No.517433

ソードアート・オンライン ロスト・オブ・ライトニング 第十三話 最後の関門へ

やぎすけさん

今回は、やや短めです

2012-12-11 19:33:06 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2266   閲覧ユーザー数:2167

デュオ視点

翌日、不眠不休のままログインすると、目の前でリーファが膝を抱えるようにして蹲っていた。

 

デュオ「リーファ・・・?」

 

心配して声を掛けると、リーファは顔を上げた。

その目には大粒の涙が溜まっている。

 

リーファ「デュオ君・・・」

 

デュオ「何があったんだ・・・?」

 

リーファ「あたしね・・・失恋しちゃった・・・」

 

その言葉とともに、一粒の雫がリーファの頬を伝う。

涙を流しながら浮かべたリーファの笑顔は、とても悲しげでとても辛そうなものだった。

 

リーファ「・・・ごめんね・・・リアルのことをこっちに持ち込むのはマナー違反だよね・・・」

 

そう言って、リーファは両手で顔を隠す。

俺には、どうしたらいいのかわからなかった。

俺には今まで恋愛感情が無かったため失恋というものを経験したことも無い。

ゆえに、その時どう感じるのかも、何をすれば正しいのかもわからない。

だけど、家族を失い、友達を失い、生きる希望さえも失っていた俺は喪失することの辛さを知っている。

俺はそっと両手を伸ばすと、リーファの華奢な体を優しく抱きしめた。

 

リーファ「・・・っ!?でゅ、デュオ君・・・!?」

 

慌てたような声を出すリーファに、俺は思ったことをそのまま口にする。

 

デュオ「俺は失恋したことが無い、だから今のリーファの気持ちはわからない。だけど、何かを失う辛さはわかるよ。」

 

そこまで言うと、リーファは俺に体を預けてきた。

俺はリーファの頭を撫でてから続ける。

 

デュオ「辛いときは泣いて良いんだ。現実(むこう)でも仮想現実(こっち)でも同じことだ。だから、俺やキリトの前ではそういうことは気にしなくて良いよ。泣きたい時は思い切り泣けばいいさ。」

 

俺が言い終わると、リーファは声を上げて泣き始めた。

彼女が泣き止むまでの間、俺はずっと彼女の頭を撫で続けた。

 

デュオ〈少しシリカと似てるな。でも、シリカみたいに素直じゃないから辛いことを我慢しやすいんだろうな。〉

 

そんなことを考えながら、俺はリーファが泣き止むのを待った。

しばらくして泣き止んだリーファは、前よりもずっとすっきりした様子だった。

 

デュオ「もういいのか・・・?」

 

リーファ「うん、ありがとう。お蔭で元気出たわ。」

 

デュオ「それはよかった。」

 

俺はそう言った後、愛剣ブレイズダスクと愛用のコートを装備し、アイテム残量をざっと確認した後、煙草を取り出して口に咥える。

息を吸い込むと、口の中をさわやかなミントの香りが満たし、薄緑色の煙が細くたなびいて部屋の空気に溶ける。

その時、ちょうどキリトがログインしてきた。

 

キリト「お待たせ。」

 

デュオ「いや、俺たちも今来たところだ。」

 

キリト「そうか、ならよかった。」

 

キリトも剣とコートを装備すると、リーファも長刀を装備した。

 

デュオ「それじゃ、行きますか。」

 

キリト「おう!」

 

リーファ「うん!」

 

俺たち部屋から出て行った。

宿舎を出ると、ALO内はだんだんと朝日が高くなっていく時間帯だった。

現実世界ではまだ午後三時過ぎだが、定期メンテナンス直後のためか人通りは少なくない。

がっちりした体つきのノームやエナメル質の装備を纏ったインプ、竪琴を奏でるプーカなど様々な種族の妖精たちが自由に行き交うその通りの先には、円錐状に屹立する積層都市が広がっている。

だんだんと上に向かって重なり合うように広がる都市を抜けて、俺たちはアルンの大通りを歩いて行った。

しばらく行くと、前方に石段と白いゲートが見え始めた。

だいぶ近づいたせいで全貌が見えず、世界樹はもはや巨大な壁だ。

その時、突然ユイがキリトの胸ポケットから顔を出し、まっすぐに、上を見つめ出したのだ。

それを見たキリトが、戸惑ったような声を上げる。

 

キリト「お、おい・・・どうしたんだ?」

 

ユイ「ママ・・・ママがいます」

 

そうユイがつぶやいたのはアルン中央へ向かうゲートの前だった。

その言葉にキリトは周りも気にせず叫んだ

 

