ベルカ自治区にあるジェイルラボ。そこを目指して走るのはライドロンとアクロバッターだ。ライドロンにはがディエチと共に乗り込み、アクロバッターは龍騎が駆ってその後ろにはセインが乗っている。そして二台を追走するように残るヴァルキリーズが走っていた。
一方ゆりかごへはクウガとアギトを伴ったなのは達が向かっている。スライダーモードのマシントルネイダーにアギトが乗り、ゴウラムを伴ってスバルとギンガが展開したウイングロードをクウガの乗るビートチェイサーが駆け上がっていた。ティアナ達はヘリでゆりかごまで接近している。
六課の目的はラボの奪還とゆりかごの停止。故に陸と空に別れる形にはなったものの、最後には決戦場となるゆりかごで合流する事になっている。邪眼の本体は必ずそこにいると考えられていたからだ。隊長陣のリミッターも既に解除されていて、文字通り全力での戦いとなろうとしていた。
だが、なのは達がある程度ラボやゆりかごへ接近した途端、両拠点からトイ達が出現する。それを迎撃しながら進む六課の面々だったが、そこへ思わぬ助けが現れた。それは管理局員達と修道騎士達だ。六課を援護するように空戦魔導師達がゆりかごの周囲に展開するトイを迎撃し、修道騎士達がジェイルラボへの道を切り開いていく。
邪眼の告げた次元世界征服を阻止するために誰もがその力を振るっていた。その裏には、ゆりかご起動を受けたレジアスとカリムの二人による共同宣言がある。ライダーや六課だけに戦わせはしないとの想いが彼らを突き動かしていたのだ。
―――この次元世界に生きる全ての者の自由と平和のために、人として総力を挙げて戦おう。
邪眼の恐怖に飲まれていた者達へ二人は告げた。人として気高く生きるか、邪眼の僕として屍のように生きるか。それを選んで欲しいと。無理強いはしない。ただ、戦うのは何も武器を手に取るだけではない。自分達の勝利を願い、祈るだけでも立派な戦いなのだからと。
更にそこへ、グレアムが本局を代表して地上本部との共同戦線を張ると告げると大きな驚きが局員達に走った。邪眼に対抗するには管轄などを超越し、全ての局員が力を合わせて立ち向かわねばならないと彼は言い切るとこう締め括ったのだ。
———自分達が何故局員になろうと思ったのか。何を守りたいと願い、誰を助けたいと考えたかを思い出して欲しい。
それによって動いた多くの者が道を切り開く中、六課の者達はそれぞれの戦場へと向かっていく。自分達を支えてくれる者達の思い。それを背中に受けながら……
「ここが……」
「うん、あたし達の家だよ」
ライドロンを入口前に止め、RXはその中を見つめた。ディエチは色々と思う事があるのかやや強張った表情を浮かべている。あの日、邪眼に乗っ取られた思い出の詰まった家。そこを遂に取り戻す日が来たのだと、そう強く思ったからだ。
その隣ではアクロバッターを止め、龍騎がセインと共に同じ気持ちを抱いていた。やはり思い出すのはあの脱出戦。逃げ出す事しか出来なかったあの日。それから半年近くが経過しようとしていた。だが、もう今の自分達はあの時とは違う。そう思い、二人は静かに拳を握る。
「いよいよだね」
「ああ。今日、俺達はここを取り戻す」
ラボ付近に展開しているトイやマリアージュはシャッハを始めとする修道騎士達が相手をしてくれている。それでも苦戦を強いられているのは間違いないため、RXはライドロンとアクロバッターをそちらの援護へ回す事にしていた。既にシャッハへはウーノが連絡しているので混乱もない。
ここからは自分達の足で歩くだけだ。そんな事をRXが考えているとそこへ残るヴァリキリーズが集合した。更にアギトも龍騎の肩へ乗り、ラボ奪回の戦力は揃った。全員が全員ラボの入り口を真剣な面持ちで見つめている。その様子にRXは小さく頷き語りかけた。
「みんな、これを最後の戦いにしよう。決して気を抜かないでくれ」
「絶対にみんな揃って邪眼を倒して、それで終わりにするんだからな」
龍騎がそう言うと全員が無言で力強く頷く。それにRXと龍騎も頷き返しラボの中へと足を踏み入れる。それと同時にライドロンとアクロバッターがそこから離れ、シャッハ達が戦っている場所へ向かって走り出した。
その音を聞きながらRX達は急ぐ。邪眼がここに何体いるかは分からない。しかし、最低でも一体はいると考えられていた。もし一体だった場合はヴァルキリーズにその相手を任せ、RXと龍騎はゆりかごへ向かう事にしていた。
RXと龍騎を先頭に走るヴァルキリーズ。アギトは龍騎の横を飛んでいる。やがてその足が広い空間に出たところで止まった。そこは、かつて食堂だった場所。一家団欒の象徴であり、幾多の思い出渦巻く懐かしい空間。だが、そこにはテーブルも椅子も無かった。
完全な大広間。そんな印象しか与えない場所へと変貌していたのだ。RXとアギトはその変化を知らない。だが、龍騎達は皆揃ってその変化に気付き、悲しみと怒りを抱いていた。その思いを込めた視線をそこにいる存在へ向けて。
「邪眼……」
「ふむ、龍騎がこちらに来るのは予想通りだったが世紀王もこちらとはな。まぁいい。ここで二人揃って死ぬがいいわ」
究極体となった邪眼がそこにはいた。その言葉に構えるRXと龍騎。だが、そんな二人の前に出るようにヴァルキリーズが歩み出た。
「RX、ここは私達に任せてくれるかしら」
「他にも邪眼がいるかもしれないし、ラボを自爆させられたら大変でしょ」
