No.517069

Masked Rider in Nanoha 四十九話 Pray~永遠のために君のために~

MRZさん

邪眼相手に苦戦を強いられるライダー達。それでも彼らは決して諦める事なく戦い続ける。その姿に負けじとなのは達もそれぞれの相手との決着を着けようとしていた。
全ては、みんなの笑顔を守るためにと……

2012-12-10 09:35:15 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:1811   閲覧ユーザー数:1781

 ゆりかごについたRXはすぐに邪眼がいるだろう玉座の間へ向かって走り出した。邪眼の本体がいるとすれば、それは玉座しかないと思ったからだ。だがその行動はすぐに終わりを迎えた。

 

「待っていたぞ、世紀王」

「邪眼……っ!」

 

 突如として空間が歪み、邪眼が現れたのだ。その姿は彼の予想通りRXと同じ姿。黒い目をした漆黒のRX。まさしくBLACKだ。そんな全身を闇のような色で包んだ邪眼を見つめ、RXは構えた。

 

「ここで貴様を倒し、真のキングストーンを手に入れる」

「そうはいかん! 俺は、俺達は必ずお前の野望を打ち破ってみせるっ!」

 

 RXは力強く宣言すると邪眼へ向かって走り出す。RXは邪眼の姿を見て嫌な予感を覚えていた。本来はキングストーンが太陽エネルギーを受けて変化したBLACKがRX。故に姿を模しても力は同等と出来るはずはない。だが、邪眼が姿だけで満足するだろうか。そこまで考え、RXは一つの推測を立てる。それが外れていて欲しいと思いながらRXは邪眼へ拳を繰り出した。

 それを当然邪眼は受け止める。その力はRXとほぼ互角。それだけで彼は自身の嫌な予感が当たった事を感じ取る。クウガとアギトの力を融合させたかもしれない自分。それと同じような力を有しているだけで確信が出来たのだ。

 

「邪眼、答えろ! 貴様はキングストーンをどこで手に入れた!」

「ほう、気付きおったか。ならば教えてやる。レリックと呼ばれる石。あれこそがキングストーンの原石だったのだ」

「何っ!?」

「地球外よりもたらされたのは間違いではなかったのだ。しかし、まさかこの世界がキングストーンを産出していたとはな」

「では、キングストーンもアマダムも基はレリック……いや、レリックこそがアマダムと言うのか!」

 

 RXは合点がいったとばかりにそう告げた。次元漂流者ならぬ次元漂流物。それが自分とクウガの力の源だった。そう考えると、この世界に自分が呼ばれた理由がまた少し変わってくる。邪眼と戦うためだけではなく災いを呼ぶだろう石を砕くために遣わされたのではないか。恐ろしい力を持つ石。それを正しい事に使える自分が間違った事に使われる事を止めるために。そして、二度とその力を使えぬようにと。

 

「そうだ。故に今の我は貴様と大差ない力を有している。古に取り込もうとし、吸収出来なかった光の力。その欠片を何とかかき集める事でな!」

「やはり貴様はアギトの力に敗れたのか!」

 

 邪眼の言葉にRXは自分の予想が当たっていたと知り、この姿へ至れた原因に納得した。アマダムを取り込み、アギトの光を僅かにだが加えた事で近い存在へとなったのだろうと。そこで邪眼がRXへ蹴りを放つ。それを残った片腕で迎撃し、お返しとばかりにRXは即座に蹴りを放った。

 邪眼がそれを叩き落しもう一度攻撃を加えようとする。だが、それを嫌いRXが一旦距離を取った。そして彼は邪眼がどこまで自分と近い能力を有したのかを確かめるために、ここはダメージ覚悟で動こうと決意する。

 

「トゥア!」

 

 跳び上がり、そこから後方宙返りをしながら蹴りの体勢へと移行する。それを見て邪眼も負けじと跳び上がり、前方宙返りから同じ姿勢へ移行した。

 

「RX! キックッ!」

「しゃらくさいっ!」

 

 ぶつかり合う両者。しかしその拮抗は長くは続かなかった。邪眼は両手から電撃を放ちRXの体勢を崩したのだ。それにより邪眼がRXを蹴り飛ばす。床に激しく叩き付けられるRX。邪眼は余裕さえ感じさせるように着地すると悠然と構えた。

 対するRXも立ち上がったものの、その胸からは白い煙が出ている。電撃によるダメージと蹴りのダメージ。それが集中したために。胸を押さえながら彼は邪眼の力を把握し悟る。純粋な力は互角程度。だが、そこに邪眼特有の特殊能力が加わる事で自分の上をいくと。

 

(このままでは不味いかもしれない。せめて太陽の光さえ差し込んでいれば……)

 

 体を襲う痛みを感じてRXは視線を上へと向けた。そこには当然ながら天井がある。万物を照らす光はない。何とかして太陽の光を差し込ませれば勝ち目はある。そう考えるRXだったが、その方法を思いつく前に邪眼が電撃を放った。

 それをかわし、RXは戦いながらその方法を考えるしかないと動く。自分の隠しているもう一つの姿。それを使うのはそれを思いついた後かそのための手段にしようと考えて、今は電撃に対抗するべくロボライダーへ姿を変えたのだ。

 

「ボルティックシューター!」

「喰らえっ!」

 

 ロボライダーが放つ攻撃を邪眼は電撃で迎え撃つ。地上本部での戦いでは連射速度で勝ったボルティックシューター。しかし、邪眼が鈍重な姿から素早い動きを可能とした姿へ変わったためにその連射が通用しなくなっていた。

 ロボライダーの動きは遅い。そのため、邪眼は動きながら電撃を放つ事で連射速度の低さを補っていた。前回とは違い邪眼へダメージを与える事が出来ないロボライダーはその体に電撃を受け火花を散らす。

 

「ぐっ! これでは……やられるっ!」

「その姿の貴様の欠点は把握している。長所はその防御力と攻撃力のようだが、反面俊敏性は著しく落ちる事をな!」

 

 邪眼はそう告げるとその場から跳び上がり拳を繰り出した。それを迎撃しようとするロボライダーだったが、その動きは間に合わず邪眼のパンチがその体へ直撃する。その衝撃に軽く飛ばされ、床を転がるロボライダー。そこへ邪眼が追い詰めようと電撃を放った。

 しかしその瞬間ロボライダーがRXへと戻り、素早くその場から離れて電撃を回避する。それに悔しげに邪眼が舌打ちをするのを聞きながらRXは一旦距離を取った。その体には浅からぬダメージが蓄積されている。

 

(ロボライダーでも駄目だ! 奴に対抗するにはやはりバイオライダーしか……待てよ? そうかっ!)

