No.518329

魏エンドアフター~迫ル選択~

かにぱんさん

今週卒論の最終チェックでちょっと時間が無いので、来週あたりに題名修正します。

2012-12-14 00:43:46 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6983   閲覧ユーザー数:5322

一刀「いだだだだだッ!?

   あっ、ちょ、痛い痛いッ!!

   ストップストップ!タンマ!いっ!?

   アッーーーーーー!!!」

 

治療してくれている医療班の兵に全力でタップしている俺。

同じ天幕で怪我を診てもらっている兵達から漏れる失笑。

恋が元通りになり、虎牢関を出発する前に

桃香達のもとへ戻ってから手当を受けていた。

体中にある切り傷は浅いものばかりなので、

痛い事は痛いけど無視できるレベルだった。

が、最後に受けた恋の一撃で深手を負った左腕はそうもいかず。

骨まで刃が達していなかったのが不幸中の幸いか。

 

陳宮「情けない声を出すなです。

   恋殿が起きてしまうのです」

 

近くに居た音々からは辛辣な言葉。

いやホント洒落にならないんだって。

麻酔なしで傷口縫い合わせるとかどこのラ○ボーだよ。

セルフじゃないだけマシかもしれないけどさ。

こういう時華佗がいればと心底思う。

この世界では今どこにいるんだあいつは。

怪我人多発だぞ。

あまりの痛さに理不尽な怒りをぶつけつつも、手当は続行される。

 

一刀「くぅ……泣きそう……」

 

星「泣けばよろしい」

 

一刀「いいのか?

   大声上げて泣き喚くぞ?

   いいのか?」

 

凪「落ち着いてください隊長」

 

もう何でもいいから騒いでないと本当に泣きそうだった。

二十歳超えた男が怪我の痛みで泣くとか一生ものの黒歴史になるに違いない。

というか凪も星も流石というかなんというか。

あの状態の恋と対峙したというのに怪我らしい怪我はひとつもなく。

せいぜいちょっとした切り傷とか打ち身があるくらいだった。

愛紗はと言えば、肋骨を骨折し、

すぐに治療を受けたもののやはり外傷のように単純にはいかず、

絶対に帰らないと聞かないので一応この戦争には参加するものの、

桃香の傍で護衛という形で待機するようにさせた。

しかし俺達がここへ運び込まれた時の愛紗はちょっと見物だった。

本当に怪我人かと問いたくなるような勢いで俺に詰め寄り、

誰から見ても取り乱しすぎってくらいあわあわしていた。

愛紗も怪我人なので今は別の天幕で休ませているが、

それまではずっと慌てた様子で

 

「大丈夫ですか?痛みますか?

 ああ……私とした事が……!

 主人を守れぬとは情けない……!」

 

みたいな感じでこっちが申し訳なくなってくるくらい心配してくれていた。

いや、主人は桃香なんだけどさ。

何度も言うけど。

そしてかたくなに俺の傍から離れようとしなかったのも申し訳ない。

というか怪我の程度で言えば愛紗のほうが重傷だと思う。

ちなみに恋はと言えば、

無理矢理に氣を増幅させられて体の方も限界だったのか、

あれからぐっすりと眠ったまま。

凪に氣の流れを安定させてもらったからあとは体力が回復すれば問題はないと思う。

音々もずっと恋から離れないので世話を任せられるし。

凪に吹き飛ばされた華雄も捕虜として捕らえられている。

……凪の気弾が余程効いたのか、恋と同じく眠ってるけど。

それよりもあのあと霞はどこへ行ったのだろうか。

前の世界では春蘭と一騎打ちして魏に降ったはず。

火の勢いが強すぎて二人は会う事すら出来なかったみたいだし。

とすると、洛陽へ戻ったのか?