「ここは私達が引き受けた。まずはラボの安全を取り返してくれ」
ウーノの言葉を引き継ぐようにドゥーエとトーレがそう告げる。それにRXは頷き、即座に走り出した。制御を取り返すには自身の力が一番だと理解したからだ。だが、龍騎はそこに残ったままだった。彼も頭では分かっている。自分もRXと共に行くべきだと。しかし、邪眼の姿が今までと違う事などを考えると不安なのだ。
「シンちゃん、心配しないの。私達は大丈夫よ」
「姉妹全員揃っていれば何も恐れる物は無い」
「そういう事。だから行って。真司兄」
クアットロとチンクの言葉が龍騎を優しく促す。そしてセインの言葉に背中を押されるように彼は頷いて走り出した。その後を追うようにアギトも動くが、それを狙って邪眼が電撃を放った。しかし、それは無駄に終わる。ブーメランブレードがそれを受け止めたからだ。
「アギトにも、兄上にも手出しはさせん」
「お前が不意打ちをするなんて予想済みだ」
「そういうこった。それに、お前の相手はアタシらだ!」
セッテは静かに怒りを込めた声を邪眼へ放ち、オットーも珍しく声に怒りを乗せている。ノーヴェが拳を合わせるように構え、そう啖呵を切ると隣にいたディエチがイノーメスカノンを構えてそれに続いた。
「ここであたし達を倒さない限り、真司兄さん達を止める事は出来ないから!」
「ま、そんな事は絶対ないッスけどね!」
「私達の家を、思い出を……返してもらいます!」
ウェンディとディードがそう告げると、ヴァルキリーズは揃って身構える。視線は鋭く邪眼を睨み、決して恐れているような風には見えない。それを見て邪眼は小馬鹿にするように笑うと、その手から電撃を薙ぎ払うように放った。
それをオットーが即座にレイストームで相殺したのを合図にトーレ達前衛組が動き出す。ウーノは念のために周囲を索敵し、怪人などの奇襲への警戒を強める。クアットロはISを使って前線を援護しながら動き回り、ドゥーエはウーノへ放たれる電撃を警戒して護衛をしつつ、邪眼の隙を窺っていた。
チンクは中衛として援護や支援、或いは前線へと切り替える事で如何なく姉としての実力を発揮し、ディエチは的確な射撃を与える事で後衛としての役目を果たす。オットーは司令塔の役目を行いつつも中衛として援護もこなす動きを見せ、ウェンディはISを使っての撹乱と援護を集中的にこなしていた。
トーレはセッテと見事な連携を見せて邪眼と戦い、ノーヴェはディードと共にその間隙を縫うように動いている。セインは何とか邪眼の動きを止めようとSでの妨害を試みるが、中々思ったように行かずに苦戦していた。
それぞれが自分の出来る事を精一杯する事で、かつてなのは達が苦戦した究極体を相手に善戦していた。勝てる。そんな気持ちが全員に強くなっていくのも当然と言える程に……
ヴァルキリーズが究極体と戦闘を開始した頃、RXと龍騎はアギトを連れてジェイルの研究室へと辿り着こうとしていた。ラボの制御を完全に邪眼から奪い返し、自爆などを出来ないようにするために。だが、研究室の前に思いもよらない存在が立っていた。
「あれはっ!?」
「黒い……龍騎?」
「嘘だろ……」
RXがその姿に驚き、アギトはどこか信じられないとばかりに呟き。龍騎は呆然とその相手を見つめた。そこには黒い龍騎が扉を塞ぐように立ちはだかっていた。それは真司が夢で見たままの姿であり、彼がどこかで予想していたものだった。
リュウガと呼ばれる存在に酷似した相手。それは戸惑うRX達へゆっくりと足を踏み出した。だがその気配に覚えがあったRXは視覚へ意識を集中させ、その正体を見抜いた。
「これは……邪眼っ!」
「ふん、そうだ。我だ」
黒い龍騎はRXへそう答えた。邪眼は手に入れた龍騎のデータを基に自分の体を改造した。そう、邪眼が考えた仮面ライダーへの絶望。それは、自分と同じ姿の相手と戦い敗北させる事だったのだ。真司は自分がどこかで考えていた結果に嫌な汗を流すも、邪眼を見据えて拳を握る。その横で、アギトが眼前の相手に対して心から怒りを込めて叫ぶ。
「何だよ! 龍騎同士で戦うみたいじゃんかっ!」
「龍騎よ、今日ここで貴様を倒し、我が本物の龍騎となってくれるわ!」
そう言うと邪眼は一枚のベントカードを取り出した。それはソードベント。それを左腕のバイザーへ挿入すると同時に走り出す。龍騎も負けじとソードベントを手に取り、ドラグバイザーへ挿入する。
互いに剣を手に切り結ぶ龍騎と邪眼。その力関係はやや邪眼が押している。それを見たRXは加勢しようとするがその動きを龍騎が制した。
「ここは俺に任せて、先輩はラボの方をお願いします!」
「龍騎……分かった!」
龍騎から初めて呼ばれた先輩との言葉。それに感じ入るものを覚えながらもRXはジェイルの研究室へと向かっていく。龍騎は仮面ライダーとして自分の役目を自覚した。自分が邪眼を食い止め、RXへラボの安全を確保してもらうと。
龍騎は去っていくRXを横目にしながら邪眼との力比べを続けていた。しかし、それも次第に追い込まれていく。元来普通の人間である龍騎と世紀王として改造されている邪眼では能力差が大きかったのだ。やがて龍騎が膝をつけて押し込まれる形にまでなってしまう。アギトはそれを見て魔法で援護しようとするのだが、何故か龍騎の雰囲気がそれをするなと告げているような気がして動けずいた。
(真司には何か考えがあるんだ。なら、アタシはそれを信じて待つだけだ!)
