まえがき コメントありがとうございます。今回は馬姉妹こと、翠とたんぽぽにその兄、蒼がメイン?です。馬騰さんはまたの機会ですね。さてさて、もう12月に差し掛かりました。最近は布団が恋しくなってきた今日この頃です。それではごゆっくりしていってください。
「・・・蒼兄がそっちにいるっていうのは本当なのか?」
「う、うん。」
俺が二人に蒼のことを教えて早三分。妹さんの方はしばらく固まっていたけど、お姉さんの方、馬超さんかな。彼女はいち早く復活し俺に疑問をぶつけてきた。
「お、お姉様。どうする?蒼兄様が向こうにいるのはたんぽぽたち、連合側にいるのはまずくない?」
「そ、そうだけど、向こうにいる董卓ってやつは洛陽で暴政を働いてるんだろ。」
「そんなんな・・・。」
「霞!」
「なんや!言い放題言わせとっていいんか!?」
「今はどうにか堪えて。俺に考えがあるから。」
「くっ・・・しゃあない。今は一刀に従ったる。」
「ありがとう。」
俺は霞にお礼を言うと馬姉妹二人に視線を向けた。
「さて、どうする?これで数的には互角。このまま戦ってもいいけど。」
「勿論戦うに決まっている!馬家の人間が敵を前に後退するなんてことは絶対にない!」
「そんな!それだとたんぽぽも脳筋みたいに思われるじゃない!」
「なんや、そこのおちびは結構利口やな。うちとやっとって互角だったんや。それに一刀が加われば正直あんたらに勝機はあらへん。後退するんは今のうちやで?」
霞がにやにやしながら彼女たちに言葉を放った。あー、挑発してるよ。こんなのに乗るわけな・・・
「むきーーー!お姉様!たんぽぽ、この女の人とやる!絶対、痛い目に遭わせてやるんだからー!」
・・・乗っちゃったよ。
「その意気だ、たんぽぽ!」
そこはおさめなきゃいけないとこだと思うんだけど・・・姉妹だし、やっぱり似てるな。
「たんぽぽ、あの女の人とやる!」
「よし、じゃあ私はあの男とだ!」
やっぱりこうなるのか・・・。予想どうりにいったことに軽く溜息が漏れる。
「向こうはあぁ言ってるけど、霞はそれでいい?」
「うちは正直、あっちの馬超とやりたいんやけどなぁ。せやけど、あのチビッ子もそこそこやれそうやし、今日は我慢したる。」
「了解。」
「それならそこのチビッ子!はよ来んかい!来んのならこっちから行くで!」
「もう!どっちも脳筋なんだから!あんたなんてたんぽぽがボコボコにするんだからね!謝っても許してやらないもん!」
「そんな大口叩いとったら後で泣きづら掻いても知らんでぇ!」
どちらが先か、というよりほぼ同時に二人が動いた。
「よそ見してる暇があったらすぐに私に首を撥ねられることになるぜ!」
「大丈夫。こっちも警戒してたから。」
俺が二人を見ている間に馬超さんが俺に突撃してきた。勿論警戒はしていたから一撃はもらっていないけど、一撃が重い。けど、恋と模擬戦したこともあって退くまでもはなかった。
「私が勝ったら蒼兄の居場所、教えてもらうからな!」
「うーん、どうもしなくても後で教えるつもりではあったんだけどね。」
「なっ!?お前馬鹿か!私は敵だぞ!?それを教えてもお前に特はないだろ!」
「そこらへんはあんまり気にしないけど、蒼には得があるからね。仲間の得は俺の得だから。」
「・・・変な奴。」
そう言いながらも俺と鍔迫り合いをしている。なかなか手強い。流石はあの錦馬超だ。正史では蜀の五虎将軍を努めたほどの豪傑。・・・?ということは、将来的に俺たちの仲間になってくれるのかな?
