クリスマス――そして誕生日。
友達や事務所の皆。そして家族やお弟子さん達にもお祝いをしてもらった。
だけど、一番はやっぱりプロデューサーにお祝をして欲しかった。
あ、本当にお祝いをしてもらってないわけじゃないですよ?
プロデューサーは事務所で皆と一緒に祝ってくれましたから。
でも……特別で、大好きなプロデューサー。彼と二人っきりで誕生日を祝いたかった。
――って、これは凄く我儘だよね。皆に祝って貰える、それは凄く素敵なことなんだから。
最近自分が我儘になってきたような気がします。
我儘なことを想っては、言葉にせず自分一人の中に溜め込む。
幸せな時間を過ごすことが出来ているのに、それでも物足りないと思ってしまいます。
うぅ……っ、やっぱり私凄く我儘ですよね。
こんな我儘でダメダメな私は穴を掘って埋まって――――
ぴぴぴぴ♪
「あ……」
後ろ向きな思考をしていると、ふいにメールを知らせる音が鳴った。
誰からだろう? そんなことを思う間もなく、着信音で誰からのメールか分かってしまう。
「プロデューサーから……」
飛びつくような勢いで携帯を掴んで、中身の確認をします。
たぶん、仕事の内容だとは思いますが、それでもついつい期待をして飛びついてしまいます。
だって、もし……もし何かの奇跡が起こって、プロデューサーがデートに誘ってくれたらな、何て思ってしまうから。
あの人なら、そんなサプライズを起こしてくれるんじゃないのか?
そんな勝手な希望と妄想を抱いてしまう。
結局は、仕事のお話とかでガッカリしてしまうんですけど……
「ふぇっ!?」
今回は違いました。あまりに予想外な内容に――待ち望んだ内容に、変な声をあげてしまいました。
「で、ででで、デートっ!?」
何度もメールの文字を見直す。間違ってないよね!? 私の見間違いじゃないんだよね!?
間違いなく、デートをしようって内容だよね!?
カタカタと震える手で、返事を打つ。何度も、何度も打ち間違いをしては、それを消してまた間違える。
うぅ……こんなにも文字を打つのが緊張したの初めてですよぉ。
文面が完成しても、変じゃないかな? 失礼じゃないかな? そんな余計な心配をしてまた打ち直す。
「早く。早くメールを返さないと……」
プロデューサーだって忙しいだろうし、それに時間を開けて違う予定を入れられる可能性もあるから。
他の誰かが、プロデューサーを誘わないとは限らない。だから早く私がプロデューサーの予定を独占しないと。
「やっぱり我儘……だよね」
事務所の皆がプロデューサーのことを慕っているのに、恋をしているのに――彼を独占したいと思ってしまう。
蹴落としてでもあの人に愛されたいと思ってしまいます。
男の人が苦手なのに……こんな感情、今まで抱いたことなかったのに。
プロデューサーとの出会いが私を変えてしまった。
完全に恋する乙女になってしまった。
こんな私じゃプロデューサーに嫌われ…………って、後ろ向きな考えになるのはダメですぅ!
「プロデューサーとのデート。今はそれが重要なんだから」
何とか返事を返して、またすぐにメールが返ってくる。
『よかった。この前、約束をしたからな。とりあえずは断られなくてよかったよ』
「あ……っ」
プロデューサー、あの時の約束覚えててくれてたんですね。
私が勇気を振り絞ってデートに誘おうと思って、だけど言うことが出来なくて。
そんな私の気持ちを汲んでくれたのか、プロデューサーからデートのお誘いをしてくれた。
その時は凄く舞い上がったけど、なかなか実現することはなかった。
そんな中でついにプロデューサーからデートに誘われた。
凄く――凄く嬉しい。それに、色々と期待してしまう。この機会に少しでも進展を……そんなことを考えてしまいます。
プロデューサーとのデート。い、今から凄く緊張してしまいます。
それにちゃんと準備をしないと……少しでもプロデューサーに可愛いって思ってもらえるようにしないと、ですね。
私とプロデューサー。年は離れてますけど、そんなのは関係ありません。
プロデューサーが好き。その気持ちは本当なんだから。
――服装選び――
「どんな服を着ていけばいいかな?」
部屋の床一面に服を並べてどれがいいかを考える。
せっかくのデートだから、オシャレをしないと。
誰かに相談が出来ればいいんだけど……誰かに相談出来ることじゃないよね。
特に事務所の皆には絶対に相談なんて出来ない。邪魔はされなくても、いい気はしないはずだから。
「お母さんに相談しようかな?」
お母さんならきっと、いいアドバイスをしてくれるよね!?