董卓達を逃がすために……とか。

でももう世論は既に董卓を悪とし、

連合を善としているから涼州へ戻っても根本的な解決にはならない。

さらに言えば、死ぬまで追い回され続けることになるのだから。

華琳からしてみれば……というか周りからしてみれば

「自業自得、同情の余地は無い」とかばっさり切り捨てるんだろうけど。

俺はなんというかそういうのは……嫌だ。

 

陳宮「……お前」

 

一刀「ん?」

 

寝ている恋の隣に正座し、目をこちらに向けないまま言葉を発する。

 

陳宮「どうして助けたのですか」

 

一刀「…………」

 

陳宮「音々達はお前の敵のはずなのに、

   どうしてそんなになってまで助けたのですか」

 

当然の質問だ。

彼女達からすれば俺は顔すらも見たことのない人間で、

さらには徒党を組んで自分たちを討とうとしている人間のはず。

それがこんな事をすれば混乱するのも当たり前だ。

 

陳宮「セキトや張々達を知っていたのはどうしてですか」

 

矢継ぎ早に言葉を発する。

 

一刀「それは……」

 

黄蓋「情けない声がするかと思えば、お主か」

 

孫策「勇ましいんだか情けないんだか……」

 

俺が応えを言い倦ねていると、苦笑しながら雪蓮と祭さんが来た。

凪と星から聞いた話によればこの二人と春蘭、

秋蘭が協力してくれたおかげで鎮火に成功したんだとか。

二人はすぐに華琳のところへ戻ったようだけど。

 

星「で、私としてはそろそろ説明を聞いておきたいのですが」

 

孫策「そうねぇ。

   敵であるはずの呂布を、

   どうして命を掛けてまで助けたのかってのはあたし達も気になるところね」

 

黄蓋「うむ。

   敵を助けたとあっては、

   儂らがこうして連合を組んでまで戦をしておる意味がなくなってしまうからの」

 

それはそうだ。

他からしてみれば恋の身に起きたことなんて知らないはずだし、

それこそ裏切りとして見られてしまうかもしれない。

 

孫策「幸い、まだ袁紹には知られていないようだけど。

   納得のいく説明がないと、貴方たちも敵として見なされるかもね」

 

星「…………」

 

一刀「……わかったよ」

 

凪は事情が分かっているからともかくとして、

星もそれなりに不信……というか、理解出来ない疑問を抱いているようだった。

当たり前だ。

仲間を傷つけた相手を、救おうというのだから。

それに、俺の事を真剣に心配してくれたからこそってのもあると思う。

 

一刀「じゃあ、愛紗達のいる天幕に行こう。

   皆に説明したほうがいいと思うし。

   陳宮もおいで」

 

そのまま星と凪、雪蓮と祭さん、音々を連れ、皆の居る天幕へ向かった。

 

 

 

桃香「うわぁ……ご主人様、大丈夫?」

 

一刀「うん?……あ」

 

包帯を巻いてくるのを忘れた。

縫いたての痛々しい傷が丸出しである。

桃香がまるで自分の事のように

痛そうに顔をしかめながら腕に触れて──

 

一刀「って痛い痛いッ!!

   痛いから!?」

 

何で触った!?

 

愛紗「桃香様!?」

 

桃香「わわっ!?ごめんなさい!」

 

一刀「説明が終わったらすぐに包帯巻いてもらうよ……」

 

陳宮「遊ぶなです」

 

一刀「遊んでねぇわ」

 

朱里「はわわ、私が巻きます!

   ぁぅぅ……痛そうです……」

 

慌てて包帯を持ってきて、患部へ巻いてくれる。

朱里ってこういう治療方面の事も出来るのか。

知らなかった。

 

一刀「ありがとう」

 

雛里「大丈夫ですか?ご主人様……」

 

一刀「大丈夫だよ、俺なんかよりも愛紗のほうが重傷なくらいだよ。

   心配してくれてありがと」

 

頭を撫でつつ

 

雛里「はぅぅ……」

 

孫策「……見せつけてるの?」

 

一刀「違います」

 

雪蓮の突っ込みを流し説明しようとすると、天幕の外が騒がしくなる。

 

愛紗「何だ?」

 

朱里「なんでしょう、まだ出発には早いと思うんですけど……」

 

「失礼致します」

 

外の騒がしさを確かめようと、腰を上げたところで兵がやってくる。

 

「北郷様にお会いしたいという者が来ておりますが……」

 

一刀「え?俺?」

 

愛紗「その者の名は?」

 

「は、西涼の馬超将軍です」

 

朱里「馬超さん、ですか」

 

軍議の名乗りの時以来見てなかったけど……俺に用って何だろう?

