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仮面ライダーエンズ 第二十二話  恐怖の世界!!禁断と呼び声と暗黒の海!!

RIDERさん

皆さんは、デジモンアドベンチャー02の、『ダゴモンの呼び声』という話を視聴されたことがありますか?もしあるなら、今でも覚えておられると思います。02の中でも一際異彩を放つ、クトゥルフテイスト盛りだくさんな回でしたから。今回は、ダゴモンの呼び声を自分なりにアレンジしたものをお送りします。独自解釈もございますので、ご了承を。できるだけ怖くならないように様々なネタを盛り込んでありますので、どうか、笑いながらお楽しみください。

2012-12-24 06:09:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1190   閲覧ユーザー数:1168

ブラックは、海馬の元を訪れていた。

「よく来たな。」

「約束のデータだ。」

あまり人と話すことが好きではないため、単刀直入に、ブラックはメモリーカードを渡す。ついでに、少し前から頼んであるものについても訊いてみた。

「例のものはどうなっている?」

「このデータを注入して、それから最終調整も兼ねれば、四日というところだな。」

海馬はパソコンを操作し、ブラックの依頼を受けて製作している物を部屋のモニターに映す。

「『X抗体』。デジモンにさらなる進化をもたらすこの特殊抗体が完成すれば、お前はより強力なデジモンへと進化することができる。」

X抗体とは、デジモンの核、デジコアに作用して潜在能力を引き出す特殊な抗体だ。これにより、デジモンは特殊な進化、『ゼヴォリューション』を行うことができる。ブラックは、このX抗体の製作を海馬に依頼していた。海馬コーポレーションの技術力は世界的にもトップクラスだし、この世界はデジモン達が住むデジタルワールドと和平を結んでいる。互いが協力すれば、不可能ではない。

 

しかし、これには少し問題がある。

 

本来X抗体は、デジモン削除プログラム、Xプログラムを取り込んだデジモンが生み出すもの。だが、今回のX抗体は全人工製だ。そして、X抗体による進化後の姿、能力は、X抗体の状態によって異なる。つまり、この異質なX抗体を使った場合、何が起こるかわからないのだ。もしかしたら、想像もつかないようなバグが発生するかもしれない。使っただけでブラックが死ぬかもしれない。

 

だが、ブラックはそれでもいいと言う。

 

「デザイアという脅威に対抗するためには、手段を選んでいられないからな。」

これが、ブラックがゼヴォリューションを求める理由である。海馬は、ブラックの実力ならデザイアが相手でも十分対応可能だと思っているのだが、ブラック曰く、何かが引っ掛かる。用心はしておくべき、とのこと。

「じゃあ俺は帰る。X抗体のこと、頼んだぞ。」

「ああ。こちらもできる限り、最良を目指す」

用を済ませたブラックは、海馬に背を向けて帰ろうとする。

 

「…そうだ、言い忘れていた。」

 

帰ろうとして、再び海馬の方を向く。

 

「明日一日、できるだけ暗い感情にはなるな。それから、もし何者かの呼び声が聞こえても、絶対に応じず全力で逃げろ。」

「…」

それだけ言って、ブラックは今度こそ帰った。

「…そうか…もうそんな時期だったか…」

海馬は呟く。

 

 

 

 

明日、この街にとある災厄が起こる。回避する方法は、できる限り一日を楽しく過ごし、負の感情に染まらないこと。そして、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえたら、一目散に逃げること。

 

 

 

これらの禁を破った者には、最悪の結末が訪れるだろう。

 

 

 

今回は、その禁が何を意味するか。そして、その先に何があるのかを語る、そんなお話………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立華かなでは、帰路についていた。今日は珍しく生徒会の仕事もなく、彼女にも私事がない、久々に暇な、逆に言えば休みな日。

 

 

普通なら喜ぶところだが、今の彼女の状態は普通ではなかった。というのも、喜べるような気分ではなかったからだ。

 

 

今朝。彼女は自分の父、セフィロスと喧嘩をした。喧嘩と言っても、殴り合い蹴り合い斬り合いの喧嘩をしたわけではなく、あくまでも口喧嘩だ。

 

喧嘩の内容は、かなでの今後の進路について。彼女は成績も優秀で、検定などにも積極的に参加しており、資格もいろいろ持っている。進路の選択の幅は、非常に広いのだ。

 

セフィロスは、できることならかなでに、普通の一般人の女の子として生活を送って欲しかった。

 

しかし、かなでは神羅に入社してソルジャーになりたいと言ったのだ。

 

これを聞いたセフィロスは猛反対し、それが原因で喧嘩になってしまった。以来、かなでは今までセフィロスとは一言も口を利いていない。

「お父さんのばか…」

静かに呟き、父を罵倒する娘。彼女がソルジャーになりたいと思った理由は、セフィロスに憧れたからだ。自分も父のように強くなりたい、そして父とともに戦いたい。ソルジャーになってセフィロスの仕事の手伝いをするのは、かなでの夢だった。その夢を否定されたのだから、不機嫌になっても仕方ない。

 

 

 

「お父さんなんか大嫌い。」

 

 

 

かなでがそう口にした時のことだった。

 

 

 

――――…っ―――

 

 

 

 

「…えっ?」

何かが聞こえた気がした。まるで、呼び声のようなものが。

「なに?」

その声が聞こえた方向へ、ふらふらと歩いていくかなで。はたから見れば、今の彼女は何かに引き寄せられているかのようだった。

 

 

 

 

 

音無、ゆり、日向、直井は、かなでを捜していた。

「ったく、どこ行ったんだ?」

音無達は、かなでから自分がセフィロスと喧嘩したことを聞かされている。かなでは不機嫌だったこともあり、帰りは音無達を誘わず、一言も話さずに帰ってしまった。このことからも、かなでがセフィロスに対して相当怒りを感じていたのは間違いない。まずいと思った音無は、仲間を連れてかなでとセフィロスを仲直りさせようとしているのだ。