 

 ロボライダーとバイオライダーの二つを使い分ける事。それがRXとなった今の自分の持ち味だ。そう思い出した彼はそこから派生して逆転のための策を思いつく。そのためには邪眼の油断を誘う必要があり、もう一度ダメージ覚悟で邪眼と格闘戦をしなければならなかった。

 それは下手をすれば大きな痛手を負う事になる。だが、それでもRXは躊躇わない。誰がこのピンチを救うのかと自問すれば、答えは自分しかいないのだ。最後に自分を助けるのは諦めない心。いつかエリオへ教えた言葉を思い出してRXは小さく拳を握った。

 

 そんなRXの様子に邪眼が苛立ちを見せる。まだ絶望していない事や諦めが見えない事に。だからだろうか。邪眼はRXの不安を煽る。

 

「何かを思いついたようだが、無駄な事だ。我に勝てる要素はないぞ、世紀王っ!」

「違うっ! 俺は世紀王じゃない! 仮面ライダーだっ!」

 

 ゴルゴムの世紀王ではなく自分は正義の戦士たる仮面ライダーだ。その確固たる信念を告げるRX。それこそは人類を影ながら守り抜いていたヒーローの姿だった。

 

 そしてその姿をしかと受け継いだ者達がいる。本来であれば知るはずのなかった”仮面ライダー”との称号の意味を知り、それに相応しくあろうとする者達が。その中の一人は一人ジェイルラボで戦っていた。

 

「くそっ!」

「死ね!」

 

 ドラグブレードを手にして龍騎は邪眼へ斬りかかろうとするが、それを邪眼が片手から電撃を放つ事で迎え撃つ。その電撃を龍騎は間一髪かわすとそのまま一撃を加える事に成功した。軽く火花が散るもそのダメージを物ともせず、邪眼は龍騎へ拳を叩き込み更に追い撃ちとして電撃も放ちその体を大きく吹き飛ばす。

 

 床を転がる龍騎を見てアギトが悔しそうな顔を浮かべていた。あの後、変化した邪眼はその不気味な翼で飛行して龍騎を徐々に追い詰めていった。しかも強化された邪眼の耐久力はこれまで以上に高く、今のように龍騎の攻撃を敢えて受けて反撃する事もざら。それでも龍騎は未だにユニゾンを使おうとはしなかった。そう、彼は目の前の光景に耐えられなくなり一度駆け寄ったアギトへこう告げたのだ。

 

―――邪眼がファイナルを使ったらユニゾンだ。

 

 それが何を狙っているのかはアギトには理解出来なかった。サバイブでのファイナル自体はもう見ているから同じ事を邪眼もするだろう事は彼女も分かっている。だが、それを使用したらユニゾンとはどういう事なのだろうと。

 しかし、それを詳しく聞く事が出来るはずもなく龍騎はアギトを振り切るように邪眼へ立ち向かっていたのだ。現在彼女は龍騎と邪眼の戦いを見守りながら必死にその時を待ち続けている。時折危ないと思う時もあるが、いざという時に遅れないために距離を一定に保ちながら。

 

「真司! 負けるなっ!」

「おうっ!」

 

 せめて声援だけでも。そう思い、アギトは声の限りに叫ぶ。それを受けて龍騎は邪眼の攻撃を避けながらある仕草を返す。それはサムズアップ。それを見ただけでアギトは分かった。龍騎が諦めていない事を。

 五代を知る者達にとってサムズアップが持つ意味は大きく多い。故にアギトもそれを返す。そして、視線を先程から表示されているモニターへと向けた。そこには同じように邪眼相手に苦戦するライダー達の姿がある。

 

「ちくしょう……翔一にもアタシが力を貸せたら……」

 

 赤い体のアギトが邪眼相手に苦戦している。その体に猛る炎を見て彼女は悔やむ。炎の闘士といった風貌のバーニングフォーム。それとも自分ならばユニゾン出来るだろう。そうすれば邪眼に苦戦する事無く戦えるだろうに。そう思ってアギトは拳を握る。

 それだけではない。実はクウガの基本形もロボライダーもアギトはその気になればユニゾン出来るのだ。マイティフォームは炎を意味しているし、ロボライダーは炎の王子との異名を持つ。それはアギトとの適正がある事を意味しているのだから。

 

 それを知らず、アギトが自分の体が一つしかない事を悔やむ中、龍騎は邪眼相手に悪戦苦闘していた。シュートベントでの射撃は回避されるか手にした盾で防がれ、基本となる地上戦自体でも差をつけられ、更にはその地上戦さえ中々出来ないのだから。

 それでも龍騎は機会を窺っていた。必ず邪眼がとどめを刺しにくる時がやってくる。それは、きっと地上戦となる。そう、自分のファイナルと同じだとすればバイクでの突撃になるだろうからだ。

 

(耐えるんだ。俺は諦めないってあの日誓ったじゃないか! ライダーバトルを終わらせるって決めたんなら、これぐらいで音を上げる事なんか出来ないだろっ!)

 

 自分の中に抱いた叶えたい願い。それを果たすためにもこんな事で諦める訳にはいかない。追い詰められながらも龍騎はそう思って体に力を込める。倒れそうになる自分を励まし、手にしたドラグブレードを構えた。

 

「ふん、まだ抗うか」

「当然だ! 俺だって、仮面ライダーなんだ!」

 

 邪眼の言葉に龍騎は敢然と告げる。それは、彼が本当の意味での仮面ライダーの名を悪へ名乗った瞬間だった……

 

 

「ぐっ!」

 

 アギトの体を邪眼の攻撃が襲う。それを彼は何とか両腕で防いで距離を取った。それを詰めるように邪眼が電撃を放ちながら迫って行く。アギトはその電撃をかわしながら反撃の隙を窺っていた。

 

 今、アギトと対峙している邪眼の姿は最初とは変わっていた。それは漆黒のタイタンフォーム。だが顔だけはアギトのまま。邪眼は超変身を使ってアギトを追い詰めようとしていたのだ。

 最初こそアギトも驚きを隠せなかったが、それでもクウガと救助をしていた日々や五代から聞いていた話などから能力を思い出し何とか対処する事が出来ている。それでも少しずつダメージを負う事は避けられてはいない。そんな中、アギトは一つの光明を見出そうとしていた。

 

(さっきからクウガの超変身はしてくるけどアギトの超変身は使ってこない。 てっきり温存してるのかと思ってたけどこの様子だと違うみたいだ……。そうか! あれはアギトの光がないと出来ない! なら、まだ何とかなるかもしれない!)

