凪の放った気弾が敵前衛の先陣に命中し、
吹き飛ぶも勢いは死なずに波のように突進してくる。
一刀「やっぱり賊と同じようにはいかないか……!」
怒号と共に両軍が正面から衝突する。
愛紗「このまま一気に敵を押し返すぞ!!」
鉄と鉄がぶつかり合う鈍い音。
人と人の威嚇し合う怒声。
戦場に漂う殺気。
自分の恐怖を紛らわすかのように大声で喚き散らしながら突進していく兵士。
それを見るだけで恐怖は充満していき、兵士達の動きがぎこちなくなる。
死と隣り合わせの状況は、人の心を容易に蝕んでいく。
一刀「……?敵が引いていく……?」
星「いや違う、距離を取って吶喊するつもりでしょう」
愛紗「ならば頃合いは良し!敵の吶喊の直前で引くぞ!星!」
星「承知した。
……皆の者!秩序を守りつつ作戦通りに後退する。我が旗に続け!」
こちらの後退を好機と見たのか、華雄は軍を動かし一気にこちらの本陣まで押し込むようだ。
凪「退け!退けーーー!」
一刀「凪!前に出て吶喊を受けるぞ!」
凪「はッ!」
愛紗「ご主人様!……どうかお気をつけて!」
星「我々も近くで退きこみます故、どうかご無理はなさらぬよう」
一刀「ああ!頼りにしてるよ!」
前線の部隊が動き出したのが見える。
それが本当に敗走しているのか、作戦通りなのかはわからない。
桃香「皆、頑張って……ッ!」
前線を見つめながら両手を合わせ祈る。
こんな事しか出来ない自分が情けない。
朱里「桃香さまー!!」
雛里「作戦は成功ですー!!」
祈る事しか出来ない自分に嬉しい知らせが届いた。
朱里「華雄将軍は鋒矢の陣を敷き、
私たちを突破して袁紹さんの居る本陣に迫ろうとしているようです!」
雛里「このまま突っ込んできますよぉ!
早く兵を纏めて道を空けないとぉ!」
二人の言っている事も最もだけど、私たちにはそれ以上にご主人様達と合流する必要がある。
桃香「落ち着いて雛里ちゃん。
今はご主人様達と合流するのが先決だよ。
その後にちゃんと作戦通りに動こう?
鈴々ちゃん、ご主人様達の援護、お願い」
鈴々「任せろなのだ!」
桃香「私と朱里ちゃん、雛里ちゃんは一緒にご主人様達と合流したあと兵を指揮するよ」
朱里「御意です!」
雛里「あわわ、桃香様がほわほわしてないです」
桃香「どういう意味!?」
星「ふむ、良く食いついてくるな。
つかず離れず……猛将にして良将とは良くいったものだ」
一刀「ここまで食いつかれると損害が増えるな……凪」
凪「はっ」
一刀「俺達は一旦逆撃して少し敵を引き剥がすぞ」
凪「了解しました」
凪に確認を取ってから兵達に言葉を投げかける。
一刀「俺と凪は一旦前に出る!その時に愛紗と星の隊まで回れ!
そのまま本陣まで一気に駆け抜けろ!
あと少しで合流できる!頑張れ!!」」
『応ッ!』
距離を取ろうにもべったりと張り付いて離れない敵軍を一度引き剥がす必要がある。
凪「はああああーーーーーーー!!」
右脚に限界まで氣を溜め込み、そのまま全力で回し蹴り。
ズドンッというものすごい音と共に突進してきた敵前衛の50人ほどが一気に吹き飛ぶ。
一刀も凪の一撃に続き、そのまま敵の前衛を切り崩し、押し返す。
その一瞬の猛襲に敵との距離がわずかに広がった。
愛紗「今だ!走れ!走れええーーーー!!!」
華雄「おのれ……!
売り出し中というだけあってなかなか頑強に抵抗してくれる……!」
「しかし今の抵抗も一瞬だけのようです。
このまま押しきれるかと」
華雄「うむ……よし!
このまま奴らを飲み干すぞ。
全軍に攻撃の手を緩めるなと厳命しておけ!」
鈴々「!!来た!愛紗達が帰ってきたのだ!
皆合流の準備をするのだ!
それと桃香お姉ちゃんに伝令を出すのだ!」
しかし帰ってきた愛紗達の後ろには未だに敵軍が張り付いている。
鈴々「皆鈴々についてくるのだ!