「確かにすげぇ怒りっぷりだったけど、俺達がそこまで気にかけてやるほどのことか?親子喧嘩なんてそんなもんだろ。」

「だからって、このままにしておけるかよ。」

「さすが音無さん!お優しい!!貴様も少しは見習ったらどうだ?」

「何!?」

「バカやってないで、さっさと行くわよ。」

「それにしても、かなで…どこだ?」

喧嘩を始める日向と直井を諫め、ゆりと音無はかなでを捜す。

 

と、

 

「音無さん!あれ!」

直井が指差す方向には、こちらに背を向けているかなでの姿が。彼女は道路の反対側に立って、その先にある海を見ている。

「かなで!!」

音無は思わず声をかける。

 

 

その時、車が一台目の前を横切り、車が行ったあと、かなでの姿が消えていた。

 

しかも、消え方がおかしい。かなでが持っていたバッグが、突然持ち主を失ったかのように地面に落ちたのだ。

 

これに驚いた四人は、慌てて近くの歩道橋を渡り、かなでが消えた場所へ行く。残されたのは、かなでのバッグのみ。周囲を見回すが、かなでそのものはどこにもいない。

「どうなってるの?今の消え方、おかしいとしか思えないわよ?」

バッグを拾い上げ、ゆりが言う。

「と、とにかく、学校に戻ろうぜ!」

「セフィロス先生にこのことを知らせなければ!」

一同は、起こったことを伝えるべく、ロストグラウンド学園に戻った。

 

 

 

 

 

「…ここは?」

かなでは、港町に来ていた。しかし、彼女が住んでいる街に、こんな港町はなかったはずである。

「…」

だが、不思議とそれは気にならなかった。

「…呼んでる…」

今彼女が一番気にしているのは、海の方から聞こえてくる声。何と言っているのか。声の主が何者なのか。それら一切のことはわからなかったが、とにかく、かなでは行かなければならないと思った。だからこそ、今こうして足を進めているのだ。

 

 

既に自分がまともな状態ではないということには、まだ気付いていない。

 

 

 

 

 

 

「全く、ここはどこでゲソ?」

イカ娘はぼやいた。

「っていうか、私達結構久しぶりな登場だよね。」

「かなみ。メタ発言はやめるでゲソ」

かなみにツッコミを入れるイカ娘。ちなみに、研もいる。三人は今、かなでがいるのと同じ、港町にいた。

「…なんだか不気味な所だね…」

かなみは町の雰囲気を見て不安になる。結構歩いているはずだが、彼女達は人っ子一人見ていない。しかも、町全体の雰囲気がどことなく暗いので、あまりにも不気味だ。

「迷子になっちゃったのかな?」

研は辺りを見る。

「どう考えてもそうでゲソ!そもそもお主が、『変な声が聞こえる』、とか言って離れなかったら、こんなことにはならなかったでゲソ!!」

「ごめんね~」

「くぅ~!!やっぱりお主は!!」

「二人とも!喧嘩は駄目だよ!」

イカ娘と研のいざこざを止めたのは、なぜか三人に同行していた映司だった。ちなみに、彼らがここに来るまでの経緯だが、いつも通り三人で帰っていたイカ娘達は、途中で映司に遭遇。話をしているうちに研が何かを感知して駆け出し、三人がそれを追いかけたら、気が付いた時にはここに来ていた、というものだ。映司はイカ娘が働いている海の家、れもんによく来てくれるので、イカ娘にとっては友人にも等しく、その対面を台無しにされた気分なので、非常に機嫌が悪い。

「とにかく、ここがどこなのかを把握しないと。」

「…わかったでゲソ。」

映司に言われて渋々納得するイカ娘。と、

「あ。あれ…」

かなみが何かを見つけた。

「これは看板じゃなイカ?」

それは、看板だった。しかし、

「デジモン文字で書いてあるでゲソ。」

看板はデジタルワールドの文字、通称デジモン文字で書いてあったため、読めない。

「なんて書いてあるんだろう?」

気になる研。

「ちょっと待って…」

映司が目を凝らして、看板の文字を読み上げる。

「…インスマス、だって。この町の名前かな?」

「映司さん読めるんですか!?」

「デジタルワールドには行ったことがあるからね。」

かなみは驚き、映司は得意顔だ。

「…」

だが、イカ娘は黙っている。よく見れば、顔色も悪い。

「どうしたの?」

思わず尋ねる研。イカ娘は映司に質問した。

「その看板には、本当にインスマスと書いてあるでゲソか?」

「…うん。間違いないと思うけど…」

それを聞いて、イカ娘の顔色がさらに悪くなる。

「…もしかして、ここがどこかわかった…とか…?」

かなみは感付く。

「…そうでゲソ。ここは…この世界は私が知っている場所…」

イカ娘は答える。

 

 

「暗黒の海でゲソ!!」

 

 

 

 

 

 

 

皇魔はレスティーと一緒に下校していた。

「私達主役なのにかなり遅れた登場じゃない?っていうか作者は今回何ページ書くつもりなの?」

「言うな。そして知らん」

その時、ロストグラウンド学園に向かって全速力で駆け戻る音無達の姿が見えた。

「どうしたのみんな?そんなに血相変えちゃって。」

「お前らか!!大変なんだ!!かなでが消えた!!」

「立華が消えただと?」

音無達は事情を説明する。

「で、あとに残っていたのはかなでちゃんのバッグだけ、と。」

レスティーはゆりからかなでのバッグを受け取った。

「…それは確かに妙な話だな…」

目の前で誘拐されたのならまだわかるが、消えたというのなら、どう考えても普通ではない。誘拐も普通ではないが。

 

