No.521090

現代に生きる恋姫達 目指すは恋姫同窓会 一刀の前編

狭乃 狼さん

狼印の現代恋姫、続きましては、恋姫の主人公、我等が一刀でございます。

一刀は恋姫とは言わんだろう、と言う意見はとりあえずおいておいてw

現代に居る、北郷一刀がどんな人物か。そして、どんな半生をここまで送っているか。

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2012-12-21 19:06:12 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:5780   閲覧ユーザー数:4889

 

 現代に生きる恋姫達 一刀の前編

 

 

 容姿、普通。

 成績、普通。

 運動、普通。

 健康、普通。

 これといった取柄も無く、性格だって、自分なりには明るく朗らか、そうであると思っていた。頭のてっぺんから爪先まで、何もかも、いたって凡人な、どこにでも居る人間。それが、自分と言う存在であり、一生、何も目立つ事の無い、地味で普通な人生を送るだけの、ただそれだけの人生を過ごして行くんだと、そう、思っていた。

 だから、“ソレ”が始まった時、理由が全く分からなかった。

 始まりは、中学に上がって間もない頃だった。最初は、下駄箱の靴が知らぬ間に無くなる、その程度の事だった。その次に無くなったのは教科書。そして今度は体操服と。次から次へと、自分の持ち物が何時の間にかなくなってしまう、そんなことのがちょくちょく起きるようになった。

 そして気がつけば、無くなるたびに新調するそれらが、再びまた無くなるという、そんなことが繰り返し起き、決定的になったのは、ある日、珍しく体調を崩して学校を三日ほど休んだ、その、次の登校日。

 

 「……なんだよ、これ」

 

 自分の机の上に、一輪の花の挿された、花瓶が一つ、乗せられて、居た。さらにその机には、これでもかと言うほどびっしりとされた、自分に対する“お悔やみ”の言葉の羅列が。そして、その机を呆然と見下ろす自分の周りからは、くすくすと、声を殺した笑いが聞こえ、その声の方へと視線を転じれば、何事も無かったかのように談笑し会うクラスメイト達の姿。

 

 いじめ。

 

 その言葉が頭をよぎったのは、まさにその瞬間だった。

 何故、と。

 何度も何度も、頭の中に疑問符が浮かんでは消え、こんな事をされる原因を、自分の中に探し始めた。けれど、いくら考えてみた所で、理由らしい理由は一向に思い当たらなかった。

 それからというもの、日増しにエスカレートして行くいじめに、ボクは直接クラスメイト達に問い質したり、喧嘩も辞さない覚悟で詰め寄りもした。けれど、彼らがそれを語ることは当然の様に一切無く、執拗ないじめは、ボクが反発すればするほど、その陰湿さを増していった。

 

 それでも、中学を出るまで、それを耐えさえすれば、このいじめと別れられる、そう思い、ボクはそれ以降、全てに耐える事を選んだ。いじめは、親や教師に言った所で、何の解決にもならない、そう、ものの本で読んだことがあるからだ。下手をすればそれが、さらにエスカレートする原因にもなる、と。

 だから、クラスメイト達と、中学以降はもう会うことの無い、遠くの進学校へと進むため、ボクはただひたすら猛勉強をし、いつしか、学年でトップを取れるほどにまでなっていた。もっとも、それもまたクラスメイト達の反感をかったのだろう。いじめはさらに激しくなり、時には直接、暴力と言う形で行なわれる事もあった。

 教師達も、おそらくはいじめに気づいていた。けど、例の本に書かれていたように、誰も、手を差し伸べてくれなかった。親には元から相談の仕様なんて無い。何故なら、ボクの両親はずっと前に、事故でこの世を去っていたから。

 だからボクの家族は、祖父母と、そして、妹だけ。その妹は、ボクとは違って全寮制の、いわゆるお嬢様学校に通っているから、普段、家で顔を合わせるのは祖父母だけなのだけど、その祖父母はとても厳格で昔かたぎな人たちだから、いじめの事を相談した所で、『お前に弱いところがあるからいじめられるのだ』、そう言われて突き放されるのは目に見えていた。

 ……もっとも、これは後で知ったことなのだけど、ボクに対するいじめが行なわれていた事を知った祖父母は、その時の学校の担任、クラスメイトとその親、その全てを呼び出して一同に会させ、その全員が泣いて許しを請うまで、何時間も説教し続けたという。……それを聞いた時、ボクは誰憚る事無く泣きじゃくった。

