No.514272 リリカルなのは×デビルサバイバー As編bladeさん 2012-12-02 11:35:25 投稿 / 全2ページ 総閲覧数:1477 閲覧ユーザー数:1442 |
「話は纏まったな……それで、準備はいいか? カイト」
デバイスを構え、クロノは言う。
「あぁ、いつでもいいぞ」
カイトはセイリュウの背の上で答える。
カイトの返事に気を良くしたのか、クロノは満足そうに頷き、その表情を真面目なものへと変えると、クロノは防衛システムへと眼を移した。
十四歳という若さで執務官となったのだから、頭の切り替えの速さも相当なものなのだろう。普通、十四歳と言われ思いつく顔の表情と、クロノの表情は同じものとは全く思えない。例えるならば、戦時中に徴兵された少年。それがクロノといったとこか。
それほどまでに、彼の表情は真っ直ぐなものだった。そう、怖いくらいに。
次にはやて。初の実戦といっていいはずなのに、クロノとは真逆で、彼女の表情はとても安らいだものだ。その原因は、彼女の近くに居る守護騎士たちと、リインフォースに対する信頼から来るものだろう。どんなに怖くても、皆と一緒なら大丈夫。そう、信じているとおもわれる。
シグナム達もまた、真剣な表情をしているものの、はやてと同じくどこか安心した笑みを浮べている。勿論視線は防衛システムへと向けられており、戦闘態勢はくずさない。
では、リインフォースはどうか? そう思いカイトが彼女へと視線を向けると、丁度視線が交わった。
「どうした?」
「いや、なんでもない。体調の確認をしてただけだ」
はぐらかすようにカイトが言う。
リインフォースは眉を潜めたが、すぐに表情を穏やかなものへと変えた。
「しかし……すごいものだな」
「ん?」
「この歌だ。まるで広がるかのように、音が広がっている」
「あぁ、そうだね」
こうして話している間にも、アヤの歌はどんどん広がっている。
マイクという道具を使用しているのだから、歌声が広範囲に広がるのは当然のことだ。しかしだ、それにしたってアヤの声は大きく感じる。
「普通はこれほどの質量の声は出ないと思うのだが……」
「それをすることができるのが、この歌声の主の力量ってことだと思う。誰もが出来るわけじゃないさ」
「そうかもしれないな。少なくとも……」
「「俺じゃ(私では)できないな」」
二人共、声を揃えて言った。
「それにしてもこの詩。何処かで聞いたような……?」
「……え?」
「いや、なんでもない。今はそれよりも……」
「わかってる。あれを何とかしないとな」
彼等の視線の先にあるもの。それは当然、闇の書の……否。夜天の書の防衛システムだ。
アヤの歌の効果で、悪霊たちが弱まっているというか、まるで戸惑っているかのように見える。
とある霊は、そわそわして不規則な動きで動き回っている。またある霊は、そのもとより半透明なその体を更に薄くしている。
「成仏しかけてる……?」
「あの歌が原因なのか?」
「だとしてもそれは……」
おかしい。
それが二人が出した答だった。
確かにアヤの歌には力がある。だがそれは、この世に何百年も残り、悪霊となってまで残る者たちの心を癒すほどではない。だというのに、確かにアヤの歌は、その力を十二分に発揮している。
「(わからないな……)」
カイトはヘッドホンを付け直しながら思う。
「(考えた所で答えは出ない、か)」
そう結論づけたところで、彼を呼ぶ声が後ろから聞こえた。
「頼むぞ悪魔使い」
声の主は仮面の男だった。
黒いスーツに身を包み、顔を隠すかのように、白いマスクを付けているその男は、怪しい風貌を漂わせている。
「任せろ。情けない姿はもう、晒さないって決めたんだ。ここで決着はつける」
ほぉ……っと、どこか満足したような声を仮面の男は出した。
「では、行こうか。現世に渦巻く霊たちを弔うため……。率いては暴走せし防衛システムを無に帰するために……」
男とカイトは、防衛システムへと目を向ける。
二人の目は、先ほどまでのおどけたものとは違う、鋭く、他者を射抜く眼を……男の目をしている。
「あぁ! さっさと片付ける、過去の遺物に何時までも引きずられるのは、もう懲り懲りなんだ……!!」
過去の遺物。それに振り回されているのは、はやてたちだけじゃない。それを知っているからこそ、カイトはその想いの丈を込め、叫ぶ……!
