会議が終了した後、俺とアスナ、クライン、エギルはこの後の予定を話し合っていた。
「皆、この後予定はあるか?」
俺の問いかけに、皆口々に答え始める。
「私はキリト君と一緒に行動するから問題無いわよ。」
「俺も、今日はギルドの集まり無えから大丈夫だぜ。」
「俺もだ。今日店は非番にしてあるからな。」
その答えを聞いた俺は、ある提案を出していた。
「じゃあさ。これからスキルの『検証』をしないか?」
すると、口々に賛成の声が上がる。
「それはいい案だわ。新しく出現したスキルの効果を知っておきたいし。」
一番最初に答えたのはアスナだった。そして、クライン、エギルと続く。
「確かにその方がいいよな。自分のスキルを知れば、戦略の幅が広がるし、情報の公開も出来て一石二鳥だしな。」
「俺も、早くこのスキルを使いこなしてえしな。」
全員の意見が一致したことを確認した俺は、さらに予定の決定を進める。
「じゃあ、場所はどうする?」
俺の質問にクラインが答える。
「それならよ、確か42層辺りに空き地みてえなところがあったはずだから、そこでいいんじゃね?」
「確かに、空き地ならいくらやっても問題無いからな。じゃあ、それで決定だ。」
「ああ。じゃあ、早速行こう。」
そう言って、目的地に赴こうとして会議室を出ようとした時、
「あ、あの~・・・・・。ちょっと・・・よろしいですか?」
誰かに呼び止められた。
呼び止められた方に振り向くと、そこには剣以外俺と瓜二つの装備をしているプレイヤーがいた。そういえば、さっき話を聞こうと思ってたよな。このままじゃ忘れるところだったから、感謝だな。
「何か用かい?」
ぶっきらぼうにそう質問すると、そのプレイヤーはまた質問をしてくる。
「あの・・・。『黒の剣士』のキリトさん・・・ですよね?」
「ああ、そうだけど・・・・・。」
俺は戸惑いつつもそう答える。俺は最近、『二刀流使い』という呼び名の方で呼ばれることが多かったため、かつての呼び名である『黒の剣士』と呼ばれたのはずいぶん久しぶりだった。すると、そのプレイヤーの表情が少し明るくなった。そして、次の質問をする。
「それじゃあ、僕のこと覚えてますか?」
そう聞かれて、俺はかなり困惑した。自慢では無いが、俺は記憶力が良い方では無く、物忘れには定評がある。だから、はっきり「忘れた。」と言えば済む話だが、明るい表情でそんなことを聞かれたら、そう言える訳が無い。俺はどうすることも出来ず、言葉を濁す。
「あー・・・。え~と・・・・。」
「そ、そんなに必死に思い出そうとしなくても大丈夫ですよ!!」
そう言って、目の前のプレイヤーはあたふたと手を振った。その状況を見たアスナが、鋭い視線と共にぼそりと呟く。
「キリト君サイテー。」
「滅相もございません・・・・・。」
俺はそう言うしか無かった。今度からなるべく物事を覚えるようにしよう・・・・・。
そんなことを思っていると、そのプレイヤーが次の質問をしてくる。
「じゃあ、キリトさん。四十九層の迷宮区でのことは・・・覚えてますか?」
今度こそ「覚えている。」と言うため、俺は必死に記憶をさかのぼる。四十九層、四十九層・・・。そう言えば、≪迷宮区≫でMPKに合いそうになったプレイヤーを助けたことがあったような・・・・・。まさか、このプレイヤーがあの時の・・・。
8割方思い出した俺は、記憶のかけらを引っ張り出し、恐る恐る言う。
「もしかして、あの時MPKに合いそうになってた・・・・・。」
「はい!そうです!!やっぱり覚えていてくれたんですね!!」
どうやら俺の記憶は正しかったらしく、プレイヤーの表情が前に比べてさらに明るくなった。おお、物忘れに定評のある俺が思い出すとは・・・。これも着実な成長の一歩として数えることにしよう。
「おお、やっぱりそうか・・・。あの時は大変だったな~・・・。」
「はい・・・。キリトさんの助けが無かったら、僕は今頃ポリゴンと化してましたから・・・。
あのときは、本当にありがとうございました!」
そう言って、彼は深く頭を下げる。照れ臭くなった俺は、無愛想に返事をする。
「べ・・・別にお礼を言われることはやって無いよ。その・・・困ったらお互い様だし・・・。」
あまりお礼を言われる人間では無い俺は、こういう場面に出くわすとついつい無愛想に接してしまう。そのせいで、何度か相手に不快な経験をさせたことも何度かあったため、この態度も改めようと心に誓った。
