No.516247

ソードアート・オンライン ロスト・オブ・ライトニング 第十話 剣士VS将軍

やぎすけさん

VSユージーン

2012-12-08 14:24:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3184   閲覧ユーザー数:3090

キリトの余りにも巨大な声の力に圧され、周囲の者は数歩、あるいは数cm下がる。

降りてきたリーファもいきなりの声に一瞬首をすくめたが、すぐにシルフの領主である長身の女性、サクヤの元へと降りて行く。

 

キリト「指揮官に話がある!」

 

キリトが再び大きな声を上げた。

サラマンダー達の中央が開き、そこから逆立った赤毛の大男が進み出て来た。

赤銅色のアーマーに身を包み、背にはデュオのブレイズダスクにも劣らぬ巨剣を背負っている。

大男は、重厚感のある音とともにキリトとデュオの前に着地すると、高い位置から睥睨するように二人を眺めた。

 

?「スプリガンにインプか・・・こんなところで何をしている。どちらにせよ殺すには変わりないが、その度胸に免じて話だけは聞いてやろう。」

 

キリト「俺の名はキリト。スプリガン・ウンディーネ同盟の大使だ。この場を襲うと言う事は、我々四種族との全面戦争を望むと解釈していいんだな?」

 

?「ウンディーネとスプリガンが同盟だと・・・?」

 

大男は一瞬驚いたような表情を見せるが、すぐに笑みを浮かべると聞き返す。

 

?「護衛の1人もいない貴様がその大使だと言うのか?」

 

デュオ「一応俺が護衛だ。と言っても俺もこいつも実力は大して変わらないけどな。」

 

訝しむような目線で訪ねた指揮官に、後ろに控えていたデュオが答えた。

 

?「貴様が護衛・・・?得物以外大した装備もなさそうだが・・・随分な護衛だな・・・」

 

デュオ「俺の名はデュオ。傭兵としてスプリガンに雇われてる。これでも、腕には結構自信がある。」

 

?「ほう・・・」

 

サラマンダーの指揮官は、腕に覚えがあると言ったデュオを興味深げに眺めてから、キリトに視線を戻す。

再び正面から向き合うと、キリトが口を開く。

 

キリト「この場には、シルフ・ケットシーとの貿易交渉に来ただけだ。だが、会談を襲われたとなれば、それだけじゃ済まないぞ!四種族で同盟を結んで、サラマンダーとの対立することになるだろう。」

 

そうしてしばしの間、両者の間を沈黙が包んだ。

しかしやがて、深紅の大男はゆっくりと口を開く。

 

?「護衛がいるとはいえ、大した装備も持っていない貴様を、にわかに大使だと信じるわけにはいかんな。」

 

大男は背中に手を回すと、巨大な両刃の剣を音高く抜き放った。

鞘から姿の現した刀身は暗い赤色に輝き、2匹の龍の象嵌が見て取れる。

 

?「俺の攻撃を30秒耐え切ったら、貴様を大使と信じてやろう。」

 

キリト「ずいぶん気前がいいね。」

 

飄々とした口調で言うと、キリトも背中の鞘から剣を引き抜く。

こちらの剣は刀身までほとんど漆黒で、装飾の類は一切無い。

 

リーファ「キリト君!無理だよ・・・!彼はユージーン将軍だよ!サラマンダーのユージーンって言ったらALO最強のプレイヤーって言われてるんだよ!」

 

ユージーンとの勝負に臨もうとするキリトを、リーファが止めようとする。

 

デュオ「心配するな。こいつは簡単に負けるような男じゃない。」

 

リーファ「で、でも・・・」

 

デュオ「いいから黙って待ってろ。」

 