 勿論、自分の思慮の無さに対する情けなさと、それほどまでにボクを愛してくれていると知った、祖父母のその深い想いに対してだ。

 

 ……話を少し戻すけど。

 

 猛勉強の成果あってか、ボクは晴れて、第一志望にしていた名門校に、見事合格。今度こそ、いじめの無い平凡な学生生活を送れるようになった。

 

 ……なった、はずだった。

 

 

 

 名門には名門なりのプライドがあり、そこから生まれるのは矮小な仲間意識の集まった派閥。そういう中に、外から来た名門でもなんでもない一平民は、格好の獲物だったようだ。

 つまり、ストレスの捌け口。それが、高校でも変わらぬ、ボクの立場だった。教師も生徒もすべてが加害者となり、ただ一人の被害者となったボクに何も抗う術はなく。中学時代よりも苛烈さと陰湿さを増したいじめは、僕の心を少しづつ、少しづつ、どす黒い闇が侵食して行った。

 このままではいつか、ボクは誰かを傷つけてしまう。闇に犯された心に、抗う術を見出せなければ、いつか、償いがたい罪を犯してしまうかもしれないほどに。

 

 けれど、そんなボクが、なんとかその“最後の一線”を越えずにいられたのは、とあるゲーム、それとの出会いのおかげだった。

 

 『恋姫†夢想』

 

 本来は成人向け用のゲームだけど、一般用に修正されたそれもあり、ボクがやったのはそちらの方。基の話が三国志という、歴史が大好きなボクにはうってつけのそれを、寝る間も惜しんでプレイした。そう、いやな現実から逃げるように、そのゲームの中で、可憐な少女と化した三国志の英傑たちと日々を過ごし、戦乱の世を駆けていく。

 それから後に発表されたタイトル、『真・恋姫†夢想』も、同様に夢中になって進めた。それこそ本当に、何度も何度も、物語のシナリオ、それをすべて暗記できるほどに。

 この、恋姫†夢想、主人公は『北郷一刀』という、現代世界の一学生で、ある日突然にかの世界へと導かれ、初代の恋姫、つまり無印では劉備の役を務め、真の世界では、蜀・魏・呉、その何れかの勢力に拾われる、そんな風な出だしで始まっていくわけだが、一つ、このゲームを始めて知った時点で、ちょっとだけびっくりしたことがあった。

 件の主人公、北郷一刀の名前と、自分の、ボクの名前がとても似通っていることだ。

 

 『北郷(きたざと) 一登(かずと)

 

 それが、ボクの名前。苗字は読みが違うだけで、字はまったく一緒。下の名前は、読みこそ一緒だがこちらは字が違う。

 顔は正直似ていない。あんな、ゲームの中で種馬とか言われ、出てくる女の子みんなに好かれるような、そんな魅力なんてどこにもない。似てるのは腕っ節の無さと背格好ぐらいで、彼の様に芯のしっかり通った心の強さなんか微塵も無い。

 けど。

 それでも、ゲームをプレイしている最中だけは、あの世界に意識だけを飛ばしている間だけは、『キタザトカズト』は『ホンゴウカズト』でいられる。出来うるならば本当に、彼の様にあの世界へと行って、彼女らと、五十数人からなる恋姫たちと過ごしたかった。

 でも、現実は容赦無かった。

 

 高三の春。

 

 現実での、学校におけるいじめは、相も変わらず続けられ。そして、その日がやって来た。いつもの様に屋上に呼び出され、フェンスの間際であれこれとされていたその時、不意に、ボクの背中が触れているフェンスが、みしり、と、そんな音を立て、そして気がつけば、ボクははるか地面へと落下し、薄れ行く意識の中、青い空と白い雲へと、この手を伸ばしていた。

 想うことは唯一つ。

 憎しみでも恨みでも無く、『あの世界』への、思慕の念。ただ、それだけを強く想い、ボクは、その意識を閉じた……。

 

 

 

 夢を、見ていた。

 

 永い永い、夢を。

 

 いや、夢だったのかどうか。

 

 それですら、定かではない。

 

 気がついたとき、ボクは、あの世界に居て、そして、北郷一刀になっていた。

 

 死んで、生まれ変わりでもしたのだろうか。

 

 それとも、ただ、願望が生み出しただけの、夢の世界に居るのだろうか。

 

 けれど、その時ボクは、確かに、そこに居た。

 

 幾人もの少女たちと。

 