「ぷくくくく・・・・・」
俺が態度を改めようと誓う中で、俺のことを笑う不謹慎な悪趣味バンダナ男がいた。
ちょっとムカッときたので、俺はさりげなく奴の足を踏みつけようとしたが、ここが圏内であることを思い出してやめる。そんな俺の心中を知ってか、クラインはにやにやとした笑みで俺を見ていた。くそっ、ここが圏外ならパンチの一発でも見舞ってやるのに・・・。今度絶対に≪アルゲードそば≫食わせてやる・・・。
そんなことを思っていると、血盟騎士団の幹部の一人が近づいてきた。そして、俺たちに会議室を出るように促す。
「すまないが、そろそろ退室してくれないか?」
俺たちは一言「すいません。」と言うと、会議室を後にし本部の外に出ると、本部の前で再び話を再開する。
「そう言えば、昼飯まだだよな。」
「うん。でも時間もちょうどお昼時だし、どこかで食べてく?」
「う~ん・・・。俺は別に構わないけど、皆はどう?」
俺が昼食のことを持ち出すと、アスナがすぐに提案を出してきた。出来ればアスナの手料理が食べたかったが、こいつらには絶対に食わせたくないので、ここは自重しておく。彼にはちょっと気の毒かなあと思ったが、思考を切り替えてこのことを無かったことにした。
俺がそんなことを考えていると、二人の意見が返ってくる。
「俺はそれでいいぜ。」
「俺も、特に異論は無ぇな。」
二人の意見を聞いたアスナが、成り行きでついてきた彼に問いかける。
「君も予定が無いなら、一緒にどう?」
彼は、アスナの質問にあたふたしながら答える
「ええっ!?い、いいんですか!?」
彼の言葉に、俺たちは頷く。
「ああ。別に構わないよ。」
俺の返答に、エギル、クラインと続く。
「食事は、人数多い方が楽しいしな。」
「それに、これからもボス攻略で何度も顔合わせんだから、今のうちから仲良くやっとこうぜ?」
俺たちの言葉を聞いた彼は、嬉しそうに笑顔を輝かせ、
「皆さん、ありがとうございます!!」
と、元気な声でお礼を言うのであった。
現在、俺たちは第七十六層の主街区≪シグナード≫の一角にあるNPCレストランにて絶賛食事中だった。
昨日アクティベートされたばかりだというのに、街は大変なにぎわいを見せていた。
攻略組のプレイヤーはもちろんのこと、街の観光に来た中層プレイヤーや店を開いている商人プレイヤーまで様々だ。だが今では、新層がアクティベートされた後に街が大いににぎわうのはもはや恒例行事の一角と化していた。
そんなことを思いながら窓の外を眺めていると、俺の目の前に座る彼が自己紹介を始めた。
「あっ、すいません・・・。自己紹介を忘れてました。僕の名前は『アキラ』です。これからも、どうぞよろしくお願いします。」
そう言って彼は深々と頭を下げた。俺たちも、それにならって自己紹介を行う。
「前に自己紹介したかもしれないけど、ここで改めて・・・。俺は『キリト』だ。これからもよろしくな。それと、俺とアスナは結婚してるから。」
俺がその一言を付け足すと、アスナは頬を赤く染めながら「も~・・・。」と呟いた後、自己紹介を始める。
「アキラさん、初めまして。キリトの妻の『アスナ』です。これからもよろしくね。」
アスナの自己紹介を聞いていたアキラだが、『妻』という単語を聞いた時、微妙に不機嫌になった。どうしたんだろう・・・。奥さん欲しいのかな・・・・・・。
そんなことを考えている間も、自己紹介は進んでいく。
「俺も初めましてだな。俺は、ギルド『風林火山』のリーダをやってる『クライン』だ。アキラ、よろしくな!」
「俺は『エギル』っていうんだ。五十層に俺の店があるから、よかったら今度来てくれよな。」
そう言って自己紹介を終えると、アキラは「よろしくお願いします!」と言って、再び深く頭を下げた。しかしエギルの奴、自己紹介の中に自分の店の宣伝を入れるとは・・・。こいつの商人魂には感服だな・・・。
すると、丁度タイミング良く料理が運ばれてくる。俺たちが注文したのはカルボナーラっぽい何かだった。見た目はほぼカルボナーラだな。そう思いながらそれを口に運び、咀嚼する。NPCレストランにしては中々に美味だった。それを証明するかの如く、クラインはひたすら料理を口に運んでいた。アスナはいつもと変わらぬ食事風景だが、以外にもエギルの食事の仕方がクラインと同じで無かったことに驚いていた。アキラは、こちらにチラチラと視線を送りながら、小さい一口を口に運んでいた。一体どうしたんだろうか。俺に何かおかしなところでもあるのかな。