デュオは、キリトからリーファを引き剥がすと、サクヤたちのいる方へ戻る。

2人が戻ると、キリトとユージーンは翅を振動させて浮き上がり一定の高度に達すると停止する。

空中で対峙する両者は、相手の実力を計るかのように長く睨み合う。

上空を流れる雲が千切れて日が差してくると、それがユージーンの大剣に当たり反射した。

眩しさにキリトが顔をしかめたその瞬間、何の予備動作も無くユージーンが動いた。

超高速の突進とともに、右に大きく振り被られた大剣が宙に赤い弧を描いてキリトに襲い掛かる。

キリトも瞬時に迎撃体勢に入り、大剣を受け流そうと構えた。

しかし、ユージーンの剣はその赤い刀身を霞ませると、キリトの剣をすり抜けて、キリトの体に当たった。

キリトの体はそのまま吹き飛ばされ、地面に叩きつけられて土煙を上げる。

 

リーファ「何・・・!?今の・・・」

 

デュオ「キリトの剣をすり抜けたな。」

 

そんなリーファの問いに答えたのは、ケットシーの領主アリシャ・ルーだった。

 

アリシャ「【魔剣グラム】には【エセリアルシフト】っていう、剣や盾で受けようとしても非実体化して通り抜けてくるエクストラ効果があるんだヨ!」

 

リーファ「そ、そんな・・・」

 

デュオ「厄介な能力だな。そういえば、キリトはまだエクストラ使ってないな。」

 

デュオが呟いた途端、土煙の中からキリトが矢のように飛び出した。

ホバリングするユージーン目掛けて一直線に突進すると、お返しとばかりに剣を叩きつける。

 

ユージーン「ほう・・・よく生きていたな。」

 

キリトの攻撃を捌きながら、ユージーンがうそぶく。

 

キリト「なんだよさっきの攻撃は!?」

 

目にも留まらぬ速さで襲い掛かる剣撃を、ユージーンは的確に弾いていく。

そして、連撃の間に出来たわずかな隙に、ユージーンのグラムが横薙ぎに振るわれた。

反射的に剣で受けようとするキリトだが、グラムは再び刀身を霞ませると、キリトに深々と食い込んだ。

 

キリト「ぐはぁぁっ・・・!!」

 

キリトは声を上げながら吹き飛ばされるが、空中でブレーキを掛けて踏みとどまる。

 

キリト「効くな・・・おい、もう30秒経ってんじゃないのかよ!?」

 

鮮血のようなライトエフェクトを発生させている切り口を見てから喚くキリトに、ユージーンは不敵な笑みを浮かべる。

 

ユージーン「悪いな、やはり斬りたくなった。首を取るまでに変更だ。」

 

キリト「この野郎・・・絶対泣かせてやる!」

 

剣を構え直し果敢に挑み続けるキリトだが、ユージーンの攻撃は確実にキリトのHPを削り取っていく。

 

サクヤ「厳しいな・・・プレイヤーの技術は互角と見るが、武器の性能が違いすぎる。サーバーに1本しかないあの魔剣に対抗できるのは、同じく伝説武器の【聖剣エクスキャリバー】だけと予想されているが、そちらは入手方法すら未解明だからな・・・」

 

戦況を見て呟くサクヤの隣で、リーファは不安そうにキリトの姿を見守る。

 

デュオ「さすがにこのままじゃ負けるな・・・じゃあ本気でやってもらわないとな。」

 

突然そう言うと、デュオはウインドウ画面を操作してアイテムを探す。

 

リーファ「本気って・・・まさか、キリト君あれでも本気じゃないって言うの!?」

 

デュオ「それはそうだろ。あの程度の戦いしか出来ない奴なら、俺はあいつに負けたりしないよ。」

 

デュオは不敵な笑みを浮かべると、ストレージから1つのアイテムを呼び出す。

アイテムのオブジェクト化が始まり、1本の剣が姿を現す。

白銀の薄く細い刀身に、空色の鍔と柄を持った両刃の剣。

デュオは実体化したそれを地面に突き立てると同時に、先ほどのキリトの叫び声にも引けを取らぬほどの声で叫ぶ。

 

デュオ「キリト!!」

 

大気が震えるようなデュオの声に、キリトは振り返ると左手を突き出す。

その手が黒く輝いた途端、キリトを中心に黒い煙が何段もの爆発を起こした。

黒い煙はあっという間に広がると、一気に周囲が薄暗くなる。

 