堅物のお父さんと結婚したんだから、きっと男の人を落とす方法とか知ってるよね?
元々、お母さんには色々と相談をしていた。
デートに誘うっていうのも、お母さんからのアドバイスだった。
年齢の離れた人を好きになったのに、それでもお母さんは私を応援してくれている。
プロデューサーと何度か会っているからかな? 変な人よりも安心することが出来るって言っていた。
えへへ……♪ お母さんが認めてくれたから、きっとお父さんも大丈夫だよね?
うん、お母さんに相談しに行こう。プロデューサーとのデートはもうすでに始まっているんだから。
デートが始まる前から、すでに戦いは始まっているのです!
――下着選び?――
『服だけじゃなくて、下着も可愛いのを穿くのよ』
お母さんからのアドバイス。
し、しし、下着……っ!? そ、それってアレだよね!?
もしかしてプロデューサーとそういうことがあるかもしれないってことだよね!?
いやいやいや、早いんじゃないかな!? さすがにそういうのは早いと思うよ?
最終的には、そんなことになったらいいなぁ、って思うけど――うぅ、私凄く恥ずかしいこと思ってる。
こんなエッチな子は穴を掘って埋まってますぅ~!
――クルリ、そしてニヤリ――
お母さんのアドバイスで着る服を決めて、鏡の前で確認をしてみる。
「えへへ……っ♪」
鏡の前で少しだけ妄想をする。
この服を着て、プロデューサーとデートをしているその姿を。
くしゃくしゃ、と髪を弄って鏡の前でクルリと一回転してみる。
フワリと舞うスカート。少しだけ丈の短いスカート。
この姿を見てくれたらプロデューサーは、少しは私のことを意識してくれるでしょうか?
ドキドキとしてくれるでしょうか?
楽しみで、だけど同時に不安にもなってしまいます。本当にコレでいいのかなって。
アドバイスを貰っても、それでも不安になってしまいます。
不安で緊張してしまっているのに、鏡を見ると何故か笑みを浮かべている。
だらしないくらいニヤニヤとしている。
不安で緊張で……でも、楽しみ。そんな感情が出てきているんだと思います。
えへ、えへへへ……っ♪
もじもじ、ふわふわ、ニヤニヤ、ふにゃふにゃ、ドキドキ、そわそわ。
色んな感情を抱きながら、ついにその瞬間が訪れてしまいました。
デート当日。外は寒いですけど、晴れていて絶好のデート日和だと思います。
お母さんのアドバイスで選んだ服を着て少し早めに待ち合わせ場所へと向かいます。
え……? 下着、ですかぁ? そ、そそそ、それは秘密ですぅ!
と、とにかく――今日は待ちに待ったプロデューサーとのデートなんです!
「あ、プロデューサー」
「おう。予定の時間よりも随分と早く来たんだな」
「あ、はい……その……っ」
私よりも先に待ち合わせ場所に居たプロデューサーに驚いてしまいました。
これでも、結構早めに来たんですけどね。それよりも先にプロデューサーは待ち合わせ場所に来ていました。
「とりあえず落ち着こうか。少しばかり早いが、早速行くか?」
「は、はいぃ!」
驚いてしまいましたが、デートは今からが本番なんです。頑張らないと……
そんな風に気合いを入れてプロデューサーの隣を歩こうと思ったのに――
「そういえば今日の雪歩は、普段とはまた違った服なんだな」
「ひゃいっ!?」
「普段のも可愛いけど、今日の服も可愛いぞ」
「あ、あぁ……うぅ――」
ひ、卑怯です。不意打ちでそんな言葉をかけるのは卑怯ですよ。
せっかく気合いを入れようと思っていたのに、そんな言葉をかけられたら私――
「はは、雪歩の顔が真っ赤になってるな」
「うぅぅぅぅぅぅっ!」
あまりの恥ずかしさから、唸るような声を出してしまっています。
今の私、凄く顔が真っ赤になっているんですよね? 凄く穴を掘って埋まっていたいですぅ~!
「行くぞ」
「あぅ……」
ぎゅっ、とプロデューサーが私の手を握って、そして歩き出しました。
本当にさっきからプロデューサーは卑怯です。
こんな……こんなことばかりするから。おじさんなのに優しくて温かいから――
だから私は、あなたのことが好きになってしまったんです。
うぅ……きっと他の子もこんな風にして落としていったんでしょうね!
