No.519133

真・恋姫†無双 異伝 「伏龍は再び天高く舞う」外史動乱編ノ十五


 お待たせしました!

 新たに加入した紫苑と桔梗の力も合わせて

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2012-12-16 08:28:45 投稿 / 全13ページ    総閲覧数:6528   閲覧ユーザー数:5000

 

「王累、まだ北郷軍は退かんのか?何時までかかるのだ?」

 

 北郷軍が成都を囲んで三日、まったく動きが見られない事に痺れを切らした

 

 劉璋が王累に問いただす。

 

「はっ、北郷軍には既に最後通牒を送っておりますれば…」

 

「ならば早よせい、このような状況では安心して女を抱けんでな」

 

 劉璋はそう言って、太った体を揺すりながら奥へと消える。

 

「ふん、このような時に女の事しか考えられん豚めが…しかし北郷も何時まで

 

 この状況のままでいるのやら。まさか本気で人質を見捨てる気か…」

 

 王累はそう呟きながら自室へ戻ろうとしたその時、慌てて駆け込んでくる兵

 

 の姿があった。

 

「どうした、何をそんなに慌てて…」

 

「王累様に申し上げます!人質が奪還されました!!」

 

「な、何だと!?まさか城内に侵入を許したのか!?」

 

「いえ、城外からの攻撃によるもので…」

 

 そこまで言って言いよどむ兵に王累は訝しげに眉をひそめる。

 

「何をそんなに言いよどむのだ?何か言いづらい事か?」

 

「はっ…そ、それが黄忠様と厳顔様による攻撃でして…」

 

「な、何だと…あやつら、裏切ったというのか!?」

 

 王累はそのまましばらく呆然としていたのであった。

 

 

 

 ~その頃、北郷軍の陣にて~

 

「紫苑、桔梗、良くやってくれた。ありがとう」

 

 俺は二人に深々と頭を下げて礼を言う。

 

「いえ、礼を言われる程の事は…私達の力だけではありませんでしたし」

 

「ああ、皆の力があればこそよな」

 

 二人はそう言って笑いあっていた。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 ~救出作戦の顛末~

 

「北郷軍の者共よ、何時まで返答を待たせるか!もしやこのまま見殺しにする

 

 つもりか!?」

 

 人質の横にいる劉璋軍の将は焦れたように声を張り上げる。

 

 この将は本来なら精々小隊長程度が務まる位の小物なのだが、この一連の戦

 

 で多くの将を失ったので急遽将軍になったような男であった。実際、やって

 

 いる事は王累に言われた事を、疑いも持たずに右から左に行うのが精一杯な

 

 程度であったのである。王累からは『奴らは甘い考えの持ち主故、人質の命

 

 を楯にすればすぐにでも兵を退くに決まっているから、精一杯の大声で脅せ

 

 ば良い』と言われ、その通りにしていたのであるが、三日経っても北郷軍か

 

 らは何の返答も動きも無く、かといって人質に手をかけようものなら自分が

 

 真っ先に北郷軍に殺されるであろう事はさすがにわかっていたので、何一つ

 

 出来ないまま、ただいたずらに日を過ごすだけであったのである。

 

 しかしこのままでは何も進展が無いとでも思ったのか、この将はとんでも

 

 ない事を言いだしたのであった。

 

「今日中に返答無き場合は一刻毎にこの者の指を一本ずつ斬りおとすと心得

 

 よ!」

 

 しかし、その言葉が彼の命を奪う事となった。

 

 

 

「そうさせる訳には行きません!!」

 

 その声と共に一本の矢が放たれ、彼の喉に突き刺さる。

 

「げぇ…」

 

 声にもならない呻きを発し、この将は名も知られる事も無く死んでいた。

 

 その光景をみた劉璋軍の兵達は動揺を隠せない。何故ならそのような芸当が

 

 出来る弓使いの心当たりは一人しかいないからだ。

 