 

「いかが致しますか?」

 

うーん……雪蓮達に説明しなくちゃいけないしなぁ……

かといって待たせるのも悪いし

 

孫策「いいんじゃない?ここに通したって。

   袁紹の部隊とはあまり関係もないし、

   知られたって問題はないでしょう」

 

うん、それはわかってる。

馬超はそんな告げ口みたいな事はしないと思うし、

その辺は疑ってないけど……

 

一刀「まぁいいや。通してあげて」

 

「は」

 

馬超「あ、ごめんもう来ちゃった」

 

桃香「ええ!?」

 

愛紗「なっ!?き、貴様!無礼であろう!」

 

馬超「まぁまぁ、固い事言うなってば」

 

なんという自由人。

いやまぁあっちでもそうだった気がしないでもないけど。

そして天幕に入るや否や俺を値踏みするように上から下まで眺めだす。

 

馬超「へ~……ほ~……あんたが北郷ねぇ」

 

一刀「な、なに?」

 

愛紗「ご主人様に対しての無礼、これ以上許すわけには──ッ!

   くっ……!」

 

偃月刀を持ち、立ち上がろうとするが、痛みに顔をしかめ固まる。

 

一刀「だああ!!安静にしてなきゃダメだってば!

   別に俺はなんとも思ってないから!」

 

愛紗「しかし!」

 

一刀「愛紗の気持ちは嬉しいよ、ありがとう。

   だから安静にしてような」

 

どうどうと宥めながら、また暴れるといけないので手を引いて隣へ座らせる。

俺の事で怒ってくれるのは嬉しいけど、もう少し自分の体の状態を考えてほしい。

 

愛紗「あ、あの、ご主人様。

   手を……」

 

一刀「大人しくする?」

 

愛紗「そ、それは……」

 

まだ渋っているようだ。

そこでふと、突然思い立ったことを試してみる。

俺が自分に良くしている氣の応用。

”痛み”の緩和。

あの大会で、恋に骨を折られた時も、俺はこの方法で試合を続行した。

そのおかげで骨折の治りもいくらか早かった。

そしてあの時、周瑜さんの病を自分の体に移した事。

他者から自分への移動が可能ならば、自分から他者への移動も可能なのではないか。

という訳で早速指を絡めて……と。

 

愛紗「わ、わかりました!わかりましたから!?」

 

……うむ。

最近気づいたけど、愛紗は他人に過度に接近されることに慣れていないようだ。

こうやってスキンシップを取るとすぐに顔を真っ赤にしてしまう。

ういうい。

これを春蘭にやろうものならぶっ飛ばされるんだろうけど。

いやいや、こういう事をしたかったんじゃなくて。

 

凪「……華琳様に報告を(ボソ」

 

一刀「そうそう馬超は俺に用があったんだったな!

   どうかしたの?」

 

耳元で凪の不吉な呟きが聞こえたので何事もなかったかのように話を戻す。

悪ふざけはやめよう。

 

愛紗「…………」

 

鈴々「愛紗、顔があか──」

 

愛紗「気のせいだ」

 

間髪いれずに答え、異論は認めないというように睨みを聞かせて座りなおす。

うむ、こういうところも初々しくて……

 

凪「……報告を(ボソ」

 

一刀「(……すみません、調子に乗りましたごめんなさい)」

 

戦場という場でちょっとハイになってたに違いない気持ちを落ち着けて。

 

馬超「……何してんだ?」

 

凪に許しを請うてる俺を奇妙なものを見るような目で見る。

……やめてくれ。

 

陳宮「……お前まさか、恋殿の身体が目当てで──」

 

一刀「どんだけ俺は性に倒錯してんだよ」

 

ちょいちょい茶々を入れてくるところはやっぱり前の世界と同じなんだな。

まぁ偽物って訳じゃないから当たり前なんだけど。

 

愛紗「で、ご主人様に用があるとの事だが、一体どういった用件だ?」

 

馬超「あ、あぁさっきは悪かったよ。

   只あの呂布とサシで勝負をして勝ったって聞いたもんだから、

   どんな奴なのかなーと思ってさ」

 

陳宮「おのれ!勝手な事を言うなです!

   呂布殿は負けてなど──」

 

一刀「はいはい解ってるから大人しくしてような」

 

陳宮「ふむうううううう!」

 

陳宮の口を抑え後ろからがっちりと固める。

……相手に痛みを与えずに動きを奪う方法らしい。

じいちゃんに教わったはいいが使う機会がなかったので効果はわからなかったけど

マジなんだなこれ。

……というか陳宮がここに混ざってる事に誰も何も言わないのは何なんだろう。

いや、連れてきたのは俺だけどここまでノーリアクションってのもどうかと。

 

一刀「で、話を戻すけど、俺達軍議の時に顔合わせただろ?」

 

馬超「……そうだったか?」

 

覚えてない!