・・・
「霞、そろそろ引き時だ。関に戻ろう。」
俺たちが槍を交えて二刻が過ぎたところで霞に撤退を指示した。
「なんや、そろそろうちの勝利で終わるところやのに。」
「俺たちは勝つことだが目的じゃない。月たちのところまで連合軍を向かわせないことだ。そろそろ日も落ちる。それなら夜襲に備えて今のうちに虎牢関に戻っておいたほうが得策だと思うよ。」
「うーん。しゃあない。チビッ子、命拾いしたんや。ありがたく思うんやな。」
「はぁ、はぁ、こ、今度こそ、ぎゃふんと言わせてやるんだから!」
「そないなことなら何回でも言うたるわ。ぎゃふんぎゃふん。これでええか?」
霞がぎゃふんとニヤニヤ顔で女の子に言っている。まったく、霞も意地悪だなー。言われた女の子は悔しそうに地団駄を踏んでいた。
「ムキーーーーー!悔しーーーーー!!!」
「おい、簡単に逃げられると思っているのか?私は全然動けるぞ?」
「大丈夫。もうすぐ抑止力が到着するところだから。貂蝉ーーーー。」
・・・
「むっ!この声は!ご主人様が私を呼んでいるわん♪」
「戦い中によそ見をするとは私も舐められたものだ。」
「ぜぇ、ぜぇ、な、凪・・・そろそろ退かんと、うちらの体力が、持たん・・・。」
「紗和も、真桜ちゃんに、賛成なのーーー・・・。」
「敵は一人だぞ!何を尻ごんでいる!?」
「取り込んでいるところ悪いけど、ご主人様に呼ばれているから行くわねん♪今の私なら光の速さも超えられるかもーーー!!!ぶるぁぁぁあああああ!!!!!」
「おい!待て!!」
「・・・行ってもうた。」
「た、助かったの・・・。」
あの怪物、今度こそ私の手で倒してやる!
・・・
「ご主人様ーーーーーー!!!!!」
「お、来た来た。」
背後からドドドと爆音と共に貂蝉が砂煙を巻き上げながらこちらに向かってきた。相変わらず凄いスピード。軽く現代ならオリンピックも余裕なんじゃないか?
「な、化物!?」
「だぁれが砂漠から現れた!蠍もびっくり!人外化物の襲来!ですってぇ!?」
「そこまで言ってない!」
「お、お姉様。たんぽぽ、あんなの相手にしたくないよー・・・。」
「それでご主人様、私を呼んだ要件は何かしら?もしかして、逢引・・・」
「いや、それはないから。絶対に。」
「・・・相変わらずえらい形相やな。いや、今に始まったことやなかったな。」
「貂蝉は俺たちが虎牢関に戻るまでこの二人の相手をしていて欲しいの。お願いできる?」
「ご主人様の頼みならなんでも聞いちゃうわ~♪例え火の中水の中、ご主人様のお尻の中でもイケちゃうわよん!」
「・・・!?」
うわ、一瞬にして鳥肌が立った。い、今のは聞かなかったことにしよう。うん。
「じゃ、じゃあお願いね。霞、行こう。」
「あ、あぁ。貂蝉、任せたで!」
「大船に乗った気持ちでいいわよん。」
俺たちは三人の姿を背後に感じながら虎牢関までの道のりを戻っていった。
・・・
「さて、どっちが私の相手をしてくれるのかしら?」
「た、たんぽぽ。今回は一度本陣まで戻ったほうがいいな。」
「う、うん。」
ご主人様たちが戻ってからすぐにあの子たちも連合側の本陣に戻っていったわ。うーん、手応えがないわね~。さて、敵兵を片付けながら私も関まで戻りましょうかね。
・・・
「秋蘭!春蘭はどこ!?」
「姉上は今天幕で休憩しています。今はそっとしておいたほうがいいかと・・・。」
「あの子が大怪我をしているという情報は知っているのよ!私は行くわ!」
私は秋蘭の静止を聞かずに自軍の天幕に向かった。春蘭!待っていなさい!
