No.516717

超次元ゲイムネプテューヌmk2 OG Re:master 第五話

ME-GAさん

 第五話です。
 12/11~12/14は学生のメインイベント・修学旅行へ行って参りますので、投稿不可ですw

2012-12-09 16:21:04 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1270   閲覧ユーザー数:1192

「痛ッ!」

キラは思わず眉を動かして右手を引いた。

しかし、逃げた右手は目の前の少女によって引き戻される。

「ダメです、ちゃんと手当てしないと痕になっちゃうですからちゃんと手当てするです!」

と、少女は半ば強引にキラの右手の傷口に消毒液を塗り込む。

少女はしばらくキラの傷口に傷薬や包帯等の処置を施してにっこりと微笑んだ。

「はい、これで大丈夫です!」

「ありがと、コンパちゃん」

「だから、『コンパちゃん』って呼ぶのはやめて欲しいですぅ……」

少女は可愛らしく両手を振って講義する。

政府立の病院に今年から勤務することになった新人ナース・コンパは外見、仕草等の愛くるしささながら周囲からは『コンパちゃん』と呼ばれてしまう。

キラもまたその一人で彼女は年上だと思っていても何故だか年下に見えてしまうため、こうした呼び方をしてしまうのである。

「ところで……」

先程の雰囲気とは一変して、キラは真剣な表情でコンパを見る。

「あの、政府の方……アイエフ、さん? は一体……?」

キラは先程から抱いていた疑問をコンパに投げかけた。

あの後、アイエフとこのコンパが合流し、一度彼女の自宅であるこの場所に招かれた事態にキラは全く状況が把握できなかった。

「それに、ネプギアと友人というのも気になりますし」

キラの淡々とした、それでいて威勢のある質問にコンパは冷や汗を垂らしながら微笑を絶やさずに答えた。

「えっと、そのコトについてはあいちゃん本人から――」

「こんぱー、手当終わった?」

と、そこまで言おうとしたところでアイエフが扉の隙間から顔を覗かせている。

「あ、今終わったです」

「それにしてはこそこそ話してたみたいだけどね……」

アイエフが微苦笑を携えてコンパに視線を送る。

『うきゅっ』と、アザラシのような可愛らしい声を上げてコンパはわたわたと取り繕うように弁護する。

「ち、違うですよ!? そんなにお話なんて――」

「そんな失敗ばっかりしてるから『コンパちゃん』なんて可愛い渾名付けられるのよ?」

「失敗ばかりしてないですぅ! たまに、です……」

「たまに、で済む数だといいけどね」

アイエフは腕を組んで苦笑いを送った後にキラに視線を移した。

一瞬鋭い視線にドキリとキラの心臓が跳ねたが、すぐに何か寂しそうな色を映す瞳にキラは訝しむような視線に変わった。

「さて“キラ”だったかしら?」

「あ、はい」

刹那、心ここにあらずだったキラは取り繕うようにそう返答する。

「とりあえず、積もる話はゆっくりしながらね。こんぱ、お茶淹れて貰える?」

「了解ですぅ」

アイエフはコンパとそんなやりとりを終えた後にクイクイと片手でキラは入室するように促した。

 

 

