真・恋姫無双 黒天編 裏切りの*** 第10章「黒天」 後編3-2 黒天の世
サラ「お兄ちゃんっ!!」
サラは手に神音を握りしめたまま、なりふり構わず一刀の方へと駆けて行った。
黒布の男「あっ!!ちょい待ちやっ!!」
男はサラに向けて手を伸ばすも、すでに手が届かない位置まで駆けだしていた
黒布の男「ええの?もう?混乱すんで?あの娘ら?」
カガミ「ちょっと予想外な展開ですが・・・問題ないでしょう」
カガミは男の方を振り向かずに、かつ素っ気なさそうにそう答えた。
カガミは一刀の方へと走っていくサラよりも、雪蓮の手に握られている南海覇王に目が釘付けになっていた。
カガミ(やはり厄介ですね。早く・・・何とかしませんと)
黒布の男「なんか言いました?」
カガミ「いえ・・・別に・・・」
男はカガミの横顔をじっと見た後、視線をサラの方へと戻す。
黒布の男「どうせ追いかけたって振り切られるだけやろうしな。好きにさせてたろ」
そして、男は地面にドッカリと腰を下すことにした。
サラ「お兄ちゃんっ!!」
サラは倒れている一刀を抱え、すぐさま羽織っている黒い服を剥ぎ取り、下に隠れていたフランチェスカの制服も急ぎ脱がしていく。
サラ「どうしよう・・・血・・・血が・・・」
傷口を確認してみると、止めどなく血は流れ続けているが思っていたよりも傷は浅かった。
しかし、ほっておけば大事に至ることは安易に想像できた。
サラは一刀がきていた黒い服の袖を矢じりをナイフのように使って引きちぎり、急いで傷口に当てる。
その様子を雪蓮はジッと眺めているだけだった。
サラ「大丈夫・・・なわけないよね。話せる?」
一刀は喋りはしなかったが、顔を少し持ち上げコクリと頷いた。
サラ「よかった・・・。もうお兄ちゃんは十分に頑張ったよ。下がろ。ねっ?あとは私が・・・」
サラは一刀に肩を貸そうと一刀の左手を上げて、その手を自分の首へと回す。
しかし、一刀はサラの肩に回された手をすぐに解く。
そしてその手を地面にやり、つっかえ棒にしてゆっくりと一人で立ち上がった。
そして、斬られた傷を押さえながらも雪蓮の方へ近づいていく。
サラ「お兄ちゃんっ!!」
カガミ「そこまでです」
サラは突然聞こえたカガミの声に少し驚きはしたものの、すぐに目元がつり上がった。
サラ「もうこんなことしなくてもいいじゃないっ!!あとは私が“あれ”をすれば終わるんでしょ?なのになんで・・・」
カガミ「あともう少しだけ我慢してください。もう少しだけ・・・」
サラ「でも傷が・・・」
カガミ「今の一刀さんならあの程度問題ありません」
サラ「でもっ!!」
カガミ「何度も同じことを言わせないでください」
今までにないトーンの低いカガミの声に、サラはもう次の言葉を紡ぐことができなかった。
華琳「いまあの娘・・・何て言ったの?」
華琳を含む一同はサラの言葉は聞こえたものの、その言葉の意味を理解できずにいた。
流琉「お・・・お兄ちゃんと・・・」
愛紗「お兄ちゃん・・・?」
春蘭「お兄ちゃんというと・・・あれか?兄と弟のどちらかと言われれば兄の方か?」
思春「何をわけのわからんことを言ってるのだ。春蘭・・・」
春蘭「ってことはあれか?あの女は北郷の弟なのか?」
春蘭の頭はもはや茹であがっており、いつも以上に訳が分からなくなっていた。
そんな春蘭の言葉を訂正する余裕がある者はその場にいなかった。
蓮華「天の国に妹がいるって聞いたことはあるけど・・・」
愛紗「あ奴が・・・妹君だと・・・」
愛紗は一刀を抱えているサラをジッと凝視した。
サラはそんな愛紗の視線など気付いた様子もなく、一刀の傷の手当てを行っている。
流琉「言われてみれば・・・どことなく兄様と似ているような気もしますね」
華琳「確かに・・・目元とか・・・雰囲気とかね」
蓮華「じゃぁ・・・本当に一刀の妹なら・・・どうしてあっちにいるの・・・」