「春蘭!」
「・・・っ!か、華琳様・・・。」
春蘭は片目を眼帯越しに押さえている。伝令からの情報は本当だったのね・・・半分信じたくなかった自分がいるだけに衝撃が大きいわ。
「春蘭、命令よ。その眼帯を取りなさい。」
「い、いけません!このような醜い姿、華琳様にお見せするわけにはいきません。」
「命令よ。取りなさい。」
「・・・はい。」
春蘭の手が眼帯から離れ、眼帯が外され左目が顕になる。
「顔を背けないでこちらに向けなさい。」
「・・・はい。」
私は春蘭を思いっきり抱きしめた。目に矢を受けたなんて尋常な痛みじゃなかったはず。それに耐えて生きてくれていたことが純粋に嬉しい。
「あなたが私に一言も無しに死ぬなんてことは許されないことよ。あなたが死んでいいのはこの曹操孟徳が覇王になって天命を終えてから。それまでに死んだら・・・許さないんから。」
「はい。この夏侯元譲、一生華琳様のお側にいます。」
・・・
「水蓮様、只今戻りました。」
「ああ、お帰り。虎牢関の様子はどうだった?」
「妙な大男が一人、軍師が二人、向こうの主格の劉備です。」
「ほう。最近平原の相に任命されたとかいうあの小娘か。そういえば相にはもう一人任命されたものがおったな。誰だったかの?」
「それは北郷一刀。天の御使いと呼ばれているらしいわ。」
「明命、お疲れ様。」
おや、指揮に回っていた冥琳と前線に出ていたはずの愛璃がこちらにやってきた。
「二人とも来たら指揮官がいなくなるのではないか?」
「指揮官は穏に任せていますので大丈夫です。」
「そうか。ところで、愛璃はなぜその天の御使いのことを知っているのだ?」
「先程まで一刀と戦っていたの。不覚にも負けてしまったわ。」
その発言に明命が衝撃を顔受けた顔をしている。水蓮様はどこか興味を持っているような感じだ。
「私では歯が立たないわ。おそらく水蓮様、雪蓮様も勝てはしないでしょう。」
「それほどの英傑の情報が出回っていないというのもおかしなものだな。」
「それは確かに不思議に思いますね。何か訳があるとは思うのですが。」
「愛璃、戻ってきたときにすごく嬉しそうな顔をしていたな。もしや、惚れたのか?」
「ふふ、そうかもね。」
「ほう、愛璃が惚れるほどか。それは興味があるな。一度会ってみたいものだ。」
「愛璃様、亡くなられた先王が泣きますよ?」
「あやつは私より弱かったからな。一度は私より強い男と会ってみたいのだ。」
「・・・。」
「御使い様って凄いんですねー。」
・・・
俺と霞は急ぎ足で虎牢関に戻った。関には愛紗や恋など、前線に出ていた子たちもすでに戻ってきていた。
「ご主人様!お帰りなさい!」
「ただいま、桃香。敵は来なかった?」
「私は見てないんだけど、卑弥呼さんが偵察の人が私たちの話を聞いてたって言ってたよ。」
偵察が来ていた?それに気付いて見逃したのは何でだ?
