「それではまず、予定通りにキリト殿から話をして頂こう。」
レイブンにそう促された俺は、椅子から立ち上がると、前回話を途中で切り上げたヒー
スクリフとの出来事を話し始める。
「それじゃあ、昨日言った通りヒースクリフとの出来事を話すよ。それで確認なんだけ
ど、俺が奴と相討ちになって意識が謎の空間に飛ばされたところまでは皆知ってるよな?」
俺が問いかけると、皆はこくりと頷く。それを確認した俺は、話を再開する。
「俺は、そこで奴といくつかの話をした。その中で最も重要なことは、奴が俺たちがこ
の世界からログアウトするには100層に到達するしか無いといったことだ。」
これも昨日話した内容だったが、かなり重要なことだったので改めてもう一度皆に伝え
ることにした。しかし、昨日のような混乱が生じることは無く、皆神妙な顔つきで静かに
頷いていた。
「そしてヒースクリフは、けじめをつけると言って、このゲームのシステムを大まかに
分けて二つ変更したんだ。今回は、その内容を伝えるためにここに集まってもらった。」
俺がそう言うと、会議室内が少しざわつき始めた。しかし、そうなったのもほんの僅か
で、すぐにレイブンが静かにするよう言った。
室内が静かになったことを確認した俺は、さらに話を続ける。
「それじゃあ、二つの変更点を話す。まず一つ目は、俺たちが上げることの出来るレベ
ル上限が100から200に引き上げられたことだ。」
これの言葉に、先ほどよりも大きなざわつきが見てとれた。まあ無理も無い。自分たち
の知らない場所で勝手にゲームの設定が変更されていたのだ。俺が彼らの立場だったら、
間違い無く同じ反応を見せているだろう。などと考えていると、一人のプレイヤーが、
「・・・ってことは、少なくともHPは30000は超えると考えていいんだよな?」
と聞いてきた。俺は、即座に答える。
「ああ、それは断言できる。それに≪筋力値≫や≪敏捷値≫の値も上昇し続けるなら、
少なく見積もっても1500は超えるだろう・・・。」
そして、俺は言葉を続ける。
「まあ、この辺はこれからのレべリングで得た情報をまとめていくしか無いと思うんだ。
だから、可能な限り協力して欲しいんだ。もちろん、自分のステータスを全て公開しろと
は言わない。大体の目安でいいんだ。だから、頼む。」
そう言って、俺は皆に頭を下げた。すると、クラインから返答が来る。
「俺は別に構わねーぜ。俺たちの最終目標は、誰よりも強くなることじゃなくて、一刻
も早く向こうの世界に帰ることだしな。ステータス値見せるのが何だってんだよ。」
そして、それにアスナ、エギルと続く。
「私も構わないわ。クラインさんの言う通り、私たちがすべきことは、一刻も早くこの
ゲームを攻略することだし、私はいくらでも手を貸すわよ。」
「俺も同意見だ。ゲームクリアのためなら、俺のステータスくらいいくらでも見せてや
るよ。」
それに続くように皆、「俺も構わないぜ。」、「俺もだ。」と次々に賛同してくる。俺はこの
光景に涙が出そうになったが、それを隠すように頭を下げ、「ありがとう・・・。」と一言
呟いた。そして表情を引き締めると、俺は二つ目の変更点を伝える。
「それじゃあ、二つ目の変更点に話を移そう。二つ目の変更点は、今まで出現していな
いアイテムやスキルが全てアンロックされたことだ。」
俺の放った言葉によって、先ほどよりもおおきな喧騒が辺りを包み込む。すると、アス
ナがこの喧騒の中でも通る透き通った声で俺に聞いてくる。
「キリト君。それは一体どういうことなの?」
俺はアスナの質問に、彼女にだけでなく全員に聞こえるように答える。
「簡単に説明すると、今まで出現していたアイテムやスキルは、ヒースクリフ――茅場
がその層のモンスターの強さと安全マージンを考慮して出現させていたらしい。だが、そ
れが全てアンロックされたってことは、これからは層のマージンやモンスターに関係無く
武器が出現することになる。それは必然的に≪魔剣≫クラスの武器の出現率が上がるとい
うことだ。それと、スキルに関しては別だ。皆もよく知っていると思うが、俺たち≪攻略
組≫は以上と思えるほどのレべリングを行ってきた。そして、スキルはドロップするので
は無く出現条件を満たせば自動的にスキルウィンドウに表示される。それはつまり――」
「アンロックされたスキルの中に、もう習得条件を満たしてるものがあるかもしれねえ
ってこったな?」
クラインの言葉に俺は頷くと、皆に対して指令を出す。
「そこでだ。皆、今この場でスキルウィンドウの確認をして欲しいんだ。そして、もし
見慣れないスキルがあったら、不本意だがここでスキルの名前を教えて欲しいんだ。無論、
スキルの効果などを試すつもりは無い。名前だけ聞かせてくれれば十分だ。そして、ここ
で上がったスキルは、とりあえずエクストラスキルとして情報屋に公開する。
