その中心は…何か説明しなくても分かりそうだから割愛。

 

 ちなみに俺はまたもや朱里と雍州より帰って来た雛里に両脇をがっちりと固め

 

 られて動けない…当然、二人共完全に出来上がっている。

 

(ちなみに他の公孫賛陣営と馬騰陣営の面々はようやく収まった五胡との争いの

 

 後始末で、まだ来れていない)

 

「ご主人様…私一人で雍州に派遣されて…皆、やさしくしてくれましたけど……

 

 ご主人様にお会いしたくて…くすん、くすん…」

 

「ご主人様…あれは一回きりでしゅからね~。次は許しませんからね~」

 

「毎回この状況何とかしてもらえないのだろうか?」

 

 俺の呟きは風に流されて消えていった…しくしく。

 

 

 

 同じ頃、荊州と交州の境目の辺り。

 

「どうしたのじゃ、七乃?いきなり振り返ったりなんかして、忘れ物か?」

 

 美羽は後ろを振り返った七乃に心配そうに声をかける。

 

「いえ、もう中原に戻る事は無いのかなぁ~とか思うと、ちょっと寂しく思った

 

 だけですよ」

 

 張怨の正体だった彼女が何故ここにいるのかというと…。

 

 ~捕まった後の事~

 

「こちらが張怨ですわ」

 

 俺の前に引き出されて来たのは…張勲であった。

 

「やはりあなたが張怨だったのですね…」

 

 朱里はうなだれている彼女の顔を見てそう呟く。

 

「ええ、そうですよ。今更逃げも隠れもしませんから、私を孫策に引き渡すなり

 

 首を刎ねるなりどうぞご自由に」

 

 うなだれたままではあったが、張勲は覚悟を決めているようであった。

 

「待ってたもれ、一刀!!七乃の事を助けてやる事は出来んのか!?」

 

「逃がすのは簡単だけど、それで孫呉の面々が納得すると思っているわけではな

 

 いだろう?彼女が放った毒矢によって、穏は右腕を失った。彼女に対する恨み

 

 は、さぞかし深いだろうしね」

 

 俺のその言葉に今度は美羽がうなだれる。

 

「別に私はそうでもないですよ~」

 

 何とそこに入って来たのは…穏と蓮華だった。

 

 

「どうしてここに?」

 

「私がお呼びしたんです」

 

 朱里がそう答える。

 

「そうだったのか。ところで穏、そうでもないって…どういう事?」

 

「確かに私の右腕は無くなってしまいましたけど~、これも戦場での習いってやつ

 

 ですしね。もし彼女を助けるっていうなら私は構いませんよ~」

 

 何かそうあっけらかんと言われると返答に困るのだが。

 

「いいのか、蓮華?本人がそんな事言ってるけど…」

 

「私も半々な所はあるのだけれど…穏がそう言ってるのなら、私は…でも、姉様達

 

 が何と言うか…」

 

「ならば…仕方ないですが、あの手でいきましょうか?」

 

 朱里が言い出したのは…雪蓮達には偽首を渡すという事であった。

 

「大丈夫なのか、それ…何か騙しているようで気が引けるけど…」

 

「蓮華さん達と麗羽さん達が口裏合わせをしてくれれば大丈夫です…多分」

 

 さすがに朱里も言い切る事は出来なかったようだ。

 

「私は大丈夫ですよ~」

 

「穏がそう言っているわけだし、私も構わないわ」

 

「まあ、美羽さんの為でもありますし、私もそれで構わないですわ」

 

「皆がそう言ってくれるなら大丈夫か。でも助けた所で後はどうするかが問題だが」

 

「慰問活動にでも行ってもらいましょう。交州辺りとかどうですか?」

 

 交州…確かにあの辺りなら…しかし。

 

「でも、おそらくあの辺りは孫呉に与えられるんじゃないのか?そうしたら、すぐに

 

 でもバレてしまいそうだけど…」

 

 俺がそう懸念を口にすると蓮華が、

 

「なら、私から陛下に交州は一刀へってお願いするわ。一刀には連合の時の論功で南

 

 荊州を譲ってもらった借りもあるしね」

 

 そう言ってきた。

 

「なら後は皆の前での話だな…すぐにでも張勲をここから出さなきゃならないけど、

 

 美羽がいきなりいなくなったりしたら、皆怪しむだろうしね」

 

「それなら…」

 

 後は前述した通り、美羽は慰問活動へ、俺は恩賞として交州を蓮華から譲ってもらう

 

 形で恩賞として貰うという形になり、美羽は七乃と二人で交州へ行く事になった。

 

(ちなみに七乃からは『お礼にもなりませんが真名をあげます』とか言われて真名を預

 

 かったのある)

 

 

 

 

 

 

 

(いろいろな犠牲を出した挙句、このような結果になってしまいました…結局、私程度

 

 では諸葛亮に勝つなんて夢のまた夢だったという事ですね。もう二度と中原に戻る事

 

 は出来なくなりましたし…まあ、こうしてまたお嬢様と一緒に過ごせるのですから、

 

 それについては感謝しませんとね)

 

「七乃~~~!何やっておるんじゃ!?早く行くぞ~~!!交州に行ってもたくさん

 

 妾のふぁんを作るんじゃからな!!」

 

「は~~~い、今行きま~~~す」

 

 七乃は嬉しそうに駆け出して行った。

 

 こうして、張怨との戦いも終わり(解決方法がこれで良かったかどうかは分からない

 

 のだが)劉協陛下崩御から始まった動乱は一応の収束を見せたのであった。しかし、

 

 まだ火種が完全に消えたわけではなかったのであるが、それはまたしばらく経っての

 

 事である。

 

 

 

 

 

                                続く(と思う)

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 一応、張怨戦に決着させましたが…我ながら強引な終わらせ方を

 

 してしまいました。申し訳ありません。七乃さんに対しての処罰も

 

 甘くなってしまいましたし…やはり、原作キャラを殺さないという

 

 括りを優先するとかなり強引な感じになってしまいますね。でも、

 

 その基本は変えない方向でこれからもいきますので…。

 

 一応、次回からは何話か拠点的な話をお送りします。

 

 もし「この人の話を希望!」というのがあればコメントに書いて

 

 ください。全てを反映させるのは出来ないと思いますが、出来る

 

 だけ書いていきたいと思っております。でも多分、年は明けると

 

 思いますが…。

 

 

 それでは次回、外史動乱編ノ二十でお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 追伸 美羽さんと七乃さんの出番は基本終わりです。拠点の話も

 

    このお二方については書きませんのでご了承の程をお願い

 

    いたします。

 

 

 


 
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