No.514410

東方魔術郷#1 【9】

shuyaさん

迷宮外(永遠亭診療所):おかしな空気の話し合いと覚醒する少女たち(その2)

2012-12-02 19:25:51 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:372   閲覧ユーザー数:371

「とまあ、恥ずかしながらの話にはなるのだけれどね」

 永遠亭診療所の診察室内。レミリアは患者が座る椅子にちょこんと腰掛けて、身振り手振りを交えた軽い口調で長話を続けている。

「身も心も切り刻まれるような悪夢のおかげで、やっと思いだしたのよ。『ちゃんと身体を持って帰ってくればすぐに戦線に復帰できる』って確約した、あなたの言葉を。だから魔理沙を早く返して欲しいの。でないと戦いに行く戦力が足りないのよ」

 永琳は、机に向かって書き物をしたまま話を聞いている。

 

 吸血鬼の本気は、永遠亭診療所の責任者である八意永琳にクレームをつけることから始まった。なにしろ現存戦力はレミリアを含めて3人しかいないのだ。初挑戦時の地下2階で麻痺を食らってしまった霊夢と美鈴は、回復させる費用が溜まっていないので寝たきり状態にある。魔理沙がいた先ほどの探索ですら、その魔理沙が倒れてしまうというあってはならない状況へと追い込まれてしまった。次の探索に、魔理沙を失ったまま挑もうとするのはあまりにも愚か過ぎる。

 そもそも、レミリア・咲夜・パチュリーの面子では、パーティを編成出来ているとはいい難い。この迷宮では通路の広さを考慮すると、前衛3人・後衛3人という編成にせざるを得ない。レミリアは戦士なので前衛、咲夜は盗賊なのでどちらとも言えない中衛、パチュリーは魔法使いなので後衛。この3人が通常の戦闘で全員接敵してしまうとどうなるか。不意を突かれれば確実にパチュリーはやられてしまうだろう。そうでなくとも、通常の戦闘で多数を相手にすれば、近接攻撃を受けてしまうのは当たり前のことだ。一撃で倒れてしまう危険性があるパチュリーを、前衛配置せざるを得ない時点ですでにパーティとして終わっている。この3人で探索に向かうのは復活の出来ない本当の死を迎えに行っているようなものだ。咲夜だって盗賊なのだから、攻撃力が低く、素早いかわりに防御力・体力ともに平凡なもの。こちらも不意を突かれれば、素早さを活かす間もなくやられる可能性も十二分に考えられる。これでまた番人などが出ようものなら、現時点では勝ちの目の方が薄い。

 つまるところ、少なくとも不意を打たれようと守り切れる程度の前衛が必須なのだ。欲を言えば、火力の高いパチュリー呪文を活かすために、前衛3人に加えてもう1人くらいの予備がいてもいい。前衛の霊夢と美鈴がいれば、咲夜を後ろに回して予備前衛にすることができる。この2人を加えた5人ならば、パーティとして申し分のない戦いをこなすこともできるだろう。確実に生きて帰るためには、最低限の戦力が必要であるという当たり前の発想。それを実現するために、レミリアはまず、戦力を回復させることを目指していた。

 

「ねえ、八意永琳。無理だ、と言われても困ってしまうのよ。対価を支払えば復帰させるという話だったから頑張ったのに。頑張って頑張って、それで失敗してしまったのに。”実は頑張ってもそちらの都合で報われないことがあるのでしたー!”なんてね、悲しすぎるもの」

 永琳は、反応することなく仕事を続けている。

「今、私たちにお金が無いことはわかっているのよ。魔理沙の回復代を支払えないことくらい理解しているつもり。でもね、もう一つわかっていることがあるの。それは、例え魔理沙を回復させるに十分なお金を持っていようとも、魔理沙の復帰はありえなかったってこと。そうでしょう?」

 レミリアは、無反応の永琳に向けて次から次へと口撃を仕掛けている。

 

 ふと。話を続けるレミリアの後方、部屋の片隅で。パチュリーが少し考え込むような仕草を見せた。

 

『話は全て漏らさず聞いているのだろうけれど、”話を聞く”ということで招き入れたにしては、対応が不自然じゃない?』

 

 相手は合理の権化とも言える天才だ。身内のことに絡まなければ、自らの判断において的確に事を為すのが八意永琳だ。では何故、招き入れて話を聞くという判断とその場における態度が矛盾しているのか。片手間に聞けるような話ではないのだから、そんな非合理は八意永琳らしくない。

 

 パチュリーの頭脳が全力で回り始めた。

 

『八意永琳は、このくだらない探索を計画した輩たちの一味じゃない。あくまで治療担当の協力者。その絡みで権限のない判断を強いられているってあたり?これは、この話の結果とこいつの態度によっちゃあ、ちょっと腹の立つ展開になってしまうかもねぇ……』

 


 
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