キリト「本当か!?」

 

ユイ「間違いありません!このプレイヤーIDは、ママのものです。座標は・・・まっすぐこの上空です!」

 

それを聞いたキリトの行動は早かった。

視線を空に向け歯を食い縛ると、背中の翅を広げ上空に弾丸のように飛び出した。

 

デュオ「バカ・・・!!」

 

俺もキリトの後を追って地面を蹴る。

信じられないスピードで飛翔するキリトを追って加速するが、それでもキリトに追いつくことは出来ない。

雲を抜けるが、それでもキリトは上昇を止めようとしない。

その時、キリトが光の壁に激突して落下を始める。

 

デュオ「キリト!!」

 

俺はキリトに接近すると、落ちてくるキリトを受け止めようとするが、その前に意識を取り戻したキリトは先ほど阻まれた障壁に再び突進する。

 

デュオ「キリト・・・」

 

何度阻まれても突進を止めようとしないキリトを、俺は止めようとはしなかった。

だが、俺のさらに後ろから飛んできたリーファが、キリトの腕を掴んでキリトを止める。

 

リーファ「やめて、キリト君!!無理だよ!!そこから先には行けないんだよ!!」

 

キリト「行かなきゃ・・・行かなきゃいけないんだ!!」

 

デュオ「どうやって行くって言うんだ?」

 

見るに耐えなくなった俺は、キリトに問う。

 

キリト「それは・・・」

 

デュオ「はっきり言って悪いが、今お前がやってるのは限りなく無駄に近い行為だ。」

 

キリト「それでも・・・!!」

 

デュオ「別に諦めろって言ってるわけじゃない。お前がダメでもユイならいける可能性がある。」

 

キリト「っ・・・!!ユイ!」

 

ユイ「はい!!」

 

キリトの言葉にユイはうなずくと上昇して行くが、障壁はユイの小さな体さえも頑なに拒んだ。

だがユイは諦めずに言う。

 

ユイ「警告モード音声なら届くかもしれません・・・!ママ!!わたしです!!ママ!!」

 

必死の面持ちでユイはしばらくの間叫び続けていたが、やがて諦めたのかしゅんとなってキリトの胸ポケットの中へと戻った。

その時、ユイの言葉に反応してか上空からキラキラと一枚のカードが落ちてきた

キリトはそれをキャッチする。

 

キリト「カード・・・?」

 

キリトが小さな長方形のカードを見ながら呟く。

 

キリト「リーファ、これ、何だかわかる・・・?」

 

リーファ「ううん。こんなアイテム見たこと無い。」

 

見せられたカードを見て、リーファが首を横に振るとユイがそれに触れる。

 

ユイ「これ・・・これは、システム管理用のアクセス・コードです!!」

 

キリト「・・・じゃあ、これがあればGM権限が行使できるのか?」

 

ユイ「いえ・・・ゲーム内からシステムにアクセスするには、対応するコンソールが必要です。わたしでもシステムメニューは呼び出せないんです・・・」

 

キリト「そうか・・・でも、そんなものが理由もなく落ちてくるわけがないよな。これは、多分・・・」

 

ユイ「はい!ママが私達に気づいて落としたんだと思います。」

 

キリトはそのカードを黙ってじっと見てから、リーファを見る。

 

キリト「・・・リーファ、教えてくれ。世界樹の中に通じてるっていうゲートはどこにあるんだ?」

 

リーファ「え・・・樹の根元にあるドームの中だけど・・・で、でも無理だよ!!あそこはガーディアンに守られてて、今までどんな大軍でも突破できなかったんだよ!!」

 

キリト「それでも、行かなきゃいけないんだ。」

 

キリトはカードを胸ポケットに収める。

 

キリト「リーファ、今まで本当に、ありがとう。ここからは俺とデュオだけで行くよ」

 

リーファ「キリト君・・・」

 

手を取って礼を良い、振り向いたキリトに、リーファは泣きそうな顔で見るがそれを振り切って、キリトはリーファから手を離し、頭を下げる。

そして身をひるがえすと、下に向かって一直線に降下して行った。

 

リーファ「デュオ君も行くの?」

 

デュオ「ああ、俺たちはこの仕事を終わらせないと、前に進むことが出来ないんだ。」

 

リーファ「あたし・・・」

 

デュオ「ここまで、ありがとう。楽しかったよ。でも、俺ももう行くよ。」

 

先に落下していったキリトを追って、俺も落下を開始する。

俺は振り返らない。

涙交じりのリーファの声を背に、俺たちは最後の関門へと向かった。


 
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