信頼するロード。その気持ちを汲み取り、アギトはただ待ち続ける。自分の力を必要とされる瞬間を。その時、龍騎は体勢を崩す覚悟で邪眼の手を目掛けて蹴りを放った。互いに体勢を崩す両者。だが、崩す気でいた龍騎は即座に立ち上がり一枚のベントカードを手にした。
”STLIKE VENT”
「はあぁぁぁぁ……はっ!」
ドラゴンストライクを邪眼目掛けて放つ龍騎。それを邪眼は冷静に対処した。手にしたベントカードを使い、その攻撃を無力化出来る手段を講じたのだ。
”GUARD VENT”
邪眼の前に出現した二枚の盾がドラゴンストライクを防ぎ切る。それに龍騎は一瞬だけ悔しさを感じるもすぐに立ち直って動き出した。手にしたドラグクローで邪眼へ殴りかかる龍騎。それを手にしたドラグシールドで受け、即座にドラグセイバーで反撃する邪眼。
それを見つめアギトはただ待った。龍騎がユニゾンを使うと決意する瞬間を。それまで自分は魔力を温存しその時に備えるのだ。アギトはそう心に誓い、龍騎の戦いを見つめていた。その視線の先では龍騎が徐々にではあるが確実に追い込まれ始めていた。
(邪眼はきっとジェイルさんのデータを基にしてカードを作ったはずだ。なら……)
自分が使えるカードはほとんど邪眼も使える。だが、龍騎はそれならばとあるカードを手にした。それはファイナルベント。これならどうだとばかりに龍騎はそれを使い、構えを取った。邪眼はそれにうろたえる事も無く一枚のベントカードを手にした。そのカードを見て、龍騎とアギトの声が重なった。
「「なっ!?」」
それはまごう事無きファイナルベント。龍騎は邪眼が使っているのはジェイルが研究していたデータを使った物だと思っていた。故に最近やってのけたファイナルのコピーは出来ないだろうと踏んだ。だが、そんな龍騎の考えを読んだのか邪眼はどこか自慢そうにファイナルベントをかざして告げた。
確かに邪眼の使っているベントカードの大本はジェイルのデータ。しかし、そのままではモンスターの力を持った状態にはならないため、邪眼は密かに独自に研究を進めていたのだ。怪人作成のついでにドラグレッダーを模した生物を作り出し、それを自分の中へ取り込む事で契約と同様の結果を手にした。そう告げて邪眼は嗤う。
「ふはははは、こうして我が貴様と同じような力を得た以上、最早勝ち目はないぞ龍騎」
「そんな事認めるかっ! 俺は絶対に諦めない!」
龍騎はそう叫ぶと大地を蹴った。それを見て邪眼も跳び上がる。同じ高さになり、両者は蹴りの体勢を取る。その背後には赤い龍と黒い龍が控えていた。
「ライダァァァキック!!」
「ふんっ!!」
背に火球を受け、相手向かって突撃する龍騎と邪眼。その蹴りが激しくぶつかり合う。そして共に弾き飛ばされ、轟音を響かせるように地面へと叩きつけられる。アギトは急いで龍騎の元へ向かった。そこには何とか立ち上がろうとする龍騎がいた。
その視線を前方へ向け、彼は一枚のカードを手にした。それはサバイブ。先程の激突で分かったのだ。攻撃力は完全に邪眼が上だと。それを証明するように邪眼は平然と立っているのだから。このままでは不味い。その気持ちが雰囲気から滲み出ていた。
「ふむ、まだ動けるか」
「当たり前だ! そう簡単にやられてたまるかっ!」
龍騎はそう吼えるとカードをかざす。周囲を炎が包み、龍騎はドラグバイザーツバイへサバイブのカードを差し込んだ。
”SURVIVE”
ややくぐもったような電子音声と共にその体が真紅へ変わる。それを見届け、邪眼も一枚のカードを取り出した。それは烈火のカードではない。ましてや疾風でも無限でもない。だが、ある種のサバイブだった。書かれた文字は闇黒。邪眼が自分のために作り出した擬似サバイブとでもいうべきカードだ。
”MUTATION”
「見るがいい。これが貴様を超える龍騎の姿だ」
邪眼の体を漆黒の闇が包み、その姿を変えていく。サバイブ龍騎を思わせる鎧だが、その先端は鋭く鋭角化していて禍々しい印象を与える。それだけではない。背中には不気味な翼のような物まで生えていた。その醜悪な姿に龍騎もアギトも言葉がない。そんな二人を見下すように邪眼は告げる。ここからが本番だと……
「よし、これでもう心配はいらないな」
ジェイルの研究室で制御を取り戻したRX。ロボライダーのハイパーリンクにより邪眼の影響を全て排除したのだ。そこへモニターが表示される。そこに映っていたのはシャドームーンの姿をした邪眼だった。
『世紀王よ、今すぐゆりかごへ来い。来なければ、貴様の仲間の命がないぞ』
「何っ?!」
『我はもう使わんと言ったのだが、あの駒共の生き残りが勝手に動いている。他のライダー共は我の分身達と戦っているから手が出せんようだ』
邪眼はそう言うとモニターを切り替えた。分割表示されたそこにはどこかの通路で怪人達と戦うチームライトニングと八神家。更に別の場所で怪人と戦うスバルとティアナにギンガが映っていた。そして大広間のような場所で一人の女性と戦うなのはの姿もある。
「みんなっ!」
『貴様が早く来なければ残る分身はこやつらへ投入する事になる』
「くっ!」
邪眼の告げた残りの分身が意味する事を理解しRXは急いで研究室を出る。彼は苦戦しているだろう龍騎の手助けをしようと思っていたのだ。その予想通り、やや場所を移したのか邪眼相手に苦戦する龍騎の姿が研究室近くの通路にあった。彼へ内心すまないと思いながらRXはラボを脱出するべく走る。
食堂で戦っていたはずのヴァルキリーズがいなくなっている事に疑問を抱きながらも彼はその無事を信じて走り続けた。向かう先はゆりかご。本来であれば彼では行く事が出来ない空高い場所。そこへ向かう手段が今のRXには一つだけあったのだ。