 時に語らい、時に笑い。

 

 時に泣き、時に戦い。

 

 出会いと別れを繰り返し。

 

 永いような、短いような、そんな時を、三度、いや、四度、いや、五度、“ボク”は、“俺”は、繰り返した。

 

 桃色の髪をした、元気な、どこまでも朗らかで、けれどとても強かった少女。

 

 金色の髪をした、覇気あふれる王、けれど本当は孤独で寂しかった少女。

 

 薄紅色の髪をした、気丈な、けれど、どこか脆さをも抱えた、優しい少女。 

 

 そんな少女たちと、ある時は仲間となり、ある時は敵となり。

 

 そして、あらゆる垣根を越えた世界で、最後は皆と共に過ごし。

 

 ボクは、俺は、意識を、覚醒させた。

 

 

 

 夢とも現ともつかない世界から、けれど、確かに体感したあの世界から、俺は、また、この現実の世界に戻って来た。意識が戻って最初に目にしたのは、真っ白な天井の色。聞こえたのは、心電図を表す機械の無機質な音。感じられたのは、腕に刺された点滴の針。

 

 「……夢を、見てたよ……」

 

 最初に発したその言葉は、相当に慌てて駆けつけたのであろう、息を切らして“俺”の顔を覗き込む、祖父母と妹の、泣きじゃくる顔に向けたものだった。

 あの日。学校の屋上から落ちた俺は、およそ三年もの間、意識不明の昏睡状態だったらしい。植物人間、あるいは脳死、それも覚悟するように、家族はそう、医者から言われていたという。

 

 それから数ヵ月後、リハビリが終わり、病院を退院した俺は、まず第一に、休学扱いになっていた学校を、正式に中退した。そして、実家のある九州は鹿児島へと戻り、予備校に通いつつ、大学検定を受けるために一心不乱に勉強し、そして、翌年の春、22歳になったその年に、俺は東京にある大学に見事合格した。

 そうして再び上京し、再び一人暮らしを始めた俺は、信じられない出会いを体験することになった。

 

 「えーっと、確かこの辺り……あ、あったあった」

 

 仕送りばかりに頼っていては男が廃るとばかりに、俺は大学に入ってすぐ、アルバイトを探し始めた。とは言えこのご時勢、早々都合よく見つかるわけも無く、結局、仕送りだけを頼りに細々とした生活が、その後半年以上も続いた。そして、暮れも押し迫ろうかと言う十二月の半ば頃。ちょうど欠員が出たばかりというところが、やっとの事で運良く見つかり、今日からそこでのバイトへの初出勤になった。

 もう、今ではいろんな意味で全世界に知られている、この、都内にあるとある街の一角で、壮年の男性が切り盛りする小さな喫茶店。そこでのウェイターが、俺の人生初の仕事となる。

 

 「おはようございまーす」

 「ああ、おはようさん。今日からよろしく頼むよ」

 「はい!こちらこそ、よろしくお願いします!」

 「ん。元気があってよろしい。若人はそうでなくちゃな。じゃ、早速奥で着替えてくれ。服はテーブルの上においてあるから」

 「はい!」

 

 そうして始まった初仕事を、不慣れながらもなんとかこなし、大学一年目の年を日々、勉強と労働とに勤しむ俺。ちなみに、自分の一人称が“ボク”から”俺”に変わっている事に自分で気がついたのは、九州の実家に帰って妹に指摘されてからだ。多分、あの夢の中で、“俺”はずっと、“彼”となって居たそのせい、何だと思う。

 話を元に戻すが。

 そんな、学校とバイトを繰り返す日々を送っていた、とある日。いつもの様に、講義が終わったあとバイトに出ていた俺が、マスターの作る賄いに舌鼓をうっていた時、その彼女はやってきたんだ。

 

 《りりりん》

 

 「あ、いらっしゃいませー!」

 

 扉に仕掛けられた、来客を知らせるベルの音。それが鳴ったのが聞こえた俺は、何時も通り、元気いっぱいに歓迎の挨拶を、扉のほうへと顔と体を向けてした。そして、そこに居た一人の少女を見た瞬間、俺は、馬鹿みたいに大口を開けて、完全に固まってしまった。

 

 

 

 「……え」

 

 そこに居たのは、ショートカットの茶色の髪をした、全体的に小柄な、ネコミミ付フードの着いたパーカーを羽織る、近所にある電気店、そこの制服を着た少女、だった。そしてその顔は、あの三年間の間に見た夢の中で、なんどもなんども、言葉を交わしたその少女と、瓜二つすぎていた。