その後は、他のプレイヤーの情報をまとめてスキルを判断する。皆、不本意なのは重々承
知している。だけど、今回だけは我慢して欲しい。」
俺の意見に、皆嫌だという素振りは見せなかった。一安心した俺は、皆にスキルの確認
を促すと、ウィンドウを表示して確認する。他の者も、次々とウィンドウを表示して確認
を始めた。
残念ながら、俺のスキルウィンドウには新種のスキルが追加された跡は無かった。しか
し収穫が無かった訳ではなく、前回のボス戦でレベルが上がったことにより、スキルスロ
ットの数が一つ増えていることに気付いた。そして、そこに何のスキルを入れるかを考え
ていると、
「キリト君、キリト君。ちょっとこれ見て。」
アスナが俺の脇腹を指でつついて話しかけてきた。ウィンドウを表示したまま、俺は彼
女の方に体を向ける。
「どうした、アスナ?」
「ちょっと、これ見て。」
そう言って、彼女は俺にウィンドウを見せてくる。俺は、結婚したことにより常に可視
モードになっているそれを見た。すると、そこには見たことの無いスキルが表示されてい
た。
「ねえ、キリト君。どう?」
「俺もこんなスキルは見たことないな・・・・。」
そう言って、俺はアスナのスキルウィンドウに表示されているスキル≪疾風≫を凝視し
た。
「とりあえず、このスキルは会議が終わった後にでも実験しよう。」
「うん・・・。私もその方がいいと思うわ。」
そうして今後の予定を決めていると、レイブンが指示を飛ばす。
「では、新しいスキルが発見できたものはその場で御起立願いたい。」
すると、何人かのプレイヤーが立ち上がった。その中には、クライン、エギル、そして
シュミットも含まれていた。そして、アスナも立ち上がる。
「では、御起立頂いた者には、発見したスキルの名前を述べてもらおう。」
そう言うと、立ちあがった5人が時計周りにスキルの名前を言い始める。
最初にスキル名を公表したのはシュミットだった。
「俺のスキル欄に追加されていたのは、<<聖槍>>というスキルだ。」
やはり、聞いたことの無い名前だった。だが、名前の雰囲気から考えると、とてもエク
ストラの枠に収まる感じはしなかった。多分、あれはユニークスキルに分類されるだろう。
そんなことを考えているうちに、次の人に移っていた。
このプレイヤーは、今までのボス攻略戦では顔を合わせたことは無かった。おそらく、
今回のボス戦から参戦したのだろう。しかし俺は、奴の経歴よりもその『装備』の方が気
になっていた。剣の種類こそ違うが、装備しているものはコートやパンツまで俺とうり二
つだった。もちろん金属防具などは装備していない。しかし、ここまでそっくりだと何だ
か気持ち悪いな・・・・・。後でちょっと話を聞いてみよう・・・。
そんなことを思っていると、そのプレイヤーはスキル名を言い始めた。
「僕が新しく見つけたスキルは、<<連結>>です!」
これも同じく聞いたことが無い。ただ、今回のスキルは名前だけでは判別が付けられな
い。これは、情報が集まるのを待った方が得策だな。
そう考えを纏める頃には、エギルがスキル名を公表する直前だった。
「俺のスキルは、<<戦斧>>って名前だ。」
このスキル名も初耳だ。だが、俺の経験と直感がこのスキルはエクストラだと告げてい
た。これは、名前からして装備に関わるスキルだろう。
そうして、次はクラインに順番が回ってきた。
「俺の出現したスキルは、<<鎧通し>>って名前だ。」
鎧通しとなると、あれは確か日本刀に分類される刀の名称だ。これは、エクストラスキ
ルの≪カタナ≫の派生だろうと俺は考えた。
そう考えているうちに、とうとう最後の一人、アスナへと順番が回っていた。
「私が確認した進出スキルは、<<疾風>>です。」
こうして、進出スキルの公表は終了し、進行役のレイブンが口を開く。
「キリト殿。他に話すことは無いか?」
その質問に、俺は首を縦に振る。
「誰か、話のある者はいないか?」
レイブンは皆にそう問う。しかし、話のある者は誰もいなかった。そして、彼は会議の
終了を告げた。
「では、以上をもって、本会議を終了させて頂く。全員、解散!!」
<あとがき>
今回も、私の作品を読んで頂き誠にありがとうございました。
それにしても、スキルの名前というのは中々思い付かないものですね~・・・。
スキルの名前を決定するのにかなりの時間を要してしまいました・・・・・。
そんなことはさておき、次回予告です。
次回はオリジナルスキル解説(ネタバレ有)とアンケート(予定)です。
それでは皆さん、さようなら~。
Tweet |
|
|
3
|
0
|
追加するフォルダを選択
最近、更新のペースが中々順調なsuikaです。
今回は、会議の終了までです。
あと、七十五層のボス攻略に何故かシュミットさんが参加したことになっていますが、そこはご容赦を・・・・・。
それでは、どうぞ!!