外へ出たRXは空を見上げるとその姿を確認し頷く。そして左腕を口元へ寄せて叫んだ。
「ゴウラムっ!」
その声を受け、ゆりかごの外で局員達と共にトイと戦い続けていたゴウラムが動き出す。RXの呼びかけに応じるように、その速度を活かして素早く大地へ向かって降下していくゴウラム。途中でトイを何機か蹴散らしRXが見える位置までその高度を下げた。
RXはそれを確認すると大地を蹴った。その六十メートルもの跳躍力を発揮しゴウラムの背に見事着地してみせたのだ。RXが乗った事を感じるとすぐにゴウラムはゆりかごへ向かって動き出す。襲ってくるトイを物ともせず、ゆりかごへの最短ルートを通って。
「頼むぞ、ゴウラム。俺をゆりかごへ連れて行ってくれ」
RXはそう言ってゴウラムから視線をゆりかごへ向けた。そこで待ち受ける自分の相手。それが先程ラボで見た龍騎と同じ結果だとすれば、かなり厄介な相手だろうと思いながら彼は拳を握る。例えどんな相手だろうと決して負けはしないとの強い気持ちを込めるように。
ラボへRX達が足を踏み入れた頃、クウガ達はビートゴウラムとマシントルネイダーによる突撃でゆりかごに穴を開けて突入口を作っていた。その中でクウガ達を待っていたのはマリアージュ数体と十数体のトイ。
それをクウガとアギトが愛機を使い蹴散らした。特にクウガはゴウラムを分離させてビートチェイサーの機動性を如何なく発揮。ジャックナイフなどに代表されるテクニックの数々でマリアージュとトイへダメージを与え、弱ったところをなのは達が撃破していった。
「じゃ、わたし達はアギトやライトニングと一緒に動力炉を目指すから。ギンガはなのは隊長達と一緒に」
「なら、ヴィータ副隊長ははやて部隊長達の援護に向かって。私達はクウガと一緒に玉座へ向かうから」
はやて達へヴィータを同行させようとなのはが告げた言葉。それにヴィータは何か言おうとするも、その気持ちに感謝してはやて達と共に動力炉へ向かう。ゆりかごの構造自体はユーノが既に調べ上げていた事もあり、停止させるための方法は理解していた。
だが、当然それを阻止するために邪眼も対策を練っているはず。そのため、動力炉へ戦力を多めにする事にしたのだ。なのは達はヴィータの代わりにギンガがライトニングから参加し、四人で玉座を目指す事になった。
―――また後で。
隊長三人の再会を誓う言葉を合図に全員が動き出す。クウガはゴウラムへ外で戦う局員達を助けてやって欲しいと告げてから動き出した。ユーノが調べておいてくれた見取り図を参考に目的の場所まで行く両者。だが、その動きが偶然にも同時に止まった。
「黒い……クウガ?」
「待っていたぞ、キングストーンを持つ者よ」
クウガ達の前に立ちはだかったのは漆黒のクウガ。その腹部には紅い石が輝いている。時同じくしてアギト達の前にも恐るべき相手が立ちはだかっていた。
「えっ? 黒いアギト?」
「光の力よ。今度こそその力を我の物に」
アギト達の前に現れたのは漆黒のアギト。こちらにも腹部には紅い石がある。その姿に言葉を失うなのは達だったが、すぐに二人の仮面ライダーは同じ判断を下した。
―――ここは俺に任せて、みんなは先へ!
それは眼前の相手は自分しか倒せないと思ったから。そして、偽者とはいえ仮面ライダーと戦わせる事は出来ないと考えたのだ。なのは達もその気持ちを察したのか何も言わずに素早く先へ進んで行く。それを見送りながら、クウガもアギトも邪眼がそちらへ手を出さないように牽制していた。そして完全に自分達だけになったのを見計らって二人のライダーは同じ行動に出た。
「くっ!」
ビートチェイサーのエンジンを吹かし邪眼へ突撃するクウガ。それを相手が受け止めようとするのを見た彼は即座に前輪を上げて攻撃する。それで邪眼がややふらついたのを見て今度は後輪を跳ね上げるようにしながら攻撃を加える。それは未確認との戦いでもよくやった攻撃方法だ。
こうしてバイクを手足のように使い、敵と戦う。それは歴代ライダー達がやっていた事。クウガもまた知らずライダーらしく戦っていたのだ。しかし、邪眼もやられてばかりではない。何とか体勢を整え、ビートチェイサーの前輪を掴むと力任せに振り回した。
堪らずクウガはビートチェイサーから落とされ、地面に叩きつけられる。そこへ駄目押しとばかりに邪眼が電撃を放つ。それを際どくかわし、クウガは戦闘態勢を取った。そしてそのまま変身時と同じ動きをして叫ぶ。
「超変身っ!」
紫の姿。タイタンフォームとなり、クウガはビートチェイサーからトライアクセラーを引き抜いた。それが瞬時にタイタンソードへ変化する。そしてそのまま邪眼へゆっくりと歩き出す。それを邪眼は慌てる事無く構え、迎え撃つ姿勢を取った。それに嫌な予感を感じながらもクウガは歩みを止めない。距離を徐々に詰めて行き、その間合いが自分のものになった瞬間、勢いよく手にした剣を突き出した。
「おりゃあっ!」
邪眼へ突き刺さるタイタンソード。だが、それを邪眼は静かに見つめ両手でしっかりと握り締めた。それを見たクウガはある光景を思い出す。ゴ・ガドル・バとの初戦闘。相手は自分の攻撃を受けてその武器へ対応する姿へ変化したのだ。
クウガはそれと今の光景が似ていると感じタイタンソードを抜こうとした。しかし、邪眼はそれを抜かせまいとするようにしっかりと固定している。更に焦るクウガへ邪眼は片手を瞬時に離してパンチを叩き込んでタイタンソードを奪った。
「ぐぅ!」