これから愛紗達を助けにいくよー!!」
華雄「敵前方に砂塵か……ふん!
吹けば飛ぶような寡勢に援軍が来たところで何ほどのものでもない。
同じように粉砕してしまえ!」
「はっ!」
愛紗達が鈴々に合流しようと部隊を退いていると、前方から無数の矢が飛んでくる。
愛紗「なっ!?早いぞ鈴々!まだご主人様達が!」
星「まずい!この射程距離では主達にも矢が降りかかってしまうぞ!」
一刀と凪のおかげで兵の被害を抑え、さらに早く本陣へと合流できるものの、
そのせいで一刀達だけが出遅れている。
本来ならばドンピシャだがそれではいささか早すぎた。
しかし鈴々は迷わず放った。
なぜなら一刀本人に、愛紗達に合わせて援護するように言われていたから。
一刀「ッ!来たか!凪!しっかり捕まれ!」
そう言うと凪の元へ駆け寄り抱きかかえ、凪も一刀に掴まる。
すべての氣を足に溜め込み、それによる肉体強化。
姿勢を低くし、力を溜める。
ドンッと最初の踏み込みで地面が抉れるほどの瞬発力。
愛紗「なっ!?」
星「なんと……」
短距離ならば馬のトップスピードとほぼ同等の速度で愛紗達の場所まで走ってくる。
矢が降り注ぐ前になんとか愛紗達の部隊へ滑り込んだ。
一刀「はぁッ、はぁッ、……さ、流石にッ……疲れるなこれは……ッ」
無理矢理自分の身体能力を上昇させるため、肉体へ掛かる負荷は普通のそれではない。
まるで長距離を全力で休み無く走り続けたかのような疲労感に見舞われる。
愛紗「ご主人様!!」
星「全く、無茶をなさる……!」
心配した二人が一刀達へ駆け寄る。
一刀「でも、間に合ったな。
……ッ。
タイミングもバッチリだ」
息も整わないままに敵軍に矢が降り注ぐ。
「関羽様!趙雲様!後方に援護射撃命中!敵の速度が落ちています!」
星「よし、ならばこの隙に一気に引き離すぞ!!」
愛紗「各員駆け足!あと少し!気合で乗り切れ!」
鈴々「愛紗ーーーー!!!」
愛紗の姿を捉え、こちらに走ってくる。
愛紗「鈴々!全く……ご主人様と連携しているなら私にも話を通してほしいものだ、
心臓が止まるかと思ったぞ!」
鈴々「えへへ、時間が足りなくて説明できなかったのだ。
でもお兄ちゃんの言うとおりにしたらばっちりだったのだ」
一刀「ああよくやってくれたよ鈴々。
上手く引き込めたようだしこれなら……」
星「しかし主。作戦はいよいよ正念場。
……気を抜いては居られませんぞ」
一刀「ああ、もう桃香と朱里と雛里が一緒に後ろで控えてくれてるから
俺たちと合流したあとに全軍を指揮してくれるはずだ」
凪「ならばすぐにでも合流致しましょう」
一刀「よし、じゃあ愛紗と星は先行して桃香達と合流してくれ。
俺達は鈴々とその後ろからついていく」
愛紗「何をおっしゃるのですか!
先ほどの無茶のせいで相当に疲労しているではありませんか!」
星「その通りだ。
我々の肝を潰すような行動は控えていただきたい」
二人揃って怒り顔で迫ってくる。
一刀「もうあんな事はしないよ。
被害を抑えるには遠距離から攻撃できる凪が必要だ。
だから凪と一番連携が取れる俺も居た方がいい」
愛紗「しかし!」
一刀「大丈夫だよ。
いざとなったら鈴々と凪が守ってくれるから。
な?凪、鈴々」
凪「お任せ下さい」
鈴々「当たり前なのだ!お兄ちゃんは鈴々が守って見せるのだ!」
星「しかし……」
一刀「被害が少ないほうが桃香も喜ぶだろ?
だからここは任せてくれよ。
それともそんなに俺は信用ない?」
愛紗「そんな事は!……わかりました」
渋々といった表情で頷く。
愛紗「鈴々、凪、ご主人様を頼んだぞ。
何があっても守り通してくれ」
鈴々「合点なのだ!」
凪「はっ」
愛紗「では行くぞ、星」
星「ああ……」
桃香「愛紗ちゃん達が来た!」
朱里「はいっ!弓兵さん!斉射です!」
雛里「続いて槍兵さん、突撃してくださ~い!」
凪「隊長!前方から味方の突撃です!」
一刀「よし!兵を二つにわけて後方へやり過ごす!