「行くぞッ!!」
――「もちろんや!(あぁ!!)(おうッ!!)(うんっ!)」――
それぞれの返事を聞いて、カイトは笑みを浮かべて頷いた。そして、その手に持つCOMPを強く、強く握りしめた。
* * *
ある程度近づくと、防衛システムは敵であるカイトたちを迎撃するために、その黒い触手で攻撃を仕掛ける。それと同時に霊たちに攻撃をさせる。……
先程までと変わらぬ攻撃方法を取ってきた。
だが、違うところが一つだけある。
「……突破出来るっ、セイリュウ!!」
「承知ッ」
数多に存在する霊たち、しかしその防衛網の穴をつき、カイトとセイリュウは前進する。
「みんな! 私らもや!」
はやての掛け声とともに、シグナムたち守護騎士も彼女の前を、横を後ろを守るような前へと突き進んでいく。
そう、前回と今回で違うこと。それは、霊たちの統率がとれていないことにほかならない。
だがそれでも、防衛システムの意のままに、攻撃を仕掛けてくる霊たちもまた存在する。
「セイリュウ、"なぎ払い"!」
「ムゥゥゥンン!!」
その長く、強靭な尾から繰り出される一撃は霊を薙ぎ払い、倒すのには十分なものだった。
けれど、防衛システムの攻撃はそれだけではない。
「――――!!!!」
声にもならない叫びが、カイトたちの耳に届く。
どこか悲しそうな、そんな声が。
「マハブフ!」
「なぎ、払いっ!」
触手を凍りつかせ、凍った触手をセイリュウの尾で薙ぎ払う。
その際、身体を振り回したことで発生した遠心力により、カイトが落ちかける。
「サマナーッ」
「問題は、ないっ!」
セイリュウの鱗を掴み、なんとか復帰する。
「……そろそろ限界、だよなぁ」
「サマナー?」
「いや、なんでもない。今はともかく先に」
会話はそこで終わりを告げた。何が起こった訳ではない。ただ、カイト自身が舌を噛まないために、口を閉じただけだ。
カイトを守るようにして、彼に危害を加える触手に青い閃光と、矢が攻撃を加える。青い光が当たったとき凍ったことからもそれが氷結魔法であると分かる。
「(これなら……いけるはずだっ!)」
後ろを守ってくれているその安心感に身を委ねながら、カイトとセイリュウは空を翔ける。
そして……。
霊と触手による防衛網を――突破した。
* * *
「執務官、後方からくるぞ。回避を」
「あぁっ!」
霊たちを見ることの出来ない、魔導師たちに私は指示を飛ばす。
やれやれ……。指揮官のような立場は私には合わないはずなのだが、今回の件に関しては仕方がない。あの二人の少女を戦場に出すわけにもいかないだろうしな。
おっと、次は夜天の主か。
「夜天の主、右に少し移動だ」
「了解や!」
怪しい外見をした私の言うことを疑いもせず、夜天の主は回避行動を取る。全く、純粋なのか馬鹿なのか……いや、案外両方かもしれないな。
けれど、嫌いではない。むしろ好ましいと言える。
だが……。これから訪れる、彼女の運命は決して優しいものではないことを、私は知っている。何故なら……。
「っと、そろそろ辿り着いたようだな」
龍の背に乗る少年。黒い服に、白いヘッドホンが特徴の少年。この世界でただひとり、悪魔を操ることが許可された少年。
彼にこれから訪れる運命もまた、過酷なものだ。
だがそれでも……彼には前に進んでもらわなければならない。
この程度の障害は、片手で振り払える程の強さをもって。
でなければ……。
「私の計画は成し得ない……」
どうやら彼は防衛システムへの攻撃範囲内へと移動できたようだ。
さぁ、見せてくれ。
「ベル・イアル。天上の業火とも言われる、その聖なる邪炎。その力を……!」
私は、思わず零れそうになるほどの笑みを隠しながら、言うのだった。
*** ***
思えば、この防衛システムも一つの被害者なのだろう。
セイリュウの背の上で、ふと思った。
これを作った者も、こうなることを望んだわけじゃないと、俺はそう思う。けれど、こうなってしまったのは事実で――だから、同情はしない。
大きく息を吸って、吐く。
暴走した形ではあったけど、ベルの炎は一度使っている。けれど、強大な力を使うのだから慎重になっておいて損はない。
集中する。自身の中に眠る、ベルの力に触れようとする。
不死の力、炎の力、寄生、繁殖、そしてベルの中核たる力。今この中で使用できるのは、炎と繁殖。俺はその内の紅き炎のちからに触れようとする。
『……もう、大丈夫のようだな?』
