No.518144

初恋Answer

saitou2021さん

文芸部としての自分のデビュー作です。が、顧問と先輩からはボロクソ言われましたし、自分でもお世辞にもいい出来とは言える作品じゃありません。それでもよければ見てやってください。あと、更新が滞っててすみません、PCが故障やらテストやら修学旅行で手間取ってしまって…すいません

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2012-12-13 19:15:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:553   閲覧ユーザー数:552

大切なものは失って初めてその大切さに気付くと、何かの歌の歌詞で聴いたことがある

ような気がする。初めてその歌詞を聴いたときは「そんなものなのかねぇ」と完全に

無関心だったのを覚えている。だが、今ならその歌詞の意味が痛いほど解る。

……大切な妹を失った、今の俺なら。

 

「じゃあ、葬式の時間までには戻ってきなさいよ」

 

「あぁ、わかってるよ母さん」

 

3日前、俺のたった1人の妹、柚木舞夏が他界した。享年15歳。死因は心臓病。

小柄な身体に、透き通った黒髪。栗色のつぶらな瞳に砂糖菓子のように甘い声。

俺を慕い、よく甘えてきた、明るく人懐っこい性格の女の子だった。

いつも俺の隣にいた舞夏。隣にいるのが当たり前だと思っていた。だから俺は最初、

舞夏の死を受け入れられなかった。いや、受け入れたくなかった。

受け入れてしまえば、俺の世界が終ってしまうような気がしたからだ。

だが、現実と言うものは、切っても切れない存在らしい。結局俺は、舞夏の死を

受け入れる事を強いられ、それを自覚したと同時に理性を失った獣のように泣き叫んだ

のを今でも鮮明に思い出せる。

 

「っ……寒」

 

凍えるような秋風が心の傷口を抉るように俺の身体を撫でてゆく。身も心も寒い。

本当は外に出たくなんてなかった。だが、どうしても行きたい、いや、行かなければな

らない場所があった。近所の公園に着いた。昔よく、舞夏と2人でここで遊んだもんだ。

だが、ここが目的の場所じゃない。俺は公園の隅っこにある雑木林に身を投げる。

この先に、俺と舞夏しか知らない、この街を見渡せる秘密の絶景スポットがあるのだ。

生い茂る雑草を払いのけしばらく進んでいくと、一条の光が射し出口が見えた。

俺は一気に雑草を払いながら、差し込む光に向かって突っ込んだ。

 

「よ……っと」

 

到着。俺は身体についた雑草を手で払いのけながら、足を一歩踏み出そうと視線を前方

に向ける。すると、1人の少女の後ろ姿が俺の眼球を貫いた。……先客か?

……こんな所に、女の子が1人で?

俺はいぶかしんだ表情を浮かべながら、その女の子に近づいて行く。俺の気配を察し

たのか、女の子の顔がゆっくりとこちらに向いてくる。

そして…ありえないものが俺の視界に飛び込んできた。

今までに味わったことのない、形容し難い感情が電撃のように駆け抜け、熱湯を

ぶっかけられたかのように胸と熱くなる。更に、耳元で大音量の音楽を流されている

かのような錯覚を覚える程に心臓の音がうるさく轟く。

嘘だ。だってあいつは死んだはずなのに。あまりのありえない事象に対し、脳が

処理しきれず、脳髄がドロドロととろけていくかのような感覚に陥りそうになるが、

寸でのところで正気を釣り上げ、自我を保つ。俺が呆然と彼女の姿を見つめていると、

少女はくすっ、と柔らかく微笑み―――

 

「3日ぶりかな、お兄ちゃん」

 

そう、言ってきた。その声を聴いた瞬間、身体中の全神経を侵していた不快感が

一気に昇華する。代わりに、目頭に熱が一気に集中する。気付けば俺は涙を流していた。

しかし、何故死んだはずの舞夏がここにいるんだ?

舞夏は俺の心の内を察したのか、その疑問に対する答えと思われる言の葉を小さな口

から紡ぎだした。

 

「この世に未練があったから、幽霊になって戻ってきちゃった」

 

とんでもないことをサラッと言ってのける舞夏。そんな超常的なこと、あっていいのか?

いや、今はそんなことどうでもいい。この現象がどのような原理で起きているかなんて

知ったことか。何にせよ、目の前に舞夏がいる。俺にとってはその現実だけで今は十分だ。

俺は、本能のままに足を動かし、半ば突っ込むような形で舞夏を抱きしめようとする。

が、舞夏の身体に触れる事はなく、俺の両腕は空を切るだけだった。何で……?