 

 アギトが危惧していたのは邪眼がアギトとクウガの超変身を同時に使ってくる事だった。つまり、紫の鎧を装備して防御力を高めた上で腕をフレイムフォームへ変化させて攻撃力を高めるという併用を。

 だが、邪眼は一向にクウガの超変身しか使用してこない。そこから考えてアギトは希望を見出した。そう、彼は同時に三つの姿の力を使える事が出来る。しかし邪眼は一つの姿の能力しか使えないのだから。

 

 そんなアギトの雰囲気から邪眼は何かを感じ取ったのか鼻で笑いような声を出して告げた。

 

「何を考えているかは知らんが、今の我に貴様は勝てん。もう貴様の力の全ては見せてもらったのだからな」

「それがなんだ! まだ俺は戦える。それに、俺が勝つ事を信じてくれてる人達がいるんだ。その思いが俺を勝たせてくれる!」

「馬鹿め! 思いなどで勝てるものかっ!」

 

 この魔法世界で出会った者達の顔を思い出してアギトが告げた言葉。それに邪眼は吐き捨てるように声を返し電撃を放つ。それを両腕で受け止め、アギトは一瞬だけ視線を上へ向けた。逆転のための最後の切り札。それを使うために太陽が見えるようにしないといけないと考えて。

 そのための手段はすぐに思いついたがそれを行うには少し時間がかかる。それに今は邪眼へ少しでも反撃しないといけない。そう思ってアギトはマシントルネイダーへ向かって走り出す。すると、それに呼応するようにマシントルネイダーがスライダーモードへと変化した。

 

 それに飛び乗り、アギトは邪眼へと立ち向かう。バーニングフォームは動きが遅い。それを補うためにアギトは愛機を使う事にしたのだ。だが、それだけではない。アギトがスライダーモードにしたのはもう一つ理由があった。それこそが空が見えるようにするための手段。

 

「おのれ……ちょこざいな!」

「はっ!」

 

 邪眼の攻撃をその速度を以って避けるアギト。更に距離を取り、加速をつけてその車体を傾けて邪眼へ攻撃する。ドラゴンプレスと呼ばれる攻撃法だ。それを邪眼は何とか受け止めるものの、さすがにそれには力負けしたのかそのまま壁に激突した。

 アギトはすぐにそこから離れ、もう一度距離を取ろうとする。だが、そこへ見えない何かが襲いかかる。それがアギトの肩を直撃するも彼は何とか落ちる事なく耐え切った。しかしその当たった場所からは白い煙が出ている。

 

「緑の力……」

「これならばその速さに惑わされる事もない。観念しろ、アギト!」

 

 邪眼の手には漆黒のペガサスボウガンが握られていた。邪眼はクウガと違ってその武器の要素が無くても自分が変化させた武器からなら別の変化をさせる事が出来る。邪眼はあの地上本部でクウガがやったように床の破片からタイタンソードを作り出した後、それをペガサスボウガンへ変えて攻撃したのだ。

 邪眼の余裕綽々の言葉。それを聞いたアギトはそんな言葉に真っ向から吼えた。絶望を促そうとする邪眼。それに決して屈しないとばかりに、その気持ちを示すように構えて毅然と言い放った。ここにいない多くの者達の声援を受け取ったかのように。

 

「それはお前の方だ、邪眼! 俺達の勝利を願ってくれる人が、共に戦ってくれる人がいるのなら、絶対に仮面ライダーは闇に負けないっ!」

 

 仮面ライダーとの名を聞き、それに憧れて名乗ったアギト。それは今や憧れからではなく、本物の言葉として告げられていた。闇を打ち砕く正義の光として。

 アギトと共に無人世界で仮面ライダーを名乗ったクウガもまた邪眼相手に苦戦していた。邪眼が得た金の力。それによる攻撃のために。

 

「ぐぅぅぅぅ!」

「どうだ? 今まで自分がやっていた事をされる気分は」

 

 漆黒のライジングタイタンがライジングタイタンを押さえ込む。両者の手にはライジングタイタンソードが握られている。あの後、何とか邪眼からトライアクセラーを取り返したクウガだったが、予想した通りにそこから金の力を使った各フォームとの戦いを余儀なくされていた。

 だが未だに邪眼はペガサスフォームを使っていない。その理由としてはクウガが使わないのと使うための理由がないからだ。邪眼はクウガが基本的に変わった色に対応するように自身を変化させている。それは同じ力でクウガを圧倒するためだ。

 

 実はそのためクウガは何とか邪眼に対抗出来ていた。自分の長所である超変身を駆使される事にはなったが、邪眼はそれを同じ色同士しかぶつけてきていない。それ故、クウガはやや分が悪い程度で戦況を抑える事が出来ていたのだ。

 そう、邪眼はどこかで遊んでいるとクウガは感じていた。本気で倒すつもりならば自分を全力で叩き潰せるはず。それをしないでじわじわと弄り殺すような真似をしていると。そこに何とか付け込む隙があるかもしれないとクウガは考えていた。

 

(何か……何か考えないと。俺が緑にならないと邪眼も使ってこないから、青で一旦距離を取って……)

 

 そこでクウガはある事を思い出した。そして、一つの逆転出来る可能性に辿りつく。だが、それは賭けの部分が強い。しかしクウガに迷いは無かった。それにはまず前準備がいると思い、クウガは意を決して動く。

 

「くっ……超変身!」

「無駄な事を……」

 

 クウガはライジングドラゴンへ変化し、素早く地面を転がると邪眼の腕を手にしたロッドで叩き上げる。それで邪眼が手にしたソードを落としそうになるも、次の瞬間邪眼は姿を変えて漆黒のライジングドラゴンへとなった。

 落としかけたソードをしっかりと掴み直して漆黒のロッドへと変える邪眼。クウガはそれでも構わず跳び上がった。それを追うように邪眼も跳ぶ。だが、クウガは垂直に跳び上がっていた。それに邪眼が違和感を覚えるも、そのままクウガへロッドを突き出す。その瞬間、クウガが信じられない動きに出た。

 

「ここだっ!」

「何っ!?」

 

 クウガはそれを天井を蹴る事でかわしたのだ。そしてすれ違うように床に着地して再度跳び上がる。落下を始めていた邪眼へライジングスプラッシュドラゴンを放つクウガ。それに邪眼が軽く舌打ちするも、ロッドを薙ぎ払うように動かしてクウガを弾き飛ばす。

 床に叩き付けられそうになるクウガだったが、それでも体勢を立て直すと素早く邪眼から距離を取った。それを見た邪眼は追いかける事もせずその姿を変えた。それは漆黒のライジングペガサス。同時にその手にしたロッドがボウガンへと変化し、邪眼はクウガを狙う。

 

「くぅ!」

 

 クウガの体を電撃を纏った空気弾が襲う。それでも彼は何とか青の金の跳躍力で回避した。しかし掠めた痛みのためにクウガは着地と同時にしゃがみ込むも、すぐに立ち上がって邪眼の方を向いてその姿を変える。

 緑の金のクウガ。ライジングペガサスとなり、邪眼を見つめたのだ。そこへ邪眼が再びライジングブラストペガサスを放つ。それを超感覚で見切り、クウガは危なげなくかわした。そこへ邪眼が残った片手で電撃を放つもそれも辛うじて彼は回避してみせる。

 

「おのれ……だが避けるだけでは勝てんぞ、クウガ!」

「どうかな。やってみなくちゃ分からないよ。だって、俺は……仮面ライダーだから!」

 

 それは自分が本物のクウガだからとの意味を込めた言葉。それだけではない。仮面ライダーの在り方を変えると誓ったクウガ。これは、その彼が元来の意味での仮面ライダーを名乗った事を意味していた。

 