「さて、と……。じゃあ、まず聞きたいことその①なんだけど」

「はい」

アイエフは一度、チラとネプギアに目線を送ってから再びキラに戻した。

そして重々しげに口を開く。

「この娘とはいつ、何処で知り合ったの?」

表情、声音その他全ての要素からただ単に興味本位ではなく、やけに真剣な質問だと言うことが伺えた。

思わずごくりと喉を鳴らして唾を飲み、ゆっくりとキラは口を開いた。

「今朝、自宅でですが……?」

「自宅……?」

アイエフは怪訝な表情でキラを睨む。

本人はと言えば『それもそうか』と行った表情で首筋をポリポリと掻いた。

「まあ、いつの間にか家にいたといいますか……」

「………………そう。ま、いいわ」

『その間は何だろう』と気になったが、横やりを入れることが可能な雰囲気でもない。そこら辺はやはり空気の読めるというか何というかである。

だが、一つ確実なのはアイエフのキラに向ける視線が先程よりも目に見えて冷たくなったと言うことだけで、キラは泣きそうになった。

「あ、あのね、アイエフさん。別に変な意味じゃないんだよ? 私も気付かないうちにキラの家にいて……」

「……分かってる。アンタらの言いたいことは大体分かってるから」

「「分かってない!?」」

キラとネプギアはアイエフの虚ろな笑顔を見て衝撃を受けた。

変な表情で自身を睨むキラとネプギアを一瞥して、フッと息を吐きアイエフは手元のメモ帳に何事かを書きこんで再び目線を上げた。

「じゃ、次の質問ね。アンタ、犯罪組織との関係は?」

意図を濁している、かのように思わせて大体的を得ている質問にキラは思わず眉をひそめる。

アイエフの言っていることは理解できるのだ。でも、だからこそ癪に障る。

「ありません」

少し、むくれたような声でキラはきっぱりと返す。

「……本当に?」

アイエフは念押しのようにもう一度問い掛ける。

「本当に無いです」

キラは先程よりも不機嫌そうな声音で返す。

暫く二人の睨み合いが続く中で、ネプギアは突如大声を上げる。

「あ、アイエフさん! いくら何でも失礼ですよ!!」

「ネプギア、そうは言うけど、もしコイツが犯罪組織に手を貸してたらどうするの? アンタは許せるの?」

「ッ!」

アイエフの言葉に、ネプギアは身を引く。その状況を訝しむように見ていたキラだが、意を決したように大きく息を吸ってハッキリとした口調で告げた。

「俺は犯罪組織に加担したことは一度もない」

その言葉に鋭い視線を送るアイエフだったが、数秒経つと穏やかな笑みを浮かべてメモ帳をテーブルに置いた。

「そう、ならいいわ。疑って悪かったわね」

その雰囲気の変わりように少し度肝を抜かれたキラだが、ほんのり鼻孔を突く穏やかな香りに意識が移った。

「お茶が出来たですよ?」

背後でコンパが扉を開けて人数分のティーカップとケーキを持って入室してきていた。

それにアイエフも穏やかな笑顔を浮かべて姿勢を直して座り直す。

「あ、美味しそうね」

「近所にできた新しいお店のを買ってみたです。少し奮発しちゃったですぅ」

「わぁあ……美味しそう……」

女性陣三人はとっくにケーキに目移りしていた。

しかし、取り残された黒一点のキラはしばらくポカンとした表情を見せたまま動かなくなっていた。

 

 