 

 「……うそ……だろ」

 「……?ちょっと、そこのウェイター。ナニ、人の顔をじっと見てんのよ?」

 「……」

 「……ちょっと!聞いてるのあんた?!ナニ私たちの顔をじっと見てるのって、そう聞いてるでしょ?!そんな、金魚か何かみたいに口をパクパクとばっかりさせてないで、なんか言ったらどうな……あ、れ……?」

 

 むん、と。腰に手を当て、茶髪の少女が俺にそんな言葉を向けてくる。敵意むき出しの、そんな分かりやすい感情を込めて。けど、俺の割と近くまで詰め寄ってきた彼女は、俺の目を正面から見るなり、何か、信じられないものを見た、そんな表情へと、その顔を変化させた。

 

 「……け……」

 「……あ、んた……」

 「おや、桂花じゃないか。なんだ、今日はウチで休憩か?」

 「けいふぁ……?」

 

 ちょっと待った。今マスター、この子の名前、たしかに、けいふぁ、って言ったよな?日本人で、そんな読み方の名前なんて、普通、ありえない……よな?……偶然、なのか?あのゲームに出てきた彼女と、同じ名前と、そして、この、あまりにも似通いすぎた容姿は。

 

 「え、あ、ああ、まあ、うん。……ね、この人、誰?」

 「あれ、言ってなかったか?ちょっと前にバイト、新しいのを雇うって言っていたの。彼がそうだよ。北郷一登くんだ」

 「きたざと、かずと……?」 

 「あ、えと、はい、北郷、です。北に“さと”って読むほうの郷で北郷。数字の一に」

 「……まさか、“と”の字は……刀……だったりする?」

 「っ!……いや、登るって字を書く……いや、書きます。あの、マスター?この子は」

 「ああ、俺の姪っ子でな。田舎にいる兄貴の所からこっちに出てきてるのさ。たまにこうして、ここでただ飯を食いにくるんだよ」

 

 そんなマスターの言葉も、俺の耳には半分ほども聞こえていればいい方だった。今、彼女は俺の名前の字を、あの世界の、あの彼の名前と同じではないか、そう、聞いてきたんだ。それは、俺に一つの可能性を思い浮かべさせた。

 けど、それは“ありえない”。

 そう、普通ならそんなこと、常識的に考えたら、ありえるはずがない。そんな、そんなことが。

 

 「……ちょっと。人聞きの悪いこと言わないでくれる、おじさん。ちゃんとご飯代は払ってるでしょ?お手伝い、という名の無償労働プラス、おじさんの家の家事もろもろで。ったく、そんな風にだらしないから、未だに独り者なんじゃない。父さん、嘆いていたわよ?わが弟ながら何でそうモテないんだ、って」

 「……余計なお世話だ。兄貴のやろう……今度会ったら」

 「会ったら確実に、二時間のお説教コースね」

 「……」

 

 そんな彼女のそっけない反応に、マスターはがっくりと肩を落として、すごすごと奥へと引っ込んでいった。そのマスターの姿が完全に見えなくなった後、俺は意を決し、その子にそれを問いた。頭のおかしい、イカレタやつ、そう思われるのは覚悟のうえで。

 そう。今聞かなければ、今、そのことを確かめなければ、俺はこの先一生後悔する、そう、直感したから。

 

 「あ、あの、けいふぁ、さん」

 「ん?ああ、あんた居たんだっけ。……で、あに?」

 「う。言葉にどこかトゲトゲさが……いや、その、なんていうか……これから言うこと、違ってたら、全力で忘れてくれてかまわないんだけど……」

 「なによ、煮え切らないわね。言いたいことがあるんならはっきり言いなさいよ」

 

 視線と言葉がすさまじくキツイ。これは、もう、確信になった、な。……あの夢の中で、魏に降り立ったときに出会った、ネコミミのフード付パーカーをいつも身に着けていた、あの天邪鬼な、いじっぱりの……まあ本心だった可能性のが高いけど、いつも、素直じゃ無かったあの少女。

 彼女は……。

  

 「……桂、花……だろ?」

 「っ?!あ、あんた……」

 「桂花、なんだ、ろ……?曹魏筆頭軍師の、荀彧文若だった、桂花……なんだよな?」

 「……ほん、ごう……?あ、あんた、北郷……なの?え?え?でも、え?だって、その顔、私の知ってる、北郷とは」

 「本当に、本当に、桂花、なんだな?ゲームの中の、あの、恋姫†夢想の中に、三国志に似た外史の中に居た、桂花……なんだよな?」

 「……そ、んな……ど、して……」

 