 己が姿を模した闇へ敢然と立ち向かう四人のライダー。相手との力の差を感じながらも決して諦めないのは、その背を支えてくれている者達を知っているから。人々が彼らへ届ける祈りと願い。それがいつでもその心を強くしているのだ。

 故に彼らは負けない。屈しない。みんなの笑顔のために。その言葉を胸に拳を、蹴りを放つ。仮面に争う悲しみを隠してヒーローは戦う。自分達の力が必要なくなる日を少しでも早くするために……

 

 

 ライダー達がそれぞれの偽者との戦いを続ける中、はやて達は怪人相手に善戦していた。その要因の一つに邪眼が見せているライダーの戦闘が関係している。RXが現れたもののそれが苦戦するのを見た時はやはり違った意味での動揺が走ったが、四人の仮面ライダーが少しも諦めていないのを理解しはやて達も同じ気持ちを持とうとしたのだ。

 

「これで死ねっ!」

「頼むぜ、シグナムっ!」

「ああっ!」

 

 ヴィータとシグナムを襲うエルフの針とライディングボードから放たれる射撃。それをヴィータが自慢の防御魔法で受け止める。その威力に少しずつひびが入っていくも、ヴィータは微塵も恐怖を感じていない。自分達の勝利を信じているからだ。

 それを盾代わりにしながらシグナムはボーゲンフォルムへレヴァンテインを変え、必殺の一撃を放つべく構えた。そして一瞬目を閉じて息を吸うとヴィータから飛び出す。いくつもの針がシグナムの体を掠め、傷を作っていく。だが、それでも彼女は怯む事無くエルフへ向かってその矢を放った。

 

「穿て! 隼っ!」

”シュツルムファルケン”

「なっ!? こんなものでぇぇぇぇ!」

 

 その一撃がエルフの攻撃を突き抜けながら進み、その体を捉えた。シグナムが告げたようにその体を穿つように突き刺さるシュツルムファルケン。その痛みにエルフの攻撃が止まる。瞬時にヴィータが魔法を解除して素早くエルフへと向かった。未だ残って飛び交う針に構わず、その体を傷だらけにしながら。

 そして手にしたグラーフアイゼンを振りかざし、その突き刺さる矢を力一杯叩こうとする。そう、それはチンクとノーヴェが生み出したコンビネーションの応用。ベルカの騎士二人による即興にして見事な連携。

 

「しまった!?」

「行け! ヴィータっ!」

「一撃! 粉砕っ!」

”テートリヒシュラーク”

 

 二人の狙いに気付いたエルフだったが、もう遅かった。ヴィータによって放たれた痛烈な一撃との名に相応しい攻撃。それがエルフの腹部に突き刺さっていた魔力の矢を完全に体内へと叩き込んだのだから。そして同時にその体も叩き飛ばし、ヴィータがグラーフアイゼンを振り抜いたと時を同じくしてエルフが爆発した。

 

 一方、はやてはシャマルとザフィーラと共にノインの相手をしていた。相手が展開した複数のウイングロードにザフィーラが鋼の軛を使ってその体当たり攻撃の速度を落とさせる。そこを狙ってシャマルがバインドを展開。それを破壊されてもはやてがフリジットダガーで追い撃ちをかける事を基本にしてノインの攻撃を防ぐか或いは弱体化させていたのだ。

 

「この……」

 

 体中のあちこちが凍結したような状態のノイン。それでも動けるところに怪人たる所以がある。だがその勢いは最初に比べれば見る影もなく落ちていた。それに反比例するようにはやて達の気迫は高い。

 

”はやてちゃん、詠唱完了です!”

「準備完了や。行くで、シャマル! ザフィーラ!」

「ええ!」

「心得ました!」

 

 はやての声で二人が飛び上がる。それにノインが何事かと視線を動かすが、はやてはそれに構わず告げた。

 

「遠き地にて闇に沈め……デアボリックエミッション!」

 

 それは本来であればはやてを中心とした広範囲型殲滅魔法。だが、今はそれをツヴァイが範囲を制御する事で辛うじてノインだけを収める程度に調整していた。ノインは急いでそこから逃れようとするが既に魔法の範囲外には無数の棘が出現している。

 

「逃がさんっ!」

「ちっ!」

 

 ザフィーラの魔法に逃げ道を塞がれたノイン。だが、それでも諦めずに棘を砕こうとしたのだろう。そのまま棘に向かって拳を叩きつけようとして―――その動きが拘束された。幾重にも施されたバインドとクラールヴィントのワイヤーによって。

 

「これで終わりよっ!」

「こんなものぉぉぉぉ!」

 

 それでもノインは自慢の力でそれらを破壊しようとする。だが、それが叶う事は無かった。シャマルの拘束が砕かれようとした瞬間、二色の魔力光が新しくバインドを施したからだ。それはヴィータとシグナムのもの。

 それが再びノインの動きを封じる。ザフィーラとシャマルがそれに気付き、二人へ視線を向けて力強く頷くと再度バインドを施す。それにヴィータとシグナムも同じように頷き返した。その時には彼ら四人の視線は揃ってノインではなく一人の女性へ向けられている。

 

「こいつで決まりやっ!」

”無に返るですっ!”

「があぁぁぁぁっ!」

 

 その体を襲う強力な魔力攻撃に苦しむノイン。はやてがこの魔法をとどめにしたのには理由がある。今はここにいないリイン。それが得意とした魔法がこれだったのだ。共に戦う事が出来ないリインの分として、はやてはツヴァイと共にこれを選択した。文字通り八神家の総力を結集させるために。

 その結果、ノインは威力に耐え切れなくなったのか体中から火花を噴出させて散った。それを見届け、何も言わずにヴィータとザフィーラは動力炉へ向かって走り出す。それと同時にはやて達はフェイト達の援護に向かう事無く来た道を戻り出した。フェイト達はそれに気付くも何も言う事無く戦い続ける。

 

 今、自分達がするべきは何か。それを誰もが理解している。そして信じていたのだ。互いの成功と勝利を。故に迷いはない。フェイトは遠ざかるはやて達を見て、小さく一度だけ頷くとエリオとキャロへ向かって告げた。

 

「私達もこいつを倒してRXの助けに行くよ!」

「「はいっ!」」

 

 二人が返事をするのと同時にフリードが吼えた。それにフェイトは一瞬だけ笑みを浮かべるも、すぐに凛々しい表情へ戻して眼前のズィーベンを睨む。その体は軽く傷を負っていた。

 放たれる羽をフリードが火炎で燃やし、それで迎撃出来なかった分をエリオが魔法で焦がして道を作り、そこをフェイトが駆け抜けるのをキャロがブースト魔法で支援して確実にズィーベンへダメージを与えていた成果だ。

 

 だが、それはあまり大きなダメージではない。もたもたしていると回復されてしまう程度。故にフェイトはここで自分の最後の切り札を切るつもりだった。

 

「バルディッシュ!」

”ライオットフォーム”

 

 手にしたザンバーが双剣へと変化していく。それがリミットブレイクと言う名のフェイトの最後の切り札だ。しかし、これはまだその一つの姿でしかない。フェイトが体を襲う負荷に微かに表情を歪める。それでも彼女は毅然とズィーベンへとその速度を活かして立ち向かっていく。その姿、まさに閃光。

 放たれる羽を物ともせず切り払いながらズィーベンへと果敢に斬りかかるフェイト。それと同じくしてエリオもストラーダを手に突撃を敢行した。羽を腕や肩に受けて感じる痛みと脱力感。それらを捻じ伏せるようにして血を流しながら彼は進む。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

”スピーアアングリフ”

 

(諦めない! 絶対に僕は諦めない! フェイトさんを、光太郎さんを助けるためにっ! そして、キャロを守るために!!)