 

「ごめんね、お兄ちゃん。私、幽霊だから」

 

……そうか。霊体だから実体はないということなのか。俺はガックリ肩を落とし、

近くにあった少し大きめの切り株に腰をかける。舞夏も俺の隣に腰をかける。

俺が舞夏に目を向けると、舞夏も俺に目を向け、人懐っこい笑みを浮かべてくる。

これが幽霊だなんて信じられない。

 

「そういえば……未練があって、幽霊になったって言ったよな?その未練って?」

 

「…うん。お兄ちゃんには言ったことあるよね。私の、初恋の人のこと」

 

今でも鮮明に覚えている。ある日舞夏が突然、恋愛相談に乗ってほしいと俺の部屋を

訪ねてきたことがあったのだ。何でも舞夏はその人のことが小さい頃からずっと好き

だったらしいのだが、幾度アピールを重ねてもその人は鈍感だから舞夏の気持ちに

気付いてくれなかったらしい。なので、どうすれば自分の気持ちをその人に伝えられる

のかと、舞夏に訊かれたことがあったのだ。

 

「どうすればその初恋の人に想いを伝えられるかって訊いてきたんだよな。

それで俺は……」

 

「ストレートに伝えればいいって、お兄ちゃんは言ってくれたんだよね」

 

そうだ。そいつが舞夏の一生懸命なアピールに気付かない鈍感野郎なら、舞夏のその

純粋な想いを直球にぶつければいいと俺は言ってやったのだ。そういえば、その後は

どうなったのだろう。舞夏の恋は叶ったのだろうか、それとも……。

 

「お兄ちゃん、ごめん。結局私……伝えられなかったの」

 

「そう、なのか。ってことは舞夏の未練ってのは、その人に想いを伝えられなかったってことか?」

 

舞夏はコクンと頷く。ならば叶えてやらねばなるまい。妹の願いを叶えてやるのは兄の

義務だ。と言ってもどういう方法があるだろうか。色々あるが一番無難なのは、手紙の

代筆だろう。舞夏の想いを、俺が手紙に綴り想い人に渡し、読んでもらう。

うん、ベストだと思う。のだが、問題は舞夏の想い人の所在、及び名前が判らない

というところだ。俺は舞夏に幾度か好きな人は誰なのか訊ねてみたが頑なに口を

閉ざし、結局最後まで教えてくれなかったのだ。なら、まずはそこからだろう。

 

「なぁ、舞夏。お前の好きな人って結局誰なんだ?それがわからないことにはどうにもならないぞ」

 

舞夏は俺の言葉を聴いた瞬間、そこか切なそうな表情を浮かべ、そのまま顔を伏せて

しまった。うーん。確かに言いにくいのはわかるがこのままじゃ進めるものも

進めない。どうしたもんか……。

俺が腕を組んで悩んでいると舞夏が顔を上げ、声をかけてきた。

 

「わかった、教えるよ。でもその前に行きたい場所があるんだけど、いい?」

 

 

 

……

………

 

 

舞夏が行きたいと言った場所は我が家…もっと言えば、俺の部屋だった。

俺の部屋に入ると、舞夏は俺と話がしたいと言ったので他愛のない会話をしばらく

続けてた。

そして舞夏は突然、俺と舞夏の思い出アルバムを見たいと言うので、希望通り押入れの

中から俺達の思い出が詰まっているアルバムを取り出した。

今こうやって見てみると、すごく懐かしく感じる。

 

「懐かしいね……」

 

「あぁ……本当に」

 

舞夏との全ての思い出が、記憶が、この一冊のアルバムに詰め込まれている。

小学校の運動会の写真。1,2年合同の2人3脚で俺と舞夏がペアになって、

一緒に練習とかしたっけ。結果、一位はとれなかったが俺と舞夏、2人とも笑顔

だった気がする。

中学の頃、2人で夏祭りに行った時の写真。浴衣姿の舞夏はそれはもう反則的な

可愛さだった。同級生達に見つかり、からかわれ、写真を撮られたんだっけ。

舞夏の高校入学式の写真。舞夏は俺よりも成績がよく、もっと上の高校を狙えた

にも拘わらず、「お兄ちゃんと一緒の所がいい」とわざわざランクを下げて、

俺のいる高校に入学してきたのだ。言葉にはしなかったが、すごく嬉しかった。

今年の夏、何人かの友人も含め海に行った時の写真。

舞夏は水着姿にも拘わらず、いつものように俺にベタベタとくっついてきて

非常に困ったのを覚えている。その光景をを、やはり友人達にからかわれ

写真を撮られたんだ。

俺の想い出の中に、舞夏がいないページはない。

こうやってアルバムを見返していると、改めてそう感じる事が出来る。

アルバムを見終わり、パタンと静かに閉じる。

 

「…………」

 

お互いに沈黙。だが、気まずい沈黙ではない。どこか温かく、優しい沈黙。

優しい静寂がしばらく続くかと思われたが、舞夏があっさりそれを破ってしまった。

 

「お兄ちゃん、ありがとう。私、決心した。告白するよ」

 

「……そうか」

 