華琳「一刀を・・・取り戻しに来た」
華琳はボソッと小さな声でそう呟いた。
その声は本当に小さなものであったが、聞き逃した者はいなかった。
皆が一斉に華琳の方へと振り向く。
華琳「ただの推測よ。この地に一刀を探しに来たというのなら、すぐにこの都にくればいい。一刀を探して会いに来るのなんて簡単なんだから・・・。それなのにすぐに会いに来ず、私たちと敵対する立場にいる。なにか、大きな理由があると考えられるわ」
一刀は平和の象徴として今は存在している。
この地に住む者で一刀のことを知らない者はまず、いない。
もし純粋に一刀に会いに来ただけならば、何かしらの方法を使えば一刀のもとへは確実に辿り着くことができる。
だが、都にたどり着いたとして「自分は北郷一刀の妹だ」と言っても簡単には信じてはもらえないだろう。
しかし、「一刀の妹を名乗る不審者(女)が城門前にいる」という報告を一刀が受ければ、本物、偽物問わず一刀が会いに行きたがることはやすやすと想像できる。
“女”という時点で会いに行かないという選択肢は一刀にはないだろうから(ここはあくまで皆の推測なのだが・・・)
結論、この世界に来ることさえできれば一刀に会うことなど容易いのだ。
しかし、サラはこの行動には出なかった。
蓮華「私たちと敵対する理由?」
流琉「あっ!!兄様が立ち上がりました!!」
皆が視線を元に戻すと、一刀は少しふら付きつつも雪蓮に近づいていった。
愛紗「まだ・・・、続けるつもりですか・・・」
愛紗は右拳をぎゅっと握りしめ、下唇を噛みしめた。
蓮華「姉様と一刀を止めないと・・・」
蓮華がそう言って一歩踏み出した。
しかし、二人の手が伸びてその行く道を遮った。
思春「蓮華様、危険です」
華琳「雪蓮もいまキレてる状態だから近づくことはお勧めしない。一刀もどういう状態かわからない以上、あなたが近付いた時に斬られる可能性もあるわ。やめておきなさい」
蓮華「一刀は私にそんなことしないっ!!」
華琳「私たちが知る一刀ならね・・・。もう少し、雪蓮に任せてみましょう」
一刀は雪蓮と一定の距離を縮めると、再び拳をあげ戦闘態勢を取った。
しかし、先ほどよりもその姿は弱弱しく、手甲に帯びていた赤も今にも消えてしまいそうだった。
雪蓮「大丈夫なの・・・?なんで、そこまでして・・・私に向かってくるの?」
雪蓮は話し始めたと同時に、先ほど一刀の体を斬った感触が手に戻ってきた。
今までなかった感覚、感触が雪蓮に襲いかかっていた。
顔は見る見るうちに青ざめていき、戦闘中のキレた雪蓮の面影はそこにはなかった。
一刀「これは・・・戦いなんだ・・・」
雪蓮「っ!?」
そこで雪蓮は久しぶりに一刀の声を聞いた。
それは雪蓮にしか聞き取れないような、本当に小さな声だった。
一刀「傷くらい・・・つくのは・・・・・・あたり・・・ま・・・え・・・」
一刀は言葉を一つずつ発するたびに苦しそうな表情を浮かべていた。
そして遂にはゴホッと咳き込み、右手の手甲で口元を押さえると、手甲の隙間からツーッと鮮血が垂れ流れた。
一刀「しぇ・・・れ・・・・・・ん・・・」
一刀はそう言うと同時に身体の体勢が崩れ、前のめりに徐々に倒れていった。
雪蓮「一刀っ!!」
雪蓮は倒れる一刀を受け止めようと南海覇王を投げ捨て、急いで少し離れた一刀のもとへと駆けだしていった。
雪蓮は一歩一歩の歩みが本当にゆっくりに感じていた。
一歩踏み出すのに一刻もかかるような、そんな長い時間
そしてようやく二歩目を踏み出した。
一生、一刀のもとにたどり着けないのではないかという永遠の時間
しかし、そんな中でも時は進み続ける。
雪蓮は歩み続ける。
一刀も徐々に、前かがみに倒れていっている。
そして一刀のもとまであと一歩というその時に・・・
雪蓮の歩みが止まった。