 

 胸に抱くはあの日の決意とあの日の言葉。手助けしたいと願った女性への想い。それに対して憧れる男性が与えてくれた信念。そして、今や共に支え合う仲となった大事な相手への密かな気持ちさえ込めて、エリオは雷光のように加速していく。

 

(私だけの強さ、見つけましたフェイトさん。私には、フェイトさんが、光太郎さんが、そしてエリオ君がいてくれる! だから……もう何も怖くないっ!)

 

 そんなエリオをキャロが後押しをする。自慢のブースト魔法に大切な相手である小さな槍騎士へのありったけの思いを込めて。一度として目を逸らす事無く、力強い視線をエリオへ向けたままに彼女は告げた。

 

「我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士に駆け抜ける力を!」

”ブーストアップ アクセラレイション”

 

 エリオの速度がそれによって更に加速し、閃光となってフェイトと並ぶ。二対の閃光はズィーベンの両翼を見事に貫いた。

 

「ギャアァァァァ!!」

「くっ……」

「エリオ!?」

 

 だがエリオは着地すると同時に羽による出血と脱力感からしゃがみ込んだ。それでもその目には力がある。だから彼は心配するフェイトへ視線を向けて叫んだ。

 

「フェイトさんっ! 今はとどめを!」

「エリオ……任せてっ!」

 

 その眼光がどこか光太郎のように感じられ、フェイトは息を呑むもすぐに頷いて手にしたバルディッシュを再びザンバーの姿へ戻す。しかし、それは従来のザンバーとは違う。それこそフェイトの切り札の最後の姿、ライオットザンバーだ。

 それを振りかざし、フェイトは翼を失い苦しむズィーベンへ猛然と斬りかかる。フェイトが振り上げた両腕を見て、キャロが再びブースト魔法を使う。母のようにも姉のようにも接してくれた女性を支えるために。

 

「猛きその身に、力を与える祈りの光をっ!」

”ブーストアップ ストライクパワー”

 

(エリオ、キャロ、ありがとう。二人の想い、受け取ったよ。だから、この一撃で終わらせる!)

 

 その魔法を受け、フェイトはズィーベン目掛けて大上段からの一撃を放つ。その一撃を放たせるために動いてくれた二人の子供達への想いを乗せて。

 

「一刀! 両断っ!」

「創世王様ぁぁぁぁ!」

 

 フェイトの全力による魔力刃での斬撃はズィーベンを見事に捉えた。その大量の魔力エネルギーがその体内へ送り込まれ、それに耐え切れずズィーベンは爆発四散する。それを見届け、フェイトはふらりと体を揺らして座り込んだ。

 リミットブレイクと呼ばれるライオットは多大な負荷を体に与える。それを短時間とはいえ行使したためだ。キャロはフリードへエリオの事を託すとフェイトへと駆け寄った。そしてすぐに回復魔法を使ってその体を癒す。

 

 フリードはエリオに刺さった羽を燃やすために口から炎を吐き出した。それは彼へ向けられる事はなくその近くへと向けられている。エリオはその意図を察して体を動かし羽だけをその炎で焼いた。

 

「ありがとうフリード」

 

 エリオはフリードへ礼を述べつつ羽を何とか焼いていく。それに伴い体を襲っていた脱力感が軽減出来た事を確認し、エリオはフェイトとキャロの傍へと近寄る。フェイトもキャロもエリオの姿を見て安堵したような表情を返した。だが、エリオはある事を念話でキャロに提案しながらそれを口頭でフェイトへも告げた。その内容にフェイトは不思議そうな表情を返す事となる。

 

「フェイトさん、僕らは動力炉に行こうと思います」

「え?」

「ヴィータ副隊長とザフィーラさんだけでも大丈夫とは思うんです。でも、もしかしたらって」

 

 エリオはキャロの言葉を簡単に説明した。動力炉が強固な物だとすれば、その破壊に時間を取られる可能性がある。そこへ自分とキャロが行けば加速を加えたりブーストによって破壊力を増させる事が出来るために時間を短縮出来るはずだと。

 フェイトはその目的がヴィータとザフィーラの早期戦線復帰だと理解し、許可を出すように頷いた。彼女の判断に笑みを返してエリオとキャロはフリードを元に戻して動力炉を目指して走り出す。それを見送り、フェイトは自分へ喝を入れるように息を吐いて立ち上がる。そして来た道を戻り始めた。RXを助け、この戦いを終わらせるために。

 

 

 ラボ内にある訓練場。そこでヴァルキリーズは邪眼と戦闘していた。食堂では跳躍力を活かしきれないと感じた邪眼が場所を移動したためだ。そこでヴァルキリーズは邪眼を相手にしているのだが、初めの頃の善戦が嘘のように苦戦を強いられていた。

 その原因は邪眼がISを使い出したからだ。それはライドインパルス。トーレのISだ。その超高速機動に撹乱されるヴァルキリーズ。トーレとセッテ、ディードは何とかついていっているがノーヴェがやや置いて行かれ出したために連携が乱れ始めたのだ。

 

「ちっ! 奴め、速度はドライよりも上か!」

「ちょっと不味いわね。ノーヴェちゃんが結構攻撃力的に通用してたから、トーレ姉様達が決定力不足になり出してるわ」

 

 チンクは援護のスティンガーを投げる事が出来ず、悔しそうに眼前の光景を見つめた。クアットロもやや焦りを表情に浮かべている。二人の目の前には懸命に邪眼の動きについて行こうとするノーヴェとそれに苦しみながら対処しているトーレ達の姿がある。ディエチやオットーにウェンディの三人もその援護の手が止まりがちになっていた。速度が速すぎるため、下手に攻撃するとトーレ達に当たる可能性が大きいからだ。

 

「オットー、どうする?」

「今は待つしかないよ。幸い、邪眼は優先的にトーレ姉様達前線組を狙っている。なら、僕らは姉様達が邪眼の動きを鈍らせてくれるのを信じて備えよう」

「今は耐える事がアタシらの戦い……ッスね」

 

 ウェンディの言葉にオットーが頷き、それを見てディエチも分かったとばかりに頷いた。姉達が命懸けで戦うのを見守る事しか出来ない自分達。それに堪らない悔しさを覚えるも、それを来たる時まで溜めて邪眼にぶつけようと。そんな三対の視線が見つめる先では、凄まじい速度で動く邪眼へ必死に喰らいつこうとするトーレ達の姿があった。空戦三人は邪眼の速度に振り回されながらも諦める事無く追随していた。