キリト「借りるぜ。」

 

デュオ「行ってこい。」

 

キリトとデュオは、お互いの存在を気配だけで認識して声を掛け合う。

 

ユージーン「時間稼ぎのつもりかぁ!!」

 

分厚い煙の中央からユージーンの叫び声が響く。

その直後、ユージーンは剣を振り切って煙を吹き飛ばした。

しかし、光を取り戻した空にはユージーンの姿しかない。

 

アリシャ・ルー「いないヨ・・・!」

 

デュオ以外の全員が、きょろきょろと辺りを見回して小柄なスプリガンの姿を探す。

デュオは腕を組んだまま、不敵な笑みを浮かべて空を見ている。

 

ケットシー「まさか、あいつ逃げたんじゃ・・・」

 

リーファ「そんなわけない!!」

 

呆然と呟くケットシーの言葉を、リーファが強く叫んで否定する。

その時、上空から飛翔音が響いてきた。

逃げたと思われていたキリトは、太陽の中からその姿を現したのだ。

それに気付いたユージーンはさっと真上を振り仰ぐ。

しかし、強烈なエフェクトに顔をしかめ、左手を顔の前にかざした。

ユージーンはその剛毅な口元が引き締め、次いで開く。

 

ユージーン「ドアアアァァァッ・・・!!」

 

天地を揺るがす気合と共に、太陽に向かって重突進をかける。

ユージーンは真紅の光を引きながら、太陽に向かってロケットのように急上昇していく。

その真上からは、漆黒の尾を引くキリトが、隕石のような勢いで急降下する。

そして、漆黒の隕石と真紅のロケットが空中で衝突する瞬間、キリトは右手に構えていた黒い剣を斬り降ろす。

ユージーンもエセリアルシフトを発動させると、透過した刃がキリトへ向かう。

ぎゃいん!!という鋭い金属音と同時に。白銀の刃がグラムの刃を弾き返した。

驚愕するユージーンに向けて、キリトが雷鳴のような雄叫びを放つ。

 

キリト「お・・・おおおおああああ・・・・!!」

 

直後、両手が霞んで見えるほどの速度で、2本の剣が撃ち出された。

白銀と漆黒の剣光が、夜空に降り注ぐ流星群の如く舞う。

ユージーンもシフト攻撃で対抗しようとするが、銀の刃がシフトを無効化して弾き、二段目に飛来する黒の刃がユージーンを切り裂く。

 

ユージーン「ぬおあああぁぁぁ・・・!!」

 

放たれた野太い咆哮とともに、防具の特殊効果で発生した炎の半球体がキリトを押し戻す。

瞬間、魔剣を小細工抜きの大上段に構えて撃ち込んだ。

しゃぁん!という甲高い金属音と同時に魔剣が受け流される。

その瞬間、キリトは凄まじい気勢に乗せて、SAO時代の特技【スターバースト・ストリーム】を放つ。

 

キリト「ら・・・ああぁぁぁぁ・・・!!」

 

殺到する剣を受けて、ユージーンのHPがイエローゾーン、そしてレッドゾーンに達する。

 

キリト「うおおおぉぉぉぉ・・・!!」

 

そして、とどめの突きがユージーンの体を貫いた。

 

ユージーン「・・・!!」

 

驚愕の表情を浮かべた将軍の体からエンドフレイムが燃え上がり、アバターが崩れた。

誰一人として動くものは無かった。

シルフも、ケットシーも、サラマンダーの大部隊も魂を抜かれたように凍り付いていた。

すると、デュオが飛び上がり落ちていったユージーンのリメインライトを回収する

それを見た瞬間、硬直の解けたサクヤが扇子を広げて前に突き出した。

 

サクヤ「見事、見事!!」

 

アリシャ・ルー「すごーい!ナイスファイトだヨ!」

 