左肩に刺さった一本の矢によって・・・
サラ「お兄ちゃんに・・・近づくな」
雪蓮は左に受けた矢の衝撃により、上体が後ろに持っていかれ、後方へと受け身なしに倒れ込んだ。
雪蓮が倒れたと同時に一刀もドサッと音を立ててうつ伏せに倒れた。
雪蓮の肩口からはどんどんと血があふれだし、一刀は一刀で傷口に当てた黒い布が変色するほどに赤々とした血で地面を染めていった。
その場に居合わせた一同の時間が止まる。
何が起こったのかを理解するために、今の状況を頭の中で整理する。
しかし、そこにいる黒布の一行以外の大半の者は状況を理解できないし、したくもない。
目の前には雪蓮が倒れ、一刀も倒れている。
まさに最悪の光景が広がっている。
蓮華「あっ・・・ああっ・・・あああ・・・・」
蓮華は両手で口元を押さえ、今の儒教を受け入れまいと首を激しく左右へとふる。
恐れていた事態が今、目の前で起きてしまっている。
雪蓮を失うかもしれない。
一刀も失うかもしれない。
その恐怖が一気に蓮華に襲いかかり
そして、頭のどこかではじけた音がした。
以前森で襲われた症状とまったく同じものに・・・
孫策・・・雪蓮姉様・・・
母様・・・・・・墓参り・・・・・・
矢傷・・・・・・・・・かずと・・・・・・・
頭の中から絶えず情報が溢れだし、蓮華の頭をかき交ぜる。
そして、・・・もう一回
蓮華の頭に何かがはじけた音がした。
蓮華「ああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
蓮華がこの大陸中に響き渡るほどに絶叫すると、蓮華の周りからどす黒い妖気のようなものが一気にあふれ出た。
思春「蓮華様っ!!」
愛紗「蓮華どのっ!!」
ようやく蓮華の異変に気がついた二人が蓮華に近寄ろうとしたが、不気味な妖気に阻まれ近づくことができなかった。
思春「どうなされたのですかっ!!蓮華様っ!!」
愛紗「蓮華どのっ!!むっ!!」
突然、地面が震え始め、ゴゴゴッという地鳴りとともにその強さが徐々に増していく。
空の色も蓮華が放つ黒い気に侵食され、青空は漆黒に包まれた。
そして、さらに地震の強さが増していき、愛紗の足元から突然クモの巣のようにヒビが入っていった。
その地割れを見て、華琳らもハッと意識を取り戻した。
華琳は瞬時に状況確認を行い、
華琳「流琉っ!!雪蓮をお願いっ!!」
そう一言、流琉に伝えると華琳は蓮華たちの様子を一瞥した後、一刀の方へと走り出した。
流琉「華琳様っ!!」
流琉は華琳を追いかけようとしたが、地面の震えがいっそう強まったためバランスを崩して転んでしまう。
そうしている間に華琳の姿は黒い妖気に遮られ、見えなくなってしまった。
そして、華琳の指示通り雪蓮が倒れた方へと駆けだしていくのであった。
華琳「確か・・・このあたり・・・」
華琳は立ち止り、一刀が倒れた場所を懸命に探す。
蓮華の様子も心配であったが、それは思春と愛紗に任せておき、自分は一刀の確保へと向かった。
この混乱の中なら、一刀の身を保護できるかもしれない。
そう思って駆け出した華琳であったが黒い妖気が邪魔して視野は著しく狭くなっていた。
華琳はあたりを探していると地震の強さがさらに増し、地割れが起きている場所もだんだんと増えていた。
華琳はあまりの揺れに体勢が崩れ尻餅をつきそうになるも懸命に耐える。
耐えながらもふっと眼をやった場所に、微かな太陽の光でも白く輝く光を見つけた。
華琳「一刀っ!!」
その光がある方へ懸命に華琳は走り出した。
そして、華琳は地面に倒れる一刀の姿を発見した。
華琳は一刀のもとへと近づこうと一歩踏みだしたその時、ミシミシっと地面がひび割れる音が聞こえた。
華琳「っ!」
華琳は危険を感じすぐさま一歩後ろへ下がると、今まで華琳がいた場所から地割れが一刀の倒れている場所を囲むように起こり、少しずつ地面が下がっていっているのが分かった。