気になった俺は、食事の手を止めて彼に聞く。
「アキラ、どうかした?俺に何かおかしなところでもある?」
すると、彼は「はわっ!?」などと言いながら頬を若干赤く染めて、
「い、いえ、何でも無いです!キリトさんにおかしなところなんかありません!!」
と言ってきた。あまりの勢いに、俺は若干たじろいでしまう。
「お、おう・・・。そうか・・・・・。」
すると、この場の状況を察したのか、アキラは先ほどよりも頬を紅潮させ、
「はう~・・・。」
と言って、そのまま俯いてしまった。俺は、何故かそのしぐさにドキッとしてしまった。すると、アスナがすごい威圧感を放つ視線で俺を見ていた。俺はそのあまりの鋭さに思わず視線を逸らしてしまう。でも、俺が一体何をしたんだろうか・・・。
そんなことがありながらも俺たちは食事を完食すると、これからの予定を改めて話し合う。
「それじゃあ、この後はスキルの検証すんだよな?」
クラインの質問に、アスナが水を一口飲んだ後に答える。
「ええ、そうよ。新出のスキルだから効果も知っておきたいし、早く情報屋にもこの情報を公開したいしね。」
そう言った後、アスナは「あっ!」と言って手をポンと合わせると、あることを提案する。
「アキラ君。この後何か予定はある?」
「・・・いえ、特には無いですけど・・・・・。」
「じゃあさ、私たちこれから進出したスキルの効果を検証するんだけど、あなたも一緒にどう?」
アスナの提案に、先ほど俺に見せた笑顔を見せること無く返答する。
「・・・僕は別に構いませんけど、他の皆さんは・・・・。」
そう言うと、アキラは俺たちに視線を送ってきた。俺たちは、嫌がる素振りを見せること無く答える。
「俺は別に構わねーぜ。おめぇのスキルも見てみたいしな。」
と、クラインが答え、
「俺もだ。提供出来る情報が増えるし、アキラの実力も知りたいしな。」
と、エギルも続く。
俺も嫌では無いので、もちろん良いという返事をする。
「俺も別に構わないよ。嫌がる理由なんか無いしね。」
俺の返事を聞いたアキラは、途端に笑顔を輝かせ、
「本当にいいんですか!?」
と再度聞いてきた。俺が「もちろん。」と答えると、彼は「やったー!」と言って喜んでいた。ふと視線を移すと、エギルとクラインが温かい視線でこちらを見ていた。なんだろうかと思っていると、アスナが耳元で質問してくる。
「ねえキリト君。アキラ君のこと、どう思う?」
「どう思うって・・・。俺は可愛い弟って感じかな・・・・・。」
そう答えると、アスナは鋭い視線を送りながら、
「本当だよね?」
と聞いてきた。俺は瞬時に「おう。」と答える。するとアスナは、安堵した表情を見せていた。何だろうかと思っていると、アキラが俺の装備について肝心なことを聞いてくる。
「そう言えば、キリトさん。剣はどうするんですか?」
俺はその一言で背筋にゾッとするものが走った。
「・・・・・どうしよう。リズに謝りに行かなきゃならないのは分かってるが、行ったら問答無用で殺されそうだ・・・・・。」
「それは仕方無いわよ。事情を説明して分かってもらうしか無いわ。それにしても・・・・・、どうしよう。キリト君の二本目の剣・・・。」
改めて説明しておくが、俺の持つ二本の剣のうちの一本である『ダークリパルサー』は、ヒースクリフとの戦闘で折れてしまっていた。現在の俺の武器は『エリュシデータ』一本のみである。出来ればもう一度五十五層にある『クリスタライト・インゴット』を取りに行きたいところだが、そうそう出るものでも無いため、俺は頭を抱えていた。
そんなこんなで悩んでいると、アキラが何かをひらめいたようで、すぐに提案を出す。
「キリトさん、それじゃあスキル検証と武具素材の獲得を兼ねて七十六層の迷宮区に行きませんか?ついでにマッピングも出来て一石二鳥だと思うんですが・・・。」
「ふむ・・・。なるほど・・・・・。」
俺はアキラの提案に内心では賛成だった。おそらくまだ誰も潜っていないであろう場所に行くというのは、好奇心を否応なく駆り立てる。
「俺は賛成だな。皆は?」
「面白そうじゃねえか。俺は乗ったぜ。」
「何か良いアイテムがあるかもしれねぇしな。俺も賛成だ。」
「私はあまり気は進まないけど、この人数なら特に心配すること無いしね。私も賛成よ。」