サクヤとアリシャ・ルーの賛辞を皮切りにシルフ、ケットシーだけでなく敵であるはずのサラマンダーからまでも歓声が上がった。

その中央で、立役者となったキリトは相変わらずの飄々とした笑みを浮かべ、漆黒の剣を鞘に収めた。

 

キリト「や、ど~もど~も!」

 

気障な仕草で四方に一礼する。

すると、ユージーンのリメインライトを抱えたデュオが叫ぶ。

 

デュオ「誰か、蘇生魔法を頼む!」

 

サクヤ「解った。」

 

サクヤが頷くと、デュオがリーファたちの下へ降り立った。

デュオがリメインライトを降ろすと、サクヤはスペル詠唱に入る。

やがて詠唱が終わると、サクヤの手から青い光が迸り、赤い炎を包み込んだ。

複雑な立体魔方陣が展開し、赤い残り火は徐々に人の形を取り戻す。

蘇生されたユージーンは立ち上がると右肩を軽く回して首をポキポキと鳴らした。

振り返ると、横目でキリトを見て言う。

 

ユージーン「見事な腕だったぞ・・・今まで俺が見た中で最強のプレイヤーだ。貴様は。」

 

キリト「そりゃどうも。」

 

ユージーン「貴様のような男がスプリガンにいるとはな・・・世界は広いということかな」

 

キリト「はは。俺の話、信じてもらえるかな?」

 

ユージーンが目を細め、沈黙すると、彼の後ろから一人のサラマンダーが進み出てきた。

 

?「ジンさん、ちょっと良いか?」

 

ユージーン「カゲムネか、何だ?」

 

カゲムネ「俺のパーティが、昨日全滅させられたのはもう知ってると思う」

 

ユージーン「ああ」

 

カゲムネ「その時の相手が、まさにこのスプリガンたちなんだけど・・・確かに連れにウンディーネがいたよ」

 

明らかな嘘に、キリトは一瞬眉を動かし、デュオは内心口笛を吹く。、

少しカゲムネ話を聞いたユージーンは一度と頷いてから少しだけ微笑む。

 

ユージーン「そうか・・・そう言う事にしておこう」

 

そう言って、すぐに、キリトに向き直る。

 

ユージーン「確かに、現状でスプリガン、ウンディーネと事を構えるつもりは俺にも領主にも無い。この場引くとしよう・・・だが、貴様とはいずれまたもう一度戦うぞ。」

 

キリト「望むところだ。」

 

キリトが二ヤッと笑いながら返し、拳を突き出す。ユージーンも小さく笑うとその拳に己の拳をごつん。と打ちつけた。

 

デュオ「その時は、俺も戦いたいな。」

 

ユージーン「楽しみにしておく。」

 

ユージーンはデュオにそう言うと、部下のサラマンダーを連れて去って行った。

隊列を組み直して飛んでいくサラマンダーを見送ってからキリトが言った。

 

キリト「サラマンダーにも話のわかる奴がいるじゃないか。」

 

デュオ「そうだな。俺はああいう奴、結構好きだぜ。」

 

キリト「それは同感だな。」

 

デュオ「にしても・・・お前相変わらず片手剣だと大したことないな。」

 

キリト「いいんだよ。本気でやる時には二刀流を使うんだから。」

 

デュオ「その二刀流も、俺がその剣を持ってなかったら使えなかったけどな。」

 

デュオは今だキリトの左手に握られている銀の剣を指差して言った。

 

キリト「そういえば、この剣は一体・・・?」

 

デュオ「ああ、その剣は・・・」

 

デュオが説明しようとした時、サクヤが咳払いしてから入ってくる。

 

サクヤ「すまんが・・・状況を説明してもらえると助かる。」

 

静かになった会場でリーファは一部憶測であることを前提として言いつつ、これまでのキリト達の旅路についてと、その他の事の成り行きを説明する。

シルフ、ケットシー双方の要人たちはそれを黙って聞いていたが、やがてリーファがしっかり説明し終えると、サクヤが深くため息をついた。

 

サクヤ「なるほどな・・・」

 

サクヤが小さくそう漏らし、形の良い眉をひそめる。

 