そこへ、ブラックが通りがかった。

「お前達、こんな所でどうした?」

音無達はブラックにも事情を話す。

「…その時に声のようなものが聞こえなかったか?」

ブラックは少し間を置くと、音無達に訊いた。

「声?」

日向はゆりと直井の顔を見る。

「あたしは聞いてないわ。」

「僕もだ。」

「お前は?」

二人は聞いていないようなので、音無に聞く日向。

「俺も……いや、そういえば聞こえた気がする。小さかったし、何て言ってるかわからなかったけど…」

どうやら、音無には聞こえたらしい。

「…最悪だな。立華は暗黒の海に引きずり込まれたんだ」

「暗黒の海?」

「何だそれは?」

レスティーと皇魔は、聞いたことのない単語に顔をしかめる。ブラックは説明した。

 

 

 

 

 

暗黒の海とは、ダゴモンというデジモンが支配する、人間界でもデジタルワールドでもない特殊な異世界のことらしい。ダゴモンは完全体デジモンで、ブラックのような究極体ではないのだが、得体の知れない不気味なデジモンであり、何を考えているのか伺い知ることができず、デジモンの間ではダゴモンと好きこのんで接触する者はいない。

「普段は人間界とデジタルワールドの狭間に存在し、基本的にどちらの世界からも干渉できない世界だが、五年に一日の割合で暗黒の海との世界の境界が曖昧になる。この時、心に負の感情を持つ者。ダゴモンからの呼び声に応じた者が、暗黒の海へ引きずり込まれてしまう。」

実は今日がその日であり、ブラックは音無達にもそれを説明するつもりだったが、どうやら遅かったようだ。

「その暗黒の海に引きずり込まれたやつはどうなるんだ!?」

音無は訊く。

「わからない。人間にしてもデジモンにしても、暗黒の海へ行って戻って来た者はほとんどいないからな。ただ、暗黒の海にはインスマスという港町と、深きものどもというダゴモンの眷族がいることはわかっている。」

「それってまずくないか!?」

「まずいに決まってるだろ!!」

「急いで暗黒の海へ行かなくちゃ!!」

「だが、行く手段が…」

日向、音無、ゆり、直井の四人は大慌てだ。

「…行く手段ならある。」

そんな中、皇魔が静かに言う。

「本当か!?」

「どうするの!?」

詰め寄る音無とゆり。

「シャイニングブレスレットを使うのだ。」

言いながら、皇魔はシャイニングブレスレットを見せた。シャイニングブレスレットは、自在に次元移動を行うことができる。これを使えば、暗黒の海へ行くことができるだろう。

「じゃあかなでちゃんを助けに行くの?」

「捨て置くわけにはいくまい。」

レスティーに訊かれ、皇魔はさも当然というように答える。

「なら俺も行こう。いざとなれば、俺がダゴモンを倒す。」

同行を申し出るブラック。自分が暗黒の海について教えられなかったために今回の事態を招いたので、責任を感じているのだ。本当なら自分一人で行くと言いたいところだが、ブラックは次元移動の手段を持ち合わせていないため、誰かに頼るしかないのである。

そこへ、

「私達も同行しよう。」

しおんと克己が来た。

「話は聞かせてもらった。相当厄介な相手らしいな?だったら戦力は一人でも多い方がいいだろ。」

確かに、この二人が来てくれれば心強い。

「だが、セフィロス先生には知らせない方がいいだろうな。」

しかし、しおんはセフィロスに知らせるのは得策ではないと言った。

「何で?かなでちゃん関連で何かあったら、すぐ知らせるように言われたじゃない。」

ゆりは疑問に思う。

「忘れたのか?今二人は喧嘩中だぞ。」

「あっ…」

克己に言われて、ゆりは思い出した。今かなでとセフィロスは、非常に険悪な状態である。例え親とはいえ、これを知らせてもセフィロスはかなでを助けるだろうか?かなではそれを望んでいるだろうか?

「あの二人は時間がかかる。特に進路関係の話なら、な。」

元々血の繋がった親子ではない。親子になって長いわけでもない。ふとしたことで、関係はギクシャクしてしまう。しおんの言う通り、時間がかかるのだ。つまり、前回のかなで救出作戦と同じように、今回もセフィロスには内密に、極秘裏に遂行することにした。

「とにかく、事は一刻を争う。まずは立華が消えたという場所へ行くぞ」

皇魔がこう言った理由は、より正確な次元移動を行うため。もしかなでが本当に別世界へ行ったのなら、転移反応が残っているはずである。それを辿れば、暗黒の海のより正確な座標を特定することができるのだ。うまくいけば、かなでの目の前に転移できるかもしれない。

 

こうして一同は、救出作戦を開始した。

 

 

 

 

「それはまずいね…なんとかして元の世界に戻らないと…」

イカ娘から暗黒の海について聞いた映司は、現在自分がいる場所の危険度を理解し、心中焦る。

「でも、どうやったら帰れるの?」

かなみはイカ娘に訊いた。

「わからないでゲソ。暗黒の海に行って戻って来た者はほとんどいないうえ、戻って来た者の大半は詳しいことを語る前に、発狂して死んでしまったらしいでゲソから…」

「発狂して死んだ!?」

これには研も驚いた。その死んだ者達は、よほど恐ろしい何かをこの世界で体感したのだろう。

「そもそも暗黒の海の存在を知っている者自体そんなにいないから、それがなおさら暗黒の海の謎を深めているゲソね。」

「そういえば、イカ娘ちゃんはどうして暗黒の海のことを知っているの?」

研が訊いた。

「私の友達のゲソモンから聞いたでゲソ。ま、海に生きる者なら、海のことを知っておくのは当然でゲソね。」

イカ娘には、イカのデジモンであるゲソモンという友達がいる。

「ただ、ゲソモンもあまり暗黒の海のことは知らないと言っていたでゲソ。」

「そうだよね。あんまり知ったら、発狂して死んじゃうんでしょ?」

かなみは納得した。

「ダゴモンが何を考えているかなんてわからないとも言っていたでゲソ。」

映司はそれを聞き、やはりダゴモンは危険だと思う。何を考えているかわからないということは、何をしてもおかしくないということ。

「でも、この世界から帰る方法を知ってるのは、やっぱりダゴモンだけだと思う。」

それを知った上で、映司はダゴモンに会うべきと結論を出した。というより、今のところそれしかすることがない。この世界の支配者なら、帰る方法も当然知っているはずである。