一刀が倒れている地面は徐々に落ちる速度は増していく。
華琳「一刀っ!!起きなさいっ!!落ちるわよっ!!」
華琳は地割れが起きた場所ギリギリまで近づき、懸命に一刀に声をかける。
華琳(お願い、起きて・・・)
その願いが届いたのか、一刀はゆっくりと腕を曲げ上体を起こし、ふらつきながらも両の足で立ち上がった。
華琳「かずとっ!」
華琳は一刀が立っている地面に危険を顧みず飛び移り、近づこうとする。
しかし、無慈悲にも再び地割れが一刀の立つ地面だけを取り囲み、その場所だけさらに下降する速度が増した。
これ以上飛び降りると一刀を連れて元に戻れないと判断した華琳は地面に伏せて、落ちていく一刀に向かって懸命に手を伸ばした。
華琳「つかまりなさいっ!!崩れるわよっ!!早くっ!!」
一刀も少しボーッとしていたようであったが、それに気がついたようでゆっくりと華琳の方へと手を伸ばそうとしたその時・・・
サラ「お兄ちゃんっ!!」
華琳のいるちょうど反対側の位置からサラが一刀に向けて手を差し出していた。
一刀もそれに気が付き、華琳へと差し出した手が途中で止まった。
サラ「早くっ!!落ちちゃうよ。こっちに来て」
華琳「一刀っ、ぐずぐずしないでっ!!早くこっちに来なさいっ!!」
一刀が両方へと交互に目をやる。
左側では華琳が、右側ではサラが手を必死に一刀に届かせようと伸ばしている。
そうしている間にも一刀が立つ地面の揺れは強さを増し、地面の崩壊する速度もさらに加速した。
サラ「お兄ちゃんっ!!」 華琳「一刀っ!!」
二人が叫んだと同時にガタンッと今までにないほどの強い揺れが起こり、一刀の立つ地面は脆くも崩れ落ちていった。
しかし、一刀は落ちずに一方の手をしっかりと握り、宙にぶら下がっている状態だった。
一刀が手をとった相手は・・・
ツルギ「はじまったか・・・」
ツルギは揺れる地面をもろともせず平然と立ち尽くしながらそう言った。
ツルギ「タイムアップ・・・だな」
ツルギは愛刀月白に帯びていた真っ赤な気の光を徐々に淡くしていき、最終的にそれを完全に刀身から失せさせた。
恋「・・・降参?」
辺りには蓮華の周りから噴き出た漆黒の霧によって視界が悪くなっていたが、蓮は確かな足取りでツルギの方へと近づいていく。
ツルギ「いんや。時間切れってやつだ。この勝負はお預け」
恋「・・・逃げる?」
ツルギ「なにをぉっ!!じゃあ、やったんぜっ!!・・・っと言いたいとこなんだがな・・・はぁ・・・アイツがうっせーのよ」
恋「誰っ?」
ツルギ「オレの相棒・・・だな。まぁ、俺は俺の役割はもう十分に果たしたかんな。お前を止めるっちゅー役目を」
恋「恋・・・負けてない」
ツルギ「ああ・・・だが、俺も負けてねぇ」
恋「なら・・・」
恋がそう言って再び戦闘態勢を取ろうとした時、急に気味の悪いボワンという音とともにツルギの横に大きな黒い穴が出現した。
ツルギ「すまねぇな。呼ばれてらぁ・・・。この決着を近いうちにつけようぜぇ・・・あばよっ!!」
ツルギは月白をシャキンと鞘へとしまうと、勢いよくその黒い穴へと飛び込んだ。
ツルギ(もっとも・・・あのまま戦ったって勝負がつくことはねぇけどな・・・)
ツルギは黒い穴に入り、そこから続く通路を疾走すると、直ぐに別の光を放つ穴を発見した。
何の迷いもなくその穴へ飛び込むと、飛び込んだ先にはツルギを呼んだカガミの姿と黒布の男の姿があった。
男「おかえりぃ~、意外と遅かったんやね」
ツルギ「アイツが放してくれなくてな」
男「モテモテ~~」
男がツルギを茶化していると、横から“んんっ”とカガミの咳ばらいが聞こえたので男はすぐに黙ることにした。
ツルギ「始まったな」
カガミ「ええ、ようやくですね」
ツルギ「計画通りか」