思わずたたらを踏むクウガ。そして彼は見た。邪眼が手にした瞬間、漆黒のタイタンソードへと変わったのを。加えて邪眼も黒い鎧姿へ変わったのだ。
「っ!? 超変身した?!」
「貴様の力は既に調べた。不完全な物ではあるがキングストーンの原石を取り込んだ我にはこれぐらい造作もない」
「キングストーンの原石? 取り込んだ?」
邪眼の告げた言葉にクウガは戸惑う。それに邪眼は答える事はなく手にした剣をクウガへ振り下ろした。それを咄嗟に避けるもクウガの鎧が綺麗に斬られる。その切れ味はクウガの物以上だ。それを悟り、クウガは急いで姿を変える。
青の体へ変わり、紫の欠点である動きの鈍さを突いて戦おうとするクウガ。しかし、それを見た邪眼は再びその姿を変える。鎧が消えクウガと同じような体へ変わったのだ。それは漆黒のドラゴンフォーム。それと共に手にしていたタイタンソードもドラゴンロッドへ変化した。
「そんな……」
「貴様の出来る事は我にも出来る。もう、貴様に勝ち目はない!」
言葉と同時に跳び上がる邪眼。それに負けじとクウガも跳び上がる。その跳躍力は邪眼の方が僅かに上。それにクウガが驚くのと邪眼がロッドを突き出すのは同時だった。
炸裂する邪眼の一撃。クウガはそれによって地面へと激しく叩きつけられる。それでも何とか立ち直り、構えるクウガ。この状況に否応無くガドルとの戦いが蘇ってくる。超変身を駆使してもその上を行かれた苦戦の記憶が。
「それでも……やるしかっ!」
あの時と同じように邪眼から距離を取りクウガは構えた。その体が赤へ変わり、同時に電流が走る。赤の金の力。それを使って邪眼と戦おうと。邪眼はそれを見ても何も言わない。あの時のガドルと同じように悠然と立っていた。
それにクウガが嫌なものを感じつつもそれでもと走り出す。右足に熱を感じながらクウガは走る。走る。走る。その勢いを乗せたまま地を蹴り、一回転して蹴りの姿勢を取った。
「ライダー! キックッ!」
その一撃が邪眼を直撃する。だが、邪眼は飛ばされる事は無かった。何歩か後ろへ下がっただけ。それで止まり、立ち直った。その胸には封印を意味する文字がしっかりと刻まれている。
「……やはり、その力は電気が原因か」
「っ!? まさか!?」
自身を眺め、邪眼が告げた言葉にクウガは動揺した。邪眼が何故自分の一撃を受けたのか。その理由を理解したために。邪眼は金の力を正確に理解してはいなかった。だからこそ、自分にその力を使わせ把握しようとしたのだ。
動揺するクウガを見つめ、邪眼は自身へ電撃を浴びせた。それがしばらく全身を駆け巡った後、綺麗に消えた。するとその体が変化する。それはさながら金の力を使った時のように。それを見てクウガは息を呑んだ。
金の力を使ったガドルはそれを格闘戦にしか使ってこなかった。しかし、邪眼は自分と同じ能力を有している。それはこれまで自分が使ってきたそれぞれの金の力を相手に使われる事を意味していた。
「さあ、我の一撃を受けてみるがいい」
邪眼が構えるのを見てクウガも構える。目には目を、歯には歯をと。互いに走り出す両者。同時に跳び上がり、蹴りの体勢を取るクウガと邪眼。その繰り出す蹴りがぶつかり合う。そして……
「ふぬっ!」
それに競り勝ったのは邪眼だった。クウガは勢いを殺しきれずに床へ叩き付けられる。それでもクウガは何とか立ち上がろうとしていた。そんなクウガを邪眼は不敵に見つめる。闇の反攻は始まったばかりだと、そう告げるかのように。
一方アギトもクウガが邪眼へビートチェイサーによる攻撃を仕掛けたようにマシントルネイダーを用いて攻撃を始めていた。
「このっ!」
「ちっ!」
相手にはなく自分にある力。それを使う事で邪眼へダメージをと思うアギト。だが、マシントルネイダーはビートチェイサーと違いあまりバイクアクションには向かない。そのため、出来るのは精々ぶつかるかすれ違い様に攻撃するぐらいしかないのだ。
「チョロチョロと目障りだ!」
邪眼が放った電撃をかわすアギト。だがこのままではあまり相手へ有効打を与えられないと思いマシントルネイダーから降りた。
「邪眼! お前がアギトの姿を真似ても、アギトの光はお前に味方しないぞ!」
「ふん! ほざいておれ。光の力などなくとも貴様の真似事ぐらいならば出来るわ!」
走り出す邪眼を前にアギトも動く。邪眼の蹴りを避け、反撃に拳を繰り出すアギト。それを邪眼は受け止め、お返しとばかりに拳を放つ。それをアギトも受け止めるのだが、その力比べは長くはもたなかった。邪眼は元来怪力の持ち主だった。それが母体となっている偽アギトの力は本物よりも上。そう、改造人間だった邪眼。それを基にしている偽ライダー達はその性能において本物達よりも勝っていたのだ。
「むんっ!」
邪眼がアギトの拳を握り潰そうと力を込める。それに気付き、アギトは素早くその足で腕を蹴り上げた。その衝撃で邪眼から解放されると同時にアギトは距離を取る。今のままでは純粋な力で負けると理解したからだ。
故にベルトの両側を叩く。それに応じてその体が変化した。赤い右腕と青い左腕の金の胸。三つの力を使いこなすトリニティフォームだ。昨日の戦いで自身を打ち倒した姿へ変わったアギトを見ても邪眼はうろたえる事も無く走り出した。
アギトは自身のベルトから出現した二つの武器を手に邪眼へ向かっていく。フレイムセイバーとストームハルバートを振りかざして邪眼へ攻撃するアギトだったが、その攻撃を受けても邪眼は止まらない。それらを些細なダメージだとばかりに受け流しアギトへ攻撃をし続けたのだ。アギトはそんな邪眼に驚きを感じるも諦めずにその二つの武器を同時に動かした。
「はっ!」