「まさか…そんな…」

 

 兵達が眼を向けたその先にいたのは…紫苑であった。

 

「そこの兵達よ、即刻そこから離れなさい!さもなくば、次はあなた方がこう

 

 なる番です!」

 

 紫苑のその言葉を聞いた兵達は一様に恐慌をきたし、争うようにその場から

 

 逃げようとする。

 

「逃げるな、お前達!逃げれば斬る!!」

 

 そう言って押し止めようとする将もいたが、この将もポッと出の将なので、

 

 兵の誰も耳を貸さなかった。

 

「おのれ…こうなれば、人質は俺が殺してやる!」

 

 残された将は半ばヤケ気味に人質のいる所へ近づこうとするが、その眼に見え

 

 たのは、豪天砲を構えて弾丸を発射する桔梗の姿だった。

 

「まさか…黄忠様に続き厳顔様まで…!」

 

 あまりの事態に呆然となっている間に、弾丸は磔台を直撃して人質が城壁の外

 

 へ落ちていったのである。

 

「しまった!…しかし、この高さで落ちれば助かりは…」

 

 そう呟いたその将が見た物は信じられない物であった。

 

 

 

 人質が磔台ごと地面に落ちようとした直前、凪が地面に向けて気弾を放った。

 

 その気弾が巻き上げる爆風で人質は空中へ舞い上がる。

 

「よっしゃ、今や!行くで、お前ら!!」

 

 そして間髪入れずに霞が部下の中でも特に優れた者数人と共に一気に騎馬で駆

 

 け出し、再び地面に落ちようとする人質を受け止める。

 

「いよっしゃぁぁぁぁ、大成功!!それじゃさっさと引き揚げるで!!」

 

 霞達が陣へ引き揚げると同時に紫苑と桔梗も引き揚げる。

 

 城壁に残された将はその出来事を呆然と見ているだけであった。

 

 ・・・・・・

 

「ご主人様、作戦成功です!人質の奪還に成功しました!!」

 

 朱里の報告を受け、陣中は喜びに沸く。

 

 俺は人質にされてた者のいる所へ出向き、言葉をかける。

 

「このような目に合わせてすまなかった。怪我は無いか?」

 

「はい、何とか。しかし貴重な体験をさせてもらいましたよ。我が軍の誇る武官

 

 の方々の攻撃をこの身で受ける事が出来たのですから」

 

 その一言で皆が笑いに包まれる。

 

 俺は人質にされてた者に後方へ下がり休むように指示した後、改めて陣中に皆

 

 を集め、成都攻略の軍議を始めたのである。

 

 

 

「もう人質はおらへんのやし、こんな所なんか力攻めにしてしまえばええやろ」

 

 霞は正面からの攻撃を提案する。

 

「幾ら人質はいないとはいえ、成都は要害の地。無闇に正面から攻めたのでは損

 

 害も大きくなってしまう恐れもあります。慎重にして間違いは無いのでは?」

 

 そう慎重論を述べるのは凪であった。

 

 その後しばらく武官達&袁紹さん達による喧々諤々の議論が展開されるもいい

 

 提案は生まれず、おのずとその視線は朱里達軍師四人に向けられる。

 

「なあ、軍師連中としてはどう思うん?ただ此処で地図と睨めっこしてたって、

 

 何も進まん事は分かるやろ?」

 

 霞にそう言われても朱里達は地図を見たまま一言も発しない。

 

「お~い、ウチの話聞いてるかぁ~?」

 

「はい、聞いてますよ。霞さんの言う事も分かるのですが…まずは突破口を何処

 

 に開くかを皆考えているのです」

 

「何処って…燐里は弱点とか知らんのか?」

 

「恥ずかしながら…成都は天嶮の要害。守りやすく攻めにくい地形になっており

 

 ます。そして、我々益州に住まう者にとって成都は洛陽よりも特別な地である

 

 が故にそれを攻めるなどとは今まで考えた事も無く…こうなるなら弱点とか調

 

 べておくべきでした。申し訳ありません」

 

「燐里が謝る事はない。それよりも攻める策を考える方が先決だ」

 

 とはいえ、闇雲に地図を見てても糸口は…地図には人の姿や考えが見えるわけ

 

 ではないし…待てよ?