低く、重圧を感じる声が俺の頭の中に響く。
「さっきも言ったとおりだ。もう無様な戦いはしない」
『ならば、いい。覚えておけ我らが王よ、汝がどう思おうとも、力は力であり、汝は人のベルの王。それを忘れる事なかれ……』
「肝に命じておく。だから、今は力を貸してもらう」
『そうではない』
咎めるように、ベルが言う。
『"貸してもらう"。ではない。汝が思う通り、我らが力を振るえ。我らが力は汝が力だ……そこに許可は必要ない』
「……あぁ、そうだな。では、存分に振るわせてもらう!!」
双眸を見開く。
体の芯が熱い、これは初めてベルの炎を振るったときと同じ感覚のものだ。
手を前に出す。ただそれだけで体の熱が腕へと移動していくのがわかる。
そして、放つ。
「古き街、ソドムとゴモラを滅ぼせし聖なる邪炎よ! 我が眼前の敵を滅ぼせ! 受けよっ、ソドムの葬火ッ!」
ソドムの葬火により発生した炎が、防衛システムを包み込む。
「魯疋ぅ腸颪験慍福● ▼ こず澆砲爾劵▲疋丱ぅ垢髻▼ッッッ――!!!!」
声にならない、叫び声が辺りに響く。
「くぅぅぅっっ……!」
それはまるでマンドラゴラの叫び声のように思え、その場に居る者たちの鼓膜にダイレクトアタックをした。
正直鼓膜が破れないのが不思議なくらいだ。
「天音カイト! ソドムの葬火と、歌姫の歌で霊たちの拘束が弱まっている今がチャンスだ! 霊たちに呼びかけろっ! そして、キミの"言葉"で教えてやるんだ、皆の帰るべき場所へ!」
仮面の男の言葉をなんとか聞き、頷いた。
言葉には力がある、それを俺は知っている。歌姫であるハルとアヤさん。悪魔を呼び、誰かと誰かをつなげる力を持つ者たち。それと同じ力を俺が持ってるとは思えないけど、やらないよりやったほうがいい。
だから今は、言葉を紡ごう。そして、霊たちに声を掛けたとき、異変は起きた。
一人の女性の霊が、俺に近づいてきて、ニコッと笑みを浮かべた。
それは本当に綺麗な笑みだと思えた。だから驚いて、声をだすのを忘れてしまった。
それから俺の周りをグルグルと回ったあと、何か言いたいのかまごまごと、唇を動かすが声を発することが出来ないようだ。
その後何か考えるような仕草をしてから、ゆっくりと唇で言葉を作り始めた。
読唇術なんて俺には出来ないけど、それでもゆっくりと形作られていくその過程を見て、なんて言おうとしているのか分かった。
あ、り、が、と、う。
その五文字の言葉を形作ったあと、女性の霊は消えていった。
どこか満足そうに、どこか嬉しそうに。
光りに包まれて消えていくその姿を、俺はただ見守っていた。
とても長く感じるようなその時間から引き戻したのは、俺の足元にいるセイリュウだった。
「サマナー! 見よ、霊たちの様子が……!」
ぼーっとしていた頭を、頬を数度叩くことによって、切り替える。そして、眼前の広がる異変をただ見る。
「これって……?」
全てではないけど、多くの霊たちが女性の霊と同じように、光りに包まれてきえていく。
ある霊は俺の方を見て満足そうに。ある霊は隣の霊に呼びかけ、共に消えて行く。
そうしていく内に、無数に存在していた怨霊は、普通の霊となり消える……いや、成仏していくといった方が正しいかもしれない。
「何が起きてるんや……?」
いつもとは違い、白髪の髪を持つはやてが俺の隣に来た。
霊たちを見ることが出来ないため、現状の把握ができていないんだと思う。
「なんでここに来た? 危ないだろ」
俺がそう言うと、はやては視線を仮面の男へと向けた。
「あの人がもう大丈夫だから、カイトのところへ行くといい。って、言ってたんよ」
「あいつ……」
一体何処まで知っているのだろう。
仮面の男へと視線を向ける。
仮面に隠れていて、その表情をうかがい知ることは出来ない。
何から何まで、あいつの掌の上で踊っていた気がする。……いや、もしかしたら今もまだ踊っているのかもしれない。
そうだとしたら、メチャクチャ癪に障る。同じように俺を操ろうしていた、ナオヤを思い出すから。
けど、今は許してやる。
あいつが居なければ、今回の事件をどうにかするのは難しかったと思う。それで、チャラにしてやろう。
「なぁ、カイト」
クロノが声をかけてきた。
何時もの自信満々なクロノに比べると、今の声はどこか不安定に感じた。
「なんだ?」
けど、それを隠そうとしているのを何となくだけど分かった。強がりたいと思う気持ちは、折れも男だから共感できる。