「あの、アイエフさんとコンパちゃんはお知り合いですか?」

先程から見ていれば、初めて会ったでもない。それでいて生半可な友人関係でもなさそうだと言うことが見て取れた。

キラの質問にコンパとアイエフは顔を見合わせていたが、二人して苦笑を浮かべて

「そうね、幼馴染みよ」

「そうです。あいちゃんとは小さい頃からのお友達なんですよ?」

と、とてつもなくぎこちない表情で答えていた。

訝しむような表情で二人を見るキラだが、アイエフの慌てたような声での話題変換によってその考えは一時的に記憶の彼方へと吹き飛んでいった。

「そ、それより、ネプギアに聞きたいことがあったのよ!」

「ふも?」

いきなり名指しされてケーキを頬張っていたネプギアがくぐもった声を上げてそちらに視線を向けた。

「ふぁに?」

「飲み込みなさい」

ごっくんとケーキを飲み込み、ついでに口周りに付着していたクリームをキラが拭き取ってからアイエフに向き直る。

「ねぷ子は何処にいるの?」

「ッ!?」

今まで惚けたような表情をしていたネプギアが直後、強張った表情を見せて思わずむせた。

「大丈夫か?」

「う、うん……」

そう言ってキラからカティーップを受け取る。

口ではそう言っているが、何処からどうみても彼女は大丈夫そうには見えない。意識的に――。

「知ってるの?」

「お、お姉ちゃんは……」

目を伏せて、震える声でネプギアは口を開く。

「ギョウカイ墓場に……マジェコンヌに、捕まっちゃったの……」

「「「!?」」」

その名前にコンパやアイエフだけでない、キラまでもが衝撃に表情を染める。

「マジェコンヌ、ですって? 彼女は消滅したんじゃないの!?」

アイエフはテーブルから身を乗りだしてネプギアに問い掛ける。コンパもいつもの彼女からは想像も出来ないような真剣な表情で食い入るようにネプギアを見つめている。

「マジェコンヌは……生きてるんだよ……」

「――、」

ネプギアのその悲壮きった表情にアイエフは表情を苦くして腰を落とす。

「どういうことですか? マジェコンヌさんは確か……」

「そうよね……。私達の記憶じゃそういうことになってるハズよ」

コンパは信じられないという風に、アイエフに事実の確認を求める。

そんな中、キラは他三人とは違う意味で衝撃を受けていた。

『マジェコンヌ……夢に出てきた女性と同じ……!? 捕まってるって、あの女の子達……、それにネプギア……! あまりに出来過ぎてる!!』

彼の夢に出現したマジェコンヌと呼ばれる、恐らく彼女たちが敵視しているのであろう女性、そして捕らえられた少女達、夢に出てきた少女と瓜二つの少女ネプギア――否定する要素がキラには見当たらなかった。

間違いがない、あの夢は――『現実』

キラは、そう確信した。

「あ、あの……!」

「……何?」

「ねぷ子さん、ってもしかして銀色の髪の女の子ですか?」

三人は暫く顔を見合わせていたが、首を横に振る。

「じゃ、じゃあ、緑髪ですか?」

また答えはNO。

「薄水色!」

また、NO。

「じゃあ……紫髪、ですか?」

「……そう、だけど」

アイエフはコクリと小さく頷く。

キラはいつの間にか乗り出していた身を戻して額を押さえる。

「アンタは何処まで知ってるの?」

「……これまでです」

アイエフは眉間にシワを寄せてキラを睨む。

暫し、そのような睨み合いが続きアイエフは背後のベッドにゆっくりと背をもたれる。

「これは政府内で最重要機密事項なの。あまり他言はオススメしないわ」

アイエフはテーブルに肘を突いて声音を低くして喋り出す。

「現在、大陸上に存在する4都市の『守護女神』が同時に姿を消すという事件が起こっているわ」

その言葉にキラは眉をひそめる。

守護女神(ハード)。

現在、ここゲイムギョウ界に存在するプラネテューヌ、ラステイション、リーンボックス、ルウィーの4都市のトップを務める、そして都市を、大陸を守護するとされる存在。

プラネテューヌを守護するパープルハート。

ラステイションを守護するブラックハート。

リーンボックスを守護するグリーンハート。

ルウィーを守護するホワイトハート。

この次元に置いて彼女たちに敵う者など存在しないとされる最高の存在。

それが守護女神の言い伝えだ。

「神界に帰ったなんてことを言う輩もいるけど、その線は薄いわ。だって神界に行くための専用の道が使われた形跡がないの。だから、ネプギアの言う通りに囚われたと考える方が可能性としては高い……」

アイエフはこつんと指でテーブルを叩き、顔をクイと上げる。

「それで私達諜報部が現在動いているってワケ。ここまではオッケー?」

「へぇ~、あいちゃんもちゃんとお仕事してたですか」

『どういう意味よ』とアイエフはコンパを軽く小突く。実際のところは最近仕事が無くてダラダラしているところを突かれたような感じがしてアイエフは一瞬ひやっとしたのだがここではどうでもいい。

「それで! 今回、ネプギアの力を借りようとこうして捜索してたの」

「ちょっと待ってください。気になることが」

アイエフはキラに奇異の視線を送る。しかし、キラはそれをモノともしない。何故なら気になることだらけだからだ。

「どうしてネプギアの力を? いや、確かにコイツが強いのは認めますよ? でもだからって――」

そこまで言ったところでアイエフは「ハァ」と大きな溜息でキラの言葉を遮った。

それに気付いて目の前の三人を見てみれば

ネプギア―苦笑

コンパ―同じく苦笑

アイエフ―呆れ顔

となっている。

ますます疑問符を浮かべるキラに、見かねたコンパがネプギアに声を掛ける。

「説明しづらかったら私達が言うですけど、どうするですか?」

「え、えーと……私から、言おうかな?」

ネプギアはコホン、と咳払いを一つ。そしてキラと向き合うような形で座り、重々しく口を開いた。

「私ね、プラネテューヌの守護女神候補生なの。お姉ちゃんは女神のパープルハートなんだけど……」

 

 †

 

――『世の中には信じられることと、その範疇を越えていることが存在する』

なんてことを少年は思っていた。

実際、そうであるのだが何にしても物事に対して色々と面倒くさい後付が必要なのである。

思えば、彼が久々に訪れた地もそうであった。

 