皆、それぞれの理由で賛成してくれた。アスナが一番理論的な賛成意見で、クラインは俺と全く変わらない理由だな。エギルの意見は以下省略。
「よし、それじゃ行くか!」
「「「「お~!」」」」
号令一下、意見がまとまった俺たちは、支払いをクラインに押し付け(さっきの仕返し)、七十六層の迷宮区に向けて出発した。
「せあっ!!」
気合いを入れる一言と共に、俺は≪ホリゾンタル・スクエア≫を発動させ、≪リザードマンロード≫を四回連続で水平に斬り付けた。そして、正方形のエフェクトが俺の周りから発せられる。
「ぐるおあっ!!」
リザードマンロードが叫んだ直後、奴の剣が緑色のエフェクトを帯び始めた。単発突進剣技≪イグナイト・ギア≫が発動される。
俺は即座に反応すると、かつてクラディールに放った≪ソニックリープ≫の構えをとり、奴を迎撃する準備を整える。
奴の突進に合わせるように、俺も飛び出す。そして、俺は右から薙ぎ払われる曲刀に目掛けて、下から剣を振り上げる。
直後、ガキン!!という音と共に、奴の武器が根元からへし折れた。俺はその隙を見逃さずにすかさず、
「スイッチ!!」
と言って後ろに飛びのいた。直後、右後ろからクラインが現れ、≪カタナ≫スキルの上級剣技である≪カゲロウ≫を発動する。
「うおりゃあ!」
左斜め下からの切り上げ、右斜め上からの切り下ろし、右横の薙ぎ払い、胸部への突きという四連続の攻撃を食らったリザードマンロードは、絶叫と共にポリゴンと化して爆散した。それを確認した俺たちは武器をしまい、マップを表示しながら歩を進める。
「しっかし、新スキルを試す暇が無えな・・・・。」
クラインの呟きに、俺は同意する。
「全くだよ。試そうと思っても、その前に敵がやられちゃうんじゃ、意味無いからな。」
「もしかしたら、もっと先の層で使うのかもしれないですね・・・。」
すかさず、アキラが会話に混ざってきた。でも、あいつの言うこともあり得るよな・・・。
そんなことを考えながら進んでいると、アスナが何かに気が付いたのか足を止め、俺たちを呼び止める。
「キリト君、皆!ちょっとこっち見て!!」
アスナの言う方向に目を向けると、そこには一筋の細い道があり、奥に鮮やかな白の扉があった。いままで一本道だったので、俺たちはこの分岐に大いに好奇心が湧いた。
「なあ、ちょっと言ってみようぜ?」
その一言を皮切りに俺たちは頷くと、扉に向かって歩き始めた。
扉の前に到着すると、俺たちは一度立ち止まる。
「ボスの部屋じゃ無さそうだけど、一応転移結晶を用意しといてくれ。」
俺は皆にそう言うと、結晶を実体化させてコートのポケットに押し込んだ。他の皆もそれぞれ用意を行った。
「よし、開けよう。」
俺はそう言って扉に手を合わせた。皆も後に続いて扉に手を当てる。そして、俺たちは扉を開け放った。
中を除くと、かなりの大きさの円形のドームの中に、宝箱と思われるものが二つあった。
「おぉ、宝箱じゃん!!ラッキー!!」
そう言って、クラインは駈け出していく。しかし、ある一定の距離に近づいた瞬間、扉が音を立てて閉まった。俺たちは驚愕する。
「ど、どういうことだ!?何で扉が閉まるんだ!?」
エギルが野太い声で動揺を表わす。まさか、これはトラップか!?ってことはまさか・・・。
「クライン!こっちへ戻れ!!早く!!」
俺は瞬時にそう叫んでいた。これはヤバイ!!ボス部屋と同じ仕組みのトラップなら間違いなく・・・・・。
「お、おう!分かった!!」
戸惑いながらも、クラインはこちらに向かって走り出す。だが直後、天井から巨大な斧が降り注ぎ、地面を直撃した。そのあまりの風圧にクラインは吹き飛ばされ、こちらに転がって来る。
直後、その斧を超える巨体が下りてきた。視線を向けると、なんとHPバーが出現していた。量は七十五層のボスと同じ五本、そして、名前は――
「コンビクション・・・・・アックス・・・・・。」
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皆さん、こんにちは! sukikaです。
アンケートの結果を発表します。
キリト君の剣は、リズベット作成によるプレイヤーメイドに決まりました。
素材などは物語の中でのお楽しみに。
そして、今回から小説の書き方を少々変更させて頂きました。
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