「ぬぅ!」
邪眼へ炸裂するファイヤーストームアタック。しかし、その一撃を受けて邪眼は微かに苦痛に動きを鈍くするも止まらない。それどころかお返しに強烈な威力を持った拳をアギトへ叩き込んだのだ。それにアギトは堪らず吹き飛ばされる。
手にしていた武器を手放しながら床を二転三転するアギト。それでも何とか立ち上がってあの構えを取った。それはライダーキックの構え。それに呼応しその角が展開した。足元に出現するアギトの紋章。それがその両足へと宿っていく。
「はっ!」
その場から跳び上がり、アギトはその両足を邪眼目掛けて突き出すようにした。それはあの戦いで邪眼を倒した一撃。従来のライダーキックよりも強力なライダーシュートだ。
「ライダーっ! キィィィィクッ!!」
その蹴りを受けてさしもの邪眼も後ずさった。だが、アギトは着地すると同時にある構えを取る。それはバーニングフォームへの変身ポーズ。悟ったのだ。邪眼が自分の一撃を耐え切ると。それを証明するように邪眼は俯いたままで嗤い出した。
「ふ、ふふふ……やはりそうだ。今の我ならば光の力にも負けはせぬ」
邪眼の言葉を聞きながらアギトはその姿を変えた。燃え盛る炎の闘士、バーニングフォームへと。それを見ても邪眼は反応を示す事もなく構えた。それが蹴りの前段階のものと理解しアギトは走り出した。その拳に込めた炎の力。それを叩きつけるために。
それを見た邪眼がその場から跳び上がり、迫るアギトへ蹴りを放つ。それを迎撃するようにアギトは拳を突き出した。だがその拳が当たる前に邪眼の蹴りがアギトを捉えて蹴り飛ばす。その威力に床を滑るように飛ばされるアギトだったが、何とか威力を殺す事が出来たのか転がる事はなかった。
バーニングフォームは全フォーム中一番防御力が高い。そのため、邪眼の攻撃にも耐え切る事が出来た。しかし、そのダメージを完全に殺す事は出来なかった。アギトは膝をついたまま、肩で息をしていたのだ。
「この力……どこから……」
「冥土の土産に教えてやろう。レリックと呼ばれるあの石。あれこそキングストーンの原石だ」
邪眼の口から語られた内容にアギトは愕然となった。邪眼はレリックを独自に調べ、それが人体に大きな影響を与える事を知った。それが暴走すると恐ろしい爆発を起こす事や、それを使う事で驚異的な成長を促す事が可能な事も。邪眼はそこからレリックこそがキングストーンの原石だと認識した。そして、自分の体へ取り込み完全に融合する事で現在の力を手に入れたのだとそう締め括った。
「あの器に一つ。我に四つ。それだけしかレリックは無かったのでな。仕方ないので、残った一体は以前貴様らと戦った姿にしたのよ」
「器……? じゃあっ!?」
「そうとも。当初の計画通り聖王と呼ばれた者のコピーにも使ってやったわ。培養後の急激な成長を遂げさせるには丁度よかったのでな。今頃は貴様の仲間と戦っているだろう」
邪眼の告げた内容にアギトは玉座へ向かったなのは達の事を思い出した。ヴィヴィオと同じ存在。それを敵にして果たして戦えるのだろうか。そんな事を思ったのだ。
「さて、お喋りはここまでだ。じっくりと貴様に絶望を与えてやるぞ、仮面ライダー!」
邪眼はその言葉と同時にアギトへ向けて両手から電撃を放つ。それを何とか避けるアギト。秘めた力を解放した以上負ける事は出来ないとその拳を握って。そんな彼を邪眼は余裕さえ感じさせる雰囲気で見つめる。どう足掻こうと無駄と言い放つかのように。
「嘘やろっ!?」
”ライダーが危ないですっ!”
はやてとツヴァイは突然出現したモニターに映る映像に思わず叫んだ。自分が知る限り無敵のライダー達。それが軒並み苦戦しているのだ。クウガもアギトも龍騎も自身に似た姿の相手と戦い、揃って苦しめられているのだから。
二人だけではない。フェイト達ライトニングもシャマル達も信じられないとばかりの顔をした。今、はやて達は動力炉へ向かう通路でノインとズィーベンにエルフを相手に戦っていた。三体だけとはいえ、やはりその特殊能力は厄介なものがあるために苦戦をしている。そんな最中の出来事だった。
「金のクウガが……追い詰められてる」
「龍騎だってサバイブを使ってるのに……」
エリオとキャロは邪眼相手に苦戦している二人のライダーの姿を見て困惑していた。二人にとってライダーは最強の存在。いかなる敵にも屈する事無く戦い、勝利を掴むヒーローなのだ。それがそれぞれの秘めた力を解放してるにも関らず、邪眼に苦戦している事が信じられないのだ。
「くそっ! 伊達にライダーの姿してねぇって事か!」
「そのようだ。奴め、このためにライダーのデータを欲しがったのだな」
ヴィータは吐き捨てるように告げ、迫ってきたノインの体当たりをかわす。シグナムは声こそ冷静だが、そこには悔しさのようなものが混じっていた。自分達が邪眼へデータを与えないようにすると誓ったはずだった。それでも、あの公開意見陳述会での戦いで四人のライダーは邪眼を相手にその手の内をかなり明かす事になってしまった。
その遠因に自分達が怪人との戦いを長引かせてしまった事が関係しているとシグナムは考えていた。それはヴィータも同じ。更に彼女は、クウガとはやてが来なければ危ないところまでなってしまったのだから余計にその思いが強い。
「どこを見ている!」
「はやてっ!」
そんな中、アギトの苦戦に意識をやや取られたはやてへズィーベンが斬りかかる。しかし、それをフェイトがザンバーを以って防ぎに入った。はやては彼女の声で我に返るとズィーベンへ射撃魔法を放つ。ツヴァイがそれを制御し、ズィーベンはそれをブレードで迎撃しながら後退した。
