No.514784

ガールズ&パンツァー  我輩は戦車である ~鍛錬編~

tkさん

今回の主役は五十鈴さんと秋山さん。
公式で五十鈴さんの謎の数々は明かされるのだろうか…?

2012-12-03 21:24:10 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1254   閲覧ユーザー数:1214

 我輩は戦車である。名を『あんこう』という。

 『Ⅳ号戦車D型』という制式もあるので、別にそちらを使ってもらっても構わない。

 近いうちに『D型』の部分が変わるかもしれないので、とりあえず『Ⅳ号』という呼称が妥当だろう。

 それはさておき。

 

「華ってさ、本当によく食べるよね」

 サンダース大学付属校との試合が終わって以来、我らがあんこうチームの恒例になりつつある倉庫内での昼食だが、本日は武部殿のその一言から始まった。

「はい、これくらい食べておかないと夕食まで持ちませんので」

 若干の照れを見せつつ、件の五十鈴殿は本日の昼食であるサンドイッチを口に運んだ。

 そんな彼女の膝元にはパンの部分だけで半斤に迫るだけの量が鎮座している。

 先日は2合相当の握り飯(おかず付き)であった。

 そのまた先日は大盛りのパスタ(デザート付き)を持参していた。

 それらを軽々と胃袋に収める様は、年頃の男子もびっくりの健啖ぶりである。

「いや、いつも思うんだけど。どうしてそれだけ食べてちっとも体にでないんだろ…」

「うん、五十鈴さんって体の線が細くて羨ましいな」

 武部殿の言葉に西住隊長も頷いた。

 確かに、五十鈴殿の体形はやや高身長であることを除けば平均的である。

 むしろ控えめな言動と柔らかい物腰のおかげか、スマートで華奢な印象を受けるのだ。

「ですが、沙織さんと西住さんの豊かな体も魅力的だと思います」

「私の場合は胸と一緒に他のところも出るの! ああもう、ダイエットの苦労を知らない華の薄情者ー!」

「うう。私もあんまり油断できないんです…」

 なるほど。

 いつの世も女性の悩みというものは変わらないのかもしれない。

「…基礎代謝の差だろ。華は昔から体力ある」

「そのわりに、運動神経はありませんけどね」

 冷泉殿の言葉を、五十鈴殿自身がやんわりと訂正する。

 そういえば、彼女が戦車道を履修した理由はアクティブさを求めてという話を聞いた事がある。

 戦車の扱いは即応性が求められる事も多い。そういう意味では良い訓練になるだろう。

「ねえ華。その体力をつけるコツってないのー?」

「そう言われましても… 特別な事はしておりませんよ?」

「嘘よ。それだけ食べて太らないなんて嘘に決まってる。何をしてるのか白状しなさいよー」

 今日の武部殿は少々腹の虫の居所が悪い様だ。

 これは私の邪推だが、おそらく胸と一緒に別のところも出てしまったのだろう。

「た、体力といえば秋山さんもありますよね?」

「え、ええ!? 自分でありますか?」

「そういえばゆかりんって身軽よね。この間も一人でサンダース付属に潜入してきたし」

 日々の訓練の成果なのかとっさにでた五十鈴殿の言葉に、武部殿の関心が別の方向へ向かう。

 素晴らしいアクティブさでありますが、友人を売るという意味では最悪であります五十鈴殿。

「自分はその、装填手ですから。最低限の体力がないと任務が果たせませんし」

「サンダース付属に一人で行ったって聞いた時は本当に驚いたけど、秋山さんが無事で良かった」

「あはは、その節はご心配をお掛けしました」

 西住隊長の言葉に恐縮する秋山殿は本当に嬉しそうであった。

 

 装填手の任務は当然ながら砲弾の装填である。

 しかし決してそれだけではなく、異常時には修理の為に車外に出たり火器の管理も担う事が多い。

 そもそも戦車用の砲弾は決して軽いものではない。

 戦車道用に改良しているとしても、成人前の女子が一人で抱えるのは一苦労だ。

 多種の任務を迅速にこなしつつ、最も肉体的な労働を担う。それが装填手なのである。

 