サクヤ「ここ何カ月か、シグルトの態度に苛立ちめいた物が含まれているのは私も感じていた。だが独裁者と見られるのを恐れて合議制を取る余り、彼を要職に置き続けてしまった・・・」

 

アリシャ・ルー「サクヤちゃんは人気者だからねー。辛いところだヨ~」

 

そこに、リーファの呟くような疑問が割り込んだ。

 

リーファ「苛立ち・・・何に対して?」

 

リーファを一度静かに見つめてから、サクヤは話す。

 

サクヤ「シグルトは、パワー思考の男だ。キャラクターの数値的力だけではなく、プレイヤーとしての権力も求めていた・・・多分、彼には許せなかったのだろうな。勢力的にサラマンダーの後塵に拝し、もしかすると、いずれ彼らに無限の空を支配され、自分がそれを地面から眺める事になりかねないと言う、この状況が・・・」

 

サクヤはどこか物憂げに語る。

 

リーファ「でも・・・だからってどうしてサラマンダーのスパイなんか・・・」

 

納得できない様子のリーファ。

その疑問の答えも、サクヤが教えてくれた。

 

サクヤ「もうすぐ実装される、【アップデート5.0】の話は知っているか?ついに、【転生システム】実装されるという噂がある。」

 

リーファ「あっ・・・じゃあ・・・!」

 

サクヤ「モーティマーに乗せられたのだろうな。領主の首を差し出せばアップデートが実装され次第サラマンダーに転生させてやると。だが転生には膨大なユルドが必要になるらしいからな。モーティマーが契約を履行したかどうかは怪しいな・・・」

 

キリト「人間の本質を試す嫌なゲームだな。ALOって・・・」

 

苦笑交じりのキリトが言うと、デュオが呆れたような笑いを浮かべて続ける。

 

デュオ「デザイナーの嫌な性格がよく出てるな。」

 

サクヤ「ふ、ふ、まったくだ。」

 

リーファ「それで・・・どうするの?サクヤ」

 

リーファがそう訪ねた数分後、シグルトは抗議の声と共に、サクヤの権限によってシルフ領から完全に追放された。

 

リーファ「サクヤ・・・」

 

シグルトを追放してからしばらくの間、サクヤはじっと何かを考え込むように眼を伏せていたが、リーファの気遣うような呼びかけに答えるように、ため息混じりの笑みを漏らした。

 

サクヤ「私の判断が正しかったのかどうかは、次の領主選挙で問われるだろう。ともかく。・・・礼を言うよ、リーファ。君が駆けつけてくれたがとても嬉しい。それとアリシャ、シルフの内紛のせいで危険にさらしてしまった事、本当に済まなかったな。」

 

アリシャ・ルー「生きてれば結果オーライだヨ!」

 

頭を下げるサクヤと呑気な事を言うアリシャ・ルーに続いて、リーファは首をぶんぶんと横に振る。

 

リーファ「ううん。あたしは何もしてないもの。お礼ならそこの二人にどうぞ」

 

サクヤ「そうだ・・・君達は一体・・・?」

 

二人の領主が、それぞれキリトとデュオの顔をまじまじと覗き込む。

 

アリシャ・ルー「ねぇ、キミ、スプリガンとウンディーネの大使って話、本当なの?」

 

興味深げに尻尾をゆらゆらと揺らしたアリシャ・ルーが、キリトに尋ねる。

それに対して、キリトは腰に手を当て胸を張って言った。

 

キリト「勿論大嘘だ。ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション!」

 

サクヤ&アリシャ・ルー『なっ・・・』

 

悪びれる様子も無く言ったキリトのセリフを聞いた二人の領主は、あんぐりと口を開ける。

サクヤが茫然とつぶやく。

 

サクヤ「無茶な男だな、あの状況で大法螺を吹くとは・・・」

 

キリト「手札がしょぼい時はとりあえず掛け金をレイズする主義なんだ」

 

デュオ「それで、毎度トラブルを引き起こすんだから。ちょっとは反省しろよ。」

 