 

ただ、それでも信じたくないこともある。

きっと、それは誰にだって

幾つでも――。

 

 †

 

誰が言ったかは記憶にない。

何処で聞いたかなんて分からない。

けれど、キラはまさしくそうだと思った。

「『世の中には信じられることと、その範疇を越えていることが存在する』」

キラは額に手をやって、嫌なことを思い出すように表情を苦くしてそう答えた。それを見てネプギアもコンパもアイエフも、皆が皆、苦笑を浮かべるしか出来なくなっていた。

「仮に君が候補生であることを認めたとしよう。だが、君の姉が女神様だなんてそんな、そんなバカな……」

「……全部ホントのコトよ」

アイエフはカップに残った紅茶を全て飲み干して、半ば呆れたような表情と口調でそう答えた。

「ギアちゃんはここプラネテューヌの女神候補生で、お姉ちゃんはねぷねぷ……パープルハート様なんですぅ」

「いやいやまさか……マジで?」

「「「マジで」」」

どこかおかしな笑顔を浮かべたまま、キラは硬直した。

そしてその後に「ハァ~~」と盛大な溜息を吐いて、くしゃくしゃと頭を掻いてスッと頭を垂れた。

「何かスイマセンでした。色々と失礼な事しまして」

「あ、顔を上げてよ。私だってそんな偉いワケじゃないんだから。今まで通りに、ね?」

ネプギアは慌ててキラを諭す。

数分、そんなやりとりを終えてキラはゆっくりと頭を上げた。

「そっか、だから『普通じゃない』ってことか。何か納得した」

「それは、良かった」

そんな二人を一瞥して、アイエフはパンパンと両手を打って話の軸を戻す。

「それで、ネプギア。力を貸して欲しいの、頼める?」

アイエフは真剣な顔つきでネプギアに問い掛ける。

しかし、彼女は一層に顔を伏せてまるで答えを出すことを嫌がっているように口を噤んでいる。

「ネプギア!」

「ちょ、アイエフさん! 無理強いは良くないですよ!!」

迫るアイエフとネプギアの間に割ってキラは入る。

「……!」

「ネプギアはまだ怪我もロクに治ってないんです。それに、色々と落ち着ける時間も必要だと思いますし……」

その言葉にアイエフは少しだけ身を引く。

それに呼応するようにコンパもアイエフの肩に自身の手を添える。

「キラ君の言うとおりです。ギアちゃんにもゆっくりできる時間が必要です……」

アイエフは少し考えるような素振りを見せた後に、ふいと視線を外して口を開く。

「そうね、私が悪かったわ。頃合いを見てこっちから連絡を入れると思うからその時は……」

「……はい」

キラは小さく頷いて背後で小さくなっているネプギアを連れてコンパの自宅を後にした。

 

 

残ったコンパとアイエフ。

コンパは心配そうにアイエフに視線を送っておずおずと口を開く。

「何だかあいちゃんらしくなかったですよ? 少し焦りすぎです」

アイエフはベッドに腰掛けて額に手をやって目を瞑り辛そうに答えた。

「ゴメン。最近、余裕がないのよ。ただでさえネプ子が不在で政府も混乱しているって言うのに……」

そう言ってアイエフは小さく溜息を漏らした。

「こんな時にアイツが居てくれたら――なんて思っちゃうワケ」

何度も両手を組んだり放したりを繰り返してカーペットの敷かれた床に視線を泳がせる。

その意図を察したようにコンパも視線を外して壁にもたれ掛かる。

「そうですね……。もう、三年……ですか?」

「そうね、もうそんなに経つんだっけ」

二人は遠く近い過去に静かに思いを馳せた――。

 

 ☆ ☆ ☆

 