 

「なあ、燐里。城の中にいた領民達は今どうしてるんだ?劉璋に従って共に籠城

 

 しているのか?」

 

「私が成都を出た時は普通に生活していたのですが……そうか、これなら」

 

 燐里は何か思い当たる事があったのか、朱里に耳打ちする。

 

「それは本当ですか!?…ならば攻め口はそこからですね」

 

「…? 何かいい策でも浮かんだのか?」

 

「はい、まずは燐里さんに行ってもらいます」

 

 朱里はそう言って燐里に指示を与えて送り出す。

 

「ご主人様はしばらくここでお待ちください」

 

 一体何をするんだ?…まあ、ここは朱里を信じて待つとしよう。

 

 

 

 それから三日程が経ち、表向きは静寂を保っているように見えていたのだが…。

 

「何故だ…何故儂が成都の中でこのように怯えていなければならんのだ?ここは儂

 

 の城じゃぞ!!」

 

 王累は自室の中でそう震えながら呟いていた。

 

 何故彼がここまで怯えているのかというと、ここ二日の間に成都の中に広まった

 

 一つの噂に原因があった。それは『北郷軍に劉璋と王累の首を差し出せば、他の

 

 者の命を取る事はしない。それどころか、首を持って来た者には劉弁陛下の名に

 

 おいて身分を問わず一城を与える』というものであった。そのせいで、王累は城

 

 はおろか自室から一歩でも出ようものなら命を狙われかねない状況になってしま

 

 ったのである。

 

 王累は何度もその噂を消そうと躍起になったのであるが、王累が厳しく取り締ま

 

 ろうとすればするほどその噂は真実味を帯びて広まっていったのであった。

 

 そして遂に前日の夜には、王累の自室の戸に火矢が数本飛んで来て、何とか消し

 

 止めたものの危うく焼死しかねない事態にまで発展したのであった。

 

 本来であれば王累の身を守る将兵がいるはずなのだが、劉璋軍の主な将のほとん

 

 どは既に北郷軍に降ったか捕まったかしてる上、王累自身が劉璋の側近として専

 

 横の限りを尽くしていたせいか、まったくといっていいほど人望が無かったので、

 

 こういった状況に至り誰も命を懸けて彼を守ろうともしなかったのであった。

 

(一応劉璋の方は奥まった所にいるのと守る兵がいるのとで多少はマシな状況にな

 

 っている)

 

「くそぉ…このままでは儂は必ず殺される。こうなったら…」

 

 王累は机の上にあった何かを握り締めると、外に誰もいない事を確認してから、

 

 何処かへ走って行った。

 

 

 

「もはや成都の中は混沌としています。将兵と領民の間には疑心暗鬼が渦巻き、将兵

 

 の劉璋や王累への不満は日に日に高まっています」

 

 燐里より報告を聞き、驚き…というか呆れしか感じなかった。

 

 実は燐里が朱里に耳打ちしたのは、成都の領民に劉璋達に対する悪い噂を流して、

 

 中に籠る人間の士気を下げて裏工作をしやすくするというものだった。実際流した

 

 のは『止むを得ず戦とはなったが、北郷軍が用があるのは董相国よりの使者を斬っ

 

 た劉璋と王累のみである』というものであったのだが、何時の間にか俺が劉璋と王累

 

 の首を求めている事になっていたのであった。口コミって怖いな。

 

「幾らこっちから流した噂が始まりとはいえ…それだけ劉璋と王累に人望が無かったと

 

 いう事なのか?」

 

「それもありますが、私と桔梗、そして燐里ちゃんががご主人様に付き、焔…魏延ちゃ

 

 んと張任殿が捕まっている今、あの中に混乱を纏められる将がいないのも原因なので

 

 はないかと」

 

 劉璋に仕えていた紫苑からそういうのだからもはやどうしようもない状況なのだろう。

 

 その時、成都の城内から喊声と火の手が上がる。

 

「何だ、どうした!!誰か中へ攻め入ったのか!?」

 

「申し上げます!成都の領民達より使者が来ております!!」

 

 使者…しかも成都の領民から?どういう事だ?

