No.522493

クリスマスの略奪愛

紅羽根さん

即興小説で作成しました。お題「肌寒い略奪」制限時間「1時間」

2012-12-24 16:46:17 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:625   閲覧ユーザー数:625

 

 今日はクリスマスイブ。街は色とりどりののイルミネーションに飾られ、そこかしこでサンタやトナカイの格好をした人や幾組ものカップルを見かける。ショーウインドウも雪を模したペイントとメリークリスマスのメッセージが描かれ、心なしかマネキンも浮かれているように見える。

 そんな街中を私は意気込みながら一人で歩いていた。目的はただ一つ、『あの子を救うこと』。

「待っていて、ね」

 この場にいないあの子に聞かせるように私はつぶやいた。

 

 あの子は私と同じ図書委員に所属する後輩だ。今年度になってあの子が入ってきた時、私はその明るく元気な姿に心を奪われた。いわゆる一目惚れだ。同じ女同士ではあるが、そんなの関係ない。好きになったのは、愛してしまったのは仕方ないのだ。

 仕事はお世辞にも完璧とは言えないくらい失敗が目立っていた。だけどそのたびにあの子は申し訳なさそうにせず、むしろ困ったような感情を含みながらも笑顔を見せていた。私や他の委員もそんなあの子を見ると怒る気なんてまったく出て来ず、彼女をフォローしていた。あの子が入ってきてからの委員会は着実に明るくなっていた。

 しかし、そんなあの子が暗い表情を見せたことがあった。それは、あの子の彼氏と名乗る男子が現れた時だ。

 あの事その彼氏とやらの間に何があったのか、どんな感情が交わされているのかは未だに知らない。しかしそれでも二人は決して良好な関係には見えなかった。

 私はそんなあの子にお節介をかけてみた。私の友人が主催するクリスマスパーティーにあの子を誘ったのだ。

 だけどあの子はそれを断った。理由を聞いたら、あの彼氏と食事をする約束をしていたと困ったような感情を含んだ笑顔で答えた。私はその笑顔がいつも見せるそれと違っていることに気づいた。だけど、止められなかった。

 私はあの子と違って、物事を強くいうことができない。どうしてもあれこれ考えて尻込みしてしまう。だからその時も自分の気持ちを口に出せず、ただ暗い表情をしている彼女を見送ることしか出来なかった。

 それから数日、私はずっと後悔の念に駆られていた。今まで生きてきた中で一番苦しかった。その事を友人に話したら、こう答えが返ってきた。

「何もしないで後悔するくらいなら、何かしてから後悔した方がずっといいよ」

 私はその言葉にハッとなって、一つの決意をした。あの子を救おう。

 友人にあの子と彼氏がどこに行ったか知らないか訪ねたら、その友人の男友達が知っていた。私は友人とその男友達の人に感謝して家を飛び出した。そして今、私はあの子の元へ向かっている。

 

 学校の最寄り駅前にあるフランス料理のレストラン。友人から聞いた情報通りにあの子とその彼氏はいた。やっぱり、あの子はちっとも楽しそうにしていない。さっきから彼氏の方が何やらいやらしい笑みを浮かべながら色々と話しているが、それをあの子はうつむき加減にただ黙って聞いているようだ。

「……よし!」

 私は意を決してそのレストランに入った。ウェイターがいらっしゃいませと声をかけるのも無視して、私は二人の所まで大股で歩く。

「あ、あのっ!」

 声を上げたら裏返ってしまった。不機嫌そうな顔で睨んでくる彼氏と、驚いて目を丸くして見つめてくるあの子。少し物怖じしてしまったけど、私は逃げ出したくなるのをぐっとこらえて彼氏に言い放った。

「こ、この子、迷惑そうにしてます!」

「何だ、お前は」

「先輩?」

「お二人の間に何があったか知らないですが、これ以上この子が悲しそうにするなら、私が黙ってられないです!」

「だから、何だお前はって聞いてるんだ」

「私は、この子の――」

 今の私は、間違いなく気が動転している。でなければこんな事を口に出来ない。

「恋人ですっ!」

 そう言った瞬間、あの子や彼氏だけでなく店内にいた人全員が私に注目していた。

「……ば、」

「そ、そうです!」

 彼氏の方が何かを言おうとした瞬間、あの子がそれを遮って声を上げた。

「何度も言おうと思ってました! 私には先輩という彼女がいるんです! 女の人が好きなんです! だから、あなたとは付き合うつもりなんてなかったんです!」

「おま――」

「行きましょう、先輩。そうだ、確かパーティーがあるんですよね! 行きましょう」

「う、うん」

 あの子の勢いに流されるように私はあの子と一緒にレストランを出て行く。

 

「はー、ビックリしちゃいました」

「ご、ごめんね」

 電車の中でようやく私達は会話できた。

「謝らないでください。私は感謝してるんです。あの人に対してやっと面と向かって言うことができたんですから」

 そういって彼女は笑顔を見せた。それによって私の胸が高鳴る。やっぱりこの子は笑っている顔がよく似合っているし、私はこの笑顔が好きだ。

「それに――」

「ん?」

 彼女が私をじっと見つめてきた。心なしか、頬が赤いような気がする。

「先輩という彼女も出来ちゃいましたし」

 私は顔が真っ赤になった。「何もしないで後悔するより何かしてから後悔した方がいい」と言われたけど、これはこれでなかなかにキツいものがある。


 
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