各々愛紗と星の旗へついていけ!」
『応!!』
その後、桃香達の部隊と合流し、桃香の部隊で敵を押し返したあと袁紹のところまで向かう。
華雄「おのれ……!何だあの二人は!
あやつらのせいで先陣を粉砕出来なかったではないか!
……まぁ良い。
このまま突入してくれよう」
焦れて突進してきた華雄をいなし、袁紹軍のところまで引き伸ばす。
後ろで控えていた袁紹軍もそれに伴い大きく怒号を飛ばしながら突進していく。
華雄の軍と袁紹の軍がぶつかり合い乱戦が始まった。
荀彧「呆れてものも言えませんね」
曹操「……諸侯の動きは?」
荀彧「慌てて本陣の救援に向かっているようですが……孫策は逆方向に動いています」
曹操「空家を掠めるか。
……この状況ではそれが最善の策のようね」
荀彧「どうします?我らも汜水関に向いますか?」
夏侯惇「…………」
曹操「どうしたの?春蘭」
夏侯惇「はぁ、ここを素通りするのは戦略としては正しいと思うのですが……
天下の風評を得るには本陣へ救援に向かい、
華雄を蹴散らすほうが良いと思うのです」
曹操「そうね……実は私も春蘭の意見と同じなの。
それに──」
何かを言いかけたが、その言葉を続ける事はなかった。
曹操「秋蘭、桂花。すぐに行動を起こしなさい」
俺達の作戦は成功。
嬉しい事に華琳達の軍も華雄軍に横槍を入れてくれているようだった。
そして戦場はさらに混乱。
しかしそれはこちらにとっては好都合でもある。
その混乱に乗じて華雄と一騎打ちをし、打ち取ることで一気に形勢逆転を狙える。
敵味方ともに混乱に陥っている今でなくては出来ない事だ。
それに華雄を討ち取れば、備えを崩し、後退してきたことに対しても作戦だったと言える。
その作戦を皆に伝え、それぞれの持ち場が決定していく。
華雄に突撃するものに対し、右左で部隊を率いて援護していく。
愛紗が右翼、星が左翼を受け持つ事になり、
それならば一時ではあるが華雄の本陣への道が開かれるだろう。
桃香たちには華雄の退路を塞ぐように、
華雄の後方に回りこむように部隊を派手に動かし、旗を見せつけてもらう。
華雄一人が焦らずとも、兵達が混乱してくれればその策は成功したことになる。
一刀「よし……!成功だ!」
敵の動きに乱れが生じる。
その隙に作戦を開始。
星「関羽隊は敵右翼を!趙雲隊は敵左翼に当たる!」
愛紗「今回は敵を倒すのが目的ではない!
敵を釣るのが目的だ!各員命を惜しめよ!」
兵士たちが応えると共に突撃を開始。
愛紗と星の部隊に敵の右翼、左翼ともに上手く釣られていく。
敵前線の兵士達は桃香達の軍に気を取られ陣が崩れかけている。
それに耐えかねた華雄が前へ突出する。
華雄「全く、我が軍の質も落ちたものだ。
このように無様な有様を曝すとは……」
「華雄将軍とお見受けする」
華雄「誰だ!」
華雄の前に銀髪の少女が立ちはだかる。
凪「北郷が一の家臣、楽獅」
華雄「な!?貴様、どうやってここまで来たというのだ!」
凪「二つの部隊が貴方の左翼、右翼を引きつけてくれているおかげでここまで来ることができた」
華雄「単騎でここまで来たというのか……!」
凪「そういうことです。
恨みはありませんがその頸、貰い受けます」
華雄「ふ、ふふ……なめるな小娘ッ!!!!」
身の丈以上もある大きな斧を地面に叩きつけ、大声を挙げる。
華雄「我が名は華雄!世に謳われるは血に染まりし我が戦斧!