 

「とりあえずここへ通すように」

 

 

 

「お初にお目にかかります、北郷様。私は成都の民の長老格の者より派遣されて来た者

 

 です。劉璋は我々に対して、北郷軍と戦うか今までの十倍の税を払えと言って来た為

 

 我々は劉璋打倒に動く事になりました。ついては、城門はすぐにでも開けますので、

 

 北郷様には入城して我々のと共に戦っていただきたくお願いする次第にございます」

 

 成都の領民を代表してやってきた使者の口上を聞き、俺は驚きを隠せなかった。

 

「どういう事だ?こんな状況で民を敵に回すような真似をして何の得があるんだ?」

 

 俺のその問いに朱里も輝里も首を捻る。しかし、

 

「そういう事か…王累、まさかそこまで…」

 

 燐里は何かに思い当たったようにそう呟く。

 

「燐里ちゃんの思った通りならその王累さんとかいう人は存在自体が残念な人ですねー」

 

 燐里の呟きに反応した風も馬鹿にしたかのような顔でそう言った。

 

「なるほど、そういう事ですか。ならば燐里さん、行ってもらっても良いですか?凪さん

 

 も一緒にお願いします」

 

 二人の反応にようやく得心がいった朱里が燐里の指示を出す。

 

 それに頷いた燐里と凪は数百の兵を連れてその場を離れる。

 

「それでは霞さんを先陣に成都に乗り込みます。皆さん準備を」

 

 その声を合図に皆が散開する。

 

「朱里、一体何がどうなって…?」

 

「おそらく王累のとった行動は…」

 

 朱里からそれを聞き、俺はさらに呆れる。

 

「まさか…本当にそんな事を?」

 

「はい、間違いは無いでしょう」

 

 それが本当なら…終わったな、ここも。

 

 

 

 俺達が成都に入ると既に大半は民達によって制圧済であり、迎える民達には歓迎の雰囲

 

 気に包まれていた。

 

「何や、ウチら随分歓迎されてるやんか」

 

「それだけ劉璋の政が悪かったという事だろう…皆の者、良く聞け!!略奪、暴行の全て

 

 を禁ずる!違反した者は身分を問わず斬首に処するものと心得よ!!」

 

 俺のその訓令に将兵の全てが身を引き締める。

 

「まずは城内全ての制圧からです!残党が潜んでいないか、隅から隅までくまなく捜索を

 

 してください!!」

 

 朱里の言葉で皆が成都の各場所へ散開していった。

 

「ところで劉璋はどうしたんだ?」

 

「どうやら城内の自室に閉じ籠って出て来ないようなので、紫苑さんと桔梗さんにこじ開

 

 けに行ってもらっています」

 

 そして城内に入ると玉座の間には紫苑と桔梗に押さえつけられた肉の塊…もとい人間が

 

 いた。どうやらこいつが劉璋のようだな。

 

「ほれ、北郷様のお出ましじゃ。さっさと面を上げんか!」

 

 桔梗に半ば無理やり頭を上げさせられた劉璋は、俺を見るなり叫びだす。

 

「お前が北郷か!余はこの益州を治める劉璋であるぞ!!突然攻め込んで来てこのような

 

 仕打ちをするなど天が許すと思うてか…ゴホッ、ゲホッ…」

 

 たかだかそこまで言っただけなのに既に苦しそうに肩で息をしていた……全然ダメだろ

 

