賢い人は皆、余計な荷物を捨てていく
いつだって身軽に
自分の好きな場所で
自分の好きな歌を歌うんだ。
笛吹きは寂しそうな笑顔を作って言った。
つまりお兄さんは賢くないんだね。
少年は残酷に問いかける…
笛吹きはそれに応えるように知らない曲を吹いた。
寂しそうな笛吹きの吹く笛の音は寂しい音がした。
少年は自分も笛が吹きたいと言い
笛吹きは小さな笛を取り出すと
それをキミにあげようと言った。
笛吹きの後ろには小ぶりな荷車に
溢れそうな荷物が山のように積みあがっていた。
そこからはお菓子や玩具や本や
なんだか良くわからないものまで何でもあって
少年の目にそれは夢のビックリ箱のように映った。
…
それからの笛吹きの消息は知らない。
かつての少年は青年となった。
時折、その日の事を思い出しては
胸の底がかすかに暖かくなるのを彼は感じた。
そして、不意にあの日聴いた笛の音は
寂しい音だったのではなく優しい音だったのだと気づいた。
谷を抜ける風が笛のような音を鳴らした。
青年はそれに応えるように笛を咥えると歩きだす。
少しだけ重くなった荷物はまだまだあの笛吹きには及ばなかった。
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笛吹きという言葉が好きです。