「よーし、明日は休みだし皆で体力つくりしよう! ゆかりんと華は自分がしてるトレーニングを私たちに教える事!」

「そうか頑張れ私は帰って寝る」

 武部殿の発言からコンマ5秒で自分の方針を口にする冷泉殿。

 どうやらこの展開を読んでいたらしい。

「あんたもやるの! 麻子が一番体力ないでしょ!」

「…激しい運動なんて、無理だ」

 私の内部へ避難しようとする冷泉殿と、それをひっつかむ武部殿。

 ともあれ発起人一、反対票一。残りは。

「私は構いません。秋山さんのトレーニングも気になりますし」

 五十鈴殿は賛成に一票。

「私も二人がどんな事してるか知りたいな」

 西住隊長も賛成。これにより賛成が二票追加され、議案は可決された。

 ちなみに西住隊長の意見が二票扱いなのは、秋山殿の分も含むからだ。

「お任せください! 不肖、秋山由香里! 必ず西住殿にご満足のいただけるメニューを用意します!」

 この通り、彼女が西住隊長の意見に反対するなどあり得ないからである。

「…悪夢だ」

 冷泉殿、ここは諦めが肝要かと思います。

 

 

 あけて翌日。

 彼女達は私の安置されている大洗女子学園の倉庫内に集まっていた。

 別段ここに集まる必然性も無かったのだが、体を動かすには十分なスペースがあるのと運動後に合宿所の大浴場を使用できるのが理由らしい。そして午後からは町に繰り出し買い物をするそうだ。

 さすがに一日中訓練をするつもりは無いのだろう。それが当然であるし、それで良いと私は考える。

 彼女達は年頃の乙女であり、修めるのは戦車道である。それは人生を豊かにする為のものであり、決して青春をすり減らすものではない。休日ならば少女らしく着飾って町を歩くべきなのかもしれない。

 

「さあ! 秋山流ビリー○ブート○ャンプを始めましょうっ!」

 そんな私の感慨をきれいさっぱり破壊する無頼が一人。

 気合に満ち溢れた秋山由香里殿である。

「あ、秋山さん。その格好…」

「まずは形からというのが自分の流儀でして」

 西住隊長に指摘されてはにかむ彼女は魅力的な女性だと思う。

 

 ただし迷彩色のタンクトップとホットパンツに身を包んでいなければ、だが。

 

 他の面々が学園指定のジャージなのに対し、彼女だけが明らかに浮いていた。

 いや、彼女のやる気が人一倍あるのは分かるのだ。ただ少々行き過ぎているだけなのだ。

 だがそれでも。それでもだ。

 誰か彼女に女性らしい立ち振る舞いを教授するべきだと思うのだ。しかも可及的速やかに。

「ホント、ゆかりんって戦車とか軍隊とか大好きだよね…」

「いやあ、それほどでもありません」

 武部殿のあきれ半分の言葉も馬耳東風の様だ。

「ビリー○ブート○ャンプって名前だけ聞いた事あるけど、どんな事するの?」

「はい、もちろんちゃんと説明します。教材も一通り持ってきましたので安心してください」

 唯一の防波堤になりそうな西住隊長が興味を持ってしまった以上、誰も止められそうも無い。

 教材の映像からすると有酸素運動が中心のトレーニングメニューの様だ。

「なんだか、激しい動きですね」

「私、これ1日で止めちゃったんだよね… 次の日の筋肉痛が辛くてさ」

「それはもったいないですよ武部殿! トレーニングは日々の継続が大切なんです!」

「うーん。やっぱりそういう所はダイエットと同じだよね」

「西住殿の言うとおりです。何事も継続こそ力なんです!」

 貴女の場合は趣味を継続しすぎるのもどうかと思います、秋山殿。

 こう、もう少し女性らしい趣味趣向を見つけるべきかと。

 

「…いつからここは新兵訓練施設になった」

 そして冷泉殿の投げやりなツッコミを聞いている者は誰もいなかった。

 

 