キリト「お前がサポートしてくれるから、結果としては良いほうに行くだろ?」

 

デュオ「じゃあ俺がいなかったら、悪い方に行くんじゃないか?」

 

あっという間に緊張感のかけらもない会話に話を持っていく二人を見て、サクヤはまたしても唖然とし、アリシャ・ルーが言う。

 

アリシャ・ルー「キミ強かったネ?知ってる?さっきのユージーン将軍はALO最強って言われてるんだヨ。それに正面から勝っちゃうなんてスプリガンの秘密兵器、だったりするのかな?」

 

キリト「まさか。しがない流しの用心棒さ。」

 

アリシャ・ルー「ぷっ、にゃはははは」

 

ケットシー領主アリシャはキリトの腕に抱きついた。

誘惑するかのように流し目で見つつ、訊ねる。

 

アリシャ・ルー「フリーなら、キミ・・・ケットシー領で傭兵やらない?三食おやつに昼寝つきだヨ。」

 

リーファ「なっ・・・」

 

正面にいたリーファの顔が引きつる。

 

サクヤ「おいおいルー、抜け駆けはよくないぞ。彼はもともとシルフの救援に来たんだから優先交渉権はこっちにあると思うな。キリト君と言ったかな・・・どうかな、個人的興味もあるので礼も兼ねてこの後スイルベーンで酒でも・・・」

 

その言葉でリーファの顔がさらに引きつる。

それを隣で見ているデュオはやれやれと言った様子で肩を竦めている。

 

アリシャ・ルー「あ~っ、ずるいヨ、サクヤちゃん。色仕掛けはんた~い。」

 

サクヤ「人のこと言えた義理か!密着し過ぎだお前は!」

 

そこまで行ったところでデュオが言った

 

デュオ「悪いんだけど、俺の相棒を取らないでもらえませんか・・・」

 

アリシャ・ルー「なら、君も一緒にどう?さっきの話しぶりからしてかなり強そうだけど。」

 

キリトから離れたアリシャ・ルーが、今度はデュオの腕に抱きつく。

すると、今度はリーファがデュオの腕を引っ張った。

 

リーファ「だめです!デュオ君はあたしの・・・」

 

デュオ「あたしの・・・何だ?」

 

デュオが問うと、リーファは顔を赤くしながら焦っている。

 

リーファ「え~と・・・あたしの・・・」

 

リーファは、ゆっくりと手を離すと後ずさった。

そんな様子を見たデュオは、少し笑うとくっついているアリシャ・ルーに言う。

 

デュオ「魅力的なお誘いありがとうございます。だけど俺たちは世界樹に行かなきゃならないんです。」

 

アリシャ・ルー「そうなの?う~ん、残念だナ~・・・」

 

目を細めて残念そうに言う彼女の後ろから、サクヤが言う。

 

サクヤ「残念だったなルー。ところで、アルンに行くのかリーファ。物見遊山か?それとも・・・」

 

リーファ「領地を出る・・・つもりだったんだけどね。でも、いつになるか分からないけど、きっとスイルベーンに帰るわ。」

 

サクヤ「そうか・・・それを聞いてほっとしたよ。必ず戻って来てくれよ・・・彼らも一緒にな。」

 

アリシャ・ルー「途中でうちにも寄ってね。大歓迎するヨー。」

 

そう言って一歩下がったアリシャと、横に並んだサクヤはそれぞれ深く一礼する。顔を上げたサクヤが言った。

 

サクヤ「今日は本当にありがとう。リーファ、キリト君それと・・・」

 

デュオ「あっ、そう言えば名乗って無かったな。俺の名はデュオだ。」

 

サクヤ「デュオか・・・、本当にありがとう。もしも私達が討たれていれば、サラマンダーとの格差は決定的な物になっていただろう。何か礼をしたいが・・・」

 

キリト「いや、そんな・・・」

 

リーファ「ねぇ、サクヤ、アリシャさん」

 

困ったように頬を掻いたキリトの横に、リーファがスッと進み出た。

 

リーファ「今度の同盟って、世界樹攻略のための物なんでしょ?