この頸そう安々と取れると思うなッ!!!」
名乗りと同時に間合いを詰め、戦斧を振り切る。
華雄「はあああああああッ!!!」
体を反らし避ける、顔のすぐ目の前を刃が横切る。
華雄「まだまだああああああああッ!!!!!」
驚くべきはその力。
力任せに振り回しているというのに全くの無駄も無く、その一撃一撃が必殺となっている。
やはり猛将。
その武はとことんまで突き詰められている。
しかし、それも当たらない。
その場から動く事なく、上半身の動きと腕を使い
刃の軌道を逸らす事によって全て回避され、流される。
華雄「おのれ貴様……!!ふざけているのか!!」
自分の攻撃が当たらない事に加え、一向に攻撃を仕掛けてこない凪に対し苛立ちが募る。
その間も猛襲を続ける華雄の攻撃を避け続け、絶望的なまでの実力差を見せつけられる。
華雄「おのれ……!!ナメるなああああああああああああッ!!!」
渾身の力を込め、凪の体目掛けて振り下ろされる大斧。
凪「はああああああッ!!!」
その一撃を待っていたかのように大斧目掛けて凪の右拳が振り切られ
鈍い大きな音が響くと共に、遠くの岸壁に斧の先端が突き刺さった。
華雄「なッ……!?」
華雄の手には戦斧の柄。
それは得物が真っ二つに叩き折られてしまった事を意味していた。
華雄「我が戦斧が……素手で折られただと……!?」
凪は一刀との鍛錬で自分の氣の使い方を一部改めた。
一刀の氣での肉体強化からヒントを得、自分に応用させた。
一刀の応用が肉体強化であるなら、凪の応用は体術強化。
先ほど華雄軍50人程を吹き飛ばした時もこれを応用していた。
振り切る腕や脚に氣を纏うと同時に
後方へ放出する事によってその威力は段違いに跳ね上がる。
凪「これで終わりです」
拳に氣を集中させ、特大の気弾が出来上がる。
凪「はあああーーーーーーーーー!!!」
腕を振り切り、華雄に気弾が飛んでいく。
得物を破壊された華雄はなすすべなく、気弾の直撃を受け、地面に身を沈めた。
凪「敵将華雄!討ち取ったり!」
『うおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーー!!!』
愛紗「前方で鬨の声だ!状況はわかるか!?」
星「同じ場所にいる私が状況を把握できるはずがなかろう、しかし」
鬨の声が上がった方を見据え、
星「華雄とぶつかったのは凪だ。
ならば間違いなく凪が華雄の頸を取ったのだろうよ」
凪の実力は星が一番よく分かっている。
いかに猛将にして良将と謳われる華雄といえど、
凪が相手になれば一方的な戦闘になると踏んでいた。
そしてその予想は見事に的中した。
「報告します!楽獅将軍がお戻りになられました!」
星「うむ、ご苦労」
凪「ただいま戻りました」
星「ふふ、やはりな」
凪「すぐに敵を追撃します。
損害は激戦により負傷兵多数、負傷したものは全員後方へ下がらせています」
愛紗「よし、では行くぞ!我らが主に勝利を捧げるために!」
「応!」
星「勇者たちよ!我らが旗の下に集え!」
凪の圧倒的な勝利により、負傷兵が多いと言えど士気は充分に高まっていた。
それはそうだろう。
あれだけの実力を持っている人間が自分たちを率いるのだから。
凪「目前の敵を粉砕し、その勢いのまま汜水関を落とす!各員奮励努力せよ!」
愛紗「全軍……突撃ぃぃぃーーーーーーーーッ!!!」
夏侯淵「……華雄が討ち取られたか」
夏侯惇「なにぃ!?華琳様へのお土産がなくなってしまった……」
夏侯淵「それも、斥候によれば一方的な展開だったらしい」
夏侯惇「なんだと?劉備の軍にはそこまでの腕を持った将がいるのか?」
夏侯淵「わからんが……見てみろ」
遠くの岸壁を指さす。
そこをよく見ると何かが突き刺さっていた。
夏侯淵「無手で華雄の得物を叩き折り、あそこまで吹き飛んだそうだぞ」
夏侯惇「な、なんと……」
「劉備様!前線にて趙、関、張の旗が一斉に動き始めました!」
桃香「ということは……作戦成功?」
朱里「おそらく今が好機ですね。
本陣も押し出して愛紗さん達に合流しましょう!」
桃香「うん!じゃあ全軍、前線に向かって移動するよ!」
雛里「愛紗さんたちと合流後は、華雄軍の撃退に集中します。
各員戦闘準備を怠り無く」
桃香「じゃあみなさん!全速前進!愛紗ちゃん達と合流します!」
『応!!』
こうして、華雄が凪に討ち取られたことによって、華雄軍は瓦解した。
その混乱に乗じて雪蓮が汜水関の門を突破。
激戦の末、連合軍は洛陽へ駒を進めることになった。
次は虎牢関。
最大の難所だ。
……恋と霞の守る関だ。
そしてこちらの総大将は袁紹。
……それだけで絶望的なまでの戦力差に思えてくるなぁ。
「大本営より伝令!劉備軍は速やかに前進し、虎牢関の前方に布陣せよ!