 この人。よくもまあ、今までまがいなりにもやってきたものだ。

 

「初めまして、私は左将軍並びに荊州南郷・南陽郡の太守を務めます北郷一刀です。さて、

 

 あなたが今私に言った言葉には二つ間違いがあります。一つはあなたは既に劉弁陛下の勅

 

 により職を剥奪されている事、もう一つは我々は突然攻めて来たわけではないという事で

 

 す。相国閣下よりの使者をあなた方が斬った時点で既にそちらからの宣戦布告はなされた

 

 と受け取っておりますが如何ですか?」

 

「何を言っておる!余はそんな話は知らんぞ!!」

 

 

 

「ほう、ですが張任殿は知っておられましたよ?張任殿は使者の者の態度に問題があったと

 

 言い張っていましたが、仮にも相国閣下が信任して送り出した者。決してそのような事は

 

 無かったと思っているのですが、張任殿は詳しくは知らぬとの事。ならば使者と面会した

 

 であろうあなたならばどのような事があったのかご存知かと思ってましたが?」

 

 それを聞いた劉璋の顔には冷や汗が滲みだしていた。でも何か冷や汗というよりは脂汗に

 

 しか見えないのだが。

 

「そ、それは、その…そうじゃ!余はその者と少し話を交わしただけで後は王累が応対して

 

 おったので、やったのは王累じゃ!そうじゃ、そうに違いない!」

 

 その時の劉璋の顔には完全に『責任は王累にあるから自分は関係無い』と書いてあるよう

 

 に見えた。俺はそれに対し、一つため息をついてからこう答える。

 

「あなたは馬鹿ですか?仮にその王累殿がやった事であっても、主君であるあなたに責任が

 

 無いなんていう論理が通用するとでも?ましてや斬られたのは正式に相国閣下よりあなた

 

 宛に派遣された使者なのですよ?それをあなたは碌に応対していないというその一点だけ

 

 を見ても、あなたが陛下や相国閣下を軽んじ、反逆の心があるという証拠になりかねない

 

 事はわかっていらっしゃりますよね?」

 

 俺がそこまで言っても劉璋はまったくといっていいほどに自己弁護しかしない。

 

「い、いや、それは…何時も王累に全てを任せてきたので…王累も余は何もしなくとも自分

 

 に全て任せよと…だから余は本当に何も…だから余に責任は…」

 

 …何だこの豚。今すぐにでも細切れにして本当の豚の餌にしてやりたい衝動に駆られるが、

 

 そんな事をしても何にもならない…というか、こんなの食べたら豚が病気になりそうだし

 

 やめておくべきだろうか。

 

「それではその王累殿は何処へ行かれたのです?既に城の中は捜させましたがお姿が見えな

 

 いようですが?まさか全てあなたに責任を押し付けて逃げたんじゃないでしょうね?だっ

 

 たらとんだ忠臣ですね」

 

 その途端に劉璋の顔が青くなる。

 

「ま、まさか…そんな事は…王累は父の代より仕えし側近ぞ?まさか、そんな、余を捨てて

 

 逃げるなんて…そんなバカな…」

 

 そして虚ろな目でブツブツとそればかり繰り返す。もうこいつはこれ以上何も無いな。

 

「誰か、こいつを牢にぶち込んどけ」

 

 劉璋は兵に抱えられて引きずられていったが、ずっとさっきと同じ事を繰り返し呟いてい

 

 るだけであった。

 

 

 

 場所は変わり、成都より少し西の方に行った山の中。

 

 王累は僅かな供と大量の宝物を抱えて逃げ出していた。

 

「ふう、ここまで逃げれば追っては来まいて。成都の者共は劉璋の首を取る事に躍起になっ

 

 ているだろうし、あれだけの混乱が生じれば儂がここまで逃げて来た事に気付く者もおる

 

 まい。後は知己のいる五胡の部族の中にでも逃げ込めば…」

 