そんなに俺は影が薄いか。

まぁあの面子の中じゃ確かにキャラは薄いかもしれんが。

 

一刀「それに勝ったっていうか、今からそれを説明するところなんだけど」

 

馬超「説明?……ん、孫策達も居たのか」

 

この子は視界が恐ろしく狭いのだろうか?

雪蓮程存在感のある人に気づかないとかちょっと危ないぞ。

 

馬超「あぁそれよりもちゃんと自己紹介してなかったな。

   あたしは性は馬、名は超、字は孟起ってんだ。

   よろしく!」

 

いや、それも軍議で聞いたけど……まぁいいか。

 

一刀「俺は──」

 

凪「性は変、名は態、字は紳士でよろしいのでは?」

 

一刀「やめて!?」

 

そんなこれでいいんじゃね?みたいなノリで人の名前決めないで!

変なふうに!

というか何で凪がそんな言葉知ってんだ。

桂花か?桂花の影響なのか?

 

凪「失礼しました」

 

済ました顔でぺこりと一礼。

くっ……一体誰に似てしまったというんだ……!

 

孫策「ぷふっ──」

 

あ、吹き出した。

さりげなく祭さんの後ろに隠れて顔を背けてはいるけど見えてるからな。

 

雛里「……へんたい、しん──」

 

一刀「そんな言葉を口にしちゃいけませんっ!」

 

そのままの君で居て!

さっきまでのピリピリした空気は何処へ行った。

うーん、おかしい。

こっちの世界ではそういうことは何もしてないのに。

凪以外には。

 

一刀「コホンっ!

   俺は、性は北郷、名は一刀、字ってのは無し。

   よろしく」

 

馬超「ふーん……変な名前」

 

直球で失礼だなこいつ。

 

一刀「とにかく、一連の事については今から説明するから適当に座ってよ」

 

馬超「りょーかい」

話が進まないので無理矢理流れを切ってから皆に説明した。

恋が操られていたこと。

放っておけば死んでしまっていたこと。

そして、白装束の事。

俺が恋を知っているという事は省いて話した。

この世界では俺が一方的に彼女を知っているだけだし、

そんなことを言ったらここに居る全員を俺は知っているのだから。

それこそ胡散臭いと言われるかもしれないし、混乱を招くかもしれない。

 

黄蓋「うーむ……」

 

孫策「ま、それが本当かどうかは置いておくとして。

   わからない話ではないわね。

   自分の意思で動いている訳ではない子の首を取るっていうのは

   気持ちの良い話ではないし」

 

馬超「だな」

 

陳宮「…………」

 

こういうところ、この二人は寛容で物分りが良いのだ。

やるなら自分の誇りを持って徹底的に、みたいな性格だからな。

難しくものを考えないでフィーリングで動いてる感じだし。

 

孫策「だからといって、自分の命を掛けてまで救おうとは思わないけどね。

   いくら操られてると言っても、今まさに戦っている最中の敵なのだし」

 

だからと言って無条件で納得してくれる性格でもないんだけど。

 

黄蓋「そうじゃな。

   他からしてみれば、放っておいて死ぬのであればそうしておけ、

   と思う者もいるじゃろうしな」

 

馬超「まぁな。

   それにいくら呂布が強いと言っても、

   これだけ人数揃えた軍に一人で飛び込めば命はないのは分かりきってることだしな」

 

命掛けで敵を助ければ、仲間からの疑念が生まれるのは当然、か。

そんな事、言われなくてもわかってる。

でも放っておけないだろ?