 

「くっ……追いつけん!」

「防ぐ事は出来ても攻撃が……っ!」

「速さが……違い過ぎます」

 

 トーレはブレードを使って邪眼の攻撃を牽制もしくは防御していたが反撃が一向に出来ない。それはセッテも同じでスローターアームズを使う暇さえなかった。防戦一方。そんな言葉が見事に当てはまるのだ。

 ディードは瞬間加速で邪眼の攻撃タイミングをずらす事で対応していたが、それはあくまで防御にしか有効ではない。攻撃には瞬間加速の速度は遅いのだ。常に超高速で動く邪眼相手にはそれ以上の速度を以ってしか対抗出来ないと現状三人は考えていた。

 

「ふん、所詮は出来損ないよ。我に勝てると思うな!」

 

 両手から電撃を放とうとする邪眼。しかし、その体を何かが壁のように受け止め狙いを逸らす。それはエアライナー。ノーヴェが展開した空駆ける道だ。

 

「何だとっ!?」

「へっ! こういう使い方も出来んだよ!」

 

 超高速戦闘になってからは完全に置いて行かれてしまったノーヴェだったが、だからこそ何か出来る事はないかと考えていた。そこで思い出したのが初めての模擬戦でセッテのブーメランブレードを弾き飛ばした時の事。

 自分のISならば、邪眼の障害物として展開出来るのではないか。そう思い、ノーヴェは実行に移した。一瞬でも隙を作る事が出来れば。僅かにでも動きを鈍らせれば。そう、後は姉妹達が何とかしてくれると信じて。

 

 そして、その考えは微塵たりとも間違ってはいなかった。それを見た瞬間、邪眼以外の全ての者が目を輝かせたのだから。瞬時にそこからの戦術を組み立てるウーノ。それを聞くまでもなく察して動いたのは、当然姉妹の中でもトップクラスの速度と戦闘経験を持つ者だった。

 

「そこだっ!」

 

 トーレがまるでノーヴェの行動を予期していたかのような動きで邪眼へダメージを与える。それが、ここから始まる大反撃の開幕の合図だった。エアライナーで体勢と速度を殺された邪眼へ、トーレがかまいたちのように傷を与えて行く。

 

「行けっ!」

 

 セッテはそれと合わせるようにブーメランブレードを投げつけ、それを見事に操作していく。トーレの攻撃する場所とは逆方向を攻撃していくブレード。それに邪眼が体勢を整えようと上へ動くもそれは既に察知されていた。

 

「させませんっ!」

 

 ディードは邪眼が必ず上に逃げるだろうと読んでいた。側面はトーレとセッテが押さえ、下にはノーヴェがいる。そう、意図的に上方を隙として作ってあると気付いたのだ。故にそこへ待ち伏せた。邪眼が少しでも動きを見せた瞬間、その加速力を活かした一撃を叩き込むために。その華奢な体からは想像も出来ないような重い一撃を受け、邪眼が再び体勢を崩す。そこへ、嵐の如き閃光が走る。

 

「逃がさないっ!」

 

 ディードの動きはオットーにとって予想通りだった。だからこそ、ディードが邪眼へ攻撃を加えた直後に自身のISを発動させる事が出来たのだから。おそらくノーヴェがやった方法はもう通用しない。ならば、この機会を逃せば邪眼を倒す事が出来なくなる。オットーはそう考え、もう邪眼がISを使えないようにダメージを与え続けるしかないと判断した。それを理解したようにそこへ更なる閃光が華を添える。

 

「これでっ!」

 

 イノーメスカノンから放たれたディエチの全力砲撃。普段は心優しく大人しい彼女。だが、だからこそ戦いを生み出す邪眼は許せなかった。しかも自分達の家を奪い、真司達へ自分達そっくりの姿をした分身を向かわせた事も同じく。怒りの砲撃はレイストームの光と挟み込むように邪眼の体を襲っていた。そこから抜け出そうとする邪眼。しかしそれが叶う事はなかった。

 

「まだまだッスっ!」

 

 限界を超えた出力のエリアルキャノンがその動きを阻止する。ウェンディは邪眼の体を吹き飛ばす程の威力でそれを放った。ライディングボードが少々熱から溶けた事からもそれがどれだけの無理をさせたのかが分かる。壁に叩きつけられ、地面へと落ちた邪眼。すると、その足が地面へと引きずりこまれた。それに邪眼は気付くも訓練場はそもそもどれだけの攻撃をしてもいいように作られている。故に邪眼が全力で叩く事にも耐えるだけの耐久性があった。

 

「これでしばらくISは使えないよっ!」

 

 セインはそんな邪眼から離れた場所に出現し姉妹達へそう告げる。彼女は戦闘向きではない自分の力を有効に使える状況を待っていた。だからこそ、教育を担当していたウェンディと連携して今の状況を作り出したのだ。

 そうして身動きが取れなくなった邪眼へ走り出す者がいた。その者は手にした武器を構え、邪眼へと突き出そうとしている。それはドゥーエ。邪眼はそれを見て動く両腕を使って電撃を放とうとするのだが、突然彼女の姿が消えた。そして瞬時にその姿が増えて現れる。

 

「やらせないわよっ!」

 

 クアットロはそう言いながら邪眼を鋭く睨む。それに邪眼が忌々しげな雰囲気を見せると昔の狡猾な笑みを返して笑ってみせた。クアットロはウーノを経由してドゥーエの狙いを知り、それを援護するために動いた。

 敬愛する姉の一人であるドゥーエ。その理由は彼女の中では今と昔で若干異なる。昔は味方に優しく敵に容赦なくが信条だったドゥーエに尊敬の念を抱いていたクアットロ。しかし、今はそれに加えて愛する者のためなら危険にも平然と飛び込んでいける事もその対象だった。

 

「もらったわっ!」

 

 幻影に気を取られる邪眼へ姿を消したままドゥーエは頭部へとピアッシングネイルを突き立てた。その瞬間爪先が折れるも邪眼から痛みに呻く声が上がる。それに恐ろしい笑みを浮かべるも、ドゥーエは追撃を止めすぐにそこから離れる。

 思い出したのだ。真司と初めて会った際、言われた言葉を。戦闘向きじゃないから戦わずに逃げて欲しいとのものだ。自分は戦闘型ではない。故に必要以上の攻撃は禁物だと。離れるドゥーエへ気配を察知したのか邪眼が電撃を薙ぎ払うようにして放った。それがドゥーエに直撃しそうになった瞬間、それを代わりに受ける者がいた。

 

「そうはさせんっ!」

 

 チンクは強化されたシェルコートでそれを受け止めると、苦痛に表情を歪めつつもお返しとばかりにスティンガーを投げ放つ。それが邪眼の腹部へと殺到し次々と突き刺さって行く。そして、それを見て誰もが思った。勝つにはここを物にするしかないと。