「……管理局の制服を着た人たちはいないか?」
「管理局?」
そう言われて一つ思い出した。闇の書に殺された者の中には、管理局員たちがいて、クロノの父親もまたその内の一人だ。
もし霊になる条件が、闇の書に殺されたではなく、その周囲で死んだものであるとしたら……。彼の父親もここに居るかもしれない。
「ちょっと待っててくれ」
目を凝らすように、霊たちを見る。
しかし、なにぶん霊たちは数多く居るため、判別することが難しい……。いや、前言撤回だ。何処か古い洋画に出てきそうな服を来ている霊たちの中に、現代人のようなスーツを着ている人間が居る。恐らくはそのスーツを着ている人たちが、管理局の人たちだ。
そしてその中の一人と、目が合う。
『…………』
その人は、こちらに向けて敬礼をしている。
その後、後ろに居た霊の肩を叩きこちらを指さす。そして、こちらを見たその霊の顔を見て俺は驚いた。
「(……クロノ?)」
クロノと同じ髪を持つ中年の男性。その男性が俺の方を見ると、驚いた顔をして……次に満足そうな表情を浮かべた。
「どうした? 居たのか?」
居たと、俺は答えた。
次に、お前に似てる男性が居るとも伝えた。
「……本当、なのか?」
「うん」
「そうか……そうか!」
嬉しそうに表情を隠さず、クロノは言う。
いつもよりも子供っぽい……いや、歳相応なクロノを見て、少し羨ましく思う。俺にはもう、両親というものはきっといないから。
『…………』
いつの間にここに来たのか、クロノの父親(と、思う)男性は、クロノを優しそうな眼で、どこか悲しそうに、けれど満足そうに見たあと、頭を撫でた。
「うわっ!?」
見ることはできなくても、感触はあるのかいきなり頭を撫でられて驚いている。
反射的に頭に触れている物を払おうとするクロノの腕を、俺は掴んで止めた。
そして、俺の方を見たクロノに首を横に振って、やめるように伝える。
「……あ、そういうことか」
俺の意図に気づいたのか、クロノは抵抗するのを止めた。俺は腕を離すと少し離れるようにセイリュウに言う。
「……カイトくん」
「父親との最後の別れだ。そっとしておいた方がいい」
「うん、そやね……私にも見えないけど、何をお父さんがしてるのかは、分かるつもりや」
はやてを見ると、どこか羨ましそうにクロノを見ていた。そういえば彼女も両親を事故で亡くしている。最後の別れも言えないまま死別した両親を思い返しているのかもしれない。
「はやて……」
そんな彼女を心配して、ヴィータたち守護騎士たちがはやてを囲む。
「うん、大丈夫や……」
そう言うとはやては、防衛システムを見た。
「もう、こないな悲しい思いは絶対させへん。霊たちが成仏してるんなら、バリアも貼れへんはずや! 闇の書の闇を、これで断ち切る!」
グッ! と、はやては小さな手で握りこぶしを作り、それに呼応するように、守護騎士たちもまたそれぞれのデバイスを構えた。
「……想像以上の結果だった」
仮面の男もまた、こちらへと来ていた。
この男もまた魔導師でないのか、自身の力で飛ばず、形の悪いゴーレムの背に乗っていた。
「もはやあれはただの木偶でしかない。今の戦力であれば、十分打ち滅ぼすことが出来るはずさ」
この男の言うとおり、確かにあの防衛システムからは、先ほどまでの力や重圧を感じない。
アヤさんの歌の力ももはや必要ないと感じるほど、防衛システムは弱まっているといっていい。
なら、反撃の狼煙を上げるタイミングはここしかないっ。
のだが、クロノのことを考えると少し……。
「気にするな」
クロノ俺達の方へと来ていた。
見ると、クライドさんは満足そうな表情を浮かべて、光りに包まれ消えていくところだった。
「父さんはもう死んでるんだ。なのに、こうして頭を撫でてもらえた……僕は幸せものだよ。」
「なるほど、そういう考え方もあるか」
「あぁ、それに父さんたちをもう眠らせてやりたい」
そうは言うものの、クロノの眼は少し潤んでいる。
執務官とはいえ、所詮は十四歳の子供なんだ。父親との別れは辛いに決まっている。それが、二回目の別れともなればなおさらだ。
「じゃぁ……終わらせよう」
俺がCOMPを構えると同時に、クロノやはやてたちもまたデバイスを構えた。
終わらせる。そう言った以上、俺が召喚できる悪魔の中で最も実力のあるやつを、召喚しなきゃな……!