 

サクヤ「あぁ・・・まぁ究極的にはな。」

 

リーファ「ならその攻略に、私達も参加させてほしいの。それも可能な限り早く。」

 

そう言ったリーファの前で、二人の領主は顔を見合わせる。

 

サクヤ「同行は構わない。と言うかむしろこちらから頼みたいくらいだよ。時期的な事はまだなんとも言えないが・・・でも何故だ?

 

少し目を伏せたキリトが、小さく話し出した。

 

キリト「俺がこの世界に来たのは、世界樹の上に居るかもしれないある人に会うためなんだ・・・」

 

サクヤ「妖精王オベイロンのことか?」

 

デュオ「その妃にされてる、妖精妃ティターニアのことだよ。」

 

サクヤ「ティターニア・・・?名前ぐらいは聞いたことがあるが・・・その人がどうかしたのか?」

 

キリト「リアルで連絡が取れないんだけど・・・どうしても会わなくちゃいけないんだ・・・」

 

アリシャ・ルー「へエェ・・・世界樹の上ってことは運営サイドの人?なんだかミステリアスな話だネ・・・」

 

またしても興味深いといった様子のアリシャ・ルーが瞳を輝かせながらそう言ったが、しかしすぐに力無く耳と尻尾を伏せて俯く。

 

アリシャ・ルー「でも攻略メンバーの装備を整えるのに、しばらくはかかっちゃうと思うんだヨ・・・とても一日や二日じゃ・・・」

 

キリト「そうか・・・いや、俺もとりあえず樹の根元まで行くって言うのが目的だから・・・後はなんとかするよ」

 

そうして小さく笑ったキリトはふと思い付いたように「あ、そうだ」と言ってウインドウを開き、所持金全てをオブジェクト化させる。

 

キリト「これ、資金の足しにしてくれ。」

 

そう言ってから取り出した袋は、ジャラジャラと重そうな金属質な音を発していた。アリシャ・ルーがそれを受け取ると、危うく取り落としそうになった。

そして中をのぞきこみ、中の青白い光を見た瞬間、目を丸くして硬直した。

 

アリシャ・ルー「さ、サクヤちゃん・・・見て・・・」

 

サクヤ「ん?」

 

アリシャ・ルーに呼ばれたサクヤは、彼女の持っている袋を覗き込むとサクヤもまた目を丸くする。

 

サクヤ「なっ・・・十万ユルドミスリル貨!?これが全部か!?」

 

リーファ「はぁ!?」

 

サクヤの声に反応して、リーファも驚きの声を上げる。

領主の後ろに居た側近達もかなり動揺し、ざわめいている。

やがて、サクヤが口を開く。

 

サクヤ「これだけ稼ぐには、ヨツンへイムで邪神クラスをキャンプ狩りでもしない限り不可能だと思うが・・・良いのか?一等地にちょっとした城が建つぞ?」

 

キリト「構わない。俺にはもう必要ない。」

 

サラッと言い切ったキリトに、デュオも続く。

 

デュオ「なら、俺のもあげるよ。」

 

デュオもウインドウ画面を開いて、全財産をオブジェクト化させる。

すると、キリトの倍以上の大きさがある袋が3つ出現した。

 

デュオ「ちょっと多過ぎるか?」

 

出てきた袋を重ねて差し出すと、中からプラチナ色のユルド貨が数枚零れ落ちる。

 

サクヤ「一体君たちは何者なんだ?ゲームが始まってからずっとヨツンヘイムに篭もっていてもこんな大金は集められないだろう。」

 

デュオ「言っただろ。しがない流しの用心棒と、その相棒だって。」

 

デュオは「これだけあれば足りるから。」と言ってユルド貨を10枚ほど取り出してから、残りの袋を護衛のプレイヤーに渡した。

その後、また一言礼を言い、二人の領主と側近達は蝶の谷の反対側へと飛んでいった。


 
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