フェイトは更にプラズマランサーを放ちズィーベンを牽制する。手にしたブレードでそれらを叩き落すズィーベンの姿を見ながらフェイトははやてへ視線を向けずに告げた。
「はやて、今は怪人を倒す事に集中しよう」
「フェイトちゃん……」
「大丈夫。ライダーは……絶対負けない!」
そう力強く言い切ってフェイトはその姿を変えた。真ソニックフォームとなったフェイトはその手にしたザンバーを握り締めてズィーベンへ攻撃を開始する。
フェイトもライダー達の苦戦に心乱していた。だが、それでもあの無人世界での戦いを思い出して何とか冷静になろうとしていたのだ。仮面ライダーは決して負けない。その思いを強くする事で彼女は戦い続ける事が出来ていた。
「はやてちゃん! 私達で怪人を倒したら、動力炉にはヴィータちゃんとザフィーラに行ってもらえばいいわ!」
「残りは来た道を戻り、アギトの援護とクウガの援護へ向かえばいいのです!」
エルフの針を防ぎつつシャマルとザフィーラがそう叫ぶ。彼らにとってアギトは家族。だからこそ、今自分がすべき事を思い出していた。はやてへ告げた言葉は落ち着いて現状を考えて欲しいが故のもの。それを理解し、はやても頷きを返す。そして周囲を素早く見渡して告げた。
「八神家全員でハリネズミとアルマジロを引き受ける! フェイトちゃん達は三人でコンドルを頼むわ!」
その言葉に全員が勇ましい声を返す。フェイト達三人は指示に従ってズィーベンを集中的に狙い始め、シグナムはヴィータとザフィーラの三人でノインとエルフへと向かっていく。シャマルはそんな三人を援護するように魔法を使い、はやては射撃魔法を使いつつ広範囲魔法を使える隙を窺う。ライダー達への一番の援護。それは今の相手を倒す事だと。そう、誰もが自分に言い聞かせて。
同じように怪人相手に善戦する者達がいた。それは玉座の間へ続く通路で戦闘中の三人の少女達。残った一体であるゼクス相手にスバル達が懸命にその力を使って戦っていたのだ。
「ギン姉、そっち!」
「くっ……このっ!」
地面へ拳を叩きつけるギンガ。しかし、それは無駄に終わる。既にそこには狙った相手はおらず、ただの廊下でしかなかったのだ。
「残念でした」
ゼクスはギンガをあざ笑うように離れた場所から顔を出す。それにスバルとギンガは忌々しげな表情を返す事しか出来ない。ティアナは二人とは別の位置からそんなゼクスへの対処法を考えていた。
共にいたなのはには先に玉座へ向かってもらい、彼女達はここでゼクスの相手を引き受けているのだ。正直ゼクスはそこまで苦戦する相手ではないとどこかで思っていた三人。そう、これまで何度となく戦い撃破してきた事があるからだ。
だが、改めてライダー無しで戦うと厄介な相手だと認識を改めるのにそう時間はかからなかった。ISで自由に床を移動し、その鋭い爪だけを出現させて攻撃する事も出来るゼクス。今はティアナだけウイングロードに残り、スバルとギンガは通路でゼクスと戦っていた。
そうしているのには訳がある。三人してウイングロードを駆使して戦おうとするとゼクスがISで玉座の間へ行く可能性があったからだ。そうなればなのはが奇襲を受けてしまう。そう、スバルとギンガは自身を囮にゼクスをここに引き付けていたのだ。
(このままじゃ駄目だわ。何か、何か考えないと……)
ティアナはゼクスのISを無力化する方法や封じる方法をひたすら考えていた。だが、そんな事が早々思いつくはずもなくその思考は袋小路に入り込もうとしていた。それに、先程から見せられているライダー達の戦いも彼女の焦りを助長する要因となっている。
クウガが、アギトが、龍騎が、三人の仮面ライダーが邪眼相手に善戦する事さえ出来ずにいいようにやられている。早く助けたいとの気持ちがその思考を乱していく。だが、ふとティアナはある事に気付いた。それでも三人は諦めずに挑み続けていると。
(何を焦ってるのよ。あの人達は自分より強い相手を前にしても諦めないで挑み続けてる。決して助けてなんて言ってない。ならアタシ達がするべきは何? 絶対にあいつをここから逃がさず生き残る事でしょ!)
ライダー達の助けに行く前にまず目の前の相手を確実に、そして誰も死ぬ事なく倒す事が最優先。そう考えた瞬間、ティアナはある作戦を思い付く。そのためには完全にゼクスの意識から自分を戦力として数えさせないようにする必要がある。故にティアナは内心心苦しく思いながらも厳しい指示を出した。
【スバル! 危険だけどあいつのカウンターを狙って! ギンガさんはスバルの後方に回って挟み込むようにしてください!】
【【了解っ!】】
ティアナは相手が確実に姿を見せるようにし攻撃時を狙って反撃を叩き込む事を二人へ頼んだ。そんな危険しかない方法を少しも嫌がらずにスバルは頷き、ギンガも文句も言わない。それに感謝しつつティアナは作戦を成功させるための準備へ入る。
スバルとギンガもライダー達の姿を見て自分の出来る最大限をやろうと決めたのだ。強大な相手を前にして諦めずに戦うライダー達。絶望に飲まれる事無く抗うその姿。それが二人の危険と向き合う勇気を支えていた。一度はその苦戦の様子から希望を無くしかけたスバルとギンガだったが、だからこそと思い直した。
(クウガは、五代さんは私を助けてくれた。なら、今度は私が助ける番だ! こいつをギン姉やティアと一緒に倒してクウガの応援に行くためにっ!)
(あの日、私は出会った。人ならざる体を持ちながらも気高く生きる人に。その人と同じような力や姿を使って他者を苦しめる邪眼。その手下である怪人に決して負ける訳にはいかないっ!)