「っ~~! もう、アイツらどこまで行ってるのかしら……」

アイエフは宙に向かって恫喝する。

もちろん目的である人物、いや人物達が目の前にいるわけでなく、言葉の意味から察するに目的の者達は彼女たちから離れて行動していることになる。

懐からピンクの色をした携帯を取りだして何やらカチカチとキーを叩いてまた閉じる。

「ねぷねぷはともかく……遅刻なんて珍しいですぅ」

傍らに立っていたコンパも眼前に広がる鬱蒼とした森林に視線を向ける。

時折、ギャアギャアとモンスター特有の鳴き声が響いており、ここがただの森林ではなくダンジョンであることが伺える。

「ちゃんとこの時間にここに集合って言っておいたのに……」

アイエフは携帯を閉じて腰に手をやって文句を垂れる。

しかし、その声色から完全に憤怒しているわけではなく、どちらかと言えば呆れの色の方が強いようにも思える。

しばらく顎に手をやって鬱蒼と茂る森林の方へと視線を向けていたアイエフだが、答えに行き着いたように小さく溜息を吐いてコンパに声を掛けた。

「迎えに行くわよ。どうせ、どこかで道草でも食ってるんでしょ」

「そ、その可能性は低いとは思うですけど……確かに心配です」

コンパも首肯して先を行くアイエフの後を追っていく。

 

 

それから数分ほど、その中を歩いたところで――

「ん? アレはねぷねぷですか?」

コンパは額に手を当ててよく目を凝らしてから、歓喜を帯びた声色でもう一度声を発した。

「やっぱりねぷねぷです。ねぷねぷ~~!」

コンパは恐らく目当ての『少女』の――渾名だろうか。それを叫び、彼女を呼び戻すように手を振る。

そんなコンパに対し、ねぷねぷと呼ばれる少女はだいぶ切羽詰まったような表情で何やら助けを乞うているらしかった。

「た、助けて~~! あいちゃん~、こんぱぁ~~~~!!」

一応、彼女の手の内にはほどよい長さの刀が握られているのではあるが既に戦闘する意志はないらしく、その切っ先がモンスターに向けられることはない。

対する彼女の背後では、推定でも20mくらいはありそうな、巨大な牛型のモンスターが今にもこちらに突進しようとするかのようにざしざしと土を抉っている。

「ななな……何やったのよアンタ!?」

「か、帰ろうとしたら何か巣に突っ込んじゃったみたいでぇ!」

「ハァ!?」

アイエフは『有り得ない』とでも言いたげな表情を見せて先に見えるモンスターに視線を向けた。

鼻息荒く、万全の体制を整えようとするように、機会をうかがっている。

「ていうか、アイツはどこ行ったの! アンタと一緒じゃなかった!?」

アイエフは傍らで情けない表情で涙を流す少女にビシと人差し指を突きつけた。

少女はキョロキョロと周囲を見回した後、「アハッ」と言って後頭部に手をやった。

「はぐれちゃった☆」

「『はぐれちゃった☆』じゃないでしょ!?」

「あわわわっ! 来たですぅ!!」

そんな絶体絶命の中、そんな会話を交わしていたアイエフと少女にコンパは泣きそうな声で呼びかけた。

「――ッ!」

アイエフは静かに目を剥いた。

――終わる。

直感的に感じる恐怖。

それから目を背けるようにきゅっときつく目を閉じた。

――が。

彼女の頭上で爆発音が鳴り響く。

そしてその後に、『ギャァァアアアア』というモンスターの悲痛な鳴き声が響いた。

アイエフは閉じていた瞼を恐る恐る開く。

そこには先程まで自分たちに猛然と襲いかかってきていたモンスターの頭部から濛々と黒煙が上がっていた。

しかも、それから次々とモンスターの身体のあちこちから爆発が起き始めている。

突然の出来事に上手く脳が機能しない。

アイエフは暫くその出来事を呆然と眺めていた。

 