「ゆ、雪歩!? 急に怖い顔をしてどうしたんだ?」
「……何でもありません!」
手を握ったまま、ふいっと顔を横に逸らす。
勝手に嫉妬して、プロデューサーに八つ当たりをする。本当に私は我儘で嫌な女です。
「……」
「雪歩」
「…………」
あまりの自分の我儘さに落ち込みそうになる。プロデューサーは悪くないのに八つ当たりをして……
「ふにゃっ!?」
どんどん後ろ向きな考えをしていると、プロデューサーが私の頬を掴みました。
「そんな顔してないで楽しくいこうな」
むにむに、と頬をこねる。
「はにゃ、はひぁあ、ぁああ……」
頬をこねられて変な声が出てしまう。
「せっかくのデート、だろ?」
「ひゃ、ひゃい」
そう、だよね。せっかくのデート。私に与えられたチャンス。
このチャンスを無駄にするわけには絶対にいかない。
いける所までいけたらいいなって思うけど、少しでも前進することが出来たら十分だよね?
そうして私とプロデューサーとのデートが始まりました。
デートは本当に緊張の連続で、普段のお仕事でもここまで緊張することはないと思います。
緊張したまま、何も出来ないままプロデューサーとのデートが終わってしまう。
服を褒められたけど――手を繋ぐことは出来たけど――それだけ。
本当は、本当は……もっと、もっと――
「もうこんな時間か。長々と遊んでしまったな」
「はい。凄くヘトヘトです」
「はは、俺なんて年だからな。雪歩よりも疲れてるよ」
確かに疲れた顔を浮かべているプロデューサー。
楽しくデートをすることは出来ました。でも、それでも少しだけ物足りないと思ってしまう。
まだ何かが出来たんじゃないのかな? もう少し自分をアピールすることが出来たんじゃないかな?
考えれば考えるだけ、反省点が出てきてしまいます。
それでも――楽しかった。それは本当で事実です。
プロデューサーとデートをすることが出来た。今日という日が素敵な思い出となるくらい、嬉しいことです。
だからこそ、このまま終わってしまうのが少しだけ悲しいと思ってしまう。
もう一押し。皆よりも先に行くために何かをしたい。そう思うのに、動くことが出来ない。
こんなことなら、デートのシュミレーションをシッカリとするべきでした。
デートに誘われてから、シュミレーションはしましたが、まだ足りなかったようです。
今度……があるとは限らないのに、うぅ……失敗してしまいましたぁ。
「――と、そうだ雪歩」
「はい……?」
何回目か分かりませんが、また後ろ向きな考えになりそうになった瞬間、プロデューサーが――
「ほらコレ」
「何……ですかコレ?」
プロデューサーから渡されたのは小さな箱でした。
丁寧にリボンで包まれた小さな箱。この箱は一体、何なのでしょうか?
「まぁ、その……誕生日プレゼントだな」
「誕生日プレゼントですかぁ?」
誕生日プレゼントなら、クリスマスプレゼントと一緒に事務所で貰ったはずですけど……
「あれはプロデューサーとしてのプレゼントだ。これは、俺個人としての雪歩への誕生日プレゼントだよ」
「プロデューサー個人としての……」
事務所の仲間としてではなくて、いち個人としてのプレゼント。
プロデューサーが私のためだけに用意してくれたプレゼント。
「中、見てもいいですか?」
「あぁ、いいぞ」
「はい……」
許可を取って、箱を開けて中身を確認する。
私のためだけに用意してくれたプレゼントの中身を……
「あ……指輪」
「雪歩も年頃の女の子だからな。こういうプレゼントの方が喜ぶと思ったんだが……」
ポリポリと頭を掻いて、照れているプロデューサー。
指輪――たぶん、そこまで大した意味はないと思いますが、それでもこのプレゼントは嬉しいです。
今すぐにでも指に嵌めてみたいですが、きっと嵌めたらニヤニヤと笑ってしまうから、後にしよう。
プロデューサーの前で――人前で、そんなだらしない顔をするわけにはいかないもんね。
だから――気持ちを込めて、この一言をプロデューサーに送ります。
「ありがとうございます。絶対に大切にしますね」
「あぁ、そう言ってもらえて嬉しいよ」
「はいっ♪」
デートの内容としては、個人的に色々と反省したい部分はありましたが、それでも最後は凄く嬉しかったです。
幸せで、どうにかなってしまいそうなくらいに嬉しくて――
だって、大好きなプロデューサーに誕生日を祝ってもらえたから。
二人きっりで祝って欲しい。そんな願いを抱いていたのが、現実となったから。
だから最高に嬉しくて幸せなんです♪
本当にありがとうございます、プロデューサー。
私、やっぱりあなたのことが一番大好きですぅ♪
この私の想い。いつか、あなたに伝えたい。そう心の底から思いました。
今は違う所につけますが、いずれ指輪を左手の薬指に…………お願いしますね、プロデューサー♪
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雪歩。誕生日おめでとう。
そんなお話。