「どんな危険な相手でも、話せばわかるはずだし。」

「…話が通じる相手なら、の話でゲソが…」

前向き思考な映司の意見を聞き、イカ娘はげんなりした。とにかくここにいても何にもならないので、一同はダゴモンを捜しに行くことに。しかし、ダゴモンがどこにいるかはわからない。と、

「…」

かなみが青ざめた顔で海の方を指差す。

「かなみ?どうしたでゲソ?」

「…この世界に来た時から感じてた悪寒。それは、雰囲気のせいだと思ってたけど、違う。海の方から、声が聞こえる…」

「ハート・トゥー・ハートかぁ…」

研はかなみのアルターの名を呟く。

「声、ということは…」

映司は海を見た。かなみが聞いた声の主は、間違いなくダゴモンだろう。

「…行くしかない、か…」

何がなんでも三人を守るつもりでいる映司は、少しでも三人にかかる脅威を減らすため、先頭に立って歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「映司!おい映司!!」

アンクは、自分の目の前で消えた映司を捜していた。しかし、映司を捜していたのは、彼だけではない。

「映司さーん!!かなみちゃーん!!研くーん!!イカ娘ー!!」

「イカ娘ちゃーん!!」

二人の女性が、映司を含めた三人を捜していた。ロストグラウンド学園の生徒であり、イカ娘の保護者的存在でもある相沢栄子と、姉の千鶴だ。彼女達もまた、目の前でイカ娘達が消えたのを目撃しており、映司を捜すアンクの手伝いをしていた。

「ここか…」

音無達に連れられて、皇魔も到着する。

「あれ!?皇魔先輩!?音無先輩に仲村先輩も!」

栄子は集ったメンバーに驚く。

「栄子ちゃんに千鶴さん!」

「アンクもいるじゃない。どうしたの?」

ゆりとレスティーも驚き、事情を聞こうとする。

「お前らには関係ない。こっちは今忙しいんだ」

だが、アンクは他人に助力を乞うような性格ではないため、突っぱねてしまう。仕方ないので、栄子と千鶴が説明した。

「イカ娘達が、目の前で消えたんです。映司さんも一緒に」

「だからこうして捜していたんですけど…」

「この辺りでか?」

「…ああ。」

ブラックはアンクに訊き、アンクは渋々答える。

「皇魔!」

「うむ。」

しおんに促され、皇魔はシャイニングブレスレットをかざす。すると、シャイニングブレスレットから光線が放たれ、ブレスレットの上に文字のようなものが浮かび上がった。どうやら、転移反応を探知しているらしい。

「どうだ?」

今度は克己が訊く。

「…微弱だが、転移反応が残っている。火野映司も暗黒の海に引き込まれたと見て相違なかろう」

「暗黒の海?何だそりゃ?」

アンクは暗黒の海について知らなかったようで、尋ねてきた。

「詳しいことを説明している暇はない。戻ってきてから話す」

「だったら俺も連れていけ。勝手に動き回らないよう、あいつに一言いってやらなきゃ気がすまないんでな。」

アンクは確かに助力は乞わないが、こんな具合に強要してくる。

「私も連れて行ってください!」

「私も!」

栄子と千鶴も同行を申し出てきた。

「オイオイ!遠足に行くんじゃねぇんだぞ!?」

「僕達がこれから行く場所は、世にも恐ろしい危険地帯だ!守りきれる保証はない!」

日向と直井は二人を止めようとする。(人間の身体を借りているとはいえ)グリードのアンクならまだしも、一般人でしかない二人を巻き込むわけにはいかない。

「大丈夫です。栄子ちゃんには私がついていますから」

千鶴は、栄子の分まで自分が守ると言う。

「けど…!!」

それでも渋る日向。そんな彼に、アンクは言った。

「連れて行ってやれ。」

「はあ!?」

「いいから連れて行ってやれ。そうすりゃわかるだろ」

「…!?」

驚く日向。アンクが、二人を同行させるよう言ったのだ。これには皇魔も少し驚いた。

(そのようなことを言う男ではないと思っていたが…)

グリードにもいろいろある、皇魔はそう思う。それはそうと、急ぐべきだ。皇魔はシャイニングブレスレットをかざして光線を発射し、次元の穴を精製。

「行くぞ!!」

仲間を連れて飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…」

セフィロスはしかめ面をしながら、書類の整理をしている。そして、書類の整理をしながら、今朝のかなでとの喧嘩を思い出していた。

 

 

 

『何で!?何でソルジャーになっちゃいけないの!?』

『ソルジャーになるということは、いつ死ぬかわからない。またはいつ死んでもいいということだ!そんなこともわからないのか!?』

『死なないわ!あたしはお父さんに恩返ししたいの!そのためにはソルジャーになるのが一番だって思っただけよ!!』

『俺にとって最大の恩返しは、お前に普通に育ってもらいたいことだ!!ソルジャーのどこが普通だと!?』

『普通じゃなくてもいい!!恩返しできるならどんな危険な仕事でも!!』

『俺が良くない!!子供を危険な仕事に就かせる親がどこにいる!!そんなものを恩返しとは呼ばん!!』

『…っ!!お父さんのわからず屋!!大嫌い!!』

 

 

 

「…」

かなでの気持ちは、わかっているはずだった。だが、あれだけ強い反発を受けるとは、思っていなかったのだ。

「…かなで…」

娘を想い、その名を呟くセフィロス。と、

「あの…」

一人の女性が、遠慮がちに声をかけた。

「…山中先生。」

セフィロスに話しかけたのは、さわ子だ。

「怖い顔して、どうかしたんですか?」

「…」

セフィロスは答えない。だが、さわ子はセフィロスが不機嫌な理由を知っている。

「立華さんと…喧嘩、したんですよね?」

「…ああ。」

「やっぱり。今日は一日、学園中がその話で持ちきりでしたから。」

「何がいいたい?」

「…」

今度はさわ子が黙った。言うべきことは前もって用意してきたが、いざ追及されると、やはり尻込みしてしまう。しかし、やはり言わねばならない。

「セフィロス先生にお話がありまして。」

 