そして、自分のすぐ上を掠めて飛んでいく影が視界に映る。

「――!」

すぐに気付いた。

アイエフは、心底安堵したような表情を浮かべてその影に声を掛けた。

「遅いわよ!」

「悪い!!」

風のように軽く投げられた声。

影は木漏れ日に当てられてその姿を現す。

しかし、まるで捕らえられないように素早い動きで樹木を蹴ってモンスターの身長よりも遥かに高い位置へとその身を飛ばしていた。

『グガァァアアアアアアアア!!』

己の身の危険を感じ取ったのか、モンスターは咆吼と共に空気を揺るがし、何とか進行を防ごうと足搔いている。

しかし、対する少年はさして気にした風もなく、左手に構えていた銃に新たに弾丸を装填してモンスターに向けて引き金を引く。

『ッゲェ!!』

爆撃弾が見事、モンスターの頭頂部にヒットしてモンスターの足が崩れる。

そしてその間に少年は銃を腰のホルダーに収めてすぐさまその傍にある小ナイフに持ち変える。

「おらぁ!!」

ザン、と小気味のいい音と共にモンスターの身体がズシンと大地を揺らして崩れ落ちる。

その後、小さな悲鳴を上げながら次第にその姿はブレて何もない大地だけが視界に映し出される。

「ふぅ……」

少年は小さく吐息して三人に視線を向けた。

対するアイエフもひとまずの安息と安堵の息を漏らして少年と視線を交わした。

「助かったわ、相変わらずの手際ね」

「そういうお前は動きにキレがなかった」

皮肉っぽく少年はアイエフにそう投げかけて笑っていた。

「ねぷ子が余計な話を持ってくるから油断してたのよ」

「えー、私の所為?」

少女は不満げな声を上げて自身を指した。

「そうでしょ!? だいたいこうなってるのだってアンタが集合に遅れるからで――」

アイエフが我慢できない怒りを吐くように少女に向けてそんな言葉をぶつける。

少女も居心地の悪そうに肩をすくめてショボーンと意気消沈している。

「と、とにかく無事で良かったです。とりあえずはここを離れるですぅ」

いい加減、この先の行動に支障が出ると思ったのか思わなかったのかは理解しかねるが、コンパが慌てて声を上げる。

「そうだな。ここで騒いで、モンスターに目付けられても面倒だ」

少年も賛同するように首筋を掻きながらそう首肯した。

そんな二人に少しばかり視線を送っていたアイエフだが、それもそうかと思い直しひとまず少女を連れてそのダンジョンを抜けようと出口を目指し歩いていく――。

 

 

ボロボロの身体を椅子に腰掛けさせて少女はアハハと屈託なく笑う。

「いや~、こんぱとあいちゃんがいてくれて助かったよ! あのままだったらきっと私は今頃あのモンスターに食べられちゃってたねぇ」

と、最早他人事のようにしみじみと先程の場面を思い浮かべている少女に対してアイエフは既に怒りとかそういう類を通り越して呆れすら感じていた。

「はぁ、ホント……アンタのそういう性格が羨ましく思うわ……」

「見習ってもいいよ!」

「馬鹿にされてんだよ……」

少年は少女に苦笑を浮かべて補足した。

「それで? ネプ子はよしとしてアンタの方は何してたの?」

アイエフはもう少女の方は咎める気は無いようで、とりあえず傍らの少年の方に向きを変えて問い掛けた。

少年は「あー……」と言って頬を掻く。

「まあ……はぐれたネプ子を探してたら、って感じで……」

「アンタも迷ったワケね……」

アイエフはぐったりとした表情で肩を落とす。すっかり苦労人色が漂っており、少年は微苦笑を携えて謝るように両手を顔の前で合わせた。

「もう……毎度毎度こうクエストに出かける度に迷子になられてちゃ、こっちの身が持たないんだから勝手な行動は慎んでよね」

アイエフは諭すように少女にそう語りかけた。

「うーん……一応心がけてはいるんだけどねー」

「でも、ねぷねぷは気になったことがあるとそっちに注意が行っちゃうですからいつの間にかいなくなってるです」

「あはは、善処するね」

少女は口ではそう言ってはいるが、まるで反省の色が見えないように笑っている。

それを見てアイエフはますます大きな溜息を吐いてこの先に自分の苦労が見えてきてしまうようで落胆の色を見せた。

「まあいいじゃねぇか。こうしてまた集まれたんだし」

少年はまとめるようにそう答えた。

アイエフは相変わらず表情を変えぬまま少年に向けて声を発した。

「アンタ、妙なところでねちっこいのに大事なところは雑破よねぇ……」

「そうか?」

少年は自覚の無いようで、不思議そうな表情を浮かべて首を傾げた。

 

「ホント、勝手にどこかに行くのは心臓に悪いんだからやめてよね……」

 

アイエフは、嫌味ぽく少女と少年二人に言葉を投げかけた。

二人は暫く顔を見合わせていたが、その後に二人して笑顔を浮かべて答えた。

「当前だろ?」

「流石に私でも一人で知らないところには行かないよー」

 

 ☆ ☆ ☆

 

「嘘つき……」

アイエフは泣きそうな声で顔を伏せた。

 


 
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