いくら世界が違うからと言って、自分の知っている子が涙を流して苦しんでいる姿を見たら。

あっちじゃ皆仲良くやっているから、余計に。

それに白装束絡みだというのであれば尚更、絶対に放っておけない。

……それも、皆からすれば俺の私情でしかないんだろうけど。

それでも俺にはあの状態の恋を放っておくことなんて出来なかった。

 

……やっぱり、俺は桃香のもとを離れたほうがいいのかもしれない。

桃香達の手助けはしたい。

でも俺がいることで彼女達にあらぬ疑いが掛けられてしまうかもしれない。

これから先、こういう事がある毎に、俺はこんな事を仕出かすかもしれない。

いや、確実にすると思う。

俺の中じゃ、皆友達で、仲間なんだ。

華琳達は、俺にとって大切な存在なんだ。

 

孫策「仲間が不信を抱いても、仕方の無い事ね」

 

一刀「…………」

 

凪「…………」

 

孫策「ま、今回はそれで納得しておくとしましょう。

   別にあたしには関係のない事だし、

   ちょっと関わったから知りたかったってだけだしね」

 

一刀「……そっか」

 

馬超「あたしも、別に小難しい話をしにきたんじゃなくて

   只呂布を負かした奴ってのを見に来ただけだしな。

   まぁ確かにそんな事情があったことには驚いたけどさ」

 

黄蓋「策殿、そろそろ戻らねば冥琳にまたどやされてしまうぞ」

 

孫策「あら大変。じゃ、あたし達はこれで」

 

じゃあね、と一言。

そのまま天幕を出ていこうとするが、出入口でもう一度こちらを振り返り、

 

孫策「もう一度聞かせて。

   どうして貴方は、敵である呂布を、

   命を掛けてまで助けたの?」

 

真っ直ぐに、射抜くような眼差しで俺を捉え、聞いてくる。

 

一刀「……目の前で、涙を流して苦しんでいる子がいたからだよ。

   孫策だって、そうするだろ?」

 

孫策「……さぁ、ね」

 

すぐに振り返り、表情は確認できなかった。

俺の問いに短く応え、彼女は天幕から出ていった。

 

馬超「あたしもそろそろ行くよ。

   まぁ、あんたの言うことは甘いかもしれないけどさ」

 

一刀「…………」

 

馬超「それを否定しようって気にはならないよ。あたしは」

 

そう一言残し、雪蓮に次ぐように出ていった。

 

一刀「……今日は、もう休むよ」

 

黙って話を聞いてくれていた桃香達にそう告げる。

一度、真剣に考えよう。

桃香達のもとを離れるかどうかを。

俺の勝手な行動で、桃香達に迷惑をかけてしまう。

いずれ居なくなる俺が、そんな不義理な俺が、

彼女達の志を、信念を潰してしまうかもしれないから。

 

 

 

 

 

愛紗「ご主人様」

 

自分の天幕へ戻ろうと、外へ出た瞬間、愛紗に呼び止められた。

 

一刀「ん、どうかした?」

 

少しの間、自分の頭で整理しているのか、難しそうな表情を浮かべる。

 

愛紗「……あの──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

賈駆「月!こっち!早く!」

 

董卓「はぁ、はぁ……うん!」

 

身を隠すと同時に、今まで二人が居た場所を董卓軍の兵士が通過する。

自分たちの護衛をしていたはずの兵士が、

突然何者かに操られたかのように自分たちを襲ってきたのだ。

 

賈駆「一体なんだってのよ……!」

 

洛陽に居た住民も、気が狂ったかのような兵士達に追い出されてしまった。

虎牢関も突破されてしまい、もう負け戦のこの戦い。

涼州へ逃げようと準備を整えていた時に起こった

この異常事態に混乱せざるを得なかった。

突然の異変。

それまでは連合軍を相手に右往左往していたので気づけなかったのだろうか。

そして住民と入れ替わるようにして来た白装束の集団。

軍、とまでは行かないものの、それなりの数を揃えて来ているように思える。

しばらく身を隠していると、

すぐ近くで戦闘しているであろう音と声が聞こえる。

一瞬にして斬り伏せられたのか、

その音はすぐに止み、足音が近づいてくる。

確認しようと、恐る恐る顔を覗かせた。

 

賈駆「ッ!?」

 

突然口を抑えられ、隠れていた民家に押し込まれる。

 

賈駆「んーーーッ!!!んーーーーーッ!!!」

 

張遼「しぃーーーーー!!ウチやウチ、暴れんな!」

 

董卓「霞さん……?」

 

張遼「はぁ~~~~……ったく、めっちゃ探したで。

   大声出せば気味悪い奴らが襲ってくるから地道に探すしか方法ないし」

 

疲れた表情で深いため息を吐き、壁に寄りかかり座る。

 

賈駆「あ、あんた無事だったの?恋と音々は?華雄は?