 よろ、と。彼女は、桂花は、俺の言葉を耳にすると、力なく、ふらふらと壁にその背をもたれかけさせ、驚愕に見開かれたその瞳で、まっすぐ、俺のことを見つめている。

 

 「あんたが、本当に、本当に、あの、北郷、なの……?でも、顔も、背も、髪型も、何もかも違……」

 「それ、は」

 

 確かに、今の俺は、あの、北郷一刀の姿ではない。

 顔は全体に丸みをおびていて、どちらかといえば、北郷一刀のソレよりも童顔の部類に入る。眉も細く、鼻も口も、あの一刀の姿のソレとは、わずかに違っている。同じなのは、あえてソレと同じにした髪形ぐらいで、背も、今の桂花よりほんの少しだけ高いという程度でしかない。

 それが俺本来の、この現実での、北郷一登という人間の、生まれ持った姿なのだ。

 

 「……でも」

 「?」

 「……あんたの瞳。その、目の光……優しい、春の太陽みたいな、暖かい目、その、心地良い声は」

    

 ふらふらと。もたれ掛かっていた壁から離れ、桂花が俺に再び近寄ってくる。あの世界では、一緒の空気すら吸いたくないと言っていた、あの桂花が、今にも、俺に抱きつかんとするばかりの至近距離で、少し上、彼女の視線より10cmほど上にある俺の顔を見上げ、そして、その両の腕を、俺の腰にまわした。

  

 「分かる……あんたは、北郷だわ……私は、分かる、覚えて、る。この感覚、あんたに、あの世界で抱かれた時の、あの暖かさだ……。顔も、体格も、何一つ違っているけど、この、木漏れ日みたいな、お日様の匂いみたいな、優しい感じ……北ご……かず、と……っ!」

 「桂花……っ」

 

 それは、その年の十二月。日付は、二十四日。

 そう。

 まるで良く出来たドラマの様に、クリスマスイブのその日に起こった、小さな、それで居て、とても大きな奇跡だった……。

 

 ~後編に続く~

 

 

 現代に生きる恋姫達、今回はその一刀編、前編をお送りしました。

 

 

 え?なに?一刀は恋姫じゃあないだろうって?

 

 

 細かい事は気にすんなwww

 

 それにやはり、恋姫を語るときには、彼を外しては語れないでしょう。

 

 実を言うと、このネタを始められたMiTi氏の作品、それで、一刀の登場はどうするか、そんなアンケートがなされたとき、私めは『一刀=カズト』だったら、そういう展開大好きなんだがな、そう思いました。

 

 しかし、アンケートの結果を鑑みたMiTi氏の結論により、一刀=カズトは否定される事になりました。

 

 ならば、と。

 

 一刀は一刀で出さないと、やっぱり物足りないと思ったため、彼の話を私めが書かせていただくことになりました。

 

 さて、その一刀、ですが。

 

 現代と言うか、現実世界ではなんと、何のとりえも無い、しかも、相当に酷いいじめを受けている、そんな人物でした。しかも、そのいじめの最中に、屋上から事故によって落ち、あげく生死の境を三年もさまようことに。

 

 その、生死の世界を彷徨った間に、実は、北郷一刀としてあの世界に行っていて、皆と交流を持ち、さらに、無印、蜀、魏、呉、漢、果てには萌将伝の世界まで、その全てを体験してしまっていた、そんな体験をしていたのです。

 

 もちろん、各ルートを渡るごとに記憶は無くなり、改めて各ルートを体験しています。でないと、強くてニューゲーム的なことになりますから、世界の修正力か何かが働いた結果でしょう。

 

 さて、次回の後編では、一刀というか一登は、カズトや華琳、そして、朱里たちとの邂逅を果たします。果たして、その時のみなの反応は?特に、朱里、雛里、そして星の三人は、桂花の様に、一登を一刀として認識出来るのでしょうか?

 そして出来たとして、その時、彼女らはどう思うのか?出来なかった時、その時はいったい、一登は、どうなるのか?

 

 では、次の後編、どうぞ、お楽しみにお待ちください。

 

 あ、最期に一言。

 

 

 いじめ、かっこ悪い。駄目、絶対。

 

 

 では再見w


 
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