「なんで見逃したのか聞かせてくれる?」
「あの場で屠ることもできたんじゃがの。そうした場合、あちらは弔い合戦と称して決死の覚悟でこちらにとつげきしてくるじゃろう。そうしたら我らに少なからず危機に陥るのは目に見えとる。死を覚悟したものほど恐ろしいものはないからの。」
なるほど。卑弥呼にも考えはあったんだな。とりあえず、みんなの無事な姿を見て安心した。よかった・・・。
「そうだ。清羅、ちょっといいかな?」
「はい。何ですか?」
「今夜さ、蒼と一緒について来てほしいところがあるんだけど、時間作れるかな?」
「私は構いませんよ。蒼には私から伝えておきますので。」
「うん、お願い。」
清羅が蒼を探しに行ったのを確認すると、俺は早速、連合側の人たちのとこまで早馬を送った。あの中の何人かには伝えておかないといけないことがあるからな。さて、指定した場所に何人集まってくれるだろうか・・・。
・・・
「華琳様、あの天の御使いから早馬が届きました。」
「? あの御使いから?」
今は敵対関係なのよ。何か裏があるのは間違いないと思うけど、届いたからには目を通さないといけないわね。
「見せなさい。」
「はい。」
伝えなければいけないことがある。今夜、連合本陣から少し離れた荒野に来てください。
「伝えなければいけないこと、ねぇ。」
「どういたしますか?」
「私は行くわよ。あの御使いが何も考えなしにこのようなことをするとは思えない。それに、この連合が麗羽の妬みや羨望、そのあたりから発足されたものと分かっているもの。この機会にはっきりさせておくのは良いことだわ。」
「分かりました。護衛はつけますか?」
「秋蘭をつけるわ。彼女を私のもとに来るように伝えてちょうだい。」
「御意。」
・・・
「水蓮様、天の御使いという者から早馬が届きました。」
「噂をすればなんとやらだな。見せろ。」
「はっ!こちらになります。」
伝えなければならないこと、か。もしも、愛璃の言っていた通りの者なら何かある。戦っている私たちに伝えなければいけないこと。興味があるわね。
「冥琳、これをどう見る?」
「私はその御使いとやらに会ったことはないので詳しくは分かりませんが、あの愛璃様が言っていたほどの英傑なら裏があると取っていいでしょう。恐らく、他の諸侯にもこれは届けられているでしょうから、行っておいたほうが良いと思います。」
「そうか。愛璃はどうだ?」
「是非とも向かったほうが良いです。あの子の考えなら我らにも得があるはずなので。」
「ほう。お前たち二人がそう言うのなら向かうしかないな。では、護衛に冥琳、愛璃、思春をつける。誰かおるか!」
「はっ!」
「思春をここに連れて参れ。護衛の任を与えると伝えろ。」
「御意。」
それにしても天の御使いか。あれは菅輅のでまかせかと思っておったが本当であったのだな。それならばあの予言、彼の者は戦乱の世を収め人々を導く。これも現実になるのだろうか・・・。行く末を知るは天命のみだな。
「母様、何気難しい顔しているの?らしくないわよ。」
「? 雪蓮か。私にだって考え事くらいあるさ。」
「大方、さっき話してた御使いのことなんでしょ。」
「聞いていたのか。」
「たまたま耳に入ってきただけよ。それよりも~♪」
雪蓮がニタニタ顔で私の顔を覗き込んでくる。まったく、この子は昔からだけど面白そうなことにはすぐに首を突っ込むんだから・・・。誰に似たのかしら?
「聞かんでも分かる。どうせついて行くと言いたいのだろう。というか、来るなと行ってもお前のことだ。こっそりつけて来るに決まっている。」
「流石母様♪」
「何年あんたの母親をしていると思っているんだ。」
「ふふ、それもそうね。」
・・・
「馬超様!天の御使いより早馬が届きました!」
「あぁ?さっき一戦交えたばかりだろう・・・。」
「姉様、もしかしたら蒼兄様と会えるかもしれないよ。」
「ぐ、ぐぬぬ。行くよ!それに、やられっぱなしってわけにもいかないしな!」
「姉様、分かっているとは思うけど、戦いに行くんじゃないからね?」
「そ、そのくらい分かってるぞ!」
姉様、絶対戦いに行くつもりだったよ・・・。はぁ、先が思いやられる。
