No.520353

SAO~菖蒲の瞳~ 第十八話

bambambooさん

十八話目更新です。

もうすぐSAOは最終回ですね。

嬉しいような、寂しいような、何とも言えない気持ちです。

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2012-12-19 16:28:51 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1259   閲覧ユーザー数:1204

 

第十八話 ~ 強化詐欺・事件編 ~

 

 

【アスナside】

 

儚く澄んだ音を街中に響かせ、私の《ウインドフルーレ》は文字通り跡形も無く砕け散った。

 

その光景を、私は認められなかった。否、認めたくなかった。

 

このウインドフルーレは、第一層ボス戦の前にキリト君が「こっちの方が使いやすいよ」と言って私にくれたものだ。

 

NPCショップに当たり前に売っている細剣だけど、私にとっては代えの効かない特別なものだった。

 

だった、のに……。

 

「ご…ごめんなさい!」

 

鍛冶師―――ネズハさんが、飛び跳ねるように立ち上がって頭を下げた。

 

「あ、あの! 代金はお返しします! あと、代わりと言っては何ですけどこの……」

 

「……いらない」

 

鍛冶屋さんの言葉に、私は無意識に返していた。

 

あの剣の代わりなんて、この世界のどこを探したって無いのだから。

 

「アスナさん……」

 

シリカちゃんが、私の両手を握りしめて心配そうな顔で私を覗き込んだ。

 

私は「大丈夫」と伝えたけれど、シリカちゃんはよりいっそう心配そうに顔をしかめた。

 

「で、ですけど……」

 

「彼女がそう言っているんです。察してあげて下さい」

 

なおも食い下がってくるネズハさんに向かって、アヤメさんが制止をかけた。

 

ネズハさんは心底申し訳無さそうな顔をしながらも、素直に聞き入れてくれた。

 

「その代わり、一つ教えてくれないか?」

 

今まで黙っていたキリト君が口を開いた。

 

「前にも、こんなことがあったか?」

 

「……いえ、これが初めてです。聞いたことすらないですから……」

 

「初めて、か……。あ、いや、ベータテストの時にはこんなこと無かったから」

 

「もしかしたら、新しく導入された強化失敗ペナルティかもしれません」

 

そうだとしたら、今日の私はどれだけ運が悪かったのだろうか。

 

強化成功率95%まで出しておきながら、最も確率の低いだろうペナルティを引き当ててしまったのだから。それも、初めてで。

 

「いや、それは無いですよ」

 

と、アヤメさんがその意見を否定した。

 

「前に他の鍛冶屋にも同じことを聞いたんですけど、その人は《無い》と答えました。《鍛冶》スキルの説明文も読み返していたので確かだと」

 

「でも、《隠しペナルティ》なんてことは……?」

 

「そう言われると、答えようもないですけど……」

 

黙りこくるアヤメさん。どうやら、完全に行き詰ったようだ。

 

それでも、キリト君とアヤメさんはこの謎を解こうと頭をフル回転させていた。

 

「……あの、私は大丈夫だから。また、一からやり直せばいいんだしね」

 

二人に迷惑をかけたくないと思った私は、出来る限りの笑顔を作って二人に言ったあと、直ぐに振り返って鍛冶屋を後にした。

 

シリカちゃんは、私の手をずっと握っていた。

 

 

【キリトside】

 

遠ざかるアスナの背中を見つめながら、俺は呆然と突っ立っていた。

 

「あの…僕も、今日はこれで終わりにしようと思います」

 

「そうですか。分かりました」

 

「……はい。では、失礼します」

 

申し訳無さそうに眉をハの字にして言うネズハが床に敷いていたカーペットをタップすると、カーペットがクルクルと勝手に巻き上がり、その上にあった商品や道具を飲み込んで筒状になった。

 

確か、このカーペットは《ベンダーズカーペット》だったと思う。

 

ネズハはそれを肩に担ぐと、もう一度俺たちに頭を下げてそそくさと帰って行った。

 

「キリト、やっぱり隠しペナルティなんだろうか?」

 

「う…ん」

 

アヤメの問いに、俺は曖昧な返事で返した。

 

正直なところ、俺にはそれ以外の可能性は思い浮かばない。

 

しかし、さっきから首筋に感じるチリチリとした感覚が、これはただ事ではないと告げていた。

 

それに、ウインドフルーレのように儚く砕け散ってしまいそうなアスナを思い出すと、どうしても《システムだから》と割り切って納得することが出来なかった。

 

「……いや、まさかな」

 

「アヤメ?」

 

突然、何かを振り払うかのようにアヤメが頭を横に振った。

 

その表情は、《信じたくない》と言っているようだった。

 

「何か思いついたのか?」

 

「いや、可能性としてあるんじゃないかってだけなんだが……そもそもこんな状況でやるとも思えないし……」

 

