雲は空を覆い、冬の到来を告げるかの様に雪が降っていた。じゃっかん薄暗いが、そこまで気にするほどでもない。
「…………」
黒コートを着こんだ士樹はACE学園高等部の校門近くの壁にもたれていた。アインハルトに誘われ、ピクニックのために待ち合わせをしているのだ。
無表情が多い彼女にしては勢いが強かったので戸惑いもあったが、断る理由も無いのでOKした。軽く目をつぶっていると、ケープコートを着たアインハルトが両手にバスケットを持って近づいていった。
それに気づいた士樹はにっこりと微笑む。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません」
「気にしなくていいよ。僕もさっき来たばかりだしね」
士樹はさりげなく車道側に立ち、アインハルトが持っていたバスケットを自分の左手で持つ。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
★★★★★
高等部から1時間ほど歩き、2人は平原に着いた。本来、緑豊かな土地だが、季節が冬であるために草や木の葉の類いは見えない。
その代わり、雪が降り積もり、辺り一面に白銀の世界を形成していた。
「綺麗な雪景色ですね」
「ああ」
普段はお目にかかれない雪景色を目に焼きつけ、その感触を一歩一歩踏み締めながら歩いていく。
「うわっ!?」
雪で隠れていた穴に足を突っ込み、倒れかけたが、アインハルトが素早く支えた。
「危なかったぁ」
「大丈夫ですか、士樹?」
「助かったよ、アインハルト」
士樹はアインハルトに感謝した後、足に怪我が無いことを確認してから再び歩き出した。
程なくして、屋根付きの休憩スペースが見つかった。
「少し早いですが、お昼にしませんか」
「賛成だね。ちょうど小腹がすきかけたところなんだ」
椅子とテーブルの汚れを軽く払い、腰掛けてから士樹がバスケットをテーブルの上に置く。対面に座ったアインハルトが中を開く。
「お、今日はサンドイッチか」
「朝早くに起きて作りました」
アインハルトは何時もと変わらない表情で言いのける。この季節、早起きというのは特に大変だが、この少女にとっては日常茶飯事なので気にしない。士樹は手前にあったタマゴサンドを手に取り、口にする。
「美味い!! 卵が良い具合に半熟になってる!!」
そのまま手に持っていたサンドイッチを一気に頬張った。
「そう言って頂けると、頑張った甲斐が有ります」
アインハルトが優しく微笑む。
「まだまだ有りますから落ち着いて食べてくださいね」
「分かった。お、これは何?」
「豚肉を焼いて挟みました。タレは、中辛と辛口を混ぜて作りました」
「サンドイッチに色はあまり着いてない……事前に漬け込んで余分な水分は着かないようにしたのか」
「どうぞ、召し上がってください」
士樹は手に取った新たなサンドイッチを口元に持っていく。
「良い塩加減と焼き加減だね」
2人が賑やかに昼食を取っていると、上から薄い青色の光がたくさん降ってきた。上を見ると、氷属性のエレメントや精霊系のモンスターが周囲を取り囲むように動いていた。
「敵意は無いようだね」
「これは、私達を祝福してくれているんでしょうか?」
「せっかくの好意だ。素直に受け取っておこうじゃないか」
「えぇ、そうですね」
アインハルトの左手を開くと、小さな光が舞い降り、消えていった。
「今、女の子の間ではある噂が出回っているんですよ。知ってますか?」
士樹は顎に右手を添えて考える。
「ジノに緑葉が何か言ってた気がするけど、覚えてないな」
「冬になると、今のような事が時々起きるみたいです。それに、私達みたいなカップルが遭遇すると、祝福されて円満な生活が約束される」
渇いてきた喉を潤すため、アインハルトは水筒のお茶を飲む。
「噂は、雪原のシャンデリアって呼ばれてます」
(わざわざ冬にピクニックへ行こうって誘ったのはそれが理由か)
基本的におとなしいアインハルトが積極的だった理由に士樹は得心がいった。
「シャンデリアか……。確かにこの光景はそう見えるね」
「愛は種族すら越える……。ロマンチックですね」
「ああ、そうだな」
士樹はアインハルトへキスをし、座り直す。
「これからもよろしく頼むよ、お姫様」
「こちらこそよろしくお願いします」
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