カガミ「順調に事は進んでいます。しかし、これからが大変です」
ツルギ「消えた“この世界の管理者”の捜索・・・こりゃ苦労すんぞ・・・なんせ相手は・・・」
カガミ「そうですね」
カガミは首にぶら下げている赤い勾玉をギュッと握りしめながら、こう答えた。
カガミ「とりあえず第一段階はクリアです。すぐに第2段階へと移行します」
カガミは首から勾玉を外すと、そこへぐっと力を込める。
するとその勾玉は毒々しい赤の光を放ち徐々に宙へと浮かんでいく。
一定の高さまで上昇したのを見て、カガミが大きく手を掲げると輝きはさらに増し、勾玉から一本の光が空に向かって放出された。
カガミ「外史剪定軍に通達しますっ!!」
カガミが大きな声でこう叫ぶと、勾玉を中心に真っ赤な波紋が放出された。
どうやらこの波紋はカガミの声を遠くへ飛ばす効果があるらしく、それは遠くの戦場で戦っている兵士たちにまで聞こえたようであった。
カガミ「外史の崩落が始まりました。蒼天ここに死すっ!!いまこそ黒天の世が立つときですっ!!此度の戦は我々の勝利っ!!全軍撤退なさいっ!!」
カガミが叫び終わるや否や、赤い勾玉は徐々に光を失いながらその高度を下げ、ちょこんとカガミの掌に収まった。
カガミ「さて・・・サラさんと一刀さんを迎えに行きましょうか」
カガミは勾玉を元の首飾りの状態に戻しながら右手をあげると、再び黒い穴が空中に出現した。
そして、カガミが先に入ると次に黒布の男が、そして最後にツルギがその穴に入っていった。
サラ「今、引き上げるからねっ!!ん~~っ!!」
サラは一刀の手を両手で握りしめつつ、懸命に崖から引き上げようと力を込める。
一方、一刀の方はサラの手を離さないようにするのがやっとのようで、自ら昇ってくる力はないようである。
そうしている間にも一刀の体からは鮮血が滴り落ち、その雫は地下の漆黒の闇へと消えていく。
華琳「かずと・・・」
華琳は手をぶらんとさせながら、一刀とサラの様子をジッとみていた。
いや、見ることしかできなかった。
華琳が二人をジッと見ていると、サラの後ろの空間から黒い穴が出現するのが見えた。
その穴からは先ほど一刀と供にいた三人が姿を現す。
男「サラちゃん、お仕事終わったで・・・って何してんの?」
サラ「何ボサッとしてんのよっ!!手伝いなさいっ!!お兄ちゃんが・・・」
男「えっ・・・っとちょっ!!なんでこないなってんねんっ!!まっとけよっ!!」
男はいつも通りの雰囲気でサラに話しかけていたが、状況を確認すると直ぐにサラの元へと駆け寄り一刀を引き上げるのを手伝う。
そして、男の力が加わったこともあり一刀の体は徐々に上昇し、やっとのことで地面に引き上げられた。
男「ホンマに世話ばっかりかけるよな・・・お前・・・」
男はそう言いつつも一刀に肩を貸してやり、少し無理やりではあるが一刀を立たせた。
すると、地面の揺れがゴゴゴッという轟音とともにさらに強さを増した。
カガミ「急ぎなさいっ!!もうすぐ崩れますよっ!!」
ツルギ「グダグダすんなっ!!急げっ!」
男「サラちゃんは先行っとき!!」
サラ「でも・・・」
男「ええからっ!こういう時ぐらい任せてぇな」
サラは少し不満そうに男の顔を一瞥したが、男の言うとおりに先に漆黒の穴へと入って行った。
男「サラちゃんは行ったで・・・何か言うとかなあかんことないんか。あの子に・・・」
男の言葉に一刀は少しずつ顔を後方へと向けていき、崖の反対側にいる華琳の方を見る。
華琳は一刀と目があったのに気付き、崖のギリギリまで近づく。
華琳「一刀っ!!なんで・・・なんでっ!!」
視界も悪く、距離もあるのだが華琳にはしっかりと一刀之表情を見ることができた。
顔にはあちこちに擦り傷やかすり傷ができ、一緒に過ごしていた時の綺麗な顔はそこにはなかった。
表情も終始俯いており、華琳と目があったのは最初の一瞬だけであった。