言いたいことは、良いことも悪いこともズバズバ言ってくるアヤメにしては珍しく口ごもっていた。

 

「教えてくれ」

 

アヤメの目を真っ直ぐに見て言うと、アヤメも意を決したように口を開いた。

 

「……《強化詐欺》なんてことは無いか?」

 

その言葉に、俺は一瞬耳を疑った。

 

それと同時に、首筋のチリチリした感覚に納得できた。

 

「何とも言えない。けど、そうであって欲しいかな」

 

何故なら、そうだとしたらアスナのウインドフルーレは今、ネズハのアイテムストレージの中と言うことになる。

 

それなら、まだ取り返す手段が残っているからだ。

 

「早速アスナに―――」

 

「辞めろ」

 

今すぐアスナの元に駆け出そうとする俺を、アヤメは引きとめた。

 

「なんで!」と怒鳴りながら振り返ると、目の前に中指を親指で抑え込み力を蓄えているアヤメの手が映った。

 

そして俺がそれを認識した瞬間、中指が弾かれ、アヤメのデコピンは俺の額にクリーンヒットした。

 

「あまり急ぎ過ぎるな。確証も無いのにそんなことアスナに言って、もし間違えてたらどうする? それこそ可哀相だろ」

 

「あ……そうか。ありがと、アヤメ」

 

自分の早急すぎる考えに、少し恥ずかしさを覚える。

 

「どう致しまして。さてと、それじゃあ調査を開始しするか」

 

「ああ。……っても、どうする?」

 

「キリトはネズハの後を追ってくれ。勘だけど、あれだけ申し訳なさそうな顔をしてたんだから自ら進んでやっていた訳じゃないだろう。だったら、脅すなりなんなりで裏で手を引いてるヤツが居るはずだからな」

 

「可能なら、それを取り押さえればいいんだな?」

 

「いいや。それで人でも呼ばれたら今度はキリトが強盗犯扱いされる。なにせ証拠も無いんだからな。だから、キリトは《強化詐欺》かどうかをハッキリさせたらそれでいい」

 

「ん……分かった」

 

「無理するなよ」

 

心配を含ませた声色でアヤメは言った。

 

「大丈夫だって。アヤメはどうするんだ?」

 

「鍛冶屋に聞きに行く」

 

簡潔に自分のやることを述べたアヤメは、身を翻して転移門広場に向かって走り出した。

 

「アヤメも大分急いでるな……」

 

もう既に見えなくなったアヤメに向かって苦笑する。

 

その後、俺はメニューから《索敵》スキルを発動させてネズハの歩いて行った方に移動を始めた。

 

 

【アヤメside】

 

《ウルバス》から転移門を潜り抜けた俺は、《はじまりの街》にやって来た。

 

俺が第一層に戻って来た理由は、友達の鍛冶師リズベットに、過去に一度強化失敗ペナルティで《武器消滅》が発生したかどうかを確認するためだ。

 

リズベットは今、《鍛冶》スキルの熟練度を上げるためにひたすら剣を叩いて鍛えている。

 

その本数は、多分他の鍛冶屋よりも頭一つ分飛び抜けていると思う。

 

そんな彼女なら、言っちゃなんだがそれ相応のペナルティを出しているはずと考えたからだ。

 

はじまりの街には特に用の無い俺は、直ぐにフィールドに出て北東に向って駆け出した。

 

途中にある湖沼地帯の泥に足を取られそうになり、エンカウントしたモンスターはガン無視しながら約八キロ駆け抜けた俺は、切り立った絶壁に沿うように造られた炭鉱の街《ミータル》にたどり着いた。

 

《ミータル》は装飾を省いたシンプルな石造りの建物が並ぶ街で、どことなくウルバスに似ている。

 

最も違うところは、街の最奥に《ミータル採石洞窟》という名前の洞窟があるところだ。

 

この洞窟は、第一層で最も多く金属素材(インゴット)を獲得できる場所であり、それなりに強いモンスターも出現することからかなりの数のプレイヤーが拠点とし、それを求めて今よりもさらに数の少なかった鍛冶師が集まった街でもある。

 

今ではそのほとんどが第二層のウルバスやその次の街であるマロメに移動しているため、人影は限りなくゼロに近い。

 

しかし、完全にゼロという訳ではなく、未だにこの街に居続ける物好きなプレイヤーも何人かいた。

 

その内の一人が、俺が今から会いに行こうとしているリズベットだ。

 

俺はミータルに入ると、そのまま真っ直ぐ進んで洞窟の直ぐ前にある広場に向かった。

 

現在時刻は八時前なので、まだ宿には帰っていないはず。

 

広場を見渡せば案の定、いつもの場所で熱心にハンマーを振るう地味な革エプロンを装備した少女がいた。

 