 小一時時間が経過した。

 秋山殿の日課である1セットを終え、今は小休止となっている。

「はぁ… 分かってたけど、これやっぱり辛いわ…」

「辛いからトレーニングになるんですよ」

「ぐ、確かにそっか」

 息を切らせながら秋山殿の言葉に納得する武部殿には幾分かの余裕が見られた。

 やはり経験者は緩急の配分を理解しているらしい。

「ふぅ、ふぅ… 秋山さん、毎日こんなにやってるんだ…」

「だ、大丈夫ですか西住殿!? 疲れたら休みましょう、そうしましょう!」

「…う、ううん、大丈夫だから…」

 不慣れな西住隊長は相当疲労している様だ。

 それでも最後まで続けたのは戦車長としての意地なのか。

「この間のケーキ。あの分だけでも痩せないと…!」

 …それ以上に切迫した理由だった様だ。

 一部からすわ軍神かと言われる西住隊長だが、やはり年頃の少女なのだろう。

「ほとんどついていけませんでしたわ。秋山さんが機敏な理由が分かった気がします」

 タオルで汗を拭きながら秋山殿に尊敬の眼差しを送るのは五十鈴殿だ。

 確かに、メニューの半分をこなすのが精一杯だった彼女からすれば秋山殿が眩しく映るだろう。

「いいえ。五十鈴殿は息も切れていませんし、流石ですね」

 そう。他のメンバーが大小の疲労を見せているのに対し、五十鈴殿は涼しい顔をしていた。

 まるで朝のジョギングを済ませていい汗をかきました、的な清清しさである。

 

「………おばあ。なんでそんな所にいるんだ。そんな所にいると、危ないぞ…」

 対照的に冷泉殿は秋山殿持参の救護用マットの上で生死の境をさ迷っていた。

 ちなみに冷泉殿のご祖母は存命のはずである。

 私に分かるのは、危ないのは冷泉殿だという事だけだ。

 

「じゃ、次は華の番ね」

「はい。少し待ってくださいね」

 そう言いつつ五十鈴殿は私に乗り込み操縦桿を握った。

 その手つきは手馴れたものであり、そういえば彼女達が最初に私に乗り込んだ時に操縦桿を握ったのは彼女であった事を思い出す。

 ………ふむ? それはともかく、なぜ体力トレーニングをするのに私に搭乗する必要があるのか。私がない首をかしげていると、その先に大きめのワゴンが目に入った。なるほど、あれを牽引するためか。

 ほどなくして私はワゴンを引きながら倉庫に戻る。

「は、華。それ…」

 それを目にして言葉を失ったのは武部殿だった。

「はい。以前沙織さんから頂いたダイエット器具ですわ」

 そうか。これらは全て元は武部殿の物だったのか。

 どうりで五十鈴殿らしからぬ無秩序な品揃えなわけだ。

「レッグトレーニング、バランスボール…」

「アブトロニックに、ヨガマット。腹筋ローラーまで。五十鈴殿はこれを全て使ってるんですか?」

「いいえ。流石に全てを使う暇はありませんので、できる限り使う程度ですが」

 目を白黒する西住隊長と秋山殿に恥ずかしそうに答える五十鈴殿。

「…なんだ、また増えたのか」

「あ、ちょ、ちょっと麻子!」

 ようやく回復した冷泉殿を止めようとする武部殿であったが、先のトレーニングが堪えたのか動きに精彩を欠いている。逆に十分な休息を得た冷泉殿は軽々と振り切って言葉を続ける。

「沙織はダイエットが趣味だが、飽きるのも早くてな。そういうのは華が全部もらってる」

「おかげでどれを使おうか迷ってしまいまして。西住さんと秋山さんもどうですか?」

「あ、ありがと」

「なるほど。五十鈴殿の体力の秘密は武部殿から送られるダイエット器具にあったと」

 確かにダイエット器具には有酸素運動を用いるものが多い。

 体力作りとしては十分に効果があるだろう。

「う、うそよ~! 私にはちっとも効果がなかったのに~!」

「いち、毎日続ける華の根気。に、元もとの体質の差。さん、現実は非情である。正解は―」

「まーこー!!」

 烈火のごとき勢いで冷泉殿を捕まえようとする武部殿と、脱兎のごとく逃げ出す冷泉殿。

「ま、待って二人とも落ち着いてー!」

「ああっ!? 待ってください西住殿ー!」

「あらあら。今度はマラソンになりそうですね」

 

 

 マラソンはトレーニングとダイエット両面に有効な手段だと思われる。やり過ぎなければ大丈夫だろう。

 成果のほどを期待しておりますよ、武部殿、西住隊長。


 
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