 

「今よっ!」

 

 ウーノは戦術の全てを伝える事無く理解し、やってのけてくれた姉妹達に感謝すると共にそう力の限りに叫んだ。それを背に受け、凄まじい勢いで駆け抜けていく者がいた。

 

「家から出てけぇぇぇぇぇっ!!」

「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ノーヴェの渾身の一撃がスティンガーへ叩き付けられる。それは刺さっていた全てのスティンガーをその体内へと深く突き入れた。だが、地面に突き刺される形となっている邪眼はそこから動く事はない。

 だからノーヴェはエアライナーを展開しそのまま上方へと駆け抜ける。それと同時にチンクがスティンガーを爆発させた。全てのスティンガーによる爆発力は邪眼を内部から破壊させ、その体を内側から崩壊させる。訓練場に起きる激しい爆発。それをヴァルキリーズは呆然となりながら見つめた。

 

 やがてそれが完全に収まったのを受け、ウーノが確認作業を開始。それを誰もが固唾を呑んで見守る。やがてそのウーノの手が止まり、静かに告げられた言葉は……

 

―――反応……消失。私達の……勝ち、よ……っ!

 

 勝利の報は涙と共に告げられた。それに誰もが同じように涙を流す。まだ終わってはいない。だが、今だけは、今だけは勝利に少し浸らせて欲しい。そう誰もが思いながら涙を流していた。取り戻したと。自分達の家を、今、この手で取り戻したのだと思う事を許して欲しいと。だが、それも本当に少しの間だった。すぐに全員が目元を拭い、視線をモニターへと移す。

 

 そこにはジェイルの研究室近くで戦う龍騎の姿があった。苦戦をしながらも決して諦めず、泥臭ささえ感じさせるように必死に抵抗している姿が。それに誰もが一瞬笑みを浮かべて頷いた。

 

―――行きましょ。真司君を助けるために。

 

 そのドゥーエの言葉に全員が凛々しい表情で頷き返してその場から走り出す。本当の意味で家を取り返すために。

 

 

「これでも喰らいな!」

「このっ!」

 

 スバルはゼクスの鋭い爪を何とか受け止める。だが拮抗出来るのはほんの僅か。すぐにその怪人の力に押し込まれる。それを助けるべくギンガが背後から攻撃するのだが、それでもゼクスは動じない。そこで彼女はゼクスへ零距離のリボルバーシュートを炸裂させた。

 それにはさすがにゼクスも体勢を崩し、スバルはならばと同じ事を行う。互いにゼクスを盾にしながらリボルバーシュートを放つナカジマ姉妹。それにゼクスの力が弱まったのを感じてスバルは素早く体勢を整える。

 

 あの後、スバルとギンガはティアナの提案通りゼクスとの接近戦を挑み続けていた。ISを使われないようにするため、いつも以上に距離を詰めながらだ。そのため、二人は普段以上の緊張と危険を強いられている。それでも二人は文句も言わず懸命に戦っていた。

 ティアナは今もウイングロードの上から二人の戦闘を見つめていた。しかし、ゼクスはそちらへの注意をもう払っていない。ティアナはゼクスが姿を見せた瞬間から少しも動く事無く様子を窺っていたのだ。

 

「どうやら、あいつはお前達を見捨てたみたいだね」

「ティアがそんな事する訳ない! 勝手な事言うな!」

「そうよ! ティアナには何か考えがあるんだから!」

 

 ゼクスの言葉に二人はそう返して構える。確かに先程からティアナがまったく援護も何もしない事は気付いていた。それでも、二人はティアナを信じていた。きっと何かゼクスを倒す手段を考えているのだろうと。故にその信頼は揺るがない。その二人の無条件の信頼がゼクスには腹立たしい。少しとして不安も疑心も抱かない事に怒りさえ覚えるのだ。

 

「はっ! 言ってなよ。ISを使われたら、あたしに手も足も……」

 

 そうゼクスが馬鹿にするように告げようとした瞬間だった。その体へ一筋の射撃魔法が叩き込まれたのは。ゼクスはその襲撃でよろめきながら何が起きたのか理解出来なかった。一方でスバルとギンガはそれを見るなり瞬時に動き出した。

 その魔力光はオレンジ。ティアナの魔法のクロスファイヤーシュートだったのだ。本来は複数の魔力弾で攻撃する魔法だが、ティアナはそのバリエーションとして魔力弾を収束させる事で簡易的な砲撃魔法へと昇華させた。

 

 しかし、少しとしてウイングロードのティアナは動きを見せていない。ゼクスが一体何故と思った時、その体がバインドで拘束される。そして、それと同時にティアナがゼクスの側面に現れた。

 

「なっ!?」

「今よっ!」

「「はぁぁぁぁっ!!」」

 

 その光景に驚くゼクスを無視するようにティアナは叫ぶ。ティアナはゼクスが自分から意識をスバルやギンガへ向けたのを察し、気付かれないようにフェイクシルエットと併用しオプティックハイドという姿を消す事が出来る魔法を使って密かにウイングロードから移動していた。そしてそのまま彼女は待っていたのだ。ゼクスを倒せる瞬間が来るのを。

 スバルとギンガのリボルバーナックルが唸りを上げると同時にカートリッジが排出される。そのまま二人は動けないゼクスへその拳を叩き付けた。その衝撃にゼクスが軽く呻く。更に同時にそこからリボルバーシュートを放ちゼクスへダメージを与えた。

 

「「よしっ!」」

「間を開けないで! 一気に畳み掛けるのよっ!」

 

 二人の手応えを感じて漏れた言葉にティアナは鋭い声を出す。するとギンガが素早くゼクスへ再度バインドを施した。ISを使われないためだ。ゼクスがそれに気付いて即座に拘束を解こうとするもスバルがとどめとばかりにその左拳を腹部に叩きつける。その目の色を金色に変えて。それは、スバルがどこかで忌避していた力。しかし、目の前の相手には相応しいと思えた力。

 

「IS、振動破砕っ!!」

「あ、あぁぁぁぁぁ!?」

 

 スバルの戦闘機人としての技。その最初で最後であろう発動。それはISに頼り切り、相手にその事への対策をさせたゼクスへの戦闘機人としてのスバルなりの餞別だった。

 

「こ、この力は……使えないはずじゃ……」

「使えないんじゃない。使わなかったんだよ。……昔はこれを使うと自分が嫌でも人と違うって思うからだった。でも、今は違う。これは私の切り札だからだっ!」

 

 振動破砕によって内部構造を崩壊させられていくゼクスへスバルはそう言い切った。きっと自分の事を知っていただろうぜクス。だが自分のISへの警戒はまったくといっていい程していなかったのを理解していたのだ。

 まるで自分のISがどれ程戦闘機人へ効果を発揮するかを忘れているように。そして目の色を普段のものへと戻したスバルは、今度こそ本当の終わりとばかりにそこから残した右腕に魔力を収束させていく。それは、魔導師としての彼女の自慢の技。

 

「一撃っ! 必倒!!」

 