その後は敵の動きに合わせ、
華麗に敵を撃退せよ!以上!」
ですよねー。
そんなこったろうと思ったよ!
はぁ……。
恋とは一度戦ったことがあるとはいえ、それはルールを設けた大会という舞台での話だ。
ここは戦場、命と命の奪い合いだ。
恋だって俺の事を知らないし、間違いなく殺しに来る。
……滅入るなぁ。
愛紗「呂布など何する者ぞ。
きっとこの私が討ち取って見せましょう」
一刀「ダメだ。
呂布とは絶対に一人で戦っちゃいけない」
愛紗「どうしてです!まさかこの私が負けるとでも……!」
一刀「これは愛紗だけじゃない。皆に言える事だ。
何があろうと絶対に呂布に一人で挑んじゃダメだ」
星「ほう……呂布の噂は耳にしているが、
主がそこまで言うほどの武を持っているというのですか?」
一刀「うん……多分、凪でも厳しい」
俺の一言に一同驚愕する。
華雄に一方的な展開を見せた凪ですら厳しいというのだから当たり前だ。
でもそれは間違ってはいない。
確かに打ち合えるとは思うけど、恋はそれじゃダメなんだ。
あれは受けちゃいけない。
避けるか流すかで力を殺さないと数合も持たない。
それに加え速度、まるで不規則な攻撃のリズムがある。
この世界の人たちは基本的に真っ向から打ち合う戦い方しかしないから尚更キツいはず。
一刀「いい?絶対に一人で挑んだらダメだよ。
最低でも三人、それでもキツいかもって相手なんだ。
万が一にでも愛紗を失ってみなよ。
ここに居る皆が悲しむよ」
愛紗「それは……」
一刀「もちろん俺だって悲しむ。
それにこれから愛紗が救っていけるであろう人々が救えなくなっちゃんだよ?
だからここは堪えてくれ」
愛紗「……わかりました」
呂布「……来る」
張遼「こういうときの恋の勘は当たるからなぁ……誰かおるか!」
「はっ」
張遼「出陣や。準備しとき」
一刀「ふー……来たぞ」
大きく息を吐きだし、戦場の空気によって高揚している気持ちを落ち着ける。
愛紗「どういう事でしょう?敵は篭城を諦め、決戦を望んでいるというのでしょうか?」
一刀「諦めた……というか」
霞の事だから思い切り真正面からぶつかって隙を見て逃げる!ってところだと思う。
一刀「多分、相手は逃げる隙を見逃さないために野戦に持ち込んでるんだと思う」
張遼「ほう、奴ら動きを止めよったな。……どうするよ、恋」
呂布「……頑張る」
張遼「いや、頑張るて……ま、ええか!
恋が突っ込んだあと、ウチの部隊で更に強襲をかけたる。
どや?そうすりゃ敵は大混乱間違いなしやで!」
呂布「……良い作戦」
張遼「せやろ!ほんならそれを基本方針にしてあとは臨機応変ってのはどうや?」
呂布「……それで戦う」
張遼「頼りにしてるで!」
呂布の言葉を聞き、後ろに広がる自分達の兵に向かう
張遼「気合入れぃ!あいつらしばきまわしてから堂々と退却すんで!ええなぁ!」
『応!』
張遼「ええ返事や!ほんなら呂布隊、先陣きって連合軍をぶち殺したれ!」
『うおおおおおーーーーーーーーーーー!!!!』
張遼「張遼隊は連合軍の横っ面ぶっ叩いて、そのあと呂布隊に合流や!
無様な姿見せたら死なすで!」
『応!』
張遼「全軍抜刀じゃー!!!」
霞の掛け声により、自分を鼓舞するかのように大声を上げ抜刀する
張遼「いくでぇ!全軍突撃!ボケども全員、いてこましたれーーーーーー!!!」
一刀「やっぱり指示は無しかよ!」
星「まぁ……そうでしょうな」
一刀「冷静!?とりあえず迎撃準備!