隣で一刀に肩を貸している黒布の人物が一刀の耳元で何かをしゃべっているようであったが、それに対しても一刀が反応を返すことはなかった。
華琳「かずとっ!」
一刀を呼び掛ける声もだんだんと涙声へと変わっていき、もう一刀の名前を呼ぶ以外の言葉が出てこなかった。
なぜ、一刀が自分のいる方とは逆の方へいるのか。
肩を貸してあげる相手が私でなくあの人物なのか。
なぜ、あの時、自分に差し出しかけた手を急に引き、違う人の手を取ったのか。
なぜ私の手を取ってくれなかったのか。戻ってきてくれないのか。
華琳「かず・・・と・・・」
一刀を呼ぶ涙声の大きさも徐々に消えていく。
すると、こちらに向かって一刀の口元が少しだけ動いたように見えた。
華琳「っ!!」
一刀が何か伝えようとしていると思い、華琳は必死に一刀の口の動きを読む。
それは短い言葉を何度も繰り返しているようだった。
華琳「“め”・・・・・・“ご”・・・・・・・・・・・・・“り”・・・・つっ!!」
そして理解した。一刀の行っている言葉を
一刀( ごめんな かりん )
そして、華琳が理解したと同時に一刀と黒布の人物はゆっくりとした足取りで、漆黒の闇の向こうへと姿を消した。
一刀たちが去った後、その場に残ったのは漆黒の霧と鳴りやまない地響き、そして頬に伝う雫が止めどなくあふれ出ている少女だけだった。
そして、ある記憶が再び蘇った。
自分は体験していないはずなのに・・・
それなのに頭の中からいっこうに離れてくれなかった記憶・・・
小川・・・琥珀色の満月・・・・・・
消えていく愛しき人・・・
華琳「また・・・私を置いていくのね」
流琉「華琳様っ!!」
華琳が茫然と崖の向こう側を見ていると、後ろから流琉の声が聞こえてきた。
流琉「兄様はっ!!」
華琳「行ってしまったわ・・・あの時みたいに・・・私を置いて・・・」
この時、流琉は華琳の言葉の深い意味まで探る余裕はなかったが、一刀が行ってしまったことだけを理解する。
流琉「そう・・・ですか。華琳様っ!もうすぐこの場所も崩れてしまいそうですっ!!戻りましょうっ!!雪蓮様と蓮華様はすでに春蘭様と撤退なされてます。華琳様も早くっ!!」
華琳「ええっ・・・」
華琳は力なく流琉の言葉に答えると、そのまま今まで一刀と対面していた崖に背を向けてその場を後にしていった。
先ほどまで戦場だった場所には、以前と同じような静けさが戻っていた。
しかし、戻っていたのは本当にそれだけである。
以前まであった緑の自然は鉄錆色と血が乾いたどす黒い赤で染められ、さわやかな香りを運んでいた風も今では血生臭さを運んでいる。
空を見上げても蒼天はなく、紫色と黒色の雲がとぐろを巻きながら浮かんでいるだけだった。
そして、華琳は理解した。
我々は負けたのだと・・・
戦においても勝つことはできず・・・
一刀も取り返すことができなかった。
目の前にいたのにもかかわらず・・・
これは、三国の歴史的敗北の物語
第1部 完
あとがき
どうもです。
書く時間を見つけては一行でもと思って書き続け、ついに終わりまで持ってこれました。
ここまで時間をかけながらも続けてこれたのは、応援メッセージを送って頂いた方のお言葉があったからです。
本当にありがとうございました。
次の話から第2部へと突入するわけですが
いつ頃に投稿できるかは分かりません。
しかし、私の気力と体力が続く限りひっそりとでも続けていきたいと考えています。
そこまでお付き合いしていただける方がいれば本当にありがたい限りです。
では、このあたりで失礼いたします。
第1部の感想をコメントでも応援メッセージにでもいただければ幸いです。
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どうもです。
第一部ようやく完結です