いつもなら話しかけるときに少しからかうのだが、今はそれどころでは無いので作業中に悪いと思いながらもリズベットに声を掛けた。

 

「リズベット」

 

俺の声を聞くと、リズベットはその手を止めてこちらに振り向いた。

 

……少し、怪訝そうな顔をしながら。

 

「何だその顔は……?」

 

「いや、アンタなら私の名前呼ぶ前に絶対からかってくるから……」

 

自業自得とは分かっているが、真っ向から言われると少しショックだ。

 

「今はそれどころじゃないんだ」

 

マイナスの思考を振り払いながら、俺はリズベットの目を見て言った。

 

そんな俺の様子を察してか、リズベットは「ちょっと待ってて」と言って中断した強化を急ピッチで終わらせた。

 

因みに、その強化は成功した。

 

「で、なんのよう? 最後の強化……って訳じゃないわね?」

 

リズベットは強化した剣をストレージに仕舞うと、椅子に座りなおして聞いて来た。

 

彼女の察しの良さに感謝しつつ、俺は調査を開始した。

 

「ああ、一つ聞きたいことがある。強化失敗ペナルティで《武器消滅》は無いよな?」

 

単刀直入に尋ねると、リズベットは真面目な顔を崩し疑問符を浮かべながら答えた。

 

「無いわよ?」

 

「じゃあ、今まで引き起こしたことは?」

 

「無いわ」

 

「起こったという噂を聞いたことは?」

 

「それも無い」

 

立て続けの質問に、リズベットはめんどくさそうな目を俺に向けてきた。

 

「そんなことを聞きに来たの? 前にも言ったけど、武器消滅なんてペナルティは武器強化のシステムには存在してない。仮にあったとしても、もう千本近く剣を打った私が引き起こしてない訳無いでしょ」

 

「それは自慢げに言うことか」とか、「《千本近く》と言うのはいささか多過ぎるのでは無いか」という突っ込みが出そうになったが、飲み込むことに成功した。

 

それはまあともかく、後者は置いといて、自信満々に宣言するからに前者は事実なのだろう。

 

確証は無いが、《蛇の道は蛇》とも言うので《鍛冶屋(同業者)》であるリズベットが言った言葉は信用出来る。

 

彼女が嘘をつくとは思えないしな。

 

「ねえ、どうしてまたそんなこと聞いて来たのよ?」

 

「……ん」

 

頭の中で情報を整理していると、リズベットが話し掛けてきた。

 

反応しきれなかった俺は、返事なのかも怪しい曖昧な返事をした。

 

「聞いてた?」

 

俺の反応が不満だったのか、リズベットはジト目で俺を睨みつけてくる。

 

「聞いていた。なんでこんなことを聞いたのかと言うとな――――――」

 

誤魔化すように、俺はリズベットについ先ほど起こった現象についての説明をした。

 

ウインドフルーレが砕けた瞬間の話になると、リズベットは目を見開いて驚愕していた。

 

「……強化で武器が壊れた、ね……」

 

煤が付着する革手袋を装備したままの右手を顎に当てて、リズベットはぼんやりと呟いた。

 

「だから、俺は本当に武器消滅のペナルティが無いのかリズベットに確認しに来た訳だ」

 

「ふ~ん……」

 

考えに耽るリズベットは気の抜けたような声で返事をした。

 

「リズベット?」

 

「―――思い出した!」

 

と、俺がリズベットに呼び掛けた瞬間、彼女は勢い良く立ち上がった。

 

そして、物凄くいいドヤ顔を俺に向けて言った。

 

「一つだけ強化で武器が消滅するときがあるのよ」

 

………はあ?

 

「マジか?」

 

「マジよ。てか、アンタもそんな顔するときあるのね~」

 

予想外の言葉に呆けた顔をしながらリズベットの顔を見つめていると、彼女はニヤニヤ笑いながらしてやったりと言った表情で俺を見返してきた。

 

ちょっとイラっときた俺は、呆けた表情を見られた気恥ずかしさを誤魔化すためも含めて、「とりあえず、その顎ヒゲみたいについた煤は落した方がいいぞ」とハンカチを差し出して言った。

 

 

オリジナル設定

《ミータル》

・炭鉱が盛んな街

・街の最奥に《ミータル採石洞窟》と呼ばれる金属素材が取れる洞窟がある。

 

 

【あとがき】

 

以上、十八話でした。皆さん如何でしたでしょうか?

 

キリト君の調査、及びアヤメ君とキリト君が奔走しているときのアスナさんとシリカちゃんはまた次回です。

 

今回は《事件編》と称してますけど、どう考えても《調査編》ですよね。

でも、細かいことは気にしないでくださいお願いします。

 

次回は《疑問編》です。これまた深い意味はありません。フィールドボスの話はそのまた後になると思います。

 

それでは皆さんまた次回!

 


 
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