戦いは終わった。
各自、色々と思うことはあるのだろうけど……それでも一つの戦いが終局を迎えたのは事実だ。それは喜ばしいことなのだろう。
「…………」
結局この戦いで一番得をしたのは、八神はやてという少女だ。
仮面の男が残した一枚のディスクを見ながら、カイトはそう思った。
『そこに、管制人格を延命させる方法を残した。共に生きたいのなら、やってみるといい』
そう仮面の男は言い残し消えた。文字通りそのままの意味で。
「(結局、あの男は何をしたかったのか)」
何からなにまでわからないことだらけ。それが今回の戦いで得た、最も大きな成果だった。
「カイトくん」
なのはとフェイトがカイトの近くに来ていた。
二人の格好は、何時もの学生服や私服などではなくて、まるでパーティに出ている女の子が着るドレスのようだった。
いや、実際に今やっているものはパーティなのだけど。
ちなみにはやてたちはここには居ない。リインフォースに対する処置を行うため、彼女の傍に皆ついていることにしたそうだ。
「……楽しまなくて良いのか?」
「それは私たちの台詞だよ? ご飯も食べずに、こんな端の方に居るなんて」
「気分じゃない」
なのはの誘いをばっさりと切り捨てた。
それに対してフェイトはムッとした表情を浮かべた。
「誘ってくれてるんだよ? なのにその言い方はないんじゃないかな?」
「悪いとは思う。でも、いまはそんな気分じゃないし、考え事もある。だから悪いけど……」
あの防衛システムとの戦いから次の日、それが今日だ。
いまだ戦いの余韻が残っているのか、所謂戦闘状態から、日常状態への切替が、カイトはできていなかった。
「っ! 行こう、なのは」
フェイトは一人、パーティ会場へと……もっと言うのであれば、バニングス邸へと一人戻っていく。
その様子を見て、少し慌てた様子を見せたものの、すぐに落ち着きを取り戻し、なのは一言だけこう言った。
「カイトくん」
「ん?」
「なんで――フェイトちゃんを助けてくれなかったの?」
そう言ってから、なのははフェイトのあとを追いかけて走っていった。
「なんで助けてくれなかったの? か。そんなの決まってる」
一人の、悲劇の女性をカイトは思い浮かべた。フェイトの金髪とは逆の、暗い、黒い髪を持った。影を持つ女性。
けれどそれを、口にだすことはなかった。
「なーにやってんよの、そんな暗い顔して」
次にやってきたのは、アリサとすずかだった。
二人共料理が乗った皿を持っていたが、すずかだけは二皿持っている。
「結構食べるのな、月村さん」
「ふぇっ!? ち、ちがいますよっ。これは天音くんの分です!」
そう言って、カイトに皿とフォークを手渡した。
「お、おう。ありがとう」
お皿に乗ったステーキを一切口に入れる。
「お、うまい……」
「あったりまえよ! バニングス家御用達のシェフ作だしね」
「あ、アハハ……シェフ。シェフっすか」
世界観がまるで違う発言を聞いて、カイトは弱々しい笑みを浮かべている。
「それじゃ隣失礼するわよ」
「失礼しますね」
カイトの右にアリサ、左にすずかが座る。
それからしばらく会話があるわけでもなく、ゆったりとしたときが流れていく。
「聞いたわよ? あんたとなのはたちのこと」
「そっか」
「何か言うことはある?」
「いや、特には」
どこか、追求するようなそんな形でアリサは言う。
その様子を、すずかは横でじっと見ている。
「そう、でもあたしはあるわ」
「……?」
数度胸に手を当て、深呼吸をしたあと、アリサは口を開いた。
「あたしは……あんたが羨ましい。なのはと一緒の世界を共有できるあんたが」
――あぁ、そういうことか。と、カイトは納得していた。
「ま、ただの愚痴だからさ軽く流しても良いわよ」
「そうさせてもらう」
「それじゃ話を戻すわ。……もっと言えばあれね、フェイトとはやても羨ましいわ」
「なのはと世界を共有できるから?」
「そう、隣に居れるから」
「そっか」
それからまた、沈黙が続く。けれど、それは重苦しく感じるようなものではなくて、むしろ真逆。その理由は、この三人が友達だから。だろうか?
「ま、こんなところね。一応言っておこう思って。男の子なんだから、女の子の愚痴ぐらい受け止めてくれるでしょ?」
「……承知しました。お嬢様、って?」
「似合ってないわよ?」
「わかってる」
そう、このぐらいの軽口が叩けるぐらいは友達だった。
「あ、この曲って……」
落ち着いた洋楽から、J-POPに曲が変わる。そして、その曲は……。
「はい。頼んで流してもらったんです」
「そっか。うん、やっぱりいいなぁ」
目を瞑り、その曲に、調べに耳を傾ける。
さすがに激しい曲は避けたのか、曲が変わっても落ち着いたそんな曲が流れる。
いつもは声を明るい――ときには五月蝿いとも言える、アリサもその調べに耳を傾けていた。
そんな落ち着いた雰囲気だったからだろうか。さきほどのなのはの言葉の影響もあったのかもしれない、どちらが本当なのか、カイトにも判別は着かなかった。
「愚痴を聞いた礼ってわけじゃないけどさ。頼みがある」
「なによ?」
「なんですか?」
一呼吸置く。
「もし俺が居なくて、フェイトが一人でも大丈夫だ。そう思えたなら、フェイトに伝えておいてほしい」
「――――――――ってさ」
* * *
アリサ達が歩いていくのを見ながら、一人呟く。
「早まったかな……?いや、でもあいつらなら信用できる」
これで一つの懸念事項は消えた。まだまだ問題は山積みだけど、少しは肩の荷も降りたかなと思う。
でも俺が抱えた問題は一つも解決していない。それどころか荷物はどんどん増えるばかりだ。
とくに……時空管理局の勧誘、あれが厄介だ。
今まではクロノとリンディだけだった勧誘が、エイミィ、なのは、その他大勢の管理局員にまで幅広く行われている。
頼りにしてくれているのは、少しうれしく感じるものの、同時に鬱陶しく感じる。
闇の書の件で力は貸さない。そう決めたはずだった。でも事情が変わって結局力を貸してしまった。勧誘が増えた原因でもあるんだろう。
「……頃合いかもな。もう――」
その考えが勘違いであることを、伝える時が、きっと近づいている、そう感じた。
以上最終話でした。
あとは無印編でもあった、キャラ紹介をやってから次の話しへと移るって感じです。
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Last Day Epilogue