ライダーに対して思う事が六課の中で一番強いナカジマ姉妹。故に邪眼が取った姿は決して認められるものではない。仮面ライダー自体を汚すようなその行為。それを許す事など出来はしない。
だから、二人はティアナの提案に頷いた。少しでも早くゼクスを倒すために。自分が危険だとしても構わない。危険は覚悟の上だ。ここで傷つく事を恐れていたら、ライダーの助けになどなれないのだから。
ゼクスが使うIS———ディープダイバーの事はセインから彼女達も詳しく聞いている。そのため、それを察知する事が難しい事も知っていた。だが、攻撃する時は必ず姿を見せなければならない。だからこそティアナは考えた。自分にはスバルやギンガのような力はない。怪人を倒すために必要な物が自分には不足している。故に怪人戦で自分がすべき事は有効な作戦や手段を考案する事だと、そうティアナは考えているのだから。
「いつまで隠れてる気? 私達相手でもそうするしか戦えない臆病な性格だってのは知ってるけど、それでよく改造機人とか威張ってられるね」
「やめなさいスバル。言っても無駄よ。どうせそれを認める事が出来ないぐらい情けないんだから」
ティアナが密かに作戦を進行しつつある中、スバルとギンガはゼクスへ挑発を行っていた。ゼクスが姿を見せない限りは攻撃出来ないため、見え透いた方法だがこれしか手がなかったのだ。本来こんな事を言うのは彼女達も性に合わない。だがスバルもギンガもどこかで本心からそう思っていた。
性能に頼る事でしか戦えない怪人達。仮面ライダーはその能力を駆使するだけでなく自分の技術を磨く事を怠らない。そこには、明確な差がある。与えられた物に満足し、それに胡坐を掻く事しか出来ない怪物と、与えられた物を更に昇華しようとする人間の差が。
(翔一さんも自分の持ってる力を出し切るように戦ってる。アタシも負けてられない……)
モニターに映るアギトの姿に励まされるようにティアナはその魔力を使ってある事を成し遂げようとしていた。その前方ではスバルとギンガの挑発に苛立ったゼクスが怒りに燃えて姿を見せているのだった。
そうして誰もが相手を倒そうと奮戦する中、なのははそれが出来ないでいた。それだけではない。追い詰められ始めていた。その理由は相対している相手にある。彼女の相手はコピーとはいえ人間であり、加えてなのはには一番敵として認識する事が難しい存在だったのだから。
「くっ……止めて! 私は貴方と戦う気はないの!」
「煩いっ! パパの敵は私が倒す!」
ヴィヴィオと同じ目、同じ髪、同じ声をした女性がなのはを襲う。玉座に着いたなのはを待っていたのは玉座に座った一人の女性だった。それがヴィヴィオのコピーだとすぐに理解したなのはだったが、それを攻撃する事は出来なかった。
ProjectF.A.T.Eを使って生まれ、誰かのために利用される存在。そう考えた瞬間、それが親友や愛する娘と同じに見えたために。いくら邪眼によって生み出されたとしても、なのはにはそう思った瞬間戦える相手ではなくなってしまったのだ。
女性の拳を防御魔法で防ぐなのは。だが、それが拮抗したのは一瞬だった。すぐにそれを女性の拳が突破しなのはを殴り飛ばす。床に激しく叩き付けられるなのはへ女性は憎々しげな視線を送る。
「私は知ってる。お前は私のママを殺した奴らの仲間だって。だから私達を殺しに来たんだってそうパパが教えてくれた」
「違う……貴方の本当のパパも、ママも、ここにはいないんだよ?」
「黙れっ! パパはいる! ママを返せっ!」
女性の言葉になのははゆっくり立ち上がりながら答える。そして同時に邪眼の吹き込んだ内容に激しい怒りを燃やす。何も知らないに近い状態だった女性へ自身を父と認識させ、母を殺されたと言い聞かせる。それがどれだけ卑劣な事か。
その感情を抑え、なのはは女性へ諭すように優しい声で語りかける。思いやろう。相手の気持ちを、心を。拳を振るう前に言葉を尽くせば分かってもらえると信じて。なのははそう思ってレイジングハートを待機状態へ戻した。女性の放った攻撃をかわす事もしないで。
「なっ!?」
突然のなのはの行動に女性も思わず動きを止める。それに構わず、なのはは無手のまま女性へ声を掛けた。
「ごめんね。貴方が苦しいのも悲しいのも代わってあげる事が出来ない。でも、それを思いやるぐらいなら……私にも出来るよ」
「嘘だっ! ママを殺したお前に……そんな事出来るもんか!」
「私が貴方のママを殺したって、そう思うならそれでもいい。それでも、これだけは信じて。私と貴方は同じ人間。だから、ちゃんとお互いを理解し合おうってすれば、絶対思いやる事は出来るって」
なのははそう言いながら女性へ静かに歩み寄る。それに女性は少しずつ後ずさる。なのはの優しい笑顔と声。それが秘めた暖かな力に気圧されるようにじりじりと下がる女性。なのははそんな女性を安心させるように腕を伸ばす。
距離を縮め、なのはが女性を優しく抱きしめる。それに女性が一瞬震えた。その瞬間、女性がなのはへ拳を打ち出した。それがその体を捉える。だが、それがなのはを吹き飛ばす事は無かった。その一撃は力無くなのはの腹部を叩いただけ。
「どうして……? どうしてお前は私に攻撃しない? 私達を殺しに来たんじゃないの……?」
「違うよ。それにこうして言葉が交わせるなら、気持ちを伝えあえるのなら武器はいらない。私達がここに来たのはみんなの笑顔を守るためだから」
「……みんなの笑顔?」
「うん。その中には貴方の笑顔も入ってるんだ。だから信じて。私達は貴方のママを殺したりしてないって」
女性の目から敵意が薄れていくのを見てなのはは心からの笑顔でそう告げた。それに女性は言葉を失い、顔を伏せた。色々と考えているのだろう。そう判断してなのはは女性の反応を待った。すると、突然女性が顔を上げて叫んだ。
「っ!? 避けてっ!」
「えっ?」
それに疑問符を浮かべるなのはだったが、その理由はすぐに理解させられた。その体を強く殴り飛ばされたからだ。壁に叩き付けられるなのは。それをやったのが女性しかいないと分かってはいる。だが、何故となのはは思った。女性は殴ったにも関わらず避けてと呼びかけたからだ。
「ど、どうしたの……?」
「分からない! 体が勝手に……駄目っ! 止められないっ!」
疑問符を浮かべるなのはへ女性はそう困惑するように叫び再び襲い掛かる。それを見たなのはは悲しさに表情を変えながらも仕方ないとばかりにレイジングハートを起動させた。女性を止めるべく彼女は動く。そんな二人を密かに見つめる存在がいると知らずに。
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ゆりかご戦。苦戦するライダー。邪眼が取った手段はお約束の偽ライダー。ただし、改造された邪眼を基にしているため元来普通の人だったクウガ達よりも性能的には上です。
次回は怪人と戦う六課がメインです。
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地上と空中という二つの戦場へ別れて戦う事になった機動六課。ライダーも二手に分かれて最後の戦いへ挑む。
ラボとゆりかごで邪眼と対峙するライダー達が見たモノ。それは彼らの想像を超える敵の姿だった。