 その言葉にありったけの想いを込めて。それは”人間”スバル・ナカジマとしての渾身の一撃。

 

「ディバイィィィン……バスタァァァッ!!」

 

 脆くなったゼクスを青の魔力光が吹き飛ばして行く。ティアナはその光景に安堵し、ギンガはゼクスの消滅を確認すると二人へ視線を向けて告げた。

 

「今フェイトさんへ連絡したら、向こうも怪人を倒してライダーの援護に向かってるらしいわ。だからライダーの方はフェイトさん達へ任せて、私達はなのはさんを助けに行きましょ!」

 

 その言葉を聞き、ティアナとスバルは頷き返してモニターを見た。そこに映るライダー達は苦戦しながらも少しずつではあるが形勢を変えつつある。それに希望を見出し、スバルはティアナやギンガと共に走り出した。目指すは玉座の間。そこにいるなのはと共に邪眼の本体と戦うために。そして、ヴィヴィオのコピーを止めるために。

 

 そのコピーである女性と対峙しながらなのはは必死に呼びかけ続けていた。突然体の自由を失って暴れる女性を落ち着かせるその目は哀しみを宿している。

 

「頑張って! 絶対止められるはずだから! 貴方の体なんだよ!」

「それが……嫌っ! どうして言う事を聞いてくれないのっ!?」

 

 なのはの言葉に答えながら女性はその拳を容赦無く振るう。それを避け、時に防ぎ、なのはは懸命に言葉を掛け続けていた。どこかで女性の動きは邪眼によるものだと考えてその内心に怒りを抱いて。

 ここにいるはずだった邪眼。それが何故かいない。その事がずっとなのはの中で気になっていたのだ。必ず自分達を見ているはずなのにと。その理由は出現しているモニター。自分達だけではなく他の場所さえ映し出しているそれを制御しているのは邪眼のはずなのだ。

 

(もしどこかで様子を見ているとして、それがライダー達の場所ならライダー達が気付くはず。でも、そうじゃないのなら……)

 

 自分のいる玉座の間しかない。そう結論付け、なのはは魔力弾を装いサーチャーを放つ。先程から見られているような感じがするのだ。そこへ女性が猛烈な勢いで迫る。その繰り出される拳を辛うじて受け止めるもなのはは表情を歪ませた。

 

「お願いっ! 私を止めて!」

「でもっ!」

「怖いの! 私が私じゃなくなってるみたいで……だから助けてっ!」

「っ!?」

 

 女性の言葉と表情になのはは息を呑んだ。ヴィヴィオに重なって見えたのだ。助けを求め、縋るような目。自分に起きている事が怖くて仕方ないとばかりに怯える顔。それを見て、なのはは意を決した。その手にしたレイジングハートを握り締め、女性へ真剣な眼差しを向ける。それに女性も気付き、その言葉を待った。なのはは拳を防御魔法で受け止めつつ女性へ問いかける。

 

「かなり痛いかもしれないけど……我慢出来る?」

「……うんっ!」

 

 なのはの言葉に女性はどこか嬉しそうに頷いた。それになのはも小さく微笑みを見せるが、すぐにそれを消して叫ぶ。

 

―――レイジングハート! ブラスター、行くよ!

―――ええ、いつでもどうぞ。

 

 それは、なのはの切り札。そして同時に諸刃の刃。自身の能力をブーストさせるブラスターモード。それは、フェイトのライオットと同じくリミットブレイクと呼ばれる最後の切り札。

 なのはの声に呼応しブラスタービットと呼ばれる物が出現する。それはなのはとレイジングハートが制御する魔法の補助的役割を果たす物。それを使い、なのはは女性の事を止めようとしていた。

 

 思い出したのだ。ジェイルがヴィヴィオに関して言っていた事を。レリックを使ってその力を解放させる。それを思い出し、非殺傷魔法によるダメージでレリックだけを破壊しようと考えたのだ。

 

「まずは動きを止める……」

「あぁぁぁぁ!」

 

 なのはの動きを阻止するかのように女性が襲い掛かる。だが、その動きは始めの頃と比べてどこか切れがないと感じられるもの。やはり無理矢理動かさせられるのを嫌がっているのがその原因だろう。なのははそう思いながらその攻撃を何とか受け止める。

 そして同時にビットが女性の腕をバインドで拘束した。それはなのはが初めて習得した高位魔法。レストリクトロックと呼ばれる魔法だ。更にそれが足にも出現し完全に女性の動きを止める。準備は整った。そう判断しなのははレイジングハートを構えて女性へ告げる。それは、強くも優しい声。ヴィヴィオに対してかける母親の声。

 

―――怖いかもしれないけど、絶対大丈夫だから。

 

 その手はサムズアップをしていた。それを見た女性は、何故かそれに安心感を覚えたのか柔らかく笑みを見せて頷いた。それになのはも頷き返して叫ぶ。

 

「これが私の全力全開っ!」

”スタンバイレディ”

「スターライト! ブレイカァァァァァッ!!」

 

 ありったけのカートリッジを使ってまでの収束魔法。それはなのはの自慢の一撃、スターライトブレイカーだった。女性へ向かって放たれる星光の輝き。ビットからも放たれたそれを女性は受け止める。

 その凄まじい奔流は女性を飲み込み、その体を強烈に痛めつけていく。苦しみ叫ぶ女性の声を聞きながらもなのはは決してその勢いを弱めようとはしない。だが、その表情は悲しみに歪んでいた。こんな事をしなければ助ける事が出来ない己の未熟さに。そして、自分のために女性を利用した邪眼への怒りも込めて。

 

「ブレイク……シュゥゥゥゥトッ!!」

 

 その声と共に砲撃がより一層激しさを増して女性を襲う。すると、女性の体から紅い結晶が出現した。レリックだ。それがなのはの砲撃により見事に砕け散る。それを合図に砲撃は消失した。なのははブラスターの負担からしゃがみこむものの、すぐに顔を上げて目の前を見た。

 そこには、幼い少女が倒れていた。ヴィヴィオと同じ外見の少女が。それを見た瞬間、なのはは立ち上がってその傍へ駆け寄った。倒れ込むその体を優しく抱き抱えるために。そっと慈しむように少女の体を抱きかかえるなのは。その温もりに少女は目をゆっくり開けてなのはへ視線を向けた。

 

―――……助けてくれてありがとう。

 

 その瞬間、なのはは目に涙を浮かべた。だが、それを落とす事無く頷き、笑みを返して告げる。

 

―――どういたしまして。

 

 その瞬間、レイジングハートが点滅した。それが伝えた内容になのはは戸惑う事になる。レイジングハートが告げたのはサーチャーによるエリアサーチの結果。その内容は玉座の間には邪眼の反応はなかったとの報告だったのだから。

 

 

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苦戦するライダー達。だが、勝機はある。そんな風に誰もが思い戦う中、なのは達はそれぞれの相手と決着を着けます。

 

次回、ライダー達の逆転劇と最後の戦いの幕開けをメイン。


 
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