・・・
「兄貴、姐さんに聞いて来たぜ。一体どこに連れて行ってくれるんだ?」
「蒼に会わせたい人たちがいるんだ。きっと驚くと思うよ。」
「? 蒼に縁のある人ですか?」
「うん。とりあえず、ついて来て。向こうが来てくれるかは保証できないけど。」
・・・
「それで、こんなところに呼び出して伝えたいこととは何かしら?しょうもないことなら即、首を落とすわよ。」
「曹操もそんなにカリカリするものではない。とりあえず、話を聞かせてもらおうじゃないか。」
「えーと、来てもらったのは曹操さんに夏侯淵さん、白蓮。それに昼間にあった程普さん、馬超さん、馬岱ちゃん。後は、早馬を出したからあなたが孫堅さんですか。」
風貌で大体察しがついた。曹操さんと同じく人の上に立つ人の気を感じる。
「よく分かったな。私が呉王、孫堅文台。後ろにいるのが娘の孫策伯符。その後ろが護衛の周瑜公瑾に甘寧興覇だ。」
「では、分かっている方もいるとは思いますが改めて。私は北郷一刀です。天の御使いとも呼ばれています。」
俺が自己紹介を終えると孫策さんが俺の目の前に来てじっと見てくる。うー、顔が近い。品定めされてる気分だな。
「へぇ、なかなか良い男じゃない。愛璃も認めているようだし、一度剣を交えてみたいわね。」
「そうですね。機会があれば模擬戦でもやりましょう。」
「・・・。」
「思春、何か思うところがあるようね。」
「いえ、雪蓮様に剣を交えようと言われてすんなり承諾しているところを見るに本物なのかただの考えなしなのかと考えていただけです。」
「おそらく、どちらもよ。」
「雑談はそこらへんにしてくれない?夜は少しでも体を休めたいの。」
「せっかちだな。」
「なんとでもおっしゃい。」
「分かりました。とりあえず、蒼は馬超さんたちと話があるみたいだから向こうで心置きなく話してきていいよ。」
「あ、あぁ。すまねぇ。」
「私も蒼について行って良いでしょうか?一応側にいたほうがいざという時に仲介役になれますし。」
「うん、そうして。まぁ、最初からそのつもりで呼んだんだけどね。」
「分かりました。じゃあ蒼、行きましょう。」
蒼と清羅が少し離れたところに向かったのを確認すると馬姉妹も黙ってそちらに向かっていった。
「では、話す前に曹操さんと孫堅さん、孫策さんに一つ質問に答えてください。」
「いいわよ。」
「同じく。」
「何かしら?」
「今回組まれた反董卓連合について、どう思いますか?」
「何の言い回しもなしに聞いてくるわね。その方が分かりやすくていいけど。そうね、今回の連合は袁紹の独断でしょうね。まぁ、董卓が暴君だろうがそうでなかろうが私たちには呉の宿願を果たさなければならない。だから利用させてもらったわけよ。」
「ふむ。雪蓮に私の言うべき言葉を持って行かれてしまったな。」
「私も大体は孫策たちと同じよ。そして、私が目指すのはこの大陸の統一。どこかの国が収めなくては恒久的な平和などありえない。今回は麗羽が洛陽を落とそうと考えているけど、あそこは私がもらうわ。これも私にとっては長い道のりの一歩に過ぎないもの。」
なるほど。皆、それぞれに果たしたい願いや思いがあるんだな。
「曹操さんのしたいことは大体分かった。あまり納得はできないけど。それはいいとして、孫堅さん、孫策さんは連合に参加した理由は孫呉の宿願って言っていたけど、連合に参加して得られる物って?」
「そこは私が答えよう。」
後ろで控えていた周瑜さんが一歩前に出てきた。うちでもこういう時は朱里や雛里が話すけど、この手のものは軍師の仕事なのかな。
「今私たちが欲しているのは名声だ。軍力だけ見れば他軍には引けをとらないほどのものがある。しかし、私たちの今の立場は袁術の配下になっている。あやつのところから独立でねばしたいことも出来んからな。」
「袁術っていうと袁紹の親戚とかそこらへんの人?」
「なんだ、知らんのか。袁術は袁紹の従姉妹だ。袁家にはどれだけ苦労したことか・・・。」
周瑜さんがはぁ・・・と溜息をついた。どれだけ苦労してるんだろう・・・。戦いなんてなければ手伝いに行けるのにな。
「ということは、名声を手に入れればすぐにでも袁術のとこから独立するの?」