俺と凪、愛紗、鈴々は前曲を率いて突撃を受け止める!
星と雛里は俺達の左右を固めてくれ!」
霞かなり本気っぽいし、いやこの世界じゃ当然だけどさ!
正直霞や恋と戦うのは辛いけど、俺のその気持ちで兵達の命が散っていくのは御免被りたい。
雛里「了解しました。では桃香様と朱里ちゃんは後曲の指揮をお願いしますね」
桃香「了解!じゃあ朱里ちゃん、後曲の指揮、頑張ろう!」
朱里「御意です!」
各々の役割を決め、作戦を練り、突撃準備が整った。
一刀「ふぅー……。よし、桃香、号令を頼む」
もう一度気持ちを落ち着け、突撃合図を仰ぐ。
桃香「うん!皆!この戦いに勝てば洛陽は目と鼻の先だよ!
勝って、洛陽に行って、困っている人たちを助けよう!」
『応!』
桃香「全軍前進!頑張って敵をやっつけよう!」
『応っ!』
愛紗「では皆の者!我らの旗に続け!
敵は強大なれど、我が軍とてひけは取らぬ!
各員、気を引き締めていけ!」
最も声が通る愛紗の言葉により、兵達の指揮が上昇していく。
愛紗「行くぞ!全軍突撃ぃぃぃーーーーーー!!!」
愛紗の号令により、俺達の部隊も突撃を開始する。
基本的に俺と凪はどの部隊にも属さないため、
その場の状況により臨機応変といった具合だ。
なので相手にも俺達の存在は気取られにくい。
一刀「……霞」
戦場に身を投じている。
しかし相手は霞達だ。
俺も全力でやっているつもりだが、心のどこかでブレーキをかけてしまう。
いくら世界は違えど、愛する者に刃を向けるのかと。
凪「隊長……ご無理をなさらないほうが……苦しいのであればここは自分が──」
一刀「……いや」
凪だって辛いはずだ。
霞には世話になっているし、頼れる存在として慕っているのだから。
その証拠に、凪の表情も少し陰がさして見える。
一刀「凪だけに辛い思いはさせられないよ」
呂布「……お前、誰だ」
乱戦の中、まるで自分と周りの世界が切り離されたように喧騒が止み、そこに一人の男が立っている。
こんな乱戦の状況にも関わらず、
まるでその男はそこに存在しないかのように、周りの攻撃を受けない。
いや、見えていないかのように兵達が素通りして、そのすぐ横で戦闘を始めている。
「これはこれは天下の飛将軍殿ではありませんか。
お初にお目にかかります」
まるで場違いなその落ち着き、呂布に対し深く一例し、近寄っていく。
呂布「動くな」
戟を構え、男を威嚇する。
その異様な空気を呂布の獣の勘が感じ取る。
この男は普通ではないと。
「おやおや物騒ですね。
私は少しあなたとお話がしたいだけなのですが……」
呂布の威嚇にもまるで動じず、余裕綽々といった様子で話を続ける。
呂布「……恋はお前に話などない。
失せろ」
「やれやれ、少しは人の話を──」
恋「ふんッ!」
そこまで言ったところで呂布が男目掛けて戟を振るう。
振るった戟は間違いなく男の体を真っ二つに叩き切った。
「聞いてはくれないようですねぇ」
しかし何事もなかったかのように男はその場に立っている。
恋「ッ!」
「そう怖がらないでくださいよ。
少し我々に協力してほしいだけなんですから」
徐々に距離を詰めてくる。
「このまま貴方に逃げてもらっても構わないのですが……
その前に一つ仕事をしていただきましょう」
そういうや否や、呂布に向かって手を伸ばし
「縛」
恋「!?」
言葉をつぶやいたかと思えば体の自由が効かなくなり、動けなくなる。
「操」
恋「ッ────」
次の言葉をつぶやいた途端、彼女の意識は途切れる。
目の光は失われ、空虚を見つめている。
その無防備な状態の彼女に男が近寄り──
「北郷一刀を殺しなさい」
そう一言、耳元で呟き、姿を消した。
その言葉を聞いた呂布は、一直線に彼の元へ向かって行った。
「天下無双の力を持つ者程、得てして心に大きな隙がある。
フフフッ、そんなに寂しかったんですねぇ。
さて、天下の飛将軍と畏怖される力、ここで存分に奮ってもらいますよ。
……貴女の命を燃やして」
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