 その時、数本の矢が飛んで来てそのうちの一本が王累の足に刺さる。

 

「ぎゃぁ!誰じゃ!!儂を誰だと思って…」

 

「主君を見捨てて逃げ出した全ての黒幕の王累でしょ?」

 

 そこへ現れたのは燐里であった。

 

「貴様…法正!!この裏切り者が、よくもこのような真似を!!」

 

 王累は燐里の姿を見るなり掴みかからんばかりの勢いで激昂するが、燐里は冷たい目でそれ

 

 を見ているだけであった。

 

「お前がこの益州でここまでの地位になれたのは誰のおかげだと思っている!この儂が劉焉様

 

 に推挙したからぞ!それを…恩を仇で返すような真似をしおって!」

 

 燐里が何も言わないので王累はここぞとばかりにまくし立てるが、燐里はそれに答える事も

 

 なく、じっと冷たい目で王累を見続けていた。

 

 さすがにそれを不気味に思ったのか、王累は言葉を止めて少しあとずさる。

 

「終わりましたか?それではあなたを連行します」

 

 燐里がそう淡々と言うと、王累は怯えたように身を縮こませて震える声で叫ぶ。

 

「な、何故儂が連行されねばならんのだ!儂が何をしたというのだ!!」

 

「何を…?言わねば分かりませんか?あなたが劉璋の名で発した数々の悪法や先の連合や今度

 

 の曹操の企みへの参加、そしてその度に民に課した重き税、そして今に至って全てを劉璋に

 

 押し付けて逃げようとするその腐った根性です!あなたも人の上に立つ立場の人間ならば、

 

 その責任があるでしょう!観念して罪を償いなさい!!」

 

 燐里がそう言ったその時、王累は箍が外れたかのように叫びだす。

 

「嫌じゃ…嫌じゃ!!何故儂に責任があるのだ、そうじゃ…儂はこの益州の王なのだ!皆が儂

 

 の為に働く義務はあっても儂が皆の為に働く義務など何処にも無いのだ!!そうだ、きっと

 

 そうなんだ!!あははははは!!王累万歳、益州万歳!!」

 

 王累はそのまま虚ろな眼をし、口から涎を流し続けたまま万歳を繰り返していた。

 

「終わりですね…凪、この者を連行してください。こんなのでも一応裁きをせねばなりません」

 

 指示を受けた凪が王累を連行していく様を見ながら、燐里は、

 

(王累、確かにあなたが亡き劉焉様に推挙してくれたからこそ今の私があるといっても過言では

 

 ありません。ですが…だからこそ私は…おそらく劉焉様なら今のあなたに対して同じ事をした

 

 でしょう。どうか最期の時は劉焉様がおられた時のような毅然とした王累殿であってください)

 

 そう心の中で呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして後日裁きが下り、劉璋は洛陽に送られそこで斬首、王累は成都にて車裂きの刑に処され

 

 たのであった。劉璋は最期の時まで見苦しく泣き喚いていたが、燐里の思いが通じたのか王累

 

 は刑が執行されるその時まで毅然とした態度を崩す事は無かったのであった。

 

 

 

                                      …続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 何とか成都攻略迄行く事が出来ました。

 

 人質救出作戦はすごく力技になってしまいましたが…。

 

 ご不快に思われる方もいらっしゃるかとは思いますが、

 

 温かく見守ってくださると幸いにございます。

 

 ちなみに王累が握り締めていた物は劉璋の印綬です。

 

 それで無茶苦茶な命令を出して、混乱させてその間に

 

 逃げようとしたのですが…顛末はご覧の通りです。

 

 次回は益州攻略戦その後という事で、まだ捕縛したままの

 

 方達の話を中心に行く予定にしております。

 

 

 それでは次回、外史動乱編ノ十六にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 

 追伸 揚州方面の話はもう二~三話後になりますので、お待ちください

 

    ますようお願いいたします。

 

 

 

 


 
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