「もちろんだ。」
うーん。ならあれを渡せば呉は独立できる。とりあえず、渡す前に一つ確認させてもらおうかな。これで俺が納得出来なかったら渡すわけにはいかないから。
「孫堅さん、孫策さん、これから私が一つ質問します。答えてください。それによって私が協力できるかどうかが変わります。」
「ほう、私を試すというのか。面白いではないか。」
「そうね。呉王とその娘を試すなんて。いいわよ。言ってちょうだい。」
「あなたたちは、呉に住む民のことをどう思いますか?」
「そのようなことか。民は国にとって最も大切なもの。民なくして我ら王族はなりたたんからな。民がいて、文官、武官がいて、王族がいて初めて国として成り立つ。」
「そうね。戦はしても民を巻き込みたくはないもの。それなりに親しくなった者たちもいるしね♪」
「分かりました。ありがとうございます。」
この人たちなら民を大事にしてくれる。それならこれを渡しても心配はないだろう。
「じゃあ孫堅さん、手を出してください。」
「なんだ?何かくれるのか?」
「えぇ。今の呉にはもっとも役に立つものだと思いますよ。」
俺は孫堅さんに『あるもの』を渡した。
「・・・!お主、正気か!これがどれだけ重要なものか、分かっておるのか!?」
「何々?母様、私にも見せてよ。」
それを見た孫策さんが固まった。多分驚きで。そして三十秒ほど経って我に返った。
「これ、伝国璽じゃない!なんであんたが・・・。」
「伝国璽!?」
「お前!これをどこで手に入れた!もしや盗んだのではあるまいな!?」
甘寧さんが殺気まるだしでおれに近づいてくる。盗んだら渡さないって・・・。
「洛陽の井戸で拾ったんだ。」
「・・・は?」
「ひ、拾った?伝国璽を?」
「うん。井戸の水を飲もうとしたら何か光ってるなーって思って底のほうまで拾いに行ったらありました。いやー、見つけたときは驚きましたよ。」
「・・・。」
「ま、まぁ、伝国璽を拾ったというのは百歩譲って認めよう。しかし、これを我らに渡してお前に何の得がある?」
「民が幸せになる。」
「・・・。」
「孫堅さんたちみたいな人たちが独立して国をまとめて大きくすれば民の生活しやすい世の中にできるし大陸の情勢も良くなると思ったから。私は、誰かが悲しむのを見たくない。その誰かっていうのは王族も、武官も文官も民も変わらない。皆が幸せになれる世の中にしたいから。誰かがじゃいけないんだ。皆そうでないと。だから、もらってください。」
俺は誠心誠意を込めて頭を下げた。
「顔を上げよ。」
「はい。」
「お前の考え、素晴らしい物だ。お前には王の器がある。この孫文台が保証しよう。」
「ありがとうございます。」
「礼を言うのはこちらのほうだ。正直、かなり助かった。」
孫堅さんの顔が綻んだ。それだけのはずなのに、最初に少しだけ感じた威圧感がない。これがこの人の素なんだろうな。
「冥琳、袁紹に早馬を出せ。呉は連合を抜けるとな。愛璃は事情を兵に掻い摘んで説明し、帰国の準備をするように伝えろ。」
「御意。」
「お前・・・いや、北郷。お前に私の真名を授けてやる。」
「え・・・。いや、それはいただけません。私が勝手に呼んでおいてあれを渡しただけなのですから。それで真名をいただくのは正直、気が引けます。」
そう言うと、孫堅さんは豪快に笑い出した。
「あっはっは!北郷は謙虚なやつだな。伝国璽をいただいて独立への一歩を踏み出せるのだ。その礼とでも思っておれば良い。」
「しかし、私は真名も字も持ち合わせておりません。」
「そこは気にせんでいい。とにかく、私がお前に預けたいのだ。民を想う心。あの言葉を聞いて私は思ったのだ。こいつになら真名を預けても良いとな。これだけ言ってもまだ反論するか?」
「いえ。ありません。」
ここまで言われては俺の選択肢に断るという言葉は存在しなかった。
「では。我が姓は孫、名は堅、字は文台。真名は水蓮だ。我が真名、お前に預けよう。」
「北郷一刀。確かに受け取りました、水蓮様。」
「うむ。では私はここで失礼する。雪蓮、行くぞ。」
「はーい。」
水蓮様が踵を返すと何故か孫策さんは俺の方を向いたままだ。何か顔についてるか?
