タカト・ブラックバーンは焦っていた。
発端は半月ほど前。彼は、友人のカナコ・ホワイトフォーンに、彼の恋人のユキヨ・ムーンドロップがクリスマスプレゼントに欲しい物を調べて欲しいと頼んだ。その礼として、カナコが思いを寄せる、怪盗ノワールの欲しい物を調べると約束してしまったのだ。
だが。
「ノワールの居場所なんて知らねえよーっ!!」
ガリガリと頭をかきむしるタカト。
「オレのバカ! ウカツ!」
もちろん、借りを返すという意識もある。だが、カナコはタカトのよき友人だ。友人の力になりたいと思って、彼はそう申し出たのだ。
クリスマスまで1週間を切っている。彼一人の力では手詰まりのようだ。
「しょうがない。アイツに力を借りるか…」
「え? ノワールさんを呼び出したいの?」
「頼む! 訳は聞かないでくれ!」
土下座しそうな勢いで、タカトは頼み込んだ。
相手はミク・デハヴィランド。またの名をシャイニングバニーという。
実は彼女は、トリッカーズの中でも随一のハッキングの腕を持つのだ。「機械オンチ」というのは正体を隠すための欺瞞である。
「うーん、じゃあ、とりあえずラミナシティ中のテレビ局のシステムに侵入して、テレビ画面にメッセージ流してみるね」
さり気なくとんでもないことを言う。それだけの事をあっさりやってのけるのだ。
「お、おう。頼む」
かくして、ラミナ市中のテレビの画面に、
「果たし状:怪盗ノワールに次ぐ。今夜22:00、9to10の屋上にて待つ。怪盗ルプス」
の文字が踊った。
身を切るような寒風が吹き抜ける。強化スーツを着ていても、寒さで身体がちぎれそうだ。
ガチガチ歯を鳴らしながら、タカト…怪盗ルプスは相手を待っていた。
「さびーっ! 早く現れろよ!」
と。
バサッ…!
夜色のマントを翻し、その男は現れた。まるで舞踏会で華麗なダンスを踊るように、優雅に一礼してみせる。
「こんばんは。怪盗ルプス君」
「ややややい、現れやがったなかかか怪盗ノワール!」
ルプスは寒さでろれつが回っていない。
「それで? 私と勝負したいのかな?」
「しょしょしょ勝負したいんじゃねえ! てめえに聞きたいことがあるんだ!」
「ほう?」
ノワールの表情がわずかに変わる。この状況を面白がっている。
「てめえ、今何か欲しい物ってあるのか!?」
「そうだな…欲しい物は自分で手に入れる。今までもそうしてきたのだが…」
ノワールは耳を済ませた。
9to10ビルの遥か下の地上から、サイレンの音が聞こえてくる。すぐに、ここに警察が踏み込んでくるだろう。あれだけ大々的に宣伝したのだから、こうなるのは当然だった。
「これは独り言だ。このマント、擦り切れてきたからそろそろ新しいのが欲しいな…」
「マントだな!? わかった! サンキュ!!」
とぼけたようにノワールが答える。
「なぜ礼を言うんだね? ともあれ…」
ドヤドヤと大勢がこちらへ向かってくる足音。
「怪盗ノワール! ついでに怪盗ルプス! あなた達は完全に包囲されている! おとなしく投降しなさい!」
メガホンで叫ぶのは、ノワールの天敵、シーナ・ヴァイス警視だ。その言葉のとおり、警官隊が怪盗2人の周りを取り囲み、蟻の這い出る隙間もない。
だが。
「さて、そろそろ私はおいとまするよ」
「オレも帰るぜ。聞く事聞いたし」
ノワールとルプスは、全く慌てた様子もない。
「かかれーッ!!」
ヴァイス警視の号令一下、警官隊が二人に一気に飛びかかった。
その瞬間!
カッ!!
「うわっ!?」
目もくらむような閃光がはじけた。ノワールが閃光手榴弾(フラッシュグレネード)を地面に投げたのだ。
「ぐわーっ!?」
警官たちが悲鳴を上げる。夜目になれたところにこの強烈な閃光だ。数十秒は全く何も見えない。
そして、警官隊の視力が回復した時には、二人の怪盗の姿は消えていた。
「また逃したか…! キィーッ!! 覚えてらっしゃい怪盗ノワール! あとついでに怪盗ルプスーっ!!」
ヴァイス警視の金切り声が冬の夜空に吸い込まれていった。
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タカトが怪盗ノワールに欲しい物を聞き出すようです
(敬称略)
タカト http://www.tinami.com/view/388370
怪盗ルプス http://www.tinami.com/view/386804
ユキヨ http://www.tinami.com/view/388362
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