アルバムを見て勇気をもらったのか、舞夏は告白する決心をしたらしい。

嬉しいような、寂しいような。そんな複雑な心情だ。

娘を嫁に出す父というのはこういう気持ちなのだろうか。何にせよ俺の出番は

ここまでだな。あとは舞夏がその好きな人に告白すれば―――

 

「お兄ちゃん。……ううん。柚木蒼太さん。あなたのことが、ずっと、ずっと

大好きでした」

 

「……え?」

 

「妹として、1人の女の子として。あなたをずっと見ていました。

私の、初恋の人でした」

 

今、この瞬間にどのような事象が起こっているのか理解しかねた。

だが、徐々に答えを導き出していく。じわりと広がる胸の苦くて温かくて

甘くて、優しい感情。これが、舞夏の初恋の答えなのだろうか?

 

「大好き」

 

舞夏が足を一歩踏み出す。そして、柔らかいものが俺の唇に触れた。

触れた先から熱が伝わり、火傷してしまうんじゃないかと思わず考えてしまう。

だがその熱以上に唇に伝わるのは甘酸っぱい「何か」の味。

唇の先から溶けてしまうんじゃないかと彷彿させるほどの甘酸っぱさ。

その「何か」の正体は、舞夏の唇だった。これはいわゆる、キスという行為なのだろう。

愛する人同士が行う、神聖な行為。俺は舞夏とキスしたのだ。

 

「これでもう、思い残すことはないよ」

 

刹那、舞夏の姿が徐々に薄くなっていく。…そうだ。何故気がつかなかったんだ。

未練を晴らすとはつまりそういうこと。成仏するということだ。

つまり今度こそ正真正銘舞夏との別離。俺は馬鹿だ。何故気付かなかったんだ。

 

「嫌だ、行かないでくれ舞夏!せっかく戻ってきたのに、何でまた行っちゃうんだよ!!」

 

その問いに対して舞夏は口を開かない。どうしてだ。どうして、どうして。

そんな疑問ばかりが俺の脳内で渦を巻く。自縛霊だろうが守護霊だろうが構わない。

舞夏が側にいてくれればそれでいい。そうだ、未練が残ればいいんだ。

舞夏の未練が残ればいいんだ。舞夏の未練が残れば、舞夏はまだここにいれる。

怨まれたって憎まれたって良い。ここにいてくれ、舞夏!

 

「嫌いだ!舞夏なんて嫌いだ、大っ嫌いだ!!だから行くな、行くんじゃねぇ!!」

 

「お兄ちゃん、言ってること矛盾してるよ……あはは」

 

互いに涙を流す。あぁ、泣かせてしまった。俺は最低の最低の兄貴だ。舞夏の兄失格だ。

でも俺には耐えられない。舞夏がいない世界なんて。絶対に耐えられない。

俺だって舞夏のことが好きだ、愛している。

離れ離れなんて嫌だ。嫌だ、嫌だ!

俺が止めどなく涙を流していると、舞夏はそれを包み込むように俺を抱きしめた。

さっきまで触れられなかったのに今は何故か触れる事が出来る。どういう原理なのかは

知らない。いや、どうでもいい。

今重要なのは俺が舞夏に抱きしめられているという事実、ただそれだけ。

 

「私、お兄ちゃんがお兄ちゃんで……本当によかったよ」

 

舞夏が涙色の声で俺にそう言ってくれる。その言葉を聴いた瞬間、俺の中の哀しみが

全て霧散した気がした。

 

「だから、ね。私……生まれ変わっても、お兄ちゃんの妹がいいな」

 

溢れだす想いは止まることは知らない。俺はたまらず、叫ぶように想いを舞夏にぶつける。

 

「俺もっ……生まれ変わってもお前の兄がいい!!いや、そうじゃなきゃ嫌だ!!

お前以外ありえない!!」

 

 

「……うん」

 

舞夏は涙を拭い、笑顔を浮かべて頷いた。今、舞夏を引きとめる言葉をかけるのは

簡単なことだ。だが、それは間違いじゃないのか?

笑顔で舞夏を見送るのが、俺の答えの気がした。

 

「じゃあ、お兄ちゃん。いってきます」

 

「……あぁ。いってらっしゃい、舞夏」

 

俺は涙を飲み込み、舞夏を見送る。

そして、次の瞬間に発する言葉は、2人の永遠を誓う約束の言葉―――

「生まれ変わっても、また兄妹で」

その言葉を最期に、柚木舞夏はこの世を去った。

 

 

 

……

………

 

 

「お兄ちゃーん!早くしないと卒業式遅れちゃうよー!」

 

「わかってるって!今行くから待ってろ!」

 

桜咲く春。今日もまた、少年と少女は歩みだす。

あの日交わした約束を胸に刻みながら、永遠を駆け抜けていく。

2人の胸に宿る、このほろ苦くて甘酸っぱい気持ちの答えを求めて。

 

 

 

 

 


 
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