 

 

 

 

 

暗黒の海に向かった皇魔達は、ちょうど港町の中心部に着いた。到着して早々に、デジモン文字で書かれた看板が目に入る。ブラックは読み上げた。

「インスマス…どうやら着いたらしいな。」

「ここが…暗黒の海…」

ゆりは辺りを見回す。見回して、恐怖した。このインスマスだけでも、言葉では表せない、不気味な雰囲気に満ちていたからだ。これは、暗黒の海に関しての予備知識を身に付けていたため。予備知識がなければ、ただの不気味な世界にしか感じなかったろう。しかし、予備知識があることで暗黒の海の危険性がわかっており、それがこの世界の不気味さを際立たせていた。

「この世界のどこかに…かなでが…!!」

この不気味な世界から目的の人物を捜さなければならないのかと思うと、音無は絶望感を覚えた。既に本能が告げているのだ。この世界に長居していたら、取り返しのつかないことになると。

「とにかく捜すぞ。」

「レスティー。お前の瞬間移動でどうにかならないか?」

克己としおんがレスティーに尋ねる。

「私もそうしたいんだけど、この変な気配がジャミングみたいになってて、かなでちゃんの気配が掴めないの。」

レスティーの瞬間移動の方法は、大きく分別して二つある。一つは、そのまま対象となる空間へ跳躍するというもの。もう一つは、移動先にいる人物の気配を察知して行うもの。前者は、先に転移先の空間を把握しておかなければならない。レスティーの超能力を持ってすれば空間の把握など造作もなく、世界の壁を越えてまで通用する。のだが、先ほどレスティーが説明したように、暗黒の海に立ち込める雰囲気がジャミングの役目を果たし、空間把握を妨げていた。そのため、この方法は使えない。だからこそ、空間の壁やジャミングそのものを突破できる、皇魔のシャイニングブレスレットの力に任せたのだ。後者の方も、やはり同じ理由で使えない。かなでの元までもシャイニングブレスレットの力で、と行きたいところだが、あいにくシャイニングブレスレットにあるのは次元移動のみで、瞬間移動はできないのである。

「だが、それでも…」

皇魔は海の方を見た。

「ここの空気でさえかき消せないほど、大きく強い気配が伝わってくる。」

恐らく、気配の主はダゴモンだろう。

「かなでちゃんがダゴモンに呼ばれたのなら、かなでちゃんはダゴモンの居場所にいる可能性が高い。そう言いたいのね?」

レスティーは皇魔に尋ね、皇魔は静かに頷く。

「なら映司もそこにいるはずだな。あいつならここの支配者であるダゴモンとかいうやつから、元の世界に帰る方法を聞き出そうとするはずだ。支配者なら元の世界に帰る方法だって知ってるだろうしな」

アンク達三人は、暗黒の海への道中で、ブラックから暗黒の海について聞いている。

「何にしても急いだ方がいいわね。この世界は相当厄介そうだし…」

「何より、デジモンの相手をやるなんてまっぴら。」

千鶴と栄子は、さっさと目的を済ませて、ここから立ち去るべきだと言う。

「もちろんそのつもりだ。誰がこんな所に…」

直井が言う通り、ここに長居するつもりなどない。

「急ぐわよ!」

ゆりが言い、一同は海に向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「話?」

「はい。立華さんのことでです」

セフィロスはさわ子から話を聞いていた。

「立華さんは、あなたの役に立ちたくて、ソルジャー志望にしたんだと思います。」

「…わかっている。」

百も承知だ。

「…なら、立華さんの想いを尊重しては?」

「…」

セフィロスは何も言い返さない。さわ子は続ける。

「確かに、普通に育ってもらいたいという想いはあるかもしれません。でも、彼女はあなたの娘であり、生徒でもあります。自分の道を見つけたのなら、親として、教師として、背中を後押ししてあげるのも、あなたの務めだと私は思うのですが…」

「…親として…」

ソルジャーは、セフィロスが知る中で最も危険な仕事。過酷な任務に挑んで死んでいった戦友達を、彼は山ほど見ている。かなでをその中の一人にすることは、絶対に嫌だった。

 

しかし、彼女がこれと決めて、実行すると宣言したのなら、親とはいえそれを止める権利はない。どこまで行っても、自分の道は自分の道だ。他の誰かの道になることは、ありえない。だったらどうする?できるのは、応援してやることだけではないだろうか?そう思うと、自分はただ一方的に娘が行く道を決めつけていたように思えてくる。

「私には娘も息子もいませんから、何とも言えませんけどね。」

「…いや、参考になった。」

セフィロスは立ち上がる。

「仕事はちょうど終わりだったんだ。」

そして、帰り支度を始めた。

「…かなで…」

セフィロスは帰っていく。

「言った通りだったでしょ?さやか先生。」

「さわ子です!」

その背を見送るさわ子に声をかけたのは、クーガー。さわ子は、クーガーから言われた通りのことをセフィロスに話すよう、言われていたのだ。

「でもわざわざ私を通さなくても、クーガー先生が直接言えばよかったんじゃ…」

「わかってませんなぁ~。俺も後押ししただけですよ」

「えっ?」

聞き返したさわ子だったが、クーガーはこちらに背を向けて、去っていってしまった。

「…もしかして…」

クーガーは、自分がセフィロスに恋をしているのを知っていて、少しでもセフィロスに近付けるよう仕向けたのではないだろうか。

 

そう思うと、さわ子は顔を真っ赤にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浜辺に着いた皇魔達一行。だが、かなでの姿はない。