   それにあいつら一体どうしたの?

   何が起きてるの?」

 

張遼「そないに一気に言われてもウチかてわからんわ。

   華雄は劉備軍の将に討ち取られた。

   まぁ死んではおらんやろ。

  恋もよくわからんが誰かに操られとるみたいになって、劉備軍と戦っとった」

 

賈駆「操られて戦ってたって……恋は無事なの?」

 

張遼「無事やろ」

 

賈駆「どうして?

   あんたと一緒に居ないって事は討ち取られたって事じゃないの?」

 

張遼「……いや」

 

あの時の、炎に包まれた戦場での事を思い出す。

彼女が見ていた一部始終。

まるで、恋の事を知っているような。

仲間を必死に助けようとしているように見えたあの光景を。

ボロボロに傷つけられながらも、彼女を救おうと必死になっていたあの男を。

霞は恋と一刀の戦いを見届けてから洛陽へ向かった。

恋に起きた異変。

それと同じような事が月達の身に起きるのではという直感で戻っていた。

恋の事なら彼に任せれば良いと思えたからだ。

 

張遼「それにしても、逃げる機会を見事に失ってもうたな」

 

賈駆「え?」

 

張遼「ウチがここに居るって事は、

   連合軍も洛陽の目と鼻の先まで来とるっちゅーことやろ」

 

賈駆「あ……」

 

董卓「霞さんだけでも逃げてくださればよかったのに……」

 

張遼「アホいいなや」

 

賈駆「でも、これじゃああたしたちと道連れに──」

 

張遼「それでもや。

   あんたら見捨てて尻尾巻いて逃げるくらいなら、

   あんたら守って散ったほうが万倍ええわ」

 

賈駆「霞……」

 

張遼「ま、死ぬ気はないけどな。

   ウチかてまだまだ人生楽しみたいっちゅーねん」

 

その場から立ち上がり、窓から外の様子を伺う。

 

張遼「……今見えてんのは董卓軍の兵やけど……あれ、襲ってきた奴らか?」

 

賈駆「多分……あたし達もさっきここに隠れたばかりだし、

   もうここには正常な兵なんて居ないと思う」

 

張遼「ちっ……」

 

先程ここに隠れたばかりという事を証明するかのように、

張遼から見た二人は疲れきっていた。

もともとこの戦いは諸侯の嫉妬から来るものだった。

張譲からの協力の要請事態が既に罠だったのだろう。

それに加え、謎の白装束の突然の襲来。

まるで彼女たちの死が定められているように、悪い事が続く。

 

張遼「(董卓の暴政?圧政で民が苦しんでる?ふざけんなや。

    月がそないな事するか。詠がそないな事許すか。

    一所懸命に民の為に頑張ってたやないか。

    一所懸命に良い太守を目指してたやないか)」

 

目の前で、疲れきった表情で休んでいる彼女たちを見る。

 

張遼「(絶対死なせへん。

    こないなええ子達が、こないなふざけた戦いで死んでええわけないやろがボケ……!)」

 

連合軍に白装束。

絶望しか見えない状況の中で彼女は誓った。

手にした偃月刀を握り占め、自分の中で、固く誓った。

命を掛けてでも、彼女達の道をこの手で切り開くと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎牢関を出発してから既に二日。

洛陽はもう目と鼻の先にある。

董卓軍の本拠地だというのに、敵部隊の影すら見えない。

前の世界と同じならば、董卓は逃走するために陣を敷かなかったという事で片付けられるが……

 

一刀「(恋に起きた事が気になる。

    どうしてもあれで終わりとは思えない)」

 

この世界での白装束の狙いは何なのか。

恋は俺を殺すよう術を掛けられていたようだが、俺を殺してどうなる?

もしもあいつらの狙いが、本当に俺を殺す事だったとしたら

この異変は俺が元凶という事になる。

俺が恋達を巻き込んでしまったという事になる。

ならばやるべきことは一つ。

 

一刀「(……董卓達を助ける、か)」

 

───仲間が不信を抱いても、仕方の無い事ね───

 

一刀「…………」

 

雪蓮の言った言葉がフラッシュバックする。

自分の勝手な行動で、仲間が不信を抱き、内部崩壊してしまうかもしれない。

 

一刀「俺は、どうすればいい……?

   教えてくれよ……華琳」


 
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