「あなたって不思議な人ね。」
「そうでしょうか。自覚はありません。」
「そうでしょうね。母様も真名を預けたし、私の真名もあなたに預けるわ。」
「え・・・。」
「雪蓮よ。連合の方が一段落したら建業に遊びに来なさい。歓迎するわよ。じゃあね、一刀♪」
「・・・。」
雪蓮はそのまま水蓮様の後を追っていった。・・・真名ってこんな軽いもんじゃないだろうに。
「ところで、洛陽の方はどうなるのかしら?私に譲ってくれるならこちらも連合から退いてあげるわよ。おまけに袁家の馬鹿どもも説得してあげる。どうかしら?」
「流石にそれにはい差し上げますとは言えませんね。」
「あら、どうして?あなたには平原があるじゃない。」
「洛陽には大事な人たちがいるんです。そこを安安と手放すわけにはいきませんので。」
「ふむ、妥当ね。それで、最初の要件の伝えなければならないこととは何なの?」
「董卓は暴政など働いておりません。」
「まぁ、そうでしょうね。麗羽が言い出したことだもの。あれの言葉が正しかったことなんてほとんどないわ。」
「分かっていらしたのですか。」
「当然。私は覇王なのだから。そろそろ戻らないと怪しまれるわね。北郷、明日は出会ったら即あなたの首を取りに行くわよ。」
「お断りします。」
「ふふっ、生意気。秋蘭、本陣に戻るわよ。」
「はっ!北郷、さらばだ。」
「うん、ばいばい。」
・・・
「だから!あの時のお袋の皿を割ったのは謝ったじゃねえか!」
「あの謝り方で母様が許すわけ無いだろ!私から見ていてもあれは心が込もってなかった!」
「あの頑固ババアのせいだ!それから一週間口聞いてもらえなかったんだぞ!?耐えられるかっての!」
「ほらほら、お姉様、落ち着いて!蒼兄様も!」
「馬超さんも蒼も落ち着いてください。」
「外野は黙ってろ!赤の他人のあんたに止められる筋合いはない!」
話を始めてから少しのあいだはお互いに黙りだったのに、口を開いてみればこのやり取りが延々と繰り返されている。頭が痛くなってきたわ・・・。話を聞いていれば蒼が私のところに来る以前、蒼のお母様、馬騰様の大切にされていたお皿を割ってしまい、口をきいてもらえなくなりそれで拗ねると拳骨が飛んでくる。それに嫌気がさして家を飛び出したらしい。
「子供の家出とそう変わらない気がするのは気のせいじゃないわよね・・・。」
清羅は一度溜息をついた。二人の言い争っている声と馬岱の静止させようとする声を聞きながら私は夜空を見上げた。この騒然とした中でも相変わらず星空は綺麗で、気の済むまで待とう。と、軽く現実逃避を決め込んだ清羅がいたそうな。
「北郷!私のことを忘れていないか!?おーーーい!」
清羅の耳に影の薄い人が何か訴えてるような声が聞こえていたのはまた別のおはなし。
あとがき 読んでいただきありがとうございます。今回は兄妹の再会と一刀、呉勢の出会いでした。いろいろ構想を立てるうちに脳内のキャパシティが限界をむかえそうになりますwそれでは次回 第四節 終戦 でお会いしましょう。
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何でもござれの一刀が蜀√から桃香たちと共に大陸の平和に向けて頑張っていく笑いあり涙あり、恋もバトルもあるよSSです。