「まさか…もうダゴモンに!?」

「諦めるな!立華なら無事なはずだ!!」

一瞬最悪の結末が脳裏をよぎったゆりだが、ブラックの言葉で正気に戻る。

「俺達が先に来たのか…」

「それとも…」

とりあえず、克己としおんが挙げたどちらかしか考えられないが、とにかく、今はかなでの無事を信じて捜すしかない。

 

 

その時、海から何かが上がってきた。

 

 

かなでではないことは確かだ。

 

 

人の輪郭を保ってはいるが、かなでのものではない。人の輪郭といっても、かろうじてだったからだ。少なくともここにいる者達からは、人以外の何かにしか見えない。

 

 

一言で表現するなら、それは影。かろうじて人の輪郭を残した、人らしき影。それが海から、次々と歩いて上がってきていた。

 

 

「な、何だこいつら!?」

「グリードでなけりゃヤミーでもない。」

「デザイアやシードでもないわ。」

栄子は驚き、アンクとレスティーは初めてみる謎の存在達に警戒した。

「もしかして、さっきブラックくんが言ってた、深きものども?」

「恐らくそうだろうな。」

千鶴は首を傾げ、皇魔が肯定する。

「ここは俺に任せろ。」

深きものどもが二十体ほど上がってきたところで、ブラックが進み出た。

「俺達はお前達と戦いに来たわけではない。この世界に迷い込んだ、立華かなでという女を迎えに来ただけだ。長い銀色の髪の女だが、知っているか?」

「…知っている。我らの古き神が招いたのだからな」

どうやら人語を介する程度の知性は存在するらしく、深きものどもの一体が、見えない口で答える。

「喋った!」

「知性があるのか!?」

ゆりと直井は驚いていたが。まぁ、こんな奇怪も奇怪な生き物が喋ったりしたら、誰だって驚くだろう。深きものどもが言った古き神というのは、ダゴモンのことだ。ブラックは以前、暗黒の海から戻ってきた者から、深きものどもがダゴモンをそう呼んで崇めていることを聞いている。話が通じそうな相手で少し安心したが、ただ、ダゴモンが招いたという奇妙なワードがあったことは引っ掛かっていた。

「お前達の主が招いたところすまないが、彼女は返してもらえないか?俺達の大切な仲間なんだ。」

交渉を続けるブラック。しかし、深きものどもは驚くべき答えを返してきた。

「断る。その女は、古き神の花嫁として選ばれたのだ。返すわけにはいかん」

ダゴモンがかなでを呼んだのは、自分の花嫁にするためだったのだ。

「お前達の他にも異物がいくらか迷い込んだようだが、もう元の世界に帰る必要はない。」

「全員婚礼の義の生け贄にしてくれよう。」

そして、深きものどももダゴモンも、ブラック達を人間界に返すつもりはない。どころか、この場で皆殺しにすると宣言してきた。

「花嫁に生け贄って…!!」

「じょ、冗談じゃねぇぞ!!」

音無も日向も、こんな異形の怪物に食い殺されるなど、我慢ならない。

「交渉決裂、ね。」

「やはり話し合いが通じる相手ではなかったか…予想はできていたが。」

レスティーはメダルとベルトを渡し、皇魔は装着する。転成前の彼は、様々な星間国家と同盟を結ぶため、会議のテーブルについたことが何度もある。だが、こんな連中と話し合ったことはないし、女性を誘拐する者にまともな人種がいないことは既に経験済みだ。

「応戦しても良いな?」

答えはわかりきっているが、それでも一応、ブラックに確認しておく皇魔。

「ああ。むしろするべきだ」

ブラックは本来の姿に戻り、ドラモンキラーを構えながら答えた。そもそも深きものどもはダゴモンの眷族だが、デジモンではない。戦ったところで、同族殺しにはならないのだ。

「変身!」

 

〈クレアボヤンス!ヤリ!ホノオ!ク・ヤ・ホ♪クヤホク・ヤ・ホ♪〉

 

皇魔はエンズに。

「変身!」

 

〈Music Start!〉

 

音無はビーツに。

 

「変身!」

 

〈OPEN UP〉

 

「さぁ、地獄の駆け引きを楽しみな!」

克己はポーカーに。

「プリキュア!オープン・マイ・ハート!!」

しおんはダークプリキュアにそれぞれ変身。

「強行突破だ!!」

エンズを先頭に、一同は突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

映司、イカ娘、かなみ、研グループも浜辺に到着しており、また、深きものどもから襲撃を受けていた。

「お前達も古き神の生け贄となるがいい!」

「みんな、下がって!」

映司は三人を下がらせ、ベルトを装着し、メダルを装填。

「変身!」

 

〈タカ!トラ!バッタ!タ・ト・バ♪タトバタ・ト・バ♪〉

 

オーズに変身し、メダジャリバーを抜いて応戦を始める。

「チャージングGO!!」

研もチャージマン研に変装し、アルファガンを乱れ撃ち始めた。

「かなみは私が守るでゲソ!!」

イカ娘はかなみを背に、触手を使って深きものどもを貫いていく。

「どうしよう…」

かなみには戦う力がないので、おろおろしているしかない。

「大丈夫!みんなには指一本触れさせないから!」

オーズはかなみを勇気づけ、深きものどもをまた一体、斬り倒す。

 

と、

 

「あれは何だろう?」

チャージマン研は、遠くの方に光を見つけた。

「もしかして…!!」

オーズは三人を先導しながら、光に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「翻車爆裂拳!!」

エンズは多数の敵を攻撃する北斗神拳の奥義を発動。

「オオオ!!」「アアッ!!」「グブゥッ!!」「ガギィィッ!!」

 