「セイリュウ」
「……分かった。私の役目はここまでのようだ」
「うん、ありがとう……。送還」
セイリュウが送還の光に包まれていく。
しかし、セイリュウが送還されるということは、トドのつまり、俺が空を飛ぶ手段がなくなるわけで……
「カイトくん!?」
「カイト!」
驚きの声を上げるはやてとクロノ。
その表情をみてから、COMPを操作し今召喚できる空をとぶことが出来、かなりの戦力である、あいつを召喚する。
「ガルーダ!」
召喚の黒い穴からそれとは真逆の、綺麗な羽根を持つ、人型の鳥が現れる。
"ガルダ"とも呼ばれる、神鳥が今ここに姿を現した。
「……久しいな、サマナー」
と、挨拶をするガルーダの目の前を俺は通りすぎていく。
何処にって? 勿論、上から下に決まっている。なにせ絶賛落下中なんだから。
「ガルーダー!」
「……む」
落下していく俺に気づき、さすがは神の鳥と賞賛に値する速さで俺に追いつき足を掴んだ。
「ふぅ……助かった」
「中々に面白い趣味をしているな?」
「んなわけねーだろ。さっきまでセイリュウの背中に乗ってたんだ」
ガルーダは"成る程"と言った後、周りを見渡し防衛システムに目を留めた。
「あれが今回の敵と」
「そういうこと。というわけで、俺を掴んでいるか、それとも背に乗せてくれるかしてくれるとありがたい」
ガルーダは黙って、俺をその背に乗せた。それと時を同じくして、はやてたちが俺とガルーダの所まで来ていた。
「大丈夫か!」
「ん、問題ない」
クロノに返事をする。事実掴まれた足が少し痛いぐらいであとは問題ない。
「俺のことなんて今はどうでもいいだろ? それよりも、終わらせよう」
霊たちの守護もなく、ただ弱り切った姿を晒す防衛システムがそこにいた。
それでも尚抗おうと、触手を弱々しく振り回すその様は生きようとする生命そのものだ。
けれど、俺たちはその命をを絶たなくてはならない。
「行こう」
皆が頷いた。
けれど、戦いを始めたときの様子とは違い、何処か戸惑った様子を見せたのは、あの防衛システムを見たからだろうか。
だからといって、手を緩めるわけにはいかない。
それぞれが所定の位置……というか、適当に防衛システムを囲む。
「ガルーダ」
「分かっている。我が全身全霊、最大の火力において、汝が敵を滅ぼそう」
「頼んだ」
そのとき、強い光が上がる。それは準備が出来たという合図だ。この光が収まってから、十秒後最大火力を叩き込むという作戦……とも言えないような、脳筋法だ。
そして数秒後……先程の光とは比べほどにならないほどの光があたりを包むのだった。
* * *
「これは凄まじいわね……」
リンディが独り言のように言う。
防衛システムに叩きこまれた一撃を見ての発言だ。
「計測結果は?」
「……すごいですよこれ、多分ですけどあのガルーダって悪魔の魔法の威力だけでもかなりのもんです。もしかしたら、アルカンシェルを超えているかもしれません」
「それはまた……」
「それだけではないです。ソドムの葬火、ですか? あれの熱量も半端ないです。マジやばいです」
混乱しているのか、管理局員の発言がおかしくなっている。
落ち着きなさい。とリンディは咎めた後に改めて資料を見る。
「……勿体無いわね~、やっぱり」
誰にも聞こえないように、リンディは言った。
それと同じとき、なのはとフェイトは寄り添って防衛システムが消滅するその様子をモニターを見ていた。
「倒し、たんだ……」
「うん、そうみたいだね」
どこか落ち込んだような、そんな暗い声でフェイトは言う。
そして、その原因を知っているからこそ、なのははフェイトの前で無闇に喜ぶことはできない。
だからこそ、もやもやした気持ちを彼女は抱いた。
「(なんで……)」
視線をモニターに映っている――はやてたちと勝利を分かち合っている、一人の少年に向ける。
「(なんで、フェイトちゃんとフェイトちゃんのお母さんは助けてくれなかったの?)」
そう思いつつ、フェイトを安心させるためになのはは彼女の手を強く握り締める。
「…………(ありがとう、なのは)」
そしてフェイトもそれに答えるように、握りしめ返すのだった。
エピローグは少し時間を置いてから投稿しますね。多分十五時ぐらいになるかと
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13rdDay Song of Ghost
何時もの二倍ぐらいの長さです。As編最終話ともなるとこうなるのは仕方ないね。
三人称視点から一人称視点に変更している部分があります。主に戦闘部分がそこに当てはまります。ご了承ください。