秘孔を突かれた深きものども達は、次々と爆散する。

「ドラモンキラー!!」

ブラックはドラモンキラーを振るい、究極体のパワーを生かした戦い方で深きものどもを薙ぎ倒す。

「はっ!!」

「ふっ!!」

「やあっ!!」

ビーツとポーカーとゆりは援護射撃を日向と直井に任せ、深きものどもの群れに斬り込んでいく。

「おおっ!!」

ダークプリキュアは得意の足技を存分に発揮して、深きものどもを蹴り飛ばす。

「オラァッ!!」

アンクは自分が取りついている右腕で深きものどもを殴りつける。

「姉貴!!」

「任せて栄子ちゃん。」

栄子と千鶴に迫る深きものども。しかし、次の瞬間深きものどもは、千鶴が放った目にも止まらぬ手刀によって、バラバラに切り刻まれてしまった。

「さすが姉貴だなぁ…」

千鶴は普段から常人では考えられないくらい自分を鍛えており、しかも今見せた謎の戦闘術まで取得している。

「あの動き…まさか…」

この時皇魔は、北斗神拳と並ぶとある拳法に、千鶴の動きを重ねていた。

 

 

「アンク!みんな!」

そこへ、かなみ達を連れたオーズが合流する。

「こっちは間に合ったか!」

かなでの姿はないが、一応彼らも捜していたので、ダークプリキュアは少し安心した。ちなみに、皇魔は創世の使徒との一件で、映司と和解している。

「映司!お前勝手に動き回るなって言ったろうが!!」

「そんなこと言ったって見過ごせないだろ!」

アンクはオーズに文句を言い、オーズは反抗しながらメダジャリバーで深きものどもを斬り捨てた。

「こいつら何匹いるでゲソ!?」

深きものどもはそれほど強くないが、海から仲間がどんどん上がってきており、一向に数が減らない。むしろ増えている。もう倒したやつが復活してるんじゃないか、というくらいだ。

「まだかレスティー!?」

エンズはレスティーに、かなでの捜索をさせていた。いくらジャミングがひどくても、レスティーの超能力なら探知できると思っていたからだ。

「今やってる!」

どうやら、まだ見つかっていないらしい。かなでさえ見つかれば、こんな世界からはすぐにでも帰れるのだが。

「チッ…映司!これ使ってさっさと片付けろ!」

「わかった!」

アンクは、自分のコアメダル二枚をオーズに渡す。

 

〈タカ!クジャク!コンドル!タ~ジャ~ドル~♪〉

 

オーズはタジャドルコンボにコンボチェンジした。本来ならコンボはあまり使わない方がいいのだが、アンクはこの世界の雰囲気が嫌で、早く帰るためにはいたしかたないと考えた結果、コンボを使わせたのだ。

「はっ!」

オーズはエネルギー状の羽手裏剣、クジャクフェザーを飛ばして、離れた位置から深きものどもを狙い撃つ。

「火野映司!時間を稼げ!」

「うん!」

エンズの言葉にも快く耳を貸すオーズ。彼は、エンズが世界を守るために命を懸けて戦ったと聞き、それ以来エンズを見直しているのだ。

 

 

 

 

 

 

ーーーー…っーーー

 

 

 

 

 

 

 

その声が聞こえたのは、状況が優勢になってきたかに見えた時だった。

「!!」

「何だ今の声は!?」

オーズとエンズを始めとする一同は、思わず攻撃の手を止めてしまう。

「そこか!!」

声の発信源が海にあると睨んだブラックは、海に向かってガイアフォースを放つ。

 

 

爆発する海面。巻き上がる水しぶき。それらが収まった時、海から何かが出てきた。

 

 

タコのような頭と触手を持ち、頭にコウモリのような羽を持つ、巨大な異形の怪物だ。海には霧が立ち込めているので、詳しい姿はよくわからないが、そんなシルエットが見えた。

「あれが…」

「ダゴモン…」

見た者全てが恐怖を感じる外見。日向と直井も、例外ではなかった。

「あれが声の源…怒ってる…すごく怒ってる…!!」

かなみはアルターでダゴモンの声を聞いていたため、今しがた声を発したのがコレであると瞬時に察し、また、コレが怒りを感じていることを理解した。

「自分の住みかを荒らされたんだから、当然でゲソね…」

「うふふ…」

イカ娘は同じく海に生きる者であるダゴモンに同情を感じる。しかし、ダゴモンが彼らを引きずり込まなければこうならなかったのだから、自業自得だが。ちなみに、研は笑っている。別に空気を読んでいないわけではなく、ダゴモンの見た目が恐ろしすぎて、笑うしかなくなっているのだ。

(どういうことだこれは…!?)

ブラックは究極体でダゴモンは完全体。世代的な強さでは、ブラックが遥かに上のはずである。しかし、ブラックはダゴモンを見て、直感的に知った。勝てないと。世代で上回っていても、強さで上回っていても、こいつには勝てないと思ってしまった。そんなことを全く問題としない何かが、ダゴモンにはあると。

「かなでちゃん!」

ゆりが叫ぶ。一同が見た先には、いつの間に来ていたのか、かなでがいた。

「かなで!」

ビーツも声をかけるが、かなでは反応しない。かなでがいる場所までは少し距離があるが、声が届かない距離ではないだろう。それでもかなでは反応せず、ただダゴモンを見るばかりだ。さすがに様子がおかしいと思ったポーカーは、かなでの目を見る。現在の彼女は、うつろな目をしていた。

「あれは洗脳されてるやつの目だな。ダゴモンにやられたんだろ」

「何だと!?くっ!無理矢理させて、何が花嫁だ!!」

ダークプリキュアは女性としてダゴモンに怒りを覚えた。すると、ダゴモンが自分の触手を一本、かなでに向かって伸ばしていく。

「ヤバい!あれに捕まったら…」

「オオォォ…」

「うわああああああ!!こっちくんなぁぁぁぁぁ!!!」

今まで攻撃の手を止めていた深きものどもが攻撃を再開し、栄子は目の前に来ていた深きものどもを背負い投げで投げ飛ばす。その後、投げられた深きものどもは千鶴に切り刻まれた。

「ぬっ!」

エンズは深きものども達の追撃を振り切って駆け出す。

「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

走りながらエンペラ星人に変身した皇魔は、かなでを捕らえようとしていたダゴモンの触手を片手で掴み、さらにもう片方の手でダゴモンの顔面を殴る。

「貴様ごときの花嫁にはさせん!!立華には既に、心に決めた相手がいるのだ!!」

「っ!」

そこでようやく、かなでは正気に戻った。

「…っ!あ……いや……」

そして、自分が何をしようとしていたのかを悟る。こんなおぞましい化け物に自分を…

 

 

 

「イヤァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

「かなでぇぇぇぇ!!!」

 

〈Sky High Jet!〉

 

ビーツはスカイハイジェットを装備して一気に深きものどもの群れをかいくぐり、かなでのもとに到達し、抱き締める。

「かなで!!」

「嫌っ!!帰して!!ここから出して!!嫌ぁぁぁ!!」

かなでは錯乱状態に陥っていた。

「お父さん!!結弦!!ゆり!!皇魔くん!!レスティーさん!!」

自分にとって一番頼りになる存在の名を呼び、必死に助けを求めている。

「大丈夫だ!みんないる!みんなお前を助けに来たんだ!帰れるんだよここから!!」

さすがにセフィロスはこの場にいないが、ビーツはかなでに呼び掛け続け、落ち着けようとしていた。

「…」

ダゴモンと向き合う皇魔。先ほどは感情のままに変身し、また感情のままに殴ったが、それがどれだけ不用意な行動だったかを、彼は理解する。

「貴様は…」

理解して、まだ理解できないことを理解するため、皇魔は質問をした。

「貴様は一体何なのだ!?」

「…」

ダゴモンは答えない。質問の意味を理解していないのか、無視しているのか、言葉そのものが通じないのか、それ以外に理由があるのかわからないが、黙っている。

 

皇魔がなぜこのような質問をしたのか。それは、言葉では言い表せない何かを、ダゴモンから感じたのだ。

「貴様は…!!」

「…」

「くっ…!!」

皇魔は早々にダゴモンを駆逐すべく、EX化。

「おおおおおおおおおおおおオオオオ!!!」

EXレゾリューム光線に闘気を込めた、スーパーEXレゾリューム光線を放つ。光線はダゴモンに直撃して、大爆発を起こした。

 

すぐにダゴモンを倒せたか確認しようとする皇魔だが、それはできなかった。突然シャイニングブレスレットが輝き、皇魔と仲間達を転移させたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと、皇魔は人間の姿に戻っており、ライダー組も変身が解除された状態で、自分達が暗黒の海へ行く時使った場所に戻ってきていた。

「も、戻ってこれたのか…?」

「そうらしいわね…」

「お、恐ろしい体験だった…」

人間界に戻ってこれて安心する日向、ゆり、直井。

「栄子~!千鶴~!怖かったでゲソ~!」

「よしよし。よくかなみちゃん達を守ったな」

「偉かったわよイカ娘ちゃん。映司さんとアンクさんもありがとうございます」

泣きつくイカ娘を抱き止める栄子と千鶴。

「いえ。それにしてもあんな怪物がいるなんて…」

「グリードやデザイア以外にも、ヤバいやつはいるってことだな。」

今回の戦いは映司とアンクにとっても、いろいろ考えさせられるものとなった。

「…帰ってこれた。」

「言った通りだろ?」

「うん。あっ、お父さん…」

音無は抱き締めていたかなでを離し、かなでは近くに見つけたセフィロスの元へ行く。

「お父さん!」

「かなで。すまなかった。お前の気持ちも考えないで…」

「ううん、もういいの。あたしも悪かったから…」

かなでは自分がダゴモンにさらわれた理由が、セフィロスに対する感情のせいであることに気付いていた。気付いた上で、きちんと謝る。

「ごめんなさい。心配してくれてありがとう」

それから礼を言う。

「みんなも、助けに来てくれてありがとう。」

皇魔達にも。

「やはり親子というものはいいな。」

「ああ。」

しおんと克己は、微笑ましげに見ていた。

 

「皇魔…」

レスティーは皇魔に声をかける。

「ダゴモンはどうなったの?」

「…わからぬ。余の攻撃が直撃したのは確実だが…」

確かめる間もなく、シャイニングブレスレットが勝手に転移機能を発動させてしまった。

「しかし、これでよかったのかもしれん。」

「えっ?」

「恐らくあのまま続けていれば、余は負けていた。あれは恐怖そのもの…心に闇を持つ者が戦えば、狂気に堕ちる。全く、恐るべき相手だ。」

「そういえば、声は?」

研はかなみに訊く。

「……もう聞こえない。」

かなみのアルターでも、ダゴモンの声は聞けなかった。倒したにせよそうでないにせよ、あの攻撃を受けて無事で済むはずはない。少なくともかなりのダメージを負ったはずだから、当分は大丈夫だろう。

「ブラック。」

「何だ?」

皇魔はブラックに頼んだ。

 

「人間界とデジタルワールドの両界に伝えるのだ。暗黒の海のことを…」

 

それから、こう付け加える。

 

「絶対に手を出してはならぬとな。」

 

 

 

 

 

 

 

これ以降、彼らがダゴモン及び暗黒の海と関わることは、二度となかった。

 

 

 

 

 

 

 

読者の皆さんも自分を呼ぶ声が聞こえたら、それが自分にとって安全なものかどうか、よく確かめてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

暗黒の海の支配者は、いつでも生け贄を欲しているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーー…っーーー

 

 

 

 

 

************************************************

創世の使徒が復活した!?あらゆるものを死滅させるその力は、己が憎むもの全てを消し去ってゆく!!エンズの世界を襲うかつてない危機に、ロストグラウンド学園はどう立ち向かう!?皇魔は仲間達を守れるのか!?レスティーよ!!超能力メダルに宿りし秘めたる力、今こそ解き放て!!!

 

次回、仮面ライダーエンズ!!

 

第二十三話 最強の敵再び!!